説明

センサの製造方法およびセンサ

【課題】熱容量の小さい極細の細線形検出部を容易に加工することのできるセンサの製造方法を実現し、品質に優れた高応答のセンサを提供する。
【解決手段】導線11,12の一部に細線形検出部13を有するセンサを製造する方法であって、導線11,12の一部11a,12aが少なくとも特定の方向で導線11,12の残部11b,12bより小径となるように、導線11,12となる線状素材1,2を部分的に除去加工して細線形検出部13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの製造方法およびセンサに関し、特に細線化された検出部を有するセンサに好適なセンサの製造方法およびそのセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
広温度範囲に及ぶ温度変化を電気的に検知可能で機器への組み込みが容易なセンサとして、熱電対が知られている。この熱電対は、一般に、第1の導線の先端とその第1の導線とは材質の異なる第2の導線とを先端部同士で接合して測温部を構成し、この測温部の温度を熱電変換であるゼーベック効果(Seebeck effect)により両導線の基端部に生じる電位差として検出するようになっている。
【0003】
このように熱と電気を関連付ける効果や現象を利用するセンサにおいては、検出部が置かれる環境の温度変化に対して応答性が高度に要求されたり、微小な物体に対する測定や狭小な測定空間での検出・測定が要求されたりする場合があり、そのような場合には、細線化された検出部(以下、細線形検出部という)を有することが多い。
【0004】
この細線形検出部を有するセンサの製造方法としては、例えば第1の導線および第2の導線に線径12.5μm〜50μm程度の極細の熱電対線を用いるものや、第1の導線および第2の導線に線径100μm〜350μm程度の被覆熱電対線を用いるものがあり、さらに、第1の導線および第2の導線の基端側部分に線径200μmの熱電対線を用いながら、その先端側に第1の導線および第2の導線の先端側部分となる線径25μm〜50μmの極細熱電対線を溶接接合し、それら極細熱電対線の先端部を溶融圧延して円盤状の測温部を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−344178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようなセンサの製造方法および細線形検出部を有するセンサにあっては、第1の導線および第2の導線に線径12.5μm〜50μm程度の極細の熱電対線を用いる場合には、半導体等の微小な物体の温度測定に適するセンサが製造できるものの、測温部付近の導線が極細であるために製造工程中やセンサの使用時に断線し易いという問題があった。
【0007】
また、第1の導線および第2の導線に線径100μm〜350μm程度の被覆熱電対線を用いるセンサでは、導線の断線が生じ難くなるものの、そのセンサが微小な物体の温度測定に適当なものでなくなり、また、平面に近い表面の近傍の温度を測定する場合に、測温部と温度測定対象物体との接触面積が狭いために応答性や測定精度が低下してしまうという問題があった。
【0008】
さらに、第1の導線および第2の導線の基端側部分に線径200μmの熱電対線を用いながら、その先端側に第1の導線および第2の導線の先端側部分となる線径25μm〜50μmの極細熱電対線を溶接接合するものにあっては、それら極細熱電対線の先端部を溶融接合させて円盤状の測温部を形成していたため、測温部の熱容量を十分に小さくした熱電対を製造することができず、その温度応答性を高めることが困難であった。
【0009】
これに対し、極細熱電対線の線径をより小さくすることが考えられるが、測温部を形成するための溶接接合等の加工が困難になり、測温部の品質も安定しなくなるという問題が生じてしまうことから、好ましくない。
【0010】
そこで、本発明は、熱容量の小さい極細の細線形検出部を容易に加工することのできるセンサの製造方法を実現し、品質に優れた高応答のセンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るセンサの製造方法は、上記課題を解決するため、(1)導線の一部に細線形検出部を有するセンサを製造する方法であって、前記導線の一部が少なくとも特定の方向で前記導線の残部より厚さを減ずるように、前記導線となる線状素材を部分的に除去加工して前記細線形検出部を形成することを特徴とするものである。
【0012】
したがって、線状素材の強度や取扱いの容易な素材径を確保できるとともに、除去加工によって細線形検出部付近を容易に縮径させる等、その厚さを減ずることができ、熱容量の小さい細線形検出部を容易に加工することができる。その結果、熱容量の小さい極細の細線形検出部を有する高応答のセンサを高品質に提供することができる。
