説明

セルロースエステル樹脂組成物及びそれを用いた光学フィルム

【課題】高い複屈折が得られ、光学フィルムの薄膜化を図ることのできるセルロースエステル樹脂組成物及びそれを用いた光学フィルムを提供する。
【解決手段】アセチル基の置換度が0.1〜2.2の範囲であり、プロピオニル基の置換度又はブチリル基の置換度が0.5〜2.7の範囲であり、水酸基の置換度が0〜1の範囲であり、これらの置換度の合計が3であるセルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)を含有するセルロースエステル樹脂組成物であって、前記エステル化合物(B)が、アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とをエステル化反応させて得られるエステル化合物であることを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイに用いられる位相差フィルム等の光学フィルムの材料として用いることのできるセルロースエステル樹脂組成物及びそれを用いた光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末、タブレット型端末、パソコンモニター、液晶テレビ等の液晶ディスプレイ(以下、「LCD」と略記する。)の需要はますます増加している。LCDは、光の旋光性と液晶の複屈折を利用して光の透過性を制御し、明・暗の切り替えを行うことで画像を表示する装置であり、光を制御するために偏光板、位相差フィルム等の光学フィルムが用いられている。
【0003】
前記偏光板は、通常、ヨウ素が添加されたポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記する。)のフィルムを延伸して得られる偏光子フィルムの両面に保護フィルムを添付したものが用いられている。この偏光子保護フィルムには、一般的に透明度が高く、適度な強度を有しており、かつPVAとの接着性に優れたセルロースエステル樹脂フィルムが使用されている。
【0004】
また、前記位相差フィルムとしては、代表的なものとして1/4波長板が挙げられ、大きな光学異方性をもつことで光の偏光状態の変換を行う機能を有する。この光学異方性の大きさは、フィルムの位相差値として以下の式で表すことができる。
位相差(nm)=複屈折Δn×厚さd(nm)
複屈折Δn=Nx−Ny
(ただし、Nx:フィルム面内の遅相軸の屈折率、Ny:フィルム面内の進相軸の屈折率、 Nx>Ny)
【0005】
たとえば、1/4波長板は、波長の1/4の位相差値を持つことで、直線偏光を円偏光に変換することができる。現行の位相差フィルムには、大きな位相差値を発現するために、光学的異方性の原料であるポリカーボネートなどが使用されている。
【0006】
上記1/4波長板では、理想的には可視光域の全波長で1/4波長の大きさの位相差をもつフィルムが求められる(例えば、588nmの波長の直線偏光を円偏光に変換するのに必要な位相差値は147nm)。この性能を満たすため、1/4波長板には位相差値の他に、複屈折の波長分散性制御が求められる。従来、波長板として用いられていたポリカーボネート樹脂は、測定波長が長波長になるにつれて複屈折が小さくなる特性を示すが、このような特性のフィルムを用いた場合、例えば588nmにおいて位相差値を1/4波長に最適化していても、短波長側と長波長側では1/4波長から位相差値がずれるため、LCDの光漏れなど不具合の原因となる。この問題を解決するためには、測定波長が長波長になるにつれて複屈折が大きくなる特性(逆波長分散性)を示すフィルムが求められる。
【0007】
ところで、偏光板と1/4波長板を組み合わせた積層体は円偏光板と呼ばれ、ますます需要が高まるモバイル端末用途において重要である。円偏光板は、外光下の視認性が良好な反射型LCD又は半透過型LCDに必須な部材であり、また、自己発光表示素子であるOLED表示装置の外光反射防止に利用されている。
【0008】
近年のLCDの低コスト化、薄型化の要求により、円偏光板においても部材の検討が活発に行われている。
【0009】
ここで、セルロースエステル樹脂は、複屈折の逆波長分散性を示すことが知られており、1/4波長板用途に適している。また、従来の偏光子保護フィルムと同素材なので、部材の複合化による低コスト化、薄型化が期待できる。さらに、セルロースエステル樹脂の中でもセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等は製膜法として生産性が高い溶融押出法を用いることができ、低コストで生産でき得るメリットがある。
【0010】
近年のLCDの薄型化に伴い、位相差フィルムの薄膜化も要求されている。上述のように、位相差フィルムの位相差値は、フィルムの複屈折と厚さの積によって決定するため、厚さを薄くし、同等の位相差値を得るためには、複屈折Δnを高めることが必要となる。樹脂フィルムの複屈折を高める手法としては熱延伸が知られているが、等方性のセルロースエステル樹脂に複屈折を発現させることは困難であった。
【0011】
そこで、セルロースエステル樹脂に複屈折を発現させる手法として、例えば、セルロースアセテートプロピオネートに特定の化合物を配合したものを溶融押出法でフィルム化し、そのフィルムを熱延伸することで複屈折を高めることが検討されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。しかし、これらの手法では得られる複屈折は低く、フィルムの薄膜化が実現できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−291246号公報
