説明

センサ付脱水フォイル、脱水フォイル装置及び紙の製造方法

【課題】導電性を確保し耐磨耗性が良好な電極を有することで、安定した計測が可能な脱水フォイル埋め込み用センサ付脱水フォイルを得る。
【解決手段】アルミナ(Al23)材質のセラミックスから成るブレード部2の表面に、炭化チタン及び窒化チタンを主成分として成るサーメットで形成された電極20,30,37を直接埋め込んで脱水フォイル4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のワイヤパートの脱水部で使用される脱水フォイルに関し、特に、脱水フォイル上を走行するワイヤ上に搬送される白水のシート濃度及び白水重量を測定するセンサが埋め込まれる脱水フォイルについて、導電性を確保し耐磨耗性が良好な電極を有するセンサ付脱水フォイルの構造、及びこのセンサ付脱水フォイルを使用した脱水フォイル装置、更にはこの脱水フォイル装置を利用した紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機のワイヤパートにおいては、図6に示すようなオントップ型によれば、回転して移動する無端状の下部ワイヤ101の上方一端側に、ストックインレット500からパルプを含んだ大量の水分から成る白水(紙料)100を連続的に噴出させる。下部ワイヤ101の搬送中央部においては、ローラ150を含むオントップ装置を配置し、下部ワイヤ101上に同じ走行方向に配置される上部ワイヤ102を設け、下部ワイヤ101と上部ワイヤ102とで白水100を挟み込み、上部及び下部ワイヤ(ツインワイヤ部103)の走行によって白水100が下部脱水フォイル装置300を経て上部脱水フォイル装置200に搬送される。
【0003】
ストックインレット500から上部脱水フォイル装置200に至る長網部の下部脱水フォイル装置300及び上部脱水フォイル装置200においては、ワイヤ走行方向に対して直交する方向に長い複数の脱水フォイル400が間隔を置いて配置され、平坦化を図るべく各脱水フォイル400の高低を変化させる等の調整(脱水調整)を行いつつ、ワイヤ101,102が走行するに際して脱水作用(パルプ繊維のみが残留し紙匹の形成)が行われるものである。
【0004】
図6ではオントップ型の抄紙機のワイヤパートについて説明したが、オントップ装置を有しない長網タイプのもの、ワイヤ間で白水を挟んで走行するツインワイヤ部が垂直に搬送されるギャップフォーマータイプにおけるワイヤパートの脱水部、サクションボックスのカバー部においても、脱水フォイル上をワイヤが走行する際に脱水作用を行っている。
【0005】
ワイヤパートにおいては、品質良好な紙匹を得るために白水100のシート濃度をその紙質に合った最適な濃度にする必要があるが、白水100はワイヤ101で搬送されて移動するのでシート濃度はストックインレット500から吐出された後、各脱水フォイル400により脱水されるが、抄紙条件によっては常時変化するという性質を有している。
【0006】
そこで、シート濃度及び白紙重量を測定するため脱水フォイル400の適宜箇所にセンサを埋め込み、そのデータを基礎にストックインレット500に供給される原料における諸条件の調整(原料管理)や、白水搬送時における長網部の下部脱水フォイル装置300の脱水調整(脱水管理)により白水100の水分含有量を調整することが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−279979
【0008】
長網部の下部脱水フォイル装置300及び上部脱水フォイル装置200において設置される各脱水フォイル400は、図4に示すように、ワイヤの搬送方向Aに直交する方向に長尺状となるように、複数のセグメント40が連設して配置されている。そして、上記したセンサは、長尺状の脱水フォイル400を構成する一つのセグメント40aに装着されている。
そして、前記センサは、図4に示すように、レジン(絶縁性を有する樹脂)で構成されたベース部41を本体とし、このベース部41内に導電性を有するステンレス部材で複数の電極を配置して成り、セラミックスで形成されたセグメント40a内にパッケージングされた状態で配置されている。センサ内の電極は、長方形状のセンサ電極42と、センサ電極42から距離を離して配置したグランド電極43とから成り、グランド電極43はその中央に円形電極44を有している。
【0009】