【0013】
本発明に係るセンサの製造方法は、好ましくは、(2)互いに材質が異なる異種の線状素材からなる第1の導線および第2の導線をそれぞれの一端側部分で接合して前記導線を構成した後、前記第1の導線の一端側部分および前記第2の導線の一端側部分が少なくとも特定の方向でそれぞれ前記線状素材のうち対応する線状素材より厚さを減ずるように、前記第1の導線および第2の導線の接合部を部分的に除去加工して前記細線形検出部を形成するものである。
【0014】
この方法により、異種の線状素材の一端側部分を互いに接合するときには細線形検出部近傍の強度や取扱いの容易な素材径を確保した状態で接合作業ができるとともに、除去加工によってその接合部分付近を縮径させることができ、熱容量の小さい細線形検出部を容易に加工することができる。その結果、熱容量の小さい極細の細線形検出部を有する高応答の熱電対等を高品質に提供することができる。
【0015】
本発明のセンサの製造方法においては、(3)前記細線形検出部が軸線方向の中央に位置する小径部となり該小径部分から離れるほど大径となるテーパ部とを有するように前記除去加工の深さを前記軸方向の位置に応じて変化させるのがよい。
【0016】
これにより、熱容量の小さい極細の細線形検出部を有しながらも耐久性に優れたセンサを製造することができる。
【0017】
また、(4)前記除去加工により前記細線形検出部に軸線と交差する方向の貫通穴を形成することもできる。この場合も、熱容量の小さい極細の細線形検出部を有しながらも耐久性に優れたセンサを製造することができる。
【0018】
さらに、(5)前記除去加工により、前記導線の一部を軸線と直交する第1の方向で前記導線の残部より厚さを減ずるように部分的に除去して除去加工面を形成するとともに、前記導線を前記除去加工面に対し直交する第2の方向に曲げ加工するのも好ましい。この場合、細線形検出部を除去加工面を曲げるように容易に曲げ加工できる。
【0019】
加えて、(6)前記除去加工により前記導線の一部を軸線と直交する第1の方向で前記導線の残部より厚さを減ずるように部分的に除去して除去加工面を形成するとともに、前記導線の一部を前記第1の方向とは異なる第2の方向で厚さを減じるよう部分的に除去加工して前記除去加工面が形成された前記導線の一部にくびれ部を形成し、前記導線を前記くびれ部で軸線に対し直交する方向に曲げ加工するのも好ましい。この場合、細線形検出部をくびれ部で容易に曲げ加工できる。
【0020】
また、(7)前記除去加工面が、前記導線の一部の軸線を挟んで対向する第1の除去加工面と第2の除去加工面を含むのが好ましい。これにより、細線形検出部を除去加工面を曲げる方向に容易に曲げ加工できるとともに、細線形検出部の強度を確保できる。
【0021】
本発明のセンサの製造方法においては、(8)前記除去加工を物理エッチングにより実行するのが好ましい。これにより、精度の良い除去加工が実行できる。なお、除去加工には、物理エッチングまたは化学エッチングが採用できるが、線状素材の残部や接合部に悪影響を及ぼすような攻撃性が少ない加工法によるのが好ましく、例えば微細加工用の集束イオンビーム法やイオンミリング法が好適な物理エッチングとして採用できる。
【0022】
なお、前記異種の線状素材の一端側部分を互いに接合する場合、その接合加工が、前記除去加工より先に完了することが好ましく、前記異種の線状素材の一端側部分を互いに接合した後に、該接合部分を部分的に除去する前記除去加工を実行して、前記細線形検出部を形成することがより好ましい。さらに、前記異種の線状素材のそれぞれの軸線に対し交差する方向のうち特定の方向にエッチング等を進行させる異方性の除去加工とすることができる。その場合、例えばイオンビーム等を照射して前記除去加工を実行することができ、そのイオンビーム等の照射方向に対し線状素材を特定の一定姿勢に保ち、あるいは、特定の複数の姿勢に切り替えて保持することで、細線形検出部近傍の細線化部分、すなわち第1の導線および第2の導線の一端側部分を非円形断面にする除去加工が可能であり、イオンビーム等の照射方向に対し線状素材を回転させることで、その細線形検出部近傍の細線化部分を円形断面にする除去加工が可能である。
【0023】
一方、本発明のセンサは、(9)互いに材質が異なる第1の導線および第2の導線を備え、前記第1の導線および第2の導線が、両導線を互いに一端側で接合して形成された細線形検出部と、両導線の他端側の非細線化部とを有するセンサであって、前記細線形検出部が、異種の線状素材の一端側部分を互いに接合するとともに、該接合部分を部分的に除去する除去加工を施して形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
