説明

タンカー船

【課題】船尾部や機関区域を長くすることなく、非常用消火ポンプを配置することができ、また、この非常用消火ポンプのための海水取り入れ口を航行時の喫水線よりも十分に下に配置できて、十分なサクションヘッドを確保でき、非常時に海水を機関区域に確実に供給することができるタンカー船を提供する。
【解決手段】機関区域4より前方のタンク11、12,13内に安全区画に形成した設置区画20を設け、該設置区画20に非常用消火ポンプ25を設置すると共に、該非常用消火ポンプ25のための海水取り入れ口26を船倉内底板7より下の区画に配置して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常用消火ポンプを機関区域より前方に配置したタンカー船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶では、機関区域以外の船倉等の消火を行うためには、機関区域内等に設けた消火用ポンプで消火作業を行い、機関区域内の火災に対しては、機関区域外に配置された非常用消火ポンプ(Emergency Fire Pump)で消火を行うようになっている。
【0003】
これは、船舶の安全性を確保するための「海上人命安全条約(SOLAS)第10条規則、1.1.3.2.1区画の位置」に規定されている「非常用消火ポンプのある区域は、A類機関区域又は消火ポンプのある区域の境界に隣接してはならない。」の規定に従っているためである。 この規定に従うために、従来技術では、図15及び図16に示すように、機関区画4の後部隔壁4aよりも後方に配置された非常用消火ポンプ室20内に非常用消火ポンプ25を配置している。しかしながら、船型の形状の研究の進展に伴い、性能上最重要項目である船速との関係を考慮して船尾部31の喫水線以下の船幅が狭くなり、その上方も狭くなる傾向にある。
【0004】
そのため、非常用消火ポンプ25を比較的船幅が広くなる船尾部31の上方に配置しようとすると、非常用消火ポンプ25を配置する床面が喫水線30よりも上方に配置され、床面が喫水線30と離れ過ぎてしまう傾向にあり、サクションヘッド不足に陥り易くなるという問題や、非常用消火ポンプ25の海水取り入れ口(シーチェスト)26が配置される部分が、プロペラシャフトセンター32よりも上方に限定され、バラスト時においては十分な深度を確保するのが難しいという問題が生じる。
【0005】
これらの問題を解決しながら、非常用消火ポンプ室20Xを船尾部31に設けるようとすると、船尾部の線図を広げることとなると共に船尾部31を長手方向に延ばす必要が生じ、船速に影響を与えると同時に船長が長くなるという問題がある。
【0006】
なお、これらの問題を解決するために、船舶の機関区域内に所定の要件を満たす防火構造の区画を設けて、この区画内に機関区域を消火するための非常用消火ポンプを配置する船舶が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、このように比較的船幅が広い機関室内に非常用消火ポンプを設けようとすると、機関室内に、非常用消火ポンプ室の区画だけではなく、周囲に安全区画を設ける必要が生じ、多様な機器が配置され狭くなっている機関室を拡張する必要が生じ、この場合にも、機関室が長くなり、船長が長くなるという問題が生じる。
【0008】
言い換えれば、タンカー船型の進歩により、船尾形状が狭くなり、そのため、非常用消火ポンプをその性能、能力を十分に発揮できるように配置しようとすると、船長が長くなるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−149798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、船尾部や機関区域を長くすることなく、更には船尾形状の肥脊により影響されることなく、非常用消火ポンプを配置することができ、また、この非常用消火ポンプのための海水取り入れ口を航行時の喫水線よりも十分に下に配置できて、十分なサクションヘッドを確保でき、非常時に海水を機関区域に確実に供給することができるタンカー船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明のタンカー船は、機関区域より前方のタンク内に安全区画に形成した設置区画を設け、該設置区画に非常用消火ポンプを設置すると共に、該非常用消火ポンプのための海水取り入れ口を船倉内底板より下の区画に配置したタンカー船として構成する。この安全区画は、船舶用の規則などにより、原則として、「液体貨物を運送するタンカーなどで、貨物油タンク、貨物油管内部、貨物油タンクに隣接する区画、貨物油タンク上の暴露甲板上2.4mまでの区画以外の区画である」と定義される。なお。この安全区画内の機器は防爆仕様を回避することが可能となり、価格的にも安価となる。
