説明

セルロースアセテート繊維の紡糸方法

【課題】セルロースアセテート繊維の断面形状は、主に、その紡糸口金の紡糸孔形状、固化途中の原液の流動性、及び乾燥速度により決定されるもので、紡糸孔が円形である通常の紡糸口金から得られたセルロースアセテート繊維は図1の様な断面を示すが、長時間の紡糸を行うと、紡糸口金より吐出された紡糸原液が口金表面の一部に付着し、その繊維断面に形成される凹部の数にバラツキが生じてしまう。そうすると、セルロースアセテート繊維の特徴である優れた発色性や、絹様の光沢にバラツキが生じ、所望の性質を備えたセルロースアセテート繊維を安定して製造することが困難となる。
【解決手段】本発明は、セルローストリアセテート繊維を紡糸するに際し、紡糸原液が接触する口金孔内壁面の粗さが0.2μm以上5.0μm(ここで「粗さ」はJIS B 0601‐1994「表面粗さ‐定義及び表示」に基づいた最大高さ(Ry)である。)以下である紡糸口金を用いることによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート繊維の紡糸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート繊維は、セルロースアセテートを有機溶剤に溶解した紡糸原液を紡糸口金より吐出し、有機溶剤を蒸発分離させ凝固させる乾式紡糸によって製造される。
上記乾式紡糸の過程では、紡糸原液が紡糸口金より吐出された直後に、紡糸原液自体の持つ熱により外側の表面層の溶剤が蒸発していわゆるスキン層が形成され、更に、引き続いて加熱空気により繊維内部の溶剤が蒸発し繊維が形成される。前記溶剤の蒸発に伴う体積収縮がランダムに生じるために、繊維の断面形状に複雑に入り組んだ多くの凹凸が形成され、断面形状が極めて出入りの大きなものとなる。
【0003】
セルロースアセテート繊維の断面形状は、主に、用いる紡糸口金の紡糸孔形状、固化途中の原液の流動性、及び乾燥速度により決定されるものである。紡糸孔が円形である通常の紡糸口金から得られたセルロースアセテート繊維は図1に示す様な断面を示すようになる。
しかし、長期間の紡糸を行うと、紡糸口金より吐出された紡糸原液が口金表面の一部に付着することで、繊維断面に形成される凹部の数にバラツキが生じてしまう。そうすると、セルロースアセテート繊維の特徴である優れた発色性や、絹様の光沢にバラツキが生じ、所望の性質を備えたセルロースアセテート繊維を長期間安定して製造することが困難となる。
【0004】
アセテート繊維の品質を改良する方法として、特許文献1には、紡糸口金の口金表面が極めて平滑で、0.04〜0.2sミクロンの表面粗さを有する紡糸口金が提案されている。これは、超細繊度のセルロースアセテート繊維を製造する方法であり、染色性の経時変化を抑制する効果が十分ではない。
さらに、特許文献2には、口金全体または紡糸口金の口金表面をセラミックから構成し、かつ、口金表面の粗さを1.5s以上5.0s以下とした溶融紡糸口金が提案されている。異物の付着は低減するものの、乾燥時に体積収縮を伴うアセテート繊維を製造する乾式紡糸の場合では、口金表面の加工のみでは、染色性のバラツキを抑制する効果が十分ではない。
【0005】
【特許文献1】特表平8−501606号公報
【特許文献2】特開平11−350235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するものであり、その目的は染色性と光沢のバラツキを抑制し、長期間安定して、高品質のセルロースアセテート繊維を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、口金孔内壁面の粗さが0.2μm以上5.0μm以下である紡糸口金を用いることを特徴とするセルロースアセテート繊維の乾式紡糸方法にある。
さらに本発明は、紡糸口金表面の粗さが0.2μm以上5.0μm以下である上記セルロースアセテート繊維の乾式紡糸方法にある。
本明細書において「口金表面粗さ」はJIS B 0601‐1994「表面粗さ‐定義及び表示」に基づいた最大高さ(Ry)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、紡糸して得られるセルロースアセテート繊維の染色性と光沢のバラツキを抑制し、長期間安定して、高品質のセルロースアセテート繊維を紡糸することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明でいうセルロースアセテート繊維とは、酢化度45.0%以上のセルロースジアセテートであっても、酢化度59.5%以上のセルローストリアセテートであってもよい。特に好ましくは59.5%以上のセルローストリアセテートである。
本発明で用いる紡糸口金は、口金孔内壁面の粗さが0.2μm以上5.0μm以下である紡糸口金を用いることが必要である。さらに好ましくは0.2μm以上3.2μm以下であることが望ましい。本発明によれば、口金孔内壁面の粗さ0.2μm以上5.0μm以下とすることによって、得られる繊維の断面形状の凹凸の起点を作り、断面形状が均一となり、染色性と光沢のバラツキを抑制することが出来る。また、凹凸形成が数箇所の起点に支配されるので、異物の付着による断面形状の経時変化を受けにくく、染色性の経時変化を抑制することが出来る。
