説明

ソフトカプセル用の充填組成物

【課題】トリグリセリド(トリアシルグリセロール)を含有せず、難油溶性の粉末状物質を分散性よく、且つ、高い配合割合で含有させることができるソフトカプセル用の充填組成物を提供する。
【解決手段】充填組成物は、粉末状物質を懸濁させたジアセチルモノアシルグリセリンを含有し、トリグリセリドを含有しないことを特徴とする。粉末状物質の配合割合を増加させても充填組成物の粘度が増加しにくく、粉末状物質の配合割合を高めることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトカプセル皮膜内に充填されるソフトカプセル用の充填組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なソフトカプセルでは、水溶性のカプセル皮膜内に、油状で非水溶性の充填組成物が充填されている。このような充填組成物は、例えば、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、スクワレン、卵黄油等のように、カプセルに充填しようとする目的物質自体が油状である場合、油溶性の目的物質が溶媒としての油脂に溶解されている場合、及び、難油溶性の目的物質が分散媒としての油脂に懸濁されている場合に大別される。ここで、充填組成物が難油溶性の目的物質の懸濁液である場合、目的物質を高い安定性で良好に分散させることが重要である。そのため、従来の充填組成物は、動植物より採取した天然蝋を精製したワックス類(ミツロウ、ライスワックス、キャンデリラワックス等)、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油などの分散剤(乳化剤)を添加することにより、分散性を高めると共に分散状態の安定化を図っている。
【0003】
本出願人は、油脂類に対する酸化防止剤として知られていたアスコルビン酸脂肪酸エステルが、優れた分散安定化作用を示すことを見出し、動物性油脂や植物性油脂を分散媒とする難油溶性物質の懸濁液に、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを分散剤として添加したソフトカプセル用の充填組成物を提案している(特許文献1参照)。これによれば、従来公知の分散剤より低濃度の添加で、懸濁液の分散状態をより良好なものとすることができる。
【0004】
加えて、ソフトカプセル用の充填組成物においては、目的物質の配合割合を高めることが重要な課題であるが、一般的には難油溶性物質の含有量が増加すると充填組成物の粘度が上昇し、カプセル皮膜内への充填性が低下してしまう。これに対し、特許文献1の技術によれば、難油溶性の目的物質の濃度の増加に伴う粘度の上昇が小さく、目的物質の配合割合を高めることができるという利点をも有している。
【0005】
ところで、特許文献1の技術を含め、従来のソフトカプセルでは、難油溶性物質の分散媒として、サフラワー油、オリーブ油、小麦胚芽油、米胚芽油、菜種油、大豆油、ヤシ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油等の植物性油脂や、魚油(DHA、EPA等)、サメ肝油(スクワレン)、馬油、卵黄油等の動物性油脂が使用されている。これらの油脂は、何れもグリセリンの三つの水酸基が脂肪酸でエステル化したトリグリセリド(トリアシルグリセロール)であり、トリグリセリドは、動物の体内組織において中性脂肪の大部分を占める脂質である。
【0006】
そして、中性脂肪は、増加により動脈硬化や高脂血症の一つである高トリグリセリド血症の原因ともなり、近年では内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)の診断基準の一項目とされている。そのため、トリグリセリドを分散媒として使用したソフトカプセルは、健康志向の高い需要者に敬遠されるおそれがあり、トリグリセリドを使用しないソフトカプセル用の充填組成物が要請されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、トリグリセリドを含有せず、難油溶性の粉末状物質を分散性よく、且つ、高い配合割合で含有させることが可能なソフトカプセル用の充填組成物の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセル用の充填組成物は、「粉末状物質を懸濁させたジアセチルモノアシルグリセリンを含有し、トリグリセリドを含有しない」ものである。
