説明

タイヤ性能評価方法及びタイヤ性能評価装置

【課題】乗員の生体情報を正確に取得すると共に、取得した生体情報からタイヤ性能を正確に評価する。
【解決手段】国際法10−20法に基づいて乗員の前頭極部に配置された電極から取得した電気信号に適応度関数を用いた最適化処理と重判別分析とを組み合わせて繰り返し実行することにより、乗員から取得される電気信号から乗員に特有の強度を有する適応周波数を算出し、更に適応周波数を含む適応周波数帯域を算出し、乗員の感情の状態と前記感情に対応する前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされたデータベースから、適応周波数帯域に該当する周波数帯域に紐付けされた感情の状態を選択し、評価工程において選択された感情の状態をタイヤ性能の評価結果に決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価対象のタイヤが装着された車両の乗員から取得可能な信号を用いて、タイヤ性能を評価するタイヤ性能評価方法及びタイヤ性能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動四輪車などの車両に装着されたタイヤの操縦安定性や乗り心地などを含む性能(以下、「タイヤ性能」と適宜省略する)は、例えば、タイヤに関する豊富な知識を有し、長時間の走行経験を積んだテストドライバーの感覚(フィーリング)に基づいて評価されている。
【0003】
しかし、テストドライバーのフィーリングでは、テストドライバーが異なれば、異なる評価が下されることがあり、同一のテストドライバーであってもいつも安定した評価結果が得られるとは限らない。
【0004】
そこで、従来、テストドライバーのフィーリングに基づいて評価されてきたタイヤ性能を、客観的なデータに基づいて評価する試みがされている(例えば、特許文献1)。具体的には、乗員から取得した心電図に含まれる低周波成分と高周波成分との比が乗員の緊張感や疲労感を表すことをタイヤ性能の評価に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−139499号公報(第4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、例えば、乗員から取得可能な心拍のような信号(以下、生体情報という)を客観的なデータとして用いてタイヤ性能を評価する方法では、生体情報を取得する測定装置が大がかりになる。また、測定を開始するまでの準備に時間がかかるといった問題点があった。
【0007】
また、乗員(被測定者)は、測定装置を装着した状態で車両を走行させることに違和感やストレスを感じることもある。この場合、生体情報に、操縦安定性や乗り心地に関連する情報以外の情報、例えば、測定装置を装着したことに起因する違和感やストレスが含まれる可能性もある。そのため、全ての乗員から適切な生体情報が取得できると言えない。
【0008】
そこで、本発明は、取得した生体情報からタイヤ性能を正確に評価することが可能なタイヤ性能評価方法及びタイヤ性能評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の第1の特徴は、次の特徴を有する。すなわち、車両が所定の路面を走行するときのタイヤ性能を評価するタイヤ性能評価方法であって、前記車両の乗員から取得される電気信号(例えば、脳波)から前記乗員に特有の強度を有する適応周波数を算出する適応周波数設定工程と、前記適応周波数を含む適応周波数帯域を算出し、乗員の感情の状態と前記感情に対応する前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされたデータベースから、前記適応周波数帯域に該当する周波数帯域に紐付けされた感情の状態を選択する評価工程と、前記評価工程において選択された感情の状態を前記タイヤ性能を表す指標として決定する決定工程とを有することを要旨とする。
【0010】
本発明の第1の特徴によれば、乗員から取得される電気信号(例えば脳波)が表している乗員の感情の状態を決定することができる。これにより、乗員の感情の状態をタイヤ性能の評価結果の指標として決定することができる。従って、乗員から取得した生体情報からタイヤ性能を正確に評価することができる。
