説明

タンパク質で修飾されたナノ液滴、ならびにその合成物および製造方法

タンパク質で修飾された液滴は、液体物質を有する液滴、および液滴を少なくとも部分的に包み込むように形成されたタンパク質構造を含む。タンパク質構造は、タンパク質構造の形成過程で液滴の少なくとも1領域に親和性を有する複数のタンパク質分子を含み、液滴は少なくとも約1ナノメートル以上約100ナノメートル以下の大きさを有する。合成物は、含水溶液中に分散した複数のタンパク質で修飾された液滴を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2007年4月18日に出願された米国仮出願第60/907,824号の優先権を主張し、この全内容は参照によって本願に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本出願は、ナノ液滴(nanodroplet)に関し、さらに詳細には、タンパク質で修飾された(protein-modified)ナノ液滴および合成物ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
この明細書中で参照されるすべての論文、発行された特許出願および特許は、参照文献として本出願に組み込まれる。
純粋なウイルスカプシドタンパク質はナノスケールの対象物の周囲に自己集積化し(Bancroft, J. B.・ Hiebert, E.(1967)「Formation of an Infectious Nucleoprotein from Protein and Nucleic Acid Isolated from a Small Spherical Virus」,『Virology』32, pp.354-356、Bancroft, J. B.・Hills, G. J.・Markham, R.(1967)「A Study of the Self-Assembly Process in a Small Spherical Virus. Formation of Organized Structures from Protein Subunits in Vitro」,『Virology』31, pp.354-379、Hiebert, E.・Bancroft, J. B.・Bracker, C. E.(1968)「The Assembly in Vitro of Some Small Spherical Viruses, Hybrid Viruses, and Other Nucleoproteins」,『Virology』34, pp.492-508)、「カプシド化」として知られる過程を経てタンパク質殻中にナノスケールの対象物を包み込む(Douglas, T.・Strable, E.・Willits, D.・Aitouchen, A.・Libera, M.・Young, M.(2002)「Protein Engineering of a Viral Cage for Constrained Nanomaterials Synthesis」,『Adv. Mater.』14, pp.415-418、Douglas, T.・Young, M.(1998)「Host-Guest Encapsulation of Materials by Assembled Virus Protein Cages」,『Nature』393, pp.152-155、Douglas, T.・Young, M.(1999)「Virus Particles as Templates for Materials Synthesis」,『Adv. Mater.』11, pp.679-681、Dragnea, B.・Chen, C.・Kwak, E. S.・Stein, B.・Kao, C. C.(2003)「Gold Nanoparticles as Spectroscopic Enhancers for in Vitro Studies on Single Viruses」,『J. Am. Chem. Soc.』125, pp.6374-6375)。
【0004】
ウイルスタンパク質を露呈することによって、カプシド化されたナノ物質は、特定組織中での選択的局在という細胞標的化に有用な所望のウイルス機能性が潜在的に与えられる(Uchida, M.・Klem, M. T.・Allen, M.・Suci, P.・Flenniken, M.・Gillitzer, E.・Varpness, Z.・Liepold, L. O.・Young, M.・Douglas, T.(2007)「Biological Containers:Protein Cages as Multifunctional Nanoplatforms」,『Adv. Mater.』19, pp.1025-1042)。
カプシド化の典型的な実例においては、伝染性ウイルスは、体外で純粋カプシドタンパク質と純粋なRNAとを結合させ、pHおよびイオン強度を変化させるために透析することによって集積された(Bancroft, J. B.・Hiebert, E.(1967)『Virology』32, pp.354-356)。
【0005】
同じように、合成高分子(Bancroft, J. B.・Hiebert, E.・Bracker, C. E.(1969)「The Effects of Various Polyanions on Shell Formation of Some Spherical Viruses」,『Virology』39, pp.924-930)、パラポリオキソメタラート(parapolyoxometalate)粒子(Douglas, T.・Young, M.(1998)「Host-Guest Encapsulation of Materials by Assembled Virus Protein Cages」,『Nature』393, pp.152-155)、純金ナノ結晶(Dragnea, B.・Chen, C・Kwak, E. S.・Stein, B.・Kao, C. C.(2003)「Gold Nanoparticles as Spectroscopic Enhancers for in Vitro Studies on Single Viruses」,『J. Am. Chem. Soc.』125, pp.6374-6375、Chen, C・Daniel, M. C・Quinkert, Z. T.・De, M.・Stein, B.・Bowman, V. D.・Chipman, P. R.・Rotello, V. M.・Kao, C. C・Dragnea, B.(2006)「Nanoparticle-Templated Assembly of Viral Protein Cages」,『Nano Lett.』6, pp.611-615、Sun, J.・DuFort, C・Daniel, M.-C・Murali, A.・Chen, C・Gopinath, K.・Stein, B.・De, M.・Rotello, V. M.・Holzenburg, A.他(2007)「Core-Controlled Polymorphism in Virus-Like Particles」,『Proc. Natl. Acad. ScL U.S.A.』104, pp.1354-1359)、および量子ドット(Dixit, S. K.・Goicochea, N. L.・Daniel, M.-C・Murali, A.・Bronstein, L.・De, M.・Stein, B.・Rotello, V. M.・Kao, C. C・Dragnea, B.(2006)「Quantum Dot Encapsulation in Viral Capsids」,『Nano Lett.』6, pp.1993-1999)は、天然ウイルスと同様の大きさのウイルス様粒子(VLP)を生成するためにカプシド化されていた。
【0006】
このように小さなVLPについて、電子顕微鏡写真は、タンパク質殻が個々のサブユニットからミセル形成に似た形で(McPherson, A.(2005)「Micelle Formation and Crystallization as Paradigms for Virus Assembly」,『BioEssays』27, pp.447-458)、5配位および6配位対称性を有する突起型で環状のマルチマーまたは「カプソメア(capsomer)」を含む(Caspar, D. L.・Klug, A.(1962)「Physical Principles in the Construction of Regular Viruses」,『Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol.』27, pp.1-2)20面体ウイルスに特徴的な秩序構造に(Zandi, R.・Reguera, D.・Bruinsma, R. F.・Gelbart, W. M.・Rudnick, J.(2004)「Origin of Icosahedral Symmetry in Viruses」,『Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.』101, pp.15556-15560)集積することを示している。
【0007】
しかしながら、従来のカプシド化物質およびその技術は、今日までその用途が限定されていた。
したがって、改善の必要性が残っている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施例に係るタンパク質で修飾された液滴は、液体物質、および液滴を少なくとも部分的に包み込むように形成されたタンパク質構造から成る液滴を含む。