【特許文献2】特開2011−21182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、セルロースエステル樹脂を主成分とするフィルムを熱延伸することで、高い複屈折が得られ、光学フィルムの薄膜化を図ることのできるセルロースエステル樹脂組成物及びそれを用いた光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究した結果、アルキレンジオールと、特定の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとをエステル化反応させて得られるエステル化合物を配合した、特定のセルロースアシレートの樹脂組成物は、その樹脂組成物からなるフィルムを熱延伸することで、高い複屈折が得られ、位相差フィルムの薄膜化が図れることを見出し、発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、アセチル基の置換度が0.1〜2.2の範囲であり、プロピオニル基の置換度又はブチリル基の置換度が0.5〜2.7の範囲であり、水酸基の置換度が0〜1の範囲であり、これらの置換度の合計が3であるセルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)を含有するセルロースエステル樹脂組成物であって、前記エステル化合物(B)が、アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とをエステル化反応させて得られるエステル化合物であることを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物及び当該樹脂組成物からなる光学フィルムに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、溶融押出法により容易にフィルム化することができ、該フィルムを熱延伸することで、高い複屈折を有する光学フィルムを得ることができる。したがって、本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムは、各種光学フィルムに使用することが可能であり、特に円偏光板に用いられる位相差フィルムとして非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物に用いるセルロースアシレート(A)は、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部、又は全部がエステル化されたものである。これらの中でも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
【0018】
セルロース分子は基本単位であるD−グルコースが、β−1,4結合で直鎖状につながった多糖である。セルロースを構成するグルコースユニットには2、3、6位の3つの水酸基が存在しており、これらの水酸基はエステル化可能である。セルロースのエステル化は既知の方法で行うことができる。例えば、セルロースを強苛性ソーダ溶液にて処理した後、酸無水物によってアシル化する。得られたセルロースアシレートの置換度はほぼ3となるが、これを加水分解することにより、目的の置換度を有するセルロースアシレートを製造することができる。セルロースアシレートの置換基の種類と置換度は、ASTM−D817によって求めることができる。
【0019】
前記セルロースアシレート(A)は、アセチル基の置換度が0.1〜2.2の範囲であり、プロピオニル基の置換度又はブチリル基の置換度が0.5〜2.7の範囲であり、水酸基の置換度が0〜1の範囲であり、これらの置換度の合計が3であるものである。複屈折の発現性が良好となることから、アセチル基の置換度が0.1〜1.5の範囲であり、プロピオニル基の置換度又はブチリル基の置換度が1.0〜2.7の範囲であり、水酸基の置換度が0〜1の範囲であり、これらの置換度の合計が3であるものがより好ましい。前記セルロースアシレート(A)の具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0020】
前記セルロースアシレート(A)の数平均分子量は、機械的物性が良好であることから、30,000〜200,000のものが好ましく、50,000〜100,000のものがより好ましい。
【0021】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物に用いるエステル化合物(B)は、アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とをエステル化反応させて得られるエステル化合物である。
【0022】
前記エステル化合物(B)の主な構造を示すと、下記一般式(I)で表されるような構造である。
【0023】
【化1】

(上記一般式(I)中のGはアルキレンジオール(b1)の残基を表し、Tは芳香族ジカルボン酸化合物(b2)の残基を表し、Rはアルキル基を表す。また、nは繰り返し数を表し、1以上の整数である。)
【0024】
なお、上記の「残基」は、次のことを意味する。アルキレンジオール(b1)の「残基」とは、アルキレンジオール(b1)が反応前に有する2つの水酸基を除いた残りの有機基を表す。また、芳香族ジカルボン酸(b2)の「残基」とは、芳香族ジカルボン酸(b2)が有するカルボキシル基を除いた残りの有機基を表す。
【0025】
前記アルキレンジオール(b1)としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖状アルキレンジオール;プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3,3−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジブチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール等の分岐状アルキレンジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等のその他のジオールなどが挙げられる。これらのアルキレンジオール(b1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。これらのアルキレンジオール(b1)の中でも、セルロースエステル樹脂との相溶性が良好となることから、炭素原子数2〜12の直鎖状又は分岐状のアルキレンジオールが好ましく、炭素原子数2〜6の直鎖状又は分岐状のアルキレンジオールがより好ましい。また、炭素原子数2〜6の直鎖状又は分岐状のアルキレンジオールの中でも、光学フィルムへ高い複屈折を付与できることから、エチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールが好ましい。
