説明

ソース類

【課題】油脂及び乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えたにも拘わらず、乳風味及びソース類中の油脂を保持したソース類を提供する。
【解決手段】油脂1%以上及び乳蛋白質を含む蛋白質0.5〜6%を配合したソース類において、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合し、粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、pHが3.8〜4.5、平均粒子径が40μm以下である水中油型乳化物からなる加工液卵白であって、該加工液卵白が乳酸発酵されてなる加工液卵白を配合し、かつ、前記乳蛋白質と前記加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が2:8〜8:2であることを特徴とするソース類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂及び/又は食肉由来の油脂、並びに乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えたにも拘わらず、乳風味及びソース類中の油脂が保持されたソース類に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、世界的に牛乳、チーズ、バター、ヨーグルトといった乳製品の消費量が増大する傾向にある。例えば、世界一の人口を有する中国における一人当たりの牛乳消費量は、食の西洋嗜好化に伴い、2001年の2.2キロから2005年には8.8キロと、4年間で4倍に増えた(2006年、社団法人韓国貿易協会調べ)。しかしながら、乳蛋白質はリン含有量が高いため、乳製品の消費増大に伴うリンの過剰摂取が、腎機能の低下、副甲状腺機能の亢進、カルシウムの吸収抑制等を引き起こす恐れがあり問題を生じている。
【0003】
そこで、本発明者は、普通牛乳における乳蛋白質あたりのリン含有量が3%であるのに対し、生卵白における卵白蛋白質あたりのリン含有量が0.1%と乳蛋白質より30倍低いことに着目し(五訂日本食品標準成分表より)、例えば、ホワイトソース等の油脂及び乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えることができれば上記問題の解決が期待できると考えた。
【0004】
しかしながら、油脂及び乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換える際に2つの問題があった。1つは、乳蛋白質の配合量が減ることと硫化水素臭に代表される卵白蛋白質の風味が付与されることで、乳風味を損ねてしまう問題、もう1つは、レトルト加熱等の高温処理を行った際、乳蛋白質は油脂の保持能力を有しているのに対し、卵白蛋白質は変性により油脂の保持能力が低下し、ソース類からの油脂分離が外観を損ねてしまう問題があった。
【0005】
乳風味を保持する手段として、本出願人は、特開2006−320288号公報(特許文献1)において乳酸発酵卵白を含む呈味改善材に係る発明を出願しており、油脂及び乳蛋白質を配合したソース類に前記乳酸発酵卵白を配合することで、乳蛋白質本来の風味を損なうことなくしかもより濃厚にすることに成功している。しかしながら、ソース類中の油脂は十分に保持することはできなかった。
【0006】
このように、前記乳酸発酵卵白が、乳風味の保持能力に加え油脂の保持能力を有するならば、油脂及び乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えることが可能になる。卵白は、卵白蛋白質を主成分としていることから、強力ではないが乳化力を有する。この卵白の乳化力を利用し、例えば、特開平8−56571号公報(特許文献2)には、高温下の保存においても高い乳化安定性を有する水中油型乳化物が提案されている。しかしながら、特許文献2でいう高温下の保存とは、せいぜいマヨネーズやスプレッド等の水中油型乳化物が流通過程で保管される程度の温度、具体的には、30℃程度のことである。したがって、加熱調理や加熱処理等の加熱殺菌等、加熱処理を伴うソース類に卵白を配合すると、卵白が加熱変性し、加工食品に配合した食用油脂が分離し、ソース類の外観を損なうという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2006−320288号公報
【特許文献2】特開平8−56571号公報
【特許文献3】特開昭53−9353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上より、油脂及び乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えたにも拘わらず、乳風味及びソース類中の油脂を保持する方法は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく卵白の加工方法について鋭意研究を重ねた。その結果、食用油脂を含有させた卵白混合液を特定処理した加工液卵白、さらに当該加工液卵白を乾燥した加工乾燥卵白をソース類に特定量配合するならば、意外にも、乳風味及びソース類中の油脂の保持能力を有し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)食用油脂及び/又は食肉由来の油脂を1%以上、並びに乳蛋白質を含む蛋白質を0.5〜6%配合したソース類において、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合し、粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、pHが3.8〜4.5、平均粒子径が40μm以下である水中油型乳化物からなる加工液卵白であって、該加工液卵白が乳酸発酵されてなる加工液卵白を配合し、かつ、前記乳蛋白質と前記加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が2:8〜8:2であるソース類、
