説明

タイヤトレッド用ゴム組成物

【目的】 高速走行時のウェット性能を向上させる。
【構成】 結合スチレン量25〜60%のスチレン‐ブタジエンゴム(SBR) を少なくとも70重量部含むゴム成分100 重量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が130 〜280m2/g のシリカを5重量部以上含み、N2SAが80m2/g以上のカーボンブラックを、シリカとのトータル量で80〜180 重量部含むゴム組成物であって、加硫後のアセトン・クロロホルム抽出分が少なくとも80重量部であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はタイヤトレッド用ゴム組成物に関し、一般舗装路のみならずサーキットのウェット路面上にて優れた制動性及び操縦安定性を発揮できるタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。本発明のゴム組成物は用途としてウェット用レースタイヤのトレッドゴムにも使用できる。
【0002】
【従来の技術】近年の自動車の高速化に伴い、タイヤに対する要求特性のレベルもアップした。高速走行時の湿潤路面での諸性能(ウェット性能)を向上させるためには、ウェット条件下での制動性能を改善するためにグリップ力を高めること、また、ウェット条件下での操縦安定性を改善するためにトレッドパターンのブロック剛性を大きくしてコーナリング性を良くすると供に排水性を良くすること等である。
【0003】そこで、従来では、ウェット条件下でのグリップ力を高めるために、タイヤトレッドゴムのゴム成分にハイスチレンSBR を使用したり、カーボンブラックの充填量や粒径を適宜設定したり、オイル添加量を多くしたり、加硫系を調整して、加硫密度を下げたりしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、高速走行時のウェット性能を向上させるためには、前述の通り、グリップ力を高めることが必要で、このためには、−20℃〜20℃の温度域での微少歪域(例えば0.1 %) のヒステリシスロスを上げる(Tanδを上げる) こと及び路面凹凸に追従して接触面積を確保できるように、前記温度域及び歪域での弾性率を小さくする(例えばE′を下げる)ことが重要であることがわかった。
【0005】また、ブロック剛性を高めるためには、大変形域でのモジュラスを従来対比維持あるいは大きくする(例えば50%以上のモジュラスを従来レベルに維持あるいは大きくする) ことも重要であることがわかった。これは、コーナリング時のブロック変形によるふらつきを防ぎ、同時に溝部の変形を抑えることで水流が乱流となることなく層流となってスムーズに排水するために重要である。
【0006】しかしながら、従来の方法にあっては、上記の必要性のすべてに対応したものではないため、今日の高レベルの要求特性を満たすことができないという状況に至った。そこで、本発明は、高速走行におけるウェット性能を更に高めることができるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は以下の構成とする。即ち、結合スチレン量25〜60%のスチレン‐ブタジエンゴム(SBR) を少なくとも70重量部含むゴム成分100 重量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が130 〜280m2/g のシリカを5重量部以上含み、N2SAが80m2/g以上のカーボンブラック(CB)を、シリカとのトータル量で80〜180 重量部含むゴム組成物であって、加硫後のアセトン・クロロホルム抽出分が少なくとも80重量部であるようにする。また、シリカを35重量部以上含むようにすると好ましい。更に、シランカップリング剤をシリカの3〜20重量%含むようにすると好ましい。
【0008】本発明において使用するゴム成分は、結合スチレン量25〜60%のSBR を少なくとも70重量部含むことを規定するが他のゴム成分としては、SBR (本発明で規定する範囲内であることを要しない)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム及びハロゲン化ブチルゴム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0009】また、SBR の配合量が70重量部未満では、タイヤ使用温度域における十分なヒステリシスロスが得られず、もって、所望のグリップ力が得られないので不都合である。また、結合スチレン量が25%未満では前記と同様な理由で、グリップ力が不足する。これに対し、結合スチレン量が60%超過では、前記温度域及び歪域での弾性率(E′)が高くなり、タイヤ使用温度域での十分なウェット性能が得られず好ましくない。
【0010】また、本発明では、N2SAが130 〜280m2/g のシリカを5重量部以上含むことを規定するが、より好ましくは35重量部以上であり、更に好ましくは50重量部以上である。5重量部未満では、前記温度域及び歪域におけるヒステリシスロス(Tanδ) が不充分であり、弾性率を下げられない。35重量部以上、50重量部以上では、前記温度域及び歪域のヒステリシスロスのアップ、弾性率のダウンに、より好ましくなり、加えて、大変形域のモジュラスも向上する。また、N2SAが130m2/g未満では、補強性が小さく50%以上のモジュラスが確保できない。280m2/g 超過では補強性向上が望めない割に、作業性が低下するため好ましくない。
【0011】また、本発明では、N2SAが80m2/g以上のカーボンブラックを、シリカとのトータル量で80〜180 重量部含むことを規定するが、80重量部未満では補強性が不充分となり、180 重量部超過では混練作業性が悪化する。N2SAが80m2/g未満では、耐摩耗性が大幅に低下するため好ましくない。
【0012】更に、本発明では、加硫後のアセトン・クロロホルム抽出分が少なくとも80重量部であることを規定するが、80重量部未満では前記温度域及び歪域の弾性率が高くなり過ぎ不都合である。
【0013】加えて、本発明では、シランカップリング剤をシリカの3〜20重量%含むことを要する。シランカップリング剤はシリカとゴム成分(ポリマー)との結合を強める作用を有しており、大変形域でのモジュラスをアップできる。3重量%未満では、シランカップリング剤添加の効果が現れず、20重量%超過ではコストがアップする割に効果が得られず好ましくない。
【0014】本発明において好適に使用可能なシランカップリング剤は、一般式Y3−Si−Cn H2n A(式中のYは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシル基又は塩素原子で3個のYは同一でも異なってもよく、nは1〜6の整数を示し、Aは−S m Cn H2n Si−Y3基、X基及び−S m Z 基よりなる群から選ばれた基であり、ここでXはニトロソ基、メルカプト基、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、塩素原子又はイミド基、Zは化1、化2又は化3で表わされる基であり、
【0015】
【化1】


