説明

タングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法

【課題】本発明の目的は、陰イオン交換樹脂を用いて、ポリタングステン酸イオンを経由するにもかかわらず、塩の析出を伴うことなく極めて効率的にタングステン酸アンモニウム水溶液を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の製造方法は、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液のpHを3.5〜8に調整することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を製造する第1工程と、該ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させる第2工程と、該第2工程を経た流出液を回収する第3工程と、該陰イオン交換樹脂に対して、8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる第4工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などを結合金属とするとともにTiやTaの炭化物が性能改善のために添加された超硬合金は、硬度や耐摩耗性に優れているため、切削工具、耐摩工具、鉱山工具などとして各種分野で広範囲に使用されている。現在、このような各種分野で使用済みとなった工具のスクラップが多量に発生しており、そのリサイクルが注目されている。
【0003】
中でも、タングステンは希少資源であり、そのような工具中に80質量%程度含有されていることから、工具スクラップ中からタングステンを回収する方法が種々提案されている。たとえば、このようなスクラップを硝酸ナトリウムで溶解し、水溶性塩としてのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を一旦得た後、これをタングステン酸アンモニウム((NH42WO4)に変換し、最終的にタングステンカーバイドを回収している。
【0004】
タングステン酸アンモニウムは、これを水溶液からの結晶化により高純度化される。その結晶を仮焼、還元、炭化すれば容易にタングステンカーバイドを得ることができるため、上記のようなリサイクル工程において重要な物質とされている。
【0005】
このようなタングステン酸アンモニウムを生成する方法として、たとえばタングステン酸ナトリウム水溶液をCl形強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させた後、塩化アンモニウムおよびアンモニア含有水溶液で溶離させることにより、タングステン酸アンモニウム水溶液を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−150251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タングステン酸イオン(WO42-)は、ポリタングステン酸イオン(本発明においては後述のようにHW6215-等の総称とする)に比し、同一濃度の水溶液では陰イオン交換樹脂に吸着させる場合の貫流容量が低いことから、吸着時の諸条件を厳密に制御しなければならないとともに、交換効率が低いものであった。しかも、タングステン酸イオンはポリタングステン酸イオンに比し、貫流容量がその溶液濃度に大きく依存し、100g/Lを超える高濃度では貫流点までの吸着量が少なくなるので30〜50g/L程度という比較的低濃度で吸着させる必要があった。このため、タングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させてアンモニウムイオンを含む溶離液を接触させてタングステン酸アンモニウムを得ようとすると、水の使用量が極めて多量になるという問題があった。
【0008】
これに対して、ポリタングステン酸イオンは、上記のようなタングステン酸イオンに対するメリットが存することに加え、さらに陰イオン交換樹脂の交換基当量(所定数の交換基に吸着できるタングステンのモル数)で比較するとタングステン酸イオンの2.4倍(ポリタングステン酸イオンがHW6215-の場合、因みにH212406-の場合は4倍になる)のタングステンを吸着することができるため、陰イオン交換樹脂による交換効率を大幅に向上させることが期待できる。
【0009】
しかしながら、ポリタングステン酸イオンは陰イオン交換樹脂に吸着後、アンモニウムイオンを含んだ溶離液で溶離するとポリタングステン酸イオンのアンモニウム塩が多量に析出するという問題があった。陰イオン交換樹脂を充填した陰イオン交換樹脂塔(樹脂充填塔)内でこのような塩(結晶)が析出すると、陰イオン交換樹脂や塔を損傷させたり、塔内が閉塞されてしまう(所謂目詰まり)ため、ポリタングステン酸イオンには上記のような種々のメリットが期待されるものの、これを工業的に用いて陰イオン交換樹脂によりタングステン酸アンモニウムを得ることは極めて困難であると考えられていた。
【0010】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、陰イオン交換樹脂を用いてタングステン酸アルカリ金属塩水溶液からタングステン酸アンモニウム水溶液を製造するに際し、ポリタングステン酸イオンを経由するにもかかわらず、塩(結晶)の析出を伴うことなく極めて効率的にタングステン酸アンモニウム水溶液を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタングステン酸アンモニウム((NH42WO4)水溶液の製造方法は、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液からタングステン酸アンモニウム水溶液を製造する方法であって、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液のpHを3.5〜8に調整することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を製造する第1工程と、該ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させる第2工程と、該第2工程を経た流出液を回収する第3工程と、ポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L(モル/リットル)以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解し、陰イオン交換樹脂から分離されたタングステン酸イオンを溶離させる第4工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
また、本発明の製造方法においては、上記3工程において回収した流出液を上記第4工程を行なう前に、pHを調整しながら3.5〜8に保ちつつ、陰イオン交換樹脂に繰り返し接触させることにより、上記流出液中のポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させることができる。
【0013】
ここで、本発明の製造方法は、上記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた後、上記第4工程を経た上記陰イオン交換樹脂に対して、上記第1工程で得られたポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を用いて、さらに上記第2工程〜上記第4工程と同様の操作をこの順で繰り返して行なうものとすることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法は、上記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた後、上記アンモニア水を接触させた後の上記陰イオン交換樹脂に対して、陰イオン交換樹脂に接触させた後の流出液を接触させることにより、該流出液中のポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させる第5工程と、該第5工程を経た流出液を回収する第6工程と、該第5工程によりポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる第7工程と、をこの順で1回以上繰り返して行なうものとすることができる。
