説明

セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】透明性、透湿性および光学性能が良好であり、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性を改善することができるセルロースアシレートフィルムの提供。
【解決手段】エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物と、セルロースアシレートとを含み、前記セルロースアシレートのアセチル置換度が2.70以上2.95未満であり、かつ、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であり、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が62%〜94%であり、前記セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が80%以下であり、かつ、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が5%〜30%であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。詳しくは、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性の改善ができる偏光板保護フィルムとして用いられるセルロースアシレートフィルム、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。従来、液晶表示装置は表示画像の視野角依存性が大きいことが大きな欠点であったが、VAモード等の広視野角液晶モードが実用化されており、これによってテレビ等の高品位の画像が要求される市場や屋外での設置が要求される市場でも液晶表示装置の需要が急速に拡大しつつある。
【0003】
液晶表示装置の基本的な構成は液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。前記偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通す役割を担っており、偏光板の性能によって液晶表示装置の性能が大きく左右される。偏光板は、一般にヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子と、その偏光子の表裏両側に貼り合わせた透明な保護フィルムとからなる構成となっている。セルロースアセテートに代表されるセルロースアシレートフィルムは透明性が高く、偏光子に使用されるポリビニルアルコールとの密着性を容易に確保できることから偏光板保護フィルムとして広く使用されてきた。近年では、液晶表示装置を高温高湿下の屋外に設置したときにも高品位の画像が要求されているのが実情であり、偏光板保護フィルムには、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性の改善が求められている。
【0004】
まず、偏光板の保護フィルムとして一般的に用いられているセルロースアシレートフィルムには、上記の観点から高い透明性(低ヘイズ)、良好な透湿性(高過ぎず、低過ぎず)、良好な光学性能が必要であり、従来は特定の可塑剤を添加することで性能を満たすように調整していた。しかしながら、可塑剤として代表的なトリフェニルホスフェート(TPP)などのリン酸エステル類は、セルロースアシレートフィルムを製膜するときに乾燥工程で揮散してしまい、製造ラインに付着した汚れがフィルム上に落下し面状故障などの問題を引き起こしていた。また、この問題に加え、環境に優しい偏光板保護フィルムおよびその製造方法を提供する観点からも、セルロースアシレートフィルムの可塑剤としてリン酸エステルを用いないことが求められている。
【0005】
一方、セルロースアシレート以外のその他の変性セルロースに添加することができる可塑剤として各種の化合物が知られており、従来から糖類およびその誘導体を可塑剤として添加できることが知られている。例えば、特許文献1には、澱粉とカルボキシメチルセルロースを含むプラスチック組成物において、可塑剤としてガラクトースを添加することで、生分解性と機械的物性にも優れた環境に優しいフィルム用のプラスチック組成物を提供できることが記載されている。
【0006】
光学フィルム用セルロースフィルムに用いられる可塑剤の用途においても糖類およびその誘導体は適している事が知られてきており、糖類およびその誘導体の中でも糖エステル化合物を用いた例が知られている。例えば、特許文献2では、酢化度59.5%(総アシル置換度約2.8)のセルロースアシレートに対して、六炭糖(ヘキソース)由来の糖アルコールの少なくとも5つ以上のヒドロキシル基が置換された糖アルコールのエステル化可塑剤を用いている。特許文献3では、総アセチル置換度2.5のセルロースアセテートに対して、糖類のヒドロキシル基の80〜99%がエステル化された可塑剤を用いている(同文献[0032]、[0115]、[0134]参照)。特許文献4では、総アシル置換度2.1〜2.7のセルロースアシレートに対して、糖類のヒドロキシル基がすべてもしくは一部をエステル化した可塑剤を用いることが記載されているが、実際に用いられた糖エステル化合物はヒドロキシル基が100%エステル化された可塑剤を用いていると読み取れる(同文献例示化合物1〜10など参照)。特許文献5では、総アシル置換度2.7〜2.95のセルロースアシレートに対して、単糖類〜3糖類のヒドロキシル基が一部エステル化された糖エステル化合物について、置換度の異なる数種を混合して可塑剤として用いている(同文献[0393]、例示化合物3〜6、9、18、[表3]〜[表6]など参照)。
【0007】
しかし、これらの文献においては実質的に比較的高いエステル置換度の糖エステル化合物の使用例しか示されておらず、特に置換度の異なる数種を混合して用いている特許文献5でも、低置換度の糖エステル化合物の添加割合が非常に少ない態様しか示されていなかった。さらに、いずれの文献にも、セルロースアシレートの総アシル置換度(特にアセチル置換度)の範囲と糖エステル化合物のエステル置換度の関係性を検討した例は記載されていなかった。すなわち、セルロースアシレート(特にセルロースアセテート)のアセチル置換度と糖エステル化合物のエステル置換度との最適な組合せは示されていなかった。
【0008】
また、これらの文献では、得られた偏光板保護フィルムを偏光子と組み合わせた場合に、高温高湿下における偏光板耐久性の検討もされていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−320418号公報
【特許文献2】特開2001−247717号公報
【特許文献3】特表2005−515285号公報
【特許文献4】WO2007/125764号公報
【特許文献5】WO2009/031464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況のもと、本発明者らがトリフェニルホスフェート(TPP)などの従来用いられてきた可塑剤を代替または改良する観点から上記特許文献2〜5に記載された化合物について、アセチル置換度が2.7以上2.95未満のセルロースアシレートフィルムと組合せたときに得られるフィルムの物性を検討した。しかしながら、特許文献2〜5に記載された高置換度の糖エステル化合物を用いた場合には、透明性、透湿性および光学性能などの所望とするフィルム物性が得られず、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性も不十分であり、さらなる改善が求められることがわかった。
【0011】
本発明の目的は、透明性、透湿性および光学性能が良好であり、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性を改善することができるセルロースアセテートフィルムを提供することにある。また、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、およびこれを使用した液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが上記課題を解決することを目的として鋭意研究したところ、可塑剤として特定のエステル置換度の範囲である糖エステル化合物について異なる置換度の混合物としたものと、特定のアセチル置換度の範囲であるセルロースアシレートを組み合わせて用いたときに、透明性、透湿性および光学性能が良好であり、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性を改善することができるセルロースアシレートフィルムが得られることを見出すに至った。
【0013】
すなわち、上記課題は、以下の構成の本発明によって解決される。
[1] エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物と、セルロースアシレートとを含み、前記セルロースアシレートのアセチル置換度が2.70以上2.95未満であり、かつ、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であり、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が62%〜94%であり、前記セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が80%以下であり、かつ、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が5%〜30%であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[2] 前記糖エステル化合物が、少なくともフラノース環またはピラノース環を含むことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 前記糖エステル化合物の母核となる糖が2糖類であることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4] 前記糖エステル化合物が、エステル基としてベンゾイル基およびアセチル基のうち少なくとも一方を有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] 位相差を有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] さらに、機能性層が積層されていることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[8] 前記機能性層がハードコート層であることを特徴とする[7]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] 偏光子と、少なくとも1枚の[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする偏光板。
