説明

タイヤ軸力推定方法

【課題】車両に装着された状態におけるタイヤ軸力を精度良く推定することができるタイヤ軸力推定方法を提供する。
【解決手段】タイヤに作用する荷重、スリップ角、車速を含む試験条件を変化させてタイヤ単体での軸力データを取得する工程と、軸力データからタイヤにおける剛性成分と減衰成分とを分離抽出したマップデータを作成する工程と、タイヤを実際に車両に装着し、車両の各車輪におけるタイヤのたわみ量及び回転速度、並びに各車輪に対する車体の変位及び加速度を含む車両特性データを取得する工程と、車両特性データとマップデータとから車両におけるタイヤ軸力を推定する工程とを含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ軸力推定方法に関し、特に、走行中のタイヤに作用するタイヤ軸力を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中の車両におけるタイヤの特性を評価するために、タイヤに作用するタイヤ軸力の測定が行われている。タイヤ軸力は、6分力計を備えたホイールに被検体であるタイヤを組み付け車両に装着することで測定される。ホイールは、6分力計を取着するための専用のものであって、側面に6分力計を取着するためのリムが固定される。リムは、内部に複数のひずみセンサを内蔵しており、車両が走行することでタイヤに作用する力がリムに伝達され、このリムに伝達された力をひずみセンサが検出することによりタイヤ軸力を測定する。
ところが、6分力計によりタイヤ軸力を測定するには、専用ホイール及び専用のリムに6分力計を取着する必要があるため、実際のホイールにタイヤを装着したときに比べて重量が増加してしまい、測定器としての測定精度が高いにもかかわらず、実際のタイヤ使用時と異なる結果を測定してしまう虞がある。
そこで、実際の車両(ハードウェア)とシミュレーション(ソフトウェア)とを組み合わせて、タイヤ軸力を推定する方法が提案されている。具体的には、実際に車両を走行させて操舵角度,車両前後速度,ヨーレート,車両横加速度及び車両横速度等の車両特性データを測定し、測定された車両特性データを車両解析モデルとして作成されたソフトウェアに適用することで路面に対するタイヤの状態及びタイヤ軸力等の特性を推定している。この方法では、車両の運動特性のみを測定しているので、6分力計をホイールに取着する必要がなく、実際のタイヤ使用時に近い状態でのタイヤ軸力の推定が可能となる。
例えば、特許文献1には、実際の車両(ハードウェア)とシミュレーション(ソフトウェア)とを組み合わせることで、タイヤの性能を評価する方法が開示されている。また、及び特許文献2には、実際の車両における制動装置(ハードウェア)とソフトウェア上の車両モデルとを組み合わせることで制動装置のABSに対するタイヤの性能の評価を精度良く行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−094241号公報
【特許文献2】特開2010−276446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両解析モデルはタイヤ単体を台上試験することで得られた試験データに基づいてタイヤ軸力を推定するように作成されているため、実際に測定された車両特性データからタイヤ軸力を推定するときには、推定により作成された車両解析モデルによって、さらにタイヤ軸力を推定することとなり、二重の推定によりタイヤ軸力を得ることになってしまう。このため、得られたタイヤ軸力の精度に懸念が生じてしまう。
【0005】
本発明は上記課題を解決するため、車両に装着された状態におけるタイヤ軸力を精度良く推定することができるタイヤ軸力推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための態様として、タイヤに作用する荷重、スリップ角、車速を含む試験条件を変化させてタイヤ単体での軸力データを取得する工程と、軸力データからタイヤにおける剛性成分と減衰成分とを分離抽出したマップデータを作成する工程と、タイヤを実際に車両に装着し、車両の各車輪におけるタイヤのたわみ量及び回転速度並びに各車輪に対する車体の変位及び加速度を含む車両特性データを取得する工程と、車両特性データをマップデータに参照させて車両におけるタイヤ軸力を推定する工程とを含む態様とした。
