説明

タイヤ用ゴム組成物およびこれを用いた空気入りタイヤ

【課題】耐摩耗性の低下およびコストの過度な増大を生じさせることなく、環境への負荷および転がり抵抗が小さくかつ良好な粘着性を有するタイヤ用ゴム組成物および該タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】本発明は、ゴム成分と油長が45以上であるアルキッド樹脂とを含むタイヤ用ゴム組成物、および該タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供する。該アルキッド樹脂の含有量は、ゴム成分の100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への負荷が小さくかつ粘着性および耐加硫戻り性(耐リバージョン性)に優れるタイヤ用ゴム組成物およびこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤのトレッドやサイドウォール等に用いられる粘着剤として、石油等の化石燃料に由来するフェノールレジンや石油系レジンが用いられている。該粘着剤としては、バイオマス材料であるロジン系樹脂やテルペン系樹脂等も検討されている。
【0003】
たとえば特開2005−248056号公報(特許文献1)には、タイヤの摩耗外観を損なうことなく、グリップ性能を向上させたゴム組成物およびそれをトレッドに用いたタイヤを提供することを目的として、天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるゴム成分100重量部に対して、軟化点が125℃以上、および酸価が20以下であるロジンエステル樹脂を0.1〜50重量部含むゴム組成物が提案されている。
【0004】
しかし、ロジン系樹脂やテルペン系樹脂等の粘着性付与能力や各種物性等には改善の余地がある。またこれらの材料は、環境への負荷や分子設計の自由度の点でも課題を有する。たとえば、テルペン系樹脂においては粘着性を高めるために石油系モノマーを共重合する等の方法を用いることがあるが、この場合、環境への負荷という点ではあまり好ましくない。
【0005】
環境への負荷を小さくするために、植物油等のバイオマス材料の利用も検討されているが、タイヤ用途の添加剤として実用化するために十分な粘着性付与能力等の性能を付与することは困難である。
【0006】
たとえば、ゴム成分中の含有量が50質量%以上となるように天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを含む配合においては、加硫戻り(すなわちリバージョン)によって熱老化時の硬度変化が生じる場合がある。加硫戻りが生じ易い配合では、高温で短時間に加硫することが困難であったり、タイヤのトレッド等における、グリップ性能、耐摩耗性、耐久性等の性能や、転がり抵抗が悪化したりする問題が生じる。このような問題に対し、たとえばフレキシス社のパーカリング900等に代表されるような市販のリバージョン防止剤を用いることもできるが、市販のリバージョン防止剤は一般的に石油由来の材料から製造され、環境に対する負荷を低減するという点ではあまり好ましくない。
【0007】
一方、リバージョン防止剤として、バイオマス材料の一種であるアルキッド樹脂を用いることも検討されている。アルキッド樹脂は粘着性付与効果と耐加硫戻り性の改善効果とを有するため、アルキッド樹脂の添加によりゴム組成物に良好な特性をある程度付与することができる。しかし、良好な耐加硫戻り性を得るためにアルキッド樹脂を多量に添加した場合には、耐摩耗性が悪化する場合がある他、コストが増大する場合がある。また、熱老化時の硬度変化が大きくなる場合もある。
【0008】
よって、環境への負荷が小さく、良好な粘着性および耐加硫戻り性が発揮されたゴム組成物を比較的安価に提供することが望まれている。
【特許文献1】特開2005−248056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の課題を解決し、耐摩耗性の低下およびコストの過度な増大が生じることなく、環境への負荷および熱老化時の硬度変化が低減され、かつ良好な粘着性を有するタイヤ用ゴム組成物および該タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ゴム成分と、油長が45以上であるアルキッド樹脂と、を含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、該アルキッド樹脂の含有量が、ゴム成分の100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、アルキッド樹脂において、脂肪族多塩基酸に由来する構造部分の質量割合が10質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、アルキッド樹脂の数平均分子量が、250〜5000の範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、アルキッド樹脂が天然物由来の材料から得た樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分中の含有量が50〜100質量%の範囲内となるように天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを含むことが好ましい。
【0016】
本発明はまた、上述のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を少なくとも用いてなる空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐摩耗性の低下およびコストの過度な増大を生じさせることなく、環境への負荷および熱老化時の硬度変化が小さくかつ良好な粘着性を有するタイヤ用ゴム組成物および該タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、油長が45以上であるアルキッド樹脂とを含む。本発明において、アルキッド樹脂とは、多価アルコールと多塩基酸とが縮合してなる樹脂を意味し、多価アルコールと多塩基酸との縮合物がさらに変性剤で変性された構造を有する樹脂も包含する。アルキッド樹脂は、より典型的には熱硬化性樹脂である。アルキッド樹脂は本発明のタイヤ用ゴム組成物に良好な粘着性と良好な耐加硫戻り性とを付与する。なお本発明においてアルキッド樹脂の油長とは、アルキッド樹脂中の油脂の含有量、より詳しくは油脂由来の構造部分のアルキッド樹脂中の含有量を意味する。
【0019】
本発明においては油長が45以上であるアルキッド樹脂を配合する。油長が45未満であるアルキッド樹脂を配合した場合、ゴム組成物の硬度が過度に増大し、良好な耐摩耗性を得ることが困難になる。該油長は、50以上であることが好ましく、55以上であることがより好ましい。一方、該油長は85以下であることが好ましい。この場合、多価アルコールおよび多塩基酸に由来する構造部分のアルキッド樹脂中の質量比率が所望の値以上確保されており、アルキッド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応が良好に進行したことによる適度な分子量を有する。該油長は、75以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明においては、油長を制御したアルキッド樹脂を配合することによって、たとえばアルキッド樹脂を多量に配合したときに生じる耐摩耗性の低下やコストの過度な上昇を生じさせることなく、環境への負荷および熱老化時の硬度変化が小さくかつ良好な粘着性を有するタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。
【0021】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の上記のような特性により、本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのたとえばトレッドに用いた場合には、転がり抵抗を低減し、良好なウエットグリップ性能および耐摩耗性を得ることが可能である。また本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのたとえばサイドウォールに用いた場合には、良好な引裂強さおよび耐屈曲亀裂成長性を得ることが可能である。
