説明

セラミック粉末成形体の製造方法

【課題】「剥れ」や「クワレ」をより効率的に抑制しつつ、導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】表面に剥離剤が塗布されたフィルム状または薄板状の保護基材の表面を処理して剥離性を調整する剥離性調整工程、
前記保護基材の表面に導体成形体を形成する導体成形体形成工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面における前記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去する剥離剤除去工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面を成形空間に向けた状態で、前記保護基材を鋳込み型内に設置する設置工程、
樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを前記鋳込み型内に流し込むシート成形工程、
前記シート成形工程において成形されたシート状の成形体を、前記保護基材と共に、前記鋳込み型から取り出す離型工程、及び
前記シート状の成形体から前記保護基材を剥離する保護基材除去工程、
を含むセラミック成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック粉末成形体の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、表面に導体が埋設形成されたセラミック粉末成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体基板を用いた受動部品や圧電/電歪素子等を作製する場合、セラミック粉末及び樹脂を含むグリーンシート上に導体パターンを印刷によって形成したものを積層一体化した後に、成形加工した後、焼成する方法が従前採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら、上記方法においては、導体パターンがグリーンシート上において凸形状に形成されるため、グリーンシートを積層する際に、導体パターンの周縁近傍に圧力がかからず、積層した後に、剥がれが生じたり、導体パターンの端部がつぶれてしまい、導体パターンの電気的特性が劣化したりする。また、これらの問題のために、導体パターンの厚みを厚くできないため、抵抗値を下げるのに限界があり、また、高周波特性の向上にも限界があった。
【0004】
そこで、昨今では、上記問題を解決するために、樹脂フィルム等の基材上に導体ペーストを印刷形成した後、セラミック粉末及び樹脂を含むスラリーを塗布し、その後、当該スラリーをゲル化させてグリーンシートとすることにより、導体パターンをグリーンシート内に埋設する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭40−19975号公報
【特許文献2】特開平2−58816号公報
【特許文献3】特開2005−1279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を製造する際には、その表面上に導体ペーストが印刷されて導体パターンが形成された樹脂フィルム等の基材を、その導体パターンが形成されている側の面を成形空間に向けた状態で鋳込み型内に設置し、その成形空間にセラミック粉末及び樹脂を含むスラリーを流し込み、その後、当該スラリーを硬化させてセラミック成形体を成形する。その後、当該セラミック成形体を上記基材と共に鋳込み型から取り出し、当該セラミック成形体から上記基材を剥離することによって、上記のように導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を製造する。
【0007】
上記基材は、一般的には、少なくとも一方の表面上にシリコーン系剥離剤等が塗布されているポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムであり、基材上に印刷される導体ペーストの基材に対する付着力は、(一般的には剥離剤が塗布されている)基材の表面及び導体ペーストのそれぞれの構成材料等によって種々に変化する。
【0008】
(一般的には剥離剤が塗布されている)基材の表面に対する導体ペーストの付着力が弱い場合、導体ペーストからなる導体パターンが表面上に形成された基材を鋳込み型内に設置する際に基材が撓んだり、及び/又は、その後、当該鋳込み型中にセラミック粉末及び樹脂を含むスラリーを注入する際にスラリー中に含まれる溶剤が導体パターンと基材の表面との界面に浸み込んだりして、導体パターンが基材の表面から少なくとも部分的に剥れ(以降、この現象を「剥れ」と称する)、導体パターンと基材との間にスラリーが入り込み、結果的に電極の位置が設計からずれてしまい、電気的特性が劣化する等の問題を生ずる傾向がある。この傾向は、導体パターンの厚さに対する幅の比(幅/厚比)が小さいほど(幅に対する厚みが大きいほど)より強くなる。