【0015】
また、本発明の製造方法は、上記のいずれかに記載の製造方法における最終工程の後、該最終工程を経た上記陰イオン交換樹脂に対して、塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液を接触させることにより、タングステン酸イオンを溶離させる第8工程を含むものとすることができる。
【0016】
この第8工程を経過した後は、上記陰イオン交換樹脂がCl型の陰イオン交換樹脂となるため、上記の第2工程の状態に戻ってポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させることができ、それ以降の工程を適宜繰り返し行なうようにしてもよい。
【0017】
上記混合水溶液は、塩化アンモニウム1molに対してアンモニアを0.25〜5molの比率で含むものとすることが好ましい。
【0018】
一方、上記第4工程において、上記アンモニア水を上記陰イオン交換樹脂に接触させる際の空間速度SVは、7hr-1以上であることが好ましい。また、上記第4工程において、上記アンモニア水を上記陰イオン交換樹脂に接触させる際に、上記陰イオン交換樹脂に対して上記アンモニア水を複数箇所から供給することにより、該アンモニア水を接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、上記の通りの構成を有することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液、すなわちポリタングステン酸イオンを経由するにもかかわらず、塩(結晶)の析出を伴うことなく極めて効率的にタングステン酸アンモニウム水溶液を製造できるという優れた効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第4工程および第8工程を実施した場合のタングステン濃度と溶離率を示したグラフである。
【図2】樹脂充填塔内の樹脂高さおよび空間速度SVと、結晶析出の有無との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、便宜上、以下のように第1実施態様〜第6実施態様に分けて説明する。
【0022】
<第1実施態様>
本発明に係るタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液からタングステン酸アンモニウム水溶液を製造する方法であって、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液のpHを3.5〜8に調整することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を製造する第1工程と、該ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させる第2工程と、該第2工程を経た流出液を回収する第3工程と、ポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンがタングステン酸イオンに分解されると同時にタングステン酸イオンを溶離させる第4工程と、を含むことを特徴としている。本発明の製造方法は、このような第1工程〜第4工程を少なくとも含む限り、他の任意の工程を含むことができる。以下、各工程毎に説明する。
【0023】
<第1工程>
本発明の第1工程は、原料であるタングステン酸アルカリ金属塩水溶液のpHを3.5〜8に調整することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を製造する工程である。タングステン酸アルカリ金属塩水溶液は、そのpHが8を超える領域ではタングステン酸イオンが安定して存在し得るが、そのpHが8以下となる領域ではタングステン酸イオンに換わってポリタングステン酸イオンが安定して存在する領域となる。本発明の第1工程は、この特性を利用したものであり、タングステン酸イオンからポリタングステン酸イオンを生成する工程である。
【0024】
ここで、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液とは、タングステン酸アルカリ金属塩の水溶液であって、少なくともアルカリ金属イオンとタングステン酸イオン(WO42-)とを主成分として含む限り、他の任意のイオンや化合物を含んでいても差し支えない。タングステン酸アルカリ金属塩としては、たとえばタングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム等を挙げることができる。よって、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液を形成する上記アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等を挙げることができる。なお、上記金属の種類は、ナトリウムやカリウムのみに限られるものではない。
【0025】
このようなタングステン酸アルカリ金属塩水溶液に含まれるタングステン濃度は特に限定されないが、通常10〜140g/L(グラム/リットル)程度とすることが好ましい。10g/L未満の場合、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液の調製に使用する水の量が多量になってしまい、140g/Lを超える場合は陰イオン交換樹脂を充填した後述の樹脂充填塔の長さを長くする必要がある、もしくは結晶が析出してしまうためである。このようなタングステン酸アルカリ金属塩水溶液は、上述のような工具等のリサイクル工程で生成されるものが想定されるが、これのみに限られるものではなく、タングステンを含んだ原料鉱石から生成されるものであっても差し支えない。
【0026】
一方、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液とは、ポリタングステン酸アルカリ金属塩の水溶液であって、少なくともアルカリ金属イオンとポリタングステン酸イオンとを主成分として含む限り、他の任意のイオンや化合物を含んでいても差し支えない。ポリタングステン酸アルカリ金属塩としては、たとえばポリタングステン酸ナトリウム、ポリタングステン酸カリウム等を挙げることができる。よって、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液に含まれる上記アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等を挙げることができる。なお、上記金属の種類は、ナトリウムやカリウムのみに限られるものではない。
【0027】
本発明でいう「ポリタングステン酸イオン」とは、タングステン(W)を含んだポリ酸イオンを意味し、たとえばHW6215-、H212406-、W124110-等を挙げることができる。このようなポリタングステン酸イオンは、通常、pHが6〜8の領域ではHW6215-が安定して存在し、pHが4〜6の領域ではW124110-が安定して存在し、pHが4未満ではH212406-が安定して存在する傾向を示すが、これらのイオンを各単独で含んでいてもよいし、2種以上のイオンを含んでいても良い。
【0028】
なお、上記pHは、3.5〜8に調整することが必要であり、より好ましくは6〜7.5に調整することが好適であり、さらに好ましくは、6.75〜7.25に調整することが好適である。pHが8を超えるとタングステン酸イオンが安定して存在するため好ましくなく、一方、pHが3.5未満になるとタングステン酸イオンを溶離させる工程において吸着量に対する溶離率が低下するため好ましくない。
【0029】
このようなpHは、塩酸、硝酸、硫酸等によって調整することが可能であるが、酸である限りこれらの化合物のみに限られるものではない。