[10] [1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、または、[9]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、透明性、透湿性および光学性能が良好であり、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性を改善することができるセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることで、高温高湿下の屋外に設置したときにも高品位の画像が得られる本発明の偏光板、およびこれを使用した本発明の液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0016】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物と、セルロースアシレートとを含み、前記セルロースアシレートのアセチル置換度が2.70以上2.95未満であり、かつ、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であり、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が62%〜94%であり、前記セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が80%以下であり、かつ、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が5%〜30%であることを特徴とする。
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0017】
<セルロースアシレート>
本発明では、アセチル置換度が2.70以上2.95未満のセルロースアシレートを用いる。アセチル置換度が2.7以上であると、後述する条件を満たす糖エステル化合物(例えば、特定の置換度のスクロースベンゾエートなど)との相溶性が良好であり、フィルムが白化しにくいため好ましい。さらに、透明性に加えて、透湿度や含水率が良好となるため好ましい。また、偏光板耐久性やフィルム自体の湿熱耐久性も良好となるため好ましい。一方、置換度が2.95未満であると光学性能が著しく良好となるため好ましい。
【0018】
前記セルロースアシレートのアセチル置換度は、2.75〜2.90であることがさらに好ましく、2.82〜2.87であることが特に好ましい。
なお、総アシル置換度の好ましい範囲も、前記アセチル置換度の好ましい範囲と同様である。
なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。
【0019】
セルロースの水酸基に置換する炭素原子数2〜22のアシル基のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。
本発明に使用されるセルロースアシレートフィルムは、透湿度や含水率調整の観点で親水性付与をするため、置換基がアセチル基からなるものが好ましい。
【0020】
また、混合脂肪酸セルロースアシレートを用いてもよく、該混合脂肪酸セルロースアシレートとしては、具体的には、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0021】
セルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。
前記セルロースアシレートを得るには、具体的には、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却したカルボン酸化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記カルボン酸化混液は、一般に溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水カルボン酸および触媒としての硫酸を含む。無水カルボン酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。エステル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理を行う等して、前記の特定のセルロースアシレートを得ることができる。
【0022】
前記セルロースアシレートの分子量は数平均分子量(Mn)で40000〜200000のものが好ましく、100000〜200000のものが更に好ましい。本発明で用いられるセルロースアシレートはMw/Mn比が4.0以下であることが好ましく、更に好ましくは1.4〜2.3である。
本発明において、セルロースアシレート等の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、国際公開WO2008−126535号公報に記載の方法により、その比を計算することができる。
【0023】
<糖エステル化合物>
本発明のフィルムは、エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物を含有し、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であり、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が62%〜94%であり、前記セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が80%以下であり、かつ、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が5%〜30%である。
前記糖エステル化合物をセルロースアシレートフィルムに添加することにより、光学特性の発現性を損なわず、かつ延伸工程前に熱処理を行わない場合でも全へイズおよび内部ヘイズを小さくすることができる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に用いることにより、正面コントラストを大幅に改良できる。
【0024】
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0025】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0026】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0027】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、2〜4であることが好ましく、2〜3であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。すなわち、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であることが好ましく、2糖類〜3糖類であることがより好ましく、2糖類であることが特に好ましい。
【0028】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を2〜4個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0029】
前記単糖または2〜4個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0030】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロースであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。
【0031】
−置換基の構造−
本発明に用いられる前記糖エステル化合物は、用いられる置換基を含め、下記一般式(1)で表される構造を有することがより好ましい。
一般式(1) (OH)p−G−(L1−R11q(O−R12r
一般式(1)中、Gは糖残基を表し、L1は−O−、−CO−、−NR13−のいずれか一つを表し、R11は水素原子または一価の置換基を表し、R12はエステル結合で結合した一価の置換基を表す。p、qおよびrはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。
【0032】
前記Gの好ましい範囲は、前記糖残基の好ましい範囲と同様である。
【0033】
前記L1は、−O−または−CO−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。前記L1が−O−である場合は、エーテル結合またはエステル結合由来の連結基であることが特に好ましく、エステル結合由来の連結基であることがより特に好ましい。
また、前記L1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
11およびR12の少なくとも一方は芳香環を有することが好ましい。
【0035】
特に、前記L1が−O−である場合(すなわち前記糖エステル化合物中のヒドロキシル基にR11、R12が置換している場合)、前記R11、R12およびR13は置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることが好ましく、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは置換または無置換のアリール基であることがより好ましく、無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは、無置換のアリール基であることが特に好ましい。
また、前記R11、R12およびR13がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
