説明

ゼオライト担持固化体の製造方法

【課題】粘土、石灰質材料等の添加物を用いず、かつ、簡便な工程でゼオライトを担持した固化体を製造する。
【解決手段】石炭灰と3.5N水酸化ナトリウム溶液を重量比が0.35(水酸化ナトリウム/石炭灰)となるように混合し、アクリル製パイプ型(内径15mm、高さ30mm)につめて温度80℃、相対湿度50%で24〜96時間養生し、固化させる。ゼオライトの生成を促すため、市販のX型ゼオライトを3%、種結晶として加えた。次に、養生固化後の試料を型から外して、もしくは型に詰めたまま、80℃の3.5Nの水酸化ナトリウム溶液に24〜72時間浸漬してアルカリ処理を行い試料のゼオライト化を促した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰を原料としたゼオライト担持固化体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所において石炭を燃焼した際に発生する多量の廃棄物である石炭灰やゴミの焼却灰の処理が問題となっている。これらの廃棄物には、シリカやアルミナが多く含まれることから、その再利用の方法の一つとしてアルミノケイ酸塩であるゼオライトに転換する技術が非特許文献1に記されている。
【0003】
しかし、従来の製造方法から得られるゼオライトの多くは微細粉末状であるため、取り扱いが難しかった。そのため、ゼオライトを固化する方法が種々検討されている。特許文献1には、粒子径5mm以下の造粒物を製造する方法が記載されている。また特許文献2には、粘土等と混合して成形した後、焼成して焼結体を得、その焼結体をアルカリ処理にすることによってゼオライト固化体を得ることが記載されている。さらに、特許文献3には、石灰質原料を混合してゼオライト成形体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−131327号公報
【特許文献2】特開2005−104786号公報
【特許文献3】特開2004−115291号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】逸見彰男著「無機系廃棄物の人工ゼオライト転換による有効利用」アイ・ピー・シー出版 2003年
【非特許文献2】春名淳介他 「Na-Ca-Si-Al系ガラスのNaOH水熱反応による生成物の同定と評価」粘土科学 Vol.43 pp71-78(2003)
【非特許文献3】A.Fernandez-Jimenez,A.Paloma: Cem. Concr. Res., ,35, 1984-1992 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法で得られる造粒物は5mm以下であり、構造体とは成り得ない。また特許文献2に記載の方法では、粘土等と混合して成形する工程、焼成し焼結体を得る工程、アルカリ処理によってゼオライト化する工程を必要とし、煩雑なものとなっている。さらに、特許文献3に記載の方法のように石灰質原料を混合する方法の場合、石灰質原料はゼオライト化を阻害することが報告されており(非特許文献2参照)、石灰質原料を混合しゼオライト成形体を得る方法は効率的ではない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みたもので、粘土、石灰質材料等の添加物を用いずに、ゼオライトを担持した固化体を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
石炭灰は濃アルカリ溶液と混合することによって、固化することが非特許文献3に記されている。この性質はジオポリマーなどと呼ばれている。本発明は、上記問題を解決するため、このジオポリマーの性質を利用することにより、粘土や石灰質原料を添加せずに、石炭灰を原料としてゼオライトを担持した固化体を製造するものとしている。
【0009】
具体的には、本発明は、石炭灰とアルカリ溶液の混合物を養生固化させた後、アルカリ溶液に浸漬してゼオライト化させるゼオライト担持固化体の製造方法を特徴とする。この場合、石炭灰とアルカリ溶液の混合物にゼオライトの生成を促すための種結晶を加えることが好ましい。さらに、具体的には、石炭灰とアルカリ溶液の混合物を型に充填して養生固化させた後、それを型から外して、もしくは型をつけたままアルカリ溶液に浸漬するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1および実施形態2のフローチャートを示す図である。
【図2】実施形態1のXRD分析結果を示す図である。
【図3】実施形態1の圧縮強度試験結果を示す図である。
【図4】実施形態2のXRD分析結果を示す図である。
【図5】実施形態2の圧縮強度試験結果を示す図である。
【図6】実施形態2で作製した試料を温度50度、相対湿度50%および75%の環境下で繰り返し保持した時の水分吸着量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態では、石炭灰と濃アルカリ溶液の混合物を型に充填して恒温恒湿槽で保持し、バルク体を作製し、得られたバルク体を濃アルカリ溶液に浸漬して、バルク体をゼオライト化させる。その方法のフローチャートを図1に示す。
