説明

センサチップとこれを用いたセンサデバイス

【課題】本発明は粒子や細胞等の球状物質を確実に吸着あるいは捕捉させるためのセンサチップとこれを用いたセンサデバイスを実現することを目的とする。
【解決手段】そして、この目的を達成するために本発明は、薄板と、この薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面との間を貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設したセンサチップとした。このような構成により、粒子や細胞等の球状物質と凹部との密着性を高めることができるセンサチップを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞やビーズ等の粒子の球状物質を吸着あるいは捕捉させるためのセンサチップと、このセンサチップを用いた細胞の電気生理的活動を測定する細胞電気生理センサや、化学物質といった試料を測定する化学物質同定センサ等のセンサデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11に示したように、従来のセンサデバイスの一例である細胞電気生理センサは、導通孔1を有する実装基板2と、これらの導通孔1の下端部にそれぞれ保持されたシリコンを主成分とするセンサチップ3と、前記実装基板1の上方及び下方にそれぞれ配置された電極4、5とを備えている。また、前記センサチップ3は、窪み部6を有した貫通孔7を備えている。
【0003】
ここで、センサチップ3の上方および下方を電解液で満たし、さらに細胞をセンサチップ3の上方から注入し、貫通孔7の上方から加圧、あるいは下方から吸引することで、細胞を貫通孔7の窪み部6に吸引し捕捉することができる。
【0004】
そして、細胞を捕捉させた状態で、細胞の上から薬剤を投与し、センサチップ3の上方および下方の電解液の電位差を電極4、5を用いて計測することによって、細胞が活動する際の細胞内外における電位変化、電流値、あるいは細胞の活動によって発生する物理化学的変化を測定することができる。
【0005】
なお、上記細胞電気生理センサと類似する例を開示するものとして例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−156234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような構成では、センサデバイスの測定精度が低いという問題があった。これは、細胞と貫通孔7の窪み部6との密着性が低く、細胞を窪み部6に確実に捕捉しきれないため、センサチップ3の上方と下方との間の電気的絶縁性が十分に確保されないことが原因となる。その結果、測定精度が低下するのであった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決し、粒子や細胞等の球状物質を確実に吸着あるいは捕捉させるためのセンサチップおよびこれを用いたセンサデバイスを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明のセンサチップは、薄板とこの薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面との間を貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設したものである。
【0010】
また、本発明のセンサデバイスは、実装基板と、前記実装基板の上面から下面までを導通する導通孔の下端部に保持されたセンサチップとを備え、前記センサチップは薄板とこの薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面との間を貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設したものである。
【0011】
また、本発明の他のセンサデバイスは、実装基板と、前記実装基板の上面から下面までを導通する導通孔の中央部に保持されたセンサチップとを備え、前記センサチップは薄板とこの薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面との間を貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設し、前記凹部にプローブ機能を有した微小球を配置するとともに、前記微小球にて二分される前記導通孔の第一の領域あるいは第二の領域のいずれか一方の内部に液体を充填したものである。
【発明の効果】
【0012】
これにより、本発明のセンサチップとこれを用いたセンサデバイスは、粒子や細胞等の球状物質と凹部との密着性を高めることができる。
【0013】