【0012】
この構成によれば、非常用消火ポンプを配置できる設置区画を機関区域より前方のタンク区域内に新たに設けることで、船尾部分や機関室部分を長くすることなく、更には船尾形状の肥脊により影響されることなく、非常用消火ポンプを配置することができる。
【0013】
また、この非常用消火ポンプのための海水取り入れ口(シーチェスト)をタンクの船倉内底板より下の区画に設けることで、海水取り入れ口を航行時の喫水線よりも十分に下にすることができて、十分なサクションヘッドを確保でき、非常時に海水を機関区域に確実に供給できるようになる。
【0014】
上記のタンカー船において、前記設置区画をバラストタンク内にオイルタンクと隣接させずに設けると共に、前記設置区画の一部を船側外板又は横隔壁の少なくとも一方で構成すると、タンカー船においては、非常用消火ポンプは安全区画の内部に配置する必要があるが、オイルタンクと隣接させずに、バラストタンク内に非常用消火ポンプを配置するための設置区画を設けると、この設置区画の外側にはオイルが無いので、そのまま安全区画とすることができる。
【0015】
そのため、設置区画を安全区画にするための周囲のコファダムやボイドスペースと呼ばれる空間部が不要になり、専用スペースを小さくすることができる。
【0016】
更に、設置区画の一部を船側外板又は横隔壁の少なくとも一方と兼用することで、その分の設置区画用の仕切り板が不要になるので、工事量が減少すると共に、重量の増加を抑制できる。
【0017】
上記のタンカー船において、前記設置区画をオイルタンク内に設けると共に、仕切り板と外部仕切り板とで前記設置区画の周囲に空間部を形成して安全区画とし、更に、前記設置区画の外部側仕切り板の一部を船側外板又は横隔壁の少なくとも一方で構成すると、衝突等でタンカー船の船側外板が損傷したような場合でも、その損傷が及ばない部分であるオイルタンク内に設置区画が設けられているので、非常用消火ポンプの安全性が著しく向上する。
【0018】
この場合は、設置区画を安全区画にするために、設置区画の周囲に空間部が必要となり、設置区画の仕切り板に加えて外部側仕切り板が必要になるが、この外部側仕切り板の一部を、タンク間の仕切りである縦通隔壁や横隔壁と兼用することで、その分の外部側仕切り板が不要になるので、工事量が減少すると共に、重量の増加を抑制できる。
【0019】
上記のタンカー船において、前記設置区画を上甲板を貫通して設け、前記設置区画の頂部にアクセス用ハッチ若しくは戸を設けると共に、前記設置区画の内部に通行用梯子を設けて構成すると、非常用消火ポンプの保守・点検を効率良く行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のタンカー船によれば、非常用消火ポンプを配置する設置区画を機関区域より前方のタンク内に設けることで、船尾部や機関区域を長くすることなく、更には船尾形状の肥脊により影響されることなく、非常用消火ポンプを配置することができ、また、この非常用消火ポンプのための海水取り入れ口をタンクの船倉内底板より下の区画に設けることで、海水取り入れ口を航行時の喫水線よりも十分に下にすることができて、十分なサクションヘッドを確保でき、非常時に海水を機関区域に確実に供給できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のタンカー船における非常用消火ポンプの配置先のタンクを示した正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】非常用消火ポンプ用の安全区画をサイドバラストタンク内に配置した様子を示す斜視図である。
【図5】図4の側面図である。