【0009】
逆に、基材の表面に対する導体ペーストの付着力が強い場合は、鋳込み型から取り出したセラミック成形体から基材を剥離する際に、導体パターンの少なくとも一部が基材から剥れずに基材上に残り(以降、この現象を「クワレ」と称する)、導体パターンの電気的特性が劣化する等の問題を生ずる傾向がある。この傾向は、導体パターンの厚さに対する幅の比(幅/厚比)が大きいほど(幅に対する厚みが小さいほど)より強くなる。
【0010】
つまり、基材の表面に対する導体ペーストの付着力が弱い場合は「剥れ」が発生し、逆に基材の表面に対する導体ペーストの付着力が強い場合は「クワレ」が発生するので、導体パターンの良好な電気的特性を達成するためには、使用される導体ペーストとの間で妥当な付着力を生じ得る基材(又は剥離剤)を適宜選択して、これらの現象(「剥れ」及び「クワレ」)を回避する必要がある。
【0011】
しかしながら、現実には、剥離剤が塗布されている基材は、限られた種類の市販品の中から選択せざるを得ない。また、妥当な付着力を生じ得る基材を選択可能な場合であっても、使用される導体ペースト毎に基材を使い分けることは、セラミック成形体の製造に要するコストや労力の増大要因となるので望ましくない。従って、当該技術分野においては、従来よりも広範囲の種々の付着力を有する導体ペーストについて、従来よりも広範囲の前記幅/厚比に適用可能な、汎用性の高い基材に対する継続的な需要が存在するが、現実には、かかる汎用性の高い基材は見当たらないのが実情である。
【0012】
本発明は、上記のような課題を考慮してなされたものである。すなわち、本発明の目的は、前述の「剥れ」や「クワレ」をより効率的に抑制しつつ、導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、以下に列挙する本発明の実施態様によって達成される。
【0014】
先ず、本発明の第1の実施態様は、
表面に剥離剤が塗布されたフィルム状または薄板状の保護基材の表面を処理して剥離性を調整する剥離性調整工程、
前記保護基材の表面に導体成形体を形成する導体成形体形成工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面における前記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去する剥離剤除去工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面を成形空間に向けた状態で、前記保護基材を鋳込み型内に設置する設置工程、
樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを前記鋳込み型内に流し込むシート成形工程、
前記シート成形工程において成形されたシート状の成形体を、前記保護基材と共に、前記鋳込み型から取り出す離型工程、及び
前記シート状の成形体から前記保護基材を剥離する保護基材除去工程、
を含むセラミック成形体の製造方法である。
【0015】
次に、本発明の第2の実施態様は、
上記第1の実施態様に係るセラミック成形体の製造方法であって、前記剥離性調整工程において、前記保護基材の表面をプラズマ中に暴露することによって処理する、セラミック成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前述の「剥れ」や「クワレ」をより効率的に抑制しつつ、導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を製造する方法が提供される。より具体的には、従来よりも広範囲の種々の付着力を有する導体ペーストについて、従来よりも広範囲の前記幅/厚比において、前述の「剥れ」や「クワレ」を伴わずに、導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、
表面に剥離剤が塗布されたフィルム状または薄板状の保護基材の表面に導体成形体を形成する導体成形体形成工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面における前記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去する剥離剤除去工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面を成形空間に向けた状態で、前記保護基材を鋳込み型内に設置する設置工程、
樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを前記鋳込み型内に流し込むシート成形工程、
前記シート成形工程において成形されたシート状の成形体を、前記保護基材と共に、前記鋳込み型から取り出す離型工程、及び
