説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性をバランスよく向上できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物を含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
(RO)(3−l)Si−R−(S−S−R(I)
(式(I)において、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜25の1価の炭化水素基を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。Rは、水素、又は下記式(Ia)で表される基を表す。lは0〜3の整数を表す。nは1〜3の整数を表す。mは1〜3の整数を表す。)
[化1]


(式(Ia)において、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用ゴム組成物には、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性など、種々の性能が要求される。これらの性能を確保するため、従来より様々な工夫がなされている。
【0003】
低燃費性や耐摩耗性などをバランス良く改善する方法として、シリカとともに、シランカップリング剤を配合する方法が知られている。シランカップリング剤としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系シランカップリング剤が一般的に使用されている(特許文献1参照)。しかしながら、上述の性能の更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−8863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性をバランスよく向上できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(I)で表される化合物を含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
(RO)(3−l)Si−R−(S−S−R(I)
(式(I)において、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜25の1価の炭化水素基を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。Rは、水素、又は下記式(Ia)で表される基を表す。lは0〜3の整数を表す。nは1〜3の整数を表す。mは1〜3の整数を表す。)
【化1】

(式(Ia)において、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表す。)
【0007】
上記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して充填剤を20〜150質量部含むことが好ましい。
【0008】
上記ゴム組成物は、上記充填剤として、シリカ及び/又はカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0009】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記式(I)で表される化合物(特定構造を持つ化合物)を配合したタイヤ用ゴム組成物であるので、該ゴム組成物をタイヤ部材に使用することにより、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性がバランスよく優れた空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記式(I)で表される化合物(特定構造を持つ化合物)を含む。該化合物はシランカップリング剤としての機能を有しており、該化合物を配合することで、シリカなどの充填剤とポリマーとの間に強固な結合が形成され、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性をバランス良く向上できる。
【0012】
本発明で使用できるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、グリップ性能及び耐摩耗性がバランスよく得られるという理由から、NR、BR、SBRが好ましく、NR及びSBRを併用することがより好ましい。
【0013】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)などを使用できる。
【0014】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。15質量%未満であると、ウェットグリップ性能が低下する傾向がある。また、上記スチレン含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。50質量%を超えると、転がり抵抗が増大してしまう傾向がある。
【0015】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。40質量%未満であると、十分な耐熱性が得られない傾向がある。また、SBRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。90質量%を超えると、転がり抵抗が増大してしまう傾向がある。
【0016】
NRとしては、特に限定されず、RSS♯3、TSR20などのゴム工業において一般的なものを使用することができる。
【0017】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、十分な耐摩耗性が得られない傾向がある。また、NRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。60質量%を超えると、耐熱性が低下してしまう傾向がある。
【0018】
本発明では、下記式(I)で表される化合物がシランカップリング剤として使用される。これにより、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性をバランス良く向上できる。
(RO)(3−l)Si−R−(S−S−R(I)
(式(I)において、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜25(好ましくは2〜5)の1価の炭化水素基を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜20(好ましくは2〜10)の2価の炭化水素基を表す。Rは、水素、又は下記式(Ia)で表される基を表す。lは0〜3(好ましくは1〜3)の整数を表す。nは1〜3(好ましくは1〜2)の整数を表す。mは1〜3(好ましくは1〜2)の整数を表す。)