(2)前記加工液卵白が、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合した卵白混合液をpHが3.8〜4.5となるように乳酸発酵し、次いで加熱殺菌し、該殺菌発酵液を30〜55℃に冷却した後、均質化処理を施して得られる加工液卵白である(1)記載のソース類、
(3)前記加工液卵白に乾燥処理を施して得られる加工乾燥卵白を配合した(1)又は(2)記載のソース類、
(4)腎臓病患者用である(1)乃至(3)記載のソース類、
である。
【0011】
また、特開昭53−9353号公報(特許文献3)には、卵を用いたペースト状醗酵食品の製造方法に関し、卵として卵白が例示され、乳酸発酵卵白を製した後に当該乳酸発酵卵白と食用油脂とを均質化処理したペースト状発酵食品が示唆されている。しかしながら、得られる発酵食品は、食用油脂を本願発明と同程度含有させた場合、当該発酵食品を食用油脂を配合したソース類等に配合すると、加熱調理や加熱処理等の加熱処理を伴うためか、油脂が分離し、特許文献1の乳酸発酵卵白と同様、ソース類の外観を損なうという問題があった。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えたにも拘わらず、ソース類が本来有する乳風味及びソース類中の油脂が保持されたソース類を提供することが出来る。これにより、食品市場におけるソース類の更なる需要拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特に規定しない限り、本発明において「%」は「質量%」、「比」は「質量比」をそれぞれ意味する。
【0014】
本発明は、食用油脂及び/又は食肉由来の油脂を1%以上、並びに乳蛋白質を含む蛋白質を0.5〜6%配合したソース類において、乳蛋白質と特定の加工液卵白及び/又は加工乾燥卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が2:8〜8:2となるように配合したソース類に係る発明であるが、前記加工液卵白の製造方法に特徴を有することから、説明上、まず本発明で用いる加工液卵白の代表的な製造方法を中心に詳述する。
【0015】
本発明のソース類に用いる加工液卵白は、卵白及び食用油脂を主成分とした加工液卵白であって、その製造方法に特徴を有する。つまり、本発明で用いる加工液卵白は、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合した卵白混合液をpHが3.8〜4.5となるように乳酸発酵し、次いで加熱殺菌し、該殺菌発酵液を30〜55℃に冷却した後、均質化処理を施すことを特徴とし、油脂及び乳蛋白質を配合したソース類において、乳蛋白質の一部を前記加工液卵白に置換えたにも拘わらず、乳風味及びソース類中の油脂が保持されたソース類が得られる。
【0016】
上記加工液卵白で用いる卵白蛋白質としては、水分を除く卵白成分の9割が卵白蛋白質であり、例えば、鶏等の鳥類の卵を割卵し卵黄を分離したものであり工業的に得られる生卵白、またこれを殺菌、凍結したもの、濃縮又は希釈したもの、特定の成分(リゾチームやアビジン等)を除去したもの、乾燥させたもの等を用いると良い。また本発明においては、効果に影響を及ぼさない程度に卵黄やその他の卵由来の成分を含んでいても差し支えない。
【0017】
また、上記加工液卵白で用いる食用油脂としては、食用に供される油脂であればいずれのもので良い。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、胡麻油、魚油、乳脂、卵黄油等の動植物油脂又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂等が挙げられる。
【0018】
本発明のソース類に用いる加工液卵白は、まず、卵白及び食用油脂を配合した卵白混合液を調製する。卵白混合液に対する卵白の配合量は卵白蛋白質換算で2〜8%、好ましくは3〜8%である。つまり、卵白蛋白質の原料として生卵白やこれを殺菌した殺菌卵白を用いた場合、五訂食品成分表2001(女子栄養大学出版部発行)によると生卵白は水分が88.4%、蛋白質が10.5%であることより、卵白混合液に対し生卵白を19〜76%、好ましくは28.5〜76%配合することとなる。また、卵白混合液に対する脂質の配合量は5〜20%、好ましくは5〜15%である。本発明の加工液卵白は、前記卵白混合液を後述する乳酸発酵により発酵させたものである。したがって、卵白混合液中の卵白蛋白質及び脂質の配合量は、本発明のソース類に用いる加工液卵白中の配合量となる。
【0019】
卵白混合液中の卵白蛋白質の配合量が前記範囲より少ない、あるいは脂質の配合量が前記範囲より少ないと、得られる加工液卵白は、加熱処理等の高温処理を施した時、油脂の保持能力を有さず好ましくない。一方、卵白蛋白質の配合量が前記範囲より多いと、乳酸発酵前の殺菌を兼ねた加熱処理において、全体がセットしてしまう場合があり、その後の乳酸発酵が出来ない場合がある。また、脂質の配合量が前記範囲より多いと、乳酸発酵が困難となる場合がある。
【0020】
卵白混合液は、次工程で乳酸発酵処理を施すが、乳酸発酵の効率を改善する目的で一般的に添加されている乳酸菌資化性糖類、発酵促進物質及びpH調整剤を卵白混合液に配合させることが好ましい。また、卵白にはリゾチーム等の微生物増殖抑制因子を配合するが、乳酸発酵を円滑に促進する目的で、卵白混合液の加熱殺菌も兼ねて前記因子の失活処理を施すことが好ましい。
【0021】
乳酸菌資化性糖類としては、例えば、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン等)、二糖類(ラクトース、マルトース、スクロース、セルビオース、トレハロース等)、オリゴ糖類(特に3〜5個の単糖類が結合しているもの)、ブドウ糖果糖液糖等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて卵白混合液に配合させることが出来る。また、卵白混合液に対する乳酸菌資化性糖類の配合量は、1〜15%が好ましく、2〜10%がさらに好ましい。乳酸菌資化性糖類の配合量が前記範囲より少ないと、乳酸菌資化性糖類不足により発酵が十分に進行しない場合があり、一方、前記範囲より多いと浸透圧上昇により発酵が進行しにくくなる傾向がある。
【0022】
