説明

セレン含有水の処理方法および処理装置

【課題】排水中に含まれるセレンの還元効果に優れ、セレンの分離除去効果に優れた処理方法および処理装置を提供する。
【解決手段】亜硫酸ガスを含む高温ガス中に、セレン含有水を噴霧し、水中に含まれる6価セレンを4価セレンまたは金属セレンまで還元することを特徴するセレン含有水処理方法であって、好ましくは、硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガスを用い、排ガス中の亜硫酸ガス濃度が0.1%以上であり、ガス温度が200℃以上であるセレン含有水処理方法および処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中に含まれるセレンの還元効果に優れ、セレンの分離除去効果に優れた処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中に含まれるセレンには、溶解性の亜セレン酸[SeO32-(IV)]、およびセレン酸[SeO42-(VI)]とがある。4価セレンの処理方法としては、含セレン廃水に第一鉄塩および銅塩を添加してセレンを水酸化第二鉄と共沈させる方法が知られている(特公昭48−30558号公報)。しかし、排水中に6価セレン[SeO42-(VI)]が共存するとセレンの除去効率が低く、セレンを効率よく除去するには6価セレンを4価セレンに還元することが必要である。
【0003】
この還元方法として、脱硫排水中に亜硫酸ガスを吹き込んで排水中のSeO42-(6価セレン)をSeO32-(4価セレン)に還元する方法が知られており、還元した4価セレンを含む脱硫排ガス中にCa(OH)2を加えてセレンをカルシウム塩として析出させる処理方法が知られている(特願平9−66287号公報)。
【特許文献1】特公昭48−30558号公報
【特許文献2】特願平9−66287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、脱硫排水中に亜硫酸ガスを吹き込んでセレンを還元する方法では、亜硫酸ガス(SO2)ガスの濃度が500〜1000ppmと低いので、反応を促進させるために排水中のSeO42-(6価セレン)濃度を高くする必要があり、排水の前処理が煩わしいと云う問題があった。
【0005】
本発明は、従来の排水中に亜硫酸ガスを吹き込む方法に代えて、高温高濃度の亜硫酸ガス中にセレン含有排水を噴霧すると云う従来とは正反対の方法によって、従来の上記問題を解決したものであり、希薄な6価セレンを含む排水でも、排水中の6価セレンを効率よく還元することができる方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決したセレン含有水の処理方法および処理装置である。
(1)亜硫酸ガスを含む高温ガス中に、セレン含有水を噴霧し、水中に含まれる6価セレンを4価セレンまたは金属セレンまで還元することを特徴するセレン含有水処理方法。
(2)亜硫酸ガスを含む高温ガスとして、硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガスであって、排ガス中の亜硫酸ガス濃度が0.1%以上である排ガス用いる上記(1)に記載のセレン含有水処理方法。
(3)亜硫酸ガスを含む高温ガスのガス温度が200℃以上である上記(1)または上記(2)に記載のセレン含有水処理方法。
(4)亜硫酸ガス濃度0.1%以上の高温ガス1Nm3当たりのセレン含有水の噴霧量が0.3kg以下である上記(1)〜上記(3)の何れかに記載するセレン含有水処理方法。
(5)硫化鉱を原料とする製錬排ガスを通じる廃熱回収ボイラーの出口に接続したセレン含有水の噴霧手段、セレン含有水を噴霧した製錬排ガスの洗浄装置に接続した洗浄排水処理設備を有することを特徴とするセレン含有排水の処理装置。
(6)硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガス処理設備に付設されたれた上記(5)に記載するセレン含有排水の処理装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の処理方法によれば、高温高濃度の亜硫酸ガス中にセレン含有排水を噴霧することによって、希薄な6価セレンを含む排水でも、排水中の6価セレンを効率よく還元することができる。従って、本発明の処理方法によれば、従来の設備では分離することが難しかったセレン濃度が希薄な排水に対しても効率よくセレンを還元し、分離除去することができる。