タンパク質構造は、タンパク質構造の形成過程で液滴の少なくとも1領域に親和性を有する複数のタンパク質分子から成り、液滴は少なくとも約1ナノメートルから約1000ナノメートル以下の最大寸法を有する。
本発明の実施例に係る合成物は、含水溶液中に分散された本発明の1実施例に係るタンパク質で修飾された複数の液滴から成る。
本発明の1実施例に係るタンパク質で修飾された液滴の製造方法は、第1および第2の非混和性液体物質を供給する段階と、第1および第2の非混和性液体物質の少なくとも一方に安定化剤を添加する段階と、安定化剤で安定化された第1の液体物質中で第2の液体物質のそれぞれが少なくとも約1ナノメートルから約100ナノメートル以下の寸法を有する複数の液滴を形成するために第1および第2の液体物質を乳化する段階と、乳化前あるいは後の少なくとも一方でタンパク質分子を添加する段階と、複数の液滴のそれぞれを少なくとも部分的に包み込むようなタンパク質構造の形成の許容と、を含む。
添加される安定化剤およびタンパク質分子は、安定化剤が液滴に付着するときに互いに相互静電気吸引力を有する種類のものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は添付図面を参照しつつ以下の詳細な説明を読むことにより一層良く理解される。ここで、
【図1】本発明の1実施例に係る水中でのアニオン性ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate(SDS))界面活性剤によって安定化された油滴のササゲクロロティックモトルウイルス(cowpea chlorotic mottle virus(CCMV))から得られる純化されたカプシドタンパク質(capsid protein)によるカプシド化を示す図である。これは、タンパク質で修飾された液滴の一例である。透析を使用してpHおよびイオン強度Iを調整することにより、バルク溶液中のカプシドタンパク質を、ナノ乳化物(ナノエマルジョン)液滴の負に帯電した表面に凝縮し、集積するように誘導させることができる。
【図2】ネガティブ染色での透過型電子顕微鏡(TEM)により観察される本発明の1実施例に係るカプシドタンパク質構造を示す。図2(a)は、SDS安定化ナノ乳化物を純化されたCCMVタンパク質と混合し、透析した後の個々のナノスケールの液滴をpHおよび塩化ナトリウムのイオン強度Iの関数として表した図である。緩衝液は、RNA再構成(R)(pH=7.2、I=0.1M)、6角シート(H)(pH=6.2、I=0.1M)、二量体(D)(pH=6.2、I=1.0M)、多重殻(M)(pH=4.8、I=0.1M)、および空殻(E)(pH=4.8、I=1.0M)である。差し込み図(右上)は、R緩衝液で透析後のSDSによって安定化されたマイクロスケールのシリコーン油滴の表面を覆うFITCで標識化されたCCMVタンパク質(緑)の蛍光光学顕微鏡写真である。図2(b)は、M緩衝液で透析後に観察された1、2および3層の同心のタンパク質殻によりカプシド化されたナノ液滴を示す。縮尺は、横棒が20ナノメートルを示す(全画像共通)。
【図3】RNA再構成緩衝液を使用しての透析後の個々のカプシド化されたナノ油滴の一方の側面の液滴の直径d(イタリック体数字)の関数として観察された本発明の1実施例に係るCCMVタンパク質構造の代表例を示す。TEM画像は、油滴表面のタンパク質構造を強調するため、背景を取り除きフーリエフィルタ処理されている。完全なタンパク質「カプソメア」(白い環)は、天然ウイルスの大きさにより近い寸法を有するより小さいナノ油滴の表面により多く見出される。環状のカプソメアは、局所的に6配位構造に秩序立てることができる(黒丸)。カプシドタンパク質の延伸した暗い溝状の「瘢痕」(黒丸)、すなわち欠陥カプソメア、およびカプシドタンパク質の6角形の網状組織(黒丸)は、より大きい油滴でより頻繁に観察される。許容される三角分割数Tおよび秩序立ったカプソメアの完全二十面体によってカプシド化され得るナノ油滴の予測外径が下の目盛に示されている。外径(ナノメートル)は、d(T)≒28(T/3)1/2を使用して予測し、T=3ウイルスのCCMVに対しd=28ナノメートルで矛盾はない。
【図4】秩序立ったおよび無秩序の異なる程度を有するナノ油滴(図3の黒丸部を拡大)の表面上に観察される局所的なタンパク質構造を示す。図4(a)は、より小さい油滴上に多く観察される秩序の程度の高い6配位のカプソメア(中心の斑点)を示す(左側)。突出した白い領域で囲まれた細長く暗い領域(矢印)から成る溝状瘢痕の例を示す(中央)。より大きい油滴に典型的に観察される6角形の網状構造は、境界面から突出したタンパク質の相互接続された白い網状組織によって囲まれた暗い小域(班点)から成る(右側)。図4(b)は、6角形のカプソメアと網状組織の暗い領域の中心間の距離rに対するそれぞれの確率pおよびpを示す。網状組織の暗い斑点間の平均間隔(4.7ナノメートル)は、カプソメアの中心間距離(9.5ナノメートル)の約半分である。図4(c)は、結合したタンパク質二量体(左上)の6角形のカプソメア(左下)を平面上に纏めることによって生成することができる網状構造(右側)を示している。タンパク質濃度の低い領域は、1つの6角形細胞中に黒い斑点で標識化されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面に例示された本発明の実施例の記載において、特定の専門用語が明確化のために採用される。しかしながら、本発明はそのように選択された特定の専門用語に限定されることを意図してはいない。特定の要素のそれぞれは、同一の目的を達成するために同一の態様で動作する技術的等価物すべてを含むと理解されるべきである。
【0011】
本発明のある実施例によれば、タンパク質で修飾された、および/またはタンパク質で覆われたナノ乳化物液滴を生成するための工程が提供される。いくつかの実施例においては、タンパク質が、選択された物質と共に充填することができるカプセルまたは容器を効果的に提供する。このような容器は、本願発明のある実施例においては、薬物送達構造の提供が可能である。しかしながら、本発明の広い概念は薬物送達だけに限定されない。さらに、中に液滴を収容するタンパク質カプセルは、本発明の1つの実施例に係るタンパク質で修飾された液滴の一例にすぎない。例えば、タンパク質カプセルは、選択された物質と共に充填されるナノ細孔高分子ゲル粒子を収容してもよい。
【0012】
天然のウイルスにおいては、ウイルスのウイルス外被タンパク質は、内容物、すなわち、自己増殖およびゲノム再生に必要な核酸RNAまたはDNAを保護する障壁として機能する。ウイルスは特定の細胞に容易に侵入する能力を有しているので、本発明のいくつかの実施例には、液滴の表面上のウイルス外被の種類を調整して合わせることによって、ある細胞への特定の薬物の送達を目的とすることを含んでいてもよい。したがって、本発明のいくつかの実施例は、天然のウイルスのある性状を模倣するカプセルを提供する。これには、いくつかの実施例においては、細胞の障壁を貫通し、細胞内に内容物を送達することができるようなカプセルの提供が含まれていてもよい。
【0013】
1つの実施例において、標準的な方法でウイルスを培養し、それを分解し、そして遺伝物質(RNAまたはDNA)からタンパク質を分離してウイルス性カプシドタンパク質を得た。しかしながら、本発明のより広い概念はそのような技術および特定のタンパク質に限定されない。他の案として、カプシドタンパク質は、ウイルス性RNAの細菌性発現によって大量に取得することができる。次に、水中に疎水性油のマイクロスケールの乳化物あるいはナノスケールの乳化物(ナノ乳化物)を作成した。疎水性の薬物分子は容易に油中に溶解するが、油は分子質量が低くないので、乳化物はオストワルド熟成により不安定となる。薬物分子の凝縮は油中で固定されるので、薬物を含んだ油は、次の段階、すなわち、剪断乳化による水中油乳化物の生産での供給物として使用される。一例として、ナノ乳化物の製造に使用される極度の乳化工程は、市販の高圧マイクロ流体装置の使用を含んでいる。超音波装置および他の方法も、また、本発明に従って使用することができる。
本発明の種々の実施例に係るいくつかの異なる方法により、液体から成る液滴はウイルスタンパク質によりカプセル化することができ、ウイルスタンパク質で被覆された1つの液体の液滴の異なる非混和性液体中での分散を生じさせる。本発明に係るいくつかの方法は下記を含む。
(1)安定化剤(例えば、界面活性剤、粒子、または高分子)の種類および濃度によって液滴安定化を制御し、pHおよびイオン含有物(例えば、塩または緩衝材の種類)ならびにイオン強度(例えば、塩または緩衝材の濃度)を制御し、さらに、機械的剪断の適用または流動の誘起による大きい液滴から小さい液滴への分解をさせながらの、ウイルス性カプシドタンパク質の含水分散液への所望の種類の油の混入。
(2)適切なpH、イオン含有量、およびイオン強度の既存の水中油乳化物またはナノ乳化物(荷電界面活性剤、粒子、または高分子により安定化された)のウイルス性カプシドタンパク質の含水分散液との結合および対流による液滴の破壊は生じさせないが成分を分布させるような混合。
(3)既存の水中油乳化物またはナノ乳化物とウイルス性カプシドタンパク質の含水分散液との結合およびその後の液滴表面へのタンパク質の吸着を引き起こすためにpH、イオン含有量、およびイオン強度を変更する半透過性膜を使用した透析。
【0014】
液滴の液体物質は、以下の1または複数の物質を含み得る。
