説明

ゼオライト及びその製造方法

【課題】ゼオライト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のゼオライト1(LTA型ゼオライト等)は、金属クラスタ21(銀クラスタ等)が略直線状に配列されてなる直線状クラスタ群20を内部に有し、直線状クラスタ群20同士を略平行に配列することができる。本製造方法は、金属イオン(Ag等)を含んだゼオライト10(LTA型ゼオライト等)に対してイオン照射(Au−200MeVイオンビーム照射等)を行って、直線状クラスタ群20を形成するイオン照射工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼオライト及びその製造方法に関する。更に詳しくは、金属粒子が連なった線状クラスタを含むゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノスケールでの制御技術が注目されている。これまでに金属材料をナノスケールで構造制御する技術としては下記特許文献1及び下記非特許文献1〜2に開示された技術等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−105822号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤原 "ナノ配位空間における自己組織化金属ナノクラスターの自在制御と機能発現",[online],平成17年6月18日、特定領域研究「配位空間の化学」平成17年度 第1回全体会議 成果報告 インターネット〈URL:http://ccspace.chem.nagoya-u.ac.jp/05accomplishments/05rep/A01-23.pdf〉
【非特許文献2】寺西 "金属ナノ粒子の自在配列制御とナノデバイス応用",表面科学,社団法人日本表面科学会,2004年第25巻,第12号,p761−767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1は、基板の表面に原子スケールの金属ワイヤーを形成する技術である。また、非特許文献1及び非特許文献2は、特殊な構造を有する有機高分子と金属元素とを相関させたうえで、この有機高分子の配列に伴って規則的に構築された金属クラスタを形成するものである。
しかし、いずれも、制御できる金属の種類、形成されるクラスターサイズの制御、配向の制御等に限界がある。即ち、例えば、特許文献1の技術では、クラスタは基材表面にした形成させることができないという問題がある。また、非特許文献1および非特許文献2の技術では、合成原理から必然的にクラスタは有機高分子中に配列されるために、材料の熱安定性が低く高温環境下での応用ができないという問題がある。また、クラスタを配列させるために自己組織化を利用するため、クラスタを任意の場所に分布させることができないという問題がある。
本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであり、内部に直線状に配列された金属クラスタを有する新規なゼオライト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す通りである。
〔1〕金属クラスタが略直線状に配列されてなる直線状クラスタ群を内部に有することを特徴とするゼオライト。
〔2〕前記直線状クラスタ群を複数有すると共に、該直線状クラスタ群同士が略平行に配列されている前記〔1〕に記載のゼオライト。
〔3〕前記直線状クラスタ群の最大径が、1〜50nmである前記〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト。
〔4〕前記金属クラスタは、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Fe、Co、Ni、Rb、Rh、Pt、Au、Ag、Sn、Cs、La、Ba、Ir、Tl及びTiからなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む前記〔1〕乃至〔3〕のうちのいずれかに記載のゼオライト。
〔5〕請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のゼオライトの製造方法であって、
金属イオンを含んだゼオライトに対してイオンビームを照射して、前記直線状クラスタ群を形成するイオン照射工程を備えることを特徴とするゼオライトの製造方法。
〔6〕前記イオンビームは、100keV〜1GeVのエネルギーを有する前記〔5〕に記載のゼオライトの製造方法。
〔7〕前記金属イオンは、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Fe、Co、Ni、Rb、Rh、Pt、Au、Ag、Sn、Cs、La、Ba、Ir、Tl及びTiからなる群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンである前記〔5〕又は〔6〕に記載のゼオライト。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゼオライトによれば、内部に直線状に配列された金属クラスタを有することによる効果を広範な分野で利用できる。
