説明

センサからの情報によりオン・オフ制御を行うイオントフォレーシス装置

【課題】 生体の状態に応じて薬剤投与のオン・オフ制御を迅速かつ適切に制御することを可能とするイオントフォレーシス装置を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るイオントフォレーシス装置は、電源装置と、前記電源装置に接続された、イオントフォレーシスによりイオン性薬剤を放出し生体に経皮的に投与するための第1電極構造体と、この第1電極構造体の対電極としての第2電極構造体とを備えたイオントフォレーシス装置において、薬剤を投与する対象である生体に設置されたセンサからの情報に基づいて前記電源装置を駆動することによって薬剤放出のオン・オフを制御するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレーシス(iontophoresis)によって各種イオン性薬剤を経皮的に投与する技術(経皮ドラッグデリバリー)に関し、特に、生体に設置されたセンサからの情報に基づいて薬剤放出のオン・オフ制御を行うようにしたイオントフォレーシス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の所定部位の皮膚ないし粘膜(以下、単に「皮膚」という)の表面上に配置されたイオン性薬剤に対してこのイオン性薬剤を駆動させる起電力を皮膚に与えて、薬剤を皮膚を介して体内に導入(浸透)させる方法は、イオントフォレーシス(iontophoresis、イオントフォレーゼ、イオン導入法、イオン浸透療法)と呼ばれている(特許文献1等参照)。
【0003】
たとえば、正電荷をもつイオンは、イオントフォレーシス装置の電気系統のアノード(陽極)側において皮膚内に駆動(輸送)される。一方、負電荷をもつイオンは、イオントフォレーシス装置の電気系統のカソード(陰極)側において皮膚内に駆動(輸送)される。
【0004】
上記のようなイオントフォレーシス装置としては従来多くの提案がなされている(たとえば、特許文献1〜7参照)。
【0005】
上述したような従来のイオントフォレーシス装置においては、生体に投与しようとする薬剤の投与を開始/続行するかあるいは停止するかは、一般に、事前の処方箋による指示、あるいは施薬者等の判断に従って行われている。
【0006】
しかしながら、たとえば症状緩和のための薬剤投与の場合、効果が出たと判断される時点で停止し、あるいは効果が消失したと判断される時点で薬剤投与を開始する必要があり、これを継続的に本人を含む施薬者等の判断で行うことは煩雑であり、また生体の状態・症状に応じた正確なオン・オフ制御は困難である。
【0007】
したがって、薬剤投与のオン・オフを正確かつ適切に制御することは、過剰投与や過少投与を防止する上でも重要である。また、特に長時間にわたってイオントフォレーシスによって薬剤投与を行う必要がある場合にあっては、人為的にこれを制御することが困難な場合もあり、身体の状態の変化に対して迅速かつ適切に対処することも重要な課題である。
【特許文献1】特開昭63−35266号
【特許文献2】特開平4−297277号
【特許文献3】特開2000−229128号
【特許文献4】特開2000−229129号
【特許文献5】特開2000−237327号
【特許文献6】特開2000−237328号
【特許文献7】国際公開WO03/037425A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、生体の状態に応じて薬剤投与のオン・オフ制御を迅速かつ適切に制御することを可能とするイオントフォレーシス装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係るイオントフォレーシス装置は、電源装置と、前記電源装置に接続された、イオントフォレーシスによりイオン性薬剤を放出し生体に経皮的に投与するための第1電極構造体と、この第1電極構造体の対電極としての第2電極構造体とを備えたイオントフォレーシス装置において、薬剤を投与する対象である生体に設置されたセンサからの情報に基づいて前記電源装置を駆動することによって薬剤放出のオン・オフを制御するようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明の好ましい態様においては、前記第1電極構造体が、イオン性薬剤の薬剤成分と同種の極性の電源装置に接続された第1電極と、前記第1電極に隣接して配置された電解液を含浸保持する第1電解液保持部と、前記第1電解液保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと反対のイオンを選択するイオン交換膜と、前記イオン交換膜に隣接して配置されたイオン性薬剤を含浸保持する薬剤保持部と、前記薬剤保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと同種のイオンを選択するイオン交換膜とからなり、前記第2電極構造体が、前記第1電極構造体の第1電極と反対の極性の第2電極と、前記第2電極に隣接して配置された電解液を含浸保持する第2電解液保持部と、前記第2電解液保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと反対のイオンを選択するイオン交換膜とからなる。