そして、図5の裏面から表面に向かってワイヤ101が搬送されるに際して、前記各電極上に白水100が導かれ、グランド電極43と円形電極44、グランド電極43とセンサ電極42との間の白水100の電気抵抗を測定する。ワイヤ101上で脱水された白水100は、白水の厚み方向で濃度勾配(ワイヤ側が高濃度、ワイヤから離れるにしたがって低濃度)が発生する。グランド電極43,円形電極44でワイヤ近傍にできた高濃度部分の電気抵抗値を測定することにより、グランド電極43,センサ電極42で測定されたワイヤ上の白水厚み全体の電気抵抗値の補正を行う。このような値を検出することで、白水電導率及び白水重量の変化を算出し、ストックインレット500に供給される原料の諸条件の調整や搬送時における脱水調整を行うことにより、ワイヤで搬送される白水の水分含有量を調整するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記構造のセンサによると、センサが配置されたベース部41及びセグメント40(脱水フォイル400)上をワイヤ103が走行するため、ワイヤ部分と接触するステンレスで形成された各電極部に磨耗が生じ、電気抵抗の正確な測定に支障を来たすという問題点があった。
【0011】
また、センサはパッケージとしてベース部41に装着されているので、レジンで形成されたベース部41にも凹凸が生じ、セラミックスで形成されたセグメント40aとレジンで形成されたベース部41との材質(膨張係数)の相違からレジンが膨張してセラミックス側(セグメント40a)に亀裂(クラック)が発生することで、安定した測定が困難になるという問題点があった。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、導電性を確保し耐磨耗性が良好な電極を有することで、安定した計測が可能な脱水フォイル埋め込み用センサ付脱水フォイル及び脱水フォイル装置を提供することを目的としている。
更に、このような脱水フォイル装置を用いて安定的に紙を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため請求項1のセンサ付脱水フォイル(1)は、セラミックスから成るブレード部(2)の表面に、サーメットで形成された電極(20,30,37)を直接埋め込んで成ることを特徴としている。ブレード部(2)を形成するセラミックスは、各種のものを使用することができる。
【0014】
請求項2は、請求項1のセンサ付脱水フォイルにおいて、前記サーメットは、炭化チタン及び窒化チタンを主成分として成ることを特徴としている。
【0015】
請求項3は、請求項2のセンサ付脱水フォイルにおいて、前記サーメットは、線膨張係数が7.0〜7.5×10-6/℃、体積固有抵抗が0.7〜1.5×10-4 Ω・cmであることを特徴としている。
【0016】
請求項4は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセンサ付脱水フォイルにおいて、前記ブレード部を構成するセラミックスは、アルミナ(Al23)材質を主成分として成るセラミックスを使用することを特徴としている。
これにより、サーメットで形成された電極(20,30,37)と、アルミナ(Al23)材質を主成分として成るセラミックスで形成されたブレード部(2)の線膨張係数をほぼ同じ値にすることができる。
【0017】
請求項5は、脱水フォイルを構成する長尺状のブレード表面の一部分に、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセンサ付脱水フォイルを装着して脱水フォイル装置を構成することを特徴としている。
【0018】
請求項6は、紙の製造方法であって、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセンサ付脱水フォイルを装着して成る脱水フォイル装置を用いて抄紙機ワイヤパートの脱水を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、セラミックスで形成されるブレード部2に電極(20,30,37)が直接埋め込まれ、従来例のようにベース部(41)を介在させていないので、ブレード部(2)(セラミックス)に素材の相違から生じる亀裂の発生を防止できる。
そして、電極(20,30,37)をサーメットで形成するので、ブレード部(2)に近似した線膨張係数とすることができ、導電性を確保しつつ磨耗及び亀裂の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態に係るセンサ付脱水フォイルの一例について、図1〜図3を参照しながら説明する。
本発明のセンサ付脱水フォイル1は、セラミックスで形成された脱水フォイルにセンサを直接埋め込むものであり、外観上は、長尺状の脱水フォイルを構成するセグメント単体(図4のセグメント40)と同じ大きさに構成されている。
すなわち、センサ付脱水フォイル1は、セラミックスから成るブレード部2を本体とし、ブレード部2の下側にはブレード固定用部材3が装着され、センサ付脱水フォイル1及び複数のセグメントの各ブレード固定用部材3を長尺状ベース5に装着してブレード表面が連続するように配置することで、ワイヤの搬送方向Aに直交する方向に長尺状となる脱水フォイル4を有して(抄紙機ワイヤパートで脱水を行う)脱水フォイル装置が形成できるようになっている。
【0021】
