説明

タンパク質の担体への固定化方法、タンパク質を固定化した担体及びタンパク質を固定化した担体を用いた被検物質の測定試薬

【課題】本発明は、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させ、このシグナル配列を有するタンパク質を担体に固定化する方法、該方法により遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有する分泌タンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を固定化した担体、及び該担体を用いた被検物質の測定試薬を提供する。
【解決手段】遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させ、このシグナル配列を有するタンパク質を担体に固定化することを特徴とするタンパク質の固定化方法、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を固定化した担体、及び遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を固定化した担体を含むことを特徴とする被検物質の測定試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させ、このタンパク質を担体に固定化する方法、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を固定化した担体、及び遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を固定化した担体を用いた被検物質の測定試薬に関する。
本発明は、臨床検査、免疫学、及び医学などの生命科学分野、分析化学などの化学分野、食品衛生分野、並びに環境衛生分野等において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の固定化方法には、共有結合法及び架橋法等の化学的結合法、並びに物理的吸着法等が知られている。
これらの固定化方法のうち、共有結合法は担体からのタンパク質の脱離が極めて少ないという利点をもつが、担体に対するタンパク質の固定化量が比較的少なく、固定化する際の化学反応によってタンパク質が変性したり、タンパク質の生理学的活性の低下が起こりやすい。また、架橋法は多量のタンパク質を必要とする上効率が悪く、固定化する際にタンパク質の生理学的活性の低下が起こりやすい。
これに対して物理的吸着法は、操作が簡便で短時間にタンパク質を担体に固定化できることや、担体に対してタンパク質を均一に固定化できること、担体に対するタンパク質の固定化量が比較的多いことなどから、一般的に広く利用されている。
【0003】
一方、被検物質に対する特異的結合物質であるタンパク質を固定化した担体を使用して、試料中の被検物質を測定する測定方法、又は測定試薬が繁用されている。例えば、抗原と抗体、糖とレクチン、ヌクレオチド鎖とそれに相補的なヌクレオチド鎖、リガンドとレセプター等の特異的な親和性を有する物質間の反応を利用した試料中に含まれる微量の被検物質の測定方法及び測定試薬は種々のものが知られている。
これは、試料中に含まれる被検物質と、この被検物質に対する特異的結合物質との結合の有無、又は結合の量を測ることにより、試料中に含まれる被検物質の有無の測定〔定性測定〕、又はその含有量(濃度)の測定〔定量測定〕を行うものである。
例えば、抗原と抗体の間の抗原抗体反応(免疫反応、免疫学的反応)を利用した免疫学的測定方法(免疫学的測定試薬)においては、ラテックス粒子を担体として使用するラテックス比濁測定方法(測定試薬);ラテックス粒子、有機高分子粒子、無機粒子、金属粒子、若しくは赤血球などを担体として使用する間接凝集反応測定方法(測定試薬);マイクロタイタープレート、ビーズ、粒子、試験管、若しくは容器などを担体として使用する酵素免疫測定法、発光免疫測定法などの標識免疫測定法(測定試薬);又は、セルロース、若しくは不織布などを担体として使用するイムノクロマトグラフィー法(測定試薬)等が繁用されている。
これらの測定方法又は測定試薬においては、多くの場合、被検物質に対する特異的結合物質であるタンパク質が固定化された担体を使用する。しかしながら、担体への被検物質に対する特異的結合物質であるタンパク質の固定化に物理的吸着法を使用した場合、被検物質に対する特異的結合物質であるタンパク質の種類によっては担体への固定化が難しいものもあった。また、一度固定化したタンパク質が脱離してしまうこともあった。
そして、この被検物質に対する特異的結合物質であるタンパク質の担体への固定化が十分でないと、この固定化された担体を使用して試料中の被検物質の測定を行う場合には、測定反応の際に生成するシグナルの量が減少してしまうことにより測定の感度が低下してしまう恐れがあった。この場合、被検物質を含む試料の測定においても、被検物質が含まれていないという誤った測定結果(偽陰性)が得られる可能性があり、特に臨床検査等においては患者などの疾病の診断を誤らせる危険性を含むものであった。(一定の測定感度が得られず正確な測定を行うことが困難な場合もあった。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したように、タンパク質の固定化方法のうち、共有結合法は、担体に対するタンパク質の固定化量が比較的少なく、固定化する際の化学反応によってタンパク質が変性したり、タンパク質の生理学的活性の低下が起こりやすいという問題があった。また、架橋試薬等による化学的結合法は、多量のタンパク質を必要とする上に効率が悪く、固定化する際にタンパク質の生理学的活性の低下が起こりやすいという問題点があった。
更に、物理的吸着法においても、タンパク質の種類によっては担体への固定化が難しいという問題点があった。また、一度固定化したタンパク質が脱離してしまうという問題点があった。