本態様によれば、タイヤに作用する荷重、スリップ角、車速等を含む試験条件を変化させてタイヤ単体での軸力データを取得し、軸力データからタイヤにおける剛性成分と減衰成分とを分離抽出したマップデータを作成し、実際に車両にタイヤを装着して車両の各車輪におけるタイヤのたわみ量及び回転速度並びに各車輪に対する車体の変位及び加速度等を含む車両特性データを取得して、車両特性データをマップデータに参照させて車両におけるタイヤ軸力を推定することにより、タイヤ軸力を精度良く推定することができるので、タイヤ開発において信頼性の高い結果を得ることができる。特に、剛性成分と減衰成分とを分離抽出したマップデータを作成することにより車両における軸力の特性分析を詳細に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】タイヤ軸力を推定するための装置構成を示す概念図である。
【図2】タイヤに作用する6分力の概念図である。
【図3】タイヤ軸力推定装置のブロック図である。
【図4】加振の振幅及び速度に対する力Fzの応答線図である。
【図5】剛性マップデータ及び減衰マップデータの一例である。
【図6】タイヤ軸力を推定する他の形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態1
以下、タイヤ軸力を推定する方法の一実施形態について説明する。
図1は、タイヤ軸力を推定するための装置構成を示す概念図である。
本発明に係るタイヤ軸力の推定方法は、被検体であるタイヤTを車両Cに装着し、所定の車両試験を行うことでタイヤTを含む車両特性データを測定し、車両試験と同一試験条件によりタイヤ単体での試験を行うことでタイヤ軸力を含むタイヤ特性データを測定し、車両特性データとタイヤ特性データとを組み合わせることで走行中のタイヤTに作用するタイヤ軸力の推定が成される。
【0009】
車両特性データは、実際に被検体であるタイヤTを車両Cに装着した車両試験により取得される。車両試験を行う車両Cには、走行中の車体の運動状態を測定する運動状態測定手段11と、走行中のタイヤTのたわみ量を測定するたわみ量測定手段12と、車両Cの車輪の回転速度としての車輪速度Vtを測定する車輪速度測定手段13と、車輪の操舵角を検出する操舵角測定手段14と、測定された運動状態とたわみ量と車輪速度Vtとを記憶するデータロガー15とにより構成される。
【0010】
運動状態測定手段11は、例えば3次元加速度センサであって、例えば車両Cの中心に配置される。詳細には、車両Cにおいて対角に位置するタイヤTを結ぶ直線が交差する交点の鉛直上に配設される。加速度センサは、走行中の車両Cの前後方向(X軸方向)に生じる加速度と、幅方向(Y軸方向)の加速度と、上下方向(Z軸方向)の加速度とを測定する。運動状態測定手段11は、データロガー15と接続され、測定した加速度をデータロガー15に出力する。
【0011】
たわみ量測定手段12は、例えばレーザ変位計であって、測定方向が路面を向くように各車輪のホイールに個別に取り付けられる。具体的には、レーザ変位計は、車輪の回転とともに供回りしないように例えばスリップリング等の簡易なジグ16を介してホイールに取り付けられる。レーザ変位計は、取り付け位置から路面までの距離を測定することにより、走行中のタイヤTのたわみ量の変化を測定する。たわみ量測定手段12は、データロガー15と接続され、測定したタイヤTのたわみ量の変化をデータロガー15に出力する。なお、たわみ量測定手段12は、レーザ変位計として構成したが、カメラを用いても良い。具体的には、たわみ量測定手段12にデジタルビデオカメラやデジタルカメラ等のカメラを用い、走行中のタイヤTのたわみを撮像可能となるように車体に固定し、撮像したデータをデータロガー15に記憶させた後にコンピュータにより画像処理することでたわみ量を算出するようにしても良い。
