説明

タリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置

【課題】タリウム含有硝酸カリウムの溶融塩に含まれる金属タリウムを回収するとともに、このタリウムが除去された溶融塩を硝酸カリウムとして回収するタリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置を提供する。
【解決手段】本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法は、タリウム含有硝酸カリウムを溶融炉2の磁性坩堝11に投入し、硝酸カリウムの融点以上かつ熱分解温度以下に加熱して溶融塩Sとし、この溶融塩Sに、陽極21及び電極端子22を介して直流電流を通電することにより溶融金属タリウムMTを磁性坩堝11の底部11aに沈殿させ、この溶融金属タリウムMTを取り出し用配管14により取り出し、次いで、硝酸カリウムを取り出し用配管14により取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置に関し、更に詳しくは、タリウム含有硝酸カリウムを溶融した溶融塩から、レアメタルである金属タリウム及び硝酸カリウムを回収して有効利用する際に用いて好適なタリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護の高まりにより、産業廃棄物を有効利用するセメント製造設備を初め、産業廃棄物の最終処分施設、石油化学プラント、各種工場等においても、環境対策が非常に重要視されている。例えば、セメント製造設備では、産業廃棄物に含まれる塩素等の揮発性成分を取り除くために塩素バイパス装置が設置されている。
ところで、この塩素バイパス装置から排出される塩素バイパスダストには、タリウム等の有用な重金属類を含んでいるので、再びセメント原料として再利用するには、これらの塩素化合物を取り除くとともに、タリウム等の有用な重金属類を回収する必要がある。
【0003】
従来のタリウムの回収方法としては、次の様な各種の方法が提案されている。
(1)タリウム含有原料を、硫酸と還元剤とを用いて還元浸出し、得られた浸出液を中和し濾別して、タリウム浸出液と中和澱物とを得、この中和澱物を塩酸に溶解した後、還元剤を添加し、生成した沈澱を固液分離することにより、タリウムを回収する方法(特許文献1)。
(2)タリウム含有物質を、酸化浸出し、固液分離してタリウム含有液を得、このタリウム含有液に還元剤及び塩素源を加えて塩化タリウム等を沈澱させ、この塩化タリウムを濃硫酸で加熱溶解して硫酸タリウム溶液を得、この硫酸タリウム溶液を還元することにより、金属タリウムを回収する方法(特許文献2)。
【0004】
一方、工場や流通施設等から排出される産業廃棄物や一般家庭から排出される一般廃棄物においても、これらの廃棄物を水洗した際に生じる排水、あるいは都市ごみ焼却灰、飛灰、プラスチック焼却灰等を水洗した際に生じる排水中には、タリウム、鉛、カドミウム、クロム、水銀等の金属が含まれているので、これらの重金属を排水中から極力除去し、水質を浄化するとともに、タリウム等の有用な重金属類を回収する必要がある。
そこで、排水に直流電流を通電することにより、この排水に溶存する金属を酸化物として析出させ、この金属酸化物を上記の排水から分離する排水からの金属の除去方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、産業廃棄物の1種に、タリウムを含有する光学レンズ等の光学ガラスを加工した際に発生するタリウム含有ガラス屑があり、このタリウム含有ガラス屑からタリウムを回収する方法としては、タリウムを含むガラス屑を粒径300μm以下に粉砕し、得られたガラス屑を無機酸で抽出処理し、抽出液にタリウムより卑な金属を添加して金属タリウム析出させるタリウムを含むガラス屑からタリウムを回収する方法が提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特許第2682733号公報
【特許文献2】特許第2970095号公報
【特許文献3】特開2007−117965号公報
【特許文献4】特開2002−302720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、タリウム含有硝酸カリウムのように、硝酸カリウムにタリウムが含まれているような場合、従来のタリウムの回収方法や金属の除去方法では、タリウムと硝酸カリウムとを全く別個の工程により回収せざるを得ず、また、タリウムと硝酸カリウムとを個々に回収する場合、回収するための時間及びコストが掛かりすぎるという問題点があり、タリウム含有硝酸カリウムを資源として有効利用することが難しかった。
【0007】
また、上述した様にタリウムを含むガラス屑からタリウムを回収する方法も提案されているが、この方法は、もっぱらタリウムを回収することに主眼をおいた方法で、粉砕、抽出処理、卑金属添加等の複雑な工程を経て回収する方法であるから、やはり、回収するための時間及びコストが掛かりすぎるという問題点があり、タリウムを取り除いたガラス屑については、有効利用されることなく、産業廃棄物として処理されていた。
