説明

タイヤ試験装置

【課題】キャンパ角やトー角が存在する状態において、自動車の前後、左右、上下のそれぞれの方向に相当する各方向ついてタイヤから作用する力を直接計測可能とする。
【解決手段】3分力計151を、3分力計151の円環柱形状の高さ方向(軸方向)が左右方向と一致し、かつ、3分力計151が力を検出する方向が前後方向、左右方向、上下方向となるようにフレーム14にボルトによって固定する。また、タイヤ50が連結されるスピンドル153のラジアル軸受152を、タイヤ50のキャンパ角やトー角を設定するための二つのスペーサ154に貫挿した状態で、3分力計151にボルトによって固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの試験に用いられるタイヤ試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ試験装置としては、モータによって回転するローラと、回転可能に軸受されたスピンドルと、歪みゲージを用いた多分力検出器とを備え、スピンドルに固定したタイヤの周面をローラの周面に当接させて、タイヤをローラと共に回転させながら、スピンドルに加わる、スピンドル軸方向の力と、スピンドル軸方向と垂直かつ相互に垂直な2方向の力を多分力検出器で検出し、検出した力よりタイヤの転がり抵抗を算出する技術が知られている。(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-004598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現実の自動車には、キャンパ角やトー角が存在するため、タイヤの軸方向と自動車の左右方向は一致しない。
したがって、上述した特許文献1の技術によればタイヤの軸方向と一致するスピンドル軸方向の力と、当該スピンドル軸方向と垂直かつ相互に垂直な2方向の力を多分力検出器で検出するものであるため、キャンパ角やトー角が存在する状態において、自動車の前後左右上下方向に相当する方向についてタイヤから作用する力を直接計測することができない。
【0005】
そこで、本発明は、キャンパ角やトー角が存在する状態において、自動車の前後、左右、上下のそれぞれの方向に相当する各方向ついて、タイヤから作用する力を直接計測可能なタイヤ試験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題達成のために、本発明は、タイヤの試験に用いられる、周面に前記タイヤが当接されるローラを備えたタイヤ試験装置に、前記ローラの軸に対して回転移動しないフレームと、前記タイヤに連結されるスピンドルと、前記フレームに固定された多分力計と、スペーサと、前記スピンドルを回動可能に支持する軸受とを設けたものである。ここで、前記軸受は、前記多分力計に、当該軸受と前記多分力計の間に前記スペーサが介挿された形態で前記多分力計に連結されることにより、前記多分力計を介して前記フレームによって支持されており、前記多分力計は、前記ローラの軸方向を左右方向、当該左右方向と垂直な2方向を上下方向、前後方向として、前記軸受から加わる前後方向、上下方向、左右方向それぞれの分力を検出するものである。また、前記スペーサは、厚みが非一様であって、当該スペーサの前記介挿によって、前記スピンドルの軸方向が、前記左右方向に対して傾いた方向に設定されている。
【0007】
このようなタイヤ試験装置によれば、スペーサの介挿によって、軸受の軸方向、したがってスピンドルの軸方向の角度を調整、設定することができ、これにより、タイヤのキャンパ角やトー角を調整、設定することができる。一方で、タイヤのキャンパ角やトー角に関わらずに、フレームに直接固定されている多分力計の姿勢は、前記ローラの軸方向を左右方向、当該左右方向と垂直な2方向を上下方向、前後方向として、前記軸受から加わる前後方向、上下方向、左右方向それぞれの分力を検出する姿勢に維持される。よって、タイヤのキャンパ角やトー角に関わらずに、3分力計において前後、左右、上下のそれぞれの方向について、タイヤから加わる力を直接検出することができる。
よって、前後方向、上下方向、左右方向はタイヤを装着した自動車の前後方向、上下方向、左右方向に相当するので、本タイヤ試験装置によれば、タイヤのキャンパ角やトー角をスペーサの形状等によって適宜、所望の値に設定することができると共に、タイヤのキャンパ角やトー角が存在する状態において、タイヤを実際に自動車に装着した時の自動車の前後方向、左右方向、上下方向のそれぞれに相当する各方向について、タイヤから作用する力を直接計測することができる。
