説明

セルロース系バイオマスから糖液を製造する方法

【課題】 固形バイオマスの酸加水分解による酸糖化法で、コスト面及び環境面で課題となっている酸回収において、イオン交換膜を用いて酸の回収及び再利用を可能とし、プロセス全体のエネルギーコスト及び環境負荷を低減することを目的としている。
【解決手段】 セルロース系バイオマスを酸糖化処理することによって酸・糖混合液を製造する酸糖化工程、該酸糖化工程から得られる酸・糖混合液を陰イオン交換膜を用いる拡散透析法により50℃以下の温度で透析処理を行って酸と糖液を分離する透析処理工程を有することを特徴とする、セルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマスを原料として酸糖化処理を行うことによって酸糖化処理液を製造する方法と、該糖化処理液から効率よく糖液と酸を回収する方法に関する
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策で、二酸化炭素排出量の削減目標を定めた京都議定書が批准され、日本は二酸化炭素排出量を1990年比で6%削減しなければならない。二酸化炭素排出削減には、化石燃料エネルギーを使用するのではなく、バイオマスをエネルギーに転換することによって得られるバイオマスエネルギーを利用することが有効である。バイオマス転換の方法としては、多数の著書(非特許文献1〜4)に示されているように、バイオマスを熱分解、ガス化、嫌気性発酵などによって炭化水素化、糖化、アルコール生成する等、多くの技術開発がなされてきている。
【0003】
その中でも、バイオマスに含まれる糖質を発酵することによりエタノールを得る方法が特に広く研究されている。エタノールは、液体燃料、特に輸送用燃料として利用することが可能であり、既にアメリカやブラジルではトウモロコシやサトウキビから得られるデンプンや砂糖を原料としてバイオエタノールを製造するプロセスが実用化されている。
【0004】
このような背景下に、日本でもバイオアルコールビジネスは動き出しており、2006年から3%アルコールを添加したガソリンの販売が開始されるが、2000年実績のガソリン使用量で換算した場合、全てのガソリンに添加すれば約180万キロリットルのアルコール需要が見込まれる。しかし、トウモロコシ、芋、ムギ、コメ、サトウキビなど穀物アルコールの生産コストに占める原料コストの割合は40〜70%を占め、かつ原料が食料として競合する問題が指摘されている。この為、これ以上の大量かつ安価なエタノール生産原料としては、食料として競合しないセルロース系バイオマスしかないと考えられている。
【0005】
セルロース系バイオマスとしては、サトウキビバガス、稲ワラ、トウモロコシ茎葉などの草本系バイオマスと、建築廃材、林地残材、間伐材などの木質系バイオマスに大別される。セルロース系バイオマス変換の共通点として、これらの材料を可溶化し、糖を抽出した後に、その糖を利用してアルコール発酵を行う必要がある。
【0006】
植物に由来するセルロース系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンの三種の主成分から成り立っている。セルロースはβ1−4結合をしたD−グルコースの重合体であり、結晶領域と非結晶領域で構成されている。その他の構成多糖がヘミセルロースで、キシロース、アラビノース、マンノース等の種々の単糖で構成されている。但し、リグニンはフェニルプロパンを基本単位とする芳香族性高分子で、セルロースやヘミセルロースなどの糖組成物とは構造が異なる。
【0007】
セルロース系バイオマスから糖を抽出するためには、植物体内に高分子で存在しているセルロースとヘミセルロースを可溶化すると同時にグルコースなどの単糖類に分解する糖化工程が必要となってくる。糖化方法としては、セルラーゼやキシラナーゼなどの多糖分解酵素による酵素糖化と、硫酸や塩酸などによる酸加水分解による酸糖化が提案されている。
【0008】
このうち酵素糖化法では、酵素反応が円滑に行われるために基質であるセルロースやヘミセルロースを覆っているリグニンを取り除く必要がある。また、巨大な酵素分子が基質に接触するための空隙が必要であることから、微粉化処理、水熱処理、超音波処理など物理的、化学的な様々な前処理が必要であることが指摘されている。これらの前処理としては、現時点において、経済的、エネルギー収支的に有効な方法は提案されておらず、さらに、酵素生産の場合はコスト的な問題もあり、実用化の障壁となっている。