前記pは0以上の整数を表し、好ましい範囲は後述する単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数の好ましい範囲と同様である。
前記rは前記Gに含まれるピラノース構造単位またはフラノース構造単位の数よりも大きい数を表すことが好ましい。
前記qは0であることが好ましい。
また、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいため、前記p、qおよびrの上限値は前記Gの構造に応じて一意に決定される。
【0037】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、ベンゾイル基がより好ましく、ベンゾイル基およびアセチル基のうち少なくとも一方であることが特に好ましく、ベンゾイル基がより特に好ましい。
【0038】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0039】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは200〜3000、特に好ましくは250〜2000の範囲が好適である。
【0040】
以下に、本発明で好ましく用いることができる前記糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0041】
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。ClogP値とは、1−オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算には、Daylight Chemical Information Systems社のシステム:PCModelsに組み込まれたCLOGPプログラムを用いた。
【0042】
【化1】

【0043】
【表1】

【0044】
【化2】

【0045】
【表2】

【0046】
【化3】

【0047】
【表3】

【0048】
前記糖エステル化合物は、セルロースアシレートに対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、5〜15質量%含有することが特に好ましい。
また、後述するポリエステル系可塑剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、ポリエステル系可塑剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
【0049】
(異なるエステル置換度の糖エステル化合物の含有割合)
本発明では、エステル置換度が異なる糖エステル化合物を複数含み、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が62%〜94%である。このような範囲に前記糖エステル化合物の平均エステル置換度を制御することで、本発明のフィルムの含水率や透湿度を小さくすることができ、偏光板耐久性やフィルム自体の湿熱耐久性が良好となる傾向がある。さらに、このような範囲に前記糖エステル化合物の平均エステル置換度が制御されたフィルムは、光学発現性(Rth)も大きく、好ましい。
【0050】
本発明では、セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が80%以下であり、かつ、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が5%〜30%である。このような範囲に前記糖エステル化合物の各置換体の含有率を制御することで、本発明のフィルムの透明性を保つことができる。
本発明者らは、アセチル置換度が高いセルロースアシレートフィルム中に含まれるすべてのエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物に対して、エステル置換度75%以上の高置換体である糖エステル化合物の含有率が80%以上あると、セルロースアシレートと相溶せずブリードアウトしてしまう傾向にあることを見出した。
また、いかなる理論に拘泥するものでもないが、本発明者らは平均エステル置換度が前記範囲であるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中に、エステル置換度35%〜50%の低置換体である糖エステル化合物が一定量含まれていると、低置換体の相溶化能によってアセチル置換度が高いセルロースアシレートとの相溶性が良好となり、フィルムを製膜したときに糖エステル化合物がブリードアウトすることを防ぐことができることを見出した。
【0051】
なお、前記糖エステル化合物が2糖類である場合、エステル化された置換基の数の平均値は5〜7.5個であり、エステル化された置換基が6〜8個の高置換体の含有率が80%以下であり、エステル化された置換基が3〜4個の置換体の含有率が5〜30%であることとなる。
【0052】
前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度は60〜95%であることが好ましく、65〜85%であることがより好ましい。前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度を上記範囲に制御することは、前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の平均の数を対応する範囲に制御することを意味する。前記糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の平均の数を制御することで、高温高湿経時における糖エステル化合物の偏光子層への移動およびPVA−ヨウ素錯体の破壊を抑制し、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制することができ、好ましい。
【0053】
本発明では、セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率は40〜80%であることが好ましく、55〜75%であることがより好ましい。特に、セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率は、ある程度高い方が光学性能、含水率や透湿度の観点から好ましい。
【0054】
本発明では、セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率は5〜40%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましい。
【0055】
以上の条件を満たすエステル置換度が異なる糖エステル化合物を複数用いて、前記アセチル置換度の範囲を満たすセルロースアシレートと組み合わせることで、フィルムの物性や光学性能を得ることができ、かつ偏光板耐久性もいわゆるTPP/BDPなどの公知のリン酸エステル系可塑剤以上に改善することができる。また、ハードコート層と積層した場合には密着性に優れ、鉛筆硬度も良好なフィルムを得ることもできる。
【0056】
(異なるエステル置換度の複数の糖エステル化合物を調製する方法)
複数の前記エステル置換度が異なる糖エステル化合物を混合する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。また、複数の前記エステル置換度が異なる糖エステル化合物の混合のタイミングは、例えば溶液製膜法を採用する場合、セルロースアシレートドープに添加する前であってもよく、セルロースアシレートドープに複数の糖エステル化合物を個別に添加した後でもよい。
【0057】
<糖エステル化合物以外のその他の添加剤>
(1)糖エステル化合物以外の可塑剤
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記糖エステル化合物以外の可塑剤として、多価アルコールエステル系疎水化剤、重縮合エステル系疎水化剤および炭水化物誘導体系疎水化剤の中から選ばれる少なくとも一つの疎水化剤を含むことが好ましい。前記疎水化剤としては、フィルムのガラス転移温度をできるだけ下げずに含水率を低減できるものが好ましい。このような疎水化剤を使用することにより高温高湿下においてセルロースアシレートフィルム中の添加剤が偏光子層へ拡散する現象を抑制でき、偏光子性能の劣化を改良することができる。
【0058】
(多価アルコールエステル系疎水化剤)
前記多価アルコールは次の一般式(A)で表される。
【0059】
一般式(A) R31−(OH)n
(但し、R31はn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい前記多価アルコール系疎水化剤の例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることが出来る。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0060】
中でも前記多価アルコール系疎水化剤としては、炭素数5以上の多価アルコールを用いた多価アルコールエステルが好ましい。特に好ましくは炭素数5〜20である。
【0061】
前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0062】
好ましい前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0063】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0064】
好ましい前記脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることが出来る。
【0065】
好ましい前記脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0066】
好ましい前記芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来るが、特に安息香酸が好ましい。
【0067】
前記多価アルコール系疎水化剤の分子量は特に制限はないが、300〜3000であることが好ましく、350〜1500であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0068】
前記多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、前記多価アルコール中のヒドロキシル基は、全てエステル化してもよいし、一部をヒドロキシル基のままで残してもよい。