【0012】
車輪速度測定手段13は、例えば車両Cにあらかじめ設けられている車輪速センサを適用する。車輪速センサは、各車輪の車軸に個別に設けられ、各車輪の車輪速度Vtを測定する。車輪速センサは、データロガー15と接続され、検出した車輪の車輪速度Vtを信号としてデータロガー15に出力する。
【0013】
操舵角測定手段14は、ステアリングのシャフトを包囲するように設けられる円環状の操舵角センサーである。操舵角センサーは、車両試験においてドライバーによって操舵された操舵角を検出する。操舵角センサーは、データロガー15に接続され、検出した操舵角を信号としてデータロガー15に出力する。
【0014】
データロガー15は、車両に積載され、運動状態測定手段11から出力されるX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の3方向の加速度、各たわみ量測定手段12から出力される各車輪のタイヤTのたわみ量と、車輪速度測定手段13から出力される各車輪の車輪速度Vtと、操舵角測定手段14とにより出力された操舵角とを互いに関連付けて時系列的に車両特性データとして記憶する。
データロガー15に記憶した車両特性データは、記憶媒体やネットワークを介してタイヤ軸力推定装置30に出力される。
【0015】
タイヤ特性データは、図1に示すように、タイヤTの台上試験装置の一つであるフラットベルトユニット試験装置20、またはドラム試験機やローラを備えた加振設備など、アライメント調整機構を備えつつ、タイヤ転動状態のままタイヤの上下及びスリップ角SA方向の加振が可能な装置にタイヤ単体を設けることで測定される。
よって、タイヤ特性データは、フラットベルトユニットによりタイヤ転動時にタイヤに対して上下及びスリップ角SA方向への加振を行い、車両に設定されたアライメントと同条件下で必要なタイヤ動特性を取得する。
【0016】
6分力計26は、スピンドル軸27とホイールハブ28とを備える。スピンドル軸27は、タイヤ固定軸25と同軸であって、6分力計26の反対側に取り付けられる。ホイールハブ28は、スピンドル軸27の外周面を回転可能に、スピンドル軸27の先端側に固定される。ホイールハブ28には、実際の車両Cが使用するホイールが取り付け可能な取付部を備える。
6分力計26は、制御装置21と電気的に接続され、スピンドル軸27に作用する6分力を測定して制御装置21に測定値を出力する。6分力とは、タイヤ固定軸25に作用するX軸,Y軸,Z軸方向に沿う力と、X軸周りに作用するモーメント、Y軸周りに作用するモーメント、Z軸周りに作用するモーメントとを測定する。
即ち、6分力計26は、被検体となるタイヤTに作用する様々な荷重を軸力として測定し、図2に示すように力Fx,Fy,Fz、モーメントMx,My,Mzとして測定する。ここで、力FxはタイヤTのX軸方向に作用する前後力を示し、力FyはタイヤTのY軸方向に作用する横力を示し、力FzはタイヤTのZ軸方向に沿って作用する荷重を示す。また、モーメントMxはタイヤTのX軸周りに作用する力を示し、モーメントMyはタイヤTのY軸周りに作用する力を示し、モーメントMzはタイヤTのZ軸周りに作用する力を示す。
よって、ホイールハブ28に固定された車輪のタイヤTがベルト23と接触することにより従動的に回転し、このときのタイヤTに作用する力が6分力計により測定される。
【0017】
制御装置21は、ベルトユニット及びタイヤ固定ユニットの動作を制御するコンピュータであり、演算処理手段としてのCPU、記憶手段としてのROM,RAM及びHDD、通信手段としてのインターフェイスを含み、記憶手段に格納されたプログラムに基づいて動作する。制御装置21には、図示しないキーボードやマウス等の入力手段やモニタ等の表示手段が接続される。入力手段は、作業者によって操作され、車両試験を行った試験条件や、キャンバー角、トー角、車両重量、軸重等の車両に関するデータが入力される。表示手段には、試験条件や入力した車両に関するデータが表示される。