前記シート状の成形体から前記保護基材を剥離する保護基材除去工程、
を含むセラミック成形体の製造方法において、
前記保護基材の表面を処理して剥離性を調整する剥離性調整工程を前記導体成形体形成工程の前に実施することにより、前記導体成形体を構成する導体ペーストの付着力に合わせて保護基材を変更すること無く、従前より広範囲の導体ペーストに対応して、前述の「剥れ」や「クワレ」の問題を伴わずに、導体パターンが表面に埋設されたセラミック成形体を効率良く製造することができることを見出したことに基づいてなされたものである。
【0018】
より具体的には、本発明は、
表面に剥離剤が塗布されたフィルム状または薄板状の保護基材の表面を処理して剥離性を調整する剥離性調整工程、
前記保護基材の表面に導体成形体を形成する導体成形体形成工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面における前記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去する剥離剤除去工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面を成形空間に向けた状態で、前記保護基材を鋳込み型内に設置する設置工程、
樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを前記鋳込み型内に流し込むシート成形工程、
前記シート成形工程において成形されたシート状の成形体を、前記保護基材と共に、前記鋳込み型から取り出す離型工程、及び
前記シート状の成形体から前記保護基材を剥離する保護基材除去工程、
を含むセラミック成形体の製造方法である。
【0019】
上記保護基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等の樹脂フィルムを用いることが望ましく、また樹脂フィルム以外にも、ガラス板や紙、金属などのフィルム状または板状の種々の材料を用いることができる。但し、保護基材としては、剥離操作の容易性の観点から、可撓性を備えたものを用いることが好ましい。

また、上記剥離剤としては、上記保護基材に塗布可能であり、上記導体成形体形成工程において、その上に上記導体成形体を付着・形成させることができ、かつ上記保護基材除去工程における保護基材の導体成形体からの剥離を容易なものとすることができるものであるのが望ましい。かかる剥離剤には、例えば、当該技術分野において離型剤として知られている各種薬剤が含まれる。より具体的には、かかる剥離剤としては、公知のシリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤等を使用することができる。
【0020】
上記剥離性調整工程において、上記保護基材の表面を処理して剥離性を調整する方法としては、例えば、アセトン等の溶剤への浸漬、ブラスト処理、火炎処理、コロナ放電処理、UVオゾン処理、各種エネルギービーム照射処理、及びイオンビーム照射処理等の手法が挙げられるが、特にプラズマ照射処理が望ましい。プラズマ照射処理は、例えば、保護基材をプラズマ処理装置のチャンバー内に設置し、アルゴンガス等の不活性ガスをプラズマで電離させたイオンを衝突させることにより行うことができる。この際、供給電力量、照射時間、チャンバー内に導入される不活性ガスの流量や圧力等を調整することにより、処理強度を制御して、上記保護基材の表面性を好適な程度に改質して、所望の剥離性を達成することができる。
【0021】
また、上記導体成形体形成工程において、上記導体成形体は、主成分として、金、銀、銅等から選ばれる少なくとも1種類以上の金属と熱硬化性樹脂前駆体を含んでなる導体ペーストを、例えば、スクリーン印刷等の方法によって、上記保護基材の表面上に形成することが望ましい。前記熱硬化性樹脂前駆体としては、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等を使用することができる。これらの中では、フェノール樹脂、レゾール樹脂であることが特に好ましい。かかる導体ペーストを上記保護基材の表面上に印刷した後、この導体ペーストに含まれるバインダーを硬化させることによって、導体成形体が得られる。
【0022】
次に、上記剥離剤除去工程において、上記保護基材の表面における上記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去する。この剥離剤の除去する方法としても、例えば、アセトン等の溶剤への浸漬、ブラスト処理、火炎処理、コロナ放電処理、各種エネルギービーム照射処理、及びイオンビーム照射処理等の手法が挙げられるが、特にプラズマ照射処理が望ましい。この際もまた、供給電力量、照射時間、チャンバー内に導入される不活性ガスの流量や圧力等を調整することにより、処理強度を制御して、上記保護基材の表面における上記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去することができる。
