説明

ソーラシミュレータによる測定方法

【課題】 応答の早い太陽電池でも、応答の遅い太陽電池でも、高精度に測定できるソーラシミュレータの測定方法とこの方法を実施するためのソーラシミュレータを提供する。
【解決手段】 キセノンランプ1からパルス波形の頂部が平坦になるフラッシュ光を発光させる。このフラッシュ光を照度検出器3で受光してその照度を検出し、該検出値に基づいて光源の照度を狭い規定範囲内に制御する。そして規定範囲内の照度のフラッシュ光を被測定体としての太陽電池4に照射し、該太陽電池4の負荷を制御しながら太陽電池4から出力される電流と電圧を複数点測定する。これを、複数回のフラッシュ光について行い、太陽電池4のI−Vカーブを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池などの光電変換素子やそのパネル体の電流電圧特性(以下、単に特性ともいう)を高速・高精度に測定するためのソーラシミュレータによる測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、光起電力素子、光センサーなどの光電変換素子の光電変換特性は、光照射下において、前記光電変換素子の電流電圧特性を測定することによって測定される。太陽電池の特性測定では、横軸を電圧、縦軸を電流として、収集したデータをプロットすることにより出力特性曲線を得ている。この曲線は一般に、I−Vカーブという。
【0003】
そして、その測定方法としては、照射光として太陽光を利用する方法と、人工光源を利用する方法とがある。このうち人工光源を利用する方法には、定常光の光源を用いる方法とフラッシュ光の光源を用いる方法が、特許文献1,2などにより知られている。
【0004】
従来より光電変換素子の実用化に伴い、特に受光面積の大きな太陽電池のような光電変換素子(以下、単に太陽電池という)の電流電圧特性は、太陽光の標準的な照度である1000W/m程度の放射照度の下で測定されている。そして測定時の照度が1000W/mを越えた分と・下廻った分は、照度補正の計算式で補正計算を行っていた。
【0005】
また、大面積の太陽電池の電流電圧特性の測定では、1000W/m程度の照度の光を、大面積の受光面に均一に照射する必要がある。このため人工光源を利用する場合には、例えば照射面積1mあたり数十kw程度の大電力の放電灯を必要とする。しかしながら、そのような大電力の放電灯によって定常光を発生させるには、大電力を定常的に供給せねばならない。このためには非常に大規模な設備が必要となって現実性に乏しい。
【0006】
また、定常光を用いるソーラシミュレータでは、光源用ランプとして、連続点灯用のキセノンランプやメタルハライドランプ等が用いられる。図4は、これらのランプの照度と時間の関係を示す図であるが、この図に示すように、これらのランプは点灯開始から、照度が安定するまで数十分以上かかることが多い。加えて同一条件で点灯を継続しないと照度が飽和状態にならないため、測定までに多大の時間を要する。一方では、長時間点灯して、累積点灯時間が長くなると、照度が漸減する傾向があるので照度特性が安定しない。また、被測定体である太陽電池への光の照射は、シャッターの開閉によって遮光と照射を切り替えて行うが、試験体への照射時間がシャッターの動作速度に依存し、照射時間が数100msec以上となることが多い。照射時間が長いと、太陽電池自体の温度上昇を招き精度の高い測定が困難になる。
【0007】
定常光を用いるソーラシミュレータでは、照度を安定させるため連続点灯を維持しておく必要があるが、そうすると光源を収設した筐体内の温度上昇が著しくなる。また、筐体内の部品は、常時、光に曝されることになるため、光学部品(ミラー、光学フィルター)が劣化する原因となる。
【0008】
更に、定常光の光源ランプは1回消灯すると、再点灯して照度が飽和状態に達するまでに数十分を要する。これを避けるために、常時、連続点灯のまま使用されている。この結果、定常光のランプでは累積点灯時間が増大しやすく、その結果、ランプ寿命に短期間で到達する傾向が高い。
【0009】
従って、太陽電池モジュールの製造ラインにおいて、定常光方式のソーラシミュレータを使用すると、消耗するランプの本数が、ランニングコストとして加算され、測定コストのみならず太陽電池の製造コストを押上げる。
【0010】