【0011】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記適応周波数設定工程は、国際法10−20法に基づいて前記乗員の前頭極部に配置された電極から電気信号を取得する信号取得工程と、前記走行が開始された時刻からの経過時間に応じて前記電気信号に時間周波数解析を施す解析工程と、前記時間周波数解析によって求められた前記電気信号の周波数成分からなる第N群に適応度関数を用いて最適化処理を施すことにより前記第N群から周波数成分を選択する最適化工程と、前記最適化工程において選択された周波数成分からなる第N+1群に重判別分析を施すことにより前記第N+1群に含まれる個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出する分析工程とを有し、前記分析工程において算出された前記判別的中率を前記適応度関数に代入し、前記最適化工程を再度実行し、再度実行される前記最適化工程では、前記判別的中率が代入された適応度関数を用いて前記第N+1群に含まれる個々の周波数成分から周波数成分を選択し、再度実行される前記最適化工程において選択された周波数成分からなる第N+2群に重判別分析を施すことにより前記第N+2群に含まれる個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出し、前記分析工程とを最適化工程とを繰り返し実行することによって前記電気信号の周波数成分の組み合わせとしての前記適応周波数を算出することを要旨とする。
【0012】
第2の特徴によれば、国際法10−20法に基づく乗員の前頭極部に配置された電極から電気信号を取得するため、乗員に過度の違和感やストレスを与えることがない。そのため、違和感やストレス等の外乱のない正しい生体情報を取得できる。
【0013】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1または第2の特徴に係り、前記評価工程は、前記適応周波数に前記適応周波数を含む適応周波数帯域を設定し、前記設定した適応周波数帯域に重み付け係数データベースに予め用意された複数の重み付け係数を重畳することによって評価用周波数帯域を算出し、感情の状態と前記乗員が前記感情の状態になっているときの前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされて格納されたデータベースを参照することによって、前記評価用周波数帯域と合致する周波数帯域に紐付けされた感情の状態を選択することを要旨とする。
【0014】
本発明の第4の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、任意の乗員から取得された電気信号から前記複数の重み付け係数を生成する重み付け係数生成工程を有し、前記重み付け係数生成工程は、前記適応周波数設定工程において算出した前記適応周波数を含む周波数帯域に重み付け係数の組み合わせの初期値を設定し、適応度関数と重判別分析とを繰り返し実行することによって前記重み付け係数の組み合わせを更新し、感情の状態と前記乗員が前記感情の状態になっているときの前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされて格納されたデータベースを参照し、前記更新された重み付け係数の組み合わせを前記適応周波数を含む周波数帯域に適用して得られる周波数帯域が、前記データベースに格納された前記周波数帯域に合致するときの重み付け係数の組み合わせを前記重み付け係数データベースに格納することを要旨とする。
【0015】
本発明の第5の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、前記信号取得工程では、国際法10−20法に基づくFp1に配置される電極から電気信号を取得することを要旨とする。
【0016】
本発明の第6の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、前記適応度関数は、遺伝的アルゴリズムであることを要旨とする。
【0017】
本発明の第7の特徴は、本発明の第1乃至第6の特徴の何れか一つに係るタイヤ性能評価方法を実行するタイヤ性能評価装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、乗員の生体情報を正確に取得することができ、取得した生体情報からタイヤ性能を正確に評価することが可能なタイヤ性能評価方法及びタイヤ性能評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本実施形態に係るタイヤ性能評価装置を使用して行われるタイヤ性能の評価試験を説明する模式図である。
【図2】図2は、本実施形態に係るタイヤ性能評価装置を説明する構成図である。
【図3】図3は、タイヤ性能評価装置を説明するフローチャートである。
【図4】図4は、タイヤ性能評価方法に含まれる適応周波数設定工程を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、評価対象のタイヤが装着された車両を走行させるテストコースの一例を説明する模式図である。
【図6】図6は、解析工程を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、複数の周波数帯域(4Hz〜22Hz)に対して最初に割り当てられた遺伝子表現(第1世代)の一例を示す図である。
【図8】図8は、適応周波数設定工程によって得られた乗員の適応周波数の一例を説明する図である。