【0022】
<アルキッド樹脂>
本発明において用いられるアルキッド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮合物として得られる。本発明において、多価アルコールとは2価以上のアルコールを意味する。また多塩基酸とは、金属と置換したり、塩基を中和することが可能な水素原子の数、すなわち水素イオンになり得る水素原子の数が分子中で2以上である酸、言い換えれば塩基度が2以上である酸を意味する。なお本発明においては、塩基度が2以上である酸と同様に金属への置換および塩基の中和が可能な多塩基酸無水物も便宜上多塩基酸と称する。
【0023】
多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリトリット、ジペンタエリトリット、マンニット、ソルビットなどのポリアルコール等を例示でき、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
多価アルコールと多塩基酸との縮合反応に寄与する官能基の数が適切で、分子量が適度なアルキッド樹脂を得られるという理由から、三価アルコールがより好ましく、天然油脂を原料とすることによって環境に配慮できるという理由から、グリセリンが特に好ましい。
【0025】
多塩基酸としては、たとえば、アゼライン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和二塩基酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の、飽和二塩基酸または不飽和二塩基酸の無水物、シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物、テルペン−無水マレイン酸付加物、ロジン−無水マレイン酸付加物等のディールス−アルダー反応による二塩基酸、等を例示でき、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明で配合されるアルキッド樹脂においては、脂肪族多塩基酸に由来する構造部分の質量割合が10質量%以上であることが好ましい。該質量割合が10質量%以上である場合、主に石油由来である芳香族多塩基酸に由来する構造部分のアルキッド樹脂中の含有量を低減できるため、環境への負荷を一層低減することができる。また、かかる構造部分により、耐加硫戻り性や粘着付与効果をより向上させることができる。該質量割合は、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが最も好ましい。環境への負荷の低減という点では、多塩基酸としては、脂肪族多塩基酸のみを用いることが好ましいが、たとえばSBR等、芳香環を有するゴムを用いた際にかかるゴムとの相容性の向上が要求される場合等には、該芳香族多塩基酸を30質量%以下、さらに15質量%以下として脂肪族以外の多塩基酸に由来する構造部分を含有させ、上述のような効果を付与しても良い。
【0027】
脂肪族多塩基酸としては、アゼライン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和二塩基酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和二塩基酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の、飽和二塩基酸または不飽和二塩基酸の無水物、等を例示できる。中でも、環境への負荷が小さく、耐加硫戻り性および粘着性が高い点で、飽和脂肪族二塩基酸、中でもパーム油等から得られる二塩基酸であるアゼライン酸や、ひまし油から得られるセバシン酸等の、バイオマス由来の飽和脂肪族二塩基酸が最も好ましい。その他、トール油等から合成されるダイマー酸等も好ましく使用できる。
【0028】
一方、多塩基酸が不飽和多塩基酸を含む場合、物性を大きく低下させることなくより優れた粘着性付与能力を得ることができる場合がある点で好ましい。この場合、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応に寄与する官能基の数が適切で、分子量が適度なアルキッド樹脂を得るのに都合がよく、より安価に入手できるという理由から、不飽和二塩基酸およびその無水物がより好ましい。また、より安価に入手できるという理由から、フマル酸、油脂由来の二塩基酸、無水フタル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸がより好ましく、環境への負荷が小さくかつより強い粘着性が得られるという理由から、植物由来のフマル酸および/または油脂由来の二塩基酸を含むことがさらに好ましい。油脂由来の二塩基酸の原料油脂としては、パーム油、あまに油等の不飽和結合が多いものが好ましい。
【0029】
また、不飽和多塩基酸としては、水素イオンになり得る2以上の水素原子を少なくともトランスの位置に有しているものが好ましく、具体的には、上述のフマル酸等が好ましい。
【0030】
フマル酸は、たとえばマレイン酸と比べて一層高い粘着性を有する点で特に好都合である。マレイン酸は、2つのカルボキシル基がシスの位置にあるために分子内で水素結合し易いのに対し、フマル酸は2つのカルボキシル基がトランスの位置にあるために分子間で水素結合し易い。これによりフマル酸においてはより高い粘着性が得られる。
【0031】
本発明において用いられるアルキッド樹脂は、上述のような多価アルコールと多塩基酸とが縮合反応してなる構造部分と油脂由来の構造部分とを有し、油脂を変性剤として用いて合成することができる。油脂を用いることで、アルキッド樹脂の粘着性や軟らかさ、軟化点、分子量等を容易に調整することができる。
【0032】
油脂としては、環境への負荷が小さい点で石油外資源由来、すなわち天然物由来の油脂が好ましい。好ましい油脂としては、動物油および/または植物油を例示でき、より具体的には、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、羊脂、牛脚脂等の動物油、パームオイル、パームカーネルオイル、大豆油、オリーブオイル、ナタネ油、ゴマ油、キリ油、ヒマシ油、アマニ油等の植物油、等を例示できる。中でも、植物油は安定した組成が得られる点で好ましい。パームオイルおよび/またはパームカーネルオイルが粘着性付与効果およびコストの点で特に好ましく、パームカーネルオイルがより好ましい。
【0033】
本発明においては、油脂以外の変性剤として、たとえば天然樹脂、合成樹脂等を組合せて用いても良い。変性剤としてたとえば樹脂を用いる場合、アルキッド樹脂の粘着性や硬さ、軟化点、分子量等の特性を所望に応じて調整できる点で好ましい。
【0034】
変性剤として用いられる樹脂としては、ロジン、コハク、セラック等の天然樹脂、エステルガム、フェノール樹脂、炭素樹脂、メラミン樹脂等の合成樹脂、等を例示でき、これらは、単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。環境への負荷が小さい点で、石油外資源由来の天然樹脂が好ましい。
【0035】
本発明においては、アルキッド樹脂中の石油外資源由来成分、すなわち天然物由来成分の含有量が50〜100質量%の範囲内であることが好ましい。アルキッド樹脂中の天然物由来成分の含有量が50質量%以上である場合、バイオマス材料の比率を高め、環境への負荷をより小さくすることができる。天然物由来成分の該含有量は、70質量%以上、さらに80質量%以上、さらに90質量%以上であることがより好ましい。特に、アルキッド樹脂が天然物由来の材料から得た樹脂であることが好ましい。この場合、アルキッド樹脂中の天然物由来成分の含有量は100質量%となり、環境への負荷を特に顕著に低減できる。
【0036】