また、定常光のソーラシミュレータでは、被測定体である太陽電池に光源光が照射される時間が比較的長い。このため、同一の太陽電池に対してI−Vカーブの測定を繰返し行うと、その太陽電池の温度が上昇する。太陽電池は温度が上昇すると、出力電圧が低下する傾向があり、温度上昇によって、最大出力Pmaxも低下することが知られている。一般に、太陽電池の出力特性は、基準状態における値を示す必要がある。ここで、基準状態における太陽電池の温度は25℃、放射照度は1000(W/m)である。ソーラシミュレータによる太陽電池の出力特性の測定は、被測定対象である太陽電池の温度範囲が15℃〜35℃の範囲で行われ、測定された太陽電池の温度を用いて、基準状態の温度である25℃へ温度補正を行う。このための補正式が規格により定められている。
【0011】
しかし、太陽電池の温度測定にはつぎのような問題があり、簡単ではない。一般住宅等で用いられる電力用太陽電池は、表側のガラスに対して、EVA(エチレンビニールアセテート)、太陽電池セル、さらにEVAが積層され、裏側に樹脂製のバックシートがあって、これら積層したものをラミネートした構造となっている。このような積層構造の太陽電池を、その製造ラインにおいて温度測定すると、その測定はバックシート表面、もしくは、ガラス表面の温度しか検出していないことになる。従って、ソーラシミュレータから照射した光を、太陽電池セルが受光することによって一時的に温度が上昇しても、太陽電池セル自体の温度を正確に測定することは相当に困難である。このことから太陽電池セルの温度測定を高精度に行うことは困難になる。このため正しく温度補正することもまた困難である。
【0012】
そこで、定常光ではなく、フラッシュ光を発生させることによって、大面積の太陽電池の電流電圧特性を測定する方法が提案されている。フラッシュ光を発生させる疑似太陽光の光源にはキセノンランプが使用されるが、発光時間の比較的長い1回のフラッシュ光を使用する単一フラッシュ光による測定方法と、発光時間の短いフラッシュ光を多数回使用するショートパルスフラッシュ光による測定方法とがある。
【0013】
いずれのフラッシュ光による太陽電池の電流電圧特性の測定でも、定常光のように測定中の太陽電池の温度上昇の問題が殆んどないため、上述の太陽電池セルの一時的な温度上昇による誤差が生じ難い。
【0014】
また、フラッシュ光によるデータ収集を行うソーラシミュレータでは、発光時間が短くなるので、上述の定常光ソーラシミュレータのような光学部品の劣化が緩和され、ランプ寿命も比較的長くなるという利点がある。
【0015】
図5は、単一フラッシュ光の波形を示す図である。単一フラッシュ光は、大電流を出力できる直流電源を用いて、キセノンランプをフラッシュ点灯させる方式である。光パルス波形の最初に照度が大きく上下する部分があり、その後、一定の照度になる。単一フラッシュ光を用いる測定方法では、パルス波形において照度が一定になる間に、負荷を制御しながら被測定体である太陽電池から出力される電流と電圧のデータを収集することによりその太陽電池の出力測定を行う。
【0016】
しかし、キセノンランプをフラッシュ点灯させる場合、照度がバラつくことが知られている。そのため、照度に±5%程度の許容範囲の幅をもたせてフラッシュ点灯をする必要がある。そして、発光時の照度によって照度補正をするが、太陽電池の特性が未知で許容範囲が大きい場合、測定精度が悪くなる。
【0017】
また、1回の発光で太陽電池の負荷を掃引してI−V特性曲線を得るために100msecを越える長いパルスを作る必要がある。このような長いパルス発光をするために、1回の発光と次の発光との間の休止時間を長くとらなければならない。そのため、最初のフラッシュ点灯において、照度が不適切で照度調整がしきれないと、次の点灯まで、長い時間待たなければならないことになる。また、長いパルスの点灯をさせるため、光源ランプへの負荷が大きいので、ランプ寿命が短くなる。
【0018】
ショートパルスフラッシュ光を複数回照射する測定方法は、フラッシュ点灯させるため、光源ランプへの負荷が小さいことから、短い間隔で発光させることができる。また、発光時間が短いので、ランプ内部の状況(例えば、温度)が変化しにくいのでピーク照度が安定しやすくなる。被測定体としての太陽電池が、受光する光パルスが短いので、被測定体の温度も上昇しにくくなる。
【0019】