【0026】
本発明では、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記のアルキレンジオール(b1)に加えて、モノアルコールや多価アルコールを使用してもよい。モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ペンチルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。また、多価アルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、リビトール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これらのモノアルコールや多価アルコールは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムへ高い複屈折を付与するためには、前記アルキレンジオール(b1)とモノアルコールや多価アルコールとの合計100質量部中で前記アルキレンジオール(b1)の使用量を95質量部以上とすることが好ましい。
【0027】
本発明で用いる芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物は、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸、並びにそのジアルキルエステル化合物である。これらの芳香族ジカルボン酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0028】
前記芳香族ジカルボン酸(b2)のジアルキルエステル化合物を用いる場合、そのアルキル基としては、炭素原子数1〜8のものが挙げられ、炭素原子数3以上のものは直鎖アルキル基であっても分岐アルキル基であってもよい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。また、2つのアルキル基は相互に同一であっても、異なるものであってもよい。
【0029】
前記テレフタル酸のジアルキルエステル化合物の具体例としては、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジブチル、テレフタル酸ジペンチル、テレフタル酸ジヘキシル、テレフタル酸ジヘプチル等が挙げられる。
【0030】
前記ナフタレンジカルボン酸のジアルキルエステル化合物の具体例としては、ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ナフタレンジカルボン酸ジエチル、ナフタレンジカルボン酸ジプロピル、ナフタレンジカルボン酸ジブチル、ナフタレンジカルボン酸ジペンチル、ナフタレンジカルボン酸ジヘキシル、ナフタレンジカルボン酸ジへプチル等が挙げられる。
【0031】
また、上記の芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物の中でもナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物が好ましく、具体的には、1,4−ナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物、1,5−ナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物、1,8−ナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物、2,3−ナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物、2,6−ナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物が好ましい。これらの中でも、2,6−ナフタレンジカルボン酸又はそのジアルキルエステル化合物がより好ましく、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルがさらに好ましい。
【0032】
さらに、前記エステル化合物(B)の製造において、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その他のジカルボン酸もしくはそのアルキルエステル化合物、又はカーボネート化合物を併用することができる。前記ジカルボン酸又はそのアルキルエステル化合物としては、脂肪族ジカルボン酸もしくは芳香族ジカルボン酸、又はこれらのアルキルエステル化合物を使用することができる。前記脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル化合物としては、例えば、コハク酸、コハク酸ジメチル、グルタル酸、グルタル酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、ピメリン酸、ピメリン酸ジメチル、スベリン酸、スベリン酸ジメチル、アゼライン酸、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸、セバシン酸ジメチル、デカンジカルボン酸、デカンジカルボン酸ジメチル、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、ダイマー酸、ダイマー酸ジメチル、フマル酸、フマル酸ジメチル等が挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル化合物としては、フタル酸、フタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル等が挙げられる。さらに、カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのその他のジカルボン酸もしくはそのアルキルエステル化合物、又はカーボネート化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムへ高い複屈折を付与するためには、前記芳香族ジカルボン酸化合物(b2)とその他のジカルボン酸等との合計100質量部中で前記芳香族ジカルボン酸化合物(b2)の使用量を95質量部以上とすることが好ましい。
