説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】シリカの分散性、加工性などの種々の性能に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供する
【解決手段】ゴム成分、CTAB比表面積が180m/g以上、BET比表面積が185m/g以上のシリカ、及び一般式(2)で示される結合単位1〜70モル%と残りの結合単位がそのオクタン酸エステルである共重合体のシランカップリング剤を含むタイヤ用ゴム組成物。[化2]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からトレッド、サイドウォール、ベーストレッドなどに使用されるタイヤ用ゴム組成物では、補強性を得るために充填剤としてカーボンブラックが汎用されてきたが、近年の低燃費化の要求、石油資源の枯渇に対する懸念により、シリカが使用されるようになってきている。ところが、シリカは表面に親水性シラノール基が存在するため、カーボンブラックに比べゴム(特に、タイヤ用でよく使われる天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等)との親和性が低く、耐摩耗性や力学強度(引張強度、破断伸び、耐クラック性、耐屈曲亀裂成長性、引裂き強度など)の点で劣る場合が多い。
【0003】
例えば、タイヤのサイドウォールやベーストレッドには、優れた引張り強さ、引き裂き強さを示す天然ゴム、耐屈曲亀裂成長性に改善効果を示すブタジエンゴム等をブレンドしたゴム成分にカーボンブラックを配合したゴム組成物が従来から使用されているが、カーボンブラックの大半、場合によってはすべてをシリカに置換すると、耐クラック性及び耐屈曲亀裂成長性が低下するという問題がある。これは、カーボンブラックに比べてシリカは分散性が低下する傾向があること、破壊エネルギー(引張強度×破断伸び)を充分に確保しにくいこと、などに起因すると考えられる。更にトレッドにおいても、シリカへの置換により、耐摩耗性の低下などの問題がある。
【0004】
このような問題を改善するため、シランカップリング剤を用いたり、補強性の高い微粒子シリカを用いたりする方法が考えられる。しかし、微粒子シリカは一般にゴム組成物中で分散させることが非常に困難で、良好に分散できずに凝集塊が残り、耐摩耗性や力学強度をそれ程改善できない、あるいは場合によっては更にこれらの特性を悪化させてしまう場合もある。
【0005】
従来のタイヤ用ゴム組成物で汎用されている、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのシランカップリング剤は、シリカの分散性を大きく改善し、良好な力学特性を与える。しかしながら、微粒子シリカを分散させるには、多量のシランカップリング剤が必要であるため、コストが大きく上昇してしまう上、充分に添加しても良好な分散を得ることが出来ない場合もある。また、微粒子シリカとこれらのカップリング剤とを十分に反応させるために高温で混練すると、ゴムのゲル化やゴム焼けが発生する傾向がある。
【0006】
更に、従来から用いられている上記カップリング剤より反応性の高いカップリング剤として、メルカプト基を有するシランカップリング剤が提案されている。かかるシランカップリング剤は、反応性が高いため高性能であるが、スコーチタイムがかなり短くなるため、タイヤ工業において実用化するのは難しく、ほとんど使用されていないのが現状である。
【0007】
特許文献1には、シリカを配合し、転がり抵抗、耐摩耗性を悪化させることなく、ウェットグリップ性能を向上できるタイヤ用ゴム組成物が開示されている。また、特許文献2〜3には、良好な耐屈曲亀裂成長性、引裂き強度を有するシリカ配合のサイドウォール用ゴム組成物が開示されている。しかし、転がり抵抗、耐摩耗性及びウェットグリップ性能をバランスよく改善する点や転がり抵抗、耐屈曲亀裂成長性、引裂き強度及び耐クラック性をバランスよく改善する点については、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−31244号公報
【特許文献2】特開2006−70093号公報
【特許文献3】特開2007−56205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決し、シリカの分散性、加工性などの種々の性能に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。具体的には、良好な転がり抵抗特性と耐摩耗性を高次元で両立できるとともに、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能にも優れたトレッド用ゴム組成物、並びに転がり抵抗特性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性及び耐クラック性をバランス良く改善したサイドウォール又はベーストレッド用ゴム組成物を提供することを目的とする。また、これらのゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、耐摩耗性、耐クラック性、耐屈曲亀裂成長性などが問題となり易いシリカ配合系において、特定値以上のCTAB比表面積及びBET比表面積を有するシリカと、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤とを併用することで、該微粒子シリカの良好な分散性と耐スコーチ性を両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含み、上記シリカは、CTAB比表面積が180m/g以上、BET比表面積が185m/g以上であり、上記シランカップリング剤は、下記一般式(1)で示される結合単位Aと下記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したものであるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【化1】

【化2】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。Rは水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。Rは水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。RとRとで環構造を形成してもよい。)
【0012】
上記シリカは、アグリゲートサイズが30nm以上であることが好ましい。
上記ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30質量%以上であることが好ましい。
【0013】
上記ゴム組成物は、トレッド、サイドウォール又はベーストレッドに使用されることが好ましい。
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゴム成分と、特定値以上のCTAB比表面積及びBET比表面積を有するシリカと、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤とを含むタイヤ用ゴム組成物であるので、シリカの分散性、加工性などの種々の性能に優れている。このため、(キャップ)トレッドに使用すると、転がり抵抗特性と耐摩耗性を高次元で両立できるとともに、優れたウェットグリップ性能、ドライグリップ性能、力学強度も得ることができる。また、サイドウォール又はベーストレッドに使用すると、転がり抵抗特性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性及び耐クラック性をバランス良く改善できる。従って、タイヤの各部材に適用することにより、これらの性能がバランス良く発揮された空気入りタイヤを提供できる。また、タイヤ製造時の加工性(特に混練り加工性)にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】細孔分布曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、特定値以上のCTAB比表面積及びBET比表面積を有するシリカと、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤とを含む。このようなシリカ及びシランカップリング剤の両成分を配合することにより、ゴム成分中にシリカを良好に分散できるため、低転がり抵抗と、耐摩耗性、良好な機械的強度(引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性など)とを両立できるとともに、優れたウェットグリップ性能、ドライグリップ性能、優れた力学強度(破壊エネルギー)も得られる。また、両成分の併用により、適切なスコーチタイムを保持でき、耐スコーチ性も改善できるため、ゴム焼けを防止でき、タイヤ製造時の加工性も良好である。更に、低転がり抵抗と機械的強度や力学強度、耐摩耗性とを両立できる点から、環境への配慮という点でも望ましい。