制御装置21は、試験条件及び測定された6分力等をタイヤ特性データとして時系列に記憶し、タイヤ軸力推定装置30に記憶媒体やネットワークを介して出力する。
【0018】
タイヤ軸力推定装置30は、タイヤ軸力の推定を処理実行するコンピュータであり、演算処理手段としてのCPU、記憶手段としてのROM,RAM及びHDD、通信手段としてのインターフェイスを含み、記憶手段に格納されたプログラムに基づいて動作する。また、タイヤ軸力推定装置30には、キーボードやマウス等の入力手段31やモニタ等の表示手段32が接続される。入力手段31は、作業者によって操作され、タイヤ軸力の推定の実行やパラメータの設定値等が入力される。表示手段32には、タイヤ特性データや車両特性データなどの測定データや、プログラムの実行により推定されるタイヤ軸力が表示される。
【0019】
図3は、タイヤ軸力推定装置30のブロック図を示す。
タイヤ軸力推定装置30は、たわみ量算出手段33と、車速算出手段34と、車両運動算出手段35と、タイヤ特性データに基づいて剛性マップデータ作成手段38と、減衰マップデータ作成手段39と、タイヤ軸力推定手段40とを備える。
たわみ量算出手段33は、車両特性データに基づいてタイヤTのたわみ量を算出する。車速算出手段34は、車輪速センサによって検出された各車輪の車輪速度Vtの平均から車両Cの速度Vv(車速)を算出する。車両運動算出手段35は、運動状態測定手段11により測定された加速度に基づいて旋回時の角速度、ピッチレート、ロールレート、ヨーレート等の車両運動について算出する。
剛性マップデータ作成手段38は、タイヤ特性データに基づいてタイヤTの剛性特性を示す剛性マップデータを作成する。減衰マップデータ作成手段39は、タイヤ特性データに基づいてタイヤTの減衰特性を示す減衰マップデータを作成する。
タイヤ軸力推定手段40は、タイヤ特性データにより作成された剛性マップデータ及び減衰マップデータと、車両特性データとに基づいて車両におけるタイヤTに作用するタイヤ軸力を推定し、出力する。なお、タイヤ軸力推定手段40の詳細については後述する。
【0020】
以下、走行中のタイヤTに作用するタイヤ軸力を推定する工程について説明する。
まず、タイヤ単体でのタイヤ特性データの測定を実施する。
タイヤ特性データの測定には、車両試験で車両Cに装着されるホイールと同じホイールに、被検体であるタイヤTを組み付け、車両試験と同じ内圧をタイヤT内に印加してタイヤ試験装置としてのフラットベルトユニット試験装置20のホイールハブ28に固定する。
次に、変位機構29を駆動して、ホイールハブ28に固定された車輪のキャンバー角及びトー角が、車両Cのキャンバー角及びトー角と同じになるようにベルト23に対する車輪の角度を調整し、さらに、静止時の車両Cの車輪に作用する輪荷重値となるようにベルト23に対する車輪の位置を調整することでタイヤ単体での試験の準備が完了する。
【0021】
次に、車両試験の試験条件である直進走行、スラローム走行、定常円旋回走行、螺旋状旋回走行に相当するタイヤ単体でのタイヤ特性データの測定を実施する。
詳細には、直進車両試験で行った条件と同一条件となるようにベルト23の回転速度Vbを変化させつつ、所定の振幅及び周波数により車輪を上下方向に加振することで、直進時のタイヤTに作用するタイヤ軸力を測定する。
次に、スラローム車両試験で行った条件と実車の測定条件を含む条件となるようにベルト23の回転速度Vbを変化させつつ、スラローム車両試験で行った操舵条件と実車の測定条件を含む条件となるように車輪をZ軸周りに回転変位させ、所定の振幅及び周波数により車輪を上下方向に加振することで、操舵角に対するタイヤ軸力を測定する。