直線状クラスタ群を複数有すると共に、直線状クラスタ群同士が略平行に配列されている場合は、ゼオライト内部において直線状クラスタ群を配向させることができ、配向方向と非配向方向とにおける性質を異ならせることができる。
【0008】
本発明のゼオライトの製造方法によれば、金属クラスタが略直線状に配列されてなる直線状クラスタ群を内部に有するゼオライトを得ることができる。更に、本発明のゼオライトの製造方法によれば、照射するイオンビームに用いるイオン種を選択することにより、金属クラスタの最大径の大きさを自在に制御することができる。また、照射するイオンビームが有するエネルギーの大きさを変化させることにより、直線状クラスタ群の長さを自在に制御することができる。更に、イオンビームを照射するゼオライトの厚さ、照射するイオンビームに用いるイオン種、及び、イオンビームが有するエネルギーの大きさにより、イオンビームの照射方向に向かって金属クラスタの最大径が漸減する形態の直線状クラスタ群を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のゼオライトを説明する模式的な説明図である。
【図2】本発明のゼオライトの製造方法を説明する模式的な説明図である。
【図3】実施例1のゼオライトの断面を拡大したTEM画像による説明図である。
【図4】実施例1のゼオライトにおけるイオンビームの照射方向に対して垂直な表面を拡大したTEM画像による説明図である。
【図5】実施例1のゼオライトにおけるイオンビームの照射方向に対して平行な断面を拡大したTEM画像による説明図である。
【図6】イオンビームを照射した場合の電子的阻止能(eV/nm)とイオンビームの侵入深さ(μm)との相関を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、以下詳細に説明する。
[1]ゼオライト
本発明のゼオライトは、金属クラスタが略直線状に配列されてなる直線状クラスタ群を内部に有することを特徴とする。
【0011】
即ち、本発明のゼオライト1は、母材であるゼオライト10と、該母材であるゼオライト(以下、単に「母材ゼオライト」ともいう)の内部に配置された直線状クラスタ群20と、を有するものである。
前記「母材ゼオライト(10)」は、直線状クラスタ群20を保持する母材となるゼオライト10である(図1参照)。この母材ゼオライト10はイオン交換により内部に金属イオンを含有できるものであること以外は特に限定されない。即ち、母材ゼオライト10は、合成ゼオライトであってもよく、天然ゼオライトであってもよい。また、母材ゼオライト10を構成する元素についても特に限定されない。
【0012】
即ち、母材ゼオライト10には、例えば、(1)アルミノ珪酸塩(Si及びAlを骨格元素とするゼオライト)、(2)シリカライト(Siを骨格元素とするゼオライト)、(3)メタロ珪酸塩(アルミノ珪酸塩のAlの一部又は全部が他の金属元素で置換されたゼオライト)、(4)アルミノリン酸塩、ガロリン酸塩及びベリロリン酸塩等のリン酸塩系多孔質体、(5)前記各リン酸塩系多孔質体の一部の元素が他の元素に置換された置換リン酸塩系多孔質体、などが含まれる。
【0013】
前記「金属クラスタ(21)」は、静電的に中性な金属の塊状体又は塊状域であって、母材であるゼオライト10内に略直線状に配列されて直線状クラスタ群20を構成する部分である(図1参照)。
この金属クラスタは、透過型電子顕微鏡(以下、単に「TEM」ともいう)により少なくとも100000倍以上に拡大し、低電子線照射量(具体的には、通常のTEM観察の約1/30の電子線照射量)観察した場合に、他部よりも金属濃度が高い部分として観察される。この金属クラスタには、(1)金属からなる粒子、(2)金属からなる微粒子の集合体、等が含まれる。また、金属クラスタは、金属のみからなってもよいが、その内部にゼオライトのSi、Al及びO等によって形成されている結晶格子を内包して形成されてもよい。
【0014】
この金属クラスタの形状は特に限定されないものの、TEMにより100000倍に拡大して観察した場合には、通常、球状、長粒状及び/又は円柱形状等に観察される。
更に、金属クラスタの大きさも特に限定されず、形成時に利用するイオンビームのイオン種及びエネルギー値により適宜制御することができるが、通常、1つの金属クラスタの最大径は1〜50nmであり、3〜40nmとすることができ、更には5〜30nmとすることができる。
尚、この最大径は、TEMにより100000倍に拡大して観察した画像において計測される大きさである。
【0015】
また、金属クラスタの長さも特に限定されず、形成時に利用するイオンビームのイオン種及びエネルギー値により適宜制御することができるが、通常、1つの金属クラスタの長さは1nm以上であり、1〜100000nmとすることができ、更には1〜40000nmとすることができる。
尚、この長さは、TEMにより100000倍に拡大して観察した画像において計測される大きさである。
【0016】
