説明

タンニン含有多孔質体、タンニン含有多孔質体の製造方法、および金属の回収方法

【課題】金属イオンの吸着に伴ってタンニンが酸化分解されても、吸着した金属を保持することができ、製造時にアルデヒドを使用しなくても済むタンニン含有多孔質体の提供。
【解決手段】本発明のタンニン含有多孔質体は、アルコールまたはアルコール水溶液を溶媒として、この溶媒にタンニンを溶解してなるタンニン溶液を、細孔内表面に水酸基を有する多孔質基材に吸収させた後、加熱によって溶媒を除去することにより、タンニンと水酸基とを化学結合させたものである。このようなタンニン含有多孔質体に金属イオンを吸着させると、タンニンによって還元された金属が多孔質基材の細孔内に閉じ込められるので、金属イオンの吸着に伴ってタンニンが酸化分解されても、吸着した金属を多孔質基材の内部に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンニン含有多孔質体、タンニン含有多孔質体の製造方法、および金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不溶性タンニン吸着材を利用して液体中の金属元素を回収する方法は、既に提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、下記特許文献1には、不溶性タンニン吸着材として、縮合型タンニンを架橋処理したものが記載され、その架橋処理の方法として、アルカリ水溶液に縮合型タンニンを溶解し、これにアルデヒドを添加して熟成する、という製法が開示されている(特許文献1:段落[0005]参照)。
【特許文献1】特開平11−264897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような不溶性タンニン吸着材は、金属イオンを吸着する際に、金属イオンを還元するのと引き替えに酸化されるので、架橋処理によって形成された不溶性タンニン吸着材の骨格が脆弱なものとなり、不溶性タンニン吸着材の機械的強度が低下する。そのため、不溶性タンニン吸着材の酸化分解が進行すると、吸着した金属を吸着材によって保持することが困難になり、一旦は吸着された金属が吸着材から遊離しやすくなり、その分、金属の回収効率が低下する、という問題があった。
【0004】
また、不溶性タンニン吸着材を製造するに当たって、毒性の高いアルデヒドを使用せざるを得ず、不溶性タンニン吸着材の製造後に残る廃液は、アルデヒドを含有する廃液となる。そのため、製造現場の作業環境の安全性確保や廃液処理には、十分な対策が必要であり、その対策に相応のコストがかかるという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、金属イオンの吸着に伴ってタンニンが酸化分解されても、吸着した金属を保持することができ、しかも、製造時にアルデヒドを使用しなくても済むタンニン含有多孔質体、タンニン含有多孔質体の製造方法、および金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明においては、以下の構成を採用した。
まず、請求項1に記載のタンニン含有多孔質体は、アルコールまたはアルコール水溶液を溶媒として、前記溶媒にタンニンを溶解してなるタンニン溶液を、細孔内表面に水酸基を有する多孔質基材に吸収させた後、加熱によって前記溶媒を除去することにより、前記タンニンと前記水酸基とを化学結合させてなる
ことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載のタンニン含有多孔質体は、請求項1に記載のタンニン含有多孔質体において、前記多孔質基材は、シリカゲルであることを特徴とする。
また、請求項3に記載のタンニン含有多孔質体の製造方法は、アルコールまたはアルコール水溶液を溶媒として、前記溶媒にタンニンを溶解してなるタンニン溶液を、細孔内表面に水酸基を有する多孔質基材に吸収させた後、加熱によって前記溶媒を除去することにより、前記タンニンと前記水酸基とを化学結合させることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載のタンニン含有多孔質体は、請求項3に記載のタンニン含有多孔質体において、前記多孔質基材は、シリカゲルであることを特徴とする。
さらに、請求項5に記載の金属の回収方法は、金、銀、および白金族金属の中から選ばれる1種以上の金属イオンを含む液体と、請求項1または請求項2に記載のタンニン含有多孔質体とを接触させることにより、前記液体中から前記金属イオンを吸着、回収することを特徴とする。
【0009】
以下、本発明の構成について、さらに詳しく説明する。