油、シリコーン油、炭化水素油、石油、燃料油、ワックス、油脂、フッ素化油、不揮発性油、揮発性油、芳香油、植物性原料由来の油、動物性原料由来の油、天然源由来の油、蒸留油、抽出油、調理油、食物油、潤滑油、主な組成が炭化水素である反応物質、エポキシ材料、粘着性物質、重合性物質、サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶、酸性油、塩基性油、中性油、天然油、重合油、および合成油
【0015】
本発明のいくつかの実施例に係る生理活性物質は、薬物分子、抗癌分子、治療用分子、ホルモン分子、アゴニスト分子、アンタゴニスト分子、阻害分子、抑制分子、増感剤分子、抗鬱分子、抗ウイルス分子、抗真菌分子、抗細菌分子、生物学的利用能強化分子、毒素分子、色素分子、蛍光分子、生体分子、栄養素、ビタミン、香味料、酵素、ナノ粒子、および画像コントラスト強化剤を含んでいてもよいが、これらに限定されることもない。
【0016】
乳化物液滴の流動誘起破断による大きい液滴から小さい液滴への生成後に行う乳化物液滴の合体に対する安定性を付与するために、負に帯電したドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような界面活性剤を添加することができる。代案として、市販の混合機、攪拌機、乳化機(colloid mill)、あるいはフローフォーカシング型マイクロ流体装置が、薬物分子を含む油から乳化物またはナノ乳化物を生成するために使用され得る。極度な流量の既存の方法では、液滴内にごく少数の薬物分子が存在するような、直径約5〜10ナノメートルまでに至る液滴の生成が可能である。これらのより小さいナノ液滴自体は、分散および微細孔の貫通の強化により一層迅速に細胞膜および腸管膜を貫通することができ、ウイルス外被は、ナノ液滴にタンパク質の細胞摂取の誘発による膜貫通の頑丈さおよび能動的手段を付与する。本発明のいくつかの実施例においては、液滴は大量に生産することができ、ウイルスタンパク質はしばしば制限要素であるので、本発明のいくつかの実施例においてはなされ得るが、一般的にはタンパク質の存在下での乳化は行われない。代わりに、本発明の1つの実施例では、液滴を取得し、これを希釈し、界面活性剤濃度を整え、それから、分解されたウイルス性カプシドタンパク質を添加する。そして溶液のイオン強度またはpHの少なくとも一方を変更することにより、タンパク質の液滴表面への吸着を引き起し、液滴上に被覆を集積させる。いくつかの実施例では、液滴を安定させるのにアニオン性界面活性剤を使用し、これにより液滴の表面上に負電荷が帯電することになる。これは、溶液中で負に帯電されるRNAおよびDNAに似ている。その後、分解されたカプシドタンパク質を添加し、溶液のイオン強度およびpHを変更して液滴の表面にウイルス性殻を形成させる。この原理を論証するために、アニオン性界面活性剤で被覆されたシリコーンナノ乳化物、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ササゲクロロティックモトルウイルス(CCMV)から得たカプシドタンパク質、および植物ウイルスを使用するナノ液滴の第1のウイルスのカプセル化の実験を行った。この実験例においては、油中に特定の薬物分子は添加されていない。他の実験例では、ナノ液滴中に蛍光色素のような他の油溶性分子を添加した。透過型電子顕微鏡画像は、液滴の表面上のウイルスタンパク質の成功裡の集積を示している。空のウイルス殻を形成させずに液滴を完全に被覆するために、pHおよびイオン強度を最適化することができる。これらの空殻はタンパク質を浪費するので、一般的には望ましくない。ある特定の合成および集積の条件下で、いくつかの内部液滴が、それらの周りに形成されるタンパク質の単一の外殻中に包み込まれ得ることも観察された。全体として、ウイルスタンパク質によって被覆された非常に広範囲な大きさの乳化物およびナノ乳化物液滴を生成するために使用可能であり、迅速な貫通、標的化、および送達のために強化された能力を具備し得る方法を説明する。より大きい液滴はより小さい液滴よりもゆっくりと貫通するので、いくつかの実施例においては、液滴の大きさ分布を制御することによって薬物放出の制御ができる。代案として、周知の方法によって合成または純化された他のタンパク質も液滴を被覆するために使用され得る。
【実施例1】
【0017】
本発明の1つの実施例に係る実験例においては、静電気相互作用によりナノ乳化物の表面に自己集積するCCMV(ササゲクロロティックモトルウイルス)から得られたカプシドタンパク質を使用する。天然ウイルスにおいて、ウイルスの正に帯電した内部は、RNAの1または複数の負に帯電したポリアニオンと相互作用する。ナノ分子液滴は液滴の外部に負に帯電した界面活性剤頭基を有するので、ウイルスタンパク質は油液滴の外部境界面に集積する。
【0018】
カプシドタンパク質の取得方法
CCMVタンパク質の純化にラオ(Rao)の手順(Choi, Y. G.・Rao, A. N. L.(2000)「Molecular Studies on Bromovirus Capsid Protein: VII. Selective Packaging of BMV RNA4 by Specific n-Terminal Arginine Residues」,『Virology』275, pp.207-217)を採用した。まず、単位ミリリットルあたり約4ミリグラムの濃度の懸濁緩衝液中の野生型CCMVから始める。CCMVは、CCMVをタンパク質二量体とRNAに解離するために、24時間分解緩衝液中で透析される。分解されたCCMVを緩衝液から取り出し、毎分1万4千回転で30分間遠心分離(Eppendorf遠心機580 4R(商品名))してRNAを沈殿させる。上澄み液中のタンパク質が抽出され、さらに上澄み液中に残留しているRNAの周囲に集積させるためにRNA集積緩衝液中で24時間透析される。最後に、上澄み液は毎分10万回転で1時間40分遠心分離(Beckman TLA 1 10 UC(商品名))され、純粋なCCMVタンパク質を含む上部4分の3の上澄み液がさらなる調査のために使用される。結果物であるタンパク質の純度および濃度を、紫外可視分光法を用いて測定する。すべての作業は摂氏4度で行われた。
【0019】
ナノ乳化物液滴の製造方法
他の非混和性液相中に界面活性剤によって安定化された1つの液相の液滴である100ナノメートル以下の直径のナノ乳化物が、マイクロ流体噴射装置での極度の剪断の使用により生成された。ナノ乳化物液滴の大きさは、使用された界面活性剤の量および種類、マイクロ流体噴射装置中に噴射される液体の圧力、ならびに液体の粘性に依存する。特定の大きさ分布の液滴を得るために、ナノ乳化物は遠心分離され、断片化される(Mason, T. G.・Wilking, J. N.・Meleson, K. K.・Chang, C. B.・Graves, S. M..(2006)「Nanoemulsions: formation, structure, and physical properties」,『Journal of Physics: Condensed Matter』18 pp.R635-R666、Meleson, K.・Graves, S.・Mason, T.(2004)「Formation of Concentrated Nanoemulsions by Extreme Shear」,『Soft Materials』2 pp.109-123)。典型的には水中油乳化物液滴を製造したが、その大きさはマイクロ流体装置および他の合成パラメータによって制御することができる。よって、この実施例は、ウイルスカプシド殻内に入ることになる液滴の内側に疎水性の薬物を充填するものである。
【0020】
集積条件(ウイルスタンパク質とナノ乳化物液滴との結合)
ナノ乳化物液滴の周囲にウイルスタンパク質を集積する種々の集積条件を使用した。ナノ乳化物液滴およびウイルスタンパク質が透析される溶液のpHおよびイオン強度を変更することにより、外側にウイルスタンパク質の単一被覆、二重被覆、または複数被覆を有する液滴を生成することができる(図2(b)参照)。
【0021】
EM画像の取得方法
パルロジオン(parlodion(登録商標)商品名)の支持フィルムを使用してメッシュサイズ400の銅格子(Ted Pella社、レディング、カルフォルニア州(会社名))を準備し、炭素を被覆した。この格子は、サンプル沈殿直前に、高電圧交流を使用してグロー放電される。サンプル沈殿段階は、5ピコリットルのサンプルを直接格子上に1分間放置する段階と、ワットマン(Whatman(会社名))4ろ過紙で吸引ろ過する段階と、直ちに1%酢酸ウラニルで1分間染色する段階と、再び吸引ろ過する段階と、空気乾燥する段階とから成る。サンプルは、日立 H−7000(商品名)電子顕微鏡を加速電圧75kVで使用して観察された。ネガを現像し、画像解析のために、ミノルタDiMAGE Scan MultiPro(商品名)フィルムスキャナで画像を取り込んだ。
【0022】
結果の検討
本発明のいくつかの実施例に係るウイルスタンパク質で覆われた液滴の製造方法の利点には、ウイルス集積の鋳型であるナノ乳化物の大きさを微調整する能力を含むことができる。よって、このタンパク質容器の直径は1マイクロメートルの1/10以下、例えば、約10ナノメートルから100ナノメートルに変更することができ、将来の応用に合わせて大きさの変更が可能である。ウイルスカプシドタンパク質の液滴表面への吸着は、液滴の大きさによってではなく、タンパク質および液滴表面の界面活性剤の油に対する親和性によって制御することができる。したがって、もし要望されるならば、サブミクロン、ミクロン、およびさらに大きいオーダーでのウイルスによりカプセル化された液滴も製造可能である。