それは、前述の通り、凹部に絞り部を有することにより、粒子や細胞等の球状物質が凹部に食い込みやすくなるためである。
【0014】
その結果、粒子や細胞等の球状物質を確実に吸着あるいは捕捉させることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1におけるセンサチップの断面図
【図2】実施の形態1におけるセンサチップの要部断面図
【図3】実施の形態1における他のセンサチップの要部上面図
【図4】図3のAB断面図
【図5】実施の形態2におけるセンサデバイスの断面図
【図6】実施の形態2におけるセンサデバイスの要部断面図
【図7】実施の形態3におけるセンサデバイスの一部切り欠き斜視図
【図8】実施の形態3におけるセンサデバイスの要部断面図
【図9】実施の形態3におけるセンサデバイスの要部断面図
【図10】実施の形態3におけるセンサデバイスの要部断面図
【図11】従来のセンサデバイスの一部切り欠き斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態におけるセンサチップ11について説明する。なお各実施の形態において先行する実施の形態と同様の構成をなすものは同じ符号を付して説明し、詳細な説明を省略する場合がある。また本発明は以下の各実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施の形態におけるセンサチップ11は、シリコンを主成分とする円板状の薄板12と、この薄板12の外周を支持する円筒状の枠体13とを有し、薄板12には、その上下面を貫通する貫通孔14が形成されている。枠体13を設けることで、薄板12が薄い場合も、センサチップ11全体の機械的強度を高く保つことができる。
【0018】
そして、前記貫通孔14には前記薄板12の第一面側に貫通孔14の孔径より大径の凹部15を連設しており、この凹部15の曲率半径が異なる弧面と弧面とが交差する位置に絞り部16を有している。つまり、図2に示すように、凹部15の位置P2での湾曲面の曲率半径CR2は、位置P2と異なる位置P1での湾曲面である内壁面の曲率半径CR1と異なる。具体的には、位置P1は位置P2に比べて開口部により近く、曲率半径CR1は曲率半径CR2より大きい。なお、センサチップ11を垂直方向から見た場合、位置P1の直径は位置P2の直径よりも大きくなることが望ましい。なお、絞り部の位置、深さ及び大きさは使用する目的に応じて適宜変更することができる。
【0019】
次に本実施の形態におけるセンサチップの部材について説明する。
【0020】
センサチップ11はシリコン単結晶基板、あるいはSOI(Silicon on Insulator)基板、ガラス基板、水晶基板等をエッチングすることにより形成できる。
【0021】
本実施の形態では、センサチップ11として二酸化シリコン層をシリコン層で挟みこんだSOI基板を用い、まず絞り部16を有する凹部15をエッチングにより形成した。絞り部16を有した凹部15を形成するためのエッチングには、エッチング材料の導入および排出を繰り返し行うプロセスを用いる。具体的にはまず、マスクを形成したSOI基板をチャンバー等に入れ、チャンバー内に一定量のエッチング材料を導入する。そして、導入されたエッチング材料とSOI基材とを反応させる。そして、一定時間反応させた後、反応を一旦終了し、反応が完了したエッチング材料をポンプ等を用いて吸引し、排出する。その後、新たなエッチング材料をチャンバー内に導入し、同様に反応させて、反応後、吸引し排出する。このようにエッチング材料の導入、エッチング反応、反応が完了したエッチング材料の排出を繰り返し行う。この時、マスクの開口の大きさが10μm以下であるため、凹部15内部に入り込んでいる反応が完了したエッチング材料の排出が起こりにくくなる。従って、特に、マスクの開口から離れた位置にある凹部15下部にエッチング反応が完了したエッチング材料が滞留しやすくなる。そして、反応が完了したエッチング材料が凹部15に滞留した状態で、新たなエッチング材料を導入し、エッチング反応を開始させるため、新たなエッチング材料があまり到達していない凹部15下部でのエッチング速度が減少し、曲率半径CR2が小さくなる。一方、マスクの開口に近い位置にある凹部15上部では、マスクの開口から近いため、マスクの開口からのエッチング反応が完了したエッチング材料の排出および未反応のエッチング材料の導入が比較的行われやすい。そのため、エッチング速度の減少は起こらず、その結果曲率半径CR1はCR2よりも大きくなる。このようにエッチング反応時にエッチング速度に変化が生じるため、所望の形状を得ることが出来る。このときのエッチング方法としては、高精度な微細加工が可能でありエッチング材料の排出および導入の切り替えが容易であるドライエッチングが望ましい。このときに用いるエッチングガスとしては、SF6、CF4、Cl2、XeF2などのSiをエッチング可能なガスを用いることができる。