【0009】
一方、酸加水分解による酸糖化法としては、主成分であるセルロース、ヘミセルロースなどの多糖を硫酸や塩酸などの酸による加水分解によって単糖に低分子化することにより可溶化し、芳香族高分子物質であるリグニンと分離する方法が古くから取り組まれてきている。酸糖化法は、酵素糖化法と比べても薬品費が安価であり、反応速度も速いことが特徴であるといえる。
【0010】
これまでに提案されてきた酸糖化法は、触媒として用いる酸の濃度によって希酸法と濃酸法に大別される。希酸法は数%程度の硫酸を用いて高温高圧条件下で行なうことにより糖化を目指す方法で、濃酸法は70%程度の硫酸もしくは40%程度の塩酸を用いる方法である。希酸法では、糖の収率が低いことが課題であるが、濃硫酸を用いた加水分解では糖の収率が高いことも特徴であるといえる。
【0011】
以上に挙げたバイオマスの酸加水分解による酸糖化法の実用化に向けて、様々な方法が検討されているが、それらに共通する問題として、可溶化した処理液中に含まれる糖と硫酸の分離・回収及び再利用が困難であることがコスト面及び環境面での課題であると考えられてきた。特に、得られた糖をアルコール発酵させて、燃料あるいは工業原料とする要請に対処するためには、処理液のpHを酵素が働けるpHにする必要があり、現在知られている優れた耐塩性酵母を用いるとしても、pHを1.5以上にする必要がため、酸により糖化された酸・糖混合液を中和するか、酸を効率的に除去する必要がある。このような中和または除去の方法としては、これまでに以下のような技術が提案されている。
【0012】
(1)酸糖化液に対して消石灰(Ca(OH))を添加して使用した硫酸を中和処理し、生成した石膏を固液分離することで糖化液から硫酸を除去する方法(特許文献1)。
【0013】
(2)酸糖化液をイオン交換樹脂に流し、水を溶離水として糖と硫酸の溶出時間の差を用いて分離する方法。硫酸は回収・濃縮後に再利用される(特許文献2)。
【0014】
(3)酸糖化液中の糖を強酸性カチオン交換樹脂上に吸着させ、硫酸溶出後に糖を回収することで、糖と硫酸を分離する方法。糖化液はさらに消石灰で中和処理され、硫酸は回収・濃縮後に再利用される(特許文献3)。
【0015】
(4)硫酸とグルコースの混合液を陰イオン交換膜により拡散透析する方法において、イオン交換膜の含水量を特定の範囲とすることにより酸回収率を向上せしめる方法(特許文献4)。
【0016】
これらの方法中、(1)や(3)の方法では、大量の石膏が排出されるため、石膏の利用方法、もしくはその処理に多大なコストが必要であり、排水処理においても環境面に多大な負荷がかかることが課題となっている。また、(2)の方法では、回収された硫酸は大幅に希釈されており、再利用するには濃縮に大きなエネルギー及びコストが必要となる。さらに、(4)の方法は、硫酸の除去量が少なく、その後の酵素によるアルコール発酵のために多大な中和処理が必要となる。
【0017】
【特許文献1】特開2006−75007号公報
【特許文献2】特開2005−40106号公報
【特許文献3】特表平11−506934号公報
【特許文献4】特公昭36−3624号公報
【非特許文献1】日本木材学会編「木質バイオマスの利用技術」p19〜61、文永堂出版、1997年7月発行
【非特許文献2】湯川英明ら「バイオマスエネルギー利用の最新技術」各論編II−1章、CMC出版、2001年8月発行
【非特許文献3】飯塚尭介ら「ウッドケミカルスの最新技術」p6〜34、CMC出版、2001年10月発行
【非特許文献4】船岡ら「木質系有機資源の新展開」第5章−2、CMC出版、2005年1月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、固形バイオマスの酸加水分解による酸糖化法で、コスト面及び環境面で課題となっている酸回収において、イオン交換膜を用いて酸の回収及び再利用を可能とし、プロセス全体のエネルギーコスト及び環境負荷を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明は、次の各発明から選択される発明を包含する。
【0020】