次に、定常円旋回車両試験で行った条件と実車の測定条件を含む条件となるようにベルト23の回転速度Vbを変化させつつ、定常円旋回車両試験で行った操舵角と実車の測定条件を含む条件となるように車輪をZ軸周りに回転させ、所定の振幅及び周波数により車輪を上下方向に加振することで、操舵角に対するタイヤ軸力を測定する。
次に、螺旋状旋回車両試験で行った条件と実車の測定条件を含む条件となるようにベルト23の回転速度Vbを変化させつつ、螺旋状旋回車両試験で行った操舵条件と実車の測定条件を含む条件となるように車輪をZ軸周りに回転させ、所定の振幅及び周波数により車輪を上下方向に加振することで、操舵角に対するタイヤ軸力を測定する。
【0022】
上記タイヤ単体での試験により、操舵方法の違いによるタイヤ軸力の変化、及び、操舵角に対する速度の違いによるタイヤ軸力の測定データ群が制御装置21に記憶される。上記条件で測定されたタイヤ軸力のデータ群と、加振による応答とに基づいて、タイヤTの剛性特性を示すばね係数Kx,Ky,Kz及びタイヤTの減衰特性を示す減衰係数Cx,Cy,Czが得られ、例えば、図4(a),(b)に示すような応答線図を取得することができる。
【0023】
図4(a)に示すグラフは、所定の速度で車輪を回転させたときに、加振の振幅に対する力Fzの応答線図を示し、図4(b)に示すグラフは、図4(a)のデータから剛性分を差し引き、かつ、それを所定の速度において加振の速度に対する力Fczの応答線図を示している。
図4(a)に示す曲線は、加振による力Fzの行き戻りの変化を含む横長な楕円であるが、このうち、楕円が示す長手方向の傾きは剛性成分、その長手方向の近似直線に対する幅の広がりが減衰成分を表す。特に減衰特性については元の力Fzのデータから、この楕円の傾きが示す剛性に変位データを掛け合わせたKz方向の力の成分を差し引いた力Fczを加振の速度に対してプロットすると図4(b)のようになり、このグラフの長手方向の傾きが減衰係数に相当する。
【0024】
図4(a),(b)に示すような、タイヤTの周波数応答に基づいて、図5(a),(b)に示すタイヤTの剛性マップデータと減衰マップデータとを得ることができる。図5(a)は、タイヤTのZ軸方向に作用する力Fzと、スリップ角SAと、剛性特性を示すばね係数Kyとの関係をマッピングしたタイヤTの剛性マップデータである。図5(b)は、同一のスリップ角SAにおけるタイヤTのZ軸方向に作用する力Fzと、車輪の車輪速度Vsaと、減衰特性を示す減衰係数Cyとの関係をスリップ角SA毎にマッピングしたタイヤTの減衰マップデータである。
このようにタイヤTの剛性特性と減衰特性とを分離しておくことにより、軸力の特性分析が詳細に行うことが可能となる。
【0025】
図5(a)において、力Fzは6分力計26によって直接測定された値である。スリップ角SAは、操舵角及びベルト23の回転速度Vbとの関係から計算された値である。ばね係数Kyは、周波数応答により得られた値である。また、図5(b)において、力Fzは6分力計26によって直接測定された値である。車輪速度Vsaは、スリップ角SAを計算したときの車輪の回転速度である。減衰係数Cyは、加振による周波数応答により得られた値である。
【0026】
次に、被検体であるタイヤTを装着した車両により、上記タイヤ特性データを取得したときの条件と同一条件で所定の車両試験を行うことで車両特性データを測定する。車両試験では、例えば直進走行、スラローム、定常円旋回、螺旋旋回等、所定の走行を速度を変えて実施することで車両Cの挙動が車両特性データとして測定される。車両Cの挙動はタイヤTの影響も受けることから、タイヤTの挙動も含んだものが測定される。
そして、測定された車両特性データを剛性マップデータ及び減衰マップデータに参照させることにより走行中の車両CのタイヤTに作用するタイヤ軸力が推定可能となる。つまり、タイヤ特性データと車両特性データとを組み合わせることで、車両Cにおけるタイヤ軸力を推定することができる。
【0027】