【0022】
その後、ドライエッチングにより微細な貫通孔14を形成した。なお、SOI基板は、中間の二酸化シリコン層をエッチングストップ層として用いることができる。したがって、貫通孔14の深さや薄板12の厚み、枠体13の高さなど、設計通りに高精度に加工することができる。
【0023】
なお、センサチップ11はSOI基板を用いて形成したが、例えば単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、多結晶シリコンとアモルファスシリコンとの混合物、ガラス、水晶等と、二酸化ケイ素を主成分とする基材とのダイアフラムで形成してもよい。
【0024】
このように貫通孔14に凹部15を連設し、この凹部15に絞り部16を有することにより、粒子や細胞等の球状物質が凹部15にしっかりと食い込まれ、粒子や細胞等の球状物質17を確実に吸着あるいは捕捉させることができ、その結果、球状物質17と凹部15との密着性を高めることができる。
【0025】
なお、絞り部16は凹部15に少なくとも一箇所あればよいが、球状物質17をより確実に捕捉するために、複数の絞り部16を有することが望ましい。
【0026】
なお、センサチップ11は薄板12が底面となるように枠体13よりも下側に配置したが、このセンサチップ11の向きは上下逆であってもセンサチップ11全体の機械的強度を高く保つことができる。
【0027】
なお、図3、図4に示すように、薄板12に複数の貫通孔14を設け、それぞれの貫通孔14に複数の絞り部16を有する凹部15を連接し、この隣接する凹部15の内壁が互いに交差するように形成させてもよい。
【0028】
すなわち、隣接する凹部15の内壁は互いに交差しており、この交差部分は曲面で形成された突起形状をしている。そして、この部分に球状物質17が着地しても、付着することなく、重力によりいずれかの凹部15に傾き、その内壁に沿って凹部15内部へと速やかに転がり捕捉あるいは吸着され、その結果、凹部15への球状物質17の捕捉率あるいは吸着率を向上させることができる。
【0029】
(実施の形態2)
以下、本実施の形態におけるセンサデバイスである細胞電気生理センサについて説明する。
【0030】
図5に示すように、本実施の形態におけるセンサデバイスでは、アレイ状に形成された導通孔18を有する実装基板19と、導通孔18の内部にそれぞれ挿入され、固定されたセンサチップ11とを備えている。このセンサチップ11は、図6に示したように、導通孔18の下端部に保持された円板状の薄板12と、この薄板12の外周を支持する円筒状の枠体13とを有し、薄板12にはその上下面を貫通する貫通孔14が形成されている。ここで、薄板12は実装基板19の上面側と下面側とを仕切る仕切り板として機能し、貫通孔14は実装基板19の上面側と下面側とを貫通させる貫通路として機能する。また、枠体13を設けることで、薄板12が薄い場合もセンサチップ11全体の機械的強度を高く保つことができ、実装基板19との実装時のセンサチップ11の損傷を低減する。
【0031】
そして、貫通孔14には実装基板19の上面側に細胞や生体由来の膜等からなる略球状の被検体20を捕捉するための貫通孔14の孔径より大径の凹部15を連設しており、この凹部15の曲率半径が異なる弧面と弧面とが交差する位置に絞り部16を有している。具体的には、位置P1は位置P2に比べて、実装基板19の上面側により近く、曲率半径CR1は曲率半径CR2より大きい。なお、センサチップ11を垂直方向から見た場合、位置P1の直径は位置P2の直径よりも大きくなることが望ましい。なお、凹部15の最大開口径は10μm程度で、最小開口径は貫通孔14の開口径と同じであり、被検体20が細胞である場合、5μm以下であることが細胞を保持するために適している。なお、絞り部16の位置、深さ及び大きさは使用する目的に応じて適宜変更することができる。
【0032】
また、絞り部16は凹部15に少なくとも一箇所あればよいが、球状物質17をより確実に捕捉するために、複数の絞り部16を有することが望ましい。
【0033】
なお、センサチップは薄板12が底面となるように枠体13よりも下側に配置したが、このセンサチップの向きは上下逆であってもセンサチップ全体の機械的強度を高く保つことができる。
【0034】
なお、薄板12は、厚み10μm〜100μm、直径1000μm、枠体は、高さ400μm程度、外径は1000μm、貫通孔は開口径1μm〜3μm(深さは薄板12の厚みと同じ)とした。
【0035】
また、凹部を有する薄板の表面は、二酸化シリコン層で形成されることが好ましい。二酸化シリコン層は絶縁性が高いため、被検体20を密着保持させることが可能となる。これによりセンサチップを介するリーク電流を低減できる。さらに、二酸化シリコン層は親水性が高いため、被検体20と凹部15との密着性が向上し、センサデバイス11の測定精度を向上させることができる。