【0023】
次に、設置工程においては、上記導体成形体形成工程において導体成形体が形成され、上記剥離剤除去工程において導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤が除去された保護基材の表面を成形空間に向けた状態で、上記保護基材を鋳込み型内に設置する。このように上記保護基材を鋳込み型の成形空間内に設置することにより、上記導体成形体が成形空間内に飛び出した凸部となる。
【0024】
尚、本発明に係るセラミック成形体の製造方法においては、上記保護基材の他に、所謂「補助フィルム」を鋳込み型内に更に設置してもよい。上記補助フィルムは、成形空間において、上記保護基材に対向して設置される。上記補助フィルムが溶剤を透過しない場合は、離型工程の後に、シート状の成形体から当該補助フィルムを剥離して、シート状のセラミック成形体の保護基材に対向する面を露出させることにより、シート状のセラミック成形体に含まれる溶剤の蒸発をより容易なものとし、シート状のセラミック成形体の乾燥を促進する。また、上記フィルムが溶剤を透過する場合は、当該補助フィルムを剥離せず溶剤の蒸発を行なってもよい。
【0025】
かかる補助フィルムとしては、溶剤を透過させないフィルムとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等の樹脂フィルムを用いることが望ましい。また、溶剤を透過するフィルムとしては、紙、無塵紙等が望ましい。特に、補助フィルムを剥離して乾燥させる場合は、セラミック成形体からの剥離操作の容易性の観点から、上記補助フィルムとしては、可撓性を備えたものを用いることが好ましい。
【0026】
但し、補助フィルムを剥離して乾燥させる場合のセラミック成形体に対する補助フィルムの付着力は、セラミック成形体に対する保護基材の付着力よりも弱いことが望ましい。これは、セラミック成形体に対する補助フィルムの付着力がセラミック成形体に対する保護基材の付着力よりも強いと、補助フィルムを剥離する際に、セラミック成形体が保護基材から剥れたり、セラミック成形体にクラックが生じたりする可能性がより高まるからである。
【0027】
次に、上記シート成形工程において、樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを前記鋳込み型内に流し込む。ここで、樹脂は所謂「バインダー」として機能するものであり、例えば、フェノール樹脂、レゾール樹脂、若しくはポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、又はポリオール及びポリイソシアネートを含んでなるポリウレタン前駆体等を使用することができる。これらの中では、ポリオール及びポリイソシアネートを含んでなる熱硬化性樹脂前駆体が特に好ましい。
【0028】
セラミック粉末として使用されるセラミック材料としては、酸化物系セラミックまたは非酸化物系セラミックのいずれを使用してもよい。例えば、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、酸化バリウム(BaO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ネオジム(Nd)等を使用することができる。また、これらの材料は、1種類単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。更に、スラリーを調製可能な限りにおいて、セラミック材料の粒子径は特に限定されない。
【0029】
また、上記溶剤としては、上記バインダーとしての樹脂(及び、使用する場合には分散剤)を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン(グリセリルトリアセテート)等)等の、2以上のエステル結合を有する溶剤を使用することが望ましい。
【0030】
更に、セラミックスラリーは、上述の樹脂、セラミック粉末、及び溶剤以外に、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を使用することが望ましい。かかる分散剤を添加することにより、成形前のスラリーを低粘度とし、且つ高い流動性を有するものとすることができる。
【0031】
上記のようなスラリーが所望の形状(ここでは、シート状)の成形空間を有する鋳込み型中に流し込まれ、成形空間の形状に成形される。この際、導体成形体を構成する導体ペーストの保護基材(上の剥離剤)に対する付着力が弱すぎたり、保護基材上の剥離剤の剥離作用が強すぎたりする場合は、導体ペーストからなる導体成形体が表面上に形成された保護基材を鋳込み型内に設置する際の保護基材の撓みや、その後、鋳込み型中に流し込まれたスラリー中に含まれる溶剤の導体パターンと基材の表面との界面への浸入に起因して、導体成形体が基材の表面から少なくとも部分的に剥れ(所謂「剥れ」現象)、導体成形体と基材との間にスラリーが入り込み、結果的に電極の位置が設計からずれてしまい、電気的特性が劣化する等の問題を生ずる傾向がある。この傾向は、導体成形体の厚さに対する幅の比(幅/厚比)が小さいほど(幅に対する厚みが大きいほど)より強くなる。