【0069】
以下に、前記多価アルコールエステルの具体的化合物を示す。
【0070】
【化4】

【0071】
【化5】

【0072】
【化6】

【0073】
【化7】

【0074】
(重縮合エステル系疎水化剤)
前記重縮合エステル系疎水化剤は、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と少なくとも一種の平均炭素数が2.5〜8.0の脂肪族ジオールとから得られることが好ましい。また、芳香族ジカルボン酸と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸との混合物、と少なくとも一種の平均炭素数が2.5〜8.0の脂肪族ジオールとから得られることも好ましい。
【0075】
前記ジカルボン酸残基の平均炭素数の計算は、ジカルボン酸残基とジオール残基で個別に行う。
前記ジカルボン酸残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値を平均炭素数とする。例えば、アジピン酸残基とフタル酸残基が50モル%ずつから構成される場合は、平均炭素数7.0となる。
また、前記ジオール残基の場合も同様で、ジオール残基の平均炭素数は、ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から構成される場合は平均炭素数2.5となる。
【0076】
前記重縮合エステルの数平均分子量は500〜2000であることが好ましく、600〜1500がより好ましく、700〜1200がさらに好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、セルロースアシレートフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2000以下であればセルロースアシレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
前記重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、重量あたりのヒドロキシル基の量(以下、水酸基価とも言う)により算出することもできる。本明細書中において、水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
【0077】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物をジカルボン酸成分として用いる場合は、ジカルボン酸成分の炭素数の平均が5.5〜10.0のジカルボン酸であることが好ましく、より好ましくは5.6〜8である。
炭素数の平均が5.5以上であれば耐久性に優れた偏光板を得ることができる。炭素数の平均が10以下であればセルロースアシレートへの相溶性が優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜過程でブリードアウトの発生を抑制することができる。
【0078】
ジオールと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、芳香族ジカルボン酸残基が含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。
前記重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸残基比率は40mol%以上であることが好ましく、40mol%〜95mol%であることがより好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られ、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。また、95mol%以下であればセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0079】
前記重縮合エステル系疎水化剤の形成に用いることができる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。その中でもフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、フタル酸、テレフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
前記重縮合エステルには、混合に用いた芳香族ジカルボン酸に由来する芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
すなわち、前記芳香族ジカルボン酸残基は、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸残基、テレフタル酸残基の少なくとも1種を含み、さらに好ましくはテレフタル酸残基を含む。
前記重縮合エステルの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアシレートフィルムとすることができる。また、前記芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温での重縮合エステルを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
前記重縮合エステルのジカルボン酸残基中における、テレフタル酸残基の含有量は40mol%〜100mol%であることが好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。
【0080】
ジオールと、脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、脂肪族ジカルボン酸残基が含まれる。
前記重縮合エステル系疎水化剤を形成することができる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合エステルには、混合に用いた脂肪族ジカルボン酸に由来する脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数が5.5〜10.0であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましく、5.5〜7.0であることがさらに好ましい。脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が10.0以下であれば化合物の加熱減量が低減でき、セルロースアシレートウェブ乾燥時のブリードアウトによる工程汚染が原因と考えられる面状故障の発生を防ぐことができる。また、脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が5.5以上であれば相溶性に優れ、重縮合エステルの析出が起き難く好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸残基は、具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸を1種用いても、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸を1種用いる場合は、コハク酸を用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数を所望の値に調整することができ、セルロースアシレートとの相溶性の点で好ましい。
【0081】
重縮合エステルの形成における混合には、ジカルボン酸を2種又は3種を用いることが好ましい。2種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを1種ずつ用いることが好ましく、3種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸を1種と芳香族ジカルボン酸を2種又は脂肪族ジカルボン酸を2種と芳香族ジカルボン酸を1種用いることができる。ジカルボン酸残基の平均炭素数の値を調整しやすく、かつ芳香族ジカルボン酸残基の含有量を好ましい範囲とすることができ、偏光子の耐久性を向上し得るためである。
【0082】
ジオールとジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、ジオール残基が含まれる。
本明細書中では、ジオールHO−R−OHより形成されるジオール残基は−O−R−O−である。
重縮合エステルを形成するジオールとしては、芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、前記疎水化剤に用いられる重縮合エステルは少なくとも脂肪族ジオールから形成されることが好ましい。
前記重縮合エステルは、平均炭素数が2.5〜7.0の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましく、より好ましくは平均炭素数が2.5〜4.0の脂肪族ジオール残基を含む。前記脂肪族ジオール残基の平均炭素数が7.0より小さいとセルロースアシレートとの相溶性が改善され、ブリードアウトが生じにくくなり、また、化合物の加熱減量が増大しにくくなり、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生し難くなる。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.5以上であれば合成が容易である。
前記重縮合エステル系疎水化剤を形成することができる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を好ましい例として挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が好ましい。これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0083】
より好ましい前記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。前記脂肪族ジオールを2種用いて前記重縮合エステルを形成する場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。1,2−プロパンジオール、又は1,3−プロパンジオールを用いることにより重縮合エステルの結晶化を防止することができる。