【0009】
「ジアセチルモノアシルグリセリン」は、下記の化学式(1)で表されるモノグリセリド誘導体であり、モノグリセリドの二つの水酸基が何れもアセチル化されたものである。ここで、モノグリセリドは、グリセリンの三つの水酸基の内の一つが脂肪酸でエステル化されたものであるため、ジアセチルモノアシルグリセリンは、グリセリンの三つの水酸基の内の一つがアシル化され、残る二つの水酸基がアセチル化されたものと言うことができる。なお、式中Rはアシル基である。
【0010】
【化1】

【0011】
モノグリセリド誘導体の内、酢酸を含む五種類の有機酸、すなわち、酢酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸、乳酸、によってモノグリセリドがエステル化されたモノグリセリド誘導体(有機酸モノグリセリド)は、食品衛生法で食品添加物として許可されており、食品添加物としては“グリセリン脂肪酸エステル”の名称のもとに使用されることがある。
【0012】
ここで、酢酸でエステル化されたモノグリセリド誘導体(酢酸モノグリセリド)の従来の用途としては、チューインガム、チョコレート、マーガリン、バタークリーム等の可塑性・伸展性の改良、ソーセージ、ナッツ、キャンディー等のコーティング、ホイップクリームの気泡性の改良などが挙げられる。なお、酢酸モノグリセリドには、分散剤(乳化剤)としての作用はほとんどない。この点で、上記のように、酢酸モノグリセリドがグリセリン脂肪酸エステルという総称的名称のもとで使用されることがあるとしても、従来のソフトカプセル用の充填組成物において、分散剤として添加されているグリセリン脂肪酸エステルとは、物質として相違する。
【0013】
本発明者らは、従来は上記の用途に関する使用にとどまっていた酢酸モノグリセリドであるジアセチルモノアシルグリセリンを、分散媒として使用することにより、ソフトカプセル用の充填組成物においてトリグリセリドに代替できることを見出し、本発明に至ったものである。従って、本発明によれば、トリグリセリドを含有しないソフトカプセル用の充填組成物を提供することができ、ひいては、健康志向の高い需要者にも受け容れられやすいソフトカプセルを提供することができる。
【0014】
しかも、後述のように、ジアセチルモノアシルグリセリンを分散媒として使用することにより、難油溶性の粉末状物質を分散性よく懸濁させることができ、トリグリセリドを分散媒とする場合に比べて、懸濁液の粘度が低く抑えられるため、粉末状物質の配合割合をより高めることが可能となる。
【0015】
ここで、ジアセチルモノアシルグリセリンに懸濁させる「粉末状物質」としては、医薬成分、生薬成分、健康食品成分、栄養補助成分の粉末を、特に限定することなく使用することができる。例えば、ローヤルゼリー、酢、プロポリス、ブルーベリー、アガリクス、ウコン、オリゴ糖、食物繊維、水溶性ビタミン、カルシウム等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の効果として、トリグリセリドを含有せず、難油溶性の粉末状物質を分散性よく、且つ、高い配合割合で含有させることが可能なソフトカプセル用の充填組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】粉末状物質を添加する前後での粘度変化について、実施例1と比較例とを対比したグラフである。
【図2】粉末状物質を添加する前後での粘度変化について、実施例2と比較例とを対比したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセル用の充填組成物(以下、単に「充填組成物」と称する)について説明する。本実施形態の充填組成物は、粉末状物質を懸濁させたジアセチルモノアシルグリセリンを含有し、トリグリセリドを含有しないものである。
【0019】
より詳細には、ジアセチルモノアシルグリセリンは難油溶性の粉末状物質の分散媒であり、本実施形態の充填組成物は、ジアセチルモノアシルグリセリン、及び、粉末状物質に加え、分散剤を含有している。