従って、本発明の課題は、タンパク質の担体への固定化方法、タンパク質が固定化された担体、及びタンパク質が固定化された担体を使用した被検物質の測定試薬において、タンパク質を担体に容易に固定化し、かつタンパク質の生理学的活性を低下させたり、変性させたりすることなく長期間固定化することができる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質を、シグナル配列を有した状態で発現させて担体に固定化すると、この担体への固定化を容易かつ多量に行うことができ、更にこの固定化を長期間安定に保つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させ、このシグナル配列を有するタンパク質を担体に固定化することを特徴とするタンパク質の固定化方法である。
【0007】
また、本発明は、タンパク質を固定化した担体であって、このタンパク質が遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質であることを特徴とする、タンパク質を固定化した担体である。
【0008】
更に、本発明は、タンパク質を固定化した担体を含む被検物質の測定試薬であって、このタンパク質が遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質であることを特徴とする、被検物質の測定試薬である。
【0009】
本発明においては、前記タンパク質が膜タンパク質又は分泌タンパク質であることが好適である。
【0010】
また、本発明においては、前記タンパク質が被検物質に対する特異的結合物質であることが好適である。
【0011】
更に、本発明においては、被検物質がトレポネーマ・パリダムに対する抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質がトレポネーマ・パリダムの抗原であることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の、タンパク質の担体への固定化方法、タンパク質が固定化された担体、及びタンパク質が固定化された担体を用いた被検物質の測定試薬では、タンパク質としてシグナル配列を有するタンパク質を使用するため、タンパク質の担体への固定化が容易に、かつ多量に行えるものである。
また、本発明のタンパク質が固定化された担体、及び測定試薬の保存中に、タンパク質を固定化した担体からタンパク質が脱離してしまうことを防止し、タンパク質を担体に長期間安定に固定化しておくことができるものである。これにより前記測定試薬の測定の感度の低下を防いで前記測定試薬の安定化が図られ、長期間、正確な被検物質の測定結果を得ることができるという効果を有するものである。
更に、本発明では、そのタンパク質がもともと有しているシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を用いて担体に固定化を行う。このため、そのタンパク質と本来関係がないペプチドを結合させたタンパク質の場合に考えられる立体障害等によりタンパク質の構造又は機能に障害が起きてしまう可能性が少なく、従って、そのタンパク質が本来持っている酵素反応又は抗原抗体反応等を固定化後も十分に発揮することができるものである。
また、本発明では、タンパク質の担体への固定化を容易にできるため、担体に対する固定化量が少なくてすむものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明及び比較例の測定試薬を用いて、試料中のトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定して結果を示した図である。
【図2】本発明、比較例及び対照の測定試薬を用いて、試料中のトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定して結果を示した図である。
【図3】本発明の測定試薬の保存安定性の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔1〕発明の基本要件
本発明の「タンパク質の担体への固定化方法」、「タンパク質を固定化した担体」、及び「タンパク質を固定化した担体を含む被検物質の測定試薬」においては、担体に固定化するタンパク質は、その遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質であり、このシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質を担体に固定化するものである。
【0015】
〔2〕遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質
本発明において、担体に固定化するタンパク質は、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質である。
この遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質としては、その遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するもの、すなわち、成熟型タンパク質のN末端側にシグナル配列を有するものであれば、どのような種類のタンパク質でも用いることができる。
なお、シグナル配列とは、タンパク質がN末端側に有している、細胞質膜の脂質二重層を通過する際に必要な15〜30個程度のアミノ酸残基のことである。このシグナル配列の中央部には疎水性アミノ酸残基が連続する疎水性領域があり、N末端側には塩基性アミノ酸残基が存在しており、C末端側には親水的で側鎖の比較的小さいアミノ酸残基が存在している。また、このアミノ酸残基からなる配列の部分はシグナルペプチドと呼ばれている。
このシグナル配列は、タンパク質が細胞質膜の脂質二重層を通過する際の先導役を務めると考えられており、通常、タンパク質が細胞質膜を通過した後に、シグナルペプチダーゼによって切断・除去される。
よって、生体内で作られ細胞質膜の表面に付着しているか、内部に埋もれているもの、又は細胞質外に分泌された成熟型タンパク質は、シグナル配列を有していない。
【0016】
また、本発明においては、タンパク質が、膜タンパク質又は分泌タンパク質であることが好ましい。
ここで、膜タンパク質とは、生体膜を構成しているタンパク質のことをいい、生体膜の表面に付着しているものを膜表在性タンパク質、内部に埋もれているものを膜内在性タンパク質と呼ぶ。