発酵促進物質としては、発酵を促進するための成分、例えば、ビタミン(ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン等)、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、又は核酸等を含んだものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、カゼイン加水分解物、卵黄、脱脂粉乳、ビタミン類、補酵素類、ミネラル類等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて卵白混合液に配合させることが出来る。また、卵白混合液に対する発酵促進物質の配合量は、1〜20%が好ましく、2〜20%がさらに好ましい。発酵促進物質の配合量が前記範囲より少ないと、発酵促進としての機能を発揮し難く、一方、前記範囲より多くしたとしても配合量に応じた発酵促進機能が期待し難く経済的でない。
【0023】
pH調整剤としては、卵白混合液中の卵白がアルカリ性を呈すること、及び乳酸発酵の至適pHが5.0〜7.5であることより、酸剤を用いることが好ましい。酸剤としては、具体的には、例えば、乳酸、クエン酸、酢酸、塩酸等が挙げられ、本発明は乳酸発酵処理を施すことから、乳酸が好ましい。なお、pH調整剤の添加量は、卵白混合液が上記至適pHとなるように添加すれば良い。また、乳酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤と組み合わせても良い。
【0024】
本発明のソース類に用いる加工液卵白は、乳酸発酵の効率を改善する目的で一般的に添加されている乳酸菌資化性糖類及び発酵促進物質を配合し、pH調整剤により乳酸発酵の至適pHに調整した卵白混合液を、微生物増殖抑制因子の失活と加熱殺菌を兼ねて加熱処理を施すと良い。加熱処理は、卵白蛋白質が加熱変性される程度の条件で行えば良く、具体的には、60〜110℃が好ましく、70〜95℃がより好ましい。前記範囲より加熱温度が低いと卵白蛋白質中に存在する微生物増殖抑制因子の失活や殺菌が不十分で乳酸発酵が不十分となる場合があり、前記範囲より加熱温度が高いと褐変や焦げ付きにより工業的利用が困難になる場合がある。また、処理時間は、加熱温度にもよるが、1〜60分が好ましく、5〜40分がより好ましい。卵白混合液の加熱処理は、加熱による卵白蛋白質の局部的な凝固物の発生を防止するため、流動性を持たせながら行うことが好ましい。例えば、攪拌機で攪拌したり、プレートヒーターで流しながら行う等の方法で行うと良い。
【0025】
次に、得られた卵白蛋白質及び食用油脂を配合した卵白混合液を乳酸発酵の至適温度、具体的には、15〜50℃に冷却した後、pHが3.8〜4.5となるように乳酸発酵する。上記食用油脂を配合した卵白混合液を乳酸発酵し、その後の工程を行って得られる本発明で用いる加工液卵白は、粘度が800mPa・s以上となり、高温処理したとしても油脂の保持能力を有する。これに対し、後述の試験例で示しているとおり食用油脂を配合しない卵白混合液を本発明と同様、乳酸発酵させ均質化処理して加工液卵白を製した後、当該加工液卵白に食用油脂を添加して再度、均質化処理したものは、粘度が800mPa・sを下回り、高温処理した場合の油脂の保持能力を有さず好ましくない。また、乳酸発酵もpHが4.5以下となるように行わないと、高温処理を施した時、油脂の保持能力を有さず好ましくない。なお、乳酸発酵が進行するとpHが徐々に低下するが、pHが低くなり過ぎると酸により逆に乳酸菌が死滅し発酵効率が低下し、実質的にpHを3.8より低くすることが出来ない。
【0026】
乳酸発酵に用いる乳酸菌は、特に限定するものではなく、一般的にヨーグルトやチーズの製造に利用される例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus bulgaricus等)、ストレプトコッカス属(Streptococcus thermophilus、Streptococcus diacetylactis等)、ラクトコッカス属(Lactococcus lactis等)、ロイコノストック属(Leuconostoc cremoris等)、エンテロコッカス属(Enterococcus faecalis)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium Bbifidum等)等が挙げられ、本発明の乳酸発酵は、これらの乳酸菌の1種又は2種以上を含んだ乳酸菌スターターを用いると良い。また、乳酸発酵の条件も、一般的な条件で行うと良く、具体的には、例えば、乳酸菌スターターを1mLあたり好ましくは10〜10、さらに好ましくは10〜10になるように卵白混合液に添加し、15〜50℃で8〜72時間発酵すると良い。
【0027】
次に、得られた乳酸発酵液を乳酸菌を死滅させるために加熱殺菌し殺菌発酵液を調製する。加熱殺菌は、具体的には、70〜140℃で2秒〜30分行うことが好ましく、70〜95℃で30秒〜20分行うことがより好ましい。
【0028】
本発明のソース類に用いる加工液卵白は、上記得られた殺菌発酵液を30〜55℃、好ましくは35〜50℃に冷却した後、均質化処理を施す必要がある。殺菌発酵液を冷却せずに、あるいは冷却しても冷却温度が前記範囲より高い状態で均質化処理を施すと、得られる加工液卵白は、平均粒子径が40μmより大きく、高温処理を施した時、油脂の保持能力を有さず好ましくない。一方、冷却温度が前記範囲より低い状態で均質化処理を施すと、得られる加工液卵白は、粘度が800mPa・sより低く、高温処理を施した時、油脂の保持能力を有さず好ましくない。
【0029】
冷却は、工業的規模での生産性を考慮し冷却水を用いて行うと良い。また、均質化処理は、加工液卵白の平均粒子径が40μm以下となるようなせん断力に優れた均質化処理機であればいずれのものでも良い。例えば、高圧ホモゲナイザーを用いる場合は、工業規模での生産性を考慮し、圧力5〜100MPa(ゲージ圧)で処理することが好ましく、8〜70MPaで処理することがより好ましい。
【0030】
均質化処理を施した上記加工液卵白は、常法に則り、室温(30℃以下)以下に冷却し、細菌面を考慮し10℃以下で冷蔵保管する。
【0031】