このように、タリウム含有硝酸カリウムについては、従来から資源として有効利用されておらず、また、有効利用するための方法についても殆どなされておらず、安全性を考慮した上で廃棄物として処理されているのが現状である。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、タリウム含有硝酸カリウムを溶融することにより、この溶融塩に含まれるレアメタルであるタリウムを金属タリウムとして回収し有効利用するとともに、このタリウムが除去された溶融塩についても硝酸カリウムとして回収して有効利用することができるタリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために次の様なタリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置を提供した。
すなわち、本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法は、タリウム含有硝酸カリウムからタリウム及び硝酸カリウムを回収する方法であって、前記タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、この溶融塩に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させ、この金属タリウム及びタリウムが分離された溶融塩を個々に回収することを特徴とする。
【0010】
このタリウム及び硝酸カリウムの回収方法では、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、この溶融塩に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させる。その後、この金属タリウム及びタリウムが除去された溶融塩を、個々に回収する。
これにより、タリウム含有硝酸カリウムに含まれるタリウム及び硝酸カリウムを効率的に回収することが可能になり、この回収されたタリウム及び硝酸カリウムを有効利用することが可能になる。
【0011】
前記タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融した溶融塩に陽極及び陰極を挿入し、これら陽極及び陰極間に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして沈殿させることが好ましい。
前記溶融塩から分離した溶融金属タリウムを陰極とし、この陰極と前記陽極との間に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして沈殿させることが好ましい。
前記溶融塩の温度は、硝酸カリウムの融点以上かつ熱分解温度以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置は、タリウム含有硝酸カリウムからタリウム及び硝酸カリウムを回収する装置であって、前記タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とする溶融炉と、前記溶融塩に直流電流を通電して該溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させる電気分解手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0013】
このタリウム及び硝酸カリウムの回収装置では、溶融炉により、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、電気分解手段により、この溶融塩に直流電流を通電し、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させる。
これにより、簡単な装置で、タリウム含有硝酸カリウムに含まれるタリウム及び硝酸カリウムを効率的に回収することが可能になり、この回収されたタリウム及び硝酸カリウムを有効利用することが可能になる。
【0014】
前記電気分解手段は、前記溶融塩に挿入される陽極と、前記溶融塩から生じた溶融金属タリウムに接触することにより該溶融金属タリウムを陰極とする電極端子と、これら陽極及び陰極間に直流電流を通電する直流電流通電手段と、を備えてなることが好ましい。
前記溶融炉は、底部に取り出し口が形成された磁性坩堝であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法によれば、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、この溶融塩に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させ、この金属タリウム及びタリウムが分離された溶融塩を個々に回収するので、タリウム含有硝酸カリウムに含まれるタリウム及び硝酸カリウムを簡単な操作で効率的に回収することができる。したがって、タリウム含有硝酸カリウムからタリウム及び硝酸カリウムを個々に回収して、これらを再度有効利用することができる。