【0032】
次に、上記離型工程において、前記シート成形工程において成形されたシート状の成形体を、前記保護基材と共に、前記鋳込み型から取り出す。前述のように、保護基材の他に補助フィルムも鋳込み型内に設置される場合には、この離型工程において、補助フィルムもまた、保護基材と同様に、成形体と一緒に鋳込み型から取り出される。
【0033】
本発明に係るセラミック成形体の製造方法は、その後、次の保護基材除去工程の前に、上記鋳込み型から取り出したセラミック成形体を乾燥させる、固化乾燥工程を含んでもよい。この場合、上記鋳込み型から取り出したセラミック成形体を加熱して成形体を固化乾燥させてもよく、又は成形体を常温下で放置して成形体を固化乾燥させてもよい。尚、この固化乾燥工程において、スラリーに含まれる樹脂が硬化し、セラミックスラリーの成形体が固化して、セラミック成形体が作製される。また、前述のように、補助フィルムも使用される場合には、この固化乾燥工程において、乾燥開始時に補助フィルムを剥がし、補助フィルムが覆っていた面(保護基材が覆っている面とは反対側の面)を露出されることが望ましい。但し、補助フィルムが溶剤を透過する場合は、必ずしも補助フィルムを剥がす必要は無い。
【0034】
最後に、上記保護基材除去工程において、前記シート状の成形体から前記保護基材を剥離する。この際、導体成形体はシート状のセラミック成形体に埋設された状態で残るが、導体成形体を構成する導体ペーストの保護基材(上の剥離剤)に対する付着力が強すぎたり、保護基材上の剥離剤の剥離作用が弱すぎたりする場合は、導体成形体の少なくとも一部が保護基材から剥れずに保護基材上に残り(所謂「クワレ」現象)、導体成形体の電気的特性が劣化する等の問題を生ずる傾向がある。この傾向は、導体成形の厚さに対する幅の比(幅/厚比)が大きいほど(幅に対する厚みが小さいほど)より強くなる。
【0035】
以下に記載する実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
1.剥離性調整工程
本実施例においては、シリコーン系剥離剤が塗布された厚さ75μmのPETフィルムである、剥離作用の異なる2種類の市販の保護基材を使用した。ここでは、剥離作用が強い(付着力が弱い)方を「A種」、剥離作用が弱い(付着力が強い)方を「B種」と称する。
【0037】
次に、上記保護基材に対して表面処理を施し、剥離性を調整した。本実施例における表面処理としては、サムコ社製プラズマドライクリーナーPX−1000を用いるプラズマ処理を採用した。尚、プラズマ処理の強度としては、「強」(供給電力量200W、照射時間30秒)、「中」(供給電力量50W、照射時間30秒)、及び「弱」(供給電力量20W、照射時間10秒)の3種類の強度の中から適宜選択した。
【0038】
剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材に対しては、プラズマ処理の強度を「強」とし、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材に対しては、プラズマ処理の強度を「弱」とした。
【0039】
2.導体成形体形成工程
上記4種(A種、B種、A種+強プラズマ処理、及びB種+弱プラズマ処理)の保護基材のそれぞれに対し、付着力が比較的弱い導体ペースト(以降、「α種」の導体ペーストと称する)を用いて、表1に列挙する膜厚及び膜幅の組み合わせ(40μm×100μm、40μm×350μm、40μm×500μm、20μm×800μm、20μm×1500μm、及び20μm×10000μm)で、スクリーン印刷法によって導体パターンを印刷し、導体成形体を形成した。
【0040】
3.剥離剤除去工程
この工程では、上記導体成形体形成工程において導体成形体が形成された各保護基材の表面における導体成形体が形成されていない部分に塗布されている剥離剤を除去した。具体的には、本実施例における剥離剤除去処理においては、サムコ社製のプラズマドライクリーナーPX−1000を使用した。先ず、上記各保護基材を、導体成形体が形成されている表面を露出させた状態で、当該プラズマ処理装置のチャンバー内に設置し、当該チャンバー内を真空にしてから、流量が50sccmで、ガス圧が300mTorrになるようにアルゴンガスを流し、プラズマ処理装置に1kwの電力を10秒から3分供給した。この時間は、保護基材や剥離剤の種類等によって適宜設定される。これにより、チャンバー内に発生したプラズマ中で電離されたアルゴンガスのイオンが、各保護基材の露出部分(導体成形体が形成されていない部分)に衝突して、剥離剤を除去する。この結果、保護基材と導体成形体との間にだけ剥離剤が残り、各保護基材の露出部分は、剥離剤の無い、付着性を有する面となる。