この膜タンパク質としては、例えば、各種酵素、レセプター、輸送体、イオンチャンネル、抗原タンパク質等を挙げることができる。
また、分泌タンパク質とは、細胞質膜外へ分泌されるタンパク質であり、細胞質内のリボソーム上で合成された後、細胞質外へ分泌されることにより成熟型タンパク質となるものをいう。
この分泌タンパク質としては、例えば、各種消化酵素、ペプチドホルモン類、抗体タンパク質、乳タンパク質、卵白タンパク質等を挙げることができる。
【0017】
また、本発明においては、タンパク質が、梅毒の原因菌として知られている、トレポネーマ・パリダム(Treponema Pallidum)の抗原タンパク質であることが好ましい。このトレポネーマ・パリダムの抗原タンパク質としては、トレポネーマ・パリダムの表面抗原タンパク質である15Kダルトン抗原タンパク質、17Kダルトン抗原タンパク質、又は47Kダルトン抗原タンパク質等が知られている。なお、これらの表面抗原タンパク質は、膜表在性タンパク質である。
また、これら表面抗原タンパク質のアミノ酸配列や塩基配列は既に報告されている。(15Kダルトン抗原タンパク質:Molecular Microbiology 4巻,1371〜1379頁,1990年、17Kダルトン抗原タンパク質:Infection and Immunity 61巻,1202〜1210頁,1993年、47Kダルトン抗原タンパク質:Infection and Immunity 60巻,1568〜1576頁,1992年)
【0018】
なお、小胞体、ゴルジ体、リソソームに局在するタンパク質のうち、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を含んでいるものについても、本発明におけるタンパク質ということができる。
【0019】
〔3〕担体
本発明において、担体は、少なくともタンパク質を固定化する箇所の表面が疎水性であることが好ましい。
なお、担体において、表面が疎水性であるとは、その表面が疎水性の材質よりなるか、又はその表面に疎水性の物質又は官能基が結合若しくは被覆されて疎水性の性質が付与されていること等を挙げることができる。
このような担体としては、以下記載したような、免疫学的測定方法、免疫学的測定試薬等において通常用いられている担体等を挙げることができる。
【0020】
本発明における担体としては、例えば、ラテックス比濁法に使用されているラテックス粒子、又はラテックス比濁法に使用することが可能な粒子を挙げることができる。
このようなラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレン・ラテックス粒子、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体・ラテックス粒子、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体・ラテックス粒子、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体・ラテックス粒子、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体・ラテックス粒子、ポリアクロレイン・ラテックス粒子、スチレン−メタクリル酸共重合体・ラテックス粒子、スチレン−グリシジル(メタ)アクリル酸共重合体・ラテックス粒子、メタクリル酸重合体・ラテックス粒子、又はアクリル酸重合体・ラテックス粒子などの合成高分子粒子を均一に懸濁させたラテックス粒子等を挙げることができる。
このラテックス粒子の粒径については、特に制限はない。
なお、ラテックス比濁法を測定原理として被検物質の測定を行う場合、ラテックス粒子が被検物質を介して結合し、凝集塊を生成する程度、及びこの生成した凝集塊の測定の容易さ等の理由より、ラテックス粒子の粒径は、その平均粒径が0.04〜1μmであることが好ましい。
また、被検物質の測定試薬において、「被検物質に対する特異的結合物質を固定化したラテックス粒子」を含ませる濃度であるが、これは、被検物質の種類と試料中の濃度、被検物質に対する特異的結合物質の種類とラテックス粒子表面上での分布密度、ラテックス粒子の粒径、試料と前記測定試薬の混合比率等の各種条件により最適な濃度は異なるので一概にいうことはできない。
しかし、通常は、試料と被検物質の測定試薬が混合され、ラテックス粒子に固定化された「被検物質に対する特異的結合物質」と試料中に含まれていた「被検物質」との特異的な結合反応が行われる測定反応時に、「被検物質に対する特異的結合物質を固定化したラテックス粒子」の濃度が、反応混合液中において0.005〜1%(w/v)となるようにするのが一般的であり、この場合、反応混合液中においてこのような濃度になるような濃度の「被検物質に対する特異的結合物質を固定化したラテックス粒子」を前記被検物質の測定試薬に含ませる。
【0021】
また、本発明における担体としては、例えば、ゼラチン粒子などを用いる粒子凝集反応測定法又はラテックス凝集反応測定法などの間接凝集反応測定法に使用されている粒子、又はこの間接凝集反応測定法に使用することが可能な粒子等を挙げることができる。
このような粒子としては、例えば、ポリスチレン、リポソーム、ラテックス、ゼラチン、ポリアクリルアミド、マイクロカプセル若しくはエマルジョン等の有機高分子物質よりなる粒子、ガラス、シリカゲル、カーボン若しくはベントナイト等の無機高分子物質よりなる粒子又はその他の人工担体等を挙げることができる。
更に、粒子として、色素を被覆するか又は色素を粒子中に分散若しくは封入させることにより着色したものを使用してもよい。
こららの粒子の粒径については、特に制限はない。
しかし、これらの粒子の粒径としては、その平均粒子径が0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましく、0.5〜10μmの範囲内にあることがより好ましい。
また、これらの粒子の比重は、1〜10の範囲内にあることが好ましく、1〜2の範囲内にあることがより好ましい。
【0022】
また、本発明における担体としては、例えば、間接凝集反応測定法に使用されている容器、又はこの間接凝集反応測定法に使用することが可能な容器等を挙げることができる。