しかしながら、このショートパルスフラッシュ光による測定は次のような問題がある。図6は、ショートパルスフラッシュ光の波形を示す図である。この図に示すように、複数回照射される各フラッシュ光の波形は、頂部に平坦部を持たない山なり(山のすそ野の幅で、約1msec)の形状である。そのため、1回のフラッシュ点灯においては、1組(照度、太陽電池の出力電流と電圧)のデータしか収集できない。さらに、応答の遅い太陽電池を測定すると、照度波形に太陽電池の出力応答が追従しきれないため、出力が低く測定される場合がある。
【特許文献1】特許第2886215号公報
【特許文献2】特開2003−31825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、従来のソーラシミュレータにおける上述した種々の問題点に鑑み、応答の早い太陽電池でも、応答の遅い太陽電池でも、高精度に測定できるソーラシミュレータの測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する本発明のソーラシミュレータの測定方法は、光源からパルス波形の頂部が平坦になるフラッシュ光を発光させる工程と、該フラッシュ光を照度検出器で受光してその照度を検出し、該検出値に基づいて光源の照度を規定範囲内に制御する工程と、前記フラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、該太陽電池の負荷を制御して太陽電池から出力される電流と電圧を1点測定する測定工程と、複数回のフラッシュ光を発光させ、各フラッシュ光について、前記測定工程を行うことを特徴とするものである。ここにおいて1フラッシュ中、負荷を一定に維持し、太陽電池からの出力が飽和するフラッシュの後半部においてデータを収集をすることが望ましい。
【0022】
また、上記課題を解決する本発明の別のソーラシミュレータの測定方法は、光源からパルス波形の頂部が平坦になるフラッシュ光を発光させる工程と、該フラッシュ光を照度検出器で受光してその照度を検出し、該検出値に基づいて光源の照度を規定範囲内に制御する工程と、前記フラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、該太陽電池の負荷を掃引しながら太陽電池から出力される電流と電圧を複数点測定する測定工程と、複数回のフラッシュ光を発光させ、各フラッシュ光について、前記測定工程を行うことを特徴とするものである。フラッシュパルス幅とフラッシュ間隔を適切にして、狭い規定照度範囲での測定を行うことにより、高精度の測定を行うことが可能となる。
【0023】
また、前記測定工程に先だって、前記光源からのフラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、負荷を制御して前記太陽電池特性値の概略値を求める予備測定工程を有する構成とすることができる。
【0024】
たとえば、前記測定工程に先だって、前記光源からのフラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、負荷を制御して前記太陽電池の特性値である短絡電流Isc開放電圧Voc、最大電力Pmax等の概略値を求める工程を有する構成とすることができる。
【0025】
前記フラッシュ点灯における光パルス波形の上部平坦部の幅が約4msec以上の光パルス波形である構成としたり、前記フラッシュ点灯を複数回行い、各フラッシュ光のサイクルは、0.5〜1.5secにする構成としたり、前記測定された照度波形に対し、被測定体から出力された電流・電圧波形からその被測定体の応答時間を算出し、前記太陽電池の負荷を制御する速度を適切にし、フラッシュ点灯回数を増減することによりデータ収集を行う構成としたり、光源から発光されるフラッシュ光の照度設定を、基準となる太陽電池の短絡電流又は、最大電力の測定結果と、前記基準となる太陽電池の短絡電流又は、最大電力の校正データの比率から制御して行う構成としたりすることができる。ここにおける出力電流及び電圧を変える負荷としては、電子負荷の他、バイポーラ電源等が使用される。
【0026】
本発明による太陽電池の出力特性の測定は以下のようにして行われる。まず、規定照度になるように印加電圧を制御された光源を複数回フラッシュ発光させ、被測定体に照射する。このときの照度を、照度検出器によって検出する。発光時間が短いため、光源の温度変化も小さく、発光する間隔を短くしても照度をほぼ一定に保つことができる。本発明では、規定照度乃至規定照度に近い照度においてのみ被測定体の電流及び電圧についてのデータ収集を行う。