【0041】
4.設置工程
導体成形体が形成され、かつ露出部分の剥離剤が除去された表面を成形空間に向けた状態で、各保護基材を鋳込み型内に設置した。本実施例においては、互いに対向する2枚の板状金型に挟まれたシート状の成形空間を有する鋳込み金型を使用し、上方の板状金型を設置する前に、下方の板状金型の成形面上に、導体成形体が形成されている面を上にした状態で各保護基材を置き、その後、スペーサを利用して、上方の板状金型と下方の板状金型との間に、得ようとするシート状のセラミック成形体の厚み(500μm)に相当する間隔を空けた状態で、上方の板状金型を設置した。
【0042】
5.シート成形工程
(1)セラミックスラリーの調製
先ず、セラミック粉体としてのバリウムシリケート(BaO・SiO)粉末100重量部、溶剤としてのトリアセチンと有機二塩基酸エステルとの混合溶剤(混合比=1:9)40重量部、及び分散剤としてのポリカルボン酸系共重合体3重量部とを用意し、これらを、ボールミルを用いて12時間に亘って混合・解砕して、セラミック粉体分散溶液を調製した。
【0043】
上記セラミック粉体分散溶液(バリウムシリケート粉末100重量部を含む)に、ポリイソシアネートとしてのMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)系イソシアネート及びポリオールとしてのエチレングリコール(EG)を含んでなる熱硬化性樹脂前駆体を混合した。この際、当該MDI系イソシアネートとEGは、MDI系イソシアネートのイソシアネート基に対するEGの水酸基のモル比(OH/NCO比)が1となるように配合した。
【0044】
次に、上記混合物に、触媒として6−ジメチルアミノー1−ヘキサノール0.01重量部を更に混合し、この混合物を真空脱泡して、セラミックスラリーを調製した。
【0045】
(2)セラミックスラリーの注入
上記のように調製されたスラリーを、前述の設置工程に関する説明において述べた鋳込み金型の成形空間に注入した。その後、注入したスラリーを鋳込み型内にて12時間に亘ってゲル化・硬化を行なった。
【0046】
6.離型工程
上記シート成形工程において成形したシート状の各セラミック成形体を、それぞれの保護基材と共に、鋳込み型から取り出した。尚、鋳込み型から取り出した各セラミック成形体は、80℃にて15時間に亘って乾燥を行ない、各セラミック成形体を製造した。
【0047】
7.保護基材除去工程
上記離型工程後、十分に乾燥したシート状の各セラミック成形体から、それぞれの保護基材を剥離し、それぞれのセラミック成形体を得た。
【0048】
8.離型性の評価
上記のように保護基材を剥離した各セラミック成形体の表面に埋設されている導体成形体を、(20)倍の実体顕微鏡によって観察し、「剥れ」や「クワレ」等の欠陥の有無を調べた。「剥れ」や「クワレ」等の欠陥が認められない、良好な状態にある場合は「○」、これらの欠陥が部分的に認められる場合は「△」、これらの欠陥が全体的に認められる場合は「×」、これらの欠陥が著しく認められる場合は「××」として格付けした。
【0049】
上記のように調製された各種セラミック成形体における導体成形体の剥離性についての評価結果を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
上記のように、付着力が比較的弱いα種の導体ペーストを用いた本実施例において、保護基材へのプラズマ処理を行わない場合は、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材については全ての幅/厚比において、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材については幅/厚比が小さい(幅に対する厚みが大きい)導体成形体において、「剥れ」の発生が認められた。しかしながら、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材については「強」プラズマ処理を、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材については「弱」プラズマ処理を、それぞれ施した結果、A種及びB種の両方の保護基材において、いずれの幅/厚比であっても、「剥れ」の発生は認められなかった。
【0052】
これは、付着力が比較的弱いα種の導体ペーストについては、保護基材A種、B種共に、そのままの状態では付着力が不十分であり、「剥れ」が発生しがちであったのに対し、保護基材A種、B種のそれぞれの剥離作用(付着力)に応じた強度のプラズマ処理を行うことにより、A種及びB種の両方の保護基材が、本実施例において評価した全ての幅/厚比において、α種の導体ペーストについて良好な離型性を発揮することができるようになったことを示唆している。