この構成により、熱容量の小さい極細の細線形検出部を有する高応答の熱電対等を高品質に提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、強度が十分確保できかつ取扱いの容易な素材から除去加工によって径等の厚さを減じた細線形検出部を形成するようにしているので、熱容量の小さい細線形検出部を容易に加工することのできるセンサの製造方法を実現することができる。その結果、品質に優れた高応答のセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係るセンサの製造方法の概略工程説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るセンサの製造方法における細線形検出部付近の細線化工程の説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るセンサの製造方法における細線形検出部付近の細線化工程後のセンサの要部平面図である。
【図4】図4(A)は、図3中に示されるセンサの細線形検出部の端部側の部分拡大平面図、図4(B)は、図3中に示されるセンサの細線形検出部の中央部の部分拡大平面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るセンサの製造方法により製造した一実施例のセンサの温度応答性を比較例のセンサと比較して示すグラフである。
【図6】図6(A)、図6(B)、図6(C)および図6(D)は、本発明の第2〜第5実施形態に係るセンサの製造方法により製造したそれぞれのセンサの細線形検出部付近の細線化形状を示す部分拡大平面図である。
【図7】本発明の第6実施形態に係るセンサの製造方法により製造されたセンサの要部拡大斜視図である。
【図8】本発明の第7実施形態に係るセンサの製造方法により製造されたセンサの要部拡大斜視図である。
【図9】本発明の第7実施形態に係るセンサの製造方法における細線形検出部の曲げ加工前の状態を示すその要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
(第1実施形態)
図1〜図5は、本発明の第1実施形態に係るセンサの製造方法とその方法により製造したセンサを説明する図であり、本発明を温度センサである熱電対とその製造方法に適用した実施形態を示している。
【0029】
本実施形態のセンサの製造方法においては、図1に示すように、まず最初に、細線熱電対(以下、単に熱電対という)の溶接工程が実行され、次いで、その溶接部の細線化工程が実行されることで、センサとしての熱電対10が製造される。
【0030】
その溶接工程では、まず、互いに材質が異なる異種の円形断面の線状素材1,2が準備され、それら線状素材1,2がそれらの対向する一端側部分1a,2aを突き合わせた状態で溶接により接合される。なお、ここでの溶接の方法は、特に限定されず、細線熱電対の溶接に適した公知の各種の溶接方法が採用できる。
【0031】
異種の線状素材1,2は、熱電対10の+脚側となる第1の導線11と、熱電対10の−脚側となる第2の導線12とに対応しており、線状素材1は、例えばクロメルもしくはロジウム(Rh)を13%含む白金ロジウム(Pt・13%Rh)からなる。また、線状素材2は、例えばアルメルもしくは白金(Pt)からなる。すなわち、熱電対10は、例えばクロメル/アルメルからなるKタイプとして、もしくは、白金ロジウム/白金からなるRタイプとして製造される。なお、クロメルはニッケル(Ni)にクロム(Cr)を加えた合金であり、アルメルはニッケル(Ni)にアルミニウム(Al)を加えた合金である。
【0032】
溶接工程では、このように、互いに材質が異なる異種の線状素材からなる第1の導線11および第2の導線12をそれぞれの一端側部分11a,12aで接合して、熱電対10の導線を構成する。
【0033】
次の細線化工程では、第1の導線11の一端側部分11aが少なくとも特定の一方向で線状素材1,2のうち対応する線状素材1より小径となり(特定の一方向での厚さが小さくなる意;以下同様)、さらに、第2の導線12の一端側部分12aが少なくとも特定の一方向で線状素材1,2のうち対応する線状素材2より小径となるように、異種の線状素材1,2をそれぞれ部分的に除去して細線化する除去加工を実行する。なお、ここにいう特定の一方向とは、異種の線状素材1,2の長さ方向(軸線方向)と直交する方向のうち一方向である。
【0034】
細線化工程における除去加工は、線状素材1,2の残部(加工後に残る材料)や接合部に悪影響を及ぼすような攻撃性が少ない加工法によるもの、例えば物理エッチングを用いるものである。なお、除去加工は、化学エッチングによるものであってもよく、除去加工後の線状素材1,2の一端側部分1a,2aの接合部の形状、すなわち、第1の導線11および第2の導線12の接合部である測温部13(細線形検出部)の付近の細線化形状に応じて、等方性エッチングとしてもよいし、異方性エッチングとしてもよい。
【0035】