(1)セルロース系バイオマスを酸糖化処理することによって酸・糖混合液を製造する酸糖化工程、該酸糖化工程から得られる酸・糖混合液を陰イオン交換膜を用いる拡散透析法により50℃以下の温度で透析処理を行って酸と糖液を分離する透析処理工程を有することを特徴とする、セルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0021】
(2)前記酸糖化工程に供給されるセルロース系バイオマスは、加熱水及び/又は有機溶剤によりリグニン物質を除去する処理が施されていることを特徴とする、(1)項記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0022】
(3)前記酸糖化工程と前記透析処理工程の間に、酸糖化工程から得られる酸・糖混合液を露光処理及び/又は50℃以上の温度による加熱処理をしてリグニン物質を固形化し、濾過して除去するリグニン物質除去工程を設けることを特徴とする、(1)項又は(2)項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0023】
(4)前記酸糖化工程における酸糖化処理は、温度15〜35℃でセルロース系バイオマスを酸加水分解して糖化する処理であることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0024】
(5)前記酸糖化処理工程における酸糖化処理は、濃度30〜70質量%の硫酸を使用してセルロース系バイオマスを酸加水分解して糖化する処理であることを特徴とする(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0025】
(6)前記透析処理工程は、陰イオン交換膜の一方の側に通液する酸・糖混合液と、他方の側に通液する回収用水の流速比を、「酸・糖混合液/回収用水=0.5〜2」として透析処理して糖液を分離取得する工程であることを特徴とする、(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0026】
(7)前記イオン交換膜に通液する処理液及び回収用水の流速が、陰イオン交換膜を挟んで互いの流動方向が逆方向となるように、単位膜面積当たり毎分3〜8mlであることを特徴とする、(6)項記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0027】
(8)前記透析処理工程における透析処理が遮光下で行われることを特徴とする(1)項〜(7)項のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0028】
(9)前記透析処理工程が、前記酸・糖混合液中の酸を99質量%以上除去する工程であることを特徴とする、(1)項〜(8)項のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【0029】
(10)前記透析処理工程で分離される酸含有回収用水を前記酸糖化工程における酸糖化処理に循環使用する循環系を有することを特徴とする、(1)項〜(9)項のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従来、環境負荷が高いことや、エネルギー効率が低いために実用化が難しかったバイオマスの酸糖化方法が実用的に可能となる。さらに、酸糖化法は草本系のバイオマスから木質系のバイオマス、デンプン系廃棄物まで広く原料として利用することが可能となるため、食料と競合しない大量かつ安価な液体燃料生産技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明が処理対象となる固形バイオマスとしては、間伐材、建築廃材、木材チップ、おがくず、剪定材、林地残材、竹、古新聞、雑誌、段ボール、古紙、パルプ、パルプスラッジや、木質材含有物を含む産業・生活廃棄物などのセルロース系バイオマスが挙げられる。他に、籾殻、リンター、綿、木綿バガス、ワラ類、トウモロコシ穂軸などの草本系農産廃棄物などが含まれる。また、廃パン、残飯、廃デンプン、規格外小麦、廃棄米などデンプン系廃棄物なども酸糖化処理により速やかに単糖化、可溶化が可能であるため、セルロース系バイオマスに限らず広範囲な原料を利用可能である。
【0032】
