説明

セルロース/チタン系無機物複合成型体およびそれらの製造方法

【課題】セルロースとチタンを、過大なエネルギーを費やすことなく、両者を相互作用しながら複合化させ、且つ有用な成型体および成型する方法を提供すること。
【解決手段】セルロースに対する酸化チタンの重量が3〜100wt%であることを特徴とする複合成型体、及び、酸化チタンの微粒子およびカチオン性ポリマーをセルロースの銅アンモニア溶液に分散させた混合溶液をを用いることを特徴とするそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースと二酸化チタン(以下、単に酸化チタン、チタン、又はTiOと表記する)の複合成型体を人工的に製造する方法に関し、しかも特定の構成成分比のセルロース/酸化チタン複合体中で、セルロースと酸化チタンが特異的相互作用をし、たとえば、紫外線に対して、その吸光度が上昇したり、その分解開始温度が低下するなど、産業上有用なセルロースとチタン系無機物との複合成型体を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子材料に微粒子の酸化チタンを配合した高分子/チタン複合体は良く知られているが、チタン配合の目的が、高分子材料のつや消しや、紫外線透過防止であり、高分子/チタンが相互作用し、複合化して、何らかの特殊機能を有するものが、工業的に展開された例はない。
つや消しや、紫外線透過防止の例としては、レーヨンやポリエステルの繊維に酸化チタン微粒子を練りこんだものがある。
これらの例において、高分子とチタンは殆ど相互作用することはなく、単にポリマーマトリックス中に、チタンが微分散されているに過ぎない。またポリマーに対するチタンの含有量は、実質的にせいぜい3%未満であり、それ以上含有させると、均一に分散させることが困難であり、また成型する際、例えば繊維状に成型する場合であれば、糸がたたない等の問題を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、セルロースとチタンを、過大なエネルギーを費やすことなく、両者を相互作用しながら複合化させ、且つ、有用な成型体に成型する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、セルロースとある種の相互作用を通して複合化される方法として、セルロースの銅アンモニア溶液を用いることを見出し、加えて、セルロースの銅アンモニア溶液に、セルロースに対し、数%以上の酸化チタンを配合するためには、カチオン性ポリマーを用いることが有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
具体的には、本発明は以下の通りである。
(1)セルロースと酸化チタンからなり、セルロースに対する酸化チタンの重量が、3〜100wt%であることを特徴とする複合成型体。
(2)セルロースが酸化チタンの共存により、紫外線に対し、波長330nmにおける吸光度が0.2以上であることを特徴とする上記(1)に記載の複合成型体。
(3) 複合成型体の形状が、繊維状、中空糸状、膜状、棒状、又は粒子状であることを特徴とする、上記(1)または(2)のいずれかに記載の複合成型体。
(4) 酸化チタンの微粒子およびカチオン性ポリマーをセルロースの銅アンモニア溶液に分散させた混合溶液を、口金またはダイより押し出し、凝固、再生、水洗、乾燥処理してなることを特徴とする上記(1)に記載の複合成型体の製造方法。
(5) 上記凝固、再生、水洗、乾燥処理のいずれかの処理前に、有機溶媒で処理することを特徴とする上記(4)記載の複合成型体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るセルロース/チタン複合成型体は、紫外線に対する吸収性が良好であり、紫外線吸収特性を有する構造材料としての利用において好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下に詳述する。
セルロースを溶解する溶媒は多数知られている。工業的に確立されている溶解方法は、いわゆるビスコース法(CS/苛性ソーダ)、銅アンモニア溶液法、N−メチルモノホリン−N−オキシド(NMMO)/水系溶媒法である。この他にも、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム溶液、ハロゲン化炭化水素/アミン溶液、有機溶媒/四酸化ニ窒素溶液、ジメチルスルホキサイド/パラホルムアルデヒド溶液など枚挙に暇が無い。