更に、金属クラスタ21を構成する金属は特に限定されず、母材ゼオライト10内にイオンとして導入できる金属元素であれば、その種類は特に限定されない。この金属クラスタ21を構成する金属元素としては、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Fe、Co、Ni、Rb、Rh、Pt、Au、Ag、Sn、Cs、La、Ba、Ir、Tl及びTi等が挙げられる。これらの金属元素は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記「直線状クラスタ群(20)」は、略直線状に配列された金属クラスタ21からなる金属クラスタ21の集合体である。また、直線状クラスタ群20は、通常、2つ以上の金属クラスタ21が配列して形成されている。更に、この金属クラスタ21の配列する方向は特に限定されず、例えば、母材ゼオライトの細孔パスの配向方向とは無関係に形成できる。即ち、後述するように、照射するイオンビーム40の飛程41に沿って形成されるために、イオンビーム40の照射方向を制御することにより、母材ゼオライト10の特性には無関係に直線状クラスタ群20を伸ばすことができる。
【0018】
また、直線状クラスタ群20を構成する金属クラスタ21同士は、通常、1nm以上の間隔を有して配置される。この間隔は5nm以上とすることができる。
尚、この間隔は、TEMにより100000倍に拡大して観察した画像において計測される大きさである。
【0019】
また、直線状クラスタ群20は、母材ゼオライト10内に1つのみを有してもよいが、通常、母材ゼオライト10内に2つ以上を有する。例えば、直線状クラスタ群20は、その長手方向に垂直な断面(イオンビームの照射方向に対しても垂直)において、1×1014(個)/cm以下の密度に形成できる。この直線状クラスタ群20の密度は照射イオンの種類と照射量により制御することができる。
尚、この密度は、TEMにより100000倍に拡大して観察した画像において計測される大きさである。
【0020】
また、直線状クラスタ群20を複数有する場合には、これらのクラスタ群同士は、略平行に配列されたものとすることができる。即ち、直線状クラスタ群20を、母材ゼオライト10内部に配向配置させることができる。直線状クラスタ群20を配向配置させた場合には、電子、フォノンあるいは電磁波の伝導方向に異方性を付与することができる。
【0021】
更に、前述のように、直線状クラスタ群20は、母材ゼオライト10の細孔の配向方向とは無関係に形成することができるために、母材ゼオライト10の細孔の配向方向と同じ方向へ配向させることもでき、また、異なる方向へ配向させることもできる。
【0022】
また、直線状クラスタ群20は、長手方向において略同一径のものとすることもできるが、径の異なる直線状クラスタ群20とすることもできる。即ち、例えば、直線状クラスタ群20の長手方向の一端と他端とを比較した場合に、一端側から他端側に向かって径が漸次減ずる形状にすることができる。この形状は、後述するように、照射するイオンビームに用いるイオン種及びイオンビームのエネルギーの大きさにより、母材ゼオライト10内でイオンビームを減衰させることで形成できる。
【0023】
本発明のゼオライトは、これを支持する基体を備えてもよく、備えなくてもよいが、通常、基体を備える。この場合、基体を構成する材料、基体の形状及び基体の大きさ等は、何ら限定されないが、例えば、基体を構成する材料としては、ジルコニア、アルミナ(α−アルミナ、γ−アルミナ及び陽極酸化アルミナ等)、金属(ステンレス及びニッケル等)及びガラス等を用いることができる。これらの中でも、ジルコニア、アルミナ及び金属が好ましい。これらは特にゼオライトとの優れた接合性を発揮できる。これらの中でもとりわけ、ジルコニア及びアルミナが好ましい。
【0024】
[2]ゼオライトの製造方法
本発明のゼオライトの製造方法は、前記本発明のゼオライトの製造方法であって、
金属イオンを含んだゼオライトに対してイオンビームを照射して、前記直線状クラスタ群を形成するイオン照射工程を備えることを特徴とする。
【0025】
前記「金属イオンを含んだゼオライト」は、前記母材ゼオライト10にイオン交換により導入した金属イオン含有するゼオライトである。即ち、図2に例示されるように、イオン照射工程の前工程として、ゼオライト10に金属イオン30を導入する金属イオン導入工程を備えることができる。この金属イオン30の導入方法は特に限定されないが、通常、金属イオン30が含有された液体に母材ゼオライト10を浸漬することによりイオン交換させて行うことができる。
【0026】
母材ゼオライト10に導入する金属イオン種は特に限定されず、用いる母材ゼオライト10の特性により適宜適した金属イオンを導入できるが、例えば、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Fe、Co、Ni、Rb、Rh、Pt、Au、Ag、Sn、Cs、La、Ba、Ir、Tl及びTi等の金属元素のイオンが挙げられる。これらの金属元素のイオンの価数も特に限定されない。これらの金属元素は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
更に、イオン交換の際に用いる媒体は特に限定されないが、例えば、水及び有機溶媒並びにこれらの混合溶媒が挙げられる。前記有機溶媒としては、エチルアルコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;トルエン等の芳香族炭化水素類や、フェノール、アセトニルアセトン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