前記重縮合エステルには、混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
すなわち、前記重縮合エステルは、ジオール残基としてエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
前記重縮合エステルに含まれる脂肪族ジオール残基には、エチレングリコール残基が10mol%〜100mol%含まれることが好ましく、20mol%〜100mol%含まれることがより好ましい。
【0084】
前記重縮合エステルの末端は、封止せずにジオールあるいはカルボン酸のままとしてもよく、さらにモノカルボン酸類又はモノアルコール類を反応させていわゆる末端の封止を実施してもよい。
封止に用いるモノカルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸等が好ましい。封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。重縮合エステルの末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が7以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。
前記重縮合エステルの末端は、封止せずにジオール残基のままであることか、酢酸またはプロピオン酸又は安息香酸によって封止されていることがさらに好ましい。
前記重縮合エステルの両末端は、それぞれ、封止の実施の有無が同一であることを問わない。
縮合体の両末端が未封止の場合、重縮合エステルはポリエステルポリオールであることが好ましい。
前記重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5〜8.0であり、重縮合エステルの両末端は未封止である重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸残基となっている。本明細書中では、モノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。重縮合エステルの両末端がモノカルボン酸で封止されている場合、前記モノカルボン酸は脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、モノカルボン酸残基が炭素数22以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがさらに好ましい。また、炭素数2以上の脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
前記重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5より大きく7.0以下であり、重縮合エステルの両末端がモノカルボン酸残基で封止されている重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端を封止しているモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
すなわち、封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましく、モノカルボン酸が炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることがさらに好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
前記重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
前記重縮合エステルの両末端を封止した場合は、常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0085】
下記表4に前記重縮合エステルの具体例A−1〜A−34を記すが、これらに限定されるものではない。
【0086】
【表4】

【0087】
上記表4中の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。PA:フタル酸、TPA:テレフタル酸、AA:アジピン酸、SA:コハク酸、2,6−NPA:2,6−ナフタレンジカルボン酸。
【0088】
前記重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、前記重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0089】
これらの疎水化剤の添加量は、セルロースアシレートに対して1〜20質量%であることが好ましい。1質量%以上であれば、偏光子耐久性改良効果が得られやすく、また20質量%以下であれば、ブリードアウトも発生しにくい。さらに好ましい添加量は2〜15質量%であり、特に好ましくは5〜15質量%である。
【0090】
これらの疎水化剤をセルロースアシレートフィルムに添加するタイミングは、製膜される時点で添加されていれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレートの合成時点で添加してもよいし、ドープ調製時セルロースアシレートと混合してもよい。
【0091】
(2)レターデーション発現剤
本発明のフィルムは、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。レターデーション発現剤の種類としては、特に定めるものではないが、棒状または円盤状化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0092】
レターデーション発現材としては、例えば特開2004−50516号公報、特開2007−86748号公報に記載されている化合物を用いることができるが、これらに限定されない。
円盤状化合物としては、例えば欧州特許出願公開第0911656A2号明細書に記載の化合物、特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0093】
円盤状化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0094】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0095】
(3) アクリル系ポリマー
本発明のセルロースアシレートフィルムには、重量平均分子量500〜10,000のアクリル系ポリマーをさらに添加してもよい。好ましくは、重量平均分子量500〜5000である。
前記アクリル系ポリマーを添加すると、製膜後のセルロースアシレートフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。前記アクリル系ポリマーについては、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0096】
(4) 酸化防止剤、熱劣化防止剤
本発明では、酸化防止剤、熱劣化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。前記酸化防止剤、熱劣化防止剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0097】
(5) 着色剤
本発明においては、着色剤を使用してもよい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。前記着色剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0098】
(6) 微粒子
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
微粒子は珪素を含むものが、ヘイズが低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。
セルロース誘導体フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロース誘導体フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロース誘導体フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0099】
(7) その他の添加剤
本発明で用いられるセルロースアシレートフィルムには、前記化合物以外に、通常のセルロースアシレートフィルムに添加することのできる添加剤を含有させることができる。
これらの添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤等を挙げることができる。
前記その他の添加剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0100】
<セルロースアシレートフィルムの製造方法>
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いて製膜することができる。具体的には、前記セルロースアシレートを含むフィルムを溶液流延製膜法または溶融製膜法を利用して製膜することができる。フィルムの面状を改善する観点から、本発明のフィルムの製造方法は、前記セルロースアシレートを含むフィルムを溶液流涎製膜により製膜する工程を含むことが好ましい。
以下、本発明のフィルムの製造方法を、溶液流延製膜法を用いる場合を例に説明するが、本発明は溶液流延製膜法に限定されるものではない。なお、本発明のフィルムの製造方法として前記溶融製膜法を用いる場合については、公知の方法を用いることができる。
【0101】
(ポリマー溶液)
溶液流延製膜方法では、前記セルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液(セルロースアシレート溶液)を用いてウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるポリマー溶液(以下、適宜セルロースアシレート溶液と称する場合もある)について説明する。
【0102】
(溶媒)
本発明で用いられるセルロースアシレートは溶媒に溶解させてドープを形成し、これを基材上に流延しフィルムを形成させる。この際に押し出しあるいは流延後に溶媒を蒸発させる必要性があるため、揮発性の溶媒を用いることが好ましい。
更に、反応性金属化合物や触媒等と反応せず、かつ流延用基材を溶解しないものである。又、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