【0011】
また、本発明のイオントフォレーシス装置の可能な態様においては、前記センサが、薬剤を投与する対象である生体に設置される血糖値測定センサ、血圧計、体温計、水分計、呼気測定装置、脈拍計、および血流計からなる群から選ばれる。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によるイオントフォレーシス装置においては、薬剤を投与する対象である生体に設置されたセンサからのフィードバック情報に基づいて前記電源装置を駆動することによって薬剤放出のオン・オフを制御するようにしたので、生体の状態に応じて薬剤投与のオン・オフ制御を迅速かつ適切に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上述したように、本発明によるイオントフォレーシス装置は、電源装置と、前記電源装置に接続された、イオントフォレーシスによりイオン性薬剤を放出し生体に経皮的に投与するための第1電極構造体と、この第1電極構造体の対電極としての第2電極構造体とを備えたイオントフォレーシス装置において、薬剤を投与する対象である生体に設置されたセンサからの情報に基づいて前記電源装置を駆動することによって薬剤放出のオン・オフを制御するようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
以下、本発明を図面に例示した好ましい具体例に基づいて説明する。図1に示す態様は、本発明によるイオントフォレーシス装置は、皮膚6の表面に配置された状態を示すものであり、電源装置1と、前記電源装置2に接続された、第1電極構造体2と第2電極構造体3とを備えている。さらに、本発明のイオントフォレーシス装置においては、生体の特定部位に、センサ4が設置されており、センサ4からの情報は、制御回路部5において所定の処理がなされて電源装置1にフィードバックされて第1ないし第2電極構造体での作動のオン・オフを制御する。
【0015】
まず、センサ4が血糖値測定センサ(グルコセンサ)であり、投与する薬剤がインシュリンである場合を例にとって説明する。血糖値測定センサ4は、血中の血糖値を短時間で測定することができるセンサであり、無痛の微細針あるいは針を介さないで血糖値を測定する。この測定データは、制御回路部5に送られて所定のデータ処理がなされて電源装置1における作動のオン・オフを決めるフィードバック情報として使われ、その処理データに応じて第1電極構造体2からのインシュリン放出のオン・オフが制御される。
【0016】
また、センサ4が血圧センサであり、投与する薬剤が降圧剤である場合を例にとると、血圧計4から血圧値の情報が制御回路部5に送られ、予め設定された血圧値に達した時点で所定の制御処理により電源装置1における作動のオン・オフが決定され、その処理データに応じて第1電極構造体2からの降圧剤の放出のオン・オフが制御される。
【0017】
図2は、上述したような、センサからの情報に基づいてオン・オフ制御が行われるプロセスを具体的に示すブロック図である。本図に示すように、体内状態計測センサ10からの検知情報は、予め設定されたオン電圧設定値(Von)11ならびにオフ電圧設定値(Voff)12の値が比較回路13において比較されてオン・オフ情報が生成され、この情報がタイマ14を介してイオントフォレーシス制御電源部15に送られ、イオントフォレーシス装置16のオン・オフが制御される(トリガー制御)。この場合のタイマ14は、オン・オフの制御をさらに時間的に制御するための装置であり、たとえば血糖値が閾値を超えた場合においても、閾値の超過状態がたとえば5分間以上続かない限りオン動作に移行しないような制御に用いることができる。
【0018】
このような投与する薬剤に応じた生体からの有用情報を検知し測定するセンサとしては、上記のような血糖値センサや血圧計に限られるものではなく、イオントフォレーシスによって投与可能な薬剤に関連する多くのセンサを適用することが可能である。具体的には、上述したような血圧を測定する血圧計や血糖値センサの他に、心拍を計測する心拍計、脈拍を計測する脈拍計、体温計、水分計、呼気測定装置、血流計などが適用され得る。
【0019】
本発明のイオントフォレーシス装置の好ましい態様においては、上記第1電極構造体3が、イオン性薬剤の薬剤成分と同種の極性の電源装置に接続された第1電極と、この第1電極板に隣接して配置された電解液を含浸保持する第1電解液保持部と、第1電解液保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと反対のイオンを選択するイオン交換膜と、このイオン交換膜に隣接して配置されたイオン性薬剤を含浸保持する薬剤保持部と、薬剤保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと同種のイオンを選択するイオン交換膜とから構成することができる。このような電極構造体を具備するイオントフォレーシス装置の詳細については、前述した本出願人に係る国際公開WO03/037425A1明細書(特許文献7)に記載されている。
【0020】
一般的なイオントフォレーシス装置において、第1電極構造体は作用側電極構造体を構成し、第2電極構造体は非作用側電極構造体(グランド電極構造体)として構成される。しかしながら、態様によっては、両電極構造体において薬剤を放出できるように構成することもでき、本発明はこのような態様も包含する。