【0033】
本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物(B)は、反応器に、アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とを仕込み、加熱してエステル化反応させることによって得ることができる。
【0034】
前記エステル化合物(B)を製造する際に用いる反応設備としては、加圧、減圧に対応した反応設備が好ましく、反応器、攪拌機、精留塔、還流冷却器、減圧するためのポンプ等を備えた一般的な装置を用いることができる。
【0035】
前記エステル化合物(B)を製造する際に、エステル化反応を促進する目的で、エステル化触媒を用いることが好ましい。このエステル化触媒としては、周期律表2族、3族、12族、13族及び14族からなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属や有機金属化合物が挙げられる。より具体的には、例えば、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、ハフニウム、ゲルマニウム等の金属;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート、オクタン酸スズ、2−エチルヘキサンスズ、アセチルアセトナート亜鉛、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウムテトラヒドロフラン錯体、4塩化ハフニウム、4塩化ハフニウムテトラヒドロフラン錯体、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム等の金属化合物などが挙げられる。これらの中でも、反応性を向上することができ、取り扱いやすく、エステル化反応により得られたエステル化合物(B)の保存安定性が良好であることから、有機酸亜鉛類やチタンアルコキサイド類が好ましく、具体的には酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート等を用いることが好ましい。
【0036】
また、前記エステル化触媒の使用量は、エステル化反応を制御でき、かつ得られるエステル化合物(B)の着色を抑制できる範囲の量であればよく、前記アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物との合計量に対し、10〜1,000ppmの範囲が好ましく、20〜500ppmの範囲がより好ましく、30〜300ppmの範囲が特に好ましい。エステル化合物(B)の着色はフィルムの透明性を低下させるため、高い透明性が求められる光学フィルム用途では、特に留意する必要がある。
【0037】
エステル化合物(B)を製造する際、前記エステル化触媒を添加する時期は、反応器に前記アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とを仕込むのと同時に添加してもよく、昇温途中、減圧開始の際に添加してもよく、エステル化触媒を分割して添加してもよい。
【0038】
また、前記アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とを反応させる際に、本発明の効果を阻害しない範囲で前記エステル化合物(B)を分岐化、高分子量化させることを目的として、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価アルコール又はカルボン酸;ヘキサメチレンジイソシアネート等のポリイソシアネートも用いてもよい。
【0039】
エステル化合物(B)を製造する際の反応温度は、原料となる前記アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とが蒸発や昇華することを抑制しつつ反応を促進し、反応により生成するエステル化合物(B)の熱分解、着色を抑制できることから、120℃〜300℃の範囲が好ましく、150℃〜280℃の範囲がより好ましい。また、前記エステル化合物(B)を製造する際の反応時間は、2時間以上であることが好ましく、4〜100時間の範囲であることがより好ましい。
【0040】
さらに、前記エステル化合物(B)を製造する際に、未反応の原料及び低分子量の生成物を除去する目的や反応を促進させる目的で、反応の途中から減圧下で行うことが好ましい。この前記エステル化合物(B)を製造する際の減圧度は、速やかに未反応の原料及び低分子量の生成物が除去でき、反応を促進することができることから、3,000Pa以下であることが好ましく、2,000Pa以下であることがより好ましく、10〜1,000Paの範囲がさらに好ましい。
【0041】
前記エステル化合物(B)は、異なるエステル化合物(B)をそれぞれ別々に製造し、次いでそれらを併用しても構わない。また、本発明で用いる前記エステル化合物(B)には、前記セルロースアシレート(A)と混合して本発明のセルロースエステル樹脂組成物とする前に、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、エステル化合物(B)に添加剤を配合してもよい。この前記エステル化合物(B)に添加できる添加剤としては、エステル化触媒の触媒活性を失活させるための触媒失活剤、エステル化合物(B)の着色を抑制するための酸化防止剤等が挙げられる。
【0042】