【0017】
本発明で使用できるゴム成分としては特に限定されず、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、変性BR、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される材料を使用することができる。なかでも、NR、BR、IR、変性BR等の低極性ゴムやSBR、ENR等を用いることが好ましく、NR及び/又はBRを用いることがより好ましい。メルカプト基を有するシランカップリング剤は、通常のシランカップリング剤と比較してスコーチしやすい傾向があるため、加工性が悪化するという懸念がある。これに対し、低極性ゴムを使用することにより、上記傾向が発現しにくくなるため、上記懸念を解消し、より良好な加工性を得ることができる。
【0018】
なお、本明細書において、低極性ゴムとは、ガラス転移温度(Tg)が−20℃以下、より好ましくは−30℃以下、更に好ましくは−40℃以下、最も好ましくは−50℃以下のゴムであればよい。本明細書におけるTgは、JIS−K7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0019】
シリカは、低極性ゴム中に均一に分散させることが難しく、特に微粒子シリカにおいてその傾向が強かった。したがって、一般的なタイヤ用ゴム組成物に使用されるシランカップリング剤(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなど)では、低極性ゴムの配合量が多い系において、シリカを均一に分散することは困難であった。これに対し、メルカプト基を有する特定のカップリング剤は、低極性ゴムの配合量が多い系において、微粒子シリカを配合したとしても、比較的良好な分散率を得ることができる。このように、本発明は、低極性ゴムを含有する形態に対して特に有効である。
【0020】
本発明のゴム組成物が低極性ゴムを含有する場合、ゴム成分100質量%中の低極性ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。10質量%未満の場合、加工性が悪化する傾向がある。上記含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%を超えると、キャップトレッド用とした場合に必要なウェットグリップ性能を付与することが難しくなったり、サイドウォール用やベーストレッド用とした場合に低極性ゴム以外のゴムによる性能改善が難しくなったりする場合がある。
【0021】
NRとしては、RSS♯3、TSR20などのゴム工業において一般的なものを使用することができる。
【0022】
本発明のゴム組成物がNRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。5質量%未満であると、必要な機械的強度の向上やウェットグリップ性能を得ることが難しくなる場合がある。上記NRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。60質量%を超えると、相対的にBR等の配合比率が少なくなり、必要な耐摩耗性や耐クラック性を得ることが難しくなる。
【0023】
本発明のゴム組成物がNRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。5質量%未満であると、必要な機械的強度の向上やウェットグリップ性能を得ることが難しくなる場合がある。上記NRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。60質量%を超えると、相対的にBR等の配合比率が少なくなり、必要な耐摩耗性や耐クラック性を得ることが難しくなる。
【0024】
特にトレッド用途では、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。また、該NRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述のNRの含有量と同様の傾向がある。
【0025】
また、サイドウォール及びベーストレッド用途では、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、特に好ましくは35質量%以上である。また、該NRの含有量は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述のNRの含有量と同様の傾向がある。
【0026】
BRとしては、シス含量が80質量%以上のものを用いることが好ましい。これにより、耐摩耗性をより良好とすることができる。シス含量は、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
【0027】
また、BRは、25℃における5%トルエン溶液粘度が40cps以上のものが好ましい。これにより、加工性改善効果や耐摩耗性向上効果を高めることができる。トルエン溶液粘度は、200cps以下が好ましい。200cpsを超えると、粘度が高くなりすぎ、加工性が低下したり、他のゴム成分と混ざりにくくなる傾向にある。トルエン溶液粘度の下限は80cpsがより好ましく、110cpsが更に好ましい。また、上限は150cpsがより好ましい。
【0028】
耐摩耗性を改善できる点から、BRの分子量分布(Mw/Mn)は3.0以下のものを使用してもよい。また、加工性の改善と耐摩耗性の改善を両立できる点から、Mw/Mnが3.0〜3.4のBRを使用してもよい。
【0029】
環境への負荷の低減という点で、ブタジエンゴムは、バイオマス由来の材料から合成されたものを使用することが好ましい。このようなブタジエンゴムは、例えば、バイオエタノールに触媒を作用させて、ブタジエンを得、それを原料として合成する等の方法により得ることができる。バイオマス由来の材料から合成されたブタジエンゴムをブレンドしても良いが、特にゴム組成物中のBRとして、バイオマス由来のブタジエンゴムを100質量%含むことが好ましい。なお、バイオマス材料とは、「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を意味する。また、バイオマス由来かどうかは、C14の量を同定させる方法(ASTM−D6866)により、確認できる。
【0030】
本発明のゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。30質量%未満であると、必要な耐摩耗性や耐クラック性を得ることが難しくなる。上記BRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。95質量%を超えると、相対的にNR等の配合比率が少なくなり、必要な機械的強度の向上やウェットグリップ性能を得ることが難しくなる場合がある。
【0031】
特にトレッド用途では、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。また、該BRの含有量は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述のBRの含有量と同様の傾向がある。
【0032】
また、サイドウォール及びベーストレッド用途では、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。また、該BRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述のBRの含有量と同様の傾向がある。
なお、BR含有量が多いと耐クラック性や転がり抵抗特性は良好になる一方で、シリカの分散性が悪化するとともに、引裂き強度や破壊エネルギーが低下する傾向があるが、本発明では、BR量が多い場合にも良好なシリカの分散性が得られる。
【0033】
SBRとしては、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)が挙げられる。
【0034】
SBRのスチレン含量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、キャップトレッド用とした場合に充分なグリップ性能を得られないおそれがある。また、該スチレン含量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。60質量%を超えると、上記低極性ゴムとの相溶性が低下したり、硬度が上昇し過ぎたり、耐摩耗性が悪化したりする可能性がある。