また、セルロースアシレートと加水分解重縮合可能な反応性金属化合物を各々別の溶媒に溶解し後に混合してもよい。
ここで、上記セルロースアシレートに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0103】
前記良溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ぎ酸メチル、ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ-ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチルおよび塩化メチレンが好ましい。
【0104】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。
これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上にセルロースアシレートのドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースアシレートの溶解を促進したりする役割もあり、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0105】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。
これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースアシレートに対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0106】
本発明においてセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることや、後述の本発明の製造方法における延伸前の乾燥温度(熱処理温度)を比較的低く設定することで、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させてもよく、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0107】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例については、特開2009−262551号公報に挙げられている。
【0108】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0109】
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0110】
添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0111】
このような条件を満たし好ましい高分子化合物であるセルロースアシレートを高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0112】
(1)溶解工程
セルロースアシレートに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースアシレート、添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいはセルロースアシレート溶液に添加剤溶液を混合してドープを形成する工程である。
セルロースアシレートの溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のセルロースアシレートの濃度は10〜35質量%が好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
く用いられる。
【0113】
(2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0114】
(3)溶媒蒸発工程
ウェブ(セルロースアシレートフィルムの完成品となる前の状態であって、まだ溶媒を多く含むものをこう呼ぶ)を金属支持体上で加熱し、金属支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が、乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0115】
(4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。なお、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
ここで、製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることができる。
金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0116】
また、該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、更に10〜120質量%とすることが好ましい。
残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
残留溶媒量(質量%)=[(M−N)/N]×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0117】
(5)乾燥または熱処理工程、延伸工程
前記剥離工程後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、および/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、ウェブを乾燥することが好ましい。
【0118】
本発明において熱処理をする場合、該熱処理温度はTg−5℃未満であり、Tg−20℃以上Tg−5℃未満であることが好ましく、Tg−15℃以上Tg−5℃未満であることがより好ましい。
また、熱処理温度は、30分以下であることが好ましく、20分以下であることがより好ましく、10分程度であることが特に好ましい。
【0119】
乾燥および熱処理の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。使用する溶媒によって、温度、風量及び時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて条件を適宜選べばよい。
【0120】
フィルム搬送方向(以下、縦方向とも言う)とフィルム搬送方向に直交する方向(以下、横方向とも言う)のいずれの方向に延伸してもよいが、少なくとも直交方向に延伸することが、所望のレターデーションを発現させる観点から好ましい。さらに好ましくは縦及び横方向に2軸延伸されたものである。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0121】
フィルム搬送方向への延伸における延伸倍率は、0〜20%であることが好ましく、0〜15%であることがより好ましく、0〜10%であることが特に好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0122】
フィルム搬送方向に直交する方向への延伸における延伸倍率は、0〜50%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましく、20〜40%であることが特に好ましい。
なお、本発明においては、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
【0123】
2軸延伸の際に縦方向に、例えば0.8〜1.0倍に緩和させて所望のリターデーション値を得ることもできる。延伸倍率は目的の光学特性に応じて設定される。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する場合、長尺方向に一軸延伸することもできる。
【0124】
延伸の際の温度はTg−5℃〜Tg+10℃であることが好ましく、Tg−5℃〜Tg+5℃であることがより好ましく、Tg−5℃〜Tg+3℃であることが特に好ましい。このような温度範囲でフィルムを延伸することにより、本発明のフィルムのヘイズを低下させることができ、好ましい。
【0125】
なお、延伸工程後に乾燥してもよい。延伸工程後に乾燥する場合、使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。本発明では、延伸工程後の乾燥温度は、延伸工程の延伸温度よりも低い方が、本発明のフィルムを液晶表示装置に組み込んだときの正面コントラストを上昇させる観点から好ましい。
【0126】
(6)巻き取り
以上のようにして得られた、フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。フィルムの幅は、0.5〜5.0mが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mであり、さらに好ましくは1.0〜2.5mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0127】
本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明のフィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様のフィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられたフィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0128】
このようにして得られたウェブを巻き取り、最終完成物であるセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0129】
<セルロースアシレートフィルムの特性>
(ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、フィルム1枚でのヘイズが1.0%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましく、0〜0.30%であることが特に好ましい。
【0130】
(セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tg)