しかし本発明において、たとえばより高い耐熱老化性や耐摩耗性が要求される場合には、該含有量をたとえば30質量%以下、さらに20質量%以下、さらに10質量%以下として石油資源由来の成分等を適宜組合せ、かかる効果を付与しても良い。
【0037】
上記の天然物由来成分は、コストおよび性能のバランスの点で、動物由来成分および/または植物由来成分であることが好ましい。
【0038】
植物由来成分としては、粘着性付与能力が高い点で、たとえば、上述したような、パームオイル、パームカーネルオイル等を例示できる。
【0039】
本発明のアルキッド樹脂の最も典型的な組成としては、多価アルコールとしてグリセリンを、多塩基酸としてアゼライン酸、琥珀酸、セバシン酸等の飽和脂肪酸多塩基酸および必要に応じてフマル酸や油脂由来の不飽和脂肪族二塩基酸を、油脂としてパームカーネルオイルや魚油をそれぞれ用い、該多価アルコールと該多塩基酸との縮合物を該油脂で変性させてなるアルキッド樹脂、また多塩基酸として上記に加えて無水マレイン酸や無水フタル酸等の石油由来の成分をさらに組合せてなるアルキッド樹脂、を例示できる。
【0040】
アルキッド樹脂を合成する際には、全原料中の多価アルコールの質量割合を5〜40質量%の範囲内とすることが好ましい。多価アルコールの該質量割合が5質量%以上である場合、縮合反応を良好に進行させて所望の分子量のアルキッド樹脂を確実に合成でき、40質量%以下である場合、未反応の多価アルコールの残存やそれによる吸湿性の増大を良好に防止できる。多価アルコールの該質量割合は、10質量%以上、さらに12.5質量%以上であることがより好ましく、また、25質量%以下、さらに20質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
また、アルキッド樹脂を合成する際には、全原料中の多塩基酸の質量割合を10〜50質量%の範囲内とすることが好ましい。多塩基酸の該質量割合が10質量%以上である場合、縮合反応を良好に進行させて所望の分子量のアルキッド樹脂を確実に合成でき、50質量%以下である場合、アルキッド樹脂の粘着性の低下やゴム組成物の硬度の過度な上昇を良好に防止できる点で有利である。多塩基酸の該質量割合は、15質量%以上、さらに20質量%以上であることがより好ましく、また、30質量%以下、さらに25質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
また、アルキッド樹脂を合成する際には、全原料中の脂肪族多塩基酸の質量割合を10質量%以上とすることが好ましい。この場合環境への負荷を一層低減できる。該質量割合は、15質量%以上、さらに20質量%以上、さらに25質量%以上であることがより好ましい。また、多塩基酸としては脂肪族多塩基酸のみを用いることが好ましいが、たとえばSBR等、芳香環を有するゴムを用いた際に、かかるゴムとの相容性の向上が要求される場合等には、芳香族多塩基酸を30質量%以下、さらに15質量%以下として脂肪族以外の多塩基酸を組合せて用い、上述のような効果を付与しても良い。
【0043】
本発明において用いられるアルキッド樹脂を合成する際には、全原料中の油脂の質量割合を45〜85質量%の範囲内とすることが好ましい。油脂の該質量割合が45質量%以上である場合、アルキッド樹脂の油長を確保して耐加硫戻り性を良好に発揮させることができ、85質量%以下である場合、多価アルコールおよび多塩基酸の原料中での質量割合を一定以上確保して縮合反応を良好に進行させ、適度な分子量を有するアルキッド樹脂を確実に得ることができる。油脂の該質量割合は、50質量%以上、さらに55質量%以上であることがより好ましく、また、75質量%以下、さらに65質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明において用いられるアルキッド樹脂が、油脂以外の変性剤によってさらに変性されている場合、全原料中の油脂以外の変性剤の質量割合は、0.5〜30質量%の範囲内であることが好ましい。油脂以外の変性剤の該質量割合が0.5質量%以上である場合、含有させた変性剤による改質効果が良好であり、30質量%以下である場合、縮合反応を良好に進行させて所望の分子量のアルキッド樹脂を確実に合成できる上に必要な油長を確保できる。油脂以外の変性剤の該質量割合は、2質量%以上、さらに4質量%以上であることがより好ましく、また、25質量%以下、さらに15質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
アルキッド樹脂の数平均分子量は、250以上であることが好ましい。アルキッド樹脂の数平均分子量が250以上である場合、アルキッド樹脂がブリードしたり、加硫時にアルキッド樹脂が揮発することによるゴムの発泡が生じたりするおそれが少ない。アルキッド樹脂の数平均分子量は、500以上であることがより好ましい。また、アルキッド樹脂の数平均分子量は、5000以下であることが好ましい。アルキッド樹脂の数平均分子量が5000以下である場合、ゴム組成物の硬度の過度な上昇を防止できるため、ゴム組成物をたとえばトレッド用に用いた場合にグリップ性能、特にウエットグリップ性能がより良好になるとともに燃費も低減できる。アルキッド樹脂の数平均分子量は、3000以下、さらに1500以下であることがより好ましい。
【0046】
アルキッド樹脂の酸価は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。該酸価が5未満である場合、安価に入手したり、容易に合成することが難しくなる場合がある。また、酸価は60以下が好ましく、30以下がより好ましい。酸価が60以下である場合、架橋密度が低くなり過ぎないため、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に、摩耗外観の悪化や走行中の硬度の低下を引き起こすおそれを少なくできる。なお本発明においてアルキッド樹脂の酸価とは、アルキッド樹脂をトルエン等の有機溶媒に溶解させて、水酸化カリウム(KOH)にて中和滴定する際の、アルキッド樹脂1gの中和滴定に必要なKOHの添加量(mg)を意味する。
【0047】
アルキッド樹脂の水酸基価は、50以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。該水酸基価が50以上である場合、より良好な粘着性付与能力が発揮される。また、該水酸基価は、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましい。水酸基価が100以下である場合、ゴム組成物のヒステリシスロスが大きくなり過ぎず、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に転がり抵抗が悪化するおそれが少ない。なお本発明においてアルキッド樹脂の水酸基価とは、アルキッド樹脂をアセチル化させた後KOHにて中和する際、アルキッド樹脂1gから得られるアセチル化物に結合している酢酸を中和するのに必要なKOHの添加量(mg)を意味する。
【0048】
アルキッド樹脂の軟化点は、−40℃以上であることが好ましく、−20℃以上であることがより好ましく、0℃以上であることがさらに好ましい。軟化点が−40℃以上である場合、特に良好な粘着性付与能力が発現される。また、軟化点は、30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好
ましい。軟化点が30℃以下である場合、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に、転がり抵抗が増大したり、硬度が過度に上昇してウエットグリップ性能が低下したりするおそれが少ない。
【0049】
油長が45以上のアルキッド樹脂の含有量は、ゴム成分の100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲内であることが好ましい。該アルキッド樹脂の該含有量が0.5質量部以上である場合、耐加硫戻り性の向上効果および粘着性付与効果が特に良好であり、10質量部以下である場合、耐摩耗性の低下およびコストの上昇を良好に防止できる。アルキッド樹脂の該含有量は、1.0質量部以上、さらに1.5質量部以上であることがより好ましく、また、7質量部以下、さらに5質量部以下であることがより好ましい。