【図9】図9は、所定期間に亘って測定された乗員の脳波から得られる乗員の適応周波数を簡便に説明する模式図である。
【図10】図10は、評価工程を説明するフローチャートである。
【図11】図11は、適応周波数帯域に重畳する重み付け係数のセットを説明する模式図である。
【図12】図12は、重み付け係数データベースDB2に格納される重み付け係数セットの当て嵌めを繰り返すルーチンを模式的に説明する模式図である。
【図13】図13は、基準脳波データベースDB1に格納される基準脳波を説明する模式図である。
【図14】図14は、データベースを作成するデータベース作成フェーズを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るタイヤ性能評価方法及びタイヤ性能評価装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
具体的には、(1)タイヤ性能評価装置の構成、(2)タイヤ性能評価方法の説明、(3)データベース作成フェーズ、(4)作用・効果、(5)その他の実施形態について説明する。
【0022】
(1)タイヤ性能評価装置の構成
図1を参照して、タイヤ性能評価装置1について説明する。具体的には、(1−1)乗員から電気信号を取得する試験、(1−2)タイヤ性能評価装置の構成、について説明する。
【0023】
(1−1)乗員から電気信号を取得する試験
図1は、タイヤ性能評価装置1を使用して行われる路面状況のタイヤ性能の評価試験を説明する模式図である。
【0024】
タイヤ性能評価装置1は、評価装置本体10と、信号取得部20とを有する。タイヤ性能評価装置1は、タイヤ101が装着された車両100が所定の路面(後述する)を走行する際に乗員3から取得可能な電気信号(例えば、脳波)を用いてタイヤ性能を評価する。評価装置本体10の詳細は後述する。
【0025】
信号取得部20は、国際法10−20法に基づいて乗員3の前頭極部に配置された電極から電気信号を取得する。信号取得部20は、電極21と、電極22とを有する。電極21は、Fp1に配置され、Fp1における電気信号を取得する。電極22は、基準電極である。電極22は、例えば、耳たぶ等に配置される。電極21における電位と電極22における電位との差を差動アンプにより増幅している。これにより、ノイズを除去し、微弱な電気信号を正確に抽出することができる。
【0026】
乗員3は、Fp1箇所に信号取得部20を装着した状態で、車両100に搭乗する。タイヤ性能評価装置1は、車両が所定のテストコースを走行する間、信号取得部20を介して、乗員3のFp1から取得可能な電気信号を取得する。
【0027】
(1−2)タイヤ性能評価装置の構成
図2は、タイヤ性能評価装置1を説明する構成図である。タイヤ性能評価装置1は、評価装置本体10と、信号取得部20とを有する。信号取得部20は、電極である。信号取得部20は、乗員3の前頭極部のFp1に取り付けられる。
【0028】
評価装置本体10は、信号取得部20において取得された電気信号が供給される信号入力部11と、信号入力部11に供給された電気信号からタイヤ性能を算出する演算部12と、演算部12による解析の結果を表示する表示部13とを有する。
【0029】
また、評価装置本体10は、使用者からの入力を受け付けるキーボード、マウス等の入力部14や、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等で構成される記憶部15を備える。記憶部15には、タイヤ性能評価方法を実行するプログラムが格納される。また、喜怒哀楽などの感情に対応する典型的な脳波スペクトルとが関連づけて格納された基準脳波データベースDB1、複数の重み付け係数のセットが格納された重み付け係数データベースDB2を兼ねていてもよい。基準脳波データベースDB1及び重み付け係数データベースDB2の詳細は、後述する。
【0030】
演算部12は、後述するタイヤ性能評価方法のプログラムを実行する。演算部12は、機能構成として、周波数解析演算部121と、最適化演算部122と、分析演算部123とを有する。
【0031】
周波数解析演算部121は、電気信号の時間周波数解析を行う。心理学において、脳波は、周波数帯域によって、δ波、θ波、α波、β波の4つに大別される。例えば、δ波は、4Hz未満の周波数帯域の脳波である。δ波は、覚醒時には出現せず、深い睡眠状態の時に頻繁に出現する。θ波は、4Hz以上8Hz未満の周波数帯域の脳波である。浅い睡眠時に頻繁に出現する。α波は、8Hz以上13Hz未満の周波数帯域の脳波である。閉眼安静状態のとき、後頭部側に目立って出現し、開眼すると出現が抑制される。また、リラックスを評価する指標とされている。β波は、13Hz以上の周波数帯域の脳波である。前頭部、側頭部に優勢に見られ、規則性も少ない。
【0032】
本実施形態では、Fp1から取得される脳波スペクトルを解析することによって、脳波スペクトルから所定の周波数帯域の脳波を分離する。周波数解析としては、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換等を用いることができる。本実施形態では、高速フーリエ変換を用いる。