前記触媒失活剤としては、例えば、キレート化剤が挙げられ、有機系キレート化剤又は無機系キレート化剤を使用することができる。有機系キレート化剤としては、例えば、アミノ酸、フェノール類、ヒドロキシカルボン酸、ジケトン類、アミン類、オキシム、フェナントロリン類、ピリジン化合物、ジチオ化合物、ジアゾ化合物、チオール類、ポルフィリン類、配位原子として窒素原子を有するフェノール類やカルボン酸等が挙げられる。また、無機キレート化剤としては、例えば、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル等のリン化合物が挙げられる。これらのキレート化剤は、前記アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物との合計量に対して、10〜2,000ppmの範囲で添加して使用することが好ましい。
【0043】
上記の製造方法により得られるエステル化合物(B)の水酸基価は、高温溶融時の樹脂組成物の劣化を防止できることから、20〜380の範囲であるものが好ましく、40〜320の範囲であるものがより好ましく、60〜280の範囲であるものがさらに好ましい。なお、この水酸基価はエステル化合物(B)の末端水酸基、すなわち原料として使用したアルキレンジオール(b1)が有する水酸基に由来するものである。
【0044】
前記エステル化合物(B)の数平均分子量は、前記セルロースアシレート(A)との相溶性が良好となり、本発明のセルロースエステル樹脂組成物で作製するフィルムの平滑性、透明性が良好となることから、300〜5,000の範囲が好ましく、350〜3,000の範囲がより好ましく、400〜2,000の範囲がさらに好ましい。
【0045】
なお、本発明における前記エステル化合物(B)の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ゲルパーミュエ−ションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定して、標準ポリスチレンに換算した値として得ることができる。測定条件は、下記の通りである。
【0046】
[エステル化合物(B)の数平均分子量(Mn)の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC−8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ−L」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料15mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC−8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0047】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0048】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、前記セルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)を含有するものである。本発明のセルロースエステル樹脂組成物中の前記セルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)の配合量は、充分に高い複屈折が得られ、本発明のセルロースエステル樹脂組成物で作製するフィルムの透明性が良好となることから、前記セルロースアシレート(A)100質量部に対して、前記エステル化合物(B)を0.5〜50質量部の範囲で含有したものが好ましく、3〜40質量部の範囲で含有したものがより好ましい。5〜30質量部の範囲で含有したものがさらに好ましい。
【0049】
また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、本発明を損なわない範囲で前記セルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)以外の各種添加剤を配合することができる。
【0050】
前記添加剤としては、例えば、改質剤(可塑剤も含む)、紫外線吸収剤、位相差上昇剤、熱可塑性樹脂、マット剤、劣化防止剤、染料等の添加剤が挙げられる。
【0051】
前記改質剤(可塑剤も含む)としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチルなどが挙げられる。
【0052】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。この紫外線吸収剤の配合量は、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲であることが好ましい。
【0053】
前記位相差上昇剤としては、位相差値が上昇するものであれば何ら制限はないが、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等が挙げられる。この位相差上昇剤の配合量は、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲が好ましく、1〜10質量部の範囲がより好ましい
【0054】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0055】
前記マット剤としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。このマット剤の配合量は、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲が好ましい。
【0056】
前記劣化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール酸化防止剤、酸補足剤、ヒンダードアミン光安定剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。特に、フィルムを作製する際の熱溶融時の安定化のために、劣化防止剤として、ヒンダードフェノール酸化防止剤、酸補足剤、ヒンダードアミン光安定剤等を本発明のセルロースエステル樹脂組成物に配合することが好ましい。