【0030】
なお、本発明の第1工程において、原料であるタングステン酸アルカリ金属塩水溶液としてタングステン酸ナトリウム水溶液を用いた場合には、pHの調整によりポリタングステン酸ナトリウム水溶液が製造される。
【0031】
<第2工程>
本発明の第2工程は、上記の第1工程で製造されたポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させる工程である。ここで、本発明において用いられる陰イオン交換樹脂は、従来公知の陰イオン交換樹脂であれば特に限定することなく用いることができる。たとえば、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂等を挙げることができ、OH型であってもよいし、Cl型であってもよい。特に、イオン交換反応によって水溶液のpHに影響を及ぼさず、無害であり、樹脂に対する吸着順位が適切であることから、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
なお、このような陰イオン交換樹脂には、一般に「ゲル型」と呼ばれるものと、「ポーラス型」と呼ばれるものがあるが、吸着されるポリタングステン酸イオンはタングステン酸イオンに比べて分子量が大きくなることから、「ゲル型」の陰イオン交換樹脂を用いた場合には樹脂の表面部分にのみ吸着し、樹脂の内部まで浸入することが困難となる傾向を示す。このため、吸着効率を考慮すると、「ポーラス型」の陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
なお、この第2工程は、通常、陰イオン交換樹脂が充填されたカラムや、充填塔(以下、「樹脂充填塔」と記す)に対して、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を通液することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることができる。この場合、樹脂充填塔は、単独(すなわち単塔)であってもよいし、2以上の樹脂充填塔が連続したものであってもよい。また、そのような樹脂充填塔は、通常、内径2〜500cmの管(カラム)に、陰イオン交換樹脂を15〜1000cmの高さ(長さ)で充填したものとすることができる。
【0034】
なお、本発明の第2工程において、かかる液体を上記樹脂充填塔に通液させた後、当該樹脂充填塔を通過した当該液体を回収し、再度その回収した液体を上記樹脂充填塔に通液するという操作を1回または2回以上繰り返す操作を行なってもよい。勿論、このような回収した液体を再度通液させるという操作を伴わない態様が含まれることは言うまでもない。
【0035】
また、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に通液させる速度は、特に限定されるものではないが、空間速度SVが0.5〜10hr-1で供給することが好ましく、0.8〜5hr-1で供給することがより好ましい。
【0036】
<第3工程>
本発明の第3工程は、上記の第2工程を経た流出液を回収する工程である。ここで、第2工程を経た流出液とは、陰イオン交換樹脂を充填した樹脂充填塔に通液されたポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液が当該樹脂充填塔を通過した後の溶液であって、陰イオン交換樹脂に吸着されずに残存するポリタングステン酸イオンを含有している。上記の第2工程において、回収した液体を再度通液させる操作を行なう場合は、複数回の通液後において最終的に樹脂充填塔を通過した液体が流出液となる。以下、特に断らない限り、他の工程における流出液もこれと同様の意味で用いるものとする。また、例えば陰イオン交換樹脂にCl型陰イオン交換樹脂を使用した場合、最初の通液時にはCl-イオンを含んだ流出液が回収されるが、ポリタングステン酸イオンによる吸着においては、特に影響は無い。
【0037】
このため、このような流出液を回収することにより、後の工程において再度この流出液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、より効率的にポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させることが可能となる。
【0038】
本発明においては、このような流出液に対してpHを調整した後に、次工程に用いるようにすることができる。このようなpHの調整は、第1工程で用いたのと同様の化合物を用いて行なうことができ、pH3.5〜8、好ましくはpH7前後に調整することが好ましい。本発明においては、後述の各実施態様においても各種の流出液が用いられるが、それらの流出液についてもここで説明したのと同様のpHの調整を行なうことができる。
【0039】
なお、本発明においては、第2工程を終了した後において、上記樹脂充填塔に対して純水を通液することにより、陰イオン交換樹脂を洗浄する操作を行なっても差し支えなく、このような洗浄操作により流出する溶液も第2工程を経た流出液に含むものとする。
【0040】
<第4工程>
本発明の第4工程は、ポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる工程である。したがって、この第4工程を経た溶液は、アンモニア水に含まれていたアンモニウムイオン(NH4+)と分解されたタングステン酸イオン(WO42-)とを含有するため、この溶液を回収することは、すなわち、タングステン酸アンモニウム((NH42WO4)水溶液を生成することになる。また、分解されたタングステン酸イオン(WO42-)の一部分は陰イオン交換樹脂に吸着されることになる。本発明において「タングステン酸アンモニア水溶液」とは、少なくともアンモニウムイオン(NH4+)とタングステン酸イオン(WO42-)とを主成分として含む限り、他の任意のイオンや化合物を含んでいても差し支えない。
【0041】
なお、この第4工程は、上記第2工程を経て陰イオン交換樹脂がポリタングステン酸イオンを吸着した状態の樹脂充填塔に対して、アンモニア水を通液することにより、アンモニア水を当該陰イオン交換樹脂に接触させるものとなる。
【0042】
なお、本発明においては、以下特に断らない限り、陰イオン交換樹脂に対して液体を接触させる操作は、このように樹脂充填塔に対してその液体を通液させることにより行なうものとする。
【0043】
ここで、ポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に接触させられるアンモニア水は、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むことを要する。これにより、ポリタングステン酸イオンよりもタングステン酸イオンが安定して存在し得るpH環境が提供されるとともに、ポリタングステン酸イオンがタングステン酸イオンに分解されると同時にタングステン酸イオンを溶離することを可能としている。
【0044】
このようなアンモニア水は、より好ましくは10mol/L以上のアンモニアを含むことが好適である。アンモニア水のアンモニア濃度が8mol/L未満の場合、タングステン酸イオンが安定して存在し得るpH環境を十分に提供することができず、タングステン酸イオンを安定して溶離することができないことから、ポリタングステン酸アンモニウムの結晶を析出することとなる。また、その上限は特に限定されないが、常温でのアンモニア蒸気圧が高く揮発が激しいため利用しにくいとの理由から20mol/L以下とすることが好ましい。
【0045】
また、この第4工程において、上記アンモニア水を上記陰イオン交換樹脂に接触させる際の空間速度SVは、7hr-1以上であることが好ましく、8hr-1以上であることがより好ましく、10hr-1以上であることがさらに好ましい。上記空間速度SVが7hr-1未満の場合、タングステン酸イオンが安定して存在しうるpH環境を十分に提供することができずポリタングステン酸アンモニウムの結晶を生成する場合がある。また、その上限は特に限定されないが、流速が大きくなりすぎると回収されるタングステン酸アンモニウム水溶液の濃度が低下するため、20hr-1以下とすることが好ましい。