このような容器としては、例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル又はポリメタクリレートなどからなる試験管、マイクロプレート(マイクロタイタープレート)又はトレイ等を挙げることができる。
なお、前記容器の溶液収容部分(マイクロプレートのウェル等)の底面は、U型、V型又はUV型等の底面中央から周辺にかけて傾斜をもつ形状であることが好ましい。
【0023】
また、本発明における担体としては、例えば、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、若しくは発光免疫測定法などの標識物質を用いる免疫測定法、すなわち標識免疫測定法に使用されている担体、又はこの標識免疫測定法に使用することが可能な担体等を挙げることができる。
このような担体としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ラテックス、リポソーム、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス等の材質よりなる粒子、マイクロカプセル、ビーズ、マイクロプレート(マイクロタイタープレート)、試験管、スティック又は試験片等を挙げることができる。
【0024】
また、本発明における担体としては、例えば、特開平9−229936号公報及び特開平10−132819号公報などに記載された被検物質(被検物質)に対する特異的結合物質が固定化され被覆された面を有する担体並びに被検物質(被検物質)に対する特異的結合物質が固定化された粒子を用いる測定法に使用される担体、又はこの測定法に使用することが可能な担体等を挙げることができる。
このような担体としては、例えば、ポリスチレン、ガラス、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート等の非吸水性の材質が挙げられる。
【0025】
また、以上記載した担体を強磁性体で被覆又は担体成型時に強磁性体を含有させて調製した磁性担体等を用いることもできる。
なお、本発明においては、担体がポリスチレンであることが好ましい。
【0026】
〔4〕遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させる方法
本発明において、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させるためには、例えば、遺伝子工学技術として知られている方法等の通常の方法を用いればよい。
例えば、まずタンパク質の遺伝子(成熟型タンパク質の遺伝子のN末端側にシグナル配列を有するもの)をクローニングし、得られた遺伝子をプラスミド等の発現ベクターへ組み込む。この発現ベクターを大腸菌等の宿主細胞に導入し、得られた形質転換体を培養することにより遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させることが出来る。
遺伝子の塩基配列をクローニングする方法としては、例えば、PCR法、リコンビナントPCR法、ライゲーション法、リンカーライゲーション法等を挙げることができる。例えば、PCR法を用いる場合には、天然のタンパク質の遺伝子の塩基配列をプライマーを用いて増幅させる事により、シグナル配列を有した状態で遺伝子の塩基配列を得ることが出来る。
例えば、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するトレポネーマ・パリダム表面抗原タンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させるための方法を17Kダルトン抗原タンパク質を例にして説明すると、まず、PCR法を用いて天然の17Kダルトン抗原タンパク質の遺伝子の塩基配列中の「シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の遺伝子の塩基配列」のみを、プライマーを用いて増幅することにより、「シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の遺伝子の塩基配列」を得る。このようにして得られた「シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の遺伝子の塩基配列」をライゲーション法等により発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを大腸菌に導入し、得られた形質転換体を培養することにより、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させることができる。
【0027】
〔5〕シグナル配列を有するタンパク質を担体へ固定化する方法
本発明において、シグナル配列を有するタンパク質を担体に固定化するには、シグナル配列を有するタンパク質を担体に接触させることにより、行うことができる。
【0028】
例えば、担体が容器である場合には、緩衝液等に溶解したシグナル配列を有するタンパク質を、容器の溶液収容部分に添加し内壁面に接触させたり、又は担体が粒子である場合には、シグナル配列を有するタンパク質と粒子とを緩衝液等の溶液中で混合し接触させた後に、これを約2℃〜約40℃で約10分〜約1日間行うことにより、担体への固定化を行うことができる。
【0029】
また、更に非特異的反応や担体の自然凝集等を抑制するために処理を行う必要があれば、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミン若しくはその塩などのタンパク質、界面活性剤又は脱脂粉乳等を接触させ被覆させること等の公知の方法により、シグナル配列を有するタンパク質を固定化させた担体のブロッキング処理(マスキング処理)を行ってもよい。
なお、本発明においては、担体に固定化するタンパク質がシグナル配列を有しているため、このシグナル配列部分の疎水性により担体表面と疎水性相互作用により強くかつ安定的に結合、吸着し、脱離を起こし難いものと推測される。
【0030】
〔6〕被検物質の測定試薬