【0027】
すなわち、検出された照度が許容範囲外の場合は、印加電圧を制御して再度フラッシュ発光し、許容範囲内に収まるようにする。検出された照度が許容範囲内であれば、前記被測定体から出力される電流及び電圧について、その被測定体の負荷回路内の負荷を制御しつつ1又は2以上のデータ収集を行う。パルス波形の頂部に平坦な部分があるので、応答の早い太陽電池は勿論、応答の遅い太陽電池でも、平坦部分の長さを長くすることで、正確な測定が可能となる。被測定体の負荷回路内の負荷を制御しながら、複数回のフラッシュ発光を繰り返し、所望の測定点における電流と電圧のデータ収集を実行し、I−Vカーブを求める。
【0028】
なお、上記の測定工程によるデータ収集に先だって、予備測定をすることが望ましい。本測定と同じフラッシュ発光を照射し、負荷を掃引して被測定対象としての太陽電池の短絡電流Isc、開放電圧Voc、最大電力Pmaxの概略値を求める。この概略値を用いて、測定対象太陽電池の応答に応じた負荷の掃引を設定でき、本測定時の掃引速度を低下させることができる。予備測定における負荷の掃引が、1回のフラッシュ発光では完了しない場合は、複数回のフラッシュ発光をして行う。
【0029】
予備発光後、被測定体である太陽電池の特性に適した負荷制御をして電流と電圧のデータの収集を行いI−Vカーブを求める。上記予備発光後の本測定は、1フラッシュ測定の他、複数フラッシュにてI−Vカーブを分割測定することも可能である。
【0030】
上記の方法であるから、従来のソーラシミュレーション方法に比べはるかに高速且つ高精度で太陽電池の出力特性を測定できるという効果が得られる。
【0031】
また、上述した1フラッシュ光の間に負荷を一定に維持する方法、または負荷を掃引する方法、さらに、予備測定後、1回のフラッシュ光で測定する方法と複数回のフラッシュ光で測定する方法、のように種々の測定方法を切り替えて使用することも可能である。このように種々の方法を切り替えて使用すると、1台のソーラシミュレータで、比較的応答の速い太陽電池を高速・高精度に測定するモードと、応答の遅い太陽電池を測定するモードを選択的に切換えできる。この結果、1台のソーラシミュレータの多彩な運用が可能になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、フラッシュ光のパルス波形の頂部が平坦になるので、照度が一定となる時間を確保でき、応答の早い太陽電池は勿論、応答の遅い太陽電池でも測定が可能となる。
【0033】
また、光源がパルス型のフラッシュ光を発光するために、光源の温度などの条件が一定に保たれ、照度の安定したフラッシュ光を短い間隔で繰り返し発光させることが可能となる。照度が安定するので、狭い規定範囲内の照度での測定が可能となり、高精度の測定ができる。一般に測定時の照度から規定照度(1000W/m)への照度補正換算が行われるが、照度と太陽電池出力の関係が非線形の場合、あるいは未知の場合は、測定照度と規定照度との差が大きいと比例計算で照度補正すると、誤差が大きくなる。
【0034】
1つのフラッシュ光が発光している間に、電子負荷をステップ状または、連続的に掃引すれば、1つのフラッシュ光で100〜200ポイントの測定ができ、高速測定が可能となる。応答の遅い太陽電池の場合は、1フラッシュ光で負荷を一定に維持して1点の測定としてもよいが、1フラッシュ光で負荷を掃引する場合であっても、フラッシュ光のパルス波形が平坦になる時間を長くすることによって測定可能となり、高速測定が可能となる。
【0035】
太陽電池の負荷を制御して電流と電圧を測定する本測定に先だって、光源からのフラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、該太陽電池の負荷を掃引しながら前記太陽電池特性値である、短絡電流Isc開放電圧Voc最大電力Pmax等の概略値を求める予備測定をすることにすれば、本測定において、被測定体である太陽電池の特性に適した掃引速度にできるので、より能率的な測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に本発明の実施の形態例について、図に拠り説明する。本発明では、単一フラッシュ光より短く、ショートパルスフラッシュ光より長いパルス幅を有するミドルパルスフラッシュ光を使用している。図1は本発明の測定方法を実施するソーラシミュレータの一例のブロック図、図2は本発明方法に用いるミドルフラッシュ光の照度波形の一例を模式的に示した波形図である。図3は本発明に用いるパルス波形の頂部に平坦部を有するフラッシュ光を発光させるLC回路を用いたパルス幅制御回路の中間を省略したブロック図である。