以上の製造方法で得られた加工液卵白は、卵白蛋白質2〜8%(好ましくは3〜8%)及び食用油脂5〜20%(好ましくは5〜15%)を配合し、粘度が800mPa・s以上(好ましくは1,000mPa・s以上)(品温10℃)、pHが3.8〜4.5、平均粒子径が40μm以下(好ましくは30μm以下)である水中油型乳化物からなる加工液卵白であり、当該加工液卵白が乳酸発酵されたものである。これにより、本発明のソース類に用いる加工液卵白は、レトルト処理等の高温処理を施したとしても油脂の保持能力を有している。ここで、加工液卵白が乳酸発酵されたものとは、加工液卵白の製造工程の何れかで乳酸発酵工程を含んでいるということである。
【0032】
これに対し、後述の試験例で示しているとおり卵白蛋白質を2〜8%及び食用油脂を5〜20%配合した卵白混合液を乳酸発酵させることなくpHを3.8〜4.5となるように調整し、その後、均質化処理を施したものは、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合し、粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、pHが3.8〜4.5、平均粒子径が40μm以下である水中油型乳化物からなる加工液卵白が得られる。しかしながら、上述した加工液卵白は、加工液卵白を乳酸発酵されていないためか、乳風味を保持しておらず、また、本発明で用いる加工液卵白と同様の高温処理を施した時、油脂の保持能力を有したものでなく好ましくない。
【0033】
また、本発明で用いる加工液卵白に、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の増粘剤を安定化剤として添加した場合、本発明で用いる加工液卵白の上記粘度は、当該増粘剤を添加していない時の粘度である。また、粘度は品温10℃の時の粘度であり、BH形粘度計を用いローター:No.5、回転数:20rpmの条件で測定し、2回転後の示度により算出した値である。
【0034】
また、平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装(株)製、商品名「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて、試料をセットしてから超音波をかけることなく1.5分後に測定開始し、2.5分後に測定終了して得られた値である。
【0035】
本発明で用いる加工液卵白において、粘度の上限及び平均粒子径の下限については、特に規定していないが、工業的規模での生産性、並びに卵白蛋白質及び脂質の配合量より、上述した方法で得られる加工液卵白は、粘度が20,000mPa・s以下(品温10℃)、平均粒子径が1μm以上程度である。
【0036】
本発明は、長期保管を考慮し、上記本発明で用いる加工液卵白に、必要に応じデキストリン等の賦形剤や清水等の水系媒体を添加した後、乾燥処理を施した加工乾燥卵白としても良い。乾燥処理は、例えば、スプレードライ、フリーズドライ、パンドライ等、任意の方法を採用することが出来る。特に、スプレードライは、瞬時に乾燥されるためか、加工乾燥卵白中の食用油脂の油滲みが殆どなく、上述した本発明で用いる加工液卵白と同様、高温処理を施したとしても油脂の保持能力を有したものが得られ易いことから好ましい。
【0037】
本発明のソース類は、食用油脂及び/又は食肉由来の油脂、乳蛋白質、並びに前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白を配合したものである。本発明のソース類の油脂配合量は、1%以上であり2%以上が好ましい。油脂配合量が前記範囲より少ない場合は、油脂の分離が問題になり難い場合がある。また、油脂配合量には前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白由来の油脂も含まれる。このような油脂を配合した本発明のソース類としては、例えば、ホワイトソース、クリームソース、クリームスープ、チーズソース、カルボナーラソース、ホワイトシチュー、グラタンソース、ドリアソース、ポタージュ、チャウダー、バターソース、ヨーグルトソース等が挙げられ、上記で例示したとおりスープも含まれる。また、本発明のソース類の態様は、前記加工乾燥卵白が乳風味の増強及びソース類中の油脂の保持能力を有していることから、液状や半固形状だけでなく、固形ルー状(例えば、シチュールー)、粉末状(例えば、クリームスープの粉末状組成物)のものを水戻しして使用しても良い。
【0038】
本発明のソース類に用いる食用油脂は、食用に供される油脂であればいずれのもので良い。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、胡麻油、魚油、乳脂、卵黄油等の動植物性油脂又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂が挙げられる。また、本発明のソース類に用いる食肉由来の油脂は、食用に供される油脂であればいずれのもので良い。例えば、牛、豚、鶏、羊、馬、七面鳥、鴨、ガチョウ、鮪、鰤、秋刀魚等の食肉に含まれる油脂が挙げられる。
【0039】
本発明のソース類に用いる乳蛋白質は、特に限定されないが、例えば、生乳、脱脂乳、ホエー、脱塩ホエー、カゼイン及び、これらの濃縮物、乾燥物、発酵物、化学的処理を施して得られる加水分解物、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素的処理等を施して得られる加水分解物等を挙げることができる。
【0040】
本発明のソース類に用いる蛋白質は、食品に供される蛋白質であれば特に限定するものではないが、乳蛋白質以外に、卵黄、卵白、全卵、ホスフォリパーゼA処理卵黄等の卵蛋白質、鮪、鰤、秋刀魚等の魚肉蛋白質、牛、豚、鶏、羊、馬、七面鳥、鴨、ガチョウ等の獣肉蛋白質、コラーゲン等の動物性蛋白質、大豆、小麦等の植物性蛋白質及び、これらに化学的処理を施して得られる加水分解物、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素的処理等を施して得られる加水分解物等を挙げることができる。
【0041】
本発明のソース類の蛋白質配合量は、0.5〜6%であり、1〜4%が好ましい。配合量が前記範囲より少ない場合は、乳蛋白質の配合量が少なくなるため、乳風味やソース類中の油脂の保持能力低下が問題になり難い場合がある。配合量が前記範囲より多い場合は、卵白蛋白質の加熱凝集等が発生する場合がある。