【0046】
また、この第4工程において、上記アンモニア水の通液量は、当該陰イオン交換樹脂の体積の0.3〜3倍とすることが好ましい。0.3倍未満では溶離が不完全となる場合があり、3倍を超えると溶離に関与しないアンモニア水が溶離液に加わることとなり、溶離液中のタングステン濃度が低下する場合がある。
【0047】
また、この第4工程においては、上記アンモニア水を上記陰イオン交換樹脂に接触させる際に、上記陰イオン交換樹脂に対して上記アンモニア水を複数箇所から供給することにより、該アンモニア水を接触させることが好ましい。本発明においては、上記陰イオン交換樹脂は通常カラムや塔に充填された樹脂充填塔の形態をとり、この樹脂充填塔に対して各種の溶液が通液されるものであるが、上記アンモニア水は、この樹脂充填塔に対して複数箇所から供給されることが好ましい。
【0048】
より具体的には、このような樹脂充填塔が1つだけ設けられる場合には、その樹脂充填塔の高さ(長さ)方向にある程度の間隔を開けて複数の供給口を設け、その各供給口からアンモニア水を供給することができる。また、当該樹脂充填塔を複数連結させて設ける場合には、各樹脂充填塔において上記のような複数の供給口を設けることができるとともに、このような態様以外にも、1つの樹脂充填塔と他の樹脂充填塔とを結ぶ配管の途中にそのような供給口を設け、結果的に複数の供給口からアンモニア水を供給するような態様を挙げることができる。
【0049】
このように複数箇所からアンモニア水を供給することにより、陰イオン交換樹脂に吸着しているポリタングステン酸イオンを局所的な偏りなく均一にタングステン酸イオンへと分解することができ、極めて効率的にタングステン酸イオンを溶離させることが可能となる。
【0050】
なお、本発明においては、この第4工程を終了した後において、上記樹脂充填塔に対して純水を通液することにより、陰イオン交換樹脂を洗浄する操作を行なってもよい。
【0051】
<第2実施態様>
本発明のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、上記第4工程の後、上記第4工程を経た上記陰イオン交換樹脂に対して、さらに上記第2工程〜上記第4工程と同様の操作をこの順で繰り返して行なうものとすることができる。すなわち、この第2実施態様においてn回目の第2工程は、(n−1)回目の第4工程を経た陰イオン交換樹脂に対して行なわれるものとなる。
【0052】
この場合、2回目以降の第2工程で用いられるポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液は、上記第1工程で製造されたものを用いるが、当該水溶液は毎回独立して製造してもよいし、複数回のものをまとめて製造し、それを分割して用いてもよい。
【0053】
このように本発明の第2実施態様は、上記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた後に、再度ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、より効率的にタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。上記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた時点では、陰イオン交換樹脂には、初期状態に付いていた陰イオン(Cl型陰イオン交換樹脂の場合はCl-イオン)ではなく、タングステン酸イオン(WO42-)が吸着された状態となっている。すなわち、この第2実施態様は、ポリタングステン酸イオンがタングステン酸イオンよりも優先して陰イオン交換樹脂に吸着されるという特性を利用することで、一旦溶離した後に再度陰イオン交換樹脂に吸着したタングステン酸イオンを、このポリタングステン酸イオンにより効率的に再溶離させ、以ってタングステン酸アンモニウム水溶液の製造効率をより一層向上させたものである。これにより、ポリタングステン酸イオンの吸着によってタングステン酸イオンが溶離され、流出液中にはタングステン酸イオンおよびポリタングステン酸イオンが含まれることになる。当該流出液を再度陰イオン交換樹脂に吸着させる際には、流出液のpHを調整してこのタングステン酸イオンをポリタングステン酸に変換する必要がある。
【0054】
このような本発明の第2実施態様によっても、塩の析出を伴うことなく効率的にタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。
【0055】
なお、各工程とその次の工程との間には、必要に応じ、純水による洗浄操作を行なうことができる。
【0056】
<第3実施態様>
本発明のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、上記第4工程の後、上記アンモニア水を接触させた後の上記陰イオン交換樹脂に対して、上記流出液を接触させることにより、該流出液中のポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させる第5工程と、該第5工程を経た流出液を回収する第6工程と、該第5工程によりポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる第7工程と、をこの順で繰り返して行なうものとすることができる。
【0057】
ここで、上記第5工程は、第1工程で製造されたポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液に換えて流出液を用いることを除き、上記第2工程と同様の操作である。そして、この第5工程に用いられる流出液とは、上記の第3工程で回収された流出液を意味するばかりではなく、次の第6工程で回収された流出液をも意味する。すなわち、第5工程〜第7工程を1回だけ行なう場合は、この第5工程における流出液とは、上記第3工程で回収された流出液を意味するが、第5工程〜第7工程を2回以上繰り返す場合は、初回の第5工程はこの第3工程で回収された流出液を用いるが、2回目以降の第5工程(便宜上n回目と表現する)は順次、(n−1)回目の第6工程で回収した流出液を用いることを意味する。
【0058】
すなわち、第5工程〜第7工程をn回繰り返す場合、n回目の第5工程は、(n−1)回目の第7工程後に、(n−1)回目の第7工程を経た陰イオン交換樹脂に対して(n−1)回目の第6工程で回収した流出液を接触させる工程であり、それに引き続きn回目の第6工程およびn回目の第7工程を行なうものとなる。
【0059】
一方、第6工程は、その前工程である第5工程を経た流出液を回収する工程であるが、上記第3工程と同様の操作である。すなわち、ここでいう流出液とは、上記第5工程後に純水による洗浄操作を行なった場合にはこのような洗浄操作により流出する溶液も含むものとする。
【0060】
また、第7工程は、上記第5工程によりポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる工程であるが、上記第4工程と同様の操作であり、各条件は第4工程と同様の条件が採用される。
【0061】
このように本発明の第3実施態様は、流出液中のポリタングステン酸イオンを再度陰イオン交換樹脂に吸着させることにより、より効率的にタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。上記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた時点では、陰イオン交換樹脂には、初期状態に付いていた陰イオン(Cl型陰イオン交換樹脂の場合はCl-イオン)ではなく、タングステン酸イオン(WO42-)が吸着された状態となっている。すなわち、この第3実施態様は、ポリタングステン酸イオンがタングステン酸イオンよりも優先して陰イオン交換樹脂に吸着されるという特性を利用したものであり、一旦溶離した後に再度陰イオン交換樹脂に吸着したタングステン酸イオンを、このポリタングステン酸イオンにより効率的に再溶離させ、以ってタングステン酸アンモニウム水溶液の製造効率をより一層向上させたものである。