【0008】
また、本発明の処理方法は、高温高濃度の亜硫酸ガス中にセレン含有排水を噴霧するので、複雑な設備を必要とせず、実施が容易であり、例えば、製錬排ガスの処理設備に付設することによって容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。なお、説明中、%は特に示さない限り質量%である。
本発明の処理方法は、亜硫酸ガスを含む高温ガス中に、セレン含有水を噴霧し、水中に含まれる6価セレンを4価セレンまたは金属セレンまで還元することを特徴するセレン含有水処理方法である。
【0010】
先に述べたように、従来は、排水中に亜硫酸ガスを吹き込んで排水中のセレンを還元する方法が知られているが、この方法では亜硫酸ガス濃度が低く、排水中のセレンを十分に還元することが難しいが、本発明の処理方法は、従来の方法とは逆に、亜硫酸ガスを含む高温ガス中にセレン含有水を噴霧するので、セレンに対して亜硫酸ガス濃度が相対的に高くなり、セレン濃度が希薄な排水についても効率よくセレンを還元して分離除去することができる。
【0011】
亜硫酸ガスを含む高温ガスとして、硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガスを用いることができる。該排ガスは硫化鉱の酸化によって生じる亜硫酸ガスが概ね10〜40%含まれており、これを上記亜硫酸含有ガスとして利用すると良い。該排ガスに含まれる亜硫酸ガスの濃度は0.1%以上が好ましい。後述するように、排ガス中の亜硫酸ガス濃度が0.1%程度であれば、排水中のセレン酸イオン(6価セレン)が希薄でも、これを亜セレン酸(4価セレン)に還元することができる。
【0012】
亜硫酸ガスを含む高温ガスのガス温度は200℃以上が好ましい。200℃以上のガス温度のとき、水滴中で生成した金属セレンは全量がSe2の形態で揮発するので、揮発した金属セレンを、例えば上記排ガスに由来するHg蒸気と反応させてセレン化水銀(HgSe)として固定させ、分離回収することができる。硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガスは一般に1000℃を上回る高温であり、この排ガスから廃熱を回収した後の排ガス温度は概ね350℃〜550℃であるので、廃熱回収後の排ガスを利用すると良い。
【0013】
亜硫酸ガス濃度が0.1%以上の高温ガス1Nm3当たり、セレン含有水の噴霧量は0.3kg以下が適当である。噴霧量がこれよりも多すぎるとガス中に含まれる水分の増加に伴い、酸露点が上昇するため、設備の腐食の問題が発生する。
【0014】
亜硫酸ガスを含む高温ガス中に噴霧された水中の6価セレンは大部分が4価セレンまたは金属セレンまで還元される。高温下で金属セレンは揮発し、排ガス中のHg蒸気と反応してセレン化水銀(HgSe)を生じ、これはガス洗浄工程で捕集することができる。また、噴霧した水滴に含まれているセレン酸イオンは排ガス中のNaと反応し、水滴が蒸発すると乾固してNa2SeO4結晶を生成する。同様に、亜セレン酸からはNa2SeO3結晶が生成する。これらの塩はガス中のSO2によって容易に分解され、セレンは概ね全量がSeO2になる。SeO2はガス洗浄工程で捕集されて、分離回収される。
【0015】
本発明のセレン処理方法を実施する装置構成を図1に示す。
図示する処理装置は、製錬炉から排出される排ガスの処理設備に本発明のセレン処理設備を付設した構成を示したものである。図示する製錬排ガスの処理設備には、硫化鉱を原料とする非鉄製錬炉1に廃熱回収ボイラー2が接続しており、該廃熱回収ボイラー2に電気集塵機3、中継ブロワー4、およびガス洗浄装置5が接続している。さらにガス洗浄装置5にはガス吸引ブロワー6、転化器7、SO3吸収塔8、脱硫設備9が接続しており、脱硫設備9から排出されたガスは煙突10を通じて大気に放出される。
【0016】