【0042】
本発明のソース類に用いる前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白の配合量は、ソース類全体に対し卵白蛋白質換算で0.1〜4%であり、0.2〜3.2%が好ましい。配合量が前記範囲より少ない場合は、本発明の効果である加熱処理時の油脂の保持能力が発揮されない場合があり、前記範囲より配合量を多くしたとしても、それ以上の効果が期待できず経済的でない場合がある。
【0043】
本発明のソース類の乳蛋白質と前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白(卵白蛋白質換算)の配合比は、2:8〜8:2であり、3:7〜7:3が好ましく、4:6〜6:4がさらに好ましい。乳蛋白質の配合比が前記範囲より少ない場合は、乳風味が弱くなる恐れがある。乳蛋白質の配合比が前記範囲より多い場合は、リン含有量の低減効果が十分に期待できない場合がある。
【0044】
1日あたりのリン摂取量は、厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2005年版)」によると、成人1日あたりの目安量が男性1050mg、女性900mgで、上限量の3500mgを超えるとリン過剰症の発症等が問題となると規定されている。本発明のソース類におけるリン含有量は、特に限定されず、乳蛋白質を卵白蛋白質に置換えることでリン摂取量が低減できればよいが、ソース類全体に対するリン含有量を20〜80%に低減することが好ましく、30%〜70%がより好ましい。低減後のリン含有量の割合が前記範囲より少ない場合は、乳風味が弱くなる恐れがある。低減後のリン含有量の割合が前記範囲より多い場合は、リン含有量の低減効果が十分に期待できない場合がある。なお、リン含有量は、試料を525℃で乾式灰化後、1%塩酸水溶液に溶解抽出しバナドモリブデン酸吸光度法により測定した。
【0045】
また、本発明のソース類は、リンの排泄に負担がかかるためにリンの摂取量が制限される腎臓病患者用に適しており、特に持続式携行型腹膜透析(CAPD)患者用に好ましい。腹膜を介して血液を透析する必要がある持続式携行型腹膜透析(CAPD)患者の場合、腹膜透析を介して蛋白質が対外に流出してしまうため、蛋白質あたりのリン含有量を低減した食事が好ましく、蛋白質1.1〜1.3g/体重kg/日、リン700mg/日と推奨されている(日腎会誌39(1)、1997、25ページより)。上記数値によれば、例えば体重60kgのヒトの1日あたりのリン摂取量は、蛋白質1gあたり約10mgとなるため、持続式携行型腹膜透析(CAPD)患者用ソース類の蛋白質1gあたりのリン含有量は、2〜15mgが好ましく、2〜12mgがより好ましい。蛋白質1gあたりのリン含有量が前記範囲より少ない場合は、乳風味が弱くなる恐れがある。蛋白質1gあたりのリン含有量が前記範囲より多い場合は、リン含有量の低減効果が十分に期待できない場合がある。
【0046】
本発明のソース類は、本発明のソース類の必須原料である食用油脂及び/又は食肉由来の油脂、乳蛋白質を含む蛋白質、並びに前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白以外の原料を、本発明の効果を損わない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、食酢、食塩、砂糖、醤油、味噌、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、動植物由来のエキス類、各種ペプチド、アミノ酸、核酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、タマネギ、トマト、カボチャ、ホウレンソウ、ニンジン、キャベツ、ダイコン、ゴボウ、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ等の野菜、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化剤、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、ペクチン、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の増粘剤、小麦粉等の穀粉、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、各種ペプチド、香辛料、色素等が挙げられる。
【0047】
本発明のソース類における高温処理とは、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、特に、過度な熱がかかるにも関わらず油分離を生じないので、長期常温保存を可能とするために、当該食品の中心部の品温を120℃、4分間以上又はこれと同等以上の効力を有する条件で加熱したいわゆるレトルト処理においてさらに好ましい。なお、高温処理の上限の温度としては、150℃以下が好ましい。高温処理の方法は、例えば、加熱調理や加熱殺菌を目的に、レトルト加熱、蒸煮、湯煎、高温短時間加熱等、加工食品で一般的に行われている高温処理方法をいう。
【0048】
本発明のソース類の製造方法は、本発明で用いる食用油脂及び/又は食肉由来の油脂、乳蛋白質を含む蛋白質、並びに前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白を配合し、常法に則り製造すれば良い。
【0049】
例えば、まず、食用油脂及び/又は食肉由来の油脂、乳蛋白質を含む蛋白質、並びに前記加工液卵白及び/又は前記加工乾燥卵白を配合した調理済み、あるいは半調理のソースを製する。次いで、得られたソースを耐熱性容器、例えば、缶、レトルトパウチ、好ましくはアルミニウム箔、有機樹脂塗工ポリエチレンテレフタレート(呉羽化学工業(株)製、商品名「ベセーラ」)等によるガスバリア層を有したガスバリア層含有耐熱性パウチ、あるいは自立性を有したスタンディングパウチ等に充填密封し、当該密封物を110〜135℃で5〜60分間高温処理を施す等の方法が挙げられる。
【0050】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0051】