【0023】
本発明のいくつかの実施例は、経口摂取、注射、吸入摂取、または皮膚を介して生命体の内部に生理活性物(疎水性薬物)を送達するためのタンパク質で修飾された液滴を製造する方法を提供することができる。放射性種または高原子番号元素を含む分子が、ガン治療または画像強化のためにナノ液滴中に挿入され得る。よって、本発明のいくつかの実施例は、医療用画像および薬物送達の双方への応用可能性を有し得る。医療用画像において、1つの応用は、細胞内の伝達経路の追跡における容器としての使用である。薬物送達における1つの応用は、ガン治療のため、ナノ乳化物中にカプセル化され、後に癌細胞に送達される治療薬への使用である。
【実施例2】
【0024】
この実験例は、非圧縮性の球形のナノ液滴、または「ナノ乳化物」のカプシド化であり、それらは野生型核を大幅に超える連続する範囲の大きさを有することができ、吸着したアニオン性界面活性剤分子によって安定化される。
60の特定の整数倍(例えば、1、3、4、7・・・)のタンパク質を必要としCaspar-Klugの階層構造(Casper, D. L.・Klug, A.(1962)「Physical Principles in the Construction of Regular Viruses」『Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol.』27, pp.1-24)で決定づけられる理想的な正ニ十面体の完全な対称性および離散的な大きさを持たずに、カプシドタンパク質を球形殻に自己集積させることが可能であることを示す。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)によって安定化された水中シリコーン油(ポリジメチルシロキサン)のナノ乳化物が高圧均質化によって作られ(Meleson, K.・Graves, S.・Mason, T. G.(2004)「Formation of Concentrated Nanoemulsions by Extreme Shear」,『Soft Materials』2, pp.109-123)、純粋ササゲクロロティックモトルウイルス(CCMV)のカプシドタンパク質と混合され(Choi, Y. G.・Rao, A. L. N.(2000)「Molecular Studies on Bromovirus Capsid Protein: VII. Selective Packaging of BMV RNA4 by Specific n-Terminal Arginine Residues」,『Virology』275, pp.207-217)、ニ価カチオンの濃度が低減するように透析されて、タンパク質の自己集積が引き起こされる(Adolph, K. W.・Butler, P. J. G.(1975)「Reassembly of a Spherical Virus in Mild Conditions」, Nature 255, pp.737-738)。pHおよびイオン強度の広範囲にわたり、この再集積は、単一のタンパク質殻で被覆されたウイルス状液滴(VLD)を生成する。ナノ液滴の周囲にカプシドタンパク質によって形成される同心殻の数を制御するために、広範囲のpHおよびイオン強度で調査する。空の多重殻構造が形成される低pHおよび低イオン濃度の限界(Adolph, K. W.・Butler, P. J.(1974)「Studies on the Assembly of a Spherical Plant Virus. I. States of Aggregation of the Isolated Protein」, J. MoI. Biol. 88, pp.327-341)では、液滴は2またはそれ以上のタンパク質殻の中にカプシド化されることができる。
【0025】
単一殻によって被覆されたVLDでは、透過型電子顕微鏡(TEM)は、タンパク質が秩序立ったカプソメアだけでなく種々の他の構造で湾曲した表面上に自己集積していることを明らかにしている。液滴表面の曲率の低減に従い、秩序立ったカプソメアが支配的ではなくなり、欠陥カプソメア、6角形の網状組織、および溝状の瘢痕の他のタンパク質構造が発現している。これらの構造のいくつかは、湾曲した表面上でのタンパク質の無秩序な集積(jamming)によって発現し(Liu, A. J.・Nagel, S. R.(1998)「Jamming Is Not Just Cool Any More」, Nature 396, pp.21-22)、個体微細粒子によって安定化された微細液滴上に見出される欠陥に似たものである(Bausch, A. R.・Bowick, M. J.・Cacciuto, A.・Dinsmore, A. D.・Hsu, M. F.・Nelson, D. R.・Nikolaides, M. G.・Travesset, A.・Weitz, D. A.(2003)「Grain Boundary Scars and Spherical Crystallography」, Science 299, pp.1716-1718、Bowick, M.・Cacciuto, A.・Nelson, D. R.・Travesset, A.(2002)「Crystalline Order on a Sphere and the Generalized Thomson Problem」, Phys. Rev. Lett. 89, Art. No. 185502 pp.1-4、Tarimala, S.・Dai, L. L.(2004)「Structure of Microparticles in Solid-Stabilized Emulsions」, Langmuir 20, pp.3492-3494)。しかしながら、6角形の網状組織のような他の構造は、タンパク質とタンパク質間およびタンパク質と表面間の引力相互作用に関連する特別な規則から発現している。大きな液滴上の秩序立ったカプソメアの数の全体的な減少は、曲率のより低い非圧縮性表面にタンパク質が集積したときには、CCMVのカプシド中のタンパク質の3つの異なる構造(Speir, J. A.・Munshi, S.・Wang, G.・Baker, T. S.・Johnson, J. E.(1995)「Structures of the Native and Swollen Forms of Cowpea Chlorotic Mottle Virus Determined by X-Ray Crystallography and Cryo-Electron Microscopy」, Structure 3, pp.63-78)が同じ割合では存在しないことを意味する。よって、表面曲率はタンパク質構造の設定に重要な役割を果たし、非圧縮性の対象物をカプシド化する集積されたタンパク質の構造に深く影響する。
【0026】
方法
タンパク質の純化
ChoiとRaoの手順(Choi, Y. G.・Rao, A. L. N.「Molecular Studies on Bromovirus Capsid Protein: VII. Selective Packaging of BMV RNA4 by Specific n-Terminal Arginine Residues」)に従って、CCMVからカプシドタンパク質を隔離し、純化した。CCMVは単一のカプシドタンパク質を有するので、「CCMVタンパク質」との言及は、CCMVの単一かつ唯一のカプシドタンパク質を特定している。純化されたCCMVは、1リットルの分解緩衝液(0.5モルの塩化カルシウム、50ミリモルのpH7.5のトリス塩酸(Tris-HCl)、1.0ミリモルのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1.0ミリモルのジチオスレイトール(DTT)、0.5ミリモルのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))中で24時間透析される。解離されたウイルスは、毎分1万4千回転で30分間遠心分離されRNAを沈殿させる。タンパク質上澄み液は抽出され、1リットルのRNA再構成緩衝液(50ミリモルの塩化ナトリウム、50ミリモルのpH7.2のトリス塩酸(Tris-HCl)、10ミリモルの塩化カリウム、5.0ミリモルの塩化マグネシウム、1.0ミリモルのジチオスレイトール(DTT))中で24時間透析される。そして、この溶液は毎分10万回転で100分間遠心分離され、タンパク質上澄み液が抽出される。タンパク質の濃度および純度は紫外可視分光法を使用して計測された。すべての作業は摂氏4度で実施された。
【0027】
ナノ乳化物の生成および断片化
ナノ乳化物は、高圧マイクロ流体装置による極度の流れを使用して生成される(Meleson, K.・Graves, S.・Mason, T. G.(2004)「Formation of Concentrated Nanoemulsions by Extreme Shear」, Soft Materials 2, pp.109-123)。多分散乳化物は、超遠心分離法を使用して大きさの断片化がなされ、より良い液滴均一性を達成し、SDSの濃度CSDSを設定する。タンパク質との混合および透析の前は、ナノ乳化物はCSDS=1ミリモルSDSであって臨界ミセル濃度より十分低く、Φ=0.05である。PDMS油(Gelest(会社名)より供給、粘度10センチストークス)は低蒸気圧力を有するので、カプシドタンパク質が存在しなくとも、これら顕微鏡測定の時間全体にわたり気化することはない。
【0028】
透析緩衝液