【図6】図4の正面図である。
【図7】図4の平面図である。
【図8】本発明に係る第2の実施の形態のタンカー船における非常用消火ポンプの配置先のタンクを示した正面図である。
【図9】図8の側面図である。
【図10】図9の平面図である。
【図11】非常用消火ポンプ用の安全区画をセンターオイルタンク内に配置した様子を示す斜視図である。
【図12】図11の側面図である。
【図13】図11の正面図である。
【図14】図11の平面図である。
【図15】従来技術における非常用消火ポンプの船尾部への配置を示す側面図である。
【図16】図15の非常用消火ポンプの船尾部への配置を船尾側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係る実施の形態のタンカー船について説明する。図1〜図14に示すように、本発明に係る実施の形態のタンカー船1A、1Bは、上甲板2の上に船橋を有する居住区8を備え、上甲板2と、その側方の船側外板3と、船底板6を有して構成される。この船底板6の上側には船倉内底板7が設けられ、オイルタンク11、12の下には二重底14が形成されている。
【0023】
また、機関室を有する機関区画4より前では、船長方向(船の前後方向:X方向)に延びる縦通隔壁11a、12aにより、貨物のオイルを積載するためのセンターオイルタンク11とサイドオイルタンク12と、バラスト水を積載するためのサイドバラストタンク13に区切られている。更に、このオイルタンク11、12及びサイドバラストタンク13は、船幅方向(船の左右方向:Y方向)に延びる横隔壁5によって区切られている。
【0024】
そして、機関区域4より前方のタンク11,12,13内に非常用消火ポンプ25を設置するための設置区画20を新たに設け、この設置区画20内の船倉内底板7上に非常用消火ポンプ25を配置する。それと共に、この非常用消火ポンプ25のための海水取り入れ口(シーチェスト)26を船倉内底板7より下の区画に配置して構成する。
【0025】
図1〜図7に示す第1の実施の形態のタンカー船1Aの構成では、設置区画20を、オイルタンク11、12と隣接させずに、バラストタンクの一つであるサイドバラストタンク12内に設けて構成する。この設置区画20は、周囲にはオイルが無いので、一重の仕切り板21を周囲に設けてサイドバラスト12との間を仕切って設けるだけで、安全区画(区画内の機器を防爆仕様にしなくて済む区画)となるが、図1〜図7に示す構成では、船長方向(X方向)においては、後方の仕切り板21を横隔壁5で兼用し、船幅方向(Y方向)においては、右舷側の仕切り板21を船側外板3で兼用する。
【0026】
この構成によれば、設置区画20の周囲に新たな空間部を設ける必要が無いので、その分、設置区画20の構造が単純化する。更に、仕切り板21を横隔壁5や船側外板3で兼用すると更に仕切り板21の一部が不要になる。従って、工事量が減少すると共に重量の増加を抑制できる。また、設置区画20を安全区画とするための周囲の空間部は不要になるので、船内スペースを有効利用できる。
【0027】
そして、この設置区画20の下部に非常用消火用ポンプ25を配置し、配管25aをこの設置区画20から消火作業に必要な部分まで配管を延ばすと共に、非常用消火用ポンプ25と海水取り入れ口26を配管26aで連結する。
【0028】
更に、設置区画20を、上甲板2を貫通して設け、設置区画20の頂部にアクセス用ハッチ(若しくは戸)29を、防爆仕様が必要とならないように、上甲板2より上の高さhが2.4m以上になるように設けると共に、設置区画20の内部の上側区画27に通行用梯子28を設ける。また、この設置区画20に、保守点検に必要な換気設備や照明設備を設ける。この構成により、非常用消火ポンプ25の保守・点検を効率良く行うことができるようになる。
【0029】
また、図8〜図14に示す第2の実施の形態のタンカー船1Bの構成では、設置区画20をオイルタンク11、12に設ける。この図8〜図14の構成では、中央のセンターオイルタンク11の一つの内部に設置区画20を設けているが、両脇のサイドオイルタンク12の一つの内部に設置区画20を設けることもできる。この設置区画20はオイルタンク11、12内に有り、外側にオイルが入るため、安全区画とするために、仕切り板21の外側に外部側仕切り板22を設けて、仕切り板21と外部仕切り板22の間に空間部23を形成する。