また、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融した溶融塩に直流電流を通電するだけでよいので、金属タリウム及び硝酸カリウムを回収するためのコスト及び時間も低く抑えることができる。
【0016】
本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置によれば、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とする溶融炉と、前記溶融塩に直流電流を通電して該溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させる電気分解手段と、を備えたので、タリウム含有硝酸カリウムに含まれるタリウム及び硝酸カリウムを簡単な装置で効率的に回収することができる。したがって、タリウム含有硝酸カリウムから回収したタリウム及び硝酸カリウムを再度有効利用することができる。
また、溶融炉と電気分解手段とを備えた簡素な装置であるから、タリウム及び硝酸カリウムを回収するためのコストも低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法及び回収装置を実施するための最良の形態について、図面に基づき説明する。
なお、本形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置を示す模式図であり、タリウム含有硝酸カリウムから金属タリウム(Tl)及び硝酸カリウム(KNO)を回収する装置の例である。
このタリウム及び硝酸カリウムの回収装置1は、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩Sとする溶融炉2と、溶融塩Sに直流電流を通電して溶融塩Sに溶存するタリウムを金属タリウムMTとして分離させる電気分解装置(電気分解手段)3とを備えている。
【0019】
溶融炉2は、底部11aに取り出し口12が形成された磁性坩堝11と、この取り出し口12に設けられバルブ13により開閉可能とされた取り出し用配管14とにより構成されている。
磁性坩堝11は、内部に誘導加熱装置を備え、貯留されたタリウム含有硝酸カリウムを誘導加熱により加熱・溶融して溶融塩Sとする装置である。
【0020】
電気分解装置3は、溶融塩S中に挿入される棒状の陽極21と、溶融塩Sから分離した溶融金属タリウムMTに接触することにより溶融金属タリウムMTを陰極とする平板状の電極端子22と、これら陽極21と陰極(電極端子22)との間に直流電流を通電する直流安定化電源(直流電流通電手段)23とにより構成されている。
この電極端子22の替わりに、陽極21と同一形状の棒状の陰極を溶融塩S中に挿入し、これら陽極21と棒状の陰極との間に直流電流を通電することとしてもよい。
陽極21及び電極端子22(または棒状の陰極)は、白金、黒鉛、チタン等の電極材料からなる電極であり、この電極材料は、いずれを用いてもよい。
【0021】
次に、上記の回収装置1を用いた本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法について説明する。
本実施形態の回収方法は、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、この溶融塩に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させ、この金属タリウム及びタリウムが分離された溶融塩を個々に回収する方法である。
【0022】
この回収方法で用いられる「タリウム含有硝酸カリウム」は、硝酸カリウム(融点:334.3℃、熱分解温度:400℃、比重:2.109)中にタリウムが硝酸タリウム(融点:206℃、沸点:430℃、比重:5.556)として0.2〜3質量%含まれる硝酸塩であり、硝酸カリウムの純度は概ね97〜99.8質量%である。この硝酸カリウムは、不純物としてNa、Pb、Ca、Fe等が含まれている。
【0023】
次に、この回収方法の各工程について詳細に説明する。
「タリウム含有硝酸カリウムの加熱・溶融」
タリウム含有硝酸カリウムを所定量、溶融炉2の磁性坩堝11に投入し、このタリウム含有硝酸カリウムを誘導加熱により硝酸カリウムの融点(334.3℃)以上かつ熱分解温度(400℃)以下、好ましくは340℃以上かつ360℃以下に加熱する。これにより、タリウム含有硝酸カリウムは、溶融して溶融塩Sとなる。
【0024】
ここで、タリウム含有硝酸カリウムの温度を、硝酸カリウムの融点(334.3℃)以上かつ熱分解温度(400℃)以下としたのは、タリウム含有硝酸カリウムの溶融塩Sの溶融状態を安定に保持するためである。
温度が硝酸カリウムの融点(334.3℃)未満であると、タリウム含有硝酸カリウムが溶融せず、また、熱分解温度(400℃)を超えると、タリウム含有硝酸カリウムの硝酸カリウムが熱分解してしまうので好ましくない。
【0025】
「溶融塩への直流電流の通電」
溶融塩Sに、陽極21と、陰極となる電極端子22とを挿入し、直流安定化電源23によりこれら陽極21と陰極(電極端子22)との間に直流電圧を印加し、陽極21と陰極(電極端子22)との間に直流電流を通電する。