具体的には、除去加工は、例えば微細加工用の集束イオンビーム法もしくはイオンミリング法により実施できる。
【0036】
前者の集束イオンビーム法による場合、図2に示すように、電界レンズ22で集束させたガリウム(Ga)等のイオンビーム21を、接合済みの線状素材1,2の対向する一端側部分1a,2aの接合部付近に設定された照射部3,4にそれぞれ照射する。この除去加工では、イオンを電界で加速させたビームを細く絞った集束イオンビームによって微細加工を行うことができることから、線状素材1,2の直径が12.5μm〜50μm程度であったとしても、線状素材1,2の一端側部分1a,2aの接合部付近に対して照射部3,4での所望の深さの除去加工を行い、第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aの接合部である測温部13の近傍を、例えば2つの平行面を有する略小判形断面に細線化することができる。
【0037】
ここで、細線化した第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aの線径は、それぞれ少なくとも線材長さ方向と直交する一方向において、線状素材1,2の線径の80%以下とすることができる。また、照射部3,4の幅を適宜設定することで、除去加工の加工幅Wを任意の幅に、例えば細線径の2倍から1000倍程度に設定することができる。
【0038】
なお、集束イオンビーム法による場合、イオンビーム21の照射方向が一方向に固定されていれば、異種の線状素材1,2のそれぞれの軸線に対し交差する方向のうち特定の方向にのみエッチングが進行する異方性エッチングとすることができる。その場合、例えば一方向に向かうイオンビーム21の照射方向に対して線状素材1,2を特定の一定姿勢に保つことで、1つの平らな内底面を持つ凹状の除去加工を施すことができるし、線状素材1,2を特定の複数の姿勢に切り替えて保持することで、複数の平面を持つ凹状の除去加工を施すことができる。このような除去加工により、測温部13の近傍の細線化部分、すなわち第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aを非円形断面(例えば、小判形断面や多角形断面)に加工することができる。もっとも、イオンビーム21の照射方向に対し線状素材1,2を相対回転させるようにすれば、その測温部13の近傍の細線化部分を円形断面にする除去加工も可能である。
【0039】
後者のイオンミリング法による場合、線状素材1,2の照射部3,4以外の部分、すなわち、除去加工が不要な部分をマスキングするマスキング処理を予め行った上で、線状素材1,2に対し、アルゴン(Ar)等のイオンビームを照射し、マスキングされていない部分を所望の深さに精度良く除去することができる。したがって、この場合も、線状素材1,2の直径が12.5μm〜50μm程度であったとしても、線状素材1,2の接合部に対して照射部3,4での所望の深さの除去加工を行い、第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aの接合部である測温部13の近傍を精度良く細線化することができる。なお、この場合、マスキングしない照射部3,4を連続する単一の環状の除去部分として設定し、測温部13の付近を円形断面に細線化することもできる。
【0040】
いずれの除去加工方法を採用する場合であっても、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aを互いに接合する加工を、除去加工よりも先に完了させる必要があり、本実施形態では、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aを互いに溶接により接合した後に、その接合部分を部分的に除去する除去加工を実行して、熱電対10の測温部13を形成する。
【0041】
なお、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aの接合工程が完了する前に、その接合部分から離れた部分で除去加工工程を開始してもよいが、その除去加工工程中に、少なくとも接合部の一部を除去する加工が含まれる。また、ここにいう接合部分から離れた部分とは、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aが付き合わされたときに、その接合面上での中心側部分での溶接による接合がなされ、その周辺部では溶接による接合がなされない場合には、その周辺部を含み得る。
【0042】
このようにして、異種の線状素材1,2の接合部に対応する一端側部分11a,12aで加工幅Wにわたって細線化された第1の導線11および第2の導線12は、図3、図4(A)および図4(B)に示すように、細線化された測温部13を有する熱電対線となり、これら第1の導線11および第2の導線12が測温部13にて接合された熱電対10ができ上がる。