[本発明品用加工液卵白の製造例1]
生卵白34部(卵白蛋白質3.6部、リン含有量4×10−3部)、菜種油10部、スクロース6部、生卵黄0.2部(リン含有量1×10−3部)、酵母エキス0.05部、50%乳酸0.15部及び清水49.5部からなる卵白混合液100部(pH6.8)を攪拌、調製した。得られた卵白混合液を高速で攪拌させながら85℃で30分間加熱した後、冷水により35℃まで冷却し、次いで乳酸菌スターター0.01部(Lactobacillus bulgaricus、Streptococcus thermophilus)を添加し、35℃で48時間発酵しpH4.2とした。次に、発酵液を85℃で5分間加熱殺菌した後、冷水により40℃まで冷却し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理し、冷水により品温10℃に冷却し本発明品用加工液卵白1を製した。
【0052】
得られた本発明品用加工液卵白1は、卵白蛋白質3.6%、リン5×10−3%、食用油脂を10%含有し、粘度が2,200mPa・s(品温10℃)、pHが4.2、平均粒子径が25μmである水中油型乳化物からなり、加工液卵白が乳酸発酵されたものである。
【0053】
[本発明品用加工液卵白の製造例2]
生卵白50部(卵白蛋白質5.3部、リン含有量5×10−3部)、菜種油12部、スクロース6部、生卵黄0.2部(リン含有量1×10−3部)、酵母エキス0.05部、50%乳酸0.15部及び清水31.3部からなる卵白混合液100部(pH7.0)を攪拌、調製した。得られた卵白混合液を高速で攪拌させながら75℃で15分間加熱した後、冷水により35℃まで冷却し、次いで乳酸菌スターター0.01部(Lactobacillus bulgaricus、Streptococcus thermophilus)を添加し、35℃で24時間発酵しpH4.4とした。次に、発酵液を85℃で5分間加熱殺菌した後、冷水により45℃まで冷却し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて30MPaの圧力で処理し、冷水により品温10℃に冷却し本発明品用加工液卵白2を製した。
【0054】
得られた本発明品用加工液卵白2は、卵白蛋白質5.3%、リン6×10−3%、食用油脂を12%含有し、粘度が7,200mPa・s(品温10℃)、pHが4.4、平均粒子径が18μmである水中油型乳化物からなり、加工液卵白が乳酸発酵されたものである。
【0055】
[本発明品用加工乾燥卵白の製造例3]
製造例1で得られた加工液卵白(固形分20%、卵白蛋白質3.6%、リン5×10−3%)20部、デキストリン2部及び清水78部を混合した後、当該混合液を送風温度160℃、排風温度65℃の条件でスプレードライし本発明品用加工乾燥卵白3(固形分96%)を製した。
【0056】
得られた本発明品用加工乾燥卵白3は、卵白蛋白質11.5%、リン16×10−3%、食用油脂32%を含有し、pH4.2であり、乳酸発酵された加工液卵白を粉末化したものである。
【0057】
[比較品用加工液卵白の製造例1]
本発明品用加工液卵白の製造例1において、菜種油10部を除いた配合で、本発明品用加工液卵白の製造例1の全工程と同様の方法で食用油脂を含有しない乳酸発酵させた加工液卵白を製した後、当該加工液卵白90部に菜種油10部を添加混合し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理し、冷水により品温10℃に冷却し比較品用加工液卵白1を製した。
【0058】
得られた比較品用加工液卵白1は、卵白蛋白質を3.6%、リン5×10−3%、食用油脂を10%含有し、粘度が700mPa・s(品温10℃)、pHが4.2、平均粒子径が22μmである水中油型乳化物からなり、加工液卵白が乳酸発酵されたものである。
【0059】
[比較品用加工液卵白の製造例2]
本発明品用加工液卵白の製造例1において、本発明品用加工液卵白の製造例1と同様の配合で、本発明品用加工液卵白の製造例1の乳酸菌を添加する前までの工程を行った後、50%乳酸でpHを4.2に調整し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理し、冷水により品温10℃に冷却し比較品用加工液卵白2を製した。
【0060】
得られた比較品用加工液卵白2は、卵白蛋白質を3.6%、リン5×10−3%、食用油脂を10%含有し、粘度が1,500mPa・s(品温10℃)、pHが4.2、平均粒子径が21μmである水中油型乳化物からなるものであるが、加工液卵白が乳酸発酵されたものでない。
【0061】
[比較品用発酵乳の製造例]
本発明品用加工液卵白の製造例1において、生卵白34%(卵白蛋白質3.6部)を脱脂粉乳10.6%(蛋白質3.6%)及び清水23.4%に置換えた以外は、製造例1と同様の方法で比較品用発酵乳の調製を行った。
【0062】
得られた比較品用発酵乳は、乳蛋白質を3.6%、リン110×10−3%、食用油脂を10%含有し、pH4.1であり乳酸発酵されたものである。
【0063】
[試験例1]
本発明品用加工液卵白1及び2、並びに比較品用加工液卵白1及び2のいずれかの加工液卵白と、前記発酵乳と食用油脂とを配合した後述のモデルレトルトソースを調製し、リン含有量、高温処理後の油脂分離、乳風味への影響を調べた。つまり、表1の配合表に従い、各加工液卵白及び/又は発酵乳の合計100gを家庭用ミキサー(三洋電機(株)製:SM−L56型 ミキサー PRO Big1200)に投入し、変圧器を接続したもので40V(ボルト)で攪拌させながら菜種油100gを1分間で徐々に注下した後、さらに同回転で5分間処理した。得られた混合液200gに清水200g添加し、上記変圧器を接続したミキサーを用い40ボルトで1分間攪拌して乳化状のモデルソース400gを調製した。得られた乳化状のモデルソース100gを透明のレトルトパウチに充填し、出来る限りヘッドスペースがないように密封した後、120℃で30分間高温処理を施した。得られたモデルレトルトソースについて、下記の評価基準にもとづき乳風味の保持と油脂の分離状態を評価した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
<評価基準>
A:乳風味が保持されている。
B:ほぼ乳風味が保持されている。