これにより、溶融塩Sのうちの硝酸タリウムは電気分解されて金属タリウムMTとなる。この金属タリウム(比重:11.85、融点:303.5℃、沸点:1487℃)MTの温度は、溶融塩S(比重:2.11)の温度(334.3℃〜400℃)の範囲内にあるので、これら金属タリウムMTと溶融塩Sとの比重差が大きいことにより、溶融した状態で磁性坩堝11の底部11aに沈殿する。
ここで、溶融金属タリウムMTを電極端子22により陰極とし、陽極21と電極端子22との間に直流電圧を印加して電気分解を行うこととすれば、装置をより簡便にすることができる。
【0026】
「金属タリウム及び硝酸カリウムの回収」
磁性坩堝11の底部11aに沈殿している溶融金属タリウムMTを、バルブ13を開放することにより取り出し用配管14から取り出す。次いで、硝酸カリウムも同様に取り出し用配管14から取り出す。
溶融金属タリウムMTを取り出す場合、溶融塩Sの温度を金属タリウムの融点(303.5℃)以上かつ硝酸カリウムの融点(334.3℃)以下に調整すれば、硝酸カリウムが混ざる虞が無くなり、溶融金属タリウムMTのみが効率よく取り出せるので、好ましい。
このようにして回収された金属タリウム及び硝酸カリウムは、必要に応じて所定の処理が施され、再利用される。
【0027】
以上説明したように、本実施形態のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法によれば、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、この溶融塩に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを溶融金属タリウムMTとして分離させ、この溶融金属タリウム及びタリウムが分離された溶融塩である硝酸カリウムを個々に回収するので、タリウム含有硝酸カリウムに含まれるタリウム及び硝酸カリウムを個別に簡単な操作で効率的に回収することができる。したがって、タリウム含有硝酸カリウムからタリウム及び硝酸カリウムを個々に回収して、これらを再度有効利用することができる。
また、溶融金属タリウムMTを取り出し、続いて硝酸カリウムを取り出すことができるので、タリウム及び硝酸カリウムを回収するためのコスト及び時間も低く抑えることができる。
【0028】
本実施形態のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置によれば、タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩Sとする溶融炉2と、溶融塩Sに直流電流を通電して溶融塩Sに溶存するタリウムを金属タリウムMTとして分離させる電気分解装置3とにより構成したので、タリウム含有硝酸カリウムに含まれるタリウム及び硝酸カリウムを簡単な装置で効率的に回収することができる。したがって、タリウム含有硝酸カリウムから回収したタリウム及び硝酸カリウムを再度有効利用することができる。
また、装置の構成が簡単であるから、溶融金属タリウム及び硝酸カリウムを回収するためのコストも低く抑えることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0030】
「実施例1」
タリウム含有量が7500ppmのタリウム含有硝酸カリウム500gを溶融炉2の磁性坩堝11内に投入し、このタリウム含有硝酸カリウムを誘導加熱により400℃に加熱し、溶融塩Sとした。
次いで、溶融塩Sに、幅10mm×長さ100mm×厚み1mmの一対の白金電極を陽極21及び陰極として、10cm離して挿入し、直流安定化電源23によりこれら陽極21と陰極との間に3.4Vの直流電圧を印加し、定電流制御により0.5Aの直流電流を通電した。
【0031】
この電気分解により、金属状物質が磁性坩堝11の底部11aに沈殿した。
磁性坩堝11の底部11aに沈殿している溶融金属状物質を、バルブ13を開放することにより取り出し用配管14から取り出し、その後、室温まで除冷し、実施例1の金属状物質を得た。
この金属状物質の同定を粉末X線回折(XRD)により行ったところ、金属タリウムであることが確認された。図2に、実施例1の金属状物質の粉末X線回折(XRD)図形を示す。
【0032】
次いで、取り出し用配管14から溶融している透明状物質を取り出し、その後、室温まで除冷し、実施例1の白色物質を得た。
この白色物質の同定を粉末X線回折(XRD)により行ったところ、結晶性の良い硝酸カリウムであることが確認された。図3に、実施例1の白色物質の粉末X線回折(XRD)図形を示す。
この白色物質中のタリウムの含有量をIPC−AESにより分析したところ、745mg/kgであり、当初のタリウム含有硝酸カリウムと比べてタリウムの含有量が約1/10になっていることが分かった。
【0033】
「実施例2」
タリウム含有量が7500ppmのタリウム含有硝酸カリウム500gを溶融炉2の磁性坩堝11内に投入し、このタリウム含有硝酸カリウムを誘導加熱により400℃に加熱し、溶融塩Sとした。
次いで、この溶融塩Sの中に、別途用意した金属タリウムを静かに沈めた。この金属タリウムは、溶融して磁性坩堝11の底部に沈降した。