【0035】
本発明のゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。10質量%未満の場合、キャップトレッド用とした場合に充分なグリップ性能を得られないおそれがある。上記含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%を超えると、相対的に上記低極性ゴムの比率が低くなり、耐摩耗性や耐スコーチ性で問題が生じる可能性がある。
【0036】
本発明では、CTAB比表面積が180m/g以上、BET比表面積が185m/g以上のシリカ(以下、「微粒子シリカ」ともいう)が使用される。このような微粒子シリカをゴム中に良好に分散させることによって、優れた耐摩耗性、機械的強度(引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性など)、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能が得られ、また、転がり抵抗を低くできる。
【0037】
微粒子シリカのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)比表面積は、好ましくは190m/g以上、より好ましくは195m/g以上、更に好ましくは197m/g以上である。CTAB比表面積が180m/g未満であると、機械的強度、耐摩耗性の充分な向上が得られにくくなる傾向がある。該CTAB比表面積は、好ましくは600m/g以下、より好ましくは300m/g以下、更に好ましくは250m/g以下である。CTAB比表面積が600m/gを超えると、分散性に劣り、凝集してしまうため、物性が低下する傾向がある。
なお、CTAB比表面積は、ASTM D3765−92に準拠して測定される。
【0038】
微粒子シリカのBET比表面積は、好ましくは190m/g以上、より好ましくは195m/g以上、更に好ましくは210m/g以上である。BET比表面積が185m/g未満であると、機械的強度、耐摩耗性の充分な向上が得られにくくなる。該BET比表面積は、好ましくは600m/g以下、より好ましくは300m/g以下、更に好ましくは260m/g以下である。BET比表面積が600m/gを超えると、分散性に劣り、凝集してしまうため、物性が低下する傾向がある。
なお、シリカのBET比表面積は、ASTM D3037−81に準じて測定される。
【0039】
微粒子シリカのアグリゲートサイズは、30nm以上、好ましくは35nm以上、より好ましくは40nm以上、更に好ましくは45nm以上、特に好ましくは50nm以上、最も好ましくは55nm以上、より最も好ましくは60nm以上である。また、該アグリゲートサイズは、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは70nm以下、特に好ましくは65nm以下である。このようなアグリゲートサイズを有することにより、良好な分散性を有しながら、優れた補強性及び良好な破壊エネルギーが得られ、良好な耐摩耗性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性を与えることができる。
【0040】
アグリゲートサイズは、凝集体径又は最大頻度ストークス相当径とも呼ばれているものであり、複数の一次粒子が連なって構成されるシリカの凝集体を一つの粒子と見なした場合の粒子径に相当するものである。アグリゲートサイズは、例えば、BI−XDC(Brookhaven Instruments Corporation製)等のディスク遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて測定できる。
【0041】
具体的には、BI−XDCを用いて以下の方法にて測定できる。
3.2gのシリカ及び40mLの脱イオン水を50mLのトールビーカーに添加し、シリカ懸濁液を含有するビーカーを氷充填晶析装置内に置く。ビーカーを超音波プローブ(1500ワットの1.9cmVIBRACELL超音波プローブ(バイオブロック社製、最大出力の60%で使用))を使用して懸濁液を8分間砕解し、サンプルを調製する。サンプル15mLをディスクに導入し、撹拌するとともに、固定モード、分析時間120分、密度2.1の条件下で測定する。
装置の記録器において、16質量%、50質量%(又は中央値)及び84質量%の通過直径の値、及びモードの値を記録する。(累積粒度曲線の導関数は、分布曲線にモードと呼ばれるその最大の横座標を与える)。
【0042】
このディスク遠心沈降式粒度分析法を使用して、シリカを水中に超音波砕解によって分散させた後に、Dとして表される粒子(凝集体)の重量平均径(アグリゲートサイズ)を測定できる。分析(120分間の沈降)後に、粒度の重量分布を粒度分布測定装置によって算出する。Dとして表される粒度の重量平均径は、以下の式によって算出される。
【数1】

(式中、mは、Dのクラスにおける粒子の全質量である)
【0043】
微粒子シリカの平均一次粒子径は、好ましくは25nm以下、より好ましくは22nm以下、更に好ましくは17nm以下、特に好ましくは14nm以下である。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは7nm以上である。このような小さい平均一次粒子径を有しているものの、上記のアグリゲートサイズを有するカーボンブラックのような構造により、シリカの分散性をより改善でき、補強性、耐摩耗性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性を更に改善できる。
なお、微粒子シリカの平均一次粒子径は、透過型又は走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0044】
微粒子シリカのD50は、好ましくは7.0μm以下、より好ましくは5.5μm以下、更に好ましくは4.5μm以下である。7.0μmを超えると、シリカの分散性がかえって悪くなっていることを示す。該微粒子シリカのD50は、好ましくは2.0μm以上、より好ましくは2.5μm以上、更に好ましくは3.0μm以上である。2.0μm未満であると、アグリゲートサイズも小さくなり、微粒子シリカとしては充分な分散性を得にくくなる傾向がある。
ここで、D50は、微粒子シリカの中央直径であって粒子の50質量%がその中央直径よりも小さい。
【0045】
また、微粒子シリカは、粒子径が18μmより大きいものの割合が6質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。これにより、シリカの良好な分散性が得られ、所望の性能が得られる。
なお、微粒子シリカのD50、所定の粒子径を有するシリカの割合は、以下の方法により測定される。
【0046】
凝集体の凝集を予め超音波砕解されたシリカの懸濁液について、粒度測定(レーザー回折を使用)を実施することによって評価する。この方法では、シリカの砕解性(0.1〜数10ミクロンのシリカの砕解)が測定される。超音波砕解を、19mmの直径のプローブを装備したバイオブロック社製VIBRACELL音波発生器(600W)(最大出力の80%で使用)を使用して行う。粒度測定は、モールバーンマスターサイザー2000粒度分析器でのレーザー回折によって行う。
【0047】
具体的には、以下の方法により測定される。
1グラムのシリカをピルボックス(高さ6cm及び直径4cm)中で秤量し、脱イオン水を添加して質量を50グラムにし、2%のシリカを含有する水性懸濁液(これは2分間の磁気撹拌によって均質化される)を調製する。次いで、超音波砕解を420秒間実施し、更に、均質化された懸濁液の全てが粒度分析器の容器に導入された後に、粒度測定を行う。
【0048】
微粒子シリカの細孔容積の細孔分布幅Wは、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.5以上である。また、該細孔分布幅Wは、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。このようなブロードなポーラスの分布により、シリカの分散性を改善でき、所望の性能が得られる。
なお、シリカの細孔容積の細孔分布幅Wは、以下の方法により測定できる。
【0049】
微粒子シリカの細孔容積は、水銀ポロシメトリーによって測定される。シリカのサンプルをオーブン中で200℃で2時間予備乾燥させ、次いでオーブンから取り出した後、5分以内に試験容器内に置き、真空にする。細孔直径(AUTOPORE III 9420