【0030】
そして、図8〜図14に示す構成では、船長方向(X方向)においては、後方の外部側仕切り板22を横隔壁5で兼用し、船幅方向(Y方向)においては、右舷側の外部仕切り板22を船側外板3で兼用する。その他の海水取り入れ口26、上側区画27、通行用梯子28、アクセス用ハッチ29等の構成は、第1の実施の形態のタンカー船1Aの構成と同じである。
【0031】
この第2の実施の形態のタンカー船1Bの構成では、設置区画20の周囲に空間部23を設ける必要があるが、この構成にすると、衝突等でタンカー船1Bの船側外板3が損傷するような場合でも、オイルタンク11、12内に設けた設置区画20には、その損傷が及ばないので、非常用消火ポンプ25の安全性を著しく向上させることができる。
【0032】
上記の構成のタンカー船1A、1Bによれば、非常用消火ポンプ25を配置する設置区画20を、機関区域4より前方のタンク区域11、12、13内に設けることで、船尾部や機関区域4を長くすることなく、非常用消火ポンプ25を配置することができる。また、この非常用消火ポンプ25のための海水取り入れ口26をタンク11、12、13の船倉内底板7より下の区画に設けることで、海水取り入れ口26を航行時の喫水線30よりも十分に下にすることができて、十分なサクションヘッドを確保でき、非常時に海水を機関区域4に確実に供給できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のタンカー船は、線図を修正せずに、性能上最重要項目である船速も減少せず、船尾部や機関区域を長くすることなく、更には船尾形状の肥脊により影響されることなく、非常用消火ポンプを配置することができ、また、この非常用消火ポンプのための海水取り入れ口を航行時の喫水線よりも十分に下に配置できて、十分なサクションヘッドを確保でき、非常時に海水を機関区域に確実に供給することができるので、多くのタンカー船として利用できる。
【符号の説明】
【0034】
1A、1B、1X タンカー船
2 上甲板
3 船側外板
4 機関区域
5 横隔壁
6 船底板
7 船倉内底板
11 センターオイルタンク
11a、12a 縦通隔壁
12 サイドオイルタンク
13 サイドバラストタンク
14 二重底
20 設置区画
21 仕切り板
22 外部側仕切り板
23 空間部
25 非常用消火ポンプ
26 海水取り入れ口(シーチェスト)
27 上側区画
28 通行用梯子
29 アクセス用ハッチ
30 喫水線
31 船尾部
32 プロペラシャフトセンター
h 上甲板より上の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関区域より前方のタンク内に安全区画に形成した設置区画を設け、該設置区画に非常用消火ポンプを設置すると共に、該非常用消火ポンプのための海水取り入れ口を船倉内底板より下の区画に配置したタンカー船。
【請求項2】
前記設置区画を、バラストタンク内に安全区画とするため、オイルタンクと隣接させずに設けると共に、前記設置区画の一部を船側外板又は横隔壁の少なくとも一方で構成したことを特徴とする請求項1に記載のタンカー船。
【請求項3】
前記設置区画をオイルタンク内に設けると共に、仕切り板と外部仕切り板とで前記設置区画の周囲に空間部を形成して安全区画とし、更に、前記設置区画の外部側仕切り板の一部を船側外板又は横隔壁の少なくとも一方で構成したことを特徴とする請求項1に記載のタンカー船。
【請求項4】
前記設置区画を上甲板を貫通して設け、前記設置区画の頂部にアクセス用ハッチ若しくは戸を設けると共に、前記設置区画の内部に通行用梯子を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタンカー船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−1358(P2013−1358A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137767(P2011−137767)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)