【0043】
すなわち、本実施形態の製造方法により製造される熱電対10は、互いに材質が異なる第1の導線11および第2の導線12を備え、これら熱電対線である第1の導線11および第2の導線12が、両導線11,12を一端側で接合して形成された測温部13と、両導線11,12の他端側の未加工部11b,12b(非細線化部)とを有するものとなる。そして、その測温部13は、上述のように、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aを互いに接合するとともに、その接合部分を照射部3,4で部分的に除去する除去加工を施したものとなっている。
【0044】
次に、作用について説明する。
【0045】
上述のような本実施形態のセンサの製造方法においては、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aを互いに溶接し接合する際には、その接合部近傍の線材強度や取扱いの容易な素材径を確保した状態で接合作業を行うことができる。したがって、線状素材1,2の変形を防止することができるとともに、その取扱いが容易になる。
【0046】
また、接合された線状素材1,2の一端側部分1a,2aを部分的に除去する除去加工に際しては、線状素材1,2の接合部付近のうち照射部3,4にイオンビーム等を照射することで、照射部3,4を容易にかつ精度良く除去加工でき、第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aの接合部である測温部13の近傍を、変形等の悪影響を招くことなく容易に所要の径寸法に縮径させることができる。
【0047】
このように、本実施形態のセンサの製造方法においては、異種の線状素材1,2の一端側部分1a,2aを互いに接合するときには線状素材1,2に必要な強度が確保できかつ取扱いの容易な素材径を確保した状態で接合作業が実行でき、除去加工によってその接合部付近を残部となる測温部13に悪影響を及ぼすことなく高精度に縮径させることができる。その結果、熱容量の小さい測温部を容易に加工することができるセンサの製造方法を実現することができ、品質に優れた高応答の熱電対10を提供することができることになる。
【0048】
ちなみに、図5は、第1実施形態の熱電対10を製造する際に、白金/白金ロジウム(Pt・13%Rh)の線状素材1,2を溶接により接合した熱電対線に対して、集束イオンビームによる除去加工を行ってRタイプの熱電対とした実施例と、白金/白金13%ロジウムの線状素材1,2を溶接により接合した熱電対線のまま除去加工を行わなかった比較例とについて、測定時間内に測温部13を置く測定対象域の温度を変化させて温度測定した試験結果を示している。なお、図5中のグラフの温度範囲は、0[°C]〜500[°C]、測定時間は、0[msec]〜30[msec]である。
【0049】
このグラフから明らかなように、除去加工により測温部13を極細化した一実施例の熱電対10は、線状素材1,2を溶接により接合した比較例に対して、全体的に変化のタイミングが早まり、かつ、温度変化の勾配がきつくなる側にずれており、比較例に対し十分に温度応答性が向上していることがわかる。
【0050】
(第2〜第5実施形態)
図6(A)〜図6(D)は、本発明の第2〜第5実施形態に係るセンサの製造方法により製造した熱電対の測温部付近の細線化形状をそれぞれ部分拡大図で示している。なお、以下に説明する各実施形態は、熱電対の測温部の細線化工程の一部を上述の第1実施形態とは異ならせたものであり、他の工程および測温部近傍以外の構成(線状素材を含む)は第1実施形態と同様であるので、同様な構成については図1、図2、図3、図4(A)および図4(B)中の対応する構成要素の符号を用い、以下、各実施形態の第1実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0051】
第2実施形態のセンサの製造方法においては、図6(A)に示すように、除去加工による細線化工程を実行する際に、第1の導線11および第2の導線12の測温部13の近傍を形成する一端側部分11a,12aと、他端側の未加工部11b,12bとの間に、第1の導線11および第2の導線12の軸線方向と直交する少なくとも一方向で、未加工部11b,12bに近付くほど徐々に大径になり、測温部13に近付くほど徐々に小径となるように除去加工を実行して、測温部13から離れるほど大径になる例えば略円錐状に傾斜したテーパ部11c,12cを形成するのと同時に、小径の一端側部分11a,12a(小径部)を形成する。
【0052】
この場合、第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aと他端側の未加工部11b,12bとの間に段差ができる第1実施形態に比べて、一端側部分11a,12aの付根付近における応力の低減を図ることができ、熱電対10の耐久性を向上させることができる。なお、ここでのテーパ部11c,12cは、略円弧状断面に湾曲したテーパ面11c,12cを有してもよい。