RNA再構成緩衝液(Adolph, K. W.・Butler, P. J.(1976)「Assembly of a Spherical Plant Virus」, Philos. Trans. R. Soc. Loncl. B 276, pp.113-122):pH=7.2、I=0.10モルの塩化ナトリウム、10ミリモルの塩化カリウム、5.0ミリモルの塩化マグネシウム、および1.0ミリモルのジチオスレイトール(DTT)であるトリス塩酸緩衝液。
空殻緩衝液:pH=4.8、I=1.0モルの塩化ナトリウムである50ミリモルの酢酸ナトリウム緩衝液
二量体緩衝液:pH=6.2、I=1.0モルの塩化ナトリウムである50ミリモルのリン酸ナトリウム緩衝液。
多重殻緩衝液:pH=4.8、I=0.1モルの塩化ナトリウムである50ミリモルの酢酸ナトリウム。
6角シート緩衝液:pH=6.2、I=0.1モルの塩化ナトリウムである50ミリモルのリン酸ナトリウム緩衝液。
後から4つの緩衝液は、1.0ミリモルのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)と1.0ミリモルのジチオスレイトール(DTT)をも含む。
【0029】
カプシド化の方法
10ミリモルSDSおよびΦ=0.05である一定分量が10マイクロリットルの貯蔵ナノ乳化物を単位ミリリットル当たり0.15マイクログラムの純化されたCCMVタンパク質に添加して、反応体積の合計を200マイクロリットルにする。混合物は1リットルの適切な緩衝液中において24時間摂氏4度で透析される。希釈および透析後のSDS濃度は約10−5モルであるので、バルク溶液中でのSDSとタンパク質との結合相互作用は最小化されるが、液滴の安定性は依然維持される。SDSの硫酸塩の頭基は、試験したpHのすべての範囲で負に帯電されたままである。希釈の後、油と水の境界面上におけるSDSの電荷密度は、単位ナノ平方メートル当たり約−0.1eであると推定される。
【0030】
透過型電子顕微鏡検査での染色と分析
メッシュサイズ400および外径3.0ミリメートルのPelco(登録商標)銅格子(Ted Pella社(会社名))は、パルロジオン(商品名)および炭素の薄膜で被覆される。格子は、サンプル沈殿の直前に、高電圧の交流を使用してグロー放電される。5マイクロリットルのサンプルを直接格子上に1分間放置した後、ワットマン4のろ過紙で吸引ろ過し、直ちに酢酸ウラニルの1%水溶液で1分間染色する。サンプルは空気乾燥され、加速電圧75kVで日立 H−7000(商品名)電子顕微鏡で観察される。ネガは現像され、画像解析のためにミノルタDiMAGE Scan MultiPro(商品名)で画像が取り込まれる。大きくぼやけた画像を取り除いて画像背景を平坦化するために、Adobe Photoshop(商品名)が使用される。カプソメアの暗い窪みの大きさと白い外環に対応する暗い中心を有する相関カーネルを使用して、相互相関フーリエ変換画像解析が適用される。
【0031】
蛍光顕微鏡観察
1ミリリットル当たり1.0ミリグラムのジメチルスルホキシド(DMSO)中に、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)と5(6)カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(5(6)FAM,SE)の貯蔵溶液を作った。pH7.2のRNA再構成緩衝液中で、解離されたCCMVタンパク質に5(6)FAM、SEの一定分量が添加される。FITC貯蔵溶液の他の一定分量が解離されたCCMVタンパク質に添加され、pH8.2のリン酸塩緩衝液50ミリリットル中で平衡化される。タンパク質と染料が混合され、8時間後に、pHを低減させつつFITCで標識化されたタンパク質がRNA再構成緩衝液中に透析される。蛍光で標識化されたタンパク質の両セットは、合計反応体積が200マイクロリットル中で、1.0ミリモル濃度のSDS(またはCTAB)およびΦ=0.05の10マイクロリットルのマイクロスケールの乳化物と混合され、RNA再構成緩衝液を使用して透析される。蛍光顕微鏡画像は、液滴の端面の強い蛍光を介して液滴表面に標識化されたタンパク質の存在を明らかにする。標識化されたタンパク質の欠如したマイクロスケールの乳化物はこの蛍光を示さない。したがって、天然ウイルスよりもはるかに大きい液滴は、アニオン性界面活性剤の第1の内層と、ウイルスタンパク質の第2の外層とからなる二重層によって被覆されることができる。タンパク質の吸着は、液滴界面への、および液滴境界面からの界面活性剤の平衡交換を抑制しがちである。このタンパク質の吸着は、タンパク質で修飾された液滴を囲む溶液中の広範囲なイオン強度にわたりpHが中性または酸性の状態では通常は不可逆である。集積後、タンパク質で修飾された液滴は、溶液の状態を天然ウイルス粒子の分解を引き起こす領域に導くことによって分解させることができる。
【0032】
結果および考察
アニオンにより安定化されたナノ液滴は、カプシドタンパク質が集積できる広範囲な曲率を提供する非圧縮性の帯電した鋳型をもたらす。極度の乳化によって、CCMVと同じ程度に小さい(内径21ナノメートル、外径28ナノメートル)球形液滴からなる水中油ナノ乳化物を製造する(Mason, T. G.・Wilking, J. N.・K. Meleson, K.・Chang, C. B.・Graves, S. M.(2006)「Nanoemulsions: Formation, Structure, and Physical Properties」, J. Phys.: Condens. Matter 18, pp.R635-R666)。クリーム化の度合いの相違によるが、超遠心分離断片化は、10ナノメートル〜100ナノメートルの液滴半径を有する均一なナノ乳化物のモデルをもたらす(Meleson, K.・Graves, S.・Mason, T. G.(2004)「Formation of Concentrated Nanoemulsions by Extreme Shear」, Soft Materials 2, pp.109-123)。さらに、液滴の体積分率Φおよび界面活性剤濃度CSDSは、単独に設定することができる。表面張力に打ち勝ち、液滴を変形するために必要な応力に対応するラプラス圧力は、典型的には10気圧であるので、液滴は低濃度のΦのもとでは球形である。分子拡散による液滴の不要な成長をもたらすオストワルド熟成(Taylor, P.(2003)「Ostwald Ripening in Emulsions: Estimation of Solution Thermodynamics of the Disperse Phase」,『Adv. Colloid Interface Sci.』106, pp.261-285)を抑制するため、分散液体が連続液相において極めて不溶性であるように選択される。純粋な分解されたCCMVカプシドタンパク質を水中油ナノ乳化物と混合し、緩衝液のpHおよび塩化ナトリウムのイオン強度Iを透析により変更することによって、液滴表面上にタンパク質を集積させ、ウイルス状の液滴を生成する(図1参照)。ネガティブ染色されたVLDの透過電子顕微鏡写真は、個々の液滴の表面に環状のカプソメアを含む秩序立ったタンパク質構造の存在を明らかにする。構造の多様性を精査するために、タンパク質の周知の相挙動(Adolph, K. W.・Butler, P. J.(1974)「Studies on the Assembly of a Spherical Plant Virus. I. States of Aggregation of the Isolated Protein」, J. MoI. Biol. 88, pp.327-341、Adolph, K. W.・Butler, P. J.(1976)「Assembly of a Spherical Plant Virus」, Philos. Trans. R. Soc. Lond. B 276, pp.113-122、Bancroft, J. B.・Hills, G. J.・Markham, R.(1967)「A Study of the Self-Assembly Process in a Small Spherical Virus. Formation of Organized Structures from Protein Subunits in Vitro」,『Virology』31 pp.354-379)に対応する、「RNA再構成」(pH=7.2、I=0.1M)、「6角シート」(pH=6.2、I=0.1M)、「二量体」(pH=6.2、I=1.0M)、「多層殻」(pH=4.8、I=0.1M)、および「空殻」(pH=4.8、I=1.0M)の5つの異なる緩衝液条件で、SDSで被覆されたナノ液滴をカプシド化した。これらの緩衝液におけるネガティブ染色されたVLDの透過電子顕微鏡写真を図2(a)に示す。酢酸ウラニルの染色は被覆された液滴の核に貫通しないので、タンパク質で被覆されたナノ液滴は中心が顕著に明るく見え、空のカプシド殻との区別が可能である。液滴の端面周りのより暗い環の存在は、蒸発過程における水との接触線の後退により染色剤が捕捉されるためである。この染色と乾燥の過程により、各液滴の表面の片側半分だけが明瞭に見えるTEM画像がもたらされる。画像は他方の半分のタンパク質からの重要な信号を含んでいないので、秩序立った構造を推測する再構成方法に頼ることなく、個々の液滴のタンパク質の表面構造を識別し解明することが可能である。
【0033】