【0062】
これにより、ポリタングステン酸イオンの吸着によってタングステン酸イオンが溶離され、流出液中にはタングステン酸イオンおよびポリタングステン酸イオンが含まれることになる。当該流出液を再度陰イオン交換樹脂に吸着させる際には、流出液のpHを調整してこのタングステン酸イオンをポリタングステン酸に変換する必要がある。
【0063】
<第4実施態様>
本発明のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、上記第1実施態様〜第3実施態様のいずれかに記載の製造方法における最終工程の後、該最終工程を経た上記陰イオン交換樹脂に対して、塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液を接触させることにより、タングステン酸イオンを溶離させる第8工程を含むものとすることができる。
【0064】
ここで、各実施態様の最終工程とは、次の工程を意味する。すなわち、第1実施態様における最終工程とは、第4工程を意味する。また、第2実施態様における最終工程とは、第7工程を意味し、第7工程が2回以上行なわれる場合は最終に行なわれる第7工程を意味する。また、第3実施態様における最終工程とは、複数回行なわれる第4工程のうち、最終に行なわれる第4工程を意味する。
【0065】
このように当該最終工程の後、その最終工程を経た上記陰イオン交換樹脂に対して、塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液を接触させることにより、より効率的に陰イオン交換樹脂からタングステン酸イオンを溶離させることができる。このメカニズムは、次のように考えられる。
【0066】
すなわち、上記の第1実施態様〜第3実施態様の各最終工程においても、タングステン酸イオンは効率的に溶離する。しかし、一旦陰イオン交換樹脂から溶離したタングステン酸イオンは、再度陰イオン交換樹脂に吸着することがある。タングステン酸イオンは、アンモニア水に含まれるOH-よりも優先して陰イオン交換樹脂に吸着する傾向を示すため、陰イオン交換樹脂に吸着したタングステン酸イオンをOH-で溶離させることは困難であり、陰イオン交換樹脂にタングステン酸イオン(WO42-)が吸着した状態になるものと予想される。そこで、タングステン酸イオンよりもさらに優先して陰イオン交換樹脂に吸着する傾向を示す塩素イオン(Cl-)を含む、塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液を当該最終工程を経た陰イオン交換樹脂に接触させると、タングステン酸イオンを安定化させるpH領域を提供しつつ、塩素イオンの作用により陰イオン交換樹脂に吸着しているタングステン酸イオンをより効率的に溶離させることが可能となる。この場合、陰イオン交換樹脂に残存して吸着しているポリタングステン酸イオンが分解してタングステン酸イオンを溶離する可能性もあるが、いずれの場合であっても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0067】
ここで、塩化アンモニウムとアンモニアの混合水溶液は、塩化アンモニウム1molに対してアンモニアを0.25〜5molの比率で含むものとすることが好ましい。より好ましくは、塩化アンモニウム1molに対してアンモニアを0.25〜3molの比率で含むものとすることが好適である。これにより、上記のように陰イオン交換樹脂に吸着しているタングステン酸イオンをより効率的に溶離させることが可能となる。上記比率において、アンモニアが0.25mol未満では、タングステン酸アンモニウムの結晶が析出する場合があり、5molを超えると、溶離挙動に変化はなく、アンモニアの消費量が増加する場合がある。
【0068】
なお、このような混合水溶液中の塩化アンモニウムの濃度は、1.0〜4.7mol/Lとすることが好ましい。1.0mol/L未満では溶離工程で回収されるタングステン酸アンモニウム水溶液の濃度が低下する場合があり、4.7mol/Lを超えると塩化アンモニウムを溶解させるのに時間が掛かり、温度が低下した場合には析出する場合がある。
【0069】
また、この第8工程において、上記塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液の通液量は、当該陰イオン交換樹脂の体積の0.2〜2倍とすることが好ましい。0.2倍未満では通液量が少なく、タングステンの溶離が不完全となる場合があり、2倍を超えると溶離に関与しないアンモニア水が溶離液に加わることとなり、溶離液中のタングステン濃度が低下する場合がある。
【0070】
このような第8工程は、上記の第1実施態様〜第3実施態様の各最終工程と同様にタングステン酸アンモニウム水溶液を生成する工程である。このような第8工程を経た陰イオン交換型樹脂は、Cl型の陰イオン交換樹脂となっている。なお、本発明においては、この第8工程を終了した後において、上記樹脂充填塔に対して純水を通液することにより、陰イオン交換樹脂を洗浄する操作を行なってもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の予備実験および実施例では、タングステン酸アルカリ金属塩およびポリタングステン酸アルカリ金属塩としては、それぞれタングステン酸ナトリウムおよびポリタングステン酸ナトリウムを主成分として含むものを採用した。
【0072】
<予備実験>
本発明の第1工程〜第3工程に関する実験を行なった。
【0073】
すなわち、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を製造し(第1工程)、これをCl型強塩基性陰イオン交換樹脂へ吸着する実験を行なった。以下の表1にその吸着の条件(すなわち、第2工程および第3工程の条件)を示す。
【0074】
表1中、「通液方法」の欄における「貫流点まで」という表記は、貫流点まで通液する方法(すなわち貫流点までタングステン酸ナトリウム水溶液を陰イオン交換樹脂に供給する方法)を示し、貫流点を過ぎてポリタングステン酸イオンを含む流出液が漏出した後にこの流出液を回収し、引き続き再度当該陰イオン交換樹脂に供給する場合は、「循環」と表記した。以下、より具体的に説明する。
【0075】
まず、pHが9以上のタングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えることにより、pHを3〜9に調整した。表1に記載した「pH」はその調整後のpHである。また、pH調整後のポリタングステン酸ナトリウム水溶液の「濃度」(同表1参照)が70〜140g−WO3/L−Resin(WO3換算で陰イオン交換樹脂1リットル当り70〜140g)となるようにその濃度を調整した(第1工程)。
【0076】
次に、pHと濃度を調整することにより各調製したポリタングステン酸ナトリウム水溶液を、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:IRA900J、ローム・アンフド・ハース社製、特に断らない限り以下の実施例において同じ)をガラスカラムに充填した樹脂充填塔(内径26mmのガラスカラムに当該陰イオン交換樹脂を350ml充填したもの)に通液した。「循環」の場合は空間速度SVを6hr-1とし、「貫流点まで」の場合は空間速度SVを2hr-1として通液した。
【0077】
なお、通液量は、「貫流点まで」の場合は流出液中に含まれるポリタングステン酸イオン濃度がWO3換算で100mg/L以上になる点までとし、また「循環」の場合は次のようにした。すなわち、pH3および3.5の場合、陰イオン交換樹脂1L当たりWO3換算で450gのWを含む溶液を通液し、pH6〜9の場合、陰イオン交換樹脂1L当たりWO3換算で280gのWを含む溶液を通液した。「循環」の2回目以降の場合は、回収した流出液を再び同速度で通液した。
【0078】
以上の条件で第1工程〜第3工程を行なった後の、陰イオン交換樹脂に吸着されたポリタングステン酸イオンの吸着量を以下の表1に示す。なお、表1の「吸着量」の単位(g−WO3/L−Resin)は、WO3換算で陰イオン交換樹脂1リットル当りに吸着するg数を示している。