【0053】
第3実施形態のセンサの製造方法においては、図6(B)に示すように、除去加工による細線化工程を実行する際に、第2実施形態とほぼ同様に未加工部11b,12bに近付くほど徐々に大径になるように傾斜したテーパ部11c,12cを形成することに加えて、これらテーパ部11c,12cと第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aとの間、および、これらテーパ部11c,12cと第1の導線11および第2の導線12の他端側の未加工部11b,12bとの間に、それぞれ曲率半径Rでなだらかに湾曲する環状湾曲面11d,11eを形成する。
【0054】
この場合にも、第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aと他端側の未加工部11b,12bとの間に段差ができる第1実施形態に比べて、一端側部分11a,12aの付根付近における応力の低減を図ることができ、熱電対10の耐久性を向上させることができる。
【0055】
第4実施形態のセンサの製造方法においては、図6(C)に示すように、除去加工による細線化工程を実行する際に、第1の導線11および第2の導線12の測温部13の近傍を形成する一端側部分11a,12a自体に、第1の導線11および第2の導線12の軸線方向と直交する少なくとも一方向で、測温部13から離れるほど徐々に大径になる傾斜部13aを形成する除去加工を実行する。すなわち、除去加工により導線11,12の一端側部分11a,12aの一部をそれらの軸線と直交する第1の方向(図1中の上下方向)で残部より厚さを減ずるように部分的に除去して、略V字形断面の除去加工面である傾斜部13aを形成し、第1の導線11および第2の導線12の測温部13の近傍(導線の接合部)にくびれ部を形成する。なお、図6(C)においては、傾斜部13aが第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aの一部である測温部13の近傍領域のみに形成されているが、一端側部分11a,12aの広域に及んで形成されてもよい。
【0056】
この場合にも、一端側部分11a,12aの付根付近における応力の低減を図ることができ、熱電対10の耐久性を向上させることができる。しかも、測温部13の近傍の除去加工量が少なくて済み、測温部13の近傍の強度を高めることができる。なお、傾斜部13aは、測温部13の近傍の軸線を挟んで対向する一対の略V字形の除去加工面を有するものでもよいし、第1の方向以外の他方向についても一端側部分11a,12aの厚さが小さくなるよう、特定の方向測温部13の近傍の軸線を取り囲む2つの円錐面を有するテーパ部にしてもよい。
【0057】
第5実施形態のセンサの製造方法においては、図6(D)に示すように、第1の導線11および第2の導線12の一端側部分11a,12aに、測温部13の近傍においてそれら一端側部分11a,12aの軸線と交差、例えば直交する方向に貫通する穴13cを形成するように除去加工を実行する。この場合、穴13cは長方形断面の角穴としているが、円形、小判形、楕円形、たる形、つづみ形等の任意の断面形状に除去加工することができる。
【0058】
この場合、穴13cの側壁部分に働く応力を専ら引張りもしくは圧縮応力として曲げ応力を低減させることができ、熱電対10の耐久性を向上させることができる。しかも、測温部13の熱容量を非常に小さくすることができ、除去加工も1回で済ますことができる。
【0059】
これら第2〜第5実施形態においても、熱容量の小さい測温部13を容易に加工することができるセンサの製造方法を実現することができ、品質に優れた高応答の熱電対10を提供することができることになる。
【0060】
(第6実施形態)
図7に、本発明の第6実施形態に係るセンサの製造方法により製造された熱電対をその要部拡大斜視図で示している。
【0061】
本実施形態では、細線化工程において、第1の導線41の一端側部分41aがその軸線に対し直交し一端側部分41a,42aの接合面に対し略平行になる特定の一方向(第1の方向)で、第1の導線41の他端側の未加工部41bより小径(厚さが小さい意)となり、かつ、第2の導線42の一端側部分42aが第2の導線42の他端側の未加工部42bより小径となるように、異種の線状素材1,2をそれぞれ部分的に除去して細線化する除去加工を実行する。すなわち、除去加工により、導線となる異種の線状素材1,2の一部をそれらの軸線と直交する第1の方向でその導線の残部より厚さを減ずるように部分的に除去して、特定の一方向の両側に略平行な除去加工面41c,42cを有する一端側部分41a,42aを形成する。さらに、第1の導線41および第2の導線42からなる導線を除去加工面41c,42cに対し直交する第2の方向に曲げ加工する。
