説明

セリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料

【構成】 一般式CeVO4 で示される正方晶系の構造を有するセリウム・バナジウム酸化物化合物からなることを特徴とする電気伝導材料。一般式CeVO4で示されるCeVO4 酸化物化合物は、同一の結晶構造を有するLnVO4 と異なって、60℃の低温度でも電気伝導度が10-5Scm-1で、実用に値する良好な電気伝導性材料であることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、正方晶系の構造を有する一般式CeVO4 で示されるセリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、セリウム・バナジウム酸化物化合物(CeVO4 )は、セリウムの酸化状態が+3であることから、合成原料である酸化物のセリア(CeO2 )を還元する必要があり、真空中または水素気流中での五酸化バナジウム(V2 5 )との固相反応法、あるいは酸化状態が+3のセリウムを含む化合物(CeCl3 等)を溶解した液相からの沈澱法で合成されたものが知られている。また、セリアと五酸化バナジウムをモル比で2:1に混合した出発原料を、空気中で固相反応させたCeVO4 も知られている。
【0003】しかし、セリウム・バナジウム酸化物化合物(CeVO4 )は、図4に示されるようなジルコン(ZrSiO4 ,a=6.6164オングストローム,c=6.0150オングストローム)型と称される正方晶系の結晶構造を有するものであり、これと同一の構造をもつ希土類・バナジウム酸化物化合物(LnVO4 、ここで、Lnは、Pr〜Lu,Y)は、電気絶縁体であり、CeVO4 もこれらと類似の物性を有するものと従来考えられていた。
【0004】
【発明の構成】本発明者は、従来のセリウム・バナジウム酸化物化合物の種々の合成法について再検討し、適正な合成条件により得られた正方晶系の結晶構造を有するCeVO4 の物性について検討するなかで、意外にも、一般式CeVO4 で示されるCeVO4 酸化物化合物が、同一の結晶構造を有するLnVO4 と異なって、良好な電気伝導性を有することを発見した。
【0005】すなわち、本発明は、一般式CeVO4 で示される正方晶系の構造を有するセリウム・バナジウム酸化物化合物からなることを特徴とする電気伝導材料である。本発明のセリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料は、160℃における電気伝導度が10-5Scm-1であり、図1に示されるように半導体特性を有している。本発明のセリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料は、良好な電気伝導性を示すことから、電極、センサー、触媒等の材料としての用途を有する。
【0006】本発明のセリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料は、従来公知の方法によって製造することができ、例えば、セリア(CeO2 )と五酸化バナジウム(V2 5 )のモル比2:1の混合物を500℃以上の温度で固相反応させることにより得られる。
【0007】均一な組成のCeVO4 セラミックス粉末を合成するためには、上記の混合物を空気中で650℃で加熱した後、再度粉砕・混合し、800〜1000℃で再加熱することが望ましい。
【0008】上記のCeVO4セラミックス合成粉末を圧粉成形し、空気中で850℃〜1000℃程度で加熱することにより多結晶焼結体を製造することができる他、単結晶、厚膜、薄膜などとしても製造し得る。単結晶を製造する場合は、例えば、V2 5 を融液としたフラックス法で育成できる。厚膜は、例えばドクターブレード法により、薄膜は例えば、スパッタリング法で製造することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下に、一般式CeVO4で示される正方晶系の構造を有するセリウム・バナジウム酸化物化合物を得るための空気中での固相反応の条件と反応生成物の物性の測定結果について説明する。
【0010】まず、セリア(CeO2 )と五酸化バナジウム(V2 5 )を2:1のモル比で秤量し、混合した出発原料を、空気中で加熱し、昇温した。固相反応過程の測定には、示差熱・熱天秤同時測定法を用いた。図2は、測定の結果を示すグラフである。点線は、示差熱曲線を、実線は、熱天秤曲線を示す。