本発明のセレン処理設備は、廃熱回収ボイラー2の出口に接続したセレン含有水の噴霧手段20、上記ガス洗浄装置5に接続した洗浄排水処理設備22を有する。上記噴霧手段20にはセレン含有水を供給する管路21が接続しており、洗浄排水処理設備22に排水管路23が接続している。上記噴霧手段20はセレン含有水を圧縮してノズルから噴出させるものであれば良い。洗浄排水処理設備22には、亜セレン酸塩(4価)の分離手段、HgSeの分離手段、一部残留するセレン酸ナトリウム(Na2SeO4)結晶、亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)結晶の分離手段、例えばシックナーなどが設けられている。
【0017】
非鉄製錬炉1において発生した排ガスは1000℃を超える高温であり、亜硫酸ガスを10〜40%含む。この排ガスは熱エネルギーを回収するため廃熱回収ボイラー2に導入され、ここで熱回収される。廃熱回収ボイラー出口でのガス温度は概ね350℃〜550℃である。この廃熱回収ボイラー出口の排ガスに、噴霧手段20および供給管路21を通じてセレン含有水が噴霧される。セレン含有水を含む排ガスは電気集塵機3で除塵された後、中継ブロワー4を経て、ガス洗浄装置5で冷却洗浄される。
【0018】
ガス洗浄装置5において、排ガス中に含まれるセレン化水銀(HgSe)、SeO2、および、一部残留するセレン酸ナトリウム(Na2SeO4)結晶、亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)結晶が捕集されて分離回収され、洗浄排水は処理設備22に送られる。
【0019】
一方、ガス洗浄装置5から排出されたガスは、ガス吸引ブロワー6に吸引されて転化器7に導入され、ガス中に含まれる亜硫酸ガスは転化器7で酸化されてSO3になる。このSO3を含む排ガスは吸収塔8に導入され、ここでSO3は水に吸収され硫酸となる。引き続き排ガスは脱硫設備9に導入され、吸収されなかった亜硫酸ガスは脱硫設備9で脱硫され、脱硫した排ガスが大気に放出される。
【実施例】
【0020】
セレン含有水を廃熱回収ボイラー2の出口で排ガス中に噴霧した場合について以下に示す。ボイラー2の出口で噴霧されたセレン含有水は排ガスからSO2を吸収して亜硫酸酸性を呈する。噴霧した水滴に含まれるセレンは以下の式(1)〜(3)に従って反応し、セレン酸は亜セレン酸を経て金属セレンに還元される。
【0021】
SeO42-+4H+ +2e = H2SeO3+H2O (E°/V=1.15) (1)
2SeO3+4H+ +4e= Se + 3H2O (E°/V=0.74) (2)
HSO4-+ 3H+ + 2e = SO2+ 2H2O (E°/V=−0.097) (3)
反応(1)および(2)によるセレン酸および亜セレン酸の還元はセレン濃度が希薄であっても生じる。例えば、反応(1)と反応(3)を総括してセレン酸の還元条件を求めると、図2が得られる。図2に示すように、SO2含有ガス中のSO2濃度が0.1%のとき、pH=2の水滴に含まれるセレン酸イオンは1ppmを18桁も下回る希薄濃度であっても亜セレン酸に還元される(図2の○印)。すなわち、非鉄製錬炉1の排ガス中に含まれる25%のSO2がリークエアーで希釈されて10%SO2になったとしても、pH=2の水滴に含まれるセレン酸イオンは1ppmを20桁も下回る希薄濃度であっても亜セレン酸に還元される。亜セレン酸は、引き続き、反応(2)と(3)によって金属セレンに還元される。
【0022】
次に、水滴中で生成した金属SeはSe2の形態で揮発する。排ガス中の金属Seが呈するSe2蒸気圧を図3に実線で示す。図3に示すように、平均6.84ppm濃度のSeを含有する水を毎時3トン、ガス温度200℃以上の排ガスに噴霧して、Seを全量揮発させた場合、代表的な銅製錬炉ボイラー出口ガスのSe2分圧は10-7atmとなる。揮発したSe2を含む排ガスはガス洗浄装置5に送られる。ガス洗浄装置5に送られたSe2含有ガスは、式(4)に示すように、非鉄製錬炉1の排ガスに由来するHg蒸気と反応し、HgSeとして固定される。HgSeはガス洗浄装置5で捕集され、排水処理設備のシックナーで排水から分離回収される。
【0023】
1/2Se2+Hg=HgSe (4)