本発明の被検物質の測定試薬は、タンパク質を固定化した担体を含む被検物質の測定試薬であって、このタンパク質が遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質であることを特徴とするものであり、「被検物質に対する特異的結合物質を固定化した担体」として、「シグナル配列を有するタンパク質を固定化した担体」を用いて、試料中の被検物質の測定を行うための測定試薬である。
【0031】
〔7〕被検物質
1.被検物質
本発明の被検物質の測定試薬において、被検物質とは、試料中におけるその存在の有無、又は含有量(濃度)を測定しようとする物質である。
【0032】
この被検物質としては、被検物質に対する特異的結合物質としてのシグナル配列を有するタンパク質を固定化した担体を含む被検物質の測定試薬を使用して測定を行うことができるものであれば如何なるものでもよい。
【0033】
この被検物質を例示すると、例えば、タンパク質、糖質、脂質、又は核酸などのような有機物質等を挙げることができる。
【0034】
この被検物質としては、ウイルス関連の抗原若しくは抗体、又は細菌関連の抗原若しくは抗体等が好適であるが、特にトレポネーマ・パリダムに対する抗体(抗トレポネーマ・パリダム抗体)である場合が好適である。
【0035】
2.試料
本発明において、試料とは、前記の被検物質が存在する可能性があり、かつその被検物質の存在の有無、又は含有量(濃度)の測定を行おうとするものをいう。
【0036】
例えば、ヒト又は動物の血液、血清、血漿、尿、精液、髄液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト若しくは動物の脳等の臓器、毛髪、皮膚、爪、筋肉、又は神経組織等の抽出液;ヒト又は動物の糞便の抽出液又は懸濁液;細胞或いは菌体の抽出液等を挙げることができる。
【0037】
〔8〕被検物質に対する特異的結合物質
本発明の被検物質の測定試薬において、被検物質に対する特異的結合物質とは、前記の被検物質に特異的な親和性を有し結合することができる物質のことである。
なお、本発明の被検物質の測定試薬においては、「被検物質に対する特異的結合物質」として、「シグナル配列を有するタンパク質」を固定化した担体を用いることは必須であるが、更に同一又は異なる「被検物質に対する特異的結合物質」を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
また、この被検物質に対する特異的結合物質としては、例えば、被検物質が抗原である場合にはこの抗原に対する抗体、被検物質が抗体である場合にはこの抗体に対する抗原若しくはこの抗体に対する抗体、被検物質がタンパク質などよりなる物質である場合にはそのリガンド、被検物質が糖である場合にはこの糖と結合するレクチン、又は被検物質がレセプターである場合にはこのレセプターに対する物質等を挙げることができる。
【0039】
すなわち、被検物質に特異的な親和性を有し結合することができる物質であれば、特に制限なく、被検物質に対する特異的結合物質として、本発明において用いることができる。
【0040】
なお、本発明においては、被検物質が抗原であり、被検物質に対する特異的結合物質が前記抗原に対する抗体である場合が好適である。
【0041】
ここで、抗体としては、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体のいずれでもよく、そしてこれらの断片〔F(ab)’又はFab’など〕等でもよい。
【0042】
また、本発明においては、被検物質が抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質が前記抗体に対する抗原、又は前記抗体に対する抗体である場合が好適である。
【0043】
この被検物質が抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質が前記抗体に対する抗原である場合、この「前記抗体に対する抗原」は、遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものであってもよい。
【0044】
そして、この遺伝子組み換え法などにより人為的に調製した「前記抗体に対する抗原」は、他のタンパク質と融合しているものであってもよく、この融合させる他のタンパク質としては、例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースバインディングプロテイン(MBP)、チオレドキシン、β−ガラクトシダーゼ、ラクターゼ、ビオチン化タンパク、プロテインA、又はジーン10等を挙げることができる。
【0045】
これをより具体的に例示すると、例えば、被検物質がトレポネーマ・パリダムに対する抗体である場合、被検物質に対する特異的結合物質として、シグナル配列を有するトレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原にマルトースバインディングプロテイン(MBP)が融合しているもの、又はシグナル配列を有するトレポネーマ・パリダムの47Kダルトン抗原にグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)が融合しているもの等を挙げることができる。
【0046】
なお、本発明においては、被検物質がトレポネーマ・パリダムに対する抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質がトレポネーマ・パリダムの抗原である場合が好適である。
【0047】
なお、前記のトレポネーマ・パリダムの抗原としては、例えば、15Kダルトン抗原、17Kダルトン抗原、又は47Kダルトン抗原等を挙げることができる。
【0048】
これらのトレポネーマ・パリダムの各抗原は、遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものであってもよい。
【0049】
そして、この遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したトレポネーマ・パリダムの抗原は、例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースバインディングプロテイン(MBP)、チオレドキシン、β−ガラクトシダーゼ、ラクターゼ、ビオチン化タンパク、プロテインA、又はジーン10等の他のタンパク質と融合しているものであってもよい。