【0033】
脳波スペクトルは、複数の因子が複雑に絡み合った時系列信号であるため、周波数解析のみでは脳波スペクトルに含まれる特徴量を抽出することは難しい。そこで、本実施形態では、多変数解析を使用して特徴量の抽出する。
【0034】
最適化演算部122は、時間周波数解析によって求められた脳波スペクトルの周波数成分(第N群)に適応度関数を用いて最適化処理を施す。最適化処理により、第N群の周波数成分からさらに周波数成分を選択する。選択された周波数成分を第N+1群という。本実施形態では、最適化演算部122は、最適化処理の手法の一例として、遺伝的アルゴリズムを用いる。
【0035】
分析演算部123は、最適化演算部122において選択された第N+1群の周波数成分に重判別分析を施すことにより第N+1群に含まれる個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出する。
【0036】
タイヤ性能評価装置1では、分析演算部123において算出された判別的中率を適応度関数に代入し、最適化演算部122において最適化処理を再度実行する。再度実行される最適化処理では、判別的中率が代入された適応度関数を用いて、第N+1群に含まれる個々の周波数成分から、更に周波数成分を選択する。
【0037】
再度実行される最適化処理において、第N+1群の周波数成分から、更に選択された周波数成分(第N+2群)に重判別分析を施す。これにより、第N+2群に含まれる個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出する。
【0038】
タイヤ性能評価装置1では、分析演算部123における重判別分析と、最適化演算部122における最適化処理とを繰り返し実行することによって、最終的に抽出された電気信号の周波数成分の組み合わせを路面の状況を表す指標として決定する。
【0039】
(2)タイヤ性能評価方法の説明
次に、図面を参照して、タイヤ性能評価方法について説明する。具体的に、(2−1)タイヤ性能評価方法の全体説明、(2−2)適応周波数設定工程、(2−3)評価工程、について説明する。
【0040】
(2−1)タイヤ性能評価方法の全体説明
図3は、タイヤ性能評価方法を説明するフローチャートである。図3に示すように、タイヤ性能評価方法は、適応周波数設定工程:ステップS1と、評価工程:ステップS2と、性能決定工程:ステップS3とを有する。
【0041】
適応周波数設定工程は、車両の乗員から取得される電気信号(脳波スペクトル)から乗員に特有の強度を有する周波数成分(適応周波数という)を算出する。
【0042】
評価工程は、適応周波数を含む適応周波数帯域を設定し、乗員のフィーリングと、感情に対応する脳波スペクトルとが紐付けされたデータベースから、適応周波数帯域に該当する脳波スペクトルに紐付けされたフィーリングを選択する。
【0043】
タイヤ性能評価方法は、評価工程において選択された感情の状態をタイヤ性能を表す指標として決定する。
【0044】
(2−2)適応周波数設定工程
図4は、適応周波数設定工程を説明するフローチャートである。適応周波数設定工程は、ステップS11〜S13を有する。
【0045】
ステップS11は、信号取得工程である。ステップS11において、乗員3の前頭極部に配置された電極から電気信号を取得する。ステップS12は、解析工程である。解析工程には、走行が開始された時刻からの経過時間に応じて電気信号(脳波スペクトル)に時間周波数解析を施す解析工程と、時間周波数解析によって求められた脳波スペクトルの周波数成分に適応度関数を用いて最適化処理を施すことによって周波数成分を選択する最適化工程と、最適化工程において選択された周波数成分からなる群に重判別分析を施すことにより、個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出する分析工程とが含まれる。ステップS13は、適応周波数を決定する工程である。
【0046】
(2−2−1)ステップS11:乗員から電気信号を取得する処理
ステップS11において、具体的に、乗員から脳波スペクトルを取得する処理について説明する。乗員は、前頭極部に電極を装着した状態で、評価対象のタイヤが装着された車両でテストコースを走行する。
【0047】
テストコースは、一般舗装路、一般舗装路よりも平坦でない荒れた路面、うねり路面、轍路、コーナリング、ウェット路面、着雪路面、凍結路面などを有する。一般舗装路では、直進安定性、レーンチェンジ性能、コーナリング安定性等の操縦安定性を評価する。荒れた路面及びうねり路面では、不整路における操縦安定性を評価する。轍路では、ウォブリング等の轍路における操縦安定性を評価する。ウェット路面、着雪路面、凍結路面では、ウェット路・氷雪路における操縦安定性を評価する。また、一般舗装路や荒れた路面における騒音、振動、段差における乗り心地、不整路における乗り心地を評価する。更に、制動性能、加速・減速性能を評価する。