【0020】
ここで、分散剤としては、ミツロウ等のワックス類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油など、公知の分散剤を特に限定なく使用することができる。
【0021】
かかる充填組成物は、次のように調製する。まず、ジアセチルモノアシルグリセリン及び分散剤を加熱し、完全に溶解させた後に常温まで放冷する。この分散媒と分散剤との混合溶液に、粉末状物質を投入し、十分に混合して懸濁液とする。最後に、懸濁液を減圧下で脱泡処理する。
【実施例】
【0022】
粉末状物質として、ローヤルゼリーの乾燥粉末を使用し、分散媒としてジアセチルモノアシルグリセリンを使用した実施例1と、分散媒としてトリグリセリドであるサフラワー油を使用した比較例1−1及び比較例1−2について、上記と同様に充填組成物を調製し対比した。ここで、粉末状のローヤルゼリーとしては、60メッシュ(目開き220μm)を通過した粉末を使用した。また、ジアセチルモノアシルグリセリンとしては、理研ビタミン株式会社製、ポエムG−002を使用した。このポエムG−002は常温で液体であり、脂肪酸はラウリン酸である。また、分散剤として、ミツロウ、及び、グリセリンモノステアリン酸エステルを添加した。表1に、実施例1、比較例1−1、及び比較例1−2の組成(重量%)を示す。また、分散媒と分散剤との加熱溶解温度は、分散剤の融点より高い80℃とした。
【0023】
ここで、比較例1−1と比較例1−2はローヤルゼリーの配合割合で相違し、比較例1−1より比較例1−2の方がローヤルゼリーの配合割合が大きい。また、比較例1−2はローヤルゼリーの配合割合の増加に伴い、分散媒及び分散剤の配合割合が比較例1−1より減少している。一方、実施例1は、比較例1−2と分散媒の種類が相違するが、各成分の配合割合は比較例1−2と同一である。なお、充填組成物における分散剤の割合は、比較例1−1では10重量%、比較例1−2及び実施例1では5重量%である。
【0024】
【表1】

【0025】
調製された充填組成物について、次のように、分散安定性、及び、充填性の評価を行った。
【0026】
<分散安定性>
充填組成物10gを、20mlのサンプル瓶に入れ、40℃に保持した恒温槽内で100時間放置し、相分離の有無を目視で確認した。相分離が全く観察されなかった場合を「○」、高さ1mm未満の分散媒相の分離が確認された場合を「△」、高さ1mm以上の分散媒相の分離が確認された場合を「×」として評価した。評価結果を表1に併せて示す。
【0027】
<充填性>
粉末状物質を添加する前の分散媒と分散剤の混合溶液、及び、粉末状物質を添加し混合した後の懸濁液について、粘度を測定した。ここで、粘度測定は、B型粘度計を使用し(No.4ローター,回転速度6rpm)、測定温度25℃で行った。そして、ロータリーダイ式成形においてカプセル皮膜に充填組成物を充填しやすい流動性を考慮し、懸濁液の粘度が40000mPa・s以下の場合を「○」、40000mPa・sを超えるが50000mPa・s以下の場合を「△」、50000mPa・sを超える場合を「×」で評価した。評価結果を表1に併せて示すと共に、粉末状物質を添加する前後の粘度変化を、図1にグラフ化して示す。
【0028】
表1に示すように、分散媒がサフラワー油である比較例1−1と比較例1−2とを対比すると、ローヤルゼリーの割合が35重量%である比較例1−1では、分散性及び充填性の評価は共に「○」であったが、ローヤルゼリーの割合を50重量%に増加させた比較例1−2では、分散性、充填性ともに低下した。一方、実施例2は、組成は比較例1−2と同一であるが、分散媒をジアセチルモノアシルグリセリンとすることにより、分散性、充填性は共に「○」であった。特に、図1から明らかなように、比較例1−2と実施例2は、分散媒と分散剤の混合溶液の粘度については大差はなかったものの、粉末状物質を添加した後の懸濁液の粘度は、比較例1−2では65000mPa・sと大きく増加したのに対し、実施例1では懸濁液の粘度は30000mPa・sであったのは興味深い。このように、分散媒としてジアセチルモノアシルグリセリンを使用した場合は、粉末状物質の配合割合の増加に伴い良好な分散性が保持されることに加え、粉末状物質の配合割合の増加に伴う粘度の増加が小さく、充填性が損なわれにくいことが確認された。