【0050】
なお、本発明においては、以上の被検物質に対する特異的結合物質として用いるトレポネーマ・パリダムの抗原のうち、担体に固定化するものの少なくとも1種類はシグナル配列を有するものである必要がある。
【0051】
〔9〕測定試薬
1.測定試薬の測定原理(測定方法)
本発明におけるタンパク質を固定化した担体は、試料中の被検物質を測定する測定試薬に使用することができる。
例えば、担体に固定化された「被検物質に対する特異的結合物質」としての「シグナル配列を有するタンパク質」と試料中に含まれていた「被検物質」との特異的な結合反応を利用して、試料中の被検物質の測定を行う方法を測定原理とする測定試薬に使用することができる。
【0052】
なお、この「被検物質に対する特異的結合物質」と「被検物質」との特異的な結合反応としては、例えば、抗原と抗体の抗原抗体反応(免疫反応)、タンパク質などよりなる物質とそのリガンドとの反応、糖とレクチンの反応、又はレセプターとそれに対する物質の反応等を挙げることができる。
【0053】
そして、このような結合反応を利用して、試料中の被検物質の測定を行う方法の例としては、例えば、免疫学的測定方法等を挙げることができる。
【0054】
なお、この免疫学的測定方法としては、例えば、ラテックス比濁法;ラテックス凝集反応測定法などの間接凝集反応測定法;酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、若しくは発光免疫測定法などの標識物質を用いる免疫測定法、すなわち標識免疫測定法;ウエスタンブロット法;Dahlbeackらが示したELSA法(enzyme-linked ligandsorbent assay)〔Thromb.Haemost.,79巻,767〜772頁,1998年、及びWO98/23963号公報〕;又は特開平9−229936号公報及び特開平10−132819号公報等に記載された被検物質に対する特異的結合物質が固定化され被覆された面を有する担体並びに被検物質に対する特異的結合物質が固定化された粒子を用い、該粒子が担体の被検物質に対する特異的結合物質が固定化され被覆された面に集まるか否かにより測定を行う方法等を挙げることができる。
【0055】
そして、前記の標識免疫測定法であるが、これは、サンドイッチ法、競合法、又は均一系法(ホモジニアス系法)等のいずれの手法においても本発明を適用することができる。
【0056】
2.測定試薬
本発明における被検物質の測定試薬は、前記した測定方法を測定原理とすることができるものであって、遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質を、シグナル配列を有した状態で発現させたシグナル配列を有するタンパク質を固定化した担体を含む被検物質の測定試薬である。
【0057】
なお、本発明における被検物質の測定試薬は、そのもの単独にて、販売し、又は試料中の被検物質の測定に使用することができる。
また、本発明における被検物質の測定試薬は、他の試薬と組み合わせて、販売し、又は試料中の被検物質の測定に使用することもできる。
【0058】
前記の他の試薬としては、例えば、緩衝液、試料希釈液、試薬希釈液、標識物質を含有する試薬、発色などのシグナルを生成する物質を含有する試薬、又は校正(キャリブレーション)を行うための物質を含有する物質の試薬等を挙げることができる。
【0059】
そして、前記の他の試薬を第1試薬とし、本発明における被検物質の測定試薬を第2試薬としたり、又は本発明における被検物質の測定試薬を第1試薬とし、前記の他の試薬を第2試薬としたりして、適宜様々な組合せにて販売、及び使用を行うことができる。
【0060】
なお、本発明における被検物質の測定試薬の溶媒としては、各種の水系溶媒を用いることができる。
【0061】
この水系溶媒としては、例えば、精製水、生理食塩水、又は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液、若しくはリン酸緩衝生理食塩水などの各種緩衝液等を挙げることができる。
【0062】
この緩衝液のpHについては、適宜適当なpHを選択して用いればよく、特に制限はないものの、通常は、pH3〜12の範囲内のpHを選択して用いることが一般的である。
【0063】
なお、本発明における被検物質の測定試薬のpHは、アルカリ性領域のpHを用いる方が、測定試薬の安定化効果を高めることができるので好ましい。例えば、pHがpH7.3以上であるとより好ましい。
【0064】
また、本発明における被検物質の測定試薬には、前記の被検物質に対する特異的結合物質であるタンパク質を固定化した担体の他に、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、カゼイン若しくはその塩などのタンパク質;前記の陽イオン及び陰イオン以外の各種塩類;各種糖類;脱脂粉乳;正常ウサギ血清などの各種動物血清;アジ化ナトリウム若しくは抗生物質などの各種防腐剤;活性化物質;反応促進物質;ポリエチレングリコールなどの感度増加物質;非特異的反応抑制物質等の1種又は2種以上を適宜含有させてもよい。
【0065】
そして、これらを被検物質の測定試薬に含有させる際の濃度は特に限定されるものではないが、0.001〜10%(w/v)が好ましく、特に0.01〜5%(w/v)が好ましい。
【0066】
〔10〕試料中の被検物質の測定
本発明における被検物質の測定試薬を用いて、試料中の被検物質の測定を行うには、その被検物質の測定試薬の測定原理である測定方法の操作法に従って測定操作を行えばよい。
【0067】
この測定は、用手法により行ってもよいし、又は分析装置等の装置を用いて行ってもよい。
【0068】
また、この測定は、1ステップ法(1試薬法)により行ってもよいし、又は2ステップ法(2試薬法)等の複数の操作ステップにより行う方法によって実施してもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により更に説明する。
なお、本発明は、これらにより限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1〕