【0010】
本発明でいう口金孔内壁面とは、紡糸原液と接触する面であり、紡糸原液がジェットから最終的に剥離する部分が粗面化されていれば、その粗面化されている面積に特に規定はない。
【0011】
さらに、本発明では、口金表面の粗さが0.2μm以上5.0μm以下の紡糸口金を用いることで、口金周辺に蓄積する異物の付着を低減することが出来、染色性の経時変化を抑制することが出来る。
【0012】
なお、口金孔内壁面、及び口金表面を粗面化する際の処理方法は特に限定されないが、口金孔内壁面はリーマー加工により粗面化する事が好ましく、また、口金表面は梨地処理、化学処理など一般的な方法であってもよい。
【0013】
本発明での各種規定及び繊維の評価は、下記の通りに行った。
(粗さ)
粗さは、表面粗さ測定機(東京精密株式会社製、製品名:サーフコム113A)を用いて、JIS B 0601‐1994「表面粗さ‐定義及び表示」に基づいて最大高さ(Ry)を算出した。
(平均ヒダ数)
得られたセルロースアセテート繊維を切断し、切断面を顕微鏡で観察して繊維断面の外周に形成された凹部の数の平均を求めた。
【0014】
(染色レベル評価)
アセテート繊維を編み立て機(シングルジャージー)を用いて製編する。該筒編みを、3%owfの染料(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、製品名:Teratop−BlueGLF)、0.5ml/lの分散剤(明成化学工業株式会社製、製品名:ディスパーTL)を用いて、浴比1:50、100℃×30分間で染色した。また、染色レベルは、JIS規格にある染色堅牢度試験方法(JIS L 0801)において使用される変褪色グレースケール(JIS L 0804)を用いて評価した。その時の染色変化が変褪色の判定基準で5級である場合を本染色レベル判定の5級とし、変褪色の判定基準で4−5級である場合を本染色レベル判定の4.5級とし、変褪色の判定基準で4級である場合を本染色レベル判定の4級とし、変褪色の判定基準で3−4級である場合を本染色レベル判定の3.5級とし、変褪色の判定基準で3級である場合を本染色レベル判定の3級とし、変褪色の判定基準で2−3級、2級、1−2級、1級である場合を本染色レベル判定の3級未満とした。
【0015】
(光沢の評価)
光沢度計(日本電色工業株会社製、製品名:VGS−300A)を用いて、鏡面光沢度測定方法(JIS Z 8741−1983)に準じて、光沢値を測定した。投光角度と受光角度は45度とし、光源ランプに5V−1.25Aのハロゲンランプを用いた。
【実施例】
【0016】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0017】
(実施例1〜4、比較例1)
セルローストリアセテート固形分が21.95%、溶媒として塩化メチレン/メタノール(組成比:90/10)の混合溶剤を用いた紡糸原液を調整した。この紡糸原液を71℃に保って、孔径40〜41μmの孔を20個有する紡糸口金を用いて、紡速750m/分にて紡糸し、紡糸期間は48日間とした。その際、紡糸口金孔内壁面と口金表面の粗さを表1に示すように種々変更し、紡糸1日目と48日目の平均ヒダ数、染色性、光沢を調べた。その結果を表1に示した。
【0018】
表1よりも明らかなように、紡糸口金孔内壁面の粗さが0.8〜1.2μmの実施例1〜2は、平均ヒダ数の経時変化が少なく、また染色性と光沢共に経時変化が少なかった。また、紡糸口金孔内壁と口金表面を粗くした実施例3〜4は、さらに染色性の経時変化が少なかった。これに対して、紡糸口金孔内壁面の粗さが0.1μmの比較例1では、経時変化が大きかった。
【0019】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明方法により製造されたセルローストリアセテート繊維の断面を示す。 符号の数値は断面の凹所を示しており、凹所の間がヒダである。
【符号の説明】
【0021】
1,2,3・・・凹所を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口金孔内壁面の粗さが0.2μm以上5.0μm以下である紡糸口金を用いることを特徴とするセルロースアセテート繊維の乾式紡糸方法。
【請求項2】
紡糸口金の口金表面及び内壁面の粗さが0.2μm以上5.0μm以下である請求項1記載のセルロースアセテート繊維の乾式紡糸方法。
【請求項3】
セルロースアセテートが、酢化度59.5%以上のセルローストリアセテートである請求項1又は2に記載のセルロースアセテート繊維の乾式紡糸方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−291389(P2008−291389A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138176(P2007−138176)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】