【0021】
電極構造体の電極としては、たとえば、炭素、白金のような導電性材料からなる不活性電極が好ましく用いられ得る。また、電解液保持部としては、電解液を含浸保持する特性を有する薄膜体で構成することができる。なお、この薄膜体は、後述するイオン性薬剤を含浸保持するための薬剤保持部に使用される材料と同種のものが使用可能である。
【0022】
電解液としては、適用する薬剤等の条件に応じて適宜所望のものが使用できるが、電極反応により生体の皮膚に障害を与えるものは回避すべきである。本発明において好適な電解液としては、生体の代謝回路において存在する有機酸やその塩は無害性という観点から好ましい。たとえば、乳酸、フマル酸などが好ましく、具体的には、1Mの乳酸と1Mのフマル酸ナトリウムの1:1比率の水溶液が好ましい。このような電解液は、水に対する溶解度が高く、電流をよく通すものであり、定電流で電流を流した場合、電気抵抗が低く電源装置におけるpHの変化も比較的小さいため好ましい。
【0023】
また、電極構造体に使用されるイオン交換膜としては、カチオン交換膜とアニオン交換膜を併用することが好ましい。さらに、薬剤保持部は、イオン性薬剤を含浸保持する薄膜体により構成される。このような薄膜体としては、イオン性薬剤を含浸し保持する能力が充分であり、所定の電場(電界)条件のもとで含浸保持したイオン性薬剤を皮膚側へ移行させる能力(イオン伝達性、イオン導電性)の能力が充分であることが重要である。通常、上述した構成のイオントフォレーシス装置における作動条件としては、以下の条件が採用される。
【0024】
(1)定電流条件、具体的には0.1〜0.5mA/cm、好ましくは0.1〜0.3mA/cm
(2)上記定電流を実現させかつ安全な電圧条件、具体的には50V以下、好ましくは30V以下、
という条件である。
【0025】
上記のような条件において良好な含浸保持特性と良好なイオン伝達性の双方を具備する材料としては、アクリル系樹脂のヒドロゲル体(アクリルヒドロゲル膜)、セグメント化ポリウレタン系ゲル膜、あるいはゲル状固体電解質形成用のイオン導電性多孔質シートなどを挙げることができる。
【0026】
イオントフォレーシスに適用されるイオン性薬剤の具体例としては、上述してインシュリンや降圧剤などの薬剤の他にも、麻酔剤(塩酸プロカイン、塩酸リドカインなど)など使用用途に応じて適宜選択される。
【0027】
上述したような各構成材料や作動条件の詳細については、本出願人に係る前記特許文献7に記載されており、本発明はこの文献に記載された内容を含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るイオントフォレーシス装置の概要を示す図。
【図2】本発明に係るイオントフォレーシス装置によるオン・オフ制御のプロセスを示す概念図。
【符号の説明】
【0029】
1 電源装置
2 第1電極構造体
3 第2電極構造体
4 センサ
5 制御回路部
6 皮膚(体表)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置と、前記電源装置に接続された、イオントフォレーシスによりイオン性薬剤を放出し生体に経皮的に投与するための第1電極構造体と、この第1電極構造体の対電極としての第2電極構造体とを備えたイオントフォレーシス装置において、
薬剤を投与する対象である生体に設置されたセンサからの情報に基づいて前記電源装置を駆動することによって薬剤放出のオン・オフを制御するようにしたことを特徴とする、イオントフォレーシス装置。
【請求項2】
前記第1電極構造体が、イオン性薬剤の薬剤成分と同種の極性の電源装置に接続された第1電極と、前記第1電極に隣接して配置された電解液を含浸保持する第1電解液保持部と、前記第1電解液保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと反対のイオンを選択するイオン交換膜と、前記イオン交換膜に隣接して配置されたイオン性薬剤を含浸保持する薬剤保持部と、前記薬剤保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと同種のイオンを選択するイオン交換膜とからなり、
前記第2電極構造体が、前記第1電極構造体の第1電極と反対の極性の第2電極と、前記第2電極に隣接して配置された電解液を含浸保持する第2電解液保持部と、前記第2電解液保持部に隣接して配置されたイオン性薬剤の帯電イオンと反対のイオンを選択するイオン交換膜とからなる、請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
前記センサが、薬剤を投与する対象である生体に設置される血糖値測定センサ、血圧計、体温計、水分計、呼気測定装置、脈拍計、および血流計からなる群から選ばれる、請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−345931(P2006−345931A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172655(P2005−172655)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】