【0016】
【化2】


【0017】
【化3】


m及びnはそれぞれ1〜6の整数を示し、Yは前述の通りである。)で表される化合物であり、具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチナゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等が挙げられ、ビス(3−トリエトキシシルリプロピル)テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が好ましい。また、3個のYが同一でない例としては、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3−ニトロプロピルジメトキシメチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられる。
【0018】
【実施例】以下に本発明を実施例1〜16及び比較例1〜6に基づいて説明する。下記の表1及び表2に、各実施例及び各比較例の配合内容、物性値及び実車性能を示す。
【0019】比較例1〜5及び実施例1〜15はゴム成分として、本発明で規定する範囲内のハイスチレンSBR のみ使用し、比較例6及び実施例16は本発明で規定する範囲内のハイスチレンSBR と塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)とを併用した。また、比較例1〜6はシリカを含まず、比較例6及び実施例16は他の例と異なる加硫促進剤を使用した。アセトン・クロロホルム抽出法はJIS K 6350に準じた。
【0020】内部損失(Tan δ) 及び貯蔵弾性率(E′)は粘弾性スペクトロメーター(たとえば岩本製作所製)を使用し幅4.7mm 、厚さ2mm、長さ20mmの短冊状試料について初期荷重160g、動歪0.1 %、振動数50Hzの条件で−20℃〜20℃までを3℃/minの温度上昇速度にて測定した時の0℃の値である。
【0021】そして、Tan δ、E′について、比較例2又は6の値を100 として指数表示した。例示すると、(実施例1のTan δ値/比較例2のTan δ値)×100 である。Tan δ指数は大きい程、またE′指数は小さい程好ましい。25 ℃における300 %モジュラスの値は、JIS K 6301に準じて測定し、比較例2又は6の値を100 として指数表示した。例示すると(実施例1のモジュラス/比較例2のモジュラス)×100 である。この値は大きい程好ましい。
【0022】ウェットブレーキ指数は、各配合のタイヤ(タイヤサイズ:215 /635 R 18)を排気量2500ccの乗用車の駆動輪に取りつけて、外気温25℃におけるウェット路面において、60km/hの直進状態で、制動を開始してから完全に停止するまでの距離を測定し、比較例2及び6を基準として指数表示した。例示すると、(比較例2の距離/実施例1の距離)×100 である。この値が大きい程好ましい。
【0023】ウェットコーナーリング指数は各配合のタイヤ(タイヤサイズ215 /635 R 18) を排気量2500ccの乗用車に(4輪)装着し、外気温25℃においてウェット路面にした図1に破線で示す8の字旋回走行路(γ=20m 、d=10m)を可能限界スピードで5周し、3〜5周のラップタイムの合計を測定し、比較例2を基準として指数表示した。例示すると(比較例2のラップタイム合計/実施例8のラップタイムの合計)×100 である。この値が大きい程好ましい。尚、実施例1〜15の基準は比較例2、実施例16の基準は比較例6である。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】*1 日本シリカ(株)製の商品名ニップシールAQを使用。N2SAは200m2/g である。
*2 ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド*3 抽出分にはオイル分の他に、ワックス、老化防止剤、加硫促進剤等が含まれる。
*4 N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾルスルフェンアミド*5 テトラメチルチウラムモノスルフィド*6 テトラメチルチウラムジスルフィド
【0027】上記の通り、各実施例とも、微少歪域でのTan δ指数が高く、E′指数が低くなっていることから、グリップ力の向上が図れることが分かる。また、各実施例について、300 %モジュラスが大きくなっていることから、ブロック剛性が確保されることが分かる。これにより排水が良好になされること等が分かる。
【0028】更に、実車性能であるウェットブレーキ指数が各実施例とも大きくなっていることから、ウェット条件下での制動性能が向上することが確認された。また同じく実車性能であるウェットコーナリング指数が大きくなっていることから、ウェット条件下での操縦安定性が向上することが確認された。加えて、本発明のゴム組成物によると、パターンに制限されることなく、ウェット性能の向上を図ることができるが、タイヤの取付方向を限定した方向性パターンと組み合わせると、一層効果的である。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によると、一般舗装路のみならずサーキットのウェット路面上を高速走行する際にも、優れたウェット性能を発揮するタイヤのトレッドゴム用のゴム組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】8の字旋回走行路を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 結合スチレン量25〜60%のスチレン‐ブタジエンゴム(SBR)を少なくとも70重量部含むゴム成分100 重量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が130 〜280m2/g のシリカを5重量部以上含み、N2SAが80m2/g以上のカーボンブラックを、シリカとのトータル量で80〜180 重量部含むゴム組成物であって、加硫後のアセトン・クロロホルム抽出分が少なくとも80重量部であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】 シリカを35重量部以上含むことを特徴とする請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】 シランカップリング剤をシリカの3〜20重量%含むことを特徴とする請求項1または2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。

【図1】
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