本発明のタンニン含有多孔質体において、多孔質基材は、細孔内表面に水酸基を有するものであり、例えば、ゲル状のシリカ、シリカアルミナ、シリカチタニアなどに代表される多孔性材料によって構成されるものである。このような多孔質基材は、表面に小さな開口部を有する構造になっていて、その内部には、表面の開口部から連続する無数の細孔が形成された構造になっている。
【0010】
また、タンニンは、植物の樹皮等に含まれる水溶性ポリフェノール化合物である。このタンニンは、希酸との反応により、加熱すると加水分解され没食子酸やエラグ酸などを生じる加水分解型タンニンと、重合して水に不溶のフロバフェンを生じる縮合型タンニンに大きく分類される。加水分解型タンニンは、没食子酸、ポリオキシジフェン酸などが糖類と結合したものであり、縮合型タンニンは、カテキン、ロイコアントシアンなどが数分子重合したものである。
【0011】
そして、これら多孔質基材とタンニンは、多孔質基材の細孔内において、細孔内の表面に存在する水酸基とタンニンが化学結合した構造になっている。より詳しくは、本発明においては、アルコールまたはアルコール水溶液を溶媒として、この溶媒にタンニンを溶解してタンニン溶液とし、このタンニン溶液を多孔質基材に吸収させた後、加熱によって溶媒を除去することにより、タンニンと多孔質基材の細孔内表面に存在する水酸基とを化学結合させてある。
【0012】
アルコールとしては、水溶性のアルコールを利用でき、中でも、メタノールまたはエタノールが好適である。アルコール濃度は任意であるが、好ましくは30〜80vol%程度に調製するとよい。また、タンニンと多孔質基材の細孔内表面に存在する水酸基とを化学結合させることができれば、系内の温度条件は特に限定されるものではないが、通常は、70〜100℃程度の温度条件下で反応を進行させると好ましい。
【0013】
このような手法で水酸基とタンニンを化学結合させると、アルデヒドを用いて不要化を図る場合とは異なり、タンニン同士が急激に架橋するような状態には至らないので、タンニンが多孔質基材の内部にまで十分に浸透し、その後にタンニンが水酸基と化学結合することで、タンニンが多孔質基材の内部で不溶化することになる。
【0014】
したがって、タンニンにアルデヒドなどの架橋剤を添加した系内へさらに多孔質基材を配合したようなものとは異なり、多孔質基材の表層にのみ不溶化タンニンの被膜が形成されたような状態にはならず、多孔質基材の細孔内部に十分な量のタンニンが存在する状態になる。
【0015】
また、多孔質基材の細孔内部に存在する水酸基とタンニンを化学的に結合させることによってタンニンの不溶化を図るので、毒性の高いアルデヒド等を用いることなくタンニンの固定化が達成できる。したがって、製造時の作業環境の安全性が容易に確保できる。また、アルデヒド含有廃液を排出することもないので、この点でも安全に製造することができる。
【0016】
以上説明したような構造のタンニン含有多孔質体と金属イオンを含有する液体とを接触させると、多孔質基材表面の開口部を介して金属イオンが多孔質基材の内部へと入り込み、金属イオンがタンニンによって還元される。このような還元反応は、タンニンが存在する状況下で金属イオンが供給され続ける間は継続し、その間に還元された金属は、多孔質基材の細孔内において粒子成長する。
【0017】
その結果、還元された金属は、多孔質基材の表面に存在する小さな開口部からは、容易には抜け出さない程度の大きさないし形態にまで成長する。
したがって、本発明のタンニン含有多孔質体によれば、タンニンの酸化分解が進行しても、還元された金属は多孔質基材の内部に閉じ込められることになり、タンニンの酸化分解に伴って金属が遊離することはないので、金属の回収効率を良好なものとすることができる。
【0018】
ちなみに、多孔質基材の表層にのみ不溶化タンニンの被膜が形成されたような状態になっていると、そのようなタンニンによって還元された金属は、多孔質基材表層に保持されるため、タンニンの酸化分解に伴って遊離しやすくなる。
【0019】
この点、本発明においては、多孔質基材の細孔内に金属を閉じ込めることができるので、金属の回収性能を向上させることができる。
加えて、本発明の金属の回収方法において、金属イオンを含む液体とタンニン含有多孔質体は、どのような方法で接触させてもよいが、一例としては、タンニン含有多孔質体をカラムに充填し、そのカラムに金属イオンを含む液体を通すことにより、液体中から金属イオンを吸着、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について一例を挙げて説明する。
(1)タンニン含有多孔質体の製造例
タンニン5gを50%エタノール水溶液90mlに溶解し、タンニン溶液を得た。そして、このタンニン溶液を球状シリカゲル95g(富士シリシア化学製CARiACT Q)に吸収させた。なお、シリカゲルは、あらかじめ十分に乾燥させたものを使用した。