本発明の方法においては、まず、酸糖化工程において、上記バイオマス原料を30〜70質量%濃度の酸で処理することにより、多糖類及び単糖類を溶出させる。酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、沸酸などの鉱酸やトリフルオロ酢酸のような有機酸もしくは、これらの酸混合液が使用可能であるが、中でも硫酸が望ましく、多糖類及び単糖類を溶出させる反応は、常圧で速やかに起こる。反応は、温度35℃以下で速やかに進行するが、フルフラールなどの発酵阻害物質の生成を抑えるために20℃以下が好ましい。但し、15℃未満だと、溶出速度が遅くなるので、15℃以上であることが好ましい。
【0033】
次いで、得られた酸糖化処理液、即ち、酸・糖混合液は、透析処理工程において、ガラス繊維濾紙やポリフッ化エチレン系繊維製濾布などによって固液分離して清澄な溶液を得た後、透析処理工程に送ってイオン交換膜の片面に接触させ、他方の面に水(回収用水)を接触させることにより、処理液中の硫酸などの酸を選択的に他方の面側に透過させることができる。
【0034】
本発明の方法において、透析処理工程で使用する陰イオン交換膜は、高分子材料により形成される膜であり、高分子の分子中にカチオン基を有するものである。カチオン基としては、四級アンモニウム基、四級ピリジニウム基などである。陰イオン交換膜は、溶液中のカチオン物質、中性溶解物は透過せず、小さなアニオン及び水素イオンのみを透過させる。
【0035】
高分子材料としては、一般に、ハロアルキルスチレン及び、これと共重合可能なモノマーとの共重合体を四級アミノ化するか、ビニルピリジン及びこれと共重合可能なモノマーとの共重合体を四級ピリジニウム化したものである。共重合可能なモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ビニルナフタレンなどのビニルモノマー、或いは、ジビニルベンゼンなどのジエンモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのアクリル系モノマーなどが挙げられる。ジエン系モノマーを共重合することにより、耐薬剤性を向上することが一般的である。また、エポキシ基を有する高分子物質を混合することも可能である。
【0036】
透析処理工程では、処理液中に含まれる糖類はイオン交換膜を通過することなく処理液中に残存し、酸の移動は濃度差を駆動力とするため、逆浸透膜などの運転とは異なり、圧力を負荷する必要はない。
透析処理工程では、イオン交換膜を挟んで対面している糖化処理液と回収用水の流動方向は逆方向に流すことが必要である。静置法あるいは順方向に流す方法では、酸の除去率を100%に近づけることは困難である。
【0037】
酸糖化処理工程におけるセルロース系バイオマス原料として、木質系バイオマス、即ち、リグニンを含むバイオマス原料を用いた場合は、酸糖化処理液中には酸可溶性リグニンが溶解している。酸可溶性リグニンは、酸による溶解処理直後は可溶化していても、光酸化や温度により重合し、不溶化してしまい、その後の透析処理工程でイオン交換膜による酸の除去を阻害する。この為、イオン交換膜による硫酸回収時には遮光を行うことや、処理液及び回収用水の温度を50℃以下、好ましくは40℃以下、最も望ましくは、30℃以下にすることによって、不溶物質の生成を抑制し分離効率を向上することが可能となる。
【0038】
前記した溶解リグニンの重合による阻害を防ぐため、酸糖化工程における酸処理に先立って、リグニンを加熱水あるいは有機溶剤により除去することも好ましい態様である。また、処理液に光を当て、更には温度を50℃以上にしてリグニンの重合・不溶化を促進した後、濾過あるいは比重分離してから、透析処理工程に送ってイオン交換膜による透析を開始することも好ましい態様である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下に示す各実施例において、%は、特に断りがない限りは質量%を示す。 糖濃度の測定には、フェノール硫酸法を用いた。測定方法については、「還元糖の定量法」(福井作蔵著 学会出版センター)を参考にした。硫酸濃度の測定は、ダイオネクス社製イオンクロマト装置ICS-3000で硫酸イオン濃度を測定した。
【0040】
<実施例1>
平均粒子径20mmサイズに調製されたスギ木片400gをプラスチックビーカーに投入し、70%硫酸500mlを加え、硫酸(処理液)の温度を15℃に保ちながら150rpmの攪拌速度で攪拌機により8時間攪拌した。