【0048】
図5は、テストコースの一例を説明する模式図である。テストコース200は、少なくとも、平坦に舗装された直進路面R1と、荒れた路面R2と、R2よりも起伏の大きい荒れた路面R3と、轍路R4と、バンク角の大きいコーナR5と、うねり路面R6と、バンク角の小さいコーナR7とを有する。
【0049】
走行時に、車両100が各セクション(R1〜R7)に差し掛かると、脳波の測定開始を意味するタイムスタンプが脳波とともに記録されてもよい。またセクションを通過し終わったとき、終了を意味するタイプスタンプが脳波とともに記録されてもよい。これにより、車両が所定のセクションを走行する期間(開始タイムスタンプから終了タイムスタンプでの期間)の脳波が抽出し易くなる。
【0050】
(2−2−2)ステップS12:解析工程
次に、ステップS12において実行される具体的な工程について説明する。図6は、ステップS12は、更に、ステップS21乃至S25を有する。
【0051】
まず、ステップS21において、信号取得部20から供給された脳波スペクトルの時間周波数解析を行う。具体的に、走行が開始された時刻からある時間経過した後にFp1から取得される脳波スペクトルを高速フーリエ変換を用いて複数の周波数成分(4Hz〜22Hz)に分解する。
【0052】
続いて、ステップS22において、複数の周波数成分(4Hz〜22Hz)に対して初期の遺伝子集団を決定する。すなわち、複数の周波数成分(4Hz〜22Hz)に対してランダムに発生させた0又は1の値を割り当てる。なお、ここでは、0又は1でなくてもよい。小数値を含むアナログ値であってもよい。
【0053】
図7は、遺伝子表現の一例を示す。複数の周波数成分(4Hz〜22Hz)に対して最初に割り当てられた遺伝子表現を第1世代(第N群に相当)という。
【0054】
ステップS23において、ステップS22において決定された遺伝子表現を有する複数の周波数帯域(4Hz〜22Hz)に対して重判別分析を施し、複数の周波数成分(4Hz〜22Hz)に含まれる判別的中率を算出する。重判別分析としては、マハラノビス汎距離による判別分析を用いる。判別的中率を遺伝的アルゴリズムの適応度関数に代入し、遺伝的アルゴリズムの固体(初回は、第1世代)の適応度を算出する。
【0055】
ステップS24において、適用度が終了条件に達した否か判別する。終了条件に達した場合には、ステップS23に進む。
【0056】
一方、ステップS24において、適用度が終了条件に達しない場合には、ステップS23に戻り、第1世代に対して重判別分析を施すことによって第1世代から選択された第2世代(第N+1群に相当)の周波数成分の判別的中率を算出する。判別的中率を遺伝的アルゴリズムの適応度関数に代入し、第2世代の遺伝子表現を有する複数の周波数成分(4Hz〜22Hz)の適応度を算出する。
【0057】
ステップS24において、適用度が終了条件に達しない場合には、ステップS23の工程に戻る前に、遺伝的アルゴリズムにおける「選択(selection)」を行って適応度を調整する。選択(selection)には、ルーレット方式、スケーリング方式、ランク方式、トーナメント方式、エリート保存戦略方式等がある。また、遺伝的アルゴリズムにおける「交叉(crossover)」を行って遺伝子表現を組み替える。交叉(crossover)には、1点交叉、複数点交叉、一様交叉等がある。また、遺伝的アルゴリズムにおける「突然変異(mutation)」を行って遺伝子表現を組み替えてもよい。終了条件に達するまでステップS23〜ステップS25を繰り返し行う。
【0058】
(2−2−3)ステップS13:適応周波数決定工程
適応周波数決定工程では、解析工程S12における処理に基づき、最終的に抽出された遺伝子表現によって表される周波数成分の群を、乗員に特徴的な周波数成分(適応周波数という)として決定する。図8は、乗員の適応周波数の一例を示す図である。
【0059】
図8において、1が割り当てられた周波数成分セット(CDIQ)は、あるフィーリングをもっているときの乗員の適応周波数(適応周波数成分)を表している。従って、所定期間に亘って乗員の脳波スペクトルを測定した場合には、サンプリングした数と同じ数の周波数成分セットが得られる。
【0060】
図9は、所定期間に亘って測定された脳波スペクトルから抽出された乗員の適応周波数を簡便に説明する模式図である。図9は簡略化のため、f1〜f9の9つの周波数のなかから適応周波数が決定される場合を説明している。
【0061】
図9において、F1は、所定期間に亘って測定された乗員の脳波スペクトルである。F2は、時間t1における乗員の適応周波数セットを表す。F3は、時間t2における乗員の適応周波数セットを表す。F4は、時間t3における乗員の適応周波数セットを表す。F2〜F4では、適応周波数セットは、f2,f5,f8,f9である(白柱)。
【0062】