【0050】
なお、アルキッド樹脂の評価は、分子構造およびゴム組成物中の含有量については核磁気共鳴装置(NMR)や赤外線吸収スペクトル等を、数平均分子量についてはゲル浸透クロマトグラフ(GPC)等を、ガラス転移温度については示差走査熱量分析装置等を、それぞれ用いて実施可能である。
【0051】
<ゴム成分>
本発明において使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等を例示でき、これらは単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。特に、本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのトレッド用やサイドウォール用として用いる場合、耐摩耗性、耐疲労特性および耐屈曲亀裂成長性において優れるなどの効果が得られることから、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる1種以上のゴムが好ましく、さらに、環境への負荷をより小さくできる点で、天然ゴムおよび/または改質天然ゴムがより好ましい。
【0052】
上記のスチレンブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。結合スチレン量が10%以上である場合、本発明のタイヤ用ゴム組成物をたとえばトレッド用として用いた場合のグリップ性能が特に良好である。また、結合スチレン量は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。結合スチレン量が60%以下である場合、ゴム組成物をトレッド用として用いた場合の耐摩耗性が特に良好である。
【0053】
ブタジエンゴム(BR)は、ブタジエンユニットの結合のうち90%以上がシス1,4−結合である高シスBRであることが好ましい。該高シスBRを配合することにより、特にトラック・バス用タイヤのトレッド用途や、一般の乗用車用も含めたサイドウォール用途において、耐屈曲亀裂成長性および耐老化性能を良好に改善することができる。
【0054】
スチレンブタジエンゴム(SBR)および/またはブタジエンゴム(BR)を配合する場合、SBRおよび/またはBRの含有率は、ゴム成分中で50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。SBRおよび/またはBRの含有率が50質量%以下である場合、ゴム成分中の石油資源比率を低く抑え、環境への負荷をより小さくすることができる。また、ゴム組成物を空気入りタイヤのサイドウォール用に用いる場合には、通常SBRは使用しないため、BRの含有率を50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましい。
【0055】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分中の含有量が50〜100質量%の範囲内となるように天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを含むことが好ましい。本発明において
特定のアルキッド樹脂を配合することにより得られる耐加硫戻り性の向上効果は、天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを多く含むような、よりリバージョンが起こり易い系において特に顕著に発揮される。
【0056】
上記の含有量が50質量%以上である場合、石油資源比率を低減して環境への負荷をより小さくできるとともに、天然ゴムおよび改質天然ゴムとの相容性に優れるアルキッド樹脂を用いることによる粘着性付与効果を良好に発現できる。上記の含有量は、60質量%以上、さらに75質量%以上、さらに85質量%以上であることがより好ましい。
【0057】
なお、ゴム成分の100質量%を天然ゴムおよび/または改質天然ゴムが占めることが環境への負荷が小さい点で好ましいが、たとえば上記の含有量を85質量%以下、さらに75質量%以下、さらに60質量%以下とする場合、たとえば上記のスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等の他のゴムを組合せることによって、より高い耐摩耗性や耐クラック性等の性能を確保できる可能性がある点で好都合である。
【0058】
なお、改質されていない天然ゴムのゴム成分中の含有率は、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下がより好ましい。改質されていない天然ゴムの含有率が85質量%以下である場合、耐屈曲亀裂成長性および耐オゾン性に問題が生じるおそれが少ない。なお、ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として用いる場合、改質されていない天然ゴムのゴム成分中の含有率は80質量%以下とすることが好ましく、サイドウォール用ゴム組成物として用いる場合、該含有率は15〜85質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0059】
改質天然ゴムとしては、上述したエポキシ化天然ゴム(ENR)や、水素化天然ゴム等を例示できる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いても良い。特に、トレッド用途において良好なグリップ性能を得ることができる点、また、サイドウォール用途において天然ゴムと適度な大きさの海島構造をつくり、耐屈曲亀裂成長性を改善できるとともに他の改質天然ゴムに比べて比較的安価に入手できる点で、エポキシ化天然ゴム(ENR)が好ましい。エポキシ化天然ゴム(ENR)には、天然ゴムと比較して加硫戻り(すなわちリバージョン)をおこしやすいという問題があるが、本発明においては、ゴム組成物中にアルキッド樹脂を含有させるため、アルキッド樹脂によって特に高温加硫を行なった場合の物性改善効果が良好に得られ、エポキシ化天然ゴムを用いても十分な耐加硫戻り性を有するゴム組成物を得ることができる。
【0060】
エポキシ化天然ゴム(ENR)としては、市販のエポキシ化天然ゴム(ENR)を用いてもよいし、天然ゴムをエポキシ化して用いてもよい。天然ゴムをエポキシ化する方法としては、たとえば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を例示できる。
【0061】
過酸法としては、たとえば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法等を例示できる。
【0062】
エポキシ化天然ゴム(ENR)のエポキシ化率、すなわちエポキシ化前の天然ゴム中の二重結合の全数のうちエポキシ化された数の割合は、3モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が特に好ましい。エポキシ化率が3モル%以上である場合、改質効果が良好に得られる。エポキシ化率は、80モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。エポキシ化率が80モル%以下である場合、ゲル化を良好に防止できる。
【0063】
なおエポキシ化率は、たとえば滴定分析や核磁気共鳴(NMR)分析等により求めるこ
とができる。
【0064】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのトレッドに用いる場合、ゴム成分中の改質天然ゴムの含有率は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。改質天然ゴムの該含有率が30質量%以上である場合、改質天然ゴムの配合によるグリップ性能の改善効果が良好である。一方、タイヤ用ゴム組成物をサイドウォールに用いる場合、改質天然ゴムの該含有率は、15〜85質量%の範囲内であることが好ましい。サイドウォール用途では、改質天然ゴムの含有率を上記の範囲内に設定することで、天然ゴムなどの他のゴムと適度な分散サイズの海島構造を形成できるため、耐クラック性が特に良好になる。