【0037】
本発明測定法を適用する図1のソーラシミュレータでは、その光源ランプ、例えば、キセノンランプ1の電源回路1Aに、図3に例示したような複数のコイルLとコンデンサCを使用したパルス幅制御回路2(又は、パルス幅延長回路2)を具備している。ここで、個々のコンデンサCとコイルLの容量は、照度波形の上部平坦部の平坦度が望ましい形になるように決定される。これによってキセノンランプ1の電源回路1Aは、図3のパルス幅制御回路2の作用により、図2の波形図に模式的に例示するように、光パルス波形の上部平坦部を、約4msec以上となるように制御してキセノンランプ1をフラッシュ発光させることができる。なお、光パルスの幅は、被測定体である太陽電池の応答性に配慮して、適宜に決定される必要がある。例えば、太陽電池の応答性が速い場合、図2に示したパルス波形の上部平坦部を4msecより短くすることができる。これとは逆に応答性が遅い場合には、図2に示したパルス波形の上部平坦部を4msec以上となるように、たとえば、約10msec程度にする。著しく応答性が遅い太陽電池の場合には、一例として100msec程度となるように調整してもよい。
【0038】
光パルス幅が上部平坦部で約4〜20msecの場合、フラッシュ点灯サイクルを、約0.5〜1.5secにすることで、キセノンランプ1の温度が過熱せずに安定した照度を得ることができる。なお、大電流を出力できる直流電源を用いて、キセノンランプ1をフラッシュ点灯させる方式で光パルス幅を拡張しても、本発明測定方法を実施するソーラシミュレータの光源として使用することは可能である。
【0039】
上記の態様でフラッシュ点灯されるキセノンランプ1の照度は、図1に例示したように、キセノンランプ1の光を受光可能な位置に固定した太陽電池による照度検出器3によって検出される。この検出器3としては、被測定体と同性能の太陽電池セルを使用することが望ましい。
【0040】
本発明のソーラシミュレータでは、被測定体として光源のキセノンランプ1に対面配置した太陽電池4から出力される電流・電圧を可変にする。このため当該太陽電池4の出力端子に負荷回路5の電子負荷5Aを接続する。なお、電子負荷5Aを備えた負荷回路5において、5Bは直流電源、5Cはシャント抵抗である。電子負荷5Aと直流電源5Bをバイポーラ電源等に置き換えても実施可能である。
【0041】
上記の太陽電池4が出力する電流と電圧、及び、照度検出器3から検出される照度のデータは、本発明ソーラシミュレータにおけるデータ収集システムにより収集する。このデータ収集システムとしては、図1に例示したように、データ収集ボード6aとアナログ出力ボード6bを備えたパソコン6に、アナログ出力信号をデータ収集ボード6aで収集可能な信号に変換するデータ処理ボード7を接続して構成したものである。なお、8はパソコン6からのデータを電子負荷5Aに付与するために接続された電子負荷指令回路である。
【0042】
従来の照度の設定は、次のように行っていた。測定対象となる太陽電池4が配置される位置に、太陽電池4に代えて基準となる太陽電池を配置し、照度検出器3を所定の位置に配置する。基準太陽電池には、規定照度(1000W/m)での短絡電流Isc又は最大電力Pmaxの校正データを有している。この校正データを、データ収集ボード6aに設定しておく。そしてキセノンランプ1を発光させ、そのときの基準太陽電池の出力と、照度検出器3の出力を測定する。基準太陽電池の出力の測定結果が、校正データと合致するように、ランプ電圧又はランプ電流を逐次変更して、測定を繰り返す。基準太陽電池の出力の測定結果が、校正データと合致するように至った際の照度検出器3の出力を記憶させる。これで、照度設定は完了となる。このように、従来、照度設定には、試行錯誤が非常に多く、照度設定には多くの時間を必要とした。
【0043】
照度設定後は、基準太陽電池を外し、次に被測定体となる太陽電池4を載せて接続する。照度検出器3で検出される照度が、前記記憶させた照度になるようにランプ電圧又はランプ電流が制御され、規定照度近傍での測定が行われる。
【0044】