ブレード部2を形成するセラミックスとしては、アルミナ(Al23),ジルコニア(ZrO2),炭化ケイ素(SiC),窒化ケイ素(Si34),窒化アルミ(AlN)のいずれかを主成分として構成される各種のセラミックスが使用可能であるが、電気絶縁性が高く、耐食性が高く、耐磨耗性が高く,強度が高いという性質を兼ね備えたものが良い。特に、後述する各電極の線膨張係数との関係から、アルミナ(Al23)材質を主成分として成るセラミックスを使用するのが好ましい。アルミナ(Al23)材質を主成分として成るセラミックスは、例えば全体の90〜99.9%のアルミナ(Al23)材質に不純物が含有されて構成される。
そして、ブレード部2をアルミナ(Al23)材質を主成分として成るセラミックスで構成することにより、線膨張係数を6.8〜7.3×10-6/℃にすることができる。また、アルミナ(Al23)材質を主成分として成るセラミックの体積固有抵抗は、(>10-4 )Ω・cm程度であり、十分な絶縁性を確保することができる。
【0022】
ブレード部2には、その表面側に後述するセンサ電極埋め込み用の方形溝部10と、この方形溝部10から間隔を置いてグランド電極埋め込み用の方形溝部15が形成されている。
方形溝部10は、ワイヤの走行方向に沿った方向に細長い長方形に形成され、上部溝底に底面側に貫通する電極接続用孔部11が形成されている。方形溝部15は、ワイヤの走行方向に対して方形溝部10と同位置に方形溝部10より幅広に形成され、中央部溝底に底面側に貫通する中央孔部16を設け、右下部溝底に電極接続用孔部17が形成されている。
【0023】
方形溝部10にはサーメットで形成されたセンサ電極20が嵌合するように装着されている。センサ電極は、方形溝部10に嵌合する大きさの方形体21と、方形体の裏面隅部に形成された円柱溝22に装着される棒状体23とから構成されている。方形体21への棒状体23の装着は、棒状体23頭部にネジを切るか、又は通電性を有する接着剤又は溶融によって固定している。
棒状体23の周囲にはネジ山24が刻設され、方形溝部10に嵌合するに際してその先端が電極接続用孔部11を貫通してブレード部2の裏面から突出配置されている。突出配置された棒状体23にはセンサ電極20への信号線が接続可能になっている。
【0024】
方形溝部15にはサーメットで形成されたグランド電極30が嵌合するように装着されている。グランド電極30は、方形溝部15に嵌合する大きさの方形体31と、方形体31の裏面隅部に形成された円柱溝32に装着される棒状体33とから構成されている。棒状体33の周囲にはネジ山34が刻設され、方形溝部15に嵌合するに際してその先端が電極接続用孔部17を貫通してブレード部2の裏面から突出配置されている。
【0025】
方形体31の中央には穴部35が形成され、この穴部35にはセラミックスで形成された環状体36が配置され、更に環状体36の内側に円形の中央電極37が配置されている。中央電極37の裏面側には周囲にネジ山39が刻設された棒状体38が形成され、該棒状体38が中央孔部16を貫通してブレード部2の裏面から突出配置されている。方形体31への棒状体33の装着は、棒状体33頭部にネジを切るか、又は通電性を有する接着剤又は溶融によって固定している。
ブレード部2の裏面から突出配置された棒状体33及び棒状体38には、グランド電極30又は中央電極37への信号線が接続可能になっている。
【0026】
上記の各電極20,30,37は、セラミックスで形成されたブレード部2内に埋め込まれるので、線膨張係数がセラミックの線膨張係数に近似し、且つ導電性が良好な特性の素材で形成することが好ましい。
ブレード部2をアルミナ(Al23)材質から成るセラミックスで形成した場合、その線膨張係数は6.8〜7.3×10-6/℃となる。
【0027】
本発明者は、これらの特性を満足する電極の素材として、炭化チタン及び窒化チタンを主成分として成るサーメットが好適であることを見出した。
すなわち、セラミックスで形成されたブレード部2に対する膨張を防ぐとともに、電極としての導電率を確保するために、各電極20,30,37を構成するサーメットとして、炭化チタン(TiC)及び窒化チタン(TiN)を主成分として成る素材を使用している。これらの素材を使用することで、電極の線膨張係数を7.0〜7.5×10-6/℃にすることができ、セラミックスで形成されたブレード部2に対する膨張を防ぐことができる。また、電極の体積固有抵抗を0.7〜1.5×10-4 Ω・cmにして、電極としての導電率を確保することができる。
特に、ブレード部2をアルミナ(Al23)材質から成るセラミックスで形成した場合、その線膨張係数は6.8〜7.3×10-6/℃となるので、電極との線膨張係数(7.0〜7.5×10-6/℃)がほぼ同じ値にすることができ、ブレード部2に対する電極の膨張をより効果的に防ぐことができる。
【0028】