5つすべての緩衝液において、CCMVタンパク質は、ナノ液滴をその大きさにかかわらずカプシド化する(図2(a))。二量体緩衝液およびRNA再構成緩衝液は、タンパク質を喪失することなく、VLDを空殻中に効率的に生成する。多層殻緩衝液においては、1層、2層(支配的)および3層の殻で被覆されたナノ液滴が観察される(図2(b))。空殻および多層殻緩衝液条件においては、タンパク質が液滴の被覆に必要な量よりもわずかに超過したことにより、カプシド化された液滴と空殻とが観察される。
【0034】
乾燥過程でタンパク質が単に液滴表面上に沈殿するだけでなく、溶液中で液滴の周囲に実際に集積することを確認するために、RNA構成緩衝液で透析した後に、マイクロスケールのシリコーン油滴上のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識化されたCCMVカプシドタンパク質を調べた。強い蛍光が液滴表面から発散され(図2(a)挿入図)、標識化されたタンパク質で被覆されていることを示している。一方、カチオン性臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)界面活性剤で被覆された液滴がFITCで標識化されたCCMVタンパク質と混合され、同様に透析されたときは、表面蛍光は見られず、カチオン性界面活性剤はこの特定のタンパク質で修飾された液滴の生成には一般的に適さないことを示している。
【0035】
RNA再構成条件において、異なる曲率を有するナノ液滴上の秩序立ったおよび無秩序なタンパク質の構造および相対程度も調査した(図3)。個々のVLDの表面上の構造の画像を強調するために、背景を除去し、フーリエフィルタリングを使用して高周波ノイズを低減した。完全なカプソメアを、内部の暗い中心点および明るい環を囲んでいる暗い外溝を有する白い円環として識別した。より明るい領域は、表面から外方に突き出るタンパク質がより高密度であることを示し、より暗い領域は染色剤が局所的なくぼみに高度に集中しておりタンパク質がより低濃度であることを一般的に示している。液滴はCCMVよりも徐々に大きくなるので、より湾曲の少ない非圧縮性表面に、完全なカプソメアの存在が少なくなり、いくつかの他のタンパク質構造が観察される。特に、不完全なカプソメア、線形の瘢痕状の欠陥、および6角形の網状構造が、野生型CCMV上の正二十面体の秩序性と著しい対照をなして見られる。エネルギ最小化に基づけば、液滴の大きさが許容される統合三角分割数Tに対応するときは、秩序立ったカプソメアによる液滴のより大きな相対被覆率が期待される(Bruinsma, R. F.・Gelbart, W. M.・Reguera, D.・Rudnick, J.・Zandi, R.(2003)「Viral Self-Assembly as a Thermodynamic Process」, Phys. Rev. Lett. 90, Art. No. 248101 pp.1-4、Zandi, R.・Reguera, D.・Bruinsma, R. F.・Gelbart, W. M.・Rudnick, J.(2004)「Origin of Icosahedral Symmetry in Viruses」, Proc. Nat. Acad. Sci. 101, pp.15556-15560)かも知れないが(図3の下の目盛を参照)、これはカプソメアの構造および大きさが下層の曲率および核の圧縮性の程度によって影響されないと仮定しているからである。
【0036】
すべての緩衝液条件での実験では、許容されたTに対応する液滴上のカプソメアの高度な秩序度が明らかになっていないが、これは、試験したものとは異なるpHおよびIにおいて起こるかも知れない。
天然ウイルスの大きさに近い小さい液滴については、天然ウイルスに見られるようなカプソメアの局所的な六方充填配置(図4(a)左)を識別した。中心のカプソメアを取り囲む6つのカプソメアの数多くの例を見出したが、CCMVより極めて大きい液滴上に欠陥のない5配位のカプソメアは見出されなかった。隣接する6配位カプソメアの中心間距離の分布は図4(b)に示され、平均距離の9.5ナノメートルは、天然ウイルスで周知のもの(Speir, J. A.・Munshi, S.・Wang, G.・Baker, T. S.・Johnson, J. E.(1995)「Structures of the Native and Swollen Forms of Cowpea Chlorotic Mottle Virus Determined by X-Ray Crystallography and Cryo-Electron Microscopy」,『Structure』3, pp.63-78)と極めて良く一致する。
【0037】
多数のより大きい液滴においては、相互接続された白い境界、または「網」によって囲まれた暗い斑点の領域である6角形の網状構造のタンパク質を観察した。カプソメアに典型的な暗い外側の溝は無い。このタンパク質の網状組織は、通常局所的な6角形の6配位の秩序性を有するが、一般的に、これは欠陥によって秩序が乱され得る。網状組織中の最も近い斑点間の平均距離は4.7ナノメートルしかなく、カプソメアの中心間の距離の約半分である(図4(b))。これは、大きく湾曲した圧縮性表面上よりも、より平坦な非圧縮性表面上での異なる方法によるカプシドタンパク質の自己集積化と一致している(Bancroft, J. B.・Hills, G. J.・Markham, R.(1967)「A Study of the Self-Assembly Process in a Small Spherical Virus. Formation of Organized Structures from Protein Subunits in Vitro」,『Virology』31 pp.354-379)。
【0038】
タンパク質の6角形の網状構造の形成メカニズムは、下層の対称性および低曲率の非圧縮性表面上で自己集積したタンパク質のサブユニットの高密度な充填を考慮すれば理解できると考える。CCMVカプシドタンパク質は、結合した二量体の6角形カプソメアに自己集積化することが知られており(Tang, J.・Johnson, J. M.・Dryden, K. A.・Young, M. J.・Zlotnick, A.・Johnson, J. E.(2006)「The Role of Subunit Hinges and Molecular 'Switches' in the Control of Viral Capsid Polymorphism」,『J. Struct. Biol.』154, pp.59-67、Adolph, K. W.・Butler, P. J.(1974)「Studies on the Assembly of a Spherical Plant Virus. I. States of Aggregation of the Isolated Protein」,『J. MoI. Biol.』88, pp.327-341)、これはX線結晶学によって確認されている。この二量体は多くの緩衝液状態において単量体に対してエネルギ的に有利であり、1つのタンパク質の突出した腕はお互いに相手方の折り畳まれた領域に挿入され、吸引力で保持される。6つの結合した二量体は一体化し、歯車に似た構造の6つの突出した腕を有するカプソメアを形成することができる(図4(c)左下)。このようなカプソメア構造も、二量体の無秩序な集積に対してエネルギ的に有利である。このような歯車状の二量体の6角形のカプソメアが自己集積し、高密度に充填して平坦な表面を覆ったとき、隣接するカプソメアの中心間距離が半分のタンパク質が激減した領域を有する6角形配列のカプソメアが生成できる。この充填歯車構造は、タンパク質の濃度のより低い暗い斑点とタンパク質の濃度がより高く明るい網状の相互接続された6角形の網状との6角形配列が見られる網状組織の外見を呈する。平坦な表面上のタンパク質の自己集積化については、折り畳まれたカプシドタンパク質および二量体は単一の構造としてだけ存在し、野生型ウイルスの曲率に比較して大きい曲率を有する核構造上に5配位のカプソメアを集積するために必要な3つの周知の構造に変形しないと推測される。
【0039】
秩序立った網状組織に加えて、白い縁によって囲まれた暗い溝である細長いタンパク質の瘢痕が観察される。このタンパク質の瘢痕は、湾曲した液滴の表面上の単分散個体球の充填に見いだされる瘢痕欠陥(Bausch, A. R.・Bowick, M. J.・Cacciuto, A.・Dinsmore, A. D.・Hsu, M. F.・Nelson, D. R.・Nikolaides, M. G.・Travesset, A.・Weitz, D. A.(2003)「Grain Boundary Scars and Spherical Crystallography」,『Science』299, pp.1716-1718、Bowick, M.・Cacciuto, A.・Nelson, D. R.・Travesset, A.(2002)「Crystalline Order on a Sphere and the Generalized Thomson Problem」,『Phys. Rev. Lett.』89, Art. No. 185502 pp.1-4)、すなわち「ピカリングエマルジョン(Pickering emulsions)」の制御された亜種(Tarimala, S.・Dai, L. L.(2004)「Structure of Microparticles in Solid-Stabilized Emulsions」,『Langmuir』20, pp.3492-3494、Pickering, S. U.(1907)「Emulsions」,『J. Chem. Soc. Trans. Lond.』91, pp.2001-2021、Subramaniam, A. B.・Abkarian, M.・Stone, H. A.(2005)「Controlled Assembly of Jammed Colloidal Shells on Fluid Droplets」,『Nat. Mater.』4, pp.553-556)とある程度の類似を有するが、カプシドタンパク質の瘢痕は明らかに異なっている。タンパク質の瘢痕は、単に、不相応な大きさの液滴上で十分に形成された6角形の環状カプソメア間の線欠陥から成っているのではなく、カプソメア単位自身より小さな規模でのタンパク質の無秩序を示している。いくつかのメカニズムが組み合わされて瘢痕欠陥を生成し、それらは、二十面体構造に許容されるT数に対応する大きさに対して不相応な液滴の大きさ、および、いったん表面が完全に覆われるとタンパク質の再配向および再構成を強く抑制するタンパク質の無秩序な表面集積(surface jamming)である。