本明細書中において、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tgとは、フィルムを構成するセルロースアシレート、可塑剤、その他の添加剤を含むフィルム全体としてのガラス転移温度(以下Tgと略す)をいう。
【0131】
(レターデーション)
本発明のフィルムは、波長550nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(550)が0〜50nmであることが好ましく、20〜40nmであることがより好ましく、25〜35nmであることが特に好ましい。
【0132】
また本発明のフィルムは2軸性のフィルムであることが好ましく、2軸性の光学補償フィルムであることがより好ましい。
ここでフィルムが2軸性であるとはフィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0133】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0134】
【数1】

【0135】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0136】
(含水率)
本発明のフィルムは、25℃、相対湿度80%における平衡含水率が低いことが、液晶表示パネルを大画面化した際に環境湿度変化に対して、該保護フィルムが緩衝体となって偏光板内部の湿度変化を中央部と端部で均質化でき、好ましい。
【0137】
(透湿度)
本発明のフィルムは、膜厚40μmに換算した25℃、相対湿度80%、24時間経時後の透湿度が、1500〜3500g/m2・dayであることが、偏光板耐久性と偏光板加工時の乾燥の観点から好ましく、1500〜3000g/m2・dayであることがより好ましく、2000〜2500g/m2・dayであることが特に好ましい。
【0138】
透湿度および含水率が高くなり過ぎると偏光子の湿熱耐久性が劣る傾向にあるため、高湿環境下での光漏れの原因となりやすい。そのため、偏光板保護フィルムの透湿度及び含水率を最適な範囲でコントロールすることがより好ましい。
【0139】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は20〜200μmであることが好ましく、20〜85μmであることがより好ましく、25〜65μmであることが更に好ましい。膜厚が20μm未満であると機械的強度が不足し生産時の破断等の故障が起こり易く、フィルム面状が悪くなりやすい。
【0140】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0141】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0142】
(機能性層)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。ここで、後述する本発明の偏光板は、機能性層を含むことが好ましいが、本発明のフィルムが機能性層を有する態様であっても、本発明の偏光板に本発明のフィルムを組み込むときにその他の機能性フィルムを重ねあわせてもよい。
前記機能性層としては、本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はないが、例えば以下の態様の機能性層を挙げることができる。
基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/導電性層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/高屈折率層(導電性層)/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/防眩性層/低屈折率層
【0143】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明のフィルムを少なくとも1枚含む。以下、本発明の偏光板について説明する。
【0144】
本発明の偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、本発明の位セルロースアシレートフィルムをアルカリ鹸化処理した後に、偏光子の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。
アルカリ鹸化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロース誘導体フィルムを高温の強アルカリ液中に浸ける処理のことをいう。
【0145】
本発明の偏光板に用いる偏光子としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリビニルアルコールあるいはエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%であるエチレン変性ポリビニルアルコールの如き親水性ポリマーからなるフィルムを、ヨウ素の如き二色性染料で処理して延伸したものや、塩化ビニルの如きプラスチックフィルムを処理して配向させたものを用いる。
偏光子の膜厚としては、5〜30μmのものが好ましく用いられる。こうして得られた偏光子を、偏光板保護フィルムと貼合する。
このとき、偏光板保護フィルムのうちの少なくとも一枚は、本発明のフィルムが用いられる。もう一方の面には、別の偏光板保護フィルム(好ましくはセルロース誘導体フィルム)を用いることができる。
もう一方の面の偏光板保護フィルムとしては、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いてもよいし、市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。
表示装置の表面側に用いられる偏光板保護フィルムには防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層を有することが好ましい。
また、偏光板の作製時には、本発明の位相差フィルムの面内遅相軸と偏光子の透過軸が平行或いは直交するように貼合することが好ましい。
【0146】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明のフィルムまたは本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。
本発明の液晶表示装置は、上記のようにして得られる、本発明の偏光板を、液晶セルの両面に配置して貼合し、本発明の液晶表示装置を作製することができる。
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも1枚用いた液晶表示装置である。本発明の偏光板は、様々な表示モードの液晶セルに用いることができ、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードのセルと組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0147】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0148】
[実施例1〜3および比較例1〜7]
(1)原料の調製
(1−1)セルロースアシレート樹脂の調製
下記表に記載のアセチル置換度のセルロースアシレートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、各カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0149】
(1−2)エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の調製
下記表に記載のエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物を以下の方法で調製した。
まず、前記表1に記載の化合物111〜117をWO2009/03164〔0054〕例示化合物3の合成に記載の方法で合成した。
また、その他の化合物については、同様の方法で合成した。その後、混合し、糖エステル化合物を調整した。
【0150】
(2)ドープ調製
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
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実施例1のセルロースアシレート溶液
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下記表に記載のセルロースアシレート 100.0質量部
下記表に記載のエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物
8.0質量部
メチレンクロライド 365.8質量部
メタノール 92.6質量部
ブタノール 4.6質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なお、下記表中、Acはアセチル基を表し、Prはプロピオニル基を表す。
【0151】
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1のマット剤分散液
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・マット剤(アエロジルR972) 0.2質量部
・メチレンクロライド 65.7質量部
・メタノール 16.6質量部
・ブタノール 0.8質量部
・セルロースアシレート溶液 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記実施例1のセルロースアシレート溶液を100質量部、実施例1のマット剤分散液をセルロースアシレート樹脂に対して無機微粒子が0.02質量部となる量を混合し、製膜用ドープを調製した。
また実施例および比較例で使用したスクロースベンゾエートは、全て反応溶媒であるトルエンの減圧乾燥(10mmHg以下)を行い100ppm未満であるものを使用した。
【0152】
下記表に示したようにセルロースアシレートのアセチル置換度、可塑剤の種類を変更した以外は実施例1のドープと同様にして、その他の各実施例および比較例のドープを調製した。
【0153】
(3)流延
上述のドープを、ドラム製膜機を用いて流延した。なお、ドラムはSUS製であった。
【0154】
(4)乾燥