【0036】
また、図5に示すように導通孔18内に上方からプローブ形の測定電極21と細い管状の分注器22とが挿入されている。
【0037】
測定電極21はセンサチップ11上方に注入される電解液の電位、あるいは電流値や抵抗値を測定するものである。また、分注器22はセンサチップ11上方に電解液や細胞、薬剤等を注入するためのものである。
【0038】
また、実装基板19下面に参照電極23を設けている。さらに、実装基板19の下方には流路24を形成するための流路板25が接合され、この流路24内には電解液が充填できる。前述の参照電極23は、この電解液の電位(あるいは電流値や抵抗値)を測定できればよく、位置や形状は適宜変更可能である。例えばプローブ形の形状とし、センサチップ11の下方の空間に挿入されていてもよい。
【0039】
なお、実装基板19、流路板25は樹脂で構成しておくと成形しやすく、また組み立ても容易である。より好ましくは熱可塑性樹脂を用いることであり、射出成形などの手段を用いることによって生産性良く、均質な成形体を得ることができる。また、これらの熱可塑性樹脂はポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、オレフィンポリマー、ポリメタクリル酸メチルアセテート(PMMA)のいずれか、またはこれらの組み合わせが好ましい。
【0040】
さらに、これらの熱可塑性樹脂として、環状オレフィンポリマー、線状オレフィンポリマー、またはこれらが重合した環状オレフィンコポリマー、またはポリエチレン(PE)とすることが作業性、製造コストおよび材料の入手性の観点からさらに好ましい。
【0041】
特に、環状オレフィンコポリマーは透明性、アルカリ・酸などの無機系薬剤に対する耐性が強く、本発明の製造方法もしくは使用環境に適している。また、これらの材料は紫外線を透過させることができることから、紫外線硬化型の接着剤を用いて接着する場合に効果を発揮する。
【0042】
次に本実施の形態におけるセンサデバイスを用いた細胞電気生理における測定方法について説明する。
【0043】
図5に示すように導通孔18の上方から分注器22を挿入し、センサチップ11の上方に細胞外液(電解液)を注入する。また流路24の内部には、細胞内液(電解液)を注入する。
【0044】
ここで、細胞外液とは例えば哺乳類筋細胞の場合、代表的にはK+イオンが4mM程度、Na+イオンが145mM程度、Cl-イオンが123mM程度添加された電解液であって、細胞内液とはK+イオンが155mM、Na+イオンが12mM程度、Cl-イオンが4.2mM程度添加された電解液である。
【0045】
次に、導通孔18の上方から測定電極21を挿入する。このように細胞外液と電気的に接続された測定電極21と、細胞内液と電気的に接続された参照電極23との間では、100kΩ〜10MΩ程度の導通抵抗値を観測することができる。これは貫通孔14を介して細胞内液あるいは細胞外液が浸透し、測定電極21と参照電極23間で電気回路が形成されるからである。次に、センサチップ11上方から分注器22を介して被検体20を投入し、圧力伝達チューブにより減圧を行うと、図6に示すように被検体20は凹部15の開口部に引き付けられる。このように被検体20が凹部15の開口部を塞ぐことによって、細胞外液と細胞内液との間の電気抵抗が1GΩ以上の十分に高い状態となる(ギガシールと呼ぶ)。このギガシール状態では、被検体20の電気生理活動によって細胞内外の電位が変化すれば、わずかな電位差あるいは電流であっても高精度に測定できる。ここで、この測定時において、流路24内部の細胞内液中の気泡を極力減らすことが測定精度の向上に寄与する。
【0046】
次に、図5の流路24内部の空間にナイスタチンなどの薬剤を注入するか、あるいは針によって貫通孔14を塞いでいる被検体20の細胞膜に穴を開ける(ホールセルと呼ぶ)。
【0047】
その後、センサチップ11上方から分注器22を介して薬液を注入し、被検体20を刺激する。この時、被検体20を刺激する方法としては、本実施の形態のように薬液などの化学的刺激でもよく、その他電気信号などの物理的刺激でも良い。そして、これらの化学的あるいは物理的刺激によって、被検体20のイオンチャネルが反応した場合は、その反応を測定電極21と参照電極23間における電位差(あるいは電流値変化や抵抗値変化)によって検出することができる。
【0048】
このように貫通孔14に凹部15を有し、この凹部15に絞り部16を有することにより、被検体20が凹部15に食い込みやすくなるので、被検体20を確実に吸着あるいは捕捉させることができ、被検体20と凹部15との密着性を高めることができるのである。
【0049】
なお、本実施の形態のセンサチップ11の薄板12の上下逆として使用することも可能である。すなわち、センサチップ11の凹部15を有する面とは対向する面で被検体20を吸着させる場合であっても、絞り部16によって流路24を流れる溶液からの流路抵抗を抑制することができるため、被検体20を保持させることが可能となる。