これらの溶媒内で、前記金属元素は、各々イオンとして存在すればよく、例えば、イオン結合性化合物の溶解により得られた金属イオンであってもよく、配位子によって錯形成された金属イオンであってもよい。同様に、イオン交換により母材ゼオライト10内に取り込まれる金属イオンも、単独の金属イオンであってもよく、錯形成された金属イオンであってもよい。
尚、イオン交換を行う際の交換条件等は特に限定されず、静置したままとしてもよいが、例えば、加温、加圧、加振(超音波振動など)、光照射などを併用して行うことができる。
【0029】
前記「イオン照射工程」は、金属イオン30を含んだゼオライト10(母材ゼオライト)に対してイオンビーム40を照射して直線状クラスタ群20を形成する工程である(図2参照)。
本方法において、イオンビームを照射することによって金属クラスタが形成される過程の詳細は未だ定かではないが、以下のように考えることが可能である。即ち、金属イオン30が含有されたゼオライト10(母材ゼオライト)に対してイオンビーム40を照射すると、当該イオンビーム40の飛程41に相当するゼオライト10の結晶構造が破壊される。特にゼオライト骨格を構成するAlはAlへと酸化され、4配位構造から6配位構造へと変化する。それと同時に飛程41又は飛程41の近傍にイオン交換により導入されていた金属イオンは電子を享受し、静電的に中性な金属へと変化すると共に、金属クラスタ20として飛程41に析出する。これにより、イオンビームを照射した際のイオンが通過した飛程41に金属クラスタが形成されるものと考えられる。また、飛程41の近傍においてイオンが金属化された場合には、飛程41内のより金属濃度が高い位置へと移動され、その結果、飛程41に沿った部分のみに金属濃度が更に高い部位、即ち、金属クラスタが形成されるものと考えられる。
【0030】
前記イオンビームとなるイオン種は特に限定されず、形成を目的とする直線状クラスタ群の最大径、及び、形成する直線状クラスタ群の深さにより適宜選択することができる。即ち、例えば、イオンビームに用いる元素としては、Au、Ni、Fe、Xe、Kr、Ar、He、B、等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、イオンビームとして用いる場合、通常、より系元素からなるイオンを用いた場合には、クラスターサイズを小さくすることができる。
【0031】
また、イオンビームの強度も特に限定されないが、例えば、100keV〜1GeVのエネルギーを有するイオンビームを用いることができる。
更に、イオンビームの照射量も特に限定されないが、10×1011〜10×1012ions/cmとすることが好ましい。ただし、照射イオンの元素種の選択することによって、10×1010〜10×1014ions/cmの範囲で適正照射量を変化させることができる。
【0032】
本方法を用いて、LTA型ゼオライト(含水率22%)にAuイオン、又は、Niイオンをイオン種として、200MeVのイオンビームを照射した場合について、SRIMコードを用いて計算を行い、電子的阻止能(eV/nm)を縦軸に、照射対象であるLTAゼオライトの表面からのイオンビームの侵入深さ(μm)を横軸として、グラフ化すると図6が得られる。即ち、イオンビームとして用いるイオン種を変化させることで、侵入深さを大幅に変化させることができることが分かる。更に、同じイオン種であっても照射エネルギーを制御することで、侵入深さを制御できることが分かる。
尚、上記計算においては、照射エネルギーを200MeV、照射イオンはAu、ターゲット密度は1.9500g/cmとして行った。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら制約されるものではない。尚、実施例の記載における「部」及び「%」は、特記しない限り質量基準である。
【0034】
(1)ゼオライト結晶
10mm×10mm四方であり且つ厚さ2μmのLTA構造のゼオライト結晶膜が表面に形成されたアルミナ基板を用意した。
尚、このLTA構造のゼオライト結晶膜は、表面にLTA構造のゼオライト種結晶が形成された前記アルミナ平板基板をゼオライト原料成分(Si、Al、O、Na)が溶解含有された溶液内に浸漬して、水熱合成によりゼオライトの種結晶を成長させて得られたものである。
【0035】
(2)イオン交換工程
前記LTA構造のゼオライト結晶膜を備えたアルミナ基板を、8.4gのAgNOを1000gのHOに溶解して得られた硝酸銀水溶液に、室温(15〜30℃)で6日間各々浸漬した。6日間経過後に、前記硝酸銀水溶液から取り出して、流水(純水)で10分間洗浄した後、温度50℃の環境下で24時間乾燥させて、銀イオンを取り込んだLTA構造の母材ゼオライト10を得た。
【0036】
(3)粒子線照射工程
タンデム型加速器(日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター 原子力科学研究所に設置された型式「ペレトロン20UR型タンデム静電加速器」)を用い、金イオンを200MeVに加速したイオンビームとして、前記(2)までに得られた銀イオンが取り込まれた母材ゼオライトに照射した。