【0011】その結果は、図2に示すように、混合原料は、加熱されると、示差熱分析では518℃で、熱天秤では540℃で変化が生じている。さらに、示差熱分析の666℃の吸熱ピークは、五酸化バナジウムの融点(文献値、690℃)に対応している。また、この吸熱ピーク終了と共に、混合原料の熱変化も終了していることが、熱天秤曲線の結果から明瞭である。
【0012】測定終了後の試料を粉末X線回折で検討した結果は、図3に示すようなパターンを呈し、これは、ジルコン型の正方晶系の結晶構造に由来するものであり、目的のCeVO4 が生成されたことを表している。
【0013】図2に示された熱天秤曲線から得られる混合原料の重量減量率3.09%は、下記の化学反応式での酸素の放出(計算値、3.04%)に対応している。
2CeO2 +V2 5 →2CeVO4 +(1/2)O2したがって、一般式CeVO4 で示される正方晶系の構造を有するセリウム・バナジウム酸化物化合物は、セリア(CeO2 )と五酸化バナジウム(V2 5)を2:1のモル比で秤量し、混合した出発原料を、空気中で固相反応させることにより合成できる。
【0014】得られたCeVO4 酸化物化合物の電気伝導度を測定するために、円盤状の圧粉焼結体を形成して、直流2端子法で160℃から800℃まで昇温し、測定したところ、図1に示すとおりの電気伝導度の温度変化が見られた。この結果から、このCeVO4 酸化物化合物は、半導体であることが判り、160℃の低温度でも電気伝導度が10-5Scm-1で、実用に値する良好な電気伝導性材料であることが確認された。
【0015】
【実施例】次に本発明の実施例を示す。純度が99.9%以上の酸化セリウム(CeO2 )と純度が99.9%以上の五酸化バナジウム(V2 5 )の粉末を、モル比でCeO2 :V2 5 が2:1となるように秤量し、メノウ乳鉢中で十分に混合した。この混合物を白金ルツボに充填し、カンタル線発熱体電気炉に移し、室温から加熱し始め、655℃で156時間保った後、ルツボを当該電気炉から取り出した。
【0016】生成物は、メノウ乳鉢中で再度粉砕、混合した後、800℃で57時間、同様に白金ルツボ中で再加熱し、均一な組成のCeVO4 セラミックス粉末を得た。その粉末X線回折パターンは、図3と同一であり、ピーク回折角度から求めた正方晶系の格子定数は、a=7.4016オングストローム、c=6.4980オングトロームであった。
【0017】電気伝導度測定用試料として、合成されたCeVO4 セラミックス粉末を直径16mmの金型を使用して厚さ3mmの圧粉円盤体を作製し、その圧粉体をさらに90MPaの静水圧で等方的に圧縮した後、電気炉中で850℃で12時間加熱焼結した。この焼結体の両面に白金ペーストを塗布して電極とし、直流2端子法の電気伝導度測定用試料とした。電気炉中に設置した試料の電気抵抗を160℃から800℃まで測定した。その結果は、図1に示すように良好な半導性電気伝導度を示した。
【0018】一般式CeVO4 で示される正方晶系の構造を有するセリウム・バナジウム酸化物化合物は、実施例に一例を示したような製造方法により製造して電気伝導材料として各種の用途に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明セリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料の電気伝導度の温度変化を示すグラフ。
【図2】CeVO4 の固相反応合成中の示差熱・熱天秤同時測定の結果を示すグラフ。
【図3】本発明のセリウム・バナジウム酸化物化合物からなる電気伝導材料の粉末X線回折結果を示すグラフ。
【図4】ジルコンの結晶構造を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式CeVO4 で示される正方晶系の構造を有するセリウム・バナジウム酸化物化合物からなることを特徴とする電気伝導材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2000−226259(P2000−226259A)
【公開日】平成12年8月15日(2000.8.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−24863
【出願日】平成11年2月2日(1999.2.2)
【出願人】(591030983)科学技術庁無機材質研究所長 (4)
【Fターム(参考)】