【化2】

(式(Ia)において、Rは炭素数1〜20(好ましくは10〜18)の1価の炭化水素基を表す。)
【0019】
及びRの炭化水素基としては、メチル基、エチル基などのアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基などのアルケニル基;などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、アルキル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0020】
及びRの炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などのアルキレン基;ビニレン基、1−プロペニレン基などのアルケニレン基;などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、アルキレン基が好ましく、ブチレン基、ヘキシレン基がより好ましい。
【0021】
の炭化水素基としては、R及びRの炭化水素基で例示した基が挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、アルキル基が好ましく、n−ヘプタデシル基がより好ましい。
【0022】
式(I)で表される化合物の具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
(CO)SiCS(CHSH
(CO)SiCS(CHS(CHSH
(CO)SiCS(CHSC(=O)C1735
なお、これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
式(I)で表される化合物の含有量は、充填剤100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは4質量部以上、特に好ましくは5質量部以上である。0.1質量部未満では、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性を十分に改善できないおそれがある。また、式(I)で表される化合物の含有量は、充填剤100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは6質量部以下である。20質量部を超えると、スコーチ時間が短くなり、ゴム焼けが発生するおそれがある。
【0024】
式(I)で表される化合物の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは4質量部以上、特に好ましくは6質量部以上である。0.1質量部未満では、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性を十分に改善できないおそれがある。また、式(I)で表される化合物の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは7質量部以下である。20質量部を超えると、スコーチ時間が短くなり、ゴム焼けが発生するおそれがある。
【0025】
式(I)で表される化合物の製造方法としては特に限定されず、種々の方法を使用できる。具体的には、Rが水素の場合であれば、下記式(II)で表される化合物と、アルカリ金属水硫化物(NaSHなど)とを公知の方法で反応させる方法などが挙げられる。
(RO)(3−l)Si−R−(S−X (II)
(式(II)において、R〜R、l、n、及びmは、式(I)におけるものと同一である。Xはハロゲンを表す。)
【0026】
なお、上記方法で得られた式(I)で表される化合物と、アルカリ金属アルコラート(ナトリウムエチラートなど)とを公知の方法で反応させた後、ジハロゲン化炭化水素(1,6−ジクロロヘキサンなど)を反応させ、更にアルカリ金属水硫化物を反応させることにより、式(I)で表される化合物中のnを増加させることができる。
【0027】
また、Rが式(Ia)で表される基の場合であれば、Rが水素である式(I)で表される化合物と、アミン(トリエチルアミンなど)と、脂肪酸のハロゲン化物(ステアリン酸塩化物など)とを公知の方法で反応させる方法などが挙げられる。
【0028】
式(II)で表される化合物は、メルカプト基を有するアルコキシシラン(3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなど)と、アルカリ金属アルコラートとを公知の方法で反応させた後、ジハロゲン化炭化水素を更に反応させる方法などにより調製でき、その具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
(CO)Si(CHS(CHCl
【0029】
式(I)で表される化合物は、他のシランカップリング剤と併用してもよい。併用するシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが好ましい。
【0030】
本発明のゴム組成物には、加硫剤として硫黄を配合してもよい。硫黄としては特に限定されず、タイヤエ業において一般的に用いられる加硫剤用硫黄を使用できる。
【0031】
本発明のゴム組成物は、充填剤(補強用充填剤)を配合してもよい。充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが使用できる。なかでも、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましい。
【0032】
充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは45質量部以上、更に好ましくは65質量部以上である。20質量部未満では、補強性が低いため、充分な耐屈曲疲労性、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、加工性や充填剤の分散性が悪く、耐摩耗性が低下する傾向がある。
なお、充填剤として、カーボンブラックとシリカを併用する場合、充填剤の含有量は、カーボンブラックとシリカの合計含有量を示す。
【0033】