一方、式(1)および(2)に示す反応が遅く、水滴が蒸発するまでに反応が十分進まなかった場合、水滴が蒸発すると、セレン酸イオンが残り、これが乾固してNa2SeO4結晶が生成する。同様に、亜セレン酸からはNa2SeO3結晶が生成する。これらの塩はガス中のSO2によって容易に分解され、セレンは概ね全量がSeO2になる。
【0024】
Na2SeO4のインプットを0.7mol/h(18.3ppmSe6+を含有する工水3トン分)として、これがボイラ出口ガスと平衡した場合の反応生成物を図4に示す。Na2SeO4は完全に分解されてSeO2(g)となり、この状態でガス洗浄装置5に送られる。Na2SeO4の分解は排ガス中に含まれるソーダとSOXガスとの強い親和力によって、安定なNa2SO4が生成することに由来する。SeO2ガスはガス洗浄装置5で洗浄液に溶解し、一部が金属セレンに還元された後、排水処理設備で金属セレンおよび種々の形態の不溶性亜セレン酸塩(4価)として排水から分離される。なお、硫酸ベンチュリーで上記反応式(2)と(3)の総括反応が進むので、金属セレンが生成する。
【0025】
〔実施例1〕
非鉄製錬炉の廃熱回収ボイラー出口の排ガス(SO2濃度20%、温度550℃、600Nm3/min)中に、6価セレンを7ppm含むセレン含有水を3トン/時の流量で噴霧し、セレンの還元処理を行った。ガス洗浄装置の洗浄排水から金属態Se(金属Se、HgSe)、亜セレン酸塩、およびセレン酸塩を分離し、洗浄排水中の6価セレン濃度を測定した。この結果を表1に示した。
【0026】
〔比較例1〕
実施例1と同様の排ガスを600Nm3/minの割合で実施例1と同様のセレン含有排水(25m3/時)に吹き込み、セレンの還元処理を行った。処理後の排水中に含まれる6価セレンの濃度を測定した。この結果を表1に示した。
【0027】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る処理設備の概略図
【図2】亜硫酸ガス分圧とセレン酸濃度の関係を示すグラフ
【図3】ガス温度と金属セレン蒸気圧の関係を示すグラフ
【図4】ガス温度と生成物の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0029】
1−非鉄製錬炉、2−廃熱回収ボイラー、3−電気集塵機、4−中継ブロワー、5−ガス洗浄装置、6−ガス吸引ブロワー、7−転化器、8−SO3吸収塔、9−脱硫設備、10−煙突、20−セレン含有水噴霧手段、21−供給管路、22−洗浄排水処理設備、23−排水管路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸ガスを含む高温ガス中に、セレン含有水を噴霧し、水中に含まれる6価セレンを4価セレンまたは金属セレンまで還元することを特徴するセレン含有水処理方法。
【請求項2】
亜硫酸ガスを含む高温ガスとして、硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガスであって、排ガス中の亜硫酸ガス濃度が0.1%以上である排ガス用いる請求項1に記載のセレン含有水処理方法。
【請求項3】
亜硫酸ガスを含む高温ガスのガス温度が200℃以上である請求項1または請求項2に記載のセレン含有水処理方法。
【請求項4】
亜硫酸ガス濃度0.1%以上の高温ガス1Nm3当たりのセレン含有水の噴霧量が0.3kg以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載するセレン含有水処理方法。
【請求項5】
硫化鉱を原料とする製錬排ガスを通じる廃熱回収ボイラーの出口に接続したセレン含有水の噴霧手段、セレン含有水を噴霧した製錬排ガスの洗浄装置に接続した洗浄排水処理設備を有することを特徴とするセレン含有排水の処理装置。
【請求項6】
硫化鉱を原料とする製錬炉の排ガス処理設備に付設されたれた請求項5に記載するセレン含有排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−110279(P2008−110279A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293369(P2006−293369)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】