上記処理液をアドバンテック社製ガラス繊維濾紙GA−100で濾過を行い、処理液と残渣を分離した。本操作により、全糖40.7g/lの糖化処理液が得られた。この処理液を原液として、以下の透析工程における膜分離操作を行った。
【0041】
図1のように、0.342mの面積を持つ陰イオン交換膜(旭硝子社製セレミオンDSV)をセットし、膜面の片側(図の左側)に水を満たした。図示していないが、回収用水の出口(図の下部)にはバルブがあり、操業開始と同時に、上部からの給水速度と同一の速度で出口から流出するように制御する。
膜面の片側下部より処理液を通液し、操業を開始する。操作条件は処理液流量、回収用水流量をそれぞれ毎分1mlとし、膜をセットした装置全体を冷却し、処理液及び回収水の温度を50℃以下に保つようにし、約10時間、前述の条件において運転することによって装置の平衡化を行った。平衡化が終了後、脱塩液及び回収酸をそれぞれ5mlずつサンプル採取した。各サンプルの酸濃度及び硫酸濃度を測定し、以下の式によって、糖濃度比率、硫酸除去率、糖通過率、硫酸濃度比率を算出した。
【0042】
糖濃度比率(%)=(透析液中の糖濃度(%)/原液中の糖濃度(%))×100
硫酸の除去率(%)=(透析液中の硫酸濃度(%)/原液中の硫酸濃度(%))×100
糖の通過率(%)=(回収酸中の糖濃度(%)/原液中の糖濃度(%))×100
硫酸濃度比率(%)=(回収酸中の硫酸濃度(%)/原液中の硫酸濃度(%))×100
【0043】
それぞれのサンプルについて糖濃度比率、硫酸除去率、糖通過率、硫酸濃度比率を算出した結果を表1に示す。バイオマスを硫酸処理した処理液をイオン交換膜で分離処理を行ったところ、原液中の酸は回収酸液中にほとんどが回収され、脱塩液は高い糖濃度を維持していることが判明した。また脱塩液中の硫酸は86%除去されており、本実施例により、イオン交換膜を用いることによって、酸と糖の分離が可能であることが判明した。
【0044】
【表1】

【0045】
<実施例2>
実施例1と同様に処理液を得て、同じ膜を用いて膜分離を行った。操作条件として、原液流量は毎分1mlであるが、回収用水流量をそれぞれ毎分0.5ml、2ml、4mlで行い、その他の条件は実施例1と同様に行った。これを実施例2−1〜3とした。実施例1と同様に平衡化を行った後にサンプル採取を行い、同様に糖濃度比率、硫酸除去率、糖通過率、硫酸濃度比率を算出した結果を表2に示し、比較のために実施例1のデータも転記した。硫酸の除去率は回収用水流量の増大に伴って上昇するが、糖通過率も上昇する結果、糖回収率は減少することが判明した。本実施例によって、原液と回収用水の流速比は0.5〜2付近が良好であることが判明した。
【0046】
【表2】

【0047】
<実施例3>
実施例1と同様に処理液を得て、同じ膜を用いて膜分離を行った。操作条件として、原液流量、回収用水流量を共に毎分0.5、2ml、3ml、5mlで行い、その他の条件は実施例1と同様に行った。これを実施例3−1〜4とした。実施例1と同様に平衡化を行った後にサンプル採取を行い、同様に糖濃度比率、硫酸除去率、糖通過率、硫酸濃度比率を算出した結果を表3に示し、比較のために実施例1のデータも転記した。硫酸除去率は流量の増大に伴って緩やかに減少するが、糖濃度比率は流量が毎分2ml付近で良好であることが判明した。本実施例によって、流速は単位膜面積あたり、毎分3〜8ml付近が良好であることが判明した。
【0048】
【表3】

【0049】
<実施例4>
実施例1と同様に処理液を得て、同じ膜を用いて膜分離を行った。操作条件として、原液流量、回収用水流量を共に毎分2mlで行った。以上は実施例3−2と同様の条件である。実施例3−2とは異なり、装置全体を遮光して膜分離処理を行い、これを実施例4とした。実施例3−2と同様に平衡化を行った後にサンプル採取を4時間おきに行い、同様に透析液の硫酸除去率の経時変化を示した結果を図2に示し、比較のために実施例3−2の条件についても同様にデータ採取した。経時的なサンプル採取を行うと、実施例3−2ではサンプル採取後48時間で硫酸除去率が急激に減少しているが、遮光を行うことにより、硫酸除去率の減少が抑制している。本実施例によって、膜分離時に遮光することによって、分離効率が維持されることが判明した。
【0050】