【0053】
換言すれば、本発明に係る剥離性調整工程を導入する前は、付着力が比較的弱いα種の導体ペーストについては、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材は使用できず、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材についても、12.5以上の幅/厚比においてのみ使用可能な状況であったのに対し、本発明に係る剥離性調整工程を導入したことによって、全ての幅/厚比において、保護基材の種類をA種とB種とで使い分ける必要性が無くなった。
【0054】
上記効果は、導体ペーストの付着力や幅/厚比に応じて保護基材を使い分ける必要性を排除し、更に様々な程度の剥離作用(付着力)を有する多種多様な保護基材の在庫を用意する必要性をも排除することを可能とするものであり、結果として、表面に埋め込まれた導体成形体を有するセラミック成形体の製造効率を著しく向上させるものである。
【実施例2】
【0055】
1.剥離性調整工程
本実施例においても、前述の実施例1と同様に、シリコーン系剥離剤が塗布された厚さ75μmのPETフィルムである、剥離作用の異なる2種類の市販の保護基材を使用した。ここでも、剥離作用が強い(付着力が弱い)方を「A種」、剥離作用が弱い(付着力が強い)方を「B種」と称する。
【0056】
次に、上記保護基材に対して表面処理を施し、剥離性を調整した。本実施例における表面処理としては、サムコ社製プラズマドライクリーナーPX−1000を用いるプラズマ処理を採用した。尚、プラズマ処理の強度としては、「強」(供給電力量200W、照射時間30秒)、「中」(供給電力量50W、照射時間30秒)、及び「弱」(供給電力量20W、照射時間10秒)の3種類の強度から適宜選択した。
【0057】
本実施例においては、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材に対しては、前述の実施例1とは異なり、プラズマ処理の強度を「中」とした。一方、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材に対しては、前述の実施例1と同様に、プラズマ処理の強度を「弱」とした。
【0058】
2.導体成形体形成工程
上記4種(A種、B種、A種+中プラズマ処理、及びB種+弱プラズマ処理)の保護基材のそれぞれに対し、本実施例においては、前述の実施例1とは異なり、付着力が比較的強い導体ペースト(以降、「β種」の導体ペーストと称する)を用いて、表2に列挙する膜厚及び膜幅の組み合わせ(40μm×100μm、40μm×350μm、40μm×500μm、20μm×800μm、20μm×1500μm、及び20μm×10000μm)で、スクリーン印刷法によって導体パターンを印刷し、導体成形体を形成した。
【0059】
3.剥離剤除去工程
この工程では、前述の実施例1と同様に、サムコ社製のプラズマドライクリーナーPX−1000を使用して、上記導体成形体形成工程において導体成形体が形成された各保護基材の表面における導体成形体が形成されていない部分に塗布されている剥離剤を除去した。
【0060】
4.設置工程
上述の工程を経て調製された各保護基材を鋳込み型内に設置した。本実施例においても、前述の実施例1と同様に、互いに対向する2枚の板状金型に挟まれたシート状の成形空間を有する鋳込み金型を使用し、上方の板状金型を設置する前に、下方の板状金型の成形面上に、導体成形体が形成されている面を上にした状態で各保護基材を置き、その後、スペーサを利用して、上方の板状金型と下方の板状金型との間に、得ようとするシート状のセラミック成形体の厚み(500μm)に相当する間隔を空けた状態で、上方の板状金型を設置した。
【0061】
5.シート成形工程
(1)セラミックスラリーの調製
前述の実施例1と同様に、セラミック粉体、溶剤、及び分散剤を混合・解砕して、セラミック粉分散溶液を調製し、このセラミック粉分散溶液に、ポリイソシアネート及びポリオールを含んでなる熱硬化性樹脂前駆体を混合した。次に、当該混合物に、触媒を更に混合し、この混合物を真空脱泡して、セラミックスラリーを調製した。
【0062】
(2)セラミックスラリーの注入
上記のように調製されたスラリーを、前述の実施例1と同様に、前述の設置工程に関する説明において述べた鋳込み金型の成形空間に注入し、注入したスラリーを鋳込み型内で固化乾燥を行なった。
【0063】
6.離型工程
上記シート成形工程において成形したシート状の各セラミック成形体を、それぞれの保護基材と共に、鋳込み型から取り出し、前述の実施例1と同様に固化乾燥を行ない、各セラミック成形体を製造した。
【0064】
7.保護基材除去工程
上記離型工程後、十分に乾燥したシート状の各セラミック成形体から、それぞれの保護基材を剥離し、それぞれのセラミック成形体を得た。
【0065】
8.離型性の評価