【0079】
以下の表1より明らかな通り、試験条件No.1〜10の10通りの条件で行なった。その結果、pH3.5〜8の場合、「循環」による吸着が「貫流点まで」の吸着に比し、陰イオン交換樹脂への吸着量が高くなることが分かった。
【0080】
また、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の「濃度」を高めると、「循環」による吸着の方が「貫流点まで」の吸着に比し効率的であることが分かった(試験条件No.4、5と、試験条件No.8、9との比較より)。
【0081】
さらに、第1工程の「pH」については、pHが9以上ではポリタングステン酸イオンよりタングステン酸イオンの方が安定であることから、pHが8以下の場合に比しpHが9以上となる場合は陰イオン交換樹脂へのタングステンの吸着量が大幅に低下することが分かった(試験条件No.6、7と、試験条件No.8、10との比較より)。すなわち、第1工程のpHを3.5〜8に設定することが好ましいことを示している。
【0082】
【表1】

【0083】
<実施例1>
本発明の第1実施態様および第4実施態様について実験を行なった。すなわち、タングステン酸ナトリウム水溶液からpH調整により製造したポリタングステン酸ナトリウム水溶液を、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂へ吸着させた後、アンモニウムイオンを含む溶離液を通液して、タングステン酸アンモニウム水溶液を製造する試験を行なった。
【0084】
まず、pHが9以上であるタングステン酸ナトリウム水溶液に対して塩酸を加えてそのpHを3〜8に調整すること(表2の「pH」の欄参照)により、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製した。なお、このポリタングステン酸ナトリウム水溶液は、pH調整後の「濃度」が70g−WO3/L−Resin(WO3換算で陰イオン交換樹脂1リットル当り70g)となるようにその濃度を調整した(第1工程)。
【0085】
次に、上記のようにpHと濃度を調整することにより各調製したポリタングステン酸ナトリウム水溶液を、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂をガラスカラムに充填した樹脂充填塔(内径26mmのガラスカラムに当該陰イオン交換樹脂を350ml充填したもの)に通液した。かかる通液は、空間速度SVを6hr-1として行ない、飽和吸着するまで行なった。なお、樹脂充填塔を通過した流出液のタングステン濃度が第1工程にて作製したタングステン酸ナトリウム水溶液中のタングステン濃度と同程度となった場合に飽和吸着とした。このようにして、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させるとともに、樹脂充填塔を通過した流出液を回収した(第2工程、第3工程)。
【0086】
次いで、上記のようにしてポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、以下の表2の「第4工程」の欄に記載した条件でアンモニア水(「組成」の欄において「NH4OH」に併記されている濃度はアンモニアの濃度を示す)を接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させた(第4工程)。
【0087】
引き続き、表2中、第8工程の欄に条件が記載されているものについては以下の第8工程を実施した。すなわち、上記の第4工程の後、当該第4工程を経た陰イオン交換樹脂に対して、表2の「第8工程」の欄に記載した条件で塩化アンモニウムとアンモニア(本発明においては「NH4OH+NH4Cl」とも表記する)との混合水溶液(「組成」の欄において「NH4OH」に併記されている濃度はアンモニアの濃度を示し、「NH4Cl」に併記されている濃度は塩化アンモニウムの濃度を示す)を接触させることにより、さらにタングステン酸イオンを溶離させた(第8工程)。
【0088】
このように第4工程に続けて第8工程を行なう溶離操作を図1に示す。図1は、実線が溶離率を示し、点線がタングステン濃度(「WO3」に換算)を示している。タングステン濃度は、樹脂充填塔を通過させた後の溶離液中の濃度である。図1中、点線で示された左側のピークが第4工程を示しており、右側のピークが第8工程を示しており、通液量が700ml付近に第4工程から第8工程への移行ポイントがある。
【0089】
なお、第4工程においてアンモニア水は、当該陰イオン交換樹脂の体積の3倍通液し、第8工程において塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液は当該陰イオン交換樹脂の体積の1.5倍通液した。
【0090】
なお、比較実験として、この第4工程および第8工程に換えて、塩化アンモニウム(あるいは硫酸アンモニウム)とアンモニアとの混合水溶液のみで溶離を行なう実験も行なった。表2では、この比較実験における溶離操作を便宜的に「第4工程」の欄に記載した。
【0091】
以上、表2中の試験条件No.116が本発明の第1実施態様の実施例であり、試験条件No.102、103、105〜109が本発明の第4実施態様の実施例である。これに対して、試験条件No.101、104、110〜115が比較例である。なお、比較例の詳細は次のとおりである。
【0092】
試験条件No.101は、第1工程におけるpHを3としたものである。また、試験条件No.104は、第4工程におけるアンモニア水のアンモニア濃度を6mol/Lとしたものである。試験条件No.110〜115は、上記の通り、塩化アンモニウム(あるいは硫酸アンモニウム)とアンモニアとの混合水溶液のみで溶離を行なった比較実験に関するものである。
【0093】
そして、各試験条件No.毎に、上記の溶離操作(第4工程、第8工程)の際、樹脂充填塔内における結晶析出の有無と溶離率(陰イオン交換樹脂に吸着されたタングステン量に対する溶離したタングステン量の比率)を以下の表2に示す。なお、溶離率は、樹脂に吸着したタングステン全量と溶離したタングステン全量の差分により求めた。結晶が析出したものについては、溶離率は求めることができなかった。
【0094】
【表2】

【0095】
表2の結果より明らかなように、第4工程および第8工程として溶離操作を行なった試験条件No.102、103、105〜109は、比較例である試験条件No.110〜115に比し、樹脂充填塔内において結晶を析出させることなく、効率的にタングステン酸イオンを溶離することが可能であった。
【0096】
一方、試験条件No.101は、第1工程におけるpHが3であったため、溶離率が低く、完全に溶離することは困難であることを示した。したがって、第1工程におけるpHの調整の下限は3.5以上とすることが必要であることを示している。また、試験条件No.104は、第4工程におけるアンモニア水のアンモニア濃度が6mol/Lであることから第4工程後に結晶が析出した。このため、第4工程におけるアンモニア水のアンモニア濃度を8mol/L以上とすることが必要であることを示している。
【0097】
一方、試験条件No.116は、溶離率が低くなるものの、結晶を析出することなくタングステン酸イオンを溶離できることが確認された。
【0098】
<実施例2>
本発明の第1実施態様について実験を行ない、樹脂充填塔内の樹脂高さと空間速度SVとの関係を確認した。
【0099】
樹脂充填塔内の樹脂高さと空間速度SVとを種々変更するとともに、以下の条件で第1工程〜第4工程を実施することにより、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をCl型強塩基性陰イオン交換樹脂へ吸着させ、その際の流出液を回収した後、アンモニア水を通液してタングステン酸イオンを溶離させ、その溶離液を回収した。
【0100】