【0057】
前記染料は、必要に応じて用いることができ、その配合量は本発明の効果を損なわない範囲であればよい。
【0058】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物の製造方法としては、前記セルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)をインターナルミキサー、ロール混練機、単軸または二軸押出機等で溶融混練する方法が挙げられる。この際の混合温度は、120〜300℃であることが好ましく、150〜260℃が更に好ましい。
【0059】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物の製造方法としては、前記セルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)をインターナルミキサー、ロール混練機、単軸または二軸押出機等で溶融混練する方法が挙げられる。この際の溶融混練温度は、120〜300℃の範囲が好ましく、150〜260℃の範囲がより好ましい。原料の劣化を防ぐため、溶融混練時間は5分以内が好ましい。また、樹脂組成物を製造する際には、本発明のセルロースエステル樹脂組成物で作製するフィルムの平滑性、透明性が良好となることから、各成分中に含まれる水分、有機溶媒等の揮発成分を予め乾燥させ除去しておくことが好ましい。
【0060】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、フィルム状に成形することで光学フィルムとして用いることができる。
【0061】
前記セルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形する方法としては、例えば、圧縮成形法によりフィルムを成形する方法や、押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いてフィルム状に成形する方法が挙げられる。これらの成形方法によりフィルムを製造する場合、成形温度は120〜300℃の範囲が好ましく、150〜260℃の範囲がより好ましい。
【0062】
また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物を各成分が溶解する有機溶媒に溶解し、溶液流延法によりフィルムを製造することもできる。
【0063】
溶液流延法によるフィルムの製造方法としては、例えば、セルロースエステル樹脂組成物を有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液をガラス板や金属などの支持体上に流延させる。流延させた樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50〜80質量%程度を蒸発させた後に剥離し、さらに乾燥させることで有機溶剤を完全に除去し、フィルムを得る方法が挙げられる。
【0064】
本発明の光学フィルムの膜厚は、40〜300μmの範囲であることが好ましく、40〜120μmの範囲であることが薄膜化の観点からより好ましい。光学フィルムの中でも円偏光板用1/4波長板として本発明を用いる場合、その膜厚が40μmあれば、偏光板としての強度を保つことができ、本発明では120μmあれば1/4波長板として充分な位相差を得ることができる。
【0065】
上記の製造方法により得られた光学フィルムは、さらに加熱延伸処理を行うことで、光学フィルムに複屈折を発現させることで、位相差フィルムとして重要となる位相差値を調整することができる。延伸方法としては、光学フィルムに付与したい位相差の特性に合わせて、フィルムのMD方向、TD方向のいずれか一方向に延伸する一軸延伸;MD、TDの両方向に延伸する二軸延伸のいずれかを選択することができる。二軸延伸を行う場合は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれの方法も用いることができる。延伸温度は90〜170℃の範囲であることが好ましい。また、延伸倍率は、充分な複屈折が得られることから、1.1〜5倍の範囲であることが好ましい。
【0066】
本発明の光学フィルムは、溶融製膜法の適用が可能であり、複屈折の発現性に非常に優れることから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムに使用できる。ここで、光学フィルムとしては、円偏光板に必須である位相差フィルムや視野角補償付き偏光子保護フィルムなどが挙げられる。本発明の光学フィルムはセルロースエステル樹脂であることから偏光板作製工程において従来の偏光子接着プロセスが適用可能であり、かつ、容易に高複屈折をフィルムに付与できることから産業上非常に有利である。
【実施例】
【0067】
以下に実施例と比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、下記の合成例1〜10で合成したエステル化合物の酸価、水酸基価及び数平均分子量は、下記の条件で測定したものである。
【0068】
[酸価、水酸基価の測定条件]
各エステル化合物の酸価及び水酸基価をJIS K 0070−1992に準じて測定した。
【0069】
[数平均分子量(Mn)の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC−8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ−L」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料15mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC−8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0070】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0071】