【0021】
シリカゲルにタンニン溶液を十分に吸収させた後、密閉容器内で80℃加熱保持した。その後、乾燥器にて溶媒を除去することにより、所期のタンニン含有多孔質体を得た。
(2)金属イオン吸着試験(その1)
次に、上記タンニン含有多孔質体を使用して、金属イオン吸着試験を行った。
【0022】
具体的には、まず、上記タンニン含有多孔質体を数mmの粒子径に粉砕・分級した。それを、ポリエチレン製カラム(容積30ml)に充填し、Ag(I)イオン、Cu(II)イオン(それぞれ11ppm−Ag、 6.4ppm−Cu)を含む溶液(いずれも1mM)を通液した(流量3.6ml/min、温度60℃)。
【0023】
カラム出口より流出する溶液を回収し、各金属イオン濃度を原子吸光法により測定したところ、Cu(II)イオンはすぐに破過した。
一方、Ag(I)イオンは、カラム体積の400倍以上通液後も吸着能力を維持し、極低濃度の溶液からAg(I)イオンを選択的に吸着回収することが出来た。Ag吸着後の複合体は赤茶色から灰色に変化しており、Agが還元された状態でシリカゲル担体に固定化されることが確認された。
(3)金属イオン吸着試験(その2)
平均粒子径20μmのシリカゲルにタンニンを5%担持した試料0.1mgを、10ppm−Au(III)を含む水溶液50mlに添加し、60℃恒温槽中にて保持した。30分経過後、上澄み中のAu(III)濃度を原子吸光法にて測定したところ、Au(III)濃度は0ppmを示した。
【0024】
したがって、溶液中のAu(III)は、上記タンニン含有多孔質体に速やかに吸着・保持されていることがわかった。
(4)変形例等
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0025】
例えば、上記実施形態では、溶液からAg(I)、Au(III)を回収する例を示したが、この他の金属イオンを回収することもできる。
より具体的には、白金、パラジウム等の白金族金属の金属イオンを含む溶液中に上記タンニン含有多孔質体を添加したところ、白金族金属の金属イオンについても吸着・回収することができた。したがって、本発明のタンニン含有多孔質体は、金、銀、白金、パラジウム等の白金族金属の金属イオンなどを回収する資材として、有効に利用できるものと考えられる。
【0026】
また、上記実施形態では、多孔質基材として、シリカゾルをゲル化したもの(シリカゲル)を例示したが、シリカアルミナ、シリカチタニアなどの複合酸化物で多孔質基材を形成しても、上記実施形態で例示したものとほぼ同等に機能するタンニン含有多孔質体を構成することができる。
【0027】
さらに、上記実施形態では、溶媒として、50%エタノール水溶液を使用する例を示したが、アルコール水溶液のアルコール濃度は30〜80vol%程度の範囲内で任意に設定することができる。また、アルコールは、エタノールに限定されず、例えば、メタノールなどの水溶性アルコールを利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールまたはアルコール水溶液を溶媒として、前記溶媒にタンニンを溶解してなるタンニン溶液を、細孔内表面に水酸基を有する多孔質基材に吸収させた後、加熱によって前記溶媒を除去することにより、前記タンニンと前記水酸基とを化学結合させてなる
ことを特徴とするタンニン含有多孔質体。
【請求項2】
前記多孔質基材は、シリカゲルである
ことを特徴とする請求項1に記載のタンニン含有多孔質体。
【請求項3】
アルコールまたはアルコール水溶液を溶媒として、前記溶媒にタンニンを溶解してなるタンニン溶液を、細孔内表面に水酸基を有する多孔質基材に吸収させた後、加熱によって前記溶媒を除去することにより、前記タンニンと前記水酸基とを化学結合させる
ことを特徴とするタンニン含有多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質基材は、シリカゲルである
ことを特徴とする請求項3に記載のタンニン含有多孔質体の製造方法。
【請求項5】
金、銀、および白金族金属の中から選ばれる1種以上の金属イオンを含む液体と、請求項1または請求項2に記載のタンニン含有多孔質体とを接触させることにより、前記液体中から前記金属イオンを吸着、回収する
ことを特徴とする金属の回収方法。

【公開番号】特開2009−35437(P2009−35437A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199213(P2007−199213)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】