紙の製造を行うに際して、脱水フォイル装置を用いて抄紙機ワイヤパートの脱水を行う場合に、長尺状の脱水フォイル4を構成するセグメントの一つとして上述したセンサ付脱水フォイル1を装着することできる。
すなわち、上述したように構成されたセンサ付脱水フォイル1が装着された脱水フォイル装置を使用して紙の製造を行うに際して、センサ付脱水フォイル1の各棒状体23,33,38に信号線を接続することで、脱水フォイル上に搬送されるワイヤ上の白水の電気抵抗を測定するセンサとして使用することができる。この場合、白水中の水の重量と電気抵抗との関係は、水重量が大きくなると電気抵抗が小さくなり、逆に水重量が小さくなると電気抵抗が大きくなり、白水中に含まれている水の重量に比例して電気抵抗が変化するものである。
【0029】
そして、センサ付脱水フォイル1におけるグランド電極30と中央電極37、グランド電極30とセンサ電極20との間の白水の電気抵抗を測定し、白水電導率及び白水重量の変化を算出することにより、シート濃度変化を早急に感知できるとともにその要因を分析し、ストックインレット500に供給される原料の諸条件の調整や搬送時における脱水調整を行うことにより原料管理及び脱水管理を行い、ワイヤで搬送される白水の水分含有量を調整することができる。
その結果、適正なシート濃度の白水を使用して品質良好な紙匹が得られ、搬送時の紙切れ減少による走行性の向上、ストックインレット500への原料供給時等での薬品節約による経済性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るセンサ付脱水フォイルの実施の一例を示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係るセンサ付脱水フォイルの各構成部品を示す斜視説明図である。
【図3】本発明に係るセンサ付脱水フォイルの組み立て構造を示す側面説明図である。
【図4】従来のセンサ付脱水フォイルの斜視説明図である。
【図5】センサ付脱水フォイルのセンサの測定原理を説明するための模式図である。
【図6】抄紙機におけるワイヤパートの全体構造を示す構造説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 センサ付脱水フォイル(セグメント)
2 ブレード部
3 ブレード固定用部材
4 脱水フォイル
5 長尺状ベース
10 方形溝部
11 電極接続用孔部
15 方形溝部
16 中央孔部
17 電極接続用孔部
20 センサ電極
21 方形体
22 円柱溝
23 棒状体
24 ネジ山
30 グランド電極
31 方形体
32 円柱溝
33 棒状体
34 ネジ山
36 環状体
37 中央電極
38 棒状体
39 ネジ山
40 セグメント
41 ベース部
100 白水(紙料)
101 下部ワイヤ
102 上部ワイヤ
103 ツインワイヤ
200 上部脱水フォイル装置
300 下部脱水フォイル装置
400 脱水フォイル
500 ストックインレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスから成るブレード部の表面に、サーメットで形成された電極を埋め込んで成ることを特徴とするセンサ付脱水フォイル。
【請求項2】
前記サーメットは、炭化チタン及び窒化チタンを主成分として成る請求項1に記載のセンサ付脱水フォイル。
【請求項3】
前記サーメットは、線膨張係数が7.0〜7.5×10-6/℃、体積固有抵抗が0.7〜1.5×10-4 Ω・cmである請求項2に記載のセンサ付脱水フォイル。
【請求項4】
前記ブレード部を構成するセラミックスは、アルミナ(Al23)材質を主成分として成る請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセンサ付脱水フォイル。
【請求項5】
脱水フォイルを構成する長尺状のブレード表面の一部分に、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセンサ付脱水フォイルを装着して成る抄紙機ワイヤパートの脱水フォイル装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセンサ付脱水フォイルを装着して成る脱水フォイル装置を用いて抄紙機ワイヤパートの脱水を行うことを特徴とする紙の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−162204(P2007−162204A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299528(P2006−299528)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(593108233)株式会社堀河製作所 (3)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】