粉体工学用ポロシメーター)は、ウォッシュバーンの式によって140°の接触角及び484ダイン/cm(又はN/m)の表面張力γで算出される。
【0050】
細孔分布幅Wは、細孔直径(nm)及び細孔容量(mL/g)の関数で示される図1のような細孔分布曲線によって求めることができる。即ち、細孔容量のピーク値Ys(mL/g)を与える直径Xs(nm)の値を記録し、次いで、Y=Ys/2の直線をプロットし、この直線が細孔分布曲線と交差する点a及びbを求める。そして、点a及びbの横座標(nm)をそれぞれXa及びXbとしたとき(Xa>Xb)、細孔分布幅Wは、(Xa−Xb)/Xsに相当する。
【0051】
微粒子シリカの細孔分布曲線中の細孔容量のピーク値Ysを与える直径Xs(nm)は、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、更に好ましくは18nm以上、特に好ましくは20nm以上であり、また、好ましくは60nm以下、より好ましくは35nm以下、更に好ましくは28nm以下、特に好ましくは25nm以下である。上記範囲内であれば、分散性と補強性に優れた微粒子シリカを得ることができる。
【0052】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。5質量部未満であると、十分な補強性、機械的強度、耐摩耗性が得られない傾向がある。該微粒子シリカの配合量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。150質量部を超えると、加工性が悪化するとともに良好な分散性を確保するのが困難となる。
【0053】
特にトレッド用途では、上記微粒子シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。また、該微粒子シリカの配合量は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは95質量部以下、更に好ましくは75質量部以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述の微粒子シリカの配合量と同様の傾向がある。
【0054】
また、サイドウォール用途及びベーストレッド用途では、上記微粒子シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上である。また、該微粒子シリカの配合量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述の微粒子シリカの配合量と同様の傾向がある。
【0055】
本発明のゴム組成物では、上記微粒子シリカ以外のシリカを含んでもよい。この場合、シリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは45質量部以上である。また、該合計含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。下限未満の場合や上限を超える場合は、前述の微粒子シリカの配合量と同様の傾向がある。
【0056】
本発明では、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤が使用される。シリカの分散性や耐摩耗性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性などが懸念されるシリカ配合系において、微粒子シリカとメルカプト基を有するシランカップリング剤を併用すると、該微粒子シリカが加硫速度を遅くする傾向がみられるため、メルカプト基を有するシランカップリング剤を使用しているにもかかわらず、適切なスコーチタイムを保持でき、良好な加工性が得られる。また、上記併用によりゴム中に補強性が高い微粒子シリカを均一に分散できるため、優れた補強性、破壊エネルギーが得られ、良好な低燃費性、耐摩耗性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性を得ることができる。
【0057】
メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤としては、下記一般式(1)で示される結合単位Aと下記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したシランカップリング剤が好適に使用される。
【化3】

【化4】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。Rは水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。Rは水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。RとRとで環構造を形成してもよい。)
【0058】
メルカプト基を有するシランカップリング剤は、反応性が高く、シリカ分散性の向上性能が高いが、欠点としてスコーチタイムが短くなり、仕上げ練りや押し出しで、非常にゴム焼けが起こりやすくなる。したがって、NB、BR等の低極性ゴムよりもスコーチしやすいSBRを配合した系に対して、メルカプト基を有するシランカップリング剤を使用することは困難であった。
【0059】
また、近年では、転がり抵抗を低減し、かつ操縦安定性を両立させるために、モジュラスや硬度を上げる必要があり、更には、長年の使用での硬度変化を防ぐため、加硫促進剤の配合量を多くすることが多い。しかしながらこの場合、メルカプト基を有するシランカップリング剤は、その反応性の高さから、ゴム焼けがより起こりやすくなるため、更に使いにくくなる。
【0060】
これに対し、上記構造のシランカップリング剤では、結合単位Aと結合単位Bのモル比が上記条件を満たすため、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC−S−C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0061】
また、結合単位Aと結合単位Bのモル比が前記条件を満たす場合、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチ時間の短縮が抑制される。これは結合単位Bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの−C15部分が結合単位Bの−SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくくなるためである。これにより、スコーチタイムが短くなりにくく、また粘度が上昇しにくい。
【0062】
更に、上記微粒子シリカは、加硫を遅くする作用を有するので、上記構造を有するシランカップリング剤と併用することにより、NR、BR等の低極性ゴムと比較してスコーチしやすいSBRを配合した系や、加硫促進剤が比較的多い系においても、工業的に使用しうる耐スコーチ性を確保出来るようになった。以上の作用により、微粒子シリカの良好な分散性と、耐スコーチ性などの加工性を両立できると推察される。
【0063】
のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などが挙げられる。
【0064】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0065】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0066】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基等が挙げられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0067】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基等が挙げられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0068】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等が挙げられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0069】
、Rの分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0070】