【0040】
結果の検討
二量体、部分的なカプソメア、および完全なカプソメアを含む種々のタンパク質構造は、非平衡ガラスおよびゲルの場合のように、曲率の小さな非圧縮性球体表面上に局所的に無秩序な状態で無秩序に集積(Liu, A. J.・Nagel, S. R.(1998)「Jamming Is Not Just Cool Any More」, Nature 396, pp.21-22)され得る。高密度で吸着したタンパク質は、RNAの周囲に形成するときのように、構造を変更したり、最低のエネルギの秩序状態に再編成したりすることができないので、追加的な欠陥が発生し得る。相対的なタンパク質の被覆率の制御、およびカプシド化過程の動態の検査は、秩序立ったおよび無秩序なタンパク質構造がVLDの表面にどのようにして発生するかについてより深い洞察力を提供するであろう。pHおよびイオン強度を調整することによって、制御された数のカプシド殻で、液滴、ナノ粒子、および合成高分子をカプシド化することが可能となり得る。
【0041】
個々のカプシド化されたナノ液滴のTEM画像を解明することによって、液滴表面上に、欠陥カプソメア、6角形の網状組織、および瘢痕を含むさまざまな新しい構造を明らかにした。これらの構造の発見は、湾曲した表面上のタンパク質構造の性質に対する極めて新しい洞察力を提供する。さらに、これは、非平衡タンパク質構造が非圧縮性帯電鋳型上の無秩序な表面集積(surface jamming)に起因してカプシド化されたナノスケールの対象上に存在し得ること、および完全二十面体殻の熱力学的自己集積はある限定条件においてのみ正しいことを示している。
【0042】
タンパク質で修飾された液滴の製造に有用なタンパク質は、以下のウイルスファミリのメンバであるウイルスから獲得され得る。それには、アデノウイルス科、アネロウイルス属、アレナウイルス科、アルテリウイルス科、アスコウイルス科、アスファウイルス科、アストロウイルス科、アブサンウイロイド、バキュロウイルス科、バルナウイルス科、ベニウイルス属、ビルナウイルス科、ボルナウイルス科、ブロモウイルス科、ブニヤウイルス科、カリシウイルス科、カリモウイルス科、チェラウイルス属(Cheravirus)、クリソウイルス科、サーコウイルス科、クロステロウイルス科、コモウイルス科、コロナウイルス科、コルチコウイルス科、シストウイルス科、デルタウイルス属、ジシストロウイルス科、エンドルナウイルス属、フィロウイルス科、フラビウイルス科、フレキシウイルス科、フロウイルス属、フセロウイルス科、ジェミニウイルス科、グッタウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヘペウイルス科、ヘルペスウイルス科、ホルデイウイルス属、ハイポウイルス科、イフラウイルス属、イノウイルス科、イリドウイルス科、レビウイルス科、リポスリクスウイルス科、ルテオウイルス科、マルナウイルス科、メタウイルス科、ミクロウイルス科、ミミウイルス属、マイオウイルス科、ナノウイルス科、ナルナウイルス科、ニマウイルス科、ノダウイルス科、オフィオウイルス属、オルトミクソウイルス科、ウルミアウイルス属、パピローマウイルス科、パラミクソウイルス科、パルティティウイルス科、パルボウイルス科、ペクルウイルス属、フィコドナウイルス科、ピコルナウイルス科、プラズマウイルス科、ポドウイルス科、ポリドナウイルス科、ポリオーマウイルス科、ポスピウイロイド、ポティウイルス科、ポックスウイルス科、シュードウイルス科、レオウイルス科、レトロウイルス科、ラブドウイルス科、リジディオウイルス属、ロニウイルス科、ルディウイルス科、サドワウイルス属、サルタープロウイルス属(Salterprovirus)、セキウイルス科、サイフォウイルス科、ソベモウイルス科、テクティウイルス科、テヌイウイルス属、テトラ、トバモウイルス属、トブラウイルス属、トガウイルス科、トンブスウイルス科、トティウイルス科、ティモウイルス科、アンブラウイルス属、バリコサウイルス属がある。タンパク質で修飾された液滴の製造に有用なタンパク質は、このリスト以外の他のウイルスファミリおよびまだ発見されず研究されていない他のウイルスファミリのメンバからも獲得され得る。
【0043】
ウイルスからのタンパク質に加えて、細菌、糸状菌、植物、動物、および海綿動物から得たタンパク質を、液滴表面とタンパク質の吸引相互作用によって生成されるのと同じようにそれらのタンパク質が液滴の表面近傍に運ばれるように効率的に隔離され、分離され、および操作され得るのであれば、タンパク質で修飾された液滴の製造に使用でき得る。
【0044】
タンパク質で修飾された液滴の製造に有用なタンパク質は、構造タンパク質、非構造タンパク質、被覆タンパク質、カプシドタンパク質、核タンパク質、外膜タンパク質、基質タンパク質、膜貫通タンパク質、膜結合タンパク質、非構造タンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質、糸状タンパク質、キャッピングタンパク質、架橋タンパク質、糖タンパク質、およびモータータンパク質を含むがこれに限定されない種々の機能を有してもよい。
【0045】
ここで提示されたタンパク質で修飾された液滴の例は、植物ウイルスファミリのメンバであるブロモウイルス科のササゲクロロティックモトルウイルス(CCMV)から純化された単一のカプシドタンパク質である。
ウイルスはカプシドタンパク質の1以上の型を有し得る。ここに示した特定の例においては、種々のウイルスカプシドタンパク質が帯電した液滴の表面に効率的に吸引されるタンパク質集積の鋳型として、ポリアニオン性遺伝物質ではなくポリアニオン性液滴で代用した。よって、2またはそれ以上のカプシドタンパク質を有するウイルスに対しては、異なるタンパク質の型の適切な化学量論比率が、液滴の修飾または包含の少なくとも一方をするために十分な構造的特徴を確実に提供することとなる。さらに、2またはそれ以上のカプシドタンパク質を自然に生成するウイルスに対しては、純化されたカプシドタンパク質の単一の型であっても、液滴の修飾または包含の少なくとも一方をするために十分であり、特定のウイルスからのカプシドタンパク質の相違する型のすべてを有することは必要ではない。主要な必要事項は、液滴表面の帯電、溶液のpH、ならびに溶液のイオン組成およびイオン強度が、タンパク質が液滴表面と吸引相互作用を行い、その後、当該液滴表面の近傍に留まるように調節されなければならないことである。
【0046】
いったん液滴の周囲にタンパク質の被覆が形成されると、タンパク質層を囲む脂質コーティング、リポタンパク質コーティング、または脂質タンパク質コーティングをさらに形成し、これによりエンベロープウイルスに似た全体構造を形成することになるいくつかの応用に有利である。よって、この構造には、内部の液滴核、一般には核に吸着する表面活性剤、表面活性剤で覆われた液滴核を囲むタンパク質の層、ならびに脂質、リポタンパク質または脂質タンパク質の層が含まれる。
【0047】
エンベロープ層の有無にかかわらず、より高度な生物における特定の組織または器官による特定のウイルスの選択的摂取および局所化はよく知られており、E. K. Wagner・M. J. Hewlett(2004) Basic Virology 第2版, Blackwell Publishingのような本において論じられている。タンパク質で修飾された液滴は、生物有機体に対し、遺伝物質を含む自然発生ウイルス粒子が示すのと同じタンパク質構造を示すので、タンパク質で修飾された液滴の選択的摂取および局所化は、同じタンパク質を示す天然ウイルス粒子で見られるのと同じ組織および器官に発生する。
【0048】