次に、タイヤ軸力推定装置30により、車両特性データとタイヤ特性データとに基づいて車両のタイヤTに作用する軸力の推定を行う。以下、車両試験においてタイヤTに作用する軸力の推定方法について説明する。
車両試験では、各車輪の回転速度の測定により車両速度が取得される。各車輪の回転速度と車両の運動状態測定手段11の測定により車両の角速度、車両ヨーレート等が算出され、これらに基づき各車輪におけるスリップ角SAが計算できる。
よって、タイヤ軸力推定手段40は、車両試験で算出されたスリップ角SAを剛性マップデータのスリップ角SAに参照させることで、車両試験でのタイヤTに作用するZ軸方向の力Fzを推定することができる。また、車輪の回転速度とスリップ角SAとを減衰マップデータに参照させることによりZ軸方向の力Fzを推定することができる。そして、車両試験における車輪の回転速度とタイヤ試験における車輪の車輪速度Vtとが同一のときの力Fzを取得し、力Fzとなるときの力Fyを参照することにより、測定されたタイヤ単体で測定された軸力からスリップ角を算出することができる。
【0028】
また、タイヤTの接地側に生じるたわみは、力Fzのみに起因するたわみと、操舵時に生じる横力に起因するたわみと、スリップ角に起因するたわみとがあるため、力Fzとたわみの関係、力Fyとたわみの関係、スリップ角とたわみの関係を区別することで、タイヤ軸力を正確に推定することが可能となる。
【0029】
そこで、車両試験で測定された車両Cの運動に関する車両特性データ及びタイヤTのたわみに関するデータを図5(a),(b)に示す剛性マップデータ及び減衰マップデータに参照させることにより、各車輪に対して合致するタイヤ軸力に関するデータを抽出、或いは図5(a),(b)に示すマップデータを用いて軸力を補間計算することで、車両におけるタイヤ軸力、前後力、横力、接地荷重反力、オーバーターニングモーメント、セルフアライニングトルク、転がり抵抗モーメントを推定することができる。
【0030】
即ち、タイヤ単体でのタイヤ単体試験と車両試験とを試験条件が同一条件となるように個別に行い、タイヤ試験で得られたタイヤTの剛性特性と減衰特性とをマップデータとして作成するとともに、車両試験で測定された車両Cの運動に関する挙動との関係から、タイヤ試験で取得することができなかった車両CとタイヤTとの関係を作成しておくことにより、実際にタイヤTを車両Cに装着してタイヤTの実装試験を行うときに、予め作成された車両CとタイヤTとの関係からタイヤ軸力を推定することが可能となる。
以上、説明したように、本発明のタイヤ軸力推定方法は、実際に実験的に得られたタイヤ単体の特性と、車両Cの特性とを用いることで、タイヤ試験において再現性の難しい複雑な試験に対して精度良くタイヤ軸力を推定することができるので、タイヤ開発において信頼性の高い結果を得ることができる。
【0031】
実施形態2
タイヤ軸力推定装置30の他の形態として、実際に測定された車両特性データとタイヤ特性データとに基づいて、車両モデルを作成し、作成した車両モデルに車両試験で測定された車両特性データを条件として与えることで得られた結果と、車両特性データとを対比させ、得られた結果が車両特性データと一致するまで繰り返し計算を行い、車両モデルが車両特性と一致したときの軸力をタイヤ軸力として推定する点で異なる。
【0032】
本実施形態2では、上記実施形態1と同様に、タイヤ試験と車両試験とを先に行い、タイヤ試験の測定結果に基づいてタイヤTの剛性データマップと、減衰データマップとを予め作成する。
本実施形態2では、タイヤ軸力推定装置は、実際に試験を行う車両Cと同様な特性を有する車両モデルを作成するソフトウェアと、作成された車両モデルのシミュレーションを行うソフトウェアとを備える。車両モデルは、例えば、ソフトウェア上で作成される。なお、初期の車両モデルは、実質的には実際の試験車両と異なっていても良い。
【0033】