【0029】
次に、粉末状物質として、粉末状の酢(乾燥粉末)を使用し、分散媒としてジアセチルモノアシルグリセリンを使用した実施例2と、分散媒としてトリグリセリドであるサフラワー油を使用した比較例2について、上記と同様に充填組成物を調製して対比した。ここで、粉末状の酢としては、80メッシュ(目開き175μm)を通過した粉末を使用した。また、ジアセチルモノアシルグリセリンとしては、上記と同様にポエムG−002を使用した。また、分散剤として、同様にミツロウ、及び、グリセリンモノステアリン酸エステルを添加した。表2に、実施例2及び比較例2の組成(重量%)を示す。ここで、実施例2と比較例2とは、分散媒の種類のみが相違し、配合割合は同一である。なお、充填組成物における分散剤の割合は、何れも10重量%である。
【0030】
【表2】

【0031】
調製された充填組成物について、上記と同様に、分散安定性、及び、充填性の評価を行った。その結果を表2に併せて示すと共に、粉末状物質を添加する前後の粘度変化を図2にグラフ化して示す。
【0032】
表2及び図2から明らかなように、分散媒がサフラワー油である比較例2は、分散性は良好であるものの懸濁液の粘度が高く充填性にやや劣るものであった。これに対し、分散剤がジアセチルモノアシルグリセリンである実施例2は、比較例2と同一割合の粉末状物質を添加したものでありながら、懸濁液の粘度は比較例2より小さく、充填性が良好であった。これにより、粉末状物質が酢である場合も、粉末状物質がローヤルゼリーである場合と同様に、分散媒としてジアセチルモノアシルグリセリンを使用することによって、良好な分散性を保ちつつ、粘度の上昇を抑えて粉末状物質の配合割合を高めることができることが確認された。
【0033】
また、粉末状物質として酢を用いることにより、分散媒であるジアセチルモノアシルグリセリンと、これに懸濁している粉末状物質とが共にアセチル基を有する。これにより、粉末状物質と分散媒との親和性が高く、粉末状物質の分散性が良好で、且つ、配合割合の高い充填組成物を得ることができる。加えて、酢の有効作用が、分散媒であるジアセチルモノアシルグリセリンのアセチル基によって、より高められることが期待される。なお、酢としては、香酢、黒酢、米酢、玄米酢などの穀物酢、リンゴ酢、ブドウ酢などの果実酢を、特に限定なく使用可能である。
【0034】
上記のように、本実施形態のソフトカプセル用の充填組成物によれば、トリグリセリドを使用しないソフトカプセル用の充填組成物を提供することができ、ひいては、健康志向の高い需要者にも受け容れられやすいソフトカプセルを提供することができる。
【0035】
加えて、ジアセチルモノアシルグリセリンを分散媒として使用することにより、粉末状物質を分散性よく懸濁させることができると共に、トリグリセリドを分散媒とする場合に比べて、懸濁液の粘度を低く抑えることができ、粉末状物質の配合割合を高めることができる。
【0036】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0037】
例えば、上記の充填組成物は、カプセル皮膜に充填してソフトカプセルとすることができる。ここで、カプセル皮膜としては、ゼラチンを基剤とするものを使用することができるが、これに限定されず、本出願人を含め種々提案されている、非ゼラチンのソフトカプセル皮膜を使用することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特許第3559277号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状物質を懸濁させたジアセチルモノアシルグリセリンを含有し、トリグリセリドを含有しない
ことを特徴とするソフトカプセル用の充填組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−207809(P2011−207809A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77221(P2010−77221)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(503315676)中日本カプセル 株式会社 (9)
【Fターム(参考)】