【0050】
以上説明してきたように、本実施の形態のセンサデバイスは、例えば高精度かつ高速の薬品スクリーニングシステムにかかる細胞電気生理の測定に有用である。
【0051】
その他、実施の形態1と同様の構成及び効果については説明を省略する。
【0052】
(実施の形態3)
以下、本実施の形態におけるセンサデバイスである化学物質同定センサについて説明する。
【0053】
図7、図8に示すように、本実施の形態におけるセンサデバイスは、キャビティ26を構成する有底筒状の一対の実装基板19と、キャビティ26を区分するように一対の実装基板19の間に固定されたセンサチップ11とを備えている。このセンサチップ11は、キャビティ26の上部空間27と下部空間28とを仕切る板状の薄板12と、この薄板12の外周を支持する筒状の枠体13とを有し、薄板12には、その上下面を貫通する貫通孔14が形成されている。ここで、薄板12はキャビティ26の上部空間27である第一の領域とキャビティ26の下部空間28である第二の領域とを区分する仕切り板として機能し、貫通孔14はキャビティ26の上部空間27である第一の領域とキャビティ26の下部空間28である第二の領域とを貫通させる貫通路として機能する。
【0054】
そして、貫通孔14には上部空間27に、プローブ29が表面に形成された粒子(ビーズ)30を吸着するための凹部15を連設しており、この粒子30を介して化学物質の同定を行う。さらに、この凹部15の曲率半径が異なる弧面と弧面とが交差する位置に絞り部16を有している。つまり、凹部15の位置P2での湾曲面の曲率半径CR2は、位置P2と異なる位置P1での湾曲面である内壁面の曲率半径CR1とは異なる。具体的には、位置P1は位置P2に比べて、上部空間27により近く、曲率半径CR1は曲率半径CR2より大きい。なお、センサチップ11を垂直方向から見た場合、位置P1の直径は位置P2の直径よりも大きくなることが望ましい。なお、凹部15の最大開口径は10μm程度で、最小開口径は貫通孔14の開口径と同じである。なお、絞り部16の位置、深さ及び大きさは使用する目的に応じて適宜変更することができる。また、絞り部16は凹部15に少なくとも一箇所あればよい。
【0055】
なお、センサチップ11は薄板12が底面となるように枠体13よりも下側に配置したが、このセンサチップ11の向きは上下逆であってもセンサチップ全体の機械的強度を高く保つことができる。
【0056】
なお、薄板12は、厚み10μm〜100μm、直径1000μm、枠体13は、高さ400μm程度、外径は1000μm、貫通孔14は開口径1μm〜3μm(深さは薄板12の厚みと同じ)とした。
【0057】
また、上部空間27と下部空間28の内部にはそれぞれ光ファイバーなどの光導入口31及び光検出口32が設置されており、これら光導入口31及び光検出口32は、さらに測定器(図示せず)へと接続されている。
【0058】
また、上部空間27、下部空間28及び絞り部16を有する凹部15を有した貫通孔14の内部は液体によって満たされている。ここで、液体は測定する対象化学物質が存在する液体物質である。さらに、上部空間27及び下部空間28は実装基板19で覆うように構成されており、これによって上部空間27及び下部空間28は外部雰囲気から遮断されている。その結果、内部圧力を制御することを可能としている。
【0059】
なお、本実施の形態では、上部空間27、下部空間28を共に液体によって満たすとしたが、これにより貫通孔14を通って下部空間28へ通過した光は下部空間28を満たす液体の中を拡散するので、下部空間28に設置された光検出口32への導入が容易になるという利点も有している。しかしながら一方で、下部空間28で光を拡散させることが好ましくない場合は下部空間28には液体を満たさなくてもよい。この場合は貫通孔14を通過した光は、直接光検出口32へ到達する。
【0060】
なお、粒子30の材質は特に限定するものではないが、好ましくは同定に用いる励起光33、検出光34に対して透明性を有していることが好ましく、このような透明性を有している材料としては、ガラス、セラミック材料などの無機材料、あるいはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリオレフィン等の樹脂材料が適している。また、粒子30の大きさは0.5〜100μm程度の直径を持つ球形であることにより、センサチップ11の薄板12に設けた絞り部16を有する凹部15内部へ安定して保持することができる。しかしながら、球形以外の形状について排除するものではなく、たとえば表面へのプローブ29の付着量を増やすため、表面に凹凸があるいびつな形状であっても本実施の形態での適用は可能である。
【0061】