【0062】
ここでの除去加工は、第1実施形態と同様に、例えば微細加工用の集束イオンビームの方向を第1の導線41および第2の導線42の一端側部分41a,42aの軸線に対し直交し、かつ、一端側部分41a,42aの接合面に対し略平行になる特定の一方向に方向付けることで、容易に実施できる。
【0063】
この場合、第1の導線41および第2の導線42の一端側部分41a,42aの接合部である測温部43(細線形検出部)の近傍を、2つの平行な加工面を有する略小判形断面に細線化することができる。したがって、図7に示すように、第1の導線41および第2の導線42の一端側部分41a,42aを一面側で互いに接近させ、他面側で互いに離隔させるように、測温部43を中心にして加工面を略U字形に湾曲させる曲げ加工をすることができ、測温部43の位置決めを容易にしたり測温部43を小径の測温用の穴部や保護ケース等に容易に挿入することができる熱電対40を作製できる。
【0064】
本実施形態においても、熱容量の小さい測温部43を容易に加工することができるセンサの製造方法を実現することができ、熱電対40を品質に優れた高応答のセンサとして提供できることになる。
【0065】
(第7実施形態)
図8および図9に、本発明の第7実施形態に係るセンサの製造方法により製造された熱電対とその製造途中の要部を示している。
【0066】
本実施形態では、細線化工程において、第1の導線51の一端側部分51aがその軸線に対し直交し一端側部分51a,52aの接合面に対し略平行になる特定の一方向で、第1の導線51の他端側の未加工部51bより小径となり、かつ、第2の導線52の一端側部分52aが第2の導線52の他端側の未加工部52bより小径となるように、異種の線状素材1,2をそれぞれ部分的に除去して細線化する除去加工を実行する。
【0067】
ここでの除去加工は、第1実施形態と同様に、例えば微細加工用の集束イオンビームの方向を第1の導線51および第2の導線52の一端側部分51a,52aの軸線に対し直交し、かつ、一端側部分51a、52aの接合面に対し略平行になる特定の一方向に方向付けることで、容易に実施できる。
【0068】
本実施形態でも、第1の導線51および第2の導線52の一端側部分51a,52aの接合部である測温部53の近傍を、2つの平行な加工面を有する略小判形断面に細線化することができる。
【0069】
本実施形態では、さらに、この細線化工程において、図9に示すように、測温部53に略V字形状の切欠き53nを形成するように、第1の導線51および第2の導線52の一端側部分51a,52aにそれぞれ両者の接合面に対して同一の交差角θをなす切欠きを形成する。すなわち、本実施形態では、除去加工により第1の導線51および第2の導線52の一端側部分51a,52a(導線の一部)を軸線と直交する第1の方向で未加工部51b,52b(導線の残部)より厚さを減ずるように部分的に除去して各一対の除去加工面51c,52cを形成するとともに、第1の導線51および第2の導線52の一端側部分51a,52aの一部を第1の方向とは異なる第2の方向、例えば第1の方向と直交する第2の方向で厚さを減じるよう部分的に除去加工して、除去加工面51c,52cが形成された一端側部分51a,52aに切欠き53nに対応するくびれ部53mを形成する。そして、第1の導線51および第2の導線52を、そのくびれ部53mで軸線に対し直交する方向に曲げ加工する。
【0070】
したがって、細線化工程後に、図8に示すように、第1の導線51および第2の導線52の一端側部分51a,52aを加工面に沿う方向で測温部53を中心にして略U字形もしくは略V字形に曲げ加工する場合に、第1の導線51および第2の導線52の曲げ加工による屈曲位置をくびれ部53mとして曲げ加工後の測温部53に容易に一致させることができるとともに、測温部53の熱容量も小さくでき、良好な温度応答性を得ることのできる熱電対50を作製することができる。
【0071】
本実施形態においても、熱容量の小さい測温部53を容易に加工することができるセンサの製造方法を実現することができ、熱電対50を品質に優れた高応答のセンサとして提供できることになる。
【0072】
なお、上述の実施形態においては、細線形検出部を有するセンサを温度センサである熱電対としていたが、熱電対線でなく抵抗線その他を細線化した細線形検出部を有する他のセンサ、例えば熱線式の流速計や流量計等にも適用可能である。また、上述の実施形態において、熱電対10,40,50は、それぞれKタイプ(クロメル/アルメル)もしくはRタイプ(白金/白金ロジウム)のものとしたが、Jタイプ(鉄/コンスタンタン)、Tタイプ(銅/コンスタンタン)、Eタイプ(クロメル/コンスタンタン)、あるいはNタイプ(ナイクロシル/ナイシル)のものであってもよいことはいうまでもない。