【0065】
<その他の成分>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分、アルキッド樹脂に加え、軟化剤、粘着付与剤、無機充填剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄その他の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等、必要に応じた添加剤が適宜配合され得る。
【0066】
軟化剤としては、芳香族系(アロマ系)オイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、大豆油、パーム油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、などが挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対してたとえば100質量部以下とされることが好ましく、この場合、該ゴム組成物がタイヤに使用された際のウエットグリップ性能を低下させる危険性が少ない。
【0067】
価格が安いという観点では、アロマオイル、環境に配慮するという観点では大豆油、パーム油等の植物油が好ましい。特にゴムとして天然ゴム(NR)や改質天然ゴムを主成分とする場合には、アルキッド樹脂および植物油を併用することで、硬度を過度に上昇させることなく、粘着性の向上効果および転がり抵抗の低減効果をより良好に得ることができる。
【0068】
軟化剤として用いる植物油のヨウ素価は、5〜150の範囲内であることが好ましく、40〜140の範囲内であることがより好ましい。該ヨウ素価が5以上であるものは安価に入手し易い。また、該ヨウ素価が150以下である場合、tanδおよび硬度の過度な上昇を防止し、ゴム組成物の熱老化による硬度変化を低減できる。
【0069】
軟化剤として用いる植物油は、炭素数18以上の脂肪酸成分の含有率が、5〜100質量%の範囲内であるものが好ましい。該含有率は、20〜97質量%の範囲内がより好ましく、50〜95質量%の範囲内がさらに好ましい。該含有率が5質量%以上である場合、軟化剤の分子量低下を防止し、ブリードを良好に防止できる。なお、該含有率は100質量%に近い方が好ましいが、該含有率が高いものは容易に入手しにくく、コストが上昇する傾向があるため、該含有率が97質量%以下、さらに95質量%以下のものを用いればコストを低減でき好ましい。
【0070】
軟化剤として植物油を用いる場合、該植物油の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2〜30質量部の範囲内であることが好ましく、4〜15質量部の範囲内であることがより好ましい。植物油の該含有量が2質量部以上である場合、タイヤ用ゴム組成物の硬度の過度な上昇を良好に防止できる。また、植物油の該含有量が30質量部以下である場合、ゴムの物理的強度が良好であるとともに、植物油の種類によって生じる場合があるブリードを良好に防止できる。
【0071】
粘着付与剤としては、テルペン系重合体、フェノール系樹脂、石油系樹脂、ロジン系樹脂等から選択される1種または2種以上を例示できる。
【0072】
安価である点では、フェノール系樹脂、石油系樹脂等が好ましいが、環境への負荷が小さい点では、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等が好ましい。
【0073】
ゴム成分として天然ゴムや改質天然ゴムを使用する場合には、これらのゴムとの相容性が高い点でロジン系樹脂、テルペン系樹脂を併用することが好ましい。
【0074】
本発明のゴム組成物は、さらに、無機充填剤を含むことが好ましい。無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化チタン、クレー、タルク、酸化マグネシウム等を例示できる。中でも、環境への負荷が小さい点で、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化チタン、クレー、タルク、酸化マグネシウムが好ましく、特に、アルキッド樹脂との併用でゴムの補強性が良好になる点で、シリカが好ましい。
【0075】
無機充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部の範囲内であることが好ましく、20〜100質量部の範囲内であることがより好ましい。無機充填剤の配合量が10質量部以上である場合、補強性が良好であり、無機充填剤の配合量が150質量部以下である場合、加工性が良好である。
【0076】
無機充填剤としてシリカが配合される場合、ゴム成分の100質量部に対して、シリカを5〜150質量部の範囲内、およびシランカップリング剤を該シリカの含有量に対して1〜20質量%の範囲内となるようにそれぞれ含むことが好ましい。ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が5質量部以上である場合、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いたときの走行時におけるタイヤの発熱が低減されるとともに、良好なウエットグリップ性能と耐摩耗性とが得られる。また該含有量が150質量部以下である場合、未加硫ゴム組成物の製造時の粘度上昇が抑えられること等によりゴム組成物の製造時の加工性、作業性が良好となる。シリカの該含有量は、さらに10〜120質量部の範囲内、さらに15〜100質量部の範囲内とされることが好ましい。
【0077】
シリカとしては、従来ゴム補強用として慣用されているものが使用でき、たとえば乾式法シリカ、湿式法シリカ、コロイダルシリカ等の中から適宜選択して用いることができる。また、窒素吸着比表面積(N2SA)が30〜300m2/gの範囲内、さらに120〜280m2/gの範囲内であるものを用いることが好ましい。シリカのN2SAが30m2/g以上である場合ゴム組成物に対する補強効果が大きい点で好ましく、300m2/g以下である場合ゴム組成物中での該シリカの分散性が良好で、該ゴム組成物の発熱性の増大を防止できる点で好ましい。
【0078】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、好ましくはシランカップリング剤がさらに配合される。シリカの含有量に対してシランカップリング剤の含有量が1質量%以上である場合、シランカップリング剤の配合によるカップリング効果が十分得られる。またシリカの含有量に対して20質量%より多くシランカップリング剤を配合してもコスト上昇の割にカップリング効果の上昇は少ない上、シランカップリング剤の含有量が過度に多い場合には、補強性、耐摩耗性がかえって低下する場合があるため、シリカの含有量に対するシランカップリング剤の含有量は20質量%以下とされることが好ましい。該含有量は、2〜15質量%の範囲内とされることが特に好ましい。
【0079】
シランカップリング剤としては、従来からシリカ充填剤と併用される任意のシランカッ
プリング剤を用いることができる。具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−メチルジエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−メチルジエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−メチルジメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−メチルジメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−メチルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−メチルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(4−メチルジエトキシプロピル)ジスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−メチルジメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(4−メチルジメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0080】