また、粒子30の表面にはプローブ29が付着されており、このプローブ29は検査対象物質35に対応した特定の化合物として合成されたものである。例えば、DNAプローブは特定の塩基配列と結合する相補的塩基配列をもったDNAであり、溶液中に特定配列を持ったDNAの存在有無を判定したい場合、このDNAプローブと結合(ハイブリタイゼーション)を起こすかどうかによって同定できる。
【0062】
特に、本実施の形態では、プローブ29に蛍光標識を行っておき、検査対象物質35が結合した場合に、外部からの入力光である励起光33に対して蛍光を発するようにしておく。これにより、粒子30の表面を通過した検出光34はハイブリタイゼーションの有無によってその色調が変化するが、本実施の形態のセンサデバイスでは、検出光34は貫通孔14を通過したものだけを観察することができることから、他からのノイズを少なくすることが可能であり、これによって、より高精度な化学物質の同定が可能になる。
【0063】
なお、プローブ29の種類はDNAの他にRNA,タンパク質等を用いることが可能である。
【0064】
次に本実施の形態におけるセンサデバイスを用いた液体に存在する化学物質の同定方法について説明する。
【0065】
図9及び図10に示すように、上部空間27において、絞り部16を有する凹部15の内部に、プローブ29が表面に形成された粒子30が保持されている。ここで、凹部15は粒子30より小さいので、この粒子30を保持する方法として下部空間28を減圧して貫通孔14を吸引することによって、強固な保持が容易に実現される。
【0066】
また、この保持方法は上部空間27と下部空間28との圧力差を利用したものであるので、絞り部16を有する凹部15に粒子30を吸着させるために化学的結合部位を別途設ける必要がないという利点を有している。
【0067】
また、上部空間27と下部空間28はセンサチップ11の薄板によって仕切られていることから、上部空間27の内部を加圧手段(図示せず)によって加圧することによって、貫通孔14を介して下部空間28へ液体を移動させながら粒子30を絞り部16を有する凹部15へと移動させ、粒子30を着実に凹部15に吸着・保持させることが可能となる。
【0068】
このように上部空間27と下部空間28を個別に制御できるような構成とするため、吸引あるいは加圧などの手段を用いて粒子30を容易に制御することができる。さらに、液体を別の薬液などに容易に置換することも可能となるセンサ構造を実現することができる。
【0069】
次に、図9に示すように上部空間27側から励起光33を導入すると光は上部空間27の内部を満たした液体内を散乱しながら透過し、凹部15を有した貫通孔14の内部へも進入する。このとき、凹部15に保持された粒子30は貫通孔14を確実に塞いでいるので、貫通孔14を透過してきた励起光33は粒子30の表面を透過してきた光である。そして、図9のように、上部空間27の内部に検査対象物質35が無い、あるいは濃度が低い場合、粒子30の表面に形成されたプローブ29が検査対象物質35とハイブリタイゼーションは起こらず、この状態での粒子30の表面を通過した光が検出光34として検出され、参照応答が測定される。
【0070】
一方、図10に示すように、上部空間27側に検査対象物質35が存在する状態では、プローブ29が検査対象物質35とハイブリタイゼーションを起こし、この状態での粒子30の表面を通過した検出光34が検出される。この際、プローブ29と検査対象物質35がハイブリタイゼーションを起こしている状態では、プローブ29が蛍光を発するように修飾しておけば、通過した検出光34は蛍光を伴っており、前記参照応答と区別される。このようにして上部空間27の内部に存在する液体に検査対象物質35が存在するかどうかが判定できるのである。
【0071】
このようにセンサチップ11に貫通孔14に絞り部16を有する凹部15を設けたことによって、確実にプローブ29を表面に有した粒子30を保持できる上、貫通孔14を通過した光は必ず粒子30の表面を通過しているので、より高精度な測定が可能である。
【0072】
従って、センサチップ11の材質は実施の形態1でも説明したシリコン以外でも実現可能であるが、不透明(透過性の低い)であることがより望ましい。これによって、下部空間28側に透過してくる光は貫通孔14を通過したものだけとなり、下部空間28側での光検出がより高精度になる。なお、検出側である下部空間28側は必ずしも液体で満たされていなくても光検出はできるが、液体で満たされる場合には、貫通孔14を通過した光は下部空間28側に存在する液体内で散乱し、光検出口32への導入が簡単になるという利点を有している。
【0073】