尚、前記イオンビームの照射は、LTA構造の母材ゼオライトの任意の結晶面に対して行った。更に、照射量はゼオライト結晶膜に対して、1×1010ions/cm、1×1011ions/cm、及び、1×1012ions/cm、の3種の照射量で行った。
【0037】
(4)評価
前記(3)までに得られたゼオライトの断面、表面の各面を、電子顕微鏡(日本電子社製、型式「JEM−2010」)を用いて低電子線量(通常のTEM観察に利用される照射量の約1/30の電子線照射量である。前記JEM−2010においては、小傾向板を用いて計測した照射電流量が1.0〜1.5pAの条件で約2秒間露光した場合の照射電子線量である。)で40000〜200000倍化(図3は40000倍、図4は200000倍、図5は150000倍)して観察した。用いた画像を図3〜5に示した。
【0038】
この結果、図3(ゼオライト1の断面)からは、図1に模式的に示した構造が実際に得られていることが分かる。即ち、図3には、図示されるように、金属クラスタ21を有し、更に、その金属クラスタ21は直線状に配列されて直線状クラスタ群20を形成していることが見てとれる。更に、直線状クラスタ群20は、ゼオライト10内に複数備えられていると共に、いずれも略平行に配置されていることが分かる。
尚、図3において、イオンビームの飛程に沿って長粒形状を成している濃色部は本願にいう金属クラスタ21であるが、符合50で表される円形状を成す濃色部は、図3を取得する際に使用したTEMによる電子線照射により析出したものと考えられる。
【0039】
更に、図4(ゼオライト1の平面)からは、イオンビームが照射されたことによって規則的なゼオライト構造が破壊されて不規則な構造となった状態が分かる(図4は、照射表面から約3〜5μmの深部における研磨断面である)。一方、図3から直線状クラスタ群20の直径が約6nmであることが分かる。
また、図5(ゼオライト1の断面)からは、照射イオンの飛程に沿って規則的なゼオライト構造が破壊され不規則な構造となった状態が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、光学素子(発光素子等)、ミキサーなどの非線形素子、複合触媒、量子効果素子、化学センサ及びガス分離膜等に利用できる。また、自動車関連分野(排ガス浄化、各種センサ、発光素子及び燃料ガス精製等)、合成化学関連分野(触媒、分離及び精製等)、石油関連分野(精製、分離及び触媒等)、家電関連分野(吸着、乾燥、脱臭及び抗菌等)、環境関連分野(吸着、乾燥、脱臭及び抗菌等)及び、医療関連分野等において広く利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1;直線状クラスタ群を有するゼオライト、
10;ゼオライト、
20;直線状クラスタ群、21;金属クラスタ、22;イオンビーム照射部、
30;金属イオン(交換イオン)、
40;イオンビーム、41;飛程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属クラスタが略直線状に配列されてなる直線状クラスタ群を内部に有することを特徴とするゼオライト。
【請求項2】
前記直線状クラスタ群を複数有すると共に、該直線状クラスタ群同士が略平行に配列されている請求項1に記載のゼオライト。
【請求項3】
前記直線状クラスタ群の最大径が、1〜50nmである請求項1又は2に記載のゼオライト。
【請求項4】
前記金属クラスタは、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Fe、Co、Ni、Rb、Rh、Pt、Au、Ag、Sn、Cs、La、Ba、Ir、Tl及びTiからなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のゼオライト。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のゼオライトの製造方法であって、
金属イオンを含んだゼオライトに対してイオンビームを照射して、前記直線状クラスタ群を形成するイオン照射工程を備えることを特徴とするゼオライトの製造方法。
【請求項6】
前記イオンビームは、100keV〜1GeVのエネルギーを有する請求項5に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記金属イオンは、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Fe、Co、Ni、Rb、Rh、Pt、Au、Ag、Sn、Cs、La、Ba、Ir、Tl及びTiからなる群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンである請求項5又は6に記載のゼオライト。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−63459(P2011−63459A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213741(P2009−213741)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】