【0073】
以上説明したように、本発明は、強度が十分確保できかつ取扱いの容易な素材から除去加工によって径等の厚さを減じた細線形検出部を形成するようにしているので、熱容量の小さい細線形検出部を容易に加工することのできるセンサの製造方法を実現することができ、その結果、品質に優れた高応答のセンサを提供することができるという効果を奏するものであり、細線化された検出部を有するセンサに好適なセンサの製造方法およびそのセンサ全般に有用である。
【符号の説明】
【0074】
1,2 線状素材
1a,2a 一端側部分
3,4 照射部(除去加工部分)
10,40,50 熱電対(センサ)
11;41;51 第1の導線
11a,12a;41a,42a;51a,52a 一端側部分(一部)
11b,12b;41b,42b;51b,52b 未加工部(非細線化部、残部)
11c,12c テーパ部
11e 環状湾曲面
12;42;52 第2の導線
13;43;53 測温部(接合部、細線形検出部、細線化された検出部)
13c 穴
21 イオンビーム
22 電界レンズ
41c,42c;51c,52c 除去加工面
53n 切欠き
53m くびれ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線の一部に細線形検出部を有するセンサを製造する方法であって、
前記導線の一部が少なくとも特定の方向で前記導線の残部より厚さを減ずるように、前記導線となる線状素材を部分的に除去加工して前記細線形検出部を形成することを特徴とするセンサの製造方法。
【請求項2】
互いに材質が異なる異種の線状素材からなる第1の導線および第2の導線をそれぞれの一端側部分で接合して前記導線を構成した後、
前記第1の導線の一端側部分および前記第2の導線の一端側部分が少なくとも特定の方向でそれぞれ前記線状素材のうち対応する線状素材より厚さを減ずるように、前記第1の導線および第2の導線の接合部を部分的に除去加工して前記細線形検出部を形成することを特徴とする請求項1に記載のセンサの製造方法。
【請求項3】
前記細線形検出部が軸線方向の中央に位置する小径部となり該小径部分から離れるほど大径となるテーパ部とを有するように前記除去加工の深さを前記軸方向の位置に応じて変化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサの製造方法。
【請求項4】
前記除去加工により前記細線形検出部に軸線と交差する方向の貫通穴を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサの製造方法。
【請求項5】
前記除去加工により、前記導線の一部を軸線と直交する第1の方向で前記導線の残部より厚さを減ずるように部分的に除去して除去加工面を形成するとともに、前記導線を前記除去加工面に対し直交する第2の方向に曲げ加工することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサの製造方法。
【請求項6】
前記除去加工により前記導線の一部を軸線と直交する第1の方向で前記導線の残部より厚さを減ずるように部分的に除去して除去加工面を形成するとともに、
前記導線の一部を前記第1の方向とは異なる第2の方向で厚さを減じるよう部分的に除去加工して前記除去加工面が形成された前記導線の一部にくびれ部を形成し、
前記導線を前記くびれ部で軸線に対し直交する方向に曲げ加工することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサの製造方法。
【請求項7】
前記除去加工面が、前記導線の一部の軸線を挟んで対向する第1の除去加工面と第2の除去加工面を含むことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のセンサの製造方法。
【請求項8】
前記除去加工を物理エッチングにより実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサの製造方法。
【請求項9】
互いに材質が異なる第1の導線および第2の導線を備え、前記第1の導線および第2の導線が、両導線を互いに一端側で接合して形成された細線形検出部と、両導線の他端側の非細線化部とを有するセンサであって、前記細線形検出部が、異種の線状素材の一端側部分を互いに接合するとともに、該接合部分を部分的に除去する除去加工を施して形成されていることを特徴とするセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−47810(P2011−47810A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196807(P2009−196807)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】