使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、カーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。NSAが50m/g未満では、補強性が不足し、充分な耐久性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下である。NSAが200m/gを超えると、ゴム組成物の発熱が大きくなる傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。5質量部未満では、補強性が低いため、充分な耐屈曲疲労性、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。30質量部を超えると、加工性やカーボンブラックの分散性が悪く、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0036】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0037】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましく、150m/g以上が更に好ましい。50m/g未満では、耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、シリカのNSAは、250m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。250m/gを超えると、加工性が悪化する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0038】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは55質量部以上、更に好ましくは65質量部以上である。40質量部未満では、補強性が低いため、充分な耐屈曲疲労性、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。120質量部を超えると、加工性やシリカの分散性が悪く、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0039】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル、可塑剤、ワックス、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0040】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。該ゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、低燃費性に与える寄与率が大きいという理由から、トレッド、サイドウォールなどに好適に使用できる。
【0041】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0042】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤなどとして好適に用いられる。本発明により得られる空気入りタイヤは、耐摩耗性、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐熱性及び低燃費性がバランスよく優れている。
【実施例】
【0043】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0044】
以下に、化合物の合成で使用した薬品についてまとめて説明する。
無水エタノール:和光純薬(株)製
3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン:東京化成工業(株)製
1,6−ジクロロヘキサン:東京化成工業(株)製
無水NaSH:東京化成工業(株)製
ナトリウムエチラート:東京化成工業(株)製
トリエチルアミン:東京化成工業(株)製
石油エーテル:東京化成工業(株)製
ステアリン酸塩化物:東京化成工業(株)製
【0045】
(化合物の分析)
化合物の構造は、日本電子(株)製JNM−ECAシリーズのNMR装置、及び、(株)島津製作所製のLC/MS(逆相カラム、溶出液:水/アセトニトリル)を用いて分析した。
【0046】
(製造例1)
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン0.5molを入れ、攪拌しながら、有効成分20%のナトリウムエチラートの無水エタノール溶液0.45molを滴下した。滴下終了後、液温80℃で3時間攪拌した。その後、冷却し、滴下漏斗に移した。
【0047】
次いで、窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、1,6−ジクロロヘキサン2.0molを入れ、液温80℃で攪拌しながら、上記の3−メルカプトプロピルトリエトキシシランとナトリウムエチラートとの反応物を滴下した。滴下終了後、液温80℃で5時間攪拌した。その後、冷却し、得られた溶液中から塩を濾別し、ろ液を濃縮して上記LC/MSにて分取することにより、下記式
(CO)Si(CHS(CHCl
で表される化合物(式(II)中、l=3、m=1、n=1)を得た。
【0048】
次いで、温度計、冷却管、枝付滴下漏斗を取り付けたフラスコに、58gの無水NaSHを含む無水エタノール溶液を入れ、液温60℃、窒素気流下で攪拌しながら、356gの(CO)Si(CHS(CHClを含む無水エタノール溶液を滴下した。滴下終了後、液温60℃で3時間撹拌し、反応を行った。得られた反応溶液を冷却後、ろ過し、ろ液を濃縮して上記LC/MSにて分取することにより、下記式
(CO)SiCS(CHSH
で表される化合物1(式(I)中、l=3、m=1、n=1)を得た。
【0049】
(製造例2)
温度計、冷却管、枝付滴下漏斗を取り付けたフラスコに、36gの化合物1を含む無水エタノール溶液を入れ、液温60℃、窒素気流下で攪拌しながら、7gのナトリウムエチラートを含む無水エタノール溶液を滴下した。滴下終了後、液温60〜70℃で3時間撹拌し、反応を行った後、得られた反応溶液1を冷却した。
【0050】
次に、上記とは別のフラスコに、31gの1,6−ジクロロヘキサンを含む無水エタノール溶液を入れ、液温60℃、窒素気流下で攪拌しながら、反応溶液1を滴下した。滴下終了後、液温60℃で3時間撹拌し、反応を行った後、得られた反応溶液2を冷却した。
【0051】
次に、上記とは別のフラスコに、58gの無水NaSHを含む無水エタノール溶液を入れ、液温60℃、窒素気流下で攪拌しながら、上記反応溶液2を滴下した。滴下終了後、液温60℃で3時間撹拌し、反応を行った。得られた反応溶液3を冷却後、ろ過し、ろ液を濃縮して上記LC/MSにて分取することにより、下記式
(CO)SiCS(CHS(CHSH
で表される化合物2(式(I)中、l=3、m=1、n=2)を得た。