C:明らかに乳風味が弱くなっている。
【0067】
<評価基準>
◎:殆ど油脂の分離が観察されない。
○:僅かに油脂分離が観察されるもの問題とならない程度である。
△:少量の油脂が分離している。
×:明らかに油脂が分離している。
【0068】
表1及び表2より、前記乳蛋白質と前記加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が、10:0(比較品用発酵乳)から5:5(本発明品用加工液卵白1、比較品用加工液卵白1又は比較品用加工液卵白2)又は4:6(本発明品用加工液卵白2)になることで、ソース全体に対するリン含有量は約半分にまで低下した。しかしながら、乳酸発酵した油脂不含有の加工液卵白に食用油脂を添加し均質化処理した比較品用加工液卵白1は、平均粒子径が40μm以下であるが、粘度が800mPa・sより低く、モデルレトルトソースに配合した時に少量の油脂が分離していた。また、乳酸発酵していない比較品用加工液卵白2は、粘度も800mPa・s以上であり、平均粒子径も40μm以下であるが、モデルレトルトソースに配合した時に明らかに油脂が分離しており、乳風味も明らかに弱くなっていた。これに対し、油脂含有の状態で乳酸発酵した本発明用加工液卵白1および2は、粘度が800mPa・s以上、平均粒子径が40μm以下であり、モデルレトルトソースに配合したとき油脂が殆ど分離することなくソース中に保持され、乳風味も保持されていた。
【0069】
[試験例2]
本発明品用加工液卵白の製造例1において、生卵白及び菜種油の配合量を変えて下記表の卵白蛋白質及び食用油脂の配合量の加工液卵白を本発明品用加工液卵白の製造例1と同様の方法で調製した。次に、得られた各加工液卵白と、食用油脂とを配合したモデルレトルトソースを調製し、各加工液卵白の卵白蛋白質及び食用油脂の配合量の違いによるレトルトソースの油脂分離への影響を調べた。なお、得られた加工液卵白は、いずれも粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、pHが3.8〜4.5、平均粒子径が40μm以下である水中油型乳化物からなる加工液卵白であって、当該加工液卵白が乳酸発酵されたものである。また、評価試験は、試験例1と同様に目視で行った。
【0070】
【表3】

【0071】
表3より、卵白蛋白質の配合量が2%より少ない加工液卵白、あるいは食用油脂が5%より少ない加工液卵白は、モデルレトルトソースに配合したとき少量あるいは明らかに油脂が分離していた。これに対し卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を含有した加工液卵白は、モデルレトルトソースに配合したとき油脂は殆ど分離していないか、あるいは問題とならない程度でありソース中に保持されていた。
【0072】
[試験例3]
本発明品用加工液卵白の製造例1において、乳酸発酵し加熱殺菌した後の冷却温度を下記表の温度まで行った以外は、本発明品用加工液卵白の製造例1と同様の方法で加工液卵白を調製した。次に、得られた各加工液卵白と、食用油脂とを配合したモデルレトルトソースを調製し、各加工液卵白の冷却温度の違いによるレトルトソースの油脂分離への影響を調べた。なお、得られた加工液卵白は、いずれもpHが3.8〜4.5である水中油型乳化物からなる加工液卵白であって、当該加工液卵白が乳酸発酵されたものである。また、評価試験は、試験例1と同様に目視で行った。
【0073】
【表4】

【0074】
表4より、冷却を55℃より高い状態までしか冷却を行わなかった加工液卵白は、粘度が800mPa・s以上(品温10℃)であるが、平均粒子径が40μmより大きく、モデルレトルトソースに配合したとき少量の油脂が分離していた。また、冷却を30℃より低い状態まで行った加工液卵白は、平均粒子径が40μm以下であるが、粘度が800mPa・s(品温10℃)より低く、モデルレトルトソースに配合したとき少量の油脂が分離していた。これに対し、冷却を30〜55℃まで行った加工液卵白は、粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、平均粒子径が40μm以下であり、モデルレトルトソースに配合したとき油脂は殆ど分離していないか、あるいは問題とならない程度でありソース中に保持されていた。特に、冷却を35〜50℃まで行った加工液卵白は、粘度が1,000mPa・s以上(品温10℃)、平均粒子径が30μm以下であり、モデルレトルトソースに配合したとき油脂が殆ど分離することなくソース中に保持されていた。
【0075】
[試験例4]
本発明品用加工液卵白の製造例1において、乳酸発酵を下記表のpHとなるように処理時間を変えた以外は、本発明品用加工液卵白の製造例1と同様の方法で加工液卵白を調製した。次に、得られた各加工液卵白と、食用油脂とを配合したモデルレトルトソースを調製し、各加工液卵白の乳酸発酵の程度の違い(pHの違い)によるレトルトソースの油脂分離への影響を調べた。なお、得られた加工液卵白は、いずれも粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、平均粒子径が40μm以下である水中油型乳化物からなる加工液卵白であって、当該加工液卵白が乳酸発酵されたものである。また、評価試験は、試験例1と同様に目視で行った。
【0076】
【表5】

【0077】
表5より、pHが3.8〜4.5となるように乳酸発酵させた加工液卵白は、モデルレトルトソースに配合したとき油脂が殆ど分離することなくソース中に保持されていた。
【0078】
[試験例5]
表6の配合表に従い、定法によりカルボナーラソースを製した。つまり、球形ニーダーに清水を入れ、攪拌加熱しながらパルメジャーノ・レジャーノ、本発明品用加工液卵白の製造例1で得られた加工液卵白(本発明品用加工液卵白1)、卵黄、大豆サラダ油、糖アルコール、食塩、黒胡椒、キサンタンガム、アセチル化アジピン酸架橋澱粉を加えて90℃まで達温させカルボナーラソース100kgを得た。得られたソースをそれぞれ140g(1食分)ずつアルミパウチに充填・密封した。その後、密封物を120℃で20分間高温処理し、冷水で品温10℃まで冷却してカルボナーラソースを製した。また、評価試験は、試験例1と同様に、官能による風味評価及び目視による外観評価で行った。
【0079】