中でも、カップリング効果と製造コストとの両立の面で、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が特に好ましく用いられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0081】
また、上述のシランカップリング剤以外のカップリング剤、たとえばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を併用することも可能である。
【0082】
無機充填剤としてカーボンブラックが配合される場合、該カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対してたとえば100質量部以下、さらに2〜80質量部の範囲内とされることが好ましい。カーボンブラックの配合量が100質量部以下であればゴム組成物の調製時の分散性および作業性を悪化させる危険性が少ない。
【0083】
カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が、たとえば50〜1400m2/gの範囲内、さらに100〜200m2/gの範囲内に設定されたものが好ましく用いられる。窒素吸着比表面積が50m2/g以上であれば該ゴム組成物がタイヤに使用された場合に良好なウエットグリップ性能および耐摩耗性が得られ、1400m2/g以下であればゴム組成物を調製する際のカーボンブラックの分散性悪化によるゴム組成物の耐摩耗性の低下が防止される。
【0084】
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物とし
ては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0085】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含むものを使用することが可能である。
【0086】
スルフェンアミド系としては、たとえばCBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物などが挙げられる。
【0087】
チアゾール系としては、たとえばMBT(2−メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、亜鉛塩、銅塩、シクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0088】
チウラム系としては、たとえばTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0089】
チオウレア系としては、たとえばチアカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素などのチオ尿素化合物などが挙げられる。
【0090】
グアニジン系としては、たとえばジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、オルトトリルビグアニド、ジフェニルグアニジンフタレートなどのグアニジン系化合物が挙げられる。
【0091】
ジチオカルバミン酸系としては、たとえばエチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛とピペリジンの錯塩、ヘキサデシル(またはオクタデシル)イソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
【0092】
アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系としては、たとえばアセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒド−アンモニア反応物などが挙げられる。
【0093】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
【0094】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物には必要に応じて可塑剤を配合することができる。具体的には、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、等が挙げられる。
【0095】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、スコーチを防止または遅延させるためスコーチ防止剤として、たとえば無水フタル酸、サリチル酸、安息香酸などの有機酸、N−ニトロソジフェニルアミンなどのニトロソ化合物、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等を使用することができる。
【0096】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、さらに、ステアリン酸、酸化亜鉛等の、通常ゴム工業にて使用される配合剤を適宜配合することができる。
【0097】
環境への負荷の低減という点で、本発明のタイヤ用ゴム組成物はバイオマス材料を50質量%以上含むことが好ましい。ゴム組成物中のバイオマス材料の含有率は、70質量%以上、さらに80質量%以上、さらに90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが最も好ましい。なお本発明において、バイオマス材料とは、2002年12月に閣議決定されたバイオマス・ニッポン総合戦略の策定により「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されるバイオマスからなる材料を意味する。
【0098】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は良好な粘着性と耐加硫戻り性とを有し、特に、成形時に粘着性が必要とされ、加硫時に金型に接するためにリバージョンの抑制も重要である用途に適している。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤの特にトレッドおよび/またはサイドウォールに対して好適に適用される。トレッドおよびサイドウォールは体積および質量が大きいことから、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いることによる効果を顕著に得られる。
【0099】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用い、通常の方法で製造される。すなわち、必要に応じて各種の配合剤を配合した本発明のタイヤ用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドまたはサイドウォールの形状に成形し、他のタイヤ部材と貼りあわせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより本発明の空気入りタイヤを得ることができる。
【0100】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、乗用車用、トラック・バス用、重機用等、種々の空気入りタイヤに対して好適に適用され得る。図1は、本発明に係る空気入りタイヤの右半分を示す断面図である。タイヤTは、ビード部1とサイドウォール部2とトレッド部3とを有している。さらに、ビード部1にはビードコア4が埋設される。また、一方のビード部1から他方のビード部にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア4を係止するカーカス5と、該カーカス5のクラウン部外側の2枚以上のベルトプライよりなるベルト層6とが配置されている。カーカス5とその折返し部5aに囲まれる領域には、ビードコア4の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス7が配置される。本発明の
タイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤの主としてトレッド部、サイドウォール部に対して好適に使用され得る他、カーカスプライ、ベルトプライ、ビードエーペックス等に対しても使用され得る。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
<アルキッド樹脂の合成>
下記の手順に従ってアルキッド樹脂を合成した。なお、多価アルコール、多塩基酸および変性剤の配合量は、表1の配合処方にしたがった。
【0103】
(アルキッド樹脂1の合成)
パームカーネルオイル(以下、PKOとも記載する)に、モノグリセリドとするための必要量のグリセリンを加え、アルカリ触媒である水酸化リチウムの存在下で攪拌しながら200〜260℃で処理し、モノグリセリドを調製した。その後、180℃になるまで冷却し、パーム油から合成したアゼライン酸を攪拌下で添加し、さらに、残りのグリセリンを添加して、210〜220℃になるまで昇温して数時間反応させた。最後に、反応によって生成した水等の不純物を減圧除去し、アルキッド樹脂1を合成した。
【0104】
(アルキッド樹脂2の合成)
アゼライン酸に加えてフマル酸も添加した他はアルキッド樹脂1の合成と同様にして、アルキッド樹脂2を合成した。
【0105】
(アルキッド樹脂3,4の合成)
PKOにグリセリンを必要量加え、アルカリ触媒である水酸化リチウムの存在下で攪拌しながら200〜260℃で処理した後、180℃になるまで冷却し、攪拌しながら、無水フタル酸を添加し、さらにグリセリンを添加して、210〜220℃になるまで昇温して反応させた。続いて、無水マレイン酸をさらに加えて数時間反応させた後、生成した水や溶媒等を減圧除去し、アルキッド樹脂3,4を合成した。
【0106】
アルキッド樹脂1〜4の各種特性を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
次に、後述の表2,3で示される、実施例および比較例で用いたアルキッド樹脂以外の薬品をまとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のスチレンブタジエンゴム「ニッポールNS116」(溶液重合SBR、結合スチレン量:21%、ガラス転移温度:−25℃)
NR:天然ゴム「RSS#3」
エポキシ化天然ゴム:GUTHRIE POLYMER SDN.BHD社製のENR−25(エポキシ化率:25モル%、ガラス転移温度:−41℃)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(BET比表面積:175m2/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi−69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
大豆油:日清製油(株)製の大豆白絞油(S)(ヨウ素価:131、炭素数18以上の脂肪酸成分:84.9%)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
石油系レジン:丸善石油化学(株)製のマルカレッツT100AS(脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点:100℃)
テルペンレジン:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジン PX300N(数平均分子量:2500、重量平均分子量:4800、軟化点:30℃)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤BBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルファンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジン)
<実施例1〜9,比較例1〜11>
[未加硫ゴム組成物の調製]
(トレッド用未加硫ゴム組成物)
(株)神戸製鋼所製の1.7L密閉式バンバリーミキサーを用いて、表2の工程1の配合処方に記載の薬品を、バンバリーミキサーの充填率が58%になるように配合し、回転数80rpmで、混練機の表示温度が140℃になるまで3〜8分間混練りし(工程1)、混練物1を得た。なお、実施例1,2および比較例1では、シリカの配合量が多いため、まず、シリカ50質量部およびシランカップリング剤4質量部ならびに表2の工程1に記載のその他の薬品をその配合処方にしたがって配合し、4分間混練りし、排出した後、表2の工程1に記載の残りの薬品(シリカ50質量部およびシランカップリング剤4質量部)を配合し、混練物1を得た。
【0109】
得られた混練物1に、硫黄ならびに加硫促進剤BBSおよび加硫促進剤DPGを表2の工程2の配合処方にしたがい配合し、2軸オープンロールを用いて50℃で3分間混練りする(工程2)ことで、本発明のトレッド用未加硫ゴム組成物を調製した。
【0110】
(サイドウォール用未加硫ゴム組成物)
表3の工程1の配合処方に記載の薬品を配合した以外はトレッド用未加硫ゴム組成物の調製における工程1と同様に、混練物2を得た。次に、上記バンバリーミキサー中の混練物2に、エポキシ化天然ゴム(ENR)を表3の工程2の配合処方にしたがい添加して3分間混練りし、混練物3を得た。さらに、得られた混練物3に、硫黄および加硫促進剤BBSを表3の工程3の配合処方にしたがい配合した以外はトレッド用未加硫ゴム組成物の調製における工程2と同様にして、サイドウォール用未加硫ゴム組成物を調製した。
【0111】
得られたトレッド用およびサイドウォール用未加硫ゴム組成物を用いて、以下の粘着性試験およびリバージョン試験を行なった。
【0112】
(粘着性試験)
(株)東洋精機製作所製のPICMA・タックテスタを用いて、上昇スピード30mm/min、測定時間2.5秒間の条件下で、温度23℃、湿度55%での未加硫ゴム組成物の粘着力[N]を測定した。さらに、基準配合の粘着性指数を100とし、下記計算式、
(粘着性指数)=(各配合の粘着力/基準配合の粘着力)×100
により粘着力を指数表示した。粘着性指数が大きいほど粘着力が大きく、優れていることを示す。なお、基準配合は、実施例1,2および比較例1では比較例1、実施例3〜7および比較例2〜8では比較例2、実施例8,9および比較例9〜11では比較例9とした。
【0113】
(リバージョン試験)
キュラストメーターを用い、170℃における未加硫ゴム組成物の加硫曲線を測定した。最大トルク(MH)値を100として、加硫開始時点から15分後のトルク値を相対値で示し、相対値を100から引いた値をリバージョン率とした。リバージョン率が小さいほど、リバージョンが抑制され、耐加硫戻り性が良好であることを示す。
【0114】
粘着性試験およびリバージョン試験の評価結果を表2,3に示す。
[加硫ゴム組成物の調製]
上記の方法で調製したトレッド用およびサイドウォール用の未加硫ゴム組成物を必要なサイズに成形し、150℃で30分間(低温加硫)または170℃で12分間(高温加硫)のプレス加硫を行なうことで、後述の転がり抵抗試験および引裂試験に使用する加硫ゴムスラブシートならびにランボーン摩耗試験、ウエットグリップ試験、硬度試験およびデマチャ屈曲亀裂成長試験のそれぞれの試験に必要なサイズの加硫ゴム試験片を作製した。
【0115】
そして、トレッド用途の実施例1〜7および比較例1〜8において、加硫ゴムスラブシートは後述の転がり抵抗試験に、加硫ゴム試験片は後述のランボーン摩耗試験、ウエットグリップ試験および硬度試験の各試験に必要なサイズに成形して用いた。
【0116】
一方、サイドウォール用途の実施例8,9および比較例9〜11において、加硫ゴムスラブシートは後述の転がり抵抗試験および引裂試験に、加硫ゴム試験片は後述の硬度試験およびデマチャ屈曲亀裂成長試験の各試験に必要なサイズに成形して用いた。