(2−3)評価工程
続いて、評価工程について説明する。評価工程では、図8,9を用いて説明した乗員の適応周波数が表しているフィーリングを選択する。具体的に、評価工程では、以下の処理が行われる。図10は、評価工程を説明するフローチャートである。
【0063】
ステップS31において、適応周波数設定工程で算出された適応周波数が入力される。上述の図8に示した周波数セット(CDIQ)が入力される。
【0064】
ステップS32では、適用周波数帯域設定工程が実行される。すなわち、乗員の適応周波数セットを含む適応周波数帯域を設定する。図11は、適応周波数に設定する帯域を説明する図である。本実施形態では、適応周波数帯域は、適応周波数の前後整数の周波数を含めた帯域とする。例えば、周波数セット(CDIQ)、すなわち、周波数6,7,12,20Hzに対して、周波数5,6,7,8,11,12,13,19,20,21Hzを設定することにする。
【0065】
図12は、重み付け係数データベースDB2に格納される重み付け係数セットを説明する図である。ステップS33では、設定された適応周波数帯域を、重み付け係数データベースDB2に格納された重み付け係数のセット(w1,w2,w3,…)を用いて重畳し、評価用周波数帯域Sp0を算出する。本実施形態では、以下の式(1)を用いる。周波数5,6,7,8,11,12,13,19,20,21Hzにそれぞれ異なる重み付け係数を掛け合わせたものの総和である。
【0066】
【数1】

但し、P(ωk),(k=0,1,2,…,N):適応周波数帯域の脳波の強度であり、ωは、周波数であり、Nは、窓フーリエ変換で求められる最大周波数であり、wiは、各周波数に対する重み付け係数である。ここで用いるP(ωk)のデータパターン数は、周波数解析のフレーム数と同じである。重み付け係数wは、評価用周波数帯域Sp0の分類精度が最も高くなるように設定されることが好ましい。重み付け係数wを決定するにあたり、本実施形態では、マハラノビス距離、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、サポートベクターマシン、判別分析など適用可能である。
【0067】
ステップS34では、算出された評価用周波数帯域Sp0と、基準脳波データベースDB1に格納された周波数帯域とを比較する。図13は、基準脳波データベースDB1に格納される基準脳波を説明する模式図である。基準脳波データベースDB1には、例えば、「楽しい」、「不快」、「恐い(恐怖)」などを含む種々の感情に対応する一般的な脳波スペクトル(Sp1,Sp2,Sp3,…,Spk,…)が格納されている。
【0068】
ステップS34では、基準脳波データベースDB1に、評価用周波数帯域Sp0に合致する脳波スペクトルがあるか判別し、無ければ、ステップS33に戻り、重み付け係数データベースDB2に用意された別の重み付け係数セットで重畳し、評価用周波数帯域Sp0を算出する。合致する脳波スペクトルが見付かるまで、ステップS34における比較を繰り返す。
【0069】
ステップS35では、評価用周波数帯域Sp0と合致する脳波スペクトルに紐付けされたフィーリングを選択する。
【0070】
(3)データベース作成フェーズ
本実施形態に係るタイヤ性能評価装置によれば、上述した重み付け係数データベースDB2を作成することができる。図14は、重み付け係数データベースDB2を作成するデータベース作成フェーズ(重み付け係数生成工程)を説明するフローチャートである。
【0071】
データベース作成フェーズでは、時間毎の乗員のフィーリングと対応付けができている脳波スペクトルを使用する。
【0072】
ステップS41では、ステップS11〜S13の処理を行って、適応周波数を決定し、ステップS42では、適応周波数設定工程が実行され、適応周波数帯域が設定される。ステップS42は、ステップS31〜S32の処理に準ずる。
【0073】
ステップS43では、適応周波数設定工程において算出した前記適応周波数を含む周波数帯域に重み付け係数の組み合わせの初期値を設定する。
【0074】
ステップS44では、重み付け係数の組み合わせに対して、適応度関数を用いた最適化処理を行う。
【0075】
ステップS45では、最適化された重み付け係数の組み合わせに重判別分析を施すことにより、個々の重み付け係数の尤度を表す判別的中率を算出する。
【0076】
ステップS46では、この尤度(判別的中率)を用いて表された重み付け係数により、適応周波数帯域を重み付けする。
【0077】
ステップS46では、重み付けされた適用周波数帯域と、基準脳波データベースDB1に格納されたスペクトルとを比較し、図13により説明する基準脳波データベースDB1に格納される基準脳波に合致するか否かを判別する。合致するスペクトルがない場合には、ステップS44に戻り、N+1回目の最適化処理と、ステップS45の重判別分析とを繰り返し行う。
【0078】