上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの繰り返し数(x)と結合単位Bの繰り返し数(y)の合計の繰り返し数(x+y)は、3〜300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの−C15が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0071】
上記構造のシランカップリング剤としては、例えば、Momentive社製のNXT−Z30、NXT−Z45、NXT−Z60等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
上記メルカプト基を有するシランカップリング剤の配合量は、上記微粒子シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上である。0.5質量部未満であると、上記微粒子シリカを良好に分散させることが難しくなるおそれがある。また、該配合量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。20質量部を超えて添加量を増やしても、微粒子シリカの分散を向上させる効果が得られず、コストが不必要に増大する傾向がある。また、スコーチタイムが短くなり、混練りや押し出しでの加工性が悪化する傾向がある。
【0073】
本発明のゴム組成物は、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩及び芳香族カルボン酸の亜鉛塩の混合物(ストラクトール社製のアクチベーター73Aなど)を含んでもよい。また、上記ゴム組成物は、炭素数4〜16(好ましくは6〜14、より好ましくは6〜12、更に好ましくは6〜10)の脂肪族カルボン酸亜鉛塩(ストラクトール社製のストラクトールZEH(Zinc−2−ethyl hexanoate)など)を含んでもよい。
【0074】
これらの成分は、加硫を遅らせ、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いることで短くなり過ぎるスコーチタイムを改善する上に、シリカの分散性も向上できる。また、これらの成分は、ゴム成分のリバージョンを改善し、優れた操縦安定性とウェットグリップ性能を両立でき、良好な転がり抵抗特性も得られる。更に、これらの成分を使用することで、不必要な硫黄、好ましくない形態で架橋した硫黄が減り、有効でかつ安定な架橋点を提供し、操縦安定性に必要な剛性感をゴムに付与できる。また、ウェットグリップ性能に関係する低温下で、かつグリップ性能に必要な小さな歪みの条件下において、柔軟性も付与できる。よって、特にウエット条件でのグリップ力の高いトレッドゴムを提供できる上、不必要な硫黄や好ましくない形態で架橋した硫黄が少ないことから、良好な転がり抵抗や耐摩耗性が得られ、更には使用時の性能変化が少ない耐久性に優れたトレッドゴムを提供できる。また、転がり抵抗、耐久性に優れたサイドウォールゴム、ベーストレッドゴムも提供できる。
【0075】
上記混合物において、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩における脂肪族カルボン酸としては、やし油、パーム核油、ツバキ油、オリーブ油、アーモンド油、カノーラ油、落花生油、米糖油、カカオ脂、パーム油、大豆油、綿実油、胡麻油、亜麻仁油、ひまし油、菜種油などの植物油由来の脂肪族カルボン酸、牛脂などの動物油由来の脂肪族カルボン酸、石油等から化学合成された脂肪族カルボン酸などが挙げられるが、環境に配慮することも、将来の石油の供給量の減少に備えることもでき、更に、加硫戻りを充分に抑制できることから、植物油由来の脂肪族カルボン酸が好ましく、やし油、パーム核油又はパーム油由来の脂肪族カルボン酸がより好ましい。
【0076】
混合物において、脂肪族カルボン酸の炭素数は4以上が好ましく、6以上がより好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数が4未満では、シリカの分散性が悪化する傾向がある。脂肪族カルボン酸の炭素数は16以下が好ましく、14以下がより好ましく、12以下が更に好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数が16を超えると、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。
【0077】
なお、脂肪族カルボン酸中の脂肪族としては、アルキル基などの鎖状構造でも、シクロアルキル基などの環状構造でもよい。
【0078】
混合物において、芳香族カルボン酸の亜鉛塩における芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、フタル酸、メリト酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、ジフェン酸、トルイル酸、ナフトエ酸などが挙げられる。なかでも、加硫戻りを充分に抑制できることから、安息香酸、フタル酸又はナフトエ酸が好ましい。
【0079】
混合物中の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と芳香族カルボン酸の亜鉛塩との含有比率(モル比率、脂肪族カルボン酸の亜鉛塩/芳香族カルボン酸の亜鉛塩、以下、含有比率とする)は1/20以上が好ましく、1/15以上がより好ましく、1/10以上が更に好ましい。含有比率が1/20未満では、環境に配慮することも、将来の石油の供給量の減少に備えることもできないうえに、混合物の分散性及び安定性が悪化する傾向がある。また、含有比率は20/1以下が好ましく、15/1以下がより好ましく、10/1以下が更に好ましい。含有比率が20/1を超えると、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。
【0080】
混合物中の亜鉛含有率は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。混合物中の亜鉛含有率が3質量%未満では、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。また、混合物中の亜鉛含有率は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。混合物中の亜鉛含有率が30質量%を超えると、加工性が低下するとともに、コストが不必要に上昇する傾向がある。
【0081】
上記炭素数4〜16の脂肪族カルボン酸亜鉛塩における脂肪族カルボン酸は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、シクロアルキル基などの環状構造でもよい。また飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでもよい。また、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸でもよい。
【0082】
上記炭素数4〜16の脂肪族カルボン酸亜鉛塩における脂肪族カルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、イソ酪酸、イソペンタン酸、ピバリン酸、イソヘキサン酸、イソヘプタン酸、イソオクタン酸、ジメチルオクタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソウンデカン酸、イソドデカン酸、2−エチル酪酸、2−エチルヘキサン酸、2−ブチルオクタン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等の飽和脂肪酸;ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。なかでも、加硫戻り抑制効果が高い点から、また、工業的に豊富で安価に得られる点から、2−エチルヘキサン酸が特に好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
上記混合物、及び炭素数4〜16の脂肪族カルボン酸亜鉛塩の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。0.2質量部未満では、充分な耐加硫戻り性や架橋密度向上性能が確保できず、転がり抵抗低減、操縦安定性の改善効果等が得られにくくなる傾向がある。該合計含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。10質量部を超えると、ブルームしたり、添加した量の割に効果の向上が少なくなり不必要にコストが上昇したりするおそれがある。
【0084】