本発明では、一般的に知られている照度と太陽電池出力Isc,Pmaxの相関関係を演算部としてソフトウエアに組み込んでおく。上述、基準太陽電池を測定した段階において、基準太陽電池の測定結果と校正データから、照度検出器3での目標照度を相関関係式から演算して記憶させる。基準太陽電池の次測定において、照度検出器3での照度を、この目標照度となるようにランプ電圧が制御されて測定が実行されるので、基準太陽電池の測定結果は校正データに近いデータで測定される。従来、試行錯誤を繰り返して照度設定をしていたのが、非常に少ない回数で照度設定が可能となる。
【0045】
本実施例として、データ収集ボード6aは、予め設定している規定照度(1000W/m)と照度検出器3に検出された照度をパソコン6の演算部で比較する。そして、演算部での演算結果に基づき、光源であるキセノンランプ1への印加電圧を制御するアナログ出力ボード6bの出力指令を制御して照度を調整する。なお、アナログ出力ボード6bは、図3のパルス幅制御回路2のコンデンサCへの充電電圧を制御する直流電源5Bと、前記の照度の演算結果から、この直流電源5Bへの充電電圧を制御する制御信号を出力する信号出力部を具備している。
【0046】
キセノンランプ1は、短時間のフラッシュ発光をするので、温度上昇も殆どなく、0.5〜1.5secの間隔で発光しても、照度検出器3での出力からランプ電圧を適切に制御することで、規定照度(1000W/m)を高精度に維持した状態で安定したフラッシュ光を発光することができるようになる。
【0047】
このように、本発明では照度検出器3とパソコン6の演算部によってキセノンランプ1の照度を自動調整することができ、従来マニュアル操作で行っているため相当な長時間を要していた照度調整を、短時間で行うことが可能になった。また、照射時間が長くならないから測定対象としての太陽電池の温度上昇を招かない。従って、照射時間が長いため太陽電池の特性変化を招き、この結果的として高精度の測定が困難であった従来手法の難点を改善できる。
【0048】
本発明ソーラシミュレータは、一例の装置を上述のように構成する。そして、適度なランプ電圧によってキセノンランプ1をフラッシュ点灯させ、その照度を照度検出器3で検出する。検出された照度はデータ処理ボード7を経由してデータ収集ボード6aの演算部において規定値(1000W/m)と比較演算を行う。検出照度が規定値と同じか規定値に近ければ(この範囲を許容範囲という)、そのまま太陽電池4の出力測定に移行する。
【0049】
複数フラッシュして測定を行うが、検出照度が規定値に対して、許容範囲から外れて高かったり、低かったりする場合は、フラッシュ毎にランプ電圧を増減して、照度が規定値(許容範囲を含む)になるように自動的に制御される。予め、ランプ電圧に関して照度がどのように変化するかの特性を把握しておくことで、ランプ電圧によって照度を調整することができる。
【0050】
照度が規定値に近い場合、太陽電池4に接続されている電子負荷5Aをその電子負荷指令回路8からの出力によって負荷を制御して太陽電池4から出力される電流を加減する。電子負荷指令回路8は、電子負荷5Aを、連続的に加減することで掃引するか、又はステップ状に変化させて、パソコン6とデータ処理ボード7を主体とするデータ収集システムは、キセノンランプ1の1つのフラッシュ光の間で、照度のデータ、及び、I−Vカーブのための太陽電池4の出力電流、電圧のデータを100〜200組程度収集することができる。予備測定後の本測定において、複数フラッシュを行いI−Vカーブを分割測定するすれば、400組以上のデータを測定することも可能となる。
【0051】
なお、本発明では、測定に先だって、予備的な測定を行う。予備的な測定では、本測定と同じフラッシュ発光を行う。このフラッシュ発光では、掃引速度を早くして、電子負荷5Aを広範囲に変化させ、測定対象となる太陽電池4の短絡電流Iscと開放電圧Vocの概略値を求める。この概略値を求めることで、電子負荷5Aの掃引範囲を確定することができ、本測定の際の掃引速度を遅くすることが可能となる。この予備的なフラッシュ発光は、複数フラッシュで行っても良い。複数フラッシュで行うことにより、より概略値の精度を上げることが可能となり、次の本測定において、より被測定体である太陽電池の特性に適した負荷の掃引が可能となる。
【0052】