本発明は、ここに例として示された特定の実施例には限定されず、請求項によって定義される。本技術分野において通常の知識を有する者は、ここで議論された例示に対する種々の変更および代案が、本発明の範囲および一般概念から逸脱することなく可能であることを認識するであろう。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体物質から成る液滴と少なくとも部分的に前記液滴を包み込むように形成されたタンパク質構造とから成るタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造は前記タンパク質構造形成過程で前記液滴の少なくとも1領域に親和性を有する複数のタンパク質分子から成り、前記液滴は少なくとも約1ナノメートルから約1000ナノメートル以下の最大寸法を有するタンパク質で修飾された液滴。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記液滴が少なくとも5ナノメートル以上100ナノメートル以下の最大寸法を有するタンパク質で修飾された液滴。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造は第1の液体物質の核を実質的に包囲するタンパク質で修飾された液滴。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記液滴の前記液体物質が、疎水性物質から成るタンパク質で修飾された液滴。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記液滴の前記液体物質が、油、シリコーン油、炭化水素油、石油、燃料油、ワックス、油脂、フッ素化油、不揮発性油、揮発性油、芳香油、植物性原料由来の油、動物性原料由来の油、天然源由来の油、蒸留油、抽出油、調理油、食物油、潤滑油、主な組成が炭化水素である反応物質、エポキシ材料、粘着性物質、重合性物質、サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶、酸性油、塩基性油、中性油、天然油、重合油、合成油から成る物質のグループから選択された少なくとも1つの物質から成るタンパク質で修飾された液滴。
【請求項6】
請求項5に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記液滴の前記液体物質が、さらに前記少なくとも1つの物質中に分散可能な生理活性物質から成るタンパク質で修飾された液滴。
【請求項7】
請求項6に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記生理活性物質が、薬物分子、抗癌分子、治療用分子、ホルモン分子、アゴニスト分子、アンタゴニスト分子、阻害分子、抑制分子、増感剤分子、抗鬱分子、抗ウイルス分子、抗真菌剤分子、抗細菌分子、生物学的利用能強化分子、RNA結合分子、DNA結合分子、毒素分子、色素分子、蛍光分子、生体分子、栄養素、ビタミン、香味料、酵素、放射性同位元素、非放射性同位元素、ナノ粒子、および画像コントラスト強化剤から成る物質のグループから選択されるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項8】
請求項3に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造がタンパク質分子の単分子層であるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項9】
請求項3に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記複数のタンパク質分子が少なくとも部分的に秩序立ったタンパク質構造を形成するタンパク質で修飾された液滴。
【請求項10】
請求項9に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記複数のタンパク質分子が、タンパク質2量体、3量体、4量体、5量体、6量体、7量体、8量体、ペントン、ヘキソン、繊維、網状構造、およびカプソメアから成る部分構造のグループからの少なくとも1つの集積されたタンパク質部分構造を含むンパク質で修飾された液滴。
【請求項11】
請求項3に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造が複数のタンパク質層であるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項12】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造を形成する複数のタンパク質分子が自然発生的なタンパク質分子であるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項13】
請求項12に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造が特定形式の細胞内構造、特定形式の細胞、特定の生物組織、および特定の生物器官の少なくとも1つに選択的に侵入し、集中することで知られるウイルスカプシドタンパク質から形成されるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項14】
請求項12に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記自然発生的なタンパク質分子が複数のウイルスカプシドタンパク質分子であるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項15】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造を形成する複数のタンパク質分子が複数の合成ポリペプチド分子であるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項16】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記液滴が疎水性の物質の合成物から成るタンパク質で修飾された液滴。
【請求項17】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記液滴が前記液体物質に吸着した両親媒性表面活性分子から成り、前記両親媒性表面活性分子が前記複数のタンパク質分子を吸引するのに適した電荷を有するタンパク質で修飾された液滴。
【請求項18】
請求項17に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記両親媒性表面活性分子がアニオン性界面活性分子であるタンパク質で修飾された液滴。
【請求項19】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、脂質分子、リポタンパク質分子、膜タンパク質、および前記タンパク質構造に付着した抗原の少なくとも1つをさらに含むタンパク質で修飾された液滴。
【請求項20】
請求項3に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造上に形成された脂質膜をさらに含むタンパク質で修飾された液滴。
【請求項21】
請求項1に記載のタンパク質で修飾された液滴であって、前記タンパク質構造を形成する前記複数のタンパク質分子が複数の相違する形式のタンパク質分子から成るタンパク質で修飾された液滴。
【請求項22】
含水溶液中に分散された複数のタンパク質で修飾された液滴から成る合成物であって、前記タンパク質で修飾された液滴のそれぞれが、液体物質から成る液滴と、前記液滴を少なくとも部分的に包み込むように形成されたタンパク質構造とから成り、前記タンパク質構造は前記タンパク質構造形成過程で前記液滴の少なくとも1領域に親和性を有する複数のタンパク質分子から成り、前記液滴は少なくとも約1ナノメートルから約100ナノメートル以下の最大寸法を有する合成物。
【請求項23】
タンパク質で修飾された液滴の製造方法であって、
第1および第2の非混和性液体物質を供給する段階と、
前記第1および第2の非混和性液体物質の少なくとも一方に安定化剤を添加する段階と、
前記安定化剤によって安定化された前記第1の液体物質中で前記第2の液体物質のそれぞれが少なくとも約1ナノメートルから約100ナノメートル以下の寸法を有する複数の液滴を形成するために前記第1および第2の液体物質を乳化する段階と、
前記乳化の前および後の少なくとも一方にタンパク質分子を添加する段階と、
前記複数の液滴のそれぞれを少なくとも部分的に包み込むようなタンパク質構造の形成を許容する段階と、を含み、添加される前記安定化剤およびタンパク質分子は前記安定化剤が前記液滴に付着するときに互いに相互静電吸引力を有する種類のものである方法。
【請求項24】
請求項23に記載のタンパク質で修飾された液滴の製造方法であって、前記タンパク質構造のそれぞれが対応する液滴の外側に位置する外殻構造である方法。
【請求項25】
請求項23に記載のタンパク質で修飾された液滴の製造方法であって、中に前記複数のタンパク質で修飾された液滴が形成された前記第1の液体物質を蒸発させる段階をさらに含み、前記タンパク質構造が前記タンパク質で修飾された液滴の合体を抑制する方法。
【請求項26】
請求項23に記載のタンパク質で修飾された液滴の製造方法であって、透析、滴定、混合、前記第1の液体物質中のイオン濃度の変更、前記第1の液体物質中のpHの変更、前記第1の液体物質の緩衝液の種類の変更、および前記第1の液体物質中における化学反応の誘発の少なくとも1つから成る前記第1の液体物質中でのタンパク質分子の凝集を誘発する段階をさらに含む方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−524945(P2010−524945A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504092(P2010−504092)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/005011
【国際公開番号】WO2008/130624
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(508255090)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (9)
【Fターム(参考)】