<実施例5>
実施例1と同様に処理液を得て、同じ膜を用いて膜分離を行った。操作条件として、遮光下、原液流量、回収用水流量を共に毎分2mlで行った以外は実施例4と同様の条件である。実施例4とは異なり、装置全体を30℃、60℃に維持し、これを実施例5−1〜2とした。実施例4と同様に平衡化を行った後にサンプル採取を4時間おきに行い、同様に透析液の硫酸除去率の経時変化を示した結果を図3に示し、比較のために実施例4の条件についても同様にデータ採取した。経時的なサンプル採取を行うと、実施例5−2ではサンプル採取後60時間で硫酸の除去率が徐々に減少しているが、装置を処理液及び回収用水の液温度が30℃に維持されるように制御することより、硫酸除去率の減少が抑制している。本実施例によって、膜分離時に装置温度を30℃に維持することによって、分離効率が維持されることが判明した。
【0051】
以上の実施例から、拡散透析を50℃以下で行う場合で、処理水と回収用水の流速を1ml/分とした場合は、99%以上の酸除去率となり、流速を2ml/分とした場合でも、拡散透析の液の温度を30℃に制御し、遮光下で行えば、ほぼ100%近い酸除去率を達成できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に用いる拡散透析装置の概念図
【図2】実施例4の酸除去率に及ぼす遮光の効果を示すグラフ
【図3】実施例5の酸除去率に及ぼす液温度の効果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系バイオマスを酸糖化処理することによって酸・糖混合液を製造する酸糖化工程、該酸糖化工程から得られる酸・糖混合液を陰イオン交換膜を用いる拡散透析法により50℃以下の温度で透析処理を行って酸と糖液を分離する透析処理工程を有することを特徴とする、セルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項2】
前記酸糖化工程における酸糖化処理は、温度15〜35℃でセルロース系バイオマスを酸加水分解して糖化する処理であることを特徴とする請求項1記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項3】
前記酸糖化処理工程における酸糖化処理は、濃度30〜70質量%の硫酸を使用してセルロース系バイオマスを酸加水分解して糖化する処理であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項4】
前記透析処理工程は、陰イオン交換膜の一方の側に通液する酸・糖混合液と、他方の側に通液する回収用水の流速比を、「酸・糖混合液/回収用水=0.5〜2」として透析処理して糖液を分離取得する工程であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項5】
前記イオン交換膜に通液する処理液及び回収用水の流速が、陰イオン交換膜を挟んで互いの流動方向が逆方向となるように、単位膜面積当たり毎分3〜8mlであることを特徴とする、請求項4記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項6】
前記透析処理工程における透析処理が遮光下で行われることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項7】
前記透析処理工程が、前記酸・糖混合液中の酸を99質量%以上除去する工程であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項8】
前記透析処理工程で分離される酸含有回収用水を前記酸糖化工程における酸糖化処理に循環使用する循環系を有することを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のセルロース系バイオマスから糖液を製造する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22180(P2009−22180A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186809(P2007−186809)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)