基準脳波データベースDB1に、選択された適用周波数帯域に合致するスペクトルがある場合、ステップS47では、このときの重み付け係数のセットを重み付け係数データベースDB2に格納する。このようにして、重み付け係数データベースDB2に格納する重み付け係数のセットを作成する。
【0079】
(4)作用・効果
本実施形態に係るタイヤ性能評価方法によれば、乗員3から取得される脳波が表す乗員3の感情の状態を決定することができる。これにより、従来、テストドライバーのフィーリングに基づいて評価されてきたタイヤ性能を、乗員3が車両100に乗車しているときの乗員の脳波という客観的なデータに結びつけることができる。従って、乗車時の乗員3の脳波から決定される感情の状態をタイヤ性能の評価結果の指標として決定することができる。
【0080】
また、タイヤ性能評価装置1によれば、国際法10−20法に基づいて乗員3の前頭極部に配置された電極から取得する。信号の取得部位が1箇所でよいため、乗員3に過度の違和感やストレスを与えることがない。そのため、違和感やストレス等の外乱のない正しい生体情報を取得できる。
【0081】
また、本実施形態に係るタイヤ性能評価方法では、1箇所から取得された脳波スペクトルに時間周波数解析を行うことにより、所望の脳波の周波数成分を取り出すことができる。更に、脳波の周波数成分に適応度関数として遺伝的アルゴリズムを用いた最適化処理と重判別分析とを施すことにより、特徴的な周波数成分を抽出することができる。
【0082】
心理学において、脳波は、周波数帯域によって、δ波、θ波、α波、β波の4つに大別されており、一般的にリラックスを評価する指標とされているα波は、8Hz以上13Hz未満であると言われている。しかし、実際には、これらの周波数帯域には、個々人によって微差があるものである。例えば、ある被験者がリラックス状態にあるとき、7.5Hz〜13Hzの周波数帯域に特徴が現れることもあるし、また、併せて別の周波数帯域に特徴が現れる場合もある。本実施形態に係るタイヤ性能評価方法によれば、被験者による、特徴が現れる周波数又は周波数帯域の差や、強度の差を抽出することができる。
【0083】
本実施形態に係るタイヤ性能評価方法によれば、適応周波数帯域に重み付け係数データベースに予め用意された複数の重み付け係数を重畳することによって算出された評価用周波数帯域Sp0と、基準脳波データベースDB1に格納された脳波スペクトルSp1,Sp2,Sp3,…,Spk,…とを比較し、合致する場合には、この脳波スペクトルに紐付けされたフィーリングを乗員3のフィーリングに決めることができる。
【0084】
本実施形態に係るタイヤ性能評価方法において、図4〜図9を用いて説明したように、ある時刻における(すなわち、ある状況下にあるときの)乗員3の脳波スペクトルから、この状況下にあるときの特徴的な適応周波数を抽出することができたとしても、この適応周波数から乗員3のフィーリングを知ることは難しい。
【0085】
例えば、乗員3に対して、フィーリングと特徴的な適応周波数との対応関係を調べるための試験を別途行って、適応周波数とフィーリングとが紐付けされたデータベースを作成しておく。そして、抽出された適応周波数をからデータベースを参照して、乗員3のフィーリングを知るという方法が考えられる。この方法では、乗員3にとって特徴的な適応周波数から、乗員3のフィーリングを精度よく知ることができるが、被験者(乗員)毎にデータベースが必要になるため、被験者の数が増えたとき、キャリブレーション処理が煩雑になってくる。
【0086】
本実施形態では、重み付け係数データベースDB2に用意された重み付け係数のセットを当て嵌めて評価用周波数帯域を算出し、基準脳波データベースDB1に格納された脳波スペクトルの典型パターンと比較することにより、乗員3のフィーリングを判別することができる。すなわち、基準脳波データベースDB1と、重み付け係数データベースDB2という万人に共通のデータベースが誰に対しても適用できるため、非常に効率的に解析できる。
【0087】
(5)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0088】
本実施形態では、被験者の脳波スペクトルに基づいて被験者のフィーリングを決定する方法をタイヤ性能の評価に適用した場合について説明した。しかし、タイヤの性能評価以外にも適用可能である。例えば、スポーツ用品などの道具の使い勝手など、使用者によって感じ方が異なるもの評価には適用できる。
【0089】
本実施形態では、信号取得部20は、国際法10−20法に基づいて乗員3の前頭極部のFp1に配置された電極から電気信号を取得すると説明した。しかし、取得部位は、Fp1に限定されない。
【0090】
本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0091】