【表6】

【0080】
その結果、実施例1のカルボナーラソースは、乳蛋白質と加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が6.6:3.4とすることで、リン含有量が比較例1に対し71%まで下がっており、乳風味が保持され、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されなかった。また、実施例1のリン含有量は蛋白質1gあたり14.2mgであり、腎臓病患者用、特に腹膜透析患者用のソース類としても好ましいものであった。
【0081】
[試験例6]
実施例1において、本発明品用加工液卵白1(卵白蛋白質3.6%、リン含有量5×10−3%)の30%配合に代えて、本発明品用加工乾燥卵白の製造例3で得られた加工乾燥卵白(本発明品用加工乾燥卵白3)(卵白蛋白質11.5%、リン含有量16×10−3%)を10%配合し、更に5mmダイスカットの豚肉ベーコン(蛋白質12.9%、リン含有量230×10−3%)を0.5%配合した以外は、実施例1と同様の方法で実施例2のカルボナーラソースを製した。また、評価試験は、試験例1と同様に、官能による風味評価及び目視による外観評価で行った。
【0082】
その結果、実施例2のカルボナーラソースは、乳蛋白質と加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比を6.6:3.4とすることで、リン含有量が比較例1に対し71%まで下がっており、乳風味が保持され、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されなかった。また、実施例2のリン含有量は蛋白質1gあたり14.2mgであり、腎臓病患者用、特に腹膜透析患者用のソース類としても好ましいものであった。
【0083】
[試験例7]
表7の配合表に従い、定法によりホワイトソースを製した。つまり、球形ニーダーに清水を入れ、焦がさないように攪拌加熱しながら濃縮乳、生クリーム、バター、本発明品用加工液卵白の製造例2で得られた加工液卵白(本発明品用加工液卵白2)、食塩、キサンタンガムを加えて80℃まで達温させ、更に同温で3分間攪拌後加熱を停止し、ホワイトソース100kgを得た。得られたソースをそれぞれ300g(2食分)ずつスチール缶に充填・巻締した。その後、密封物を120℃で20分間高温処理し、冷水で品温10℃まで冷却してホワイトソースを製した。また、評価試験は、試験例1と同様に、官能による風味評価及び目視による外観評価で行った。
【0084】
【表7】

【0085】
その結果、実施例3のホワイトソースは、乳蛋白質と加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比を3.2:6.8にすることで、リン含有量が比較例3に対し32%まで下がっており、乳風味が保持され、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されなかった。実施例4のホワイトソースは、乳蛋白質と加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比を2.3:7.7にすることで、リン含有量が比較例3に対し23%まで下がっており、ほぼ乳風味が保持され、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されなかった。一方、比較例2のホワイトソースは、乳蛋白質と加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比を0.9:9.1にすることで、リン含有量が比較例3に対し12%まで下がっており、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されていないが、乳風味が明らかに弱くなっていた。また、実施例3及び実施例4のリン含有量は、それぞれ蛋白質1gあたり9.7mg及び6.9mgであり、腎臓病患者用、特に腹膜透析患者用のソース類としても好ましいものであった。
【0086】
以上試験例5〜7の結果より、乳蛋白質と加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が2:8〜8:2の場合、リン含有量は最大20%程度まで下がっており、ほぼ乳風味が保持され、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されなかった。特に、配合比が3:7〜7:3の場合、リン含有量は最大30%程度まで下がっており、乳風味が全く損なわれずに保持され、ソース類から殆ど油脂の分離が観察されなかった。一方、配合比が10:0〜8:2の場合、リン含有量は80%以下に下がらず、配合比が2:8〜0:10の場合、乳風味が明らかに弱くなっていた。すなわち、ソース類に本発明の加工液卵白及び/又は加工乾燥卵白を特定量用いることでリン含有量が低下し、さらに、本発明の目的である乳蛋白質の一部を卵白蛋白質に置換えたにも拘わらず、ソース類が本来有する乳風味及びソース類中の油脂が保持されたソース類を製することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂及び/又は食肉由来の油脂を1%以上、並びに乳蛋白質を含む蛋白質を0.5〜6%配合したソース類において、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合し、粘度が800mPa・s以上(品温10℃)、pHが3.8〜4.5、平均粒子径が40μm以下である水中油型乳化物からなる加工液卵白であって、該加工液卵白が乳酸発酵されてなる加工液卵白を配合し、かつ、前記乳蛋白質と前記加工液卵白(卵白蛋白質換算)の配合比が2:8〜8:2であることを特徴とするソース類。
【請求項2】
前記加工液卵白が、卵白蛋白質2〜8%及び食用油脂5〜20%を配合した卵白混合液をpHが3.8〜4.5となるように乳酸発酵し、次いで加熱殺菌し、該殺菌発酵液を30〜55℃に冷却した後、均質化処理を施して得られる加工液卵白である請求項1記載のソース類。
【請求項3】
前記加工液卵白に乾燥処理が施されてなる加工乾燥卵白を配合した請求項1又は2記載のソース類。
【請求項4】
腎臓病患者用である請求項1乃至3記載のソース類。