本発明のゴム組成物には、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリル酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸を配合してもよく、なかでも、低コストであることからステアリン酸が好ましい。
【0085】
上記ゴム組成物には、前記成分の他に、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、カーボンブラック等の充填剤、オイル又は可塑剤、酸化防止剤、老化防止剤、酸化亜鉛、硫黄、含硫黄化合物等の加硫剤、加硫促進剤等を含有してもよい。
【0086】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。カーボンブラックを配合することにより、補強性を高めることができるとともに、耐候性や耐クラック性等を改善できる。また必要に応じて導電性を改善することもできる。
【0087】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は20m/g以上が好ましく、35m/g以上がより好ましく、70m/gが更に好ましく、100m/g以上が特に好ましく、125m/g以上が最も好ましい。20m/g未満では、充分な補強性や導電性を得ることが難しくなる傾向がある。また、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は1400m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。1400m/gを超えると、良好に分散させるのが難しくなる傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0088】
上記ゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満では、上記する耐候性や耐クラック性、補強性等を改善するのが難しくなる傾向がある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下である。100質量部を超えると、分散性や加工性が悪化したり、硬度が上昇し過ぎたりする傾向がある。
【0089】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの混練機で前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0090】
ゴムを混練する工程は、加硫剤、加硫促進剤以外の成分を混練するベース練り工程と、ベース練り工程により混練された混練物、加硫剤、及び加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程とを含むことが好ましい。
【0091】
ベース練り工程では、混練開始時の温度が10〜100℃のゴム組成物を、該ゴム組成物の温度(混練機からのゴムの排出温度)が好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは150℃以上、特に好ましくは155℃以上、最も好ましくは160℃以上になるまで混練することが好ましい。130℃未満であると、シランカップリング剤が充分に反応せず、シリカの分散性が低下し、所望の効果が得られないおそれがある。混練機からのゴムの排出温度は好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは175℃以下である。200℃を超えると、ゴムが劣化してしまうおそれがある。
【0092】
通常、ベース練り工程における混練機からのゴムの排出温度は130〜155℃である。ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランやメルカプト基を有する一般的なシラン(例えば、後述の〔化5〕)を配合したゴム組成物を混練する際に、ゴムの排出温度を上昇させると、スコーチタイムが非常に短くなり、ゴム焼けが生じてしまう。一方、本発明では、特定の微粒子シリカと、メルカプト基を有するもののある特定構造をもったシランカップリング剤とを併用しているため、ゴムの排出温度を上昇させた場合であっても、スコーチタイムの短縮を抑制でき、得られるゴム組成物の力学強度、耐摩耗性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性を上昇でき、転がり抵抗を低下できる。
【0093】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、シリカが配合される可能性があり、かつ優れた力学強度(破壊エネルギー)や耐摩耗性、引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性、耐クラック性が要求される部材に用いることが好ましい。このような部材としては、例えば、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド)、クリンチ、サイドウォール、ビードエーペックスが挙げられ、より好ましい部材として、キャップトレッド、クリンチ、サイドウォール、ベーストレッドが挙げられ、特に好ましい部材としてキャップトレッド、クリンチ、ベーストレッド、サイドウォールが挙げられる。
【0094】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド、サイドウォール、ベーストレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0095】
本発明のゴム組成物を用いた空気入りタイヤの用途は特に限定されないが、乗用車用のタイヤ、トラック・バス用のタイヤ等として好適に使用できる。また、高性能タイヤ(高偏平タイヤ、競技用タイヤなど)としても好適に使用できる。
【実施例】
【0096】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0097】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のニッポールNS116(N−メチルピロリドンで末端が変性された溶液重合SBR、スチレン含量:21質量%、Tg:−25℃)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:97質量%、ML1+4(100℃):40、25℃における5%トルエン溶液粘度:48cps、Mw/Mn:3.3、Tg:−104℃)
NR:RSS#3(Tg:−60℃)
シリカ1:Rhodia社製のZeosil 1115MP(CTAB比表面積:105m/g、BET比表面積:115m/g、平均一次粒子径:25nm、アグリゲートサイズ:92nm、細孔分布幅W:0.63、細孔分布曲線中の細孔容量ピーク値を与える直径Xs:60.3nm)
シリカ2:Rhodia社製のZeosil HRS 1200MP(CTAB比表面積:195m/g、BET比表面積:200m/g、平均一次粒子径:15nm、アグリゲートサイズ:40nm、D50:6.5μm、18μmを超える粒子の割合:5.0質量%、細孔分布幅W:0.40、細孔分布曲線中の細孔容量ピーク値を与える直径Xs:18.8nm)
シリカ3:Rhodia社製のZeosil Premium 200MP(CTAB比表面積200m/g、BET比表面積:220m/g、平均一次粒子径:10nm、アグリゲートサイズ:65nm、D50:4.2μm、18μmを超える粒子の割合:1.0質量%、細孔分布幅W:1.57、細孔分布曲線中の細孔容量ピーク値を与える直径Xs:21.9nm)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN110(NSA:130m/g)
シランカップリング剤1:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
シランカップリング剤2:Momentive社製のNXT−Z45(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(結合単位A:55モル%、結合単位B:45モル%))
シランカップリング剤3:デグッサ社製のSi363(メルカプト基の含有量:3.3%)
【化5】

ミネラルオイル:出光興産(株)製のPS−32(パラフィン系プロセスオイル)
ステアリン酸:日油(株)製の桐
リバージョン防止剤(脂肪族カルボン酸の亜鉛塩及び芳香族カルボン酸の亜鉛塩の混合物):ストラクトール社製のアクチベーター73A((i)脂肪族カルボン酸亜鉛塩:やし油由来の脂肪酸(炭素数:8〜12)の亜鉛塩、(ii)芳香族カルボン酸亜鉛塩:安息香酸亜鉛、含有モル比率:1/1、亜鉛含有率:17質量%)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