樹脂充填塔は、内径26mmのガラスカラムを用い、以下の表3に記載した「樹脂高さ」となるように当該陰イオン交換樹脂を充填した。なお、各ガラスカラムは、充填した「樹脂高さ」より10cm長いものを用い、ガラスカラム上端と樹脂の充填部分の上端との間隔が7cmとなるように調整した。
【0101】
そして、pH6に調整したポリタングステン酸ナトリウム水溶液(濃度:70g−WO3/L−Resin)を上記のように調整された各樹脂充填塔に通液した。通液の条件は、各樹脂充填塔の樹脂容量に対して空間速度SVが6hr-1となるように調整し、実施例1と同様に飽和吸着するまで通液した。これにより、当該陰イオン交換樹脂にポリタングステン酸イオンを吸着させた(第1工程〜第3工程)。
【0102】
続いて、このポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、16mol/Lのアンモニアを含むアンモニア水を表3に記載した空間速度(「第4工程空間速度SV」の欄参照)で通液することにより、当該陰イオン交換樹脂にアンモニア水を接触させ、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させた(第4工程)。
【0103】
その結果を表3および図2に示す。図2は、表3に示された「樹脂充填塔内の結晶析出の有無」および「送液配管内の結晶析出の有無」と、「樹脂高さ」および「空間速度SV」と、の関係が明確になるようにグラフ化したものである。
【0104】
【表3】

【0105】
表3および図2より明らかなように、樹脂充填塔内の樹脂高さが100cm以上400cm以下の場合においては、第4工程においてアンモニア水を陰イオン交換樹脂に接触させる際の空間速度SVを7hr-1以上にすれば、樹脂充填塔内においても送液配管内においても結晶が析出しないことを確認することができた。
【0106】
なお、100cm以上400cm以下の樹脂高さは、イオン交換樹脂を工業的用途に用いる際に標準となる樹脂高さであるため、7hr-1以上という空間速度SVは特に工業的用途の際に好適となる数値範囲である。樹脂高さが100cm未満となる研究室的用途の場合には、7hr-1未満という空間速度SVでアンモニア水を接触させてもアンモニアの濃度を8mol/L以上とする限り、結晶の析出を防止することができる。
【0107】
<実施例3>
本発明の第4実施態様を実施するに際し、第4工程において、アンモニア水を上記陰イオン交換樹脂に接触させる際、陰イオン交換樹脂に対してアンモニア水を複数箇所から供給することにより、該アンモニア水を接触させることが有効であることを確認した。
【0108】
具体的には、まず次のような樹脂充填塔を準備した。すなわち、該樹脂充填塔において、通常のものと同様に該樹脂充填塔の上部から下方に向けて通液できるように該樹脂充填塔の最上部に液体の供給口(以下「第1供給口」と記す)を設けるとともに、陰イオン交換樹脂が充填されている部分の1/2の高さの部分からも液体を供給できるように、該樹脂充填塔の外部から送液管を挿入し、その送液管の先端(以下「第2供給口」と記す)がその1/2の高さのところにセットされるようにした。すなわち、当該樹脂充填塔は、第1供給口と第2供給口の2箇所から液体を通液できる構造となっている。なお、該樹脂充填塔は、ガラスカラム(内径26mmφ)に樹脂高さが100cmとなるようにCl型強塩基性陰イオン交換樹脂を充填した。
【0109】
そして、pH9以上のタングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えることにより、pHを6に調整したポリタングステン酸ナトリウム水溶液(70g−WO3/L−Resin)を、上記の第1供給口から通液させることにより、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂にポリタングステン酸イオンを吸着させるとともに流出液を回収した(第1工程〜第3工程)。なお、かかる通液は、当該樹脂充填塔の樹脂容量に対して6hr-1の空間速度SVとし、実施例1と同様に飽和吸着するまで通液した。
【0110】
次いで、このポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して、表4の第4工程の条件に従ってアンモニア水を通液し、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離した(第4工程)。なお、表4中、「アンモニア水濃度」とは、それに含まれるアンモニアの濃度を示している。「第1供給口」および「第2供給口」は、当該樹脂充填塔の第1供給口および第2供給口を示し、そこから表4記載の空間速度SVでアンモニア水を通液させたことを示している。「第2供給口」が空欄であるものは第1供給口のみからアンモニア水を通液させたことを意味する。
【0111】
その後、表4記載の条件に従って第8工程を実施した。なお、この第8工程においては、第4工程を経た陰イオン交換樹脂に対して、塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液を第1供給口のみから通液させることにより、タングステン酸イオンを溶離させた。
【0112】
そして、樹脂充填塔内の結晶析出の有無と溶離率を確認した。その結果を表4に示す。
【0113】
【表4】

【0114】
表4の結果から明らかなように、第4工程において第1供給口のみからアンモニア水を供給させた場合には樹脂充填塔内に結晶が析出するような条件であっても、第1供給口と第2供給口というように陰イオン交換樹脂に対してアンモニア水を複数箇所から供給することによりアンモニア水を接触させると結晶の析出を防止できることが確認できた。
【0115】
なお、樹脂高さが上記のように100cmとなるものは、工業的用途においては採用される場合があるが、このように樹脂高さが高くなる場合にはアンモニア水供給の空間速度SVも重要なファクターとなる。そして、このように樹脂充填塔の樹脂高さが高い場合であって、アンモニア水供給の空間速度SVが低い場合には、上記結果からも明らかなように、第4工程において、アンモニア水を陰イオン交換樹脂に接触させる際に、陰イオン交換樹脂に対してアンモニア水を複数箇所から供給することが有効となる。
【0116】
<実施例4>
以下の試験条件No.401〜404の実験を行なった。各試験条件に共通して、樹脂充填塔としては、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂350mlを内径26mmのガラスカラムに充填したものを用いた。
【0117】
まず、試験条件No.401は次のとおりである。
すなわち、pH9以上のタングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えることによりpH7に調整したポリタングステン酸ナトリウム水溶液(70g−WO3/L−Resin)を上記の樹脂充填塔に通液させた。該通液は、該樹脂充填塔の樹脂容量に対して6hr-1となる空間速度SVで通液させた(第1工程〜第2工程)。
【0118】
一方、樹脂充填塔を通過した流出液を回収し(第3工程)、この流出液のpHを塩酸により7に調整した。そして、この流出液を再度上記の樹脂充填塔に通液させた(空間速度SVは上記と同じとした)。これにより、ポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂を得た。また、この際、樹脂充填塔を通過した流出液を発光分光分析法(ICP)により分析することにより、タングステン濃度を測定した(以下「タングステン濃度A」と記す)。
【0119】
次に、上記のポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して16mol/Lのアンモニアを含むアンモニア水を、5hr-1の空間速度SVで通液させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させた(第4工程)。この際、樹脂充填塔を通過した流出液を上記と同様の発光分光分析法(ICP)により分析することにより、タングステン濃度を測定した(以下「タングステン濃度B」と記す)。
【0120】