【0117】
後述の各評価試験において、低温加硫した加硫ゴム組成物および高温加硫した加硫ゴム組成物の各特性を評価した。評価結果は、実施例1,2および比較例1では比較例1を、また、実施例3〜7および比較例2〜8では比較例2を、実施例8,9および比較例9〜11では比較例9をそれぞれ基準配合とし、以下に述べるように、基準配合の低温加硫時の数値を基準として指数表示した。
【0118】
(転がり抵抗試験)
加硫ゴム組成物として、2mm×130mm×130mmの加硫ゴムスラブシートを作製し、そこから測定用試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、各試験用ゴム組成物のtanδを測定し、基準配合の低温加硫時の転がり抵抗指数を100として、下記計算式、
(転がり抵抗指数)=(基準配合の低温加硫時のtanδ)÷(各配合の低温加硫時または高温加硫時のtanδ)×100
により、転がり抵抗特性をそれぞれ指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が低く、性能に優れることを示す。
【0119】
(ランボーン摩耗試験)
(株)岩本製作所製のランボーン摩耗試験機にて、負荷荷重2.5kg、スリップ率40%、温度20℃、測定時間2分間の条件下で、ランボーン摩耗試験用加硫ゴム試験片を摩耗させて、各配合のランボーン摩耗量を測定し、容積損失量を算出した。さらに、基準配合の低温加硫時のランボーン摩耗指数を100とし、下記計算式、
(ランボーン摩耗指数)=(基準配合の低温加硫時の容積損失量)÷(各配合の低温加硫時または高温加硫時の容積損失量)×100
により、耐摩耗性を指数表示した。ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性が優れることを示す。
【0120】
(ウエットグリップ試験)
スタンレー社製のポータブルスキッドテスターにて、ASTM E303−83の方法にしたがって最大摩擦係数を測定した。さらに、基準配合の低温加硫時のウエットグリップ指数を100とし、下記計算式、
(ウエットグリップ指数)=(各配合の低温加硫時または高温加硫時の最大摩擦係数)÷(基準配合の低温加硫時の最大摩擦係数)×100
により、ウエットグリップ性能を指数表示した。ウエットグリップ指数が大きいほど、ウエットグリップ性能が優れることを示す。
【0121】
(硬度試験)
JIS K6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に従い、タイプAデュロメーターにて硬度を測定した。さらに、基準配合の低温加硫時の硬度を100とし、下記計算式、
(硬度指数)=(各配合の低温加硫時または高温加硫時の硬度)÷(基準配合の低温加硫時の硬度)×100
により、硬度を指数表示した。硬度指数が大きいほど、ゴム硬度が大きいことを示す。
【0122】
(引裂試験)
JIS K 6252「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引裂強さの求め方」に準じて、切り込みなしのアングル型試験片を使うことにより、引裂強さ(N/mm)を測定した。さらに、基準配合の低温加硫時の引裂強さを100とし、下記計算式、
(引裂強度指数)=(各配合の低温加硫時または高温加硫時の引裂強さ)÷(基準配合の低温加硫時の引裂強さ)×100
により、引裂強さを指数表示した。引裂強度指数が大きいほど、引裂強さが向上し、サイドウォール用ゴム組成物として優れていることを示す。
【0123】
(デマチャ屈曲亀裂成長試験)
JIS K6260「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムのデマチャ屈曲亀裂試験方法」に準じて、温度23℃、相対湿度55%の条件下で、加硫ゴム組成物のサンプルに関して、100万回試験後の亀裂長さ、あるいは成長が1mmになるまでの回数を測定し、得られた回数および亀裂長さをもとに、加硫ゴム組成物のサンプルに1mmの亀裂成長がおこるまでの屈曲回数を常用対数値で表現した。なお、70%および110%とは、もとの加硫ゴム組成物のサンプルの長さに対する伸び率を表し、該常用対数値が大きいほど、亀裂が成長しにくく、耐屈曲亀裂成長性が優れていることを示す。
【0124】
試験結果を表2,3に示す。
【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
油長が45以上であるアルキッド樹脂をタイヤ用ゴム組成物中に含有させた実施例1〜9では、油長が45以上であるアルキッド樹脂を含有しない比較例1〜11と比べて、粘着性の向上効果およびリバージョン率の低減効果が顕著に認められた。
【0128】
実施例1〜7は比較例1〜8と比べて転がり抵抗特性および耐摩耗性が良好であった。実施例1〜7においては、良好な耐摩耗性を示すとともに、低温加硫時のみならず高温加硫時においてもウエットグリップ性能が良好であり、トレッド用途として優れた特性を示した。特に、天然ゴム、および改質天然ゴムであるエポキシ化天然ゴムの比率が高い実施例3〜7において、転がり抵抗特性の向上効果およびリバージョン率の低減効果が良好であった。
【0129】
実施例8,9では、比較例9〜11との比較において、引裂強さが同等以上であるとともに低温加硫時および高温加硫時の両方において耐屈曲亀裂成長性が向上し、サイドウォール用途として優れた特性を示した。
【0130】
なお、実施例1〜9では比較例1〜11と比べて低温加硫時および高温加硫時の両方で良好な特性を示したが、特に、低温加硫時との比較における高温加硫時の特性の低下度合が、実施例1〜9においては比較例1〜11と比べて小さかった。
【0131】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は空気入りタイヤのたとえばトレッド、サイドウォール等に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの右半分を示す断面図である。
【符号の説明】
【0134】
T タイヤ、1 ビード部、2 サイドウォール部、3 トレッド部、4 ビードコア、5 カーカス、5a 折返し部、6 ベルト層、7 ビードエーペックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、油長が45以上であるアルキッド樹脂と、を含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記アルキッド樹脂の含有量が、前記ゴム成分の100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲内である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記アルキッド樹脂において、脂肪族多塩基酸に由来する構造部分の質量割合が10質量%以上である、請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記アルキッド樹脂の数平均分子量が、250〜5000の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記アルキッド樹脂が天然物由来の材料から得た樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分中の含有量が50〜100質量%の範囲内となるように天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを含む、請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を少なくとも用いてなる空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274207(P2008−274207A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184392(P2007−184392)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】