【0008】
しかし、現在、工業的に利用されていない溶解系は、セルロース溶解自体に長時間を要したり、毒ガスの発生など問題が多く、また、原理的にもセルロースとチタン系粒子が相互作用を通して複合化されるとは考えにくい。
また、工業的に利用されているN−メチルモルホリン−N−オキサイド(NMMO)/水溶液の場合、粘性が高く、分散させづらく、加えてアミンオキシドのアミンのプラス荷電をチタン表面のマイナス荷電が中和し、セルロース溶解そのものを損なう。
また、ビスコース(CS/苛性ソーダ)法では、セルロースは完全に分子分散して溶解していないため、不安定であるばかりか、ザンテートの置換部は、チタン表面のマイナス電荷と反発しあい、有効な相互作用を起こし得ない。
【0009】
そこで、鋭意検討の結果、本発明に有効に利用できるのは、セルロース銅アンモニア溶液であることを見出した。
これは、本発明に用いる酸化ケイ素が、銅アンモニア溶液と親和性が高く、そのセルロース銅アンモニア溶液中のセルロース分子とは、銅アンモニア錯体を通して、ある種の相互作用を引き起こし、任意の割合で、均一に分散または溶解するためである。
またセルロース銅アンモニア溶液中のセルロースは、化学量論的に銅アンモニアと錯体を形成して溶解しているため、完全に分子分散して溶解しており、本目的のために好適である。
【0010】
得られた酸化チタンが分散または溶解されたセルロース銅アンモニア溶液は、通常の方法で、押出し、凝固、再生(中和)、水洗、乾燥すれば、繊維状、膜状、中空糸状、棒状、粒子状に成型できる。
凝固浴としては、水、アルカリ水溶液、酸溶液、塩水溶液が使用できる。凝固セルロースを強固な凝集体として得たい場合は、アルカリ凝固が良い。
また、多孔体として凝集させたい場合は、水、酸水溶液、塩水溶液が利用できる。
他方、押し出し後、操作過程のどこかの段階で、疎水性や親水性の有機溶媒で処理する過程を加えても良い。
【0011】
例えば、酸化チタンが分散されたまたは溶解されたセルロース銅アンモニア溶液を押し出し後、アンモニアを部分蒸散させた後に、有機溶媒で処理しても良く、また、押し出し後、アルカリや水で凝固して、青色ゲル膜した後、処理しても良い。いずれにしても、最終的には、酸での中和後、水洗、乾燥工程が必要である。勿論、水洗工程の後(乾燥工程の前)に、有機溶媒で処理しても良い。
水と親和する有機溶媒は、水溶系として用いても良い。特に、疎水性溶媒は、得られる複合体のモルフォロジーだけではなく、セルロース部分の面配向性を制御させ得る(参考文献:K.Sato, H.Mochizuki, K.Okajima, C.Yamane, Polymer Journal Vol.36, No.6, pp.478-482(2004))
【0012】
本発明の複合成型体は、セルロースと酸化チタンからなり、セルロースに対する酸化チ
タンの重量比が3〜100wt%であることが必要である。より好ましくは、3〜50wt%、更に好ましくは5〜35wt%の範囲である。
セルロースに対し酸化チタンが3wt%未満では優れた紫外線吸収性を付与できない。一方、100%より多いと、複合成型体の強度が不足する傾向にある。
特に、最も好ましい範囲である、セルロースのグルコース1残基に対し、0.1〜0.7残基の酸化チタンからなる複合体(セルロースに対し酸化チタンが5〜35wt%)は、特異的に相互作用し、複合体の紫外線領域での吸光度などの点で有用な複合体を形成する。
用いるセルロースの銅アンモニア溶液中のセルロース濃度は、セルロースの重合度にもより、限定的ではないが、通常、工業的に入手可能な、重合度800程度のセルロースの場合は、10wt%程度以下、粘度で200Pa・s(2000ポイズ)程度以下である。当然、使用するセルロースの重合度が増減する場合は、溶液粘度200Pa・s(2000ポイズ)を目安に、調整すれば良い。
【0013】
セルロース濃度の加減は、商業生産性を考慮して、決定されるべきものであるが、チタンとの複合体溶液中の存在比率が1wt%以上ないと、経済性を損なう。本来セルロースの銅アンモニア溶液をキャステンングなどの後、凝固操作をすると、キャスティングするセルロース濃度vが、vより低い場合、高分子濃厚相が核として発生し、セルロース粒子が成長し、網目を形成し、孔を形成する。その逆の場合は、高分子希薄相が核として発生し、そのまま円形孔となる(参考文献:飯島秀樹、上出健二、表面、32巻、No.1,p20(1994)、「高分子膜のキャラクタリゼションと膜の構造形成」)。このことは、セルロース/チタン複合体溶液にも、略略適応できるため、どちらの構造を得たいかによって、セルロース濃度を決定すればよい。