(シグナル配列を有するトレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原タンパク質を固定化した担体の調製、及びこの担体を含むトレポネーマ・パリダムに対する抗体の測定試薬の調製)
【0071】
1.シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化プレートの調製
【0072】
(1)遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の調製
トレポネーマ・パリダムを継代培養したウサギ睾丸の破砕物より、トレポネーマ・パリダム菌体を抽出し、遺伝子の塩基配列を抽出した。17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列は、既述のように既に知られており、その全塩基配列とアミノ酸配列は配列表の配列番号1及び配列番号2に示すとおりである。なお、配列番号1中の22番目の配列(tgt/Cys)は成熟型17Kダルトン抗原タンパク質のN末端であり、1から21番目の配列(atg/Metからttg/Leu)がシグナル配列である。
この抽出した配列番号1に示したシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列の両端の20塩基程度のオリゴヌクレオチドを各々プライマーとして合成した。ここで抽出された前記のシグナル配列を有する塩基配列を鋳型とし、上記のプライマーを用いて、PCR法によりシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列を増幅した。次に、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)の塩基配列を含むベクター(ファルマシア社製;pGEX4T3)に、上記で得られた塩基配列を挿入した。このベクターを大腸菌に導入し、菌体の培養を行った。その後、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質が十分に発現した大腸菌を超音波処理により破砕し、これを遠心分離しその上清を、グルタチオンセファロース4Bカラムにかけた。洗浄後、グルタチオン溶液を流すことによりGSTを融合したシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を溶出した。これを透析して、グルタチオンを除いた後、トロンビンを添加し、GSTとシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を切断した。再度、グルタチオンセファロース4Bカラムにかけ、素通り画分を回収することにより、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を得た。
【0073】
(2)洗浄液の調製
0.02%(w/v)Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水を調製し、洗浄液とした。
【0074】
(3)ブロッキング液の調製
0.5%(w/v)カゼインナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水を調製し、ブロッキング液とした。
【0075】
(4)シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化プレートの調製
前記(1)のシグナル配列を有する17Kダルトン抗原を、0μg/mL、0.03125μg/mL、0.0625μg/mL、0.125μg/mL、0.25μg/mL、0.5μg/mL、1μg/mL、2μg/mLとなるように、リン酸緩衝生理食塩水に加えた。これをELISA用プレートS(住友ベークライト社製)のウェルに各50μLずつ分注し、その後4℃で一晩放置して、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を各ウェルの内壁に固定化させた。
【0076】
次に、このELISA用プレートSの各ウェル内の液を除き、前記(2)の洗浄液で2回洗浄した。
その後、各ウェルに前記(3)のブロッキング液を200μLずつ分注して、各ウェルのブロッキングを行った。
そして、このプレートの各ウェル内の液を除き、前記洗浄液で2回洗浄を行った。
以上の操作により調製したものを、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化プレートとした。
【0077】
2.POD標識抗体の調製
(1)POD標識抗体希釈液
0.5%(w/v)カゼインナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水を調製し、POD標識抗体希釈液とした。
【0078】
(2)POD標識抗体の調製
POD標識ウサギ抗ヒトIgG抗体溶液(ダコ社製;P0406)を前記(1)で調製したPOD標識抗体希釈液で1000倍に希釈し調製した。
【0079】
〔実施例2〕
(ELISA法によるトレポネーマ・パリダムに対する抗体の測定)
本発明の被検物質の測定試薬を用いて、被検物質であるトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定した。
【0080】
1.測定
0.5%(w/v)カゼインナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水で2000倍希釈したTP抗体陽性血清50μLを、前記実施例1の1で調製したシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化プレートの各ウェルに添加し、37℃で4時間反応させた。
その後、このプレートのウェル内の血清液を除き、前記洗浄液で洗浄した。
更に、前記実施例1の2で調製したPOD標識ウサギ抗ヒトIgG抗体溶液を各ウェルに50μLずつ添加し、室温で4時間反応させた。
次いで、各ウェルを前記洗浄液にて洗浄した。
【0081】
この後、発色液(4mMο−フェニレンジアミン基質液を含む103mMリン酸水素二ナトリウム−49mMクエン酸緩衝液の1mLに対して33μLの0.3%過酸化水素を使用直前に添加したもの)100μLを各ウェルに添加し、室温で20分間反応させた後、4N硫酸水溶液50μLを各ウェルに添加し、反応を停止させた。