なお、シリカ1〜3中、シリカ2、3が、本発明に係る微粒子シリカに該当する。また、シランカップリング剤1〜3中、シランカップリング剤2、3が、メルカプト基を有するシランカップリング剤に該当し、シランカップリング剤2が、本発明に係るメルカプト基を有する特定のシランカップリング剤に該当する。
【0098】
実施例1〜15及び比較例1〜21
バンバリーミキサーを用いて、表1〜4の工程1に示す配合量の薬品を投入して、表に示される排出温度となるように5分間混練りした。その後、工程1により得られた混練り物に対して、工程2に示す配合量の硫黄および加硫促進剤を加え、オープンロールを用いて、約80℃の条件下で3分間混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴムシート、加硫ゴム試験片を得た。
【0099】
また、表1〜3の配合について、得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材とはりあわせ、170℃で15分間加硫することにより、試験用タイヤを作製した。
更に、表4の配合について、得られた未加硫ゴム組成物をサイドウォール及びベーストレッド形状に成形して、他のタイヤ部材とはりあわせ、170℃で15分間加硫することにより、試験用タイヤを作製した。
【0100】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴムシート、加硫ゴム試験片、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1〜4に示す。
なお、基準比較例は、実施例1及び比較例1〜2では比較例1、実施例2〜3及び比較例3〜5では比較例3、実施例4〜8及び比較例6〜12では比較例6、実施例9〜15及び比較例13〜21では比較例13とした。
【0101】
(1)破壊エネルギー指数
JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従って、各加硫ゴムシートの引張強度と破断伸びを測定した。更に、引張強度×破断伸び/2により破壊エネルギーを計算し、下記式にて、破壊エネルギー指数を計算した。破壊エネルギー指数が大きいほど、力学強度に優れることを示す。
(破壊エネルギー指数)=(各配合の破壊エネルギー)/(基準比較例の破壊エネルギー)×100
【0102】
(2)耐摩耗性試験(摩耗試験)
製造した試験用タイヤを車に装着し、市街地を8000km走行後の溝深さの減少量を測定し、溝深さが1mm減少するときの走行距離を算出した。更に、基準比較例の耐摩耗性指数を100とし、下記計算式により、各配合の溝深さの減少量を指数表示した。なお、耐摩耗性指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(各配合で1mm溝深さが減るときの走行距離)/(基準比較例のタイヤの溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0103】
(3)スコーチタイム
JIS K6300に従い、未加硫ゴム物理試験方法のムーニースコーチ試験を行い、130.0±0.5℃でのt10[分]を測定し、それを、基準比較例を100とした指数で示した(ムーニースコーチタイム指数)。スコーチタイムが短くなるとゴム焼けの問題が起こる傾向がある。今回の評価では、指数が70以下になると、仕上げ練りや押し出し工程等でゴム焼けの問題が起こる可能性がある。
【0104】
(4)転がり抵抗試験
2mm×130mm×130mmの加硫ゴムシートを作製し、そこから測定用試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、各試験片のtanδを測定した。基準比較例の転がり抵抗指数を100として、下記計算式により、転がり抵抗特性をそれぞれ指数表示した。指数が小さいほど、転がり抵抗が低く、優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(各配合のtanδ/基準比較例のtanδ)×100
【0105】
(5)シリカ分散指数
2mm×130mm×130mmの加硫ゴムシートを作製し、そこから測定用試験片を切り出し、JIS K 6812「ポリオレフィン管、継手及びコンパウンドの顔料分散又はカーボン分散の評価方法」に準じて、各試験片中のシリカの凝集塊をカウントして、分散率(%)をそれぞれ算出して、基準比較例の分散率を100として、シリカ分散率を指数表示した。シリカ分散指数が大きいほどシリカが分散し、シリカの分散性に優れることを示す。
(シリカ分散指数)=(各配合の分散率/基準比較例の分散率)×100
【0106】
(6)ウェットグリップ性能
アンチロックブレーキシステム(ABS)評価試験により得られた制動性能をもとにして、グリップ性能を評価した。すなわち、1800cc級のABSが装備された乗用車に、前記試験用タイヤを装着して、アスファルト路面(ウェット路面状態、スキッドナンバー約50)を実車走行させ、時速100km/hの時点でブレーキをかけ、乗用車が停止するまでの減速度を算出した。ここで、減速度とは、乗用車が停止するまでの距離である。そして、基準比較例のウェットグリップ性能指数を100とし、下記計算式により、各配合の減速度をウェットグリップ性能指数として示した。なお、ウェットグリップ性能指数が大きいほど制動性能が良好であり、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(基準比較例の減速度)/(各配合の減速度)×100
【0107】
(7)ドライグリップ性能
上記試験用タイヤを乗用車に装置してドライアスファルト路面のテストコースを走行し、ハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する特性をドライバーの官能評価により評価した。結果は、基準比較例を100とする指数で表示している(ドライグリップ性能指数)。数値が大きい程良好であり、ドライグリップ性能、操縦安定性に優れていることを示す。
【0108】
(8)引裂試験
JIS K6252「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引裂強さの求め方」に準じて、切り込みなしのアングル形の試験片(加硫ゴムシート)を用いることにより、引裂強さ(N/mm)を求め、基準比較例の引裂強さを100として、以下の式により、引裂強さ指数を算出した。引裂強さ指数が大きいほど、引裂強さが大きく、優れていることを示す。
(引裂強さ指数)=(各配合の引裂強さ)/(基準比較例の引裂強さ)×100
【0109】
(9)デマチャ屈曲亀裂成長試験
JIS K6260「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムのデマチャ屈曲亀裂試験方法」に準じて、温度23℃、相対湿度55%の条件下で、加硫ゴム試験片サンプルに関して、100万回試験後の亀裂長さ、又は成長が1mmになるまでの回数を測定した。得られた回数及び亀裂長さをもとに、サンプルに1mmの亀裂が成長するまでの屈曲回数を常用対数値で表し、更にそれを基準比較例の常用対数値を100とする指数で以下のように表した。なお、70%及び110%とは、もとの加硫ゴム試験片サンプルの長さに対する伸び率を表し、該常用対数値の指数が大きいほど亀裂が成長しにくく、耐屈曲亀裂成長性が優れていることを示す。
(デマチャ屈曲亀裂成長性指数(70%、110%))=(各配合で1mmの亀裂が成長するまでの屈曲回数の常用対数値/基準比較例で1mmの亀裂が成長するまでの屈曲回数の常用対数値)×100
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
比較例1、3、6では、本発明に係る微粒子シリカに該当しないシリカ(シリカ1)と、メルカプト基を有しないシランカップリング剤(シランカップリング剤1)とを用いたので、破壊エネルギー指数や耐摩耗性が実施例に比べて劣っていた。
【0114】
比較例2、4、5、7、8では、微粒子シリカ(シリカ3)を使用しているが、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤(シランカップリング剤2)を使用していないので、シリカの分散性が悪く、破壊エネルギー指数が実施例と同等以下であり、耐摩耗性も同等以下だった。またウェットグリップ性能も実施例より劣っていた。
【0115】
比較例9では、比較例2、4、5、7、8とは異なる微粒子シリカ(シリカ2)を使用しているが、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤(シランカップリング剤2)を使用していないので、シリカの分散性がかなり悪く、破壊エネルギー指数や耐摩耗性、ウェットグリップ性能がかなり劣っていた。