[合成例1]
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四つ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル1,553.4g、エチレングリコール1,241.4g及びエステル化触媒として酢酸亜鉛・2水和物0.168gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、210℃になるまで段階的に昇温して、合計18時間反応させた。反応後、160℃で未反応のエチレングリコールを減圧除去することによって、常温固体であるエステル化合物(B1)(酸価:0.12、水酸基価:195、数平均分子量:580)を得た。
【0072】
[合成例2]
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四つ口フラスコに、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル659.4g、テレフタル酸ジメチル58.3g、プロピレングリコール684.8g及びエステル化触媒として酢酸亜鉛・2水和物0.084gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、210℃になるまで段階的に昇温して、合計13時間反応させた。反応後、160℃で未反応のプロピレングリコールを減圧除去することによって、常温固体であるエステル化合物(B2)(酸価:0.08、水酸基価:213、数平均分子量:590)を得た。
【0073】
[合成例3]
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四つ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル776.7g、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1418.2g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.132gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、230℃になるまで段階的に昇温して、合計16時間反応させた。反応後、170℃で未反応の3−メチル−1,5−ペンタンジオールを減圧除去することによって、常温固体であるエステル化合物(B3)(酸価:0.30、水酸基価:205、数平均分子量:650)を得た。
【0074】
[合成例4]
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四つ口フラスコに、コハク酸600g、プロピレングリコール560g及びエステル化触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.07gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、220℃になるまで段階的に昇温して、合計9時間反応させた。反応後、220℃で未反応のプロピレングリコールを減圧除去することによって、常温液体であるエステル化合物(B4)(酸価:0.24、水酸基価:129、数平均分子量:1,100)を得た。
【0075】
[合成例5]
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの四つ口フラスコに、無水フタル酸370g、プロピレングリコール433.2g、安息香酸610g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.170gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、230℃になるまで段階的に昇温して、合計17時間反応させた。反応後、200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧除去することによって、常温液体であるエステル化合物(B5)(酸価:0.19、水酸基価:10、数平均分子量:480)を得た。
【0076】
上記の合成例1〜5で得られたエステル化合物(B1)〜(B5)の原料成分、酸価、水酸基価及び数平均分子量をまとめたものを表1に示す。なお、表1中の略号は下記の通りである。
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
3MPD:3−メチル−1,5−ペンタンジオール
DMT:テレフタル酸ジメチル
NDCM:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル
SuA:コハク酸
PA:無水フタル酸
BzA:安息香酸
【0077】
【表1】

【0078】
上記の合成例1〜5で得られたエステル化合物(B1)〜(B5)を用いて、下記の操作でセルロースエステル樹脂組成物を調製した。
【0079】
[実施例1]
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製「CAP−482−20」;アセチル基の置換度0.2、プロピオニル基の置換度2.5、水酸基の置換度0.3、数平均分子量75,000;以下、「CAP」と略記する。)100質量部及び合成例1で得られたエステル化合物(B1)5質量部を、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、200℃、30rpmで5分間混合し、セルロースエステル樹脂組成物(1)を得た。
【0080】
[実施例2〜3]
表2に示した配合量で、実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜3として、セルロースエステル樹脂組成物(2)〜(3)を得た。
【0081】
[実施例4]
セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製「CAB−381−20」;アセチル基の置換度1.0、ブチリル基の置換度1.7、水酸基の置換度0.3、数平均分子量70,000;以下、「CAB」と略記する。)100質量部及び合成例1で得られたエステル化合物(B1)10質量部を、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、200℃、30rpmで5分間混合し、セルロースエステル樹脂組成物(4)を得た。
【0082】
[実施例5〜8]
表2に示した配合量で、実施例1と同様の操作を行い、実施例5〜8として、セルロースエステル樹脂組成物(5)〜(8)を得た。
【0083】
[比較例1]
CAP100質量部及びトリクレジルホスフェート(以下、「TCP」と略記する。)10質量部を、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、200℃、30rpmで5分間混合し、セルロースエステル樹脂組成物(C1)を得た。
【0084】
[比較例2〜4]
表3に示した配合量で、実施例1と同様の操作を行い、比較例2〜3として、セルロースエステル樹脂組成物(C2)〜(C3)を得た。また、CAPのみのものも比較例4として用意した(セルロースエステル樹脂組成物(C4)とする。)。
【0085】
(評価用フィルムの作製)
上記の実施例1〜7及び比較例1〜4で得られたセルロースエステル樹脂組成物(1)〜(8)及び(C1)〜(C4)を、200℃に加熱した圧縮成形機にて成形し、25℃にて冷却し、約200μmの厚さの評価用フィルムを得た。次に、加熱一軸延伸機(UBM社製)を用いて、表2又は3に示した延伸温度で初期長の2倍となるように一軸延伸して延伸フィルムを得た。なお、延伸温度は、各セルロースエステル樹脂組成物のDMA測定(10Hz)でのE’が10MPaとなる温度とした。
【0086】
(評価用フィルムの複屈折の測定)
上記で得られた延伸フィルムの位相差フィルムとしての性能を評価するために、588nmにおける複屈折を自動複屈折率計(王子計測機器株式会社製「KOBRA−WR」)で測定した。
【0087】
(1/4λの位相差フィルムの厚さの算出)
上記で得られた複屈折の値を用いて、下式(1)により、1/4λの位相差フィルムとした場合の厚さを算出した。なお、1/4λとする場合に必要な位相差値は、588/4=147nmとなる。
【0088】
【数1】

【0089】
上記で測定した複屈折の測定値及び1/4λの位相差フィルムの厚さの算出値は、表2及び3に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
本発明の実施例1〜8のセルロースエステル樹脂組成物を用いて作製したフィルムは、何も添加していない比較例4の複屈折が7.7×10−4であるのに対し、11.8×10−4〜44.7×10−4と高い複屈折を示し、位相差フィルムとする場合、より薄い薄膜化が可能なことが分かった。特に、芳香族ジカルボン酸(b2)に2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いた実施例5〜7のものは、27.7×10−4〜44.7×10−4と非常に高い複屈折を示し、極めて優れた材料であることが分かった。
【0093】
一方、従来の添加剤であるTCPを用いた比較例1では、11.4×10−4と比較的高い複屈折を示したが、本発明の実施例1〜7と比較すると薄膜化するには不充分であった。
【0094】
本発明で用いる芳香族ジカルボン酸(b2)に代えて、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸を用いた比較例2では、複屈折が4.3×10−4となり、比較例4のCAPのみのものより複屈折が低下することが分かった。
【0095】
芳香族ジカルボン酸としてフタル酸を用いた比較例3では、複屈折が9.9×10−4となり、比較例4のCAPのみのものより複屈折が若干向上したが、薄膜化するには不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル基の置換度が0.1〜2.2の範囲であり、プロピオニル基の置換度又はブチリル基の置換度が0.5〜2.7の範囲であり、水酸基の置換度が0〜1の範囲であり、これらの置換度の合計が3であるセルロースアシレート(A)及びエステル化合物(B)を含有するセルロースエステル樹脂組成物であって、前記エステル化合物(B)が、アルキレンジオール(b1)と、テレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である芳香族ジカルボン酸(b2)又はそのジアルキルエステル化合物とをエステル化反応させて得られるエステル化合物であることを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキレンジオール(b1)が、炭素原子数2〜12の直鎖状又は分岐状のアルキレンジオールである請求項1記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ナフタレンジカルボン酸が、2,6−ナフタレンジカルボン酸である請求項1又は2記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロースアシレート(A)100質量部に対して、前記エステル化合物(B)を0.5〜50質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のセルロースエステル樹脂組成物からなることを特徴とする光学フィルム。
【請求項6】
請求項5記載の光学フィルムが、加熱延伸処理されたものである光学フィルム。

【公開番号】特開2012−177018(P2012−177018A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39861(P2011−39861)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】