次いで、「タングステン濃度A」を測定した流出液を、上記第4工程を経た陰イオン交換樹脂に対して6hr-1の空間速度SVで通液させ、この流出液中に残存するポリタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させた。そして、この樹脂充填塔を通過した流出液を回収し、この流出液のpHを塩酸により7に調整した後、その流出液を発光分光分析法(ICP)により分析することにより、タングステン濃度を測定した(以下「タングステン濃度C」と記す)。
【0121】
引き続き、上記のポリタングステン酸イオンが吸着した陰イオン交換樹脂に対して16mol/Lのアンモニアを含むアンモニア水を、5hr-1の空間速度SVで通液させることにより、ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させた(第4工程)。この際、樹脂充填塔を通過した流出液を上記と同様の発光分光分析法(ICP)により分析することにより、タングステン濃度を測定した(以下「タングステン濃度D」と記す)。
【0122】
このようにして、上記「タングステン濃度C」および第1工程で作製した溶液のタングステン濃度から算出した、イオン交換樹脂に吸着したタングステンの全量と、樹脂に吸着されるタングステンのイオン種をW124110-と仮定し、イオン交換樹脂の交換容量から算出したタングステン吸着可能量の差分から、タングステンの吸着率(%)を求めた。また、「タングステン濃度B」から算出した溶離タングステン全量と上記吸着タングステン全量の差分から、タングステンの溶離率(%)を求めた。これらの結果を表5に示す。
【0123】
一方、試験条件No.402は、試験条件No.401におけるポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度(70g−WO3/L−Resin)を「140g−WO3/L−Resin)」とすることを除き、他は全て試験条件No.401と同様にしてタングステンの吸着率と溶離率とを求めた。その結果を表5に示す。
【0124】
また、試験条件No.403は、試験条件No.401における流出液のpH7をpH6.5と調整することを除き、他は全て試験条件No.401と同様にしてタングステンの吸着率と溶離率とを求めた。その結果を表5に示す。
【0125】
また、試験条件No.404は、試験条件No.401における流出液のpH7をpH7.5と調整することを除き、他は全て試験条件No.401と同様にしてタングステンの吸着率と溶離率とを求めた。その結果を表5に示す。
【0126】
【表5】

【0127】
表5から明らかなように、pHを7に調整した試験条件No.401およびNo.402は、吸着率および溶離率の双方において高い数値が得られた。これに対して、pHを6.5に調整した試験条件No.403は、吸着率は高いものの溶離率が低下しており、またpHを7.5に調整した試験条件No.404は、溶離率は高いものの吸着率が低下していた。
【0128】
したがって、pHを7付近に維持しながら循環吸着を行なうことにより、幅広い濃度のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を原料として効率的にタングステン酸アンモニウムを製造できることが確認できた。
【0129】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることもできる。
【0130】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸アルカリ金属塩水溶液からタングステン酸アンモニウム水溶液を製造するタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法であって、
タングステン酸アルカリ金属塩水溶液のpHを3.5〜8に調整することにより、ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を製造する第1工程と、
前記ポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、ポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させる第2工程と、
前記第2工程を経た流出液を回収する第3工程と、
前記ポリタングステン酸イオンが吸着した前記陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、前記ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる第4工程と、
を含むタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において回収した流出液を、前記第4工程を行なう前に、pHを調整しながら3.5〜8に保ちつつ、陰イオン交換樹脂に繰り返し接触させてポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させた請求項1記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた後、
前記第4工程を経た前記陰イオン交換樹脂に対して、前記第1工程で得られたポリタングステン酸アルカリ金属塩水溶液を用いて、さらに前記第2工程〜前記第4工程と同様の操作をこの順で繰り返して行なう、請求項1または2に記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記第4工程のアンモニア水による溶離を終えた後、
前記アンモニア水を接触させた後の前記陰イオン交換樹脂に対して、陰イオン交換樹脂に繰り返し接触させた流出液を、pHを3.5〜8に調整した状態で接触させることにより、前記流出液中のポリタングステン酸イオンを当該陰イオン交換樹脂に吸着させる第5工程と、
前記第5工程を経た流出液を回収する第6工程と、
前記第5工程により前記ポリタングステン酸イオンが吸着した前記陰イオン交換樹脂に対して、濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水を接触させることにより、前記ポリタングステン酸イオンを分解してタングステン酸イオンを溶離させる第7工程と、
をこの順で繰り返して行なう、請求項1または2に記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の製造方法におけるアンモニア水による溶離を終えた後、
前記アンモニア水による溶離を終えた後の前記陰イオン交換樹脂に対して、塩化アンモニウムとアンモニアとの混合水溶液を接触させることにより、タングステン酸イオンを溶離させる第8工程を含む、請求項3または4に記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記混合水溶液は、前記塩化アンモニウム1molに対して前記アンモニアを0.25〜5molの比率で含む、請求項5に記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記第4工程のアンモニア水によって溶離する工程において、前記アンモニア水を前記陰イオン交換樹脂に接触させる際の空間速度SVは、7hr-1以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記第4工程のアンモニア水によって溶離する工程において、前記アンモニア水を前記陰イオン交換樹脂に接触させる際に、前記陰イオン交換樹脂に対して前記アンモニア水を複数箇所から供給することにより、前記アンモニア水を接触させる、請求項1〜7のいずれかに記載のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−208909(P2010−208909A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58412(P2009−58412)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】