その後、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製;3550型)を用いて各ウェルの490nmの吸光度を測定した。
【0082】
2.測定結果
前記1において、試料中の被検物質(トレポネーマ・パリダムに対する抗体)の測定を行って得られた吸光度を、表1及び図1に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
なお、この図において、横軸はプレートのウェルに固定化を行った時の17Kダルトン抗原タンパク質の濃度、縦軸は490nmにおける吸光度の測定値を表す。
【0085】
〔比較例〕
実施例1における、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列の代わりに、シグナル配列を除去した17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列を用いたこと以外は、実施例1と同様にして測定試薬を調製し、このシグナル配列を有していないトレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原タンパク質を固定化したプレートを含む測定試薬を用いて実施例2の記載に従って、被検物質であるトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定した。測定結果を表1及び図1に示した。
【0086】
◎実施例2及び比較例における測定結果についての考察
表1及び図1より、比較例のシグナル配列を有していない17Kダルトン抗原タンパク質固定化プレートを含む測定試薬においては、固定化のためプレートのウェルに接触させた17Kダルトン抗原タンパク質の濃度が増加しても、吸光度の増加が見られない。すなわちプレートに対するシグナル配列を有していない17Kダルトン抗原タンパク質の固定化が困難であり、十分行われていないため、測定反応の際に生成するシグナル(吸光度)の量がわずかしか生じず、測定の感度が低下してしまっていることが分かる。
【0087】
これに対して、本発明のシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化プレートを含む測定試薬においては、固定化のためプレートのウェルに接触させた17Kダルトン抗原タンパク質の濃度に応じて、得られる吸光度が増加しており、プレートにシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質が容易に、かつ多量に固定化されていることが分かる。
【0088】
従って、プレートへの固定化にシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を使用することにより、抗原タンパク質をプレートに十分に固定化することができ、試料中の被検物質を高感度に測定できることが確かめられた。
そして、本発明の測定試薬により、試料中のトレポネーマ・パリダムに対する抗体を正確に測定できることが確かめられた。
【0089】
〔実施例3〕
(シグナル配列を有するトレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子の調製、及びこの粒子を含むトレポネーマ・パリダムに対する抗体の測定試薬の調製)
【0090】
1.シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子の調製
【0091】
(1)洗浄液の調製
実施例1と同様に調製した。
【0092】
(2)ブロッキング液の調製
実施例1と同様に調製した。
【0093】
(3)シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子の調製
実施例1で得られたシグナル配列を有する17Kダルトン抗原と、磁性粒子〔ダイナル社製;Dynabeads M-450 uncoated、粒径:4.5μm、粒径のC.V.5%以下、比重1.5、濃度6%(w/v)〕とを抗原タンパク質濃度200μg/mL、粒子濃度6%となるように混合し、室温で1時間反応させた。その後、上清を除去し、前記(2)のブロッキング液を約20倍量加えて37℃で一晩放置し、ブロッキングを行った。
その後、得られた粒子を前記(1)の洗浄液にて洗浄した。この粒子を粒子濃度が0.2%(w/v)となるように50mMグリシン緩衝液(pH9.5)に分散させ、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子を調製した。
【0094】
2.POD標識抗体の調製
【0095】
(1)POD標識抗体希釈液
実施例1と同様に調製した。
【0096】
(2)POD標識抗体の調製
POD標識ウサギ抗ヒトIgG抗体溶液(ダコ社製;P0406)を前記(1)で調製したPOD標識抗体希釈液で500倍に希釈し調製した。
【0097】
〔実施例4〕
(ELISA法によるトレポネーマ・パリダムに対する抗体の測定)
本発明の被検物質の測定試薬を用いて、被検物質であるトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定した。
【0098】
1.測定
0.5%(w/v)カゼインナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水で2000倍希釈したTP抗体陽性血清500μLと、実施例3の1で調製したシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子150μLとを混合し、室温で1時間反応させた。その後、遠心分離により粒子のみを取り出し、この粒子を前記の洗浄液で洗浄した。
更に、実施例3の2で調製したPOD標識ウサギ抗ヒトIgG抗体溶液500μLを添加し、室温で1時間反応させた。
次いで、遠心分離により粒子のみを取り出し、粒子を洗浄液にて洗浄した。
【0099】
この後、発色液(4mMο−フェニレンジアミン基質液を含む103mMリン酸水素二ナトリウム−49mMクエン酸緩衝液の1mLに対して33μLの0.3%過酸化水素を使用直前に添加したもの)100μLを添