流延されて得られたウェブ(フィルム)を、下記表に記載の温度で剥離前のドラム上で乾燥装置を用いて20分間乾燥した。また、別の態様として、ドラムから剥離後、クリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて該テンター装置内で20分間乾燥した。これら2つの態様で得られる結果は同様であった。なお、ここでいう乾燥温度とは、フィルムの膜面温度のことを意味する。
【0155】
(5)延伸
得られたウェブ(フィルム)をドラムから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が30〜5%の状態のときに固定端一軸延伸の条件で、下記表に記載の延伸温度および延伸倍率でテンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に延伸した。
その後にフィルムからクリップを外して110℃で30分間乾燥させた。このとき、延伸後の膜厚が40μmになるように、流延膜厚を調整した。
【0156】
(6)巻き取り
下記表に示した組成のフィルムを作製し、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各測定を行った。
【0157】
(偏光板の作成)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。作製した各実施例および比較例のフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。
1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.005mol/Lの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。各実施例および比較例で作製したフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。
偏光子の透過軸と各実施例および比較例のフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0158】
<測定法>
(スクロースベンゾエートの平均置換度の測定法)
以下のHPLC条件下での測定により保持時間が31.5min付近にあるピークを8置換体、27〜29min付近にあるピーク群を7置換体、22〜25min付近にあるピーク群を6置換体、15〜20min付近にあるピーク群を5置換体、8.5〜13min付近にあるピーク群を4置換体、3〜6min付近にあるピーク群を3置換体としてそれぞれの面積比を合計した値に対する平均置換度を算出した。
《HPLC測定条件》
カラム:TSK−gel ODS−100Z(東ソー)、4.6*150mm、ロット番号(P0014)
溶離液A:H2O=100、 溶離液B:AR=100。A,BともにAcOH、NEt3各0.1%入り
流量:1ml/min、カラム温度:40℃、波長:254nm、感度:AUX2、注入量:10μl、リンス液:THF/ H2O=9/1(vol比)
サンプル濃度:5mg/10ml(THF)
【0159】
(ヘイズ)
ヘイズの測定は、フィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。その結果を下記表に示した。
【0160】
(光学性能)
光学性能を総合的に評価した。その結果を下記表に記載した。
【0161】
(光学発現性)
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で上記の方法によりReおよびRthを波長590nmで計測した。その結果を下記表に記載した。
【0162】
(Tg)
ガラス転移温度の測定は、以下の方法により測定する。セルロースアシレートフィルム試料24mm×36mmを、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定した。縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度をとり、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に観察される貯蔵弾性率の急激な減少に対して、JIS K7121−1987の図3に記載の方法によりガラス転移温度Tgを求めた。
【0163】
(含水率)
含水率の測定法は、セルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料重量(g)で除して算出した。
【0164】
(ブリードアウト)
ブリードアウトは、ドープ流延、乾燥後に温度60℃湿度90%、温度80%湿度10%の湿熱条件下で1000h経時させたときに添加剤の析出が発生するかどうかを評価した。その結果を表5に記載した。
【0165】
(密着評価方法)
JIS K 5600に準処した碁盤目試験を行った。具体的にはハードコート塗布し、UV硬化後のサンプル表面上に1mm間隔で縦横に11本の切れ込みを入れて1mm角の碁盤目を100個作った。この上にセロハンテープおよびマイラーテープを貼り付け、素早く剥がし剥がれた箇所を目視観察により密着評価した。
切れ込みを入れる前にXeを24h照射した結果を耐光密着、Xe照射してないものを初期密着とする。
密着性 ○ :剥がれ箇所0〜10マス。
密着性 △ :剥がれ箇所11〜50マス。
密着性 × :剥がれ箇所50マスを超え、99マス以下。
密着性 ××:剥がれ箇所100マス(テープを貼った部分全部)
Xeの照射にはスガ試験機株式会社製のスーパーキセノンウェザーメーターSX75を用いている。
【0166】
(鉛筆硬度評価法)
ハードコート塗布し、UV硬化後のサンプルを25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS S 6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS K 5400が規定する鉛筆硬度評価法に従い、500gのおもりを用いて各硬度の鉛筆で引っ掻きを5回繰り返したサンプルを100℃のセルコに5分入れ取り出した後に評価を行い4回以上傷が無いまでの硬度をそのサンプルの硬度とした。尚、JIS K 5400で定義される傷は塗膜の破れ、塗膜のすり傷であり、塗膜のへこみは対象としないと記載されているが、ここでは、塗膜のへこみも含めて傷と判断している。数字が高いほど、高硬度を示す。
【0167】
(偏光板耐久性)
得られた偏光板の湿熱条件下での耐久性を、以下の方法で検討した。
温度60℃湿度90%、温度80%湿度10%の湿熱条件下で1000h経時させたときのクロス透過率の変化を観察し、スクロースベンゾエート系はすべてTPP系よりも偏光板耐久性が良いことを確認した。
【0168】
【表5】

【0169】
表5より、実施例で得られたセルロースアシレートフィルムは、透明性、透湿性および光学性能が良好であり、偏光子と組み合わせたときの高温高湿下における偏光板耐久性を改善することができることがわかった。
一方、比較例1および2より、置換度の異なる糖エステル化合物の混合物を用いた場合に、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が本発明の範囲を超え、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が本発明の範囲よりも少ないと、糖エステル化合物がブリードアウトしてしまい、透明性および光学性能が悪くなることがわかった。
【0170】
実施例4
表5中の実施例3の糖エステル化合物であるスクロースベンゾエートの25%を同2糖類の糖エステル化合物であるスクロースオクタアセテートに置換した場合でもハードコートとの密着性能、鉛筆硬度、偏光板耐久性は実施例3と同じく良好であった。
【0171】
(液晶表示装置の作成)
本発明のフィルムを用いた偏光板を液晶パネルに実装し評価したところ、TPP系フィルムとの差なく、性能上問題ないことを確認した。
【0172】
得られた液晶表示装置は、高温高湿下における耐久性に優れることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物と、
セルロースアシレートとを含み、
前記セルロースアシレートのアセチル置換度が2.70以上2.95未満であり、かつ、
前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であり、
前記エステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物の平均エステル置換度が62%〜94%であり、
前記セルロースアシレートフィルム中に含まれるエステル置換度が異なる複数の糖エステル化合物中、エステル置換度75%以上の糖エステル化合物の含有率が80%以下であり、かつ、エステル置換度35%〜50%の糖エステル化合物の含有率が5%〜30%であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
前記糖エステル化合物が、少なくともフラノース環またはピラノース環を含むことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記糖エステル化合物が、エステル基としてベンゾイル基およびアセチル基のうち少なくとも一方を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
位相差を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
さらに、機能性層が積層されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
前記機能性層がハードコート層であることを特徴とする請求項7に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
偏光子と、少なくとも1枚の請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、または、請求項9に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2011−237764(P2011−237764A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13876(P2011−13876)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】