【0012】
石炭灰と3.5N水酸化ナトリウム溶液を重量比が0.35(水酸化ナトリウム/石炭灰)となるように混合し、アクリル製パイプ型(内径15mm、高さ30mm)につめて恒温恒湿槽(温度80℃、相対湿度50%)で24〜96時間養生し、固化させた。本実施形態では、ゼオライトの生成を促すため、市販のX型ゼオライトを3%、種結晶として上記の混合物に加えた。
【0013】
次に、養生固化後の試料(バルク体)を型から外して、もしくは型に詰めたまま、80℃の3.5Nの水酸化ナトリウム溶液に24〜72時間浸漬してアルカリ処理を行い試料のゼオライト化を促した。アルカリ処理後の試料を乾燥後、圧縮強度の測定を行った。なお、養生固化後の試料を型から外して水酸化ナトリウム溶液に浸漬したものを実施形態1とし、養生固化後の試料に型をつけたまま水酸化ナトリウム溶液に浸漬したものを実施形態2とした。
【0014】
(実施形態1)養生固化後の試料を型から外して水酸化ナトリウム溶液に浸漬した。試料は水酸化ナトリウム溶液の浸漬後、蒸留水を用いて十分に洗浄した。図2に、実施形態1のXRD分析結果を示す。水酸化ナトリウム溶液の浸漬によって、P型ゼオライトの生成、X型ゼオライトの生成量の増加が確認された。72時間アルカリ溶液に浸漬した試料の比表面積は50m2/gであった。また、図3に、実施形態1の乾燥後の圧縮強度試験結果を示す。養生固化後の圧縮強度は4MPa程度であり、水酸化ナトリウム溶液の浸漬と乾燥によって強度が向上した。実施形態1では最高13MPaの圧縮強度が得られた。
【0015】
(実施形態2)養生固化後の試料に型をつけたまま水酸化ナトリウム溶液に浸漬した。試料は水酸化ナトリウム溶液の浸漬後、蒸留水を用いて十分に洗浄した。図4に、実施形態2のXRD分析結果を示す。水酸化ナトリウム溶液の浸漬によって、P型ゼオライトの生成、X型ゼオライトの生成量の増加が確認された。ゼオライトの生成量は、実施形態2より実施形態1の試料に多く、型をはずして水酸化ナトリウム溶液に浸漬させることにより、ゼオライト生成が促進された。図5に、実施形態2の乾燥後の圧縮試験結果を示す。養生固化後の圧縮強度は4MPa程度であり、水酸化ナトリウム溶液の浸漬と乾燥によって強度が向上した。実施形態2では24MPa程度の圧縮強度が得られた。実施形態2の強度の方が実施形態1より高く、型をつけたまま水酸化ナトリウムの浸漬を行うことにより、強度が増大した。
【0016】
図6に、実施形態2で作製した試料を温度50度、相対湿度50%および75%の環境下で繰り返し保持した時の水分吸着量の変化を示す。相対湿度50%の時の水分吸着量は常に約14%で、湿度75%の時の水分吸着量は常に約28%であった。このように図6に示される通り、この試料は湿度が高くなると水分を吸着し、湿度が低くなると水分を放出する湿度調整機能を有する。同様な湿度調整機能を実施形態1で作製された試料も有する。
【0017】
上記した実施形態によれば、以下の効果を有する。
【0018】
・産業廃棄物である石炭灰と水酸化ナトリウム溶液のみからゼオライト坦持固化体を簡便に得ることができる。
【0019】
・本実施形態に係るゼオライト坦持固化体は、建材としての使用に十分に耐えうる強度を有する。
【0020】
・本記実施形態に係るゼオライト坦持固化体は、優れた湿度調整機能を有する。
【0021】
なお、上記した実施形態では、石炭灰とアルカリ溶液の混合物をパイプ型に充填するものを示したが、その型としてはパイプ型に限らず、使用状況に応じて適宜変更が可能である。また、ゼオライトの生成を促すための種結晶としては、X型ゼオライトに限らず、他のゼオライトを用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰とアルカリ溶液の混合物を養生固化させた後、アルカリ溶液に浸漬してゼオライト化させることを特徴とするゼオライト担持固化体の製造方法。
【請求項2】
前記混合物にゼオライトの生成を促すための種結晶を加えることを特徴とする請求項1に記載のゼオライト担持固化体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物を型に充填して養生固化させた後、前記型から外して前記アルカリ溶液に浸漬することを特徴とする請求項1または2に記載のゼオライト担持固化体の製造方法。
【請求項4】
前記混合物を型に充填して養生固化させた後、前記型をつけたまま前記アルカリ溶液に浸漬することを特徴とする請求項1または2に記載のゼオライト担持固化体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126769(P2011−126769A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193097(P2010−193097)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】