さらに、本実施の形態における粒子30の保持方法では、上部空間27側を減圧雰囲気にすれば、一度保持された粒子30でも再度、保持を解除することができることから、任意の時に粒子30を液体中に分散させて、プローブ29と検査対象物質35の反応を促進させることができる。例えば、検査対象物質35が液体中に無い状態で粒子30を凹部15に保持させて参照応答を測定した後、検査対象物質35が含まれる液体を添加した後、粒子30の保持を解除すれば粒子30は液体の中に容易に分散することで検査対象物質35とプローブ29の反応が促進し、再度吸引によって粒子30を保持した後に測定を行えば、参照応答との比較によって検査対象物質35の有無判定がより高精度になるという利点を有している。
【0074】
なお、絞り部16を有した凹部15を備えた貫通孔14は、複数個設けることによって、より確実な測定が可能である。
【0075】
また、本実施の形態の実装基板19は、センサチップ11を覆い囲むように構成されているが、光反応を利用しない化学物質同定を行う場合は、上下に開放した導通孔18を有する実装基板19の内部にセンサチップ11を保持し、前記導通孔18を上部空間27と下部空間28とに区分してもよい。
【0076】
以上説明してきたように、本実施の形態のセンサデバイスは、化学物質同定センサとして、ウイルス、食料品産地などの特定DNA配列の検出を行うDNAセンサ、SNP(一塩基多型)配列を検出するSNPセンサ、アレルゲン(アレルギー抗原)の存在を検出する抗原センサ等、農業分野、医療分野、環境分野などに広く用いることができる。
【0077】
その他、実施の形態1と同様の構成及び効果については説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明によるセンサデバイスは、例えば粒子や細胞等の球状物質を吸着させるため等に有用であり、細胞電気生理センサや化学物質同定センサ等に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
11 センサチップ
12 薄板
13 枠体
14 貫通孔
15 凹部
16 絞り部
17 球状物質
18 導通孔
19 実装基板
20 被検体
21 測定電極
22 分注器
23 参照電極
24 流路
25 流路板
26 キャビティ
27 上部空間
28 下部空間
29 プローブ
30 粒子
31 光導入口
32 光検出口
33 励起光
34 検出光
35 検査対象物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板と、この薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、
前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面との間を貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、
前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設したセンサチップ。
【請求項2】
複数の貫通孔のそれぞれに連設した絞り部を有する凹部のそれぞれは、隣接する凹部の内壁が互いに交差するように形成した請求項1に記載のセンサチップ。
【請求項3】
実装基板と、
前記実装基板の上面から下面までを導通する導通孔の下端部に保持されたセンサチップとを備え、
前記センサチップは薄板とこの薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、
前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面との間を貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、
前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設したセンサデバイス。
【請求項4】
実装基板と、
前記実装基板の上面から下面までを導通する導通孔の内部に保持されたセンサチップとを備え、
前記センサチップは薄板とこの薄板の周辺部を保持する枠体とを備え、
前記薄板は第一面とこの第一面と対向する第二面とを貫通させる少なくとも1つの貫通孔を有し、
前記貫通孔には当該貫通孔の孔径より大径で、かつ前記第一面側に絞り部を有する凹部を連設し、
前記凹部にプローブ機能を有した微小球を配置するとともに、
前記微小球にて区分される前記導通孔の第一の領域あるいは第二の領域のいずれか一方の内部に液体を充填したセンサデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−112594(P2011−112594A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271379(P2009−271379)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】