こうして短絡電流Iscと開放電圧Vocの概略値が求められたら、I−Vカーブ作成のためのフラッシュ発光を行う。1フラッシュ点灯で電子負荷を掃引し、I−Vカーブの100〜200ポイントのデータを得る。そして、光パルスがその波形における上部平端部の終端に近くなった時点で、データ収集を中止し、キセノンランプ1を一端休止させる。その間に、次の1フラッシュ点灯のために、ランプ電圧の制御を行う。予め定めた休止時間が経過した後、次の1フラッシュ点灯を行い、上述した手順と同じようにして照度の比較をし、次の出力特性のデータの収集を行い、これを繰り返す。各フラッシュ光での測定点は、一部がオーバーラップするようにすることで、接続を容易にすることができる。本発明の実施例では、2回のフラッシュ発光により400ポイントでのデータの収集ができ、I−Vカーブを得ることができる。したがって、予備測定に2回のフラッシュ発光を使用したとしても、合計で4回のフラッシュ発光で測定が完了する。各フラッシュ発光の間隔が0.5〜1.5secなので、約5sec程度で測定できることになる。本測定は、被測定体である太陽電池の応答に応じて、フラッシュ回数を数回まで増やして測定することも可能である。
【0053】
以上によって、被測定体である太陽電池4の出力測定に必要な点数分のデータ収集を行い、収集したデータからI−Vカーブが作成される。本発明において、照度の確認,制御のための発光回数、短絡電流検出のための発光回数、I−Vデータ測定のための発光回数は、いずれも上記例に限られるものではない
【0054】
また、実施例において、電子負荷5Aの制御においては、電流を制御する他に、電圧を制御する方式を用いることもできる。また、データ収集過程において、経過時間における照度信号を逐次記録し、前記時間に対応する太陽電池4の電流、電圧信号を記録することがある。この記録データの演算に基づいて照度に対する被測定体の出力応答遅れを算出することができる。前記出力応答遅れに応じて、掃引速度、フラッシュ数を演算して増減させることで、応答遅れに適した測定を行うことも可能である。
【0055】
なお、上記実施例では、1フラッシュ発光で電子負荷5Aを掃引して多点のデータを取得したが、これに限定されるものではない。たとえば、1フラッシュ光の間では電子負荷の掃引をせず、1フラッシュ発光で1点のデータを取得するようにしてもよい。応答が非常に遅い太陽電池を測定する場合は、1フラッシュ中、電子負荷5Aの制御状態を一定に維持して、被測定体太陽電池からの出力が飽和する光パルス後半部において、データを収集する。太陽電池の応答性に応じて光パルス波形の上部平坦部の長さを長くする。たとえば、標準で4msecであった平坦部の時間を8〜10msecにする。
【0056】
図6に示すショートパルスフラッシュ光では、パルス波形に平坦部がないので、応答の遅い太陽電池は測定できなかったが、本発明では、パルス波形に平坦部があるので、応答の遅い太陽電池でも正確な測定が可能である。また、フラッシュ光の間隔も、約0.5〜1.5secを維持することができる。
【0057】
反対に、1回のフラッシュ光の平坦時間を、たとえば、10msec以上に長くして、1回のフラッシュ光で400ポイント以上のデータを取得することも可能である。
【0058】
本発明は以上の通りであるから、以下に述べる効果が得られ産業上きわめて有用である。
(1) 1フラッシュ光の間に負荷をステップ状に掃引することで、少ないフラッシュ点灯数で測定可能となり、測定時間を短縮することができる。例えば、フラッシュ点灯サイクルを約1secとして5回のフラッシュ光で測定した場合、測定時間は約5secで高速測定を実現できる。因みに、従来のショートパルス式の場合、100〜160回フラッシュ点灯すると、測定時間は、約15〜30secである。
【0059】
(2) 応答性が遅い太陽電池でも、その応答性に応じて、電子負荷の制御速度を適切にするので、高速かつ、高精度に測定することができる。
【0060】
(3) 1フラッシュ発光の時間が短く、光源の状態を一定に保ち易いので、照度を規定照度乃至それに非常に近い照度に制御することができ、照度補正誤差が入る余地が殆んどなくなる。この結果、高精度の測定が可能になる。また、規定照度乃至それに近い照度での測定を行うので、照度と太陽電池の出力電流との関係が不明でも精度の高い測定ができる。
【0061】