次いで、この磁性坩堝11の底部に溶融している金属タリウムを電極端子22を介して陰極とし、直流安定化電源23によりこれら陽極21と電極端子22との間に3.4Vの直流電圧を印加し、定電流制御により0.5Aの直流電流を通電した。
この電気分解により、金属状物質が磁性坩堝11の底部11aに沈殿した。
【0034】
磁性坩堝11の底部11aに沈殿している溶融金属状物質を、バルブ13を開放することにより取り出し用配管14から取り出し、その後、室温まで除冷し、実施例1の金属状物質を得た。
この金属状物質の同定を粉末X線回折(XRD)により行ったところ、金属タリウムであることが確認された。
【0035】
次いで、取り出し用配管14から溶融している透明状物質を取り出し、その後、室温まで除冷し、実施例1の白色物質を得た。
この白色物質の同定を粉末X線回折(XRD)により行ったところ、結晶性の良い硝酸カリウムであることが確認された。
【0036】
図4は、磁性坩堝内の溶融塩から採取した試料中の通電時間(秒)によるタリウム濃度の変化を示す図である。
図4によれば、通電前の溶融塩中のタリウム濃度は7500mg/kg、1000秒通電後の溶融塩中のタリウム濃度は4200mg/kg、2000秒通電後の溶融塩中のタリウム濃度は2300mg/kgであり、通電時間に反比例して溶融塩中のタリウム濃度が減少していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1の金属状物質の粉末X線回折(XRD)図形を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の白色物質の粉末X線回折(XRD)図形を示す図である。
【図4】磁性坩堝内の溶融塩中のタリウム濃度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 タリウム及び硝酸カリウムの回収装置
2 溶融炉
3 電気分解装置
11 磁性坩堝
11a 底部
12 取り出し口
13 バルブ
14 取り出し用配管
21 棒状の陽極
22 平板状の電極端子
23 直流安定化電源
S 溶融塩
MT 溶融金属タリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タリウム含有硝酸カリウムからタリウム及び硝酸カリウムを回収する方法であって、
前記タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とし、この溶融塩に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させ、この金属タリウム及びタリウムが分離された溶融塩を個々に回収することを特徴とするタリウム及び硝酸カリウムの回収方法。
【請求項2】
前記タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融した溶融塩に陽極及び陰極を挿入し、これら陽極及び陰極間に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして沈殿させることを特徴とする請求項1記載のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法。
【請求項3】
前記溶融塩から分離した溶融金属タリウムを陰極とし、この陰極と前記陽極との間に直流電流を通電することにより、この溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして沈殿させることを特徴とする請求項2記載のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法。
【請求項4】
前記溶融塩の温度は、硝酸カリウムの融点以上かつ熱分解温度以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のタリウム及び硝酸カリウムの回収方法。
【請求項5】
タリウム含有硝酸カリウムからタリウム及び硝酸カリウムを回収する装置であって、
前記タリウム含有硝酸カリウムを加熱・溶融して溶融塩とする溶融炉と、
前記溶融塩に直流電流を通電して該溶融塩に溶存するタリウムを金属タリウムとして分離させる電気分解手段と、
を備えてなることを特徴とするタリウム及び硝酸カリウムの回収装置。
【請求項6】
前記電気分解手段は、前記溶融塩に挿入される陽極と、前記溶融塩から生じた溶融金属タリウムに接触することにより該溶融金属タリウムを陰極とする電極端子と、これら陽極及び陰極間に直流電流を通電する直流電流通電手段と、
を備えてなることを特徴とする請求項5記載のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置。
【請求項7】
前記溶融炉は、底部に取り出し口が形成された磁性坩堝であることを特徴とする請求項5または6記載のタリウム及び硝酸カリウムの回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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