1…タイヤ性能評価装置、3…乗員、10…評価装置本体、11…信号入力部、12…演算部、13…表示部、14…入力部、15…記憶部、20…信号取得部、21…電極、22…電極、100…車両、101…タイヤ、121…周波数解析演算部、122…最適化演算部、123…分析演算部、200…テストコース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が所定の路面を走行するときのタイヤ性能を評価するタイヤ性能評価方法であって、
前記車両の乗員から取得される電気信号から前記乗員に特有の強度を有する適応周波数を算出する適応周波数設定工程と、
前記適応周波数を含む適応周波数帯域を算出し、乗員の感情の状態と前記感情に対応する前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされたデータベースから、前記適応周波数帯域に該当する周波数帯域に紐付けされた感情の状態を選択する評価工程と、
前記評価工程において選択された感情の状態を前記タイヤ性能を表す指標として決定する決定工程と
を有するタイヤ性能評価方法。
【請求項2】
前記適応周波数設定工程は、
国際法10−20法に基づいて前記乗員の前頭極部に配置された電極から電気信号を取得する信号取得工程と、
前記走行が開始された時刻からの経過時間に応じて前記電気信号に時間周波数解析を施す解析工程と、
前記時間周波数解析によって求められた前記電気信号の周波数成分からなる第N群に適応度関数を用いて最適化処理を施すことにより前記第N群から周波数成分を選択する最適化工程と、
前記最適化工程において選択された周波数成分からなる第N+1群に重判別分析を施すことにより前記第N+1群に含まれる個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出する分析工程とを有し、
前記分析工程において算出された前記判別的中率を前記適応度関数に代入し、前記最適化工程を再度実行し、
再度実行される前記最適化工程では、前記判別的中率が代入された適応度関数を用いて前記第N+1群に含まれる個々の周波数成分から周波数成分を選択し、
再度実行される前記最適化工程において選択された周波数成分からなる第N+2群に重判別分析を施すことにより前記第N+2群に含まれる個々の周波数成分の尤度を表す判別的中率を算出し、前記分析工程とを最適化工程とを繰り返し実行することによって前記電気信号の周波数成分の組み合わせとしての前記適応周波数を算出する請求項1に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項3】
前記評価工程は、
前記適応周波数に前記適応周波数を含む適応周波数帯域を設定し、
前記設定した適応周波数帯域に重み付け係数データベースに予め用意された複数の重み付け係数を重畳することによって評価用周波数帯域を算出し、
感情の状態と前記乗員が前記感情の状態になっているときの前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされて格納されたデータベースを参照することによって、前記評価用周波数帯域と合致する周波数帯域に紐付けされた感情の状態を選択する請求項1又は2に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項4】
任意の乗員から取得された電気信号から前記複数の重み付け係数を生成する重み付け係数生成工程を有し、
前記重み付け係数生成工程は、
前記適応周波数設定工程において算出した前記適応周波数を含む周波数帯域に重み付け係数の組み合わせの初期値を設定し、適応度関数と重判別分析とを繰り返し実行することによって前記重み付け係数の組み合わせを更新し、
感情の状態と前記乗員が前記感情の状態になっているときの前記電気信号の周波数帯域とが紐付けされて格納されたデータベースを参照し、前記更新された重み付け係数の組み合わせを前記適応周波数を含む周波数帯域に適用して得られる周波数帯域が、前記データベースに格納された前記周波数帯域に合致するときの重み付け係数の組み合わせを前記重み付け係数データベースに格納する請求項2に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項5】
前記信号取得工程では、国際法10−20法に基づくFp1に配置される電極から電気信号を取得する請求項2に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項6】
前記適応度関数は、遺伝的アルゴリズムである請求項2に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載のタイヤ性能評価方法を実行するタイヤ性能評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−158402(P2011−158402A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21644(P2010−21644)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)