【0116】
比較例10では、本発明に係る微粒子シリカに該当しないシリカ(シリカ1)と、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤(シランカップリング剤2)とを用いたので、スコーチタイムが短くなった。また、本発明に係る微粒子シリカ(シリカ2、3)を用いていないので、破壊エネルギー指数や耐摩耗性が実施例に比べて劣っていた。
【0117】
比較例11では、本発明に係る微粒子シリカに該当しないシリカ(シリカ1)と、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤とは異なるメルカプト基を有するシランカップリング剤(シランカップリング剤3)を用いたので、スコーチタイムが非常に短くなり、通常の方法では加工が困難であった。また、破壊エネルギー指数や耐摩耗性、ウェットグリップ性能も劣っていた。
【0118】
比較例12では、微粒子シリカ(シリカ3)を使用しているが、メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤とは異なるメルカプト基を有するシランカップリング剤(シランカップリング剤3)を用いたので、実施例と比較して、スコーチタイムが短くなった。また、破壊エネルギーも実施例に比べて同等以下となった。
【0119】
他方、実施例では、耐摩耗性や破壊エネルギー指数が良好であり、特に、シリカ3を用いた実施例1、4、5では非常に良好であった。また、ゴム成分としてSBRのみを配合した実施例2、3や、ゴム成分としてSBR、NR及びBRを配合した実施例1よりも、NR及びBRの比率が高い(SBRを配合していない)実施例4、5の方が、破壊エネルギー指数、耐摩耗性に優れていた。
【0120】
実施例のシリカの分散性は、良好又は比較的良好であり、なかでも、リバージョン防止剤を用い、かつ微粒子シリカ(シリカ3)を用いた実施例7、8で良好であった。
【0121】
ウェットグリップ性能やドライグリップ性能は、いずれの実施例でも良好で、基準比較例である比較例1、3、6と同等以上であった。
【0122】
メルカプト基を有する特定のシランカップリング剤(シランカップリング剤2(NXT−Z))を用い、工程1における排出温度を高くした(高温練りを行った)実施例3、5では、特に破壊エネルギー指数や耐摩耗性が向上した。また、この際にスコーチタイムをあまり短くすることがなく、加工性上の問題も生じなかった。更に、ゴム成分100質量%中、SBRの含有量が100質量%である実施例3では、高温練りを行うことにより、転がり抵抗も更に良好となった。
【0123】
他方、メルカプト基を有しないシランカップリング剤(シランカップリング剤1)を使用し、高温練りを行った比較例5、8では、スコーチタイムが非常に短くなり、ゴム焼け気味であった。
【0124】
更に、比較例6(通常のシリカとシランカップリング剤を使用)、比較例7(微粒子シリカと通常のシランカップリング剤を使用)、比較例10(通常のシリカとメルカプト基を有する特定のシランカップリング剤を使用)と、実施例4との結果を対比すると、該実施例4では、破壊エネルギー、耐摩耗性、転がり抵抗、ウエットグリップ性能が相乗的に改善されるとともに、良好なドライグリップ性能も得られた。
【表4】

【0125】
比較例13では、微粒子でないシリカとメルカプト基を有しないカップリング剤を用いたので、破壊エネルギーや引裂き強度が実施例に比べ劣っていた。比較例14では、分散性に優れた微粒子シリカを使っているが、メルカプト基を有するカップリング剤を使用しなかったので、シリカの分散性が悪く、破壊エネルギー、引裂き強度が実施例と比べて劣っていた。また耐屈曲亀裂成長性も実施例と比べて同等以下であった。比較例15では、比較例14でシリカ混練時の排出温度を高くしており、これにより、シリカの分散性がやや改善し、破壊エネルギーや引裂き強度、耐屈曲亀裂成長性も多少改善したが、カップリング剤がメルカプト基を有するカップリング剤でないため、改善幅は小さく、依然として、実施例と比べて同等以下であった。また、高温での混練により、もともと悪かった転がり抵抗指数が更に悪化した。
【0126】
比較例16では、微粒子シリカを使ったが、メルカプト基を有するカップリング剤を使用しなかったため、シリカの分散性がかなり悪く、破壊エネルギーや引裂き強度、転がり抵抗特性、耐屈曲亀裂成長性がかなり劣っていた。比較例17では通常の微粒子でないシリカとメルカプト基を有する特定のカップリング剤を用いたので、スコーチタイムが短くなった。また、微粒子シリカを用いていないので、破壊エネルギーや引裂き強度で、実施例に比べて劣っていた。比較例18では、通常の微粒子でないシリカと、比較例17で用いたのとは別のメルカプト基を有するカップリング剤を用いたので、スコーチタイムが非常に短くなり通常の方法では加工が困難であった。また、破壊エネルギーや引裂き強度が実施例よりも劣っており、耐屈曲亀裂成長性も実施例に比べて同等以下であった。
【0127】
比較例19、20では、各々、実施例14、15に対応するNR/BR比率で、微粒子でないシリカとメルカプト基を有しないカップリング剤を用いており、比較例19では、特にBRを増加することにより、破壊エネルギーや引裂き強度が大きく悪化した。また、比較例20では、破壊エネルギーや引裂き強度はやや改善するものの、依然として実施例より劣っており、転がり抵抗特性、耐屈曲亀裂成長性もかなり悪化し、実施例に比べて劣っていた。
比較例21では、シリカとして微粒子シリカを用いたが、メルカプト基を有するが本発明で規定する特定構造ではないカップリング剤を用いたので、スコーチタイムが短くなった。更に、耐屈曲亀裂成長性も実施例に比べて同等以下であり、破壊エネルギーも実施例と比べてやや悪かった。
【0128】
他方、実施例では、引裂き強度や破壊エネルギー指数が良好であり、特に、実施例9と10中で破壊エネルギーと耐摩耗性が良く、特にシリカ混練時の排出温度を高くした実施例10で、シリカの分散性が更に向上したことにより、これらの特性が非常に良好となった上、耐屈曲亀裂成長性も向上した。また実施例のシリカの分散性は、良好若しくは比較的良好であり、中でもリバージョン防止剤を用い、かつ分散性の優れた微粒子シリカを用いた実施例13や14で良好であった。更に、耐屈曲亀裂成長性も対応する比較例に比べて良好となっていた。
【0129】
更に、比較例13(通常のシリカとシランカップリング剤を使用)、比較例14(微粒子シリカと通常のシランカップリング剤を使用)、比較例17(通常のシリカとメルカプト基を有する特定のシランカップリング剤を使用)と、実施例9との結果を対比すると、該実施例8では、破壊エネルギー、引裂き強度、転がり抵抗が相乗的に改善され、耐屈曲亀裂成長性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含み、
前記シリカは、CTAB比表面積が180m/g以上、BET比表面積が185m/g以上であり、
前記シランカップリング剤は、下記一般式(1)で示される結合単位Aと下記一般式(2)で示される結合単位Bとの合計量に対して、結合単位Bを1〜70モル%の割合で共重合したものであるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

【化2】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。Rは水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。Rは水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。RとRとで環構造を形成してもよい。)
【請求項2】
シリカは、アグリゲートサイズが30nm以上である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30質量%以上である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
トレッド、サイドウォール又はベーストレッドに使用される請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−140613(P2011−140613A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30500(P2010−30500)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】