【0052】
(製造例3)
36gの化合物1及び10gのトリエチルアミンを含む石油エーテル溶液にステアリン酸塩化物25gを添加し、液温60℃、窒素気流還流下で2時間撹拌し、反応を行った。得られた反応溶液を冷却後、ろ過し、ろ液を濃縮して上記LC/MSにて分取することにより、下記式
(CO)SiCS(CHSC(=O)C1735
で表される化合物3(式(I)のl=3、m=1、n=1)を得た。
【0053】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
SBR:日本ゼオン(株)製のNS116(S−SBR、スチレン含有量:22質量%、ビニル結合量:65質量%)
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(NSA:125m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
化合物1〜3:上記製造例1〜3で調製
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノック
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0054】
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lのバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外のものを130℃で5分間混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して120℃で2分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、プレス加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を得た。
【0055】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。
【0056】
(耐熱性評価)
セイコーインスツル(株)製TMA(SS6100)を用いて、直径8mm、高さ10mmのサンプル(加硫ゴム組成物)を用い、昇温速度10℃/分で試料の熱膨張をモニターし、試料が急激な膨張をする温度をブローアウトポイントとし、比較例1の耐熱性指数を100として、下記計算式により、各配合のブローアウトポイントを指数表示した。指数が大きいほど、耐熱性に優れることを示す。
(耐熱性指数)=(各配合のブローアウトポイント)/(比較例1のブローアウトポイント)×100
【0057】
(耐摩耗性)
ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%、試験時間2分間の条件下で加硫ゴム組成物のランボーン摩耗量を測定した。さらに、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1の耐摩耗性指数を100とし、下記計算式により、各配合の容積損失量を指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0058】
(耐疲労性評価)
(株)上島製作所製の定応力/定歪み疲労試験機(FT−3100)を用い、ISO6943の方法に準拠して行った。ダンベル3号の試験片を用いて、1Hz、100%の歪みを繰り返して与え続け、試験片が破断するまでの回数(屈曲回数)を求め、比較例1の耐疲労性指数を100として、下記計算式により、各配合の屈曲回数を指数表示した。指数が大きいほど、耐疲労性(耐屈曲疲労性)に優れることを示す。
(耐屈曲疲労性指数)=(各配合の屈曲回数)/(比較例1の屈曲回数)×100
【0059】
(粘弾性試験)(燃費性能(1))
加硫ゴム組成物から所定サイズの試験片を切り出し、(株)上島製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で、70℃における損失正接(tanδ)を測定し、比較例1の燃費性能(1)指数を100とし、下記計算式により、各配合のtanδを指数表示した。指数が大きいほど、低燃費性に優れることを示す。
(燃費性能(1)指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0060】
(転がり抵抗)(燃費性能(2))
転がり抵抗試験機を用いて、試験用タイヤを、リム15×6JJ、タイヤ内圧230kPa、荷重3.43kN及び速度80km/hの条件下で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1の燃費性能(2)指数を100とし、下記計算式により、各配合の転がり抵抗を指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。
(燃費性能(2)指数)=(比較例1の転がり抵抗)/(各配合の転がり抵抗)×100
【0061】
【表1】

【0062】
表1より、式(I)で表される化合物を配合した実施例は、比較例1と比較して、耐疲労性(耐屈曲疲労性)、耐摩耗性、耐熱性及び低燃費性がバランスよく改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を含むタイヤ用ゴム組成物。
(RO)(3−l)Si−R−(S−S−R(I)
(式(I)において、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜25の1価の炭化水素基を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。Rは、水素、又は下記式(Ia)で表される基を表す。lは0〜3の整数を表す。nは1〜3の整数を表す。mは1〜3の整数を表す。)
【化1】

(式(Ia)において、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
ゴム成分100質量部に対して充填剤を20〜150質量部含む請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記充填剤として、シリカ及び/又はカーボンブラックを含む請求項2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−149189(P2012−149189A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9818(P2011−9818)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】