【0008】
ここで、このようなタイヤ試験装置に、前記スペーサを複数設け、各スペーサを、当該スペーサの厚み方向と垂直な一方向から見た形状がくさび状の形状を有するものとし、各スペーサを厚み方向に積層された状態で、前記軸受と前記多分力計の間に介挿するようにすると共に、各スペーサを前記軸受と前記多分力計の間に介挿させた状態における、当該スペーサの厚み方向の軸まわり方向の向きを、可変とするようにしてもよい。このようにすることによりスペーサの向きや組み合わせを変化させるだけで、キャンパ角やトー角を変化させることができるようになる。
また、このようなタイヤ試験装置は、前記フレームを、前後方向に移動可能に設けると共に、当該タイヤ試験装置に、前記フレームに対して前記前後方向の力を加えるアクチュエータを備えることも好ましい。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明によれば、キャンパ角やトー角が存在する状態において、自動車の前後、左右、上下のそれぞれの方向に相当する各方向について、タイヤから作用する力を直接計測可能なタイヤ試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るタイヤ試験装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るタイヤ試験装置のタイヤ支持ユニットの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係るタイヤ試験装置のタイヤ支持部の固定構造を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るタイヤ試験装置の3分力計の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1a1-a4に、本実施形態に係るタイヤ試験装置の構成を示す。
ここで、図a4はタイヤ試験装置の斜視図であり、図a4に示すように上下前後左右を定義するものとして、図1a1はタイヤ試験装置を右方より見たようすを、図1a2はタイヤ試験装置を前方より見たようすを、図1a3はタイヤ試験装置を左方より見たようすを表している。
【0012】
図示するように、タイヤ試験装置は、ベース1、ローラ2、ローラ2に連結されたローラシャフト3、ローラシャフト3を回動可能に支持する、ベース1に固定されたローラシャフト軸受4、ローラシャフト3に加わる軸回りのトルクを検出するローラ軸トルク計5、ローラシャフト3の角回転速度を検出するローラ回転計6、ローラシャフト3に固定されたローラ用プーリ7、ベース1に固定されたローラモータ8、ローラモータ8の回転軸に固定されたローラモータプーリ9とローラ用プーリ7とに巻回されたローラ用ベルト10とを備えている。そして、このような構成によって、ローラモータ8の発生トルクがローラ2に伝達され、ローラモータ8の回転に伴いローラ2が回転するようになっている。
【0013】
また、タイヤ試験装置は、ベース1に対して前後に移動可能に、二本のガイドシャフト11により支持されたステージ12と、ベース1に固定されたステージ12を、図1bに示すように、前後方向に移動/加圧する油圧/エアシリンダ等のアクチュエータ13を備えている。
【0014】
そして、ステージ12の上には、フレーム14が固定されており、フレーム14には、フレーム14に固定された、タイヤ50を回動自在に支持するタイヤ支持ユニット15が固定されている。
次に、タイヤ支持ユニット15の構成について説明する。
図2aに、タイヤ支持ユニット15を構成する部材を示す。
図示するように、タイヤ支持ユニット15は、円環柱形状の3分力計151、円管状のラジアル軸受152、ラジアル軸受152によって回動可能に支持されるスピンドル153、ラジアル軸受152が貫挿されるアライメント調整用の2枚の円環状のスペーサ154とよりなる。
【0015】
ここで、3分力計151は、円環柱形状の高さ(軸)方向、高さ(軸)方向と垂直かつ相互に垂直な2方向との3方向のそれぞれについて、3分力計151に加わる力を検出するセンサである。
次に、スピンドル153の先端にはタイヤ固定用のフランジ1531が設けられており、ラジアル軸受152のスピンドル153の先端側には、ラジアル軸受152固定用のフランジ1521が設けられている。
また、スペーサ154の各々は、図示するように半円毎に分割することができるように構成されており、ラジアル軸受152の中途位置において、各半円を組み合わせてスペーサ154を円環状に形成することにより、端部からラジアル軸受152をスペーサ154に挿入しなくても、スペーサ154にラジアル軸受152が貫挿された状態とすることができる。
【0016】
また、図2bに側面図を示すように、スペーサ154の各々は、軸方向の厚みが最大の位置の角度を0度として、0度の位置から180度の位置に向かって厚みが一様に漸減する形状、すなわち、90度、270度の方向から見た形状がくさび状となる形状を有している。
【0017】
次に、図3に、このようなタイヤ支持ユニット15のフレーム14への固定の構成について説明する。
図3aに、3分力計151の円環柱形状の中心(軸)を通る、上下方向と垂直な平面を断面とする断面図によって、タイヤ支持ユニット15のフレーム14への固定の構造を模式的に示す。なお、3分力計151の円環柱形状の中心(軸)を通る、前後方向と垂直な平面を断面とする断面図によるタイヤ支持ユニット15のフレーム14への固定の構造も、図3aと同様になる。
図示するように、3分力計151は、3分力計151の円環柱形状の高さ方向(軸方向)が左右方向と一致し、かつ、3分力計151が力を検出する方向が前後方向、左右方向、上下方向となる姿勢を正規姿勢として、正規姿勢を維持するようにフレーム14にボルトによって、3分力計151の正規姿勢における左側に設けられた雌ねじを用いて固定される。
【0018】
そして、ラジアル軸受152を二つのスペーサ154に貫挿させた状態で、ラジアル軸受152のフランジ1521を、3分力計151の右側に設けられた雌ねじに、ボルトによって固定することにより、ラジアル軸受152、二つのスペーサ154はラジアル軸受152に固定され、3分力計151を介してフレーム14によって支持される。
【0019】
この結果、タイヤ50からスピンドル153を介してラジアル軸受152に加わる力は、3分力計151に伝わることとなり、3分力計151で、タイヤ50から加わる力を、前後、左右、上下のそれぞれの方向について直接検出することができるようになる。
ここで、上述のように、二つのスペーサ154の厚みは軸方向の厚みが最大の位置の角度を0度として、0度の位置から180度の位置に向かって厚みが一様に漸減する形状を有しているので、各スペーサ154の取り付けの向きの組み合わせを変化させることにより、図3a、bに示すように、ラジアル軸受152の軸方向、したがってスピンドル153の軸方向の、左右方向に対する角度を変化させることができ、これにより、タイヤ50のキャンパ角やトー角を変化させることができる。
【0020】
一方で、フレーム14に直接固定されている3分力計151の姿勢は、上述した正規姿勢に維持されることとなるので、タイヤ50のキャンパ角やトー角に関わらずに、3分力計151において前後、左右、上下のそれぞれの方向について、タイヤ50から加わる力を直接検出することができる。
【0021】
よって、本タイヤ試験装置によれば、タイヤ50のキャンパ角やトー角を適宜、所望の値に設定することができると共に、タイヤ50のキャンパ角やトー角を設定した状態において、自動車の前後、左右、上下のそれぞれの方向に相当する各方向ついて、タイヤ50から作用する力を直接計測することができる。
【0022】
次に、3分力計151の構成例を示す。
3分力計151の円環柱形状の内部が中空となっており、図4aに円環柱形状の高さ方向(軸方向)にみた内部構造を示すように、3分力計151内部には、3分力計151内部の内側面と外側面を連結する可撓性部材1511と、3分力計151内部の内側面と外側面を連結する4つの歪みセンサユニット1512を備えており、4つの歪みセンサユニット1512は90度おきに、2つの歪みセンサユニット1512が上述した正規姿勢における上下に位置し、2つの歪みセンサユニット1512が上述した正規姿勢における前後に位置するように配置されている。
【0023】
また、歪みセンサユニット1512の各々は、図4bに3分力計151内部の歪みセンサユニット1512の斜視図を示すように、軸方向に加わる力によって撓み軸方向に加わる力を検出する軸方向歪みセンサ15121と、円周方向に加わる力によって撓み円周方向に加わる力を検出する円周方向歪みセンサ15122とを経方向に連結したものである。
【0024】
このような構成において、各歪みセンサユニット1512の軸方向歪みセンサ15121は、上述した正規姿勢における左右方向に3分力計151に加わる力を検出し、上下に配置された二つの歪みセンサユニット1512の円周方向歪みセンサ15122は前後方向に3分力計151に加わる力を検出し、前後に配置された二つの歪みセンサユニット1512の円周方向歪みセンサ15122は上下方向に3分力計151に加わる力を検出することとなる。
【0025】
次に、以上のようなタイヤ試験装置を用いたタイヤ試験について説明する。
すなわち、タイヤ試験実施の際には、まず、予め用意した複数の上述したくさび形状のくさびの角度が異なる複数のスペーサ154の内から、所望のキャンパ角やトー角が得られるように、1または2つのスペーサ154を選定する。そして、ラジアル軸受152を3分力計151に固定するボルトを一旦外した上で、選定したスペーサ154を所定角度でラジアル軸受152まわりに位置付けた上で、ボルトを締め付けてラジアル軸受152を3分力計151に固定する。そして、スピンドル153にタイヤ50を固定する。
【0026】
そして、図示を省略した制御部において、アクチュエータ13を用いて、タイヤ50の周面をローラ2の周面に任意の力で押しつけた状態で、ローラ軸トルク計5やローラ回転計6の出力を参照して、ローラモータ8を制御することにより、所望のキャンパ角やトー角を与えたタイヤ50を、所望の回転速度で、所望の負荷を与えながら回転しつつ、3分力計151で検出される、タイヤ50から加わる前後、左右、上下のそれぞれの方向の力を計測する。
【0027】
以上、本発明に係るタイヤ試験層装置の実施形態について説明した。
【符号の説明】
【0028】
1…ベース、2…ローラ、3…ローラシャフト、4…ローラシャフト軸受、5…ローラ軸トルク計、6…ローラ回転計、7…ローラ用プーリ、8…ローラモータ、9…ローラモータプーリ、10…ローラ用ベルト、11…ガイドシャフト、12…ステージ、13…アクチュエータ、14…フレーム、15…タイヤ支持ユニット、50…タイヤ、151…3分力計、152…ラジアル軸受、153…スピンドル、154…スペーサ、1511…可撓性部材、1512…センサユニット、15121…軸方向歪みセンサ、15122…円周方向歪みセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの試験に用いられる、周面に前記タイヤが当接されるローラを備えたタイヤ試験装置であって、
フレームと、
前記タイヤに連結されるスピンドルと、
前記フレームに固定された多分力計と、
スペーサと、
前記スピンドルを回動可能に支持する軸受とを有し、
前記軸受は、前記多分力計に、当該軸受と前記多分力計の間に前記スペーサが介挿された形態で前記多分力計に連結されることにより、前記多分力計を介して前記フレームによって支持されており、
前記多分力計は、前記ローラの軸方向を左右方向、当該左右方向と垂直な2方向を上下方向、前後方向として、前記軸受から加わる前後方向、上下方向、左右方向それぞれの分力を検出し、
前記スペーサは、厚みが非一様であって、当該スペーサの前記介挿によって、前記スピンドルの軸方向が、前記左右方向に対して傾いた方向に設定されていることを特徴とするタイヤ試験装置。
【請求項2】
請求項1記載のタイヤ試験装置であって、
前記スペーサを複数備え、
各スペーサは、当該スペーサの厚み方向と垂直な一方向から見た形状がくさび状の形状を有し、
各スペーサは厚み方向に積層された状態で、前記軸受と前記多分力計の間に介挿されており、
各スペーサを前記軸受と前記多分力計の間に介挿させた状態における、当該スペーサの厚み方向の軸まわり方向の向きは、可変であることを特徴とするタイヤ試験装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のタイヤ試験装置であって、
前記フレームは、前後方向に移動可能に設けられており、
当該タイヤ試験装置は、前記フレームに対して前記前後方向の力を加えるアクチュエータを備えていることを特徴とするタイヤ試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113662(P2013−113662A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258853(P2011−258853)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)