本発明における複合成型体は、紫外線の吸収特性が優れ、波長330nmにおける吸光度は、0.2以上であり、より好ましくは0.3以上である。また、波長360nmにおける吸光度は、0.15以上であり、より好ましくは0.2以上である。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例にて説明する。
本発明で実施した各測定は、下記の方法を用いた。
(1)吸光度:分光光度計(島津製作所製:UV2000)を用いて測定した。
(2)分解温度:差動型示差熱天秤(Rigaku製:TG−DTA)を用いて測定した。
【0015】
(実施例1〜3および比較例1〜5)
セルロース10wt%、NH6.5wt%、Cu3.6wt%を含むセルロースの銅アンモニア溶液(残りは殆ど水)に、0.7重量%カチオン性ポリマーを含む、アナターゼ型酸化チタン混濁液(チタン濃度:33.3%)を混合して、表1の組成となるように調整した。
これら各種チタン含量の混合調整液を、硫酸(2wt%/30℃)中にシリンジを用いて、一定のペースで押し出し、中和・再生後、水洗、乾燥して繊維状のサンプルを得た。
ここで、複合成型体の形状は、繊維状に限定されるわけではなく、例えば、膜状の成型体を得る場合には、チタン含有調整液を、ドクターブレード等を用いて、基板上に任意の塗工厚で塗布し、硫酸処理などを実施すれば良い。また、粒子状の成型体を得る場合には、チタン含有調整液を、スプレー等を用いて微細化し、硫酸処理などを実施すれば良い。同様にして、中空糸状、棒状の複合成型体も得られる。
【0016】
得られた複合体を、分光光度計で測定し、これより得られた波長と複合体の吸光度との関係を図1に記載する。セルロースに対するチタンの重量比が5〜30wt%の条件 (実施例1〜3)では、波長400nm以下の領域において、セルロース単独と比べて、吸
光度が大きく変化している。
図2に、波長330、360nmにおける各複合体の吸光度を記載する。チタン含有量の少ない比較例1から4では吸光度の変化は見られないが、含有量の多い実施例1から3では吸光度が大きく上昇した。特に330nmにおける実施例2および3、360nmにおける実施例3については、比較例5の酸化チタンそのものよりも高い吸光度を示した。
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のセルロース/チタン系無機物複合成型体の製造方法は、セルロースとチタンを、過大なエネルギーを費やすことなく、両者を相互作用しながら複合化させ、且つ、有用な成型体に成型することにおいて、好適に利用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】各種セルロース/チタン複合体の紫外可視吸収分光測定結果を示す図である。
【図2】波長330nmおよび360nmにおける、各種セルロース/チタン複合体の吸光度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースと酸化チタンからなり、セルロースに対する酸化チタンの重量が3〜100wt%であることを特徴とする複合成型体。
【請求項2】
セルロースが酸化チタンの共存により、紫外線に対し、波長330nmにおける吸光度が0.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合成型体。
【請求項3】
複合成型体の形状が、繊維状、中空糸状、膜状、棒状、又は粒子状であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の複合成型体。
【請求項4】
酸化チタンの微粒子およびカチオン性ポリマーをセルロースの銅アンモニア溶液に分散させた混合溶液を、口金またはダイより押し出し、凝固、再生、水洗、乾燥処理してなることを特徴とする請求項1に記載の複合成型体の製造方法。
【請求項5】
上記凝固、再生、水洗、乾燥処理のいずれかの処理前に、有機溶媒で処理することを特徴とする請求項4記載の複合成型体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−19069(P2009−19069A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180721(P2007−180721)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】