(4) 少ないフラッシュ点灯数で測定するので、ランプ寿命に到達するまでの測定回数が従来手法に比べ数倍以上に増大できる。また、少ないフラッシュ点灯数で測定できるので、被測定体(太陽電池)が測定の際の受光によって温度上昇しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の測定方法を実施するソーラシミュレータの一例のブロック図である。
【図2】本発明方法に用いるミドルフラッシュ光の照度波形の一例を模式的に示した波形図である。
【図3】本発明において光源光として用いるパルス波形の頂部に平坦部を有するフラッシュ光を発光させるLC回路を用いたパルス幅制御回路のブロック図である。
【図4】従来のソーラシミュレータにおける光源光の波形を模式的に示した照度波形図で、定常光の照度と時間の関係を示す図である。
【図5】単一フラッシュ光の波形を示す図である。
【図6】ショートパルスフラッシュ光の波形を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 キセノンランプ
2 パルス幅制御回路
3 照度検出器
4 太陽電池
5A 電子負荷
6 パソコン
6a データ収集ボード
6b アナログ出力ボード
7 データ処理ボード
L コイル
C コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からパルス波形の頂部が平坦になるフラッシュ光を発光させる工程と、該フラッシュ光を照度検出器で受光してその照度を検出し、該検出値に基づいて光源の照度を規定範囲内に制御する工程と、前記フラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、該太陽電池の負荷を制御して太陽電池から出力される電流と電圧を1点測定する測定工程と、複数回のフラッシュ光を発光させ、各フラッシュ光について、前記測定工程を行うことを特徴とするソーラシミュレータによる測定方法。
【請求項2】
光源からパルス波形の頂部が平坦になるフラッシュ光を発光させる工程と、該フラッシュ光を照度検出器で受光してその照度を検出し、該検出値に基づいて光源の照度を規定範囲内に制御する工程と、前記フラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、該太陽電池の負荷を掃引しながら太陽電池から出力される電流と電圧を複数点測定する測定工程と、複数回のフラッシュ光を発光させ、各フラッシュ光について、前記測定工程を行うことを特徴とするソーラシミュレータによる測定方法。
【請求項3】
前記測定工程に先だって、前記光源からのフラッシュ光を被測定体としての太陽電池に照射し、負荷を制御して前記太陽電池特性値の概略値を求める予備測定工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のソーラシミュレータによる測定方法。
【請求項4】
前記フラッシュ点灯における光パルス波形の上部平坦部の幅が約4msec以上の光パルス波形であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のソーラシミュレータによる測定方法。
【請求項5】
前記フラッシュ点灯のサイクルは、0.5〜1.5secにすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のソーラシミュレータによる測定方法。
【請求項6】
前記測定された照度波形に対し、被測定体から出力された電流・電圧波形からその被測定体の応答時間を算出し、前記太陽電池の負荷を制御する速度を適切にし、フラッシュ点灯回数を増減することによりデータ収集を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のソーラシミュレータによる測定方法。
【請求項7】
光源から発光されるフラッシュ光の照度設定を、基準となる太陽電池の短絡電流又は、最大電力の測定結果と、前記基準となる太陽電池の短絡電流又は、最大電力の校正データの比率から制御して行う請求項1〜6のいずれかに記載のソーラシミュレータによる測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−88419(P2007−88419A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138713(P2006−138713)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】