上記のように保護基材を剥離した各セラミック成形体の表面に埋設されている導体成形体を、20倍の実体顕微鏡によって観察し、「剥れ」や「クワレ」等の欠陥の有無を調べた。「剥れ」や「クワレ」等の欠陥が認められない、良好な状態にある場合は「○」、これらの欠陥が部分的に認められる場合は「△」、これらの欠陥が全体的に認められる場合は「×」、これらの欠陥が著しく認められる場合は「××」として格付けした。
【0066】
上記のように調製された各種セラミック成形体における導体成形体の剥離性についての評価結果を以下の表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
上記のように、付着力が比較的強いβ種の導体ペーストを用いた本実施例において、保護基材へのプラズマ処理を行わない場合は、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材については、幅/厚比が小さい(幅に対する厚みが大きい)導体成形体において、「剥れ」の発生が認められ、逆に、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材については幅/厚比が大きい(幅に対する厚みが小さい)導体成形体において「クワレ」の発生が認められた。すなわち、A種及びB種の保護基材のそれぞれについて、限られた幅/厚比においてしか、良好な離型性を達成することはできなかった。
【0069】
一方、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材に対して「中」プラズマ処理を
施した結果、いずれの幅/厚比であっても「剥れ」の発生は認められず、良好な離型性を達成することができた。尚、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材については、「弱」プラズマ処理を施した結果、剥離作用が更に弱まり(付着力が更に高まり)、その結果、幅/厚比が大きい(幅に対する厚みが小さい)導体成形体における「クワレ」の程度が更に悪化した。
【0070】
上記結果を要約すると、付着力が比較的強いβ種の導体ペーストについては、作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材においては「剥れ」が、剥離作用が弱い(付着力が強い)B種の保護基材については「クワレ」が発生し、A種及びB種の保護基材を使い分けても、良好な離型性を発揮し得る幅/厚比の範囲が極めて限定されていたが、A種の保護基材については、プラズマ処理を行うことにより、本実施例において評価した全ての幅/厚比において、β種の導体ペーストについて良好な離型性を発揮することができるようになったことを示唆している。
【0071】
上記効果は、導体ペーストの付着力や幅/厚比に応じて保護基材を使い分ける必要性を低減し、更に様々な程度の剥離作用(付着力)を有する多種多様な保護基材の在庫を用意する必要性をも低減することを可能とするものであり、結果として、表面に埋め込まれた導体成形体を有するセラミック成形体の製造効率を大幅に向上させるものである。
【0072】
更に、前述の実施例1及び2を併せて考察すると、上記剥離性調整工程における表面処理(例えば、プラズマ処理)の強度を適宜調整することにより、付着力が比較的小さいα種の導体ペーストについても、付着力が比較的強いβ種の導体ペーストについても、全ての幅/厚比において(「剥れ」や「クワレ」を伴わない)良好な離型性を、剥離作用が強い(付着力が弱い)A種の保護基材のみで達成することができることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に剥離剤が塗布されたフィルム状または薄板状の保護基材の表面を処理して剥離性を調整する剥離性調整工程、
前記保護基材の表面に導体成形体を形成する導体成形体形成工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面における前記導体成形体が形成された部分以外の部分に塗布された剥離剤を除去する剥離剤除去工程、
前記導体成形体が形成された保護基材の表面を成形空間に向けた状態で、前記保護基材を鋳込み型内に設置する設置工程、
樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを前記鋳込み型内に流し込むシート成形工程、
前記シート成形工程において成形されたシート状の成形体を、前記保護基材と共に、前記鋳込み型から取り出す離型工程、及び
前記シート状の成形体から前記保護基材を剥離する保護基材除去工程、
を含むセラミック成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック成形体の製造方法であって、前記剥離性調整工程において、前記保護基材の表面をプラズマ中に暴露することによって処理する、セラミック成形体の製造方法。