図6は、車両モデルを使用して車両におけるタイヤTのタイヤ軸力を推定するフローチャートである。図6に示すように、車両モデルによるシミュレーションは、車両試験と同じ試験条件と、車両特性データと、車両モデルにおけるタイヤ特性データとしての剛性データマップと、減衰データマップが入力される(S101)。次に、車両モデルにおける車両応答が計算される(S102)。車両モデルによる応答は、車両試験で得られる結果と同じ試験条件の結果が出力される(S103)。
次に、シミュレーションによって得られた車両応答の結果と、実際に車両試験を行って得られた車両特性データとを比較する(S104)。車両応答計算によって得られた車両モデルの車両応答の結果と、同一試験条件下で実際に車両試験を行って得られた車両特性データとの差が閾値よりも大きいときには、タイヤTのスリップ角等のパラメータを変更する(S105)。そしてS102〜S104を繰り返し実行し、車両応答計算の結果と車両特性データとの差が閾値以下になるまで繰り返し条件を変更する。つまり、車両応答計算結果と車両特性データとの結果が同じであるかどうかを判定する。車両モデルの車両応答の結果と車両特性データとの差が閾値よりも小さくなったときの車両モデルを正解とし、正解とした車両モデルの作成したときに設定されたタイヤTに作用する軸力をタイヤ軸力として出力する(S106)。
【0034】
本実施形態2のようにタイヤ軸力を推定しても車両におけるタイヤTのタイヤ軸力を精度良く推定することができる。即ち、本実施形態2の車両モデルは、実際にタイヤ試験及び車両試験により測定されたタイヤ特性データと車両特性データとを条件として車両モデルを作成していることからシミュレーションによる車両モデルが精度良く再現されるため、シミュレーションによって推定されたタイヤ軸力は信頼性のある精度で得られる。
【0035】
実施形態3
上記実施形態2では、タイヤ軸力推定装置の他の形態として、実際に測定された車両特性データ及びタイヤ特性データに基づいて、車両モデルを作成し、作成した車両モデルが車両特性データと同一となるように車両モデルを作成するとして説明したが、本実施形態3では、作成した車両モデルがタイヤ特性データと同一となるように車両モデルを作成する点で異なる。
本実施形態3のように、タイヤ軸力を推定しても車両におけるタイヤTのタイヤ軸力を精度良く推定することができる。即ち、本実施形態3の車両モデルは、実際にタイヤ試験及び車両試験により測定されたタイヤ特性データと車両特性データとを条件として車両モデルを作成していることからシミュレーションによる車両モデルが精度良く再現されるため、シミュレーションによって推定されたタイヤ軸力は信頼性のある精度で得られる。
【符号の説明】
【0036】
11 運動状態測定手段、12 たわみ量測定手段、13 車輪速度測定手段、
14 操舵角測定手段、15 データロガー、
30 タイヤ軸力推定装置、33 たわみ量算出手段、34 車速算出手段、
35 車両運動算出手段、38 剛性マップデータ作成手段、
39 減衰マップデータ作成手段、40 タイヤ軸力推定手段、T タイヤ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤに作用する荷重、スリップ角、車速を含む試験条件を変化させてタイヤ単体での軸力データを取得する工程と、
前記軸力データからタイヤにおける剛性成分と減衰成分とを分離抽出したマップデータを作成する工程と、
前記タイヤを実際に車両に装着し、車両の各車輪におけるタイヤのたわみ量及び回転速度、並びに各車輪に対する車体の変位及び加速度を含む車両特性データを取得する工程と、
前記車両特性データと前記マップデータとから車両におけるタイヤ軸力を推定する工程とを含むタイヤ軸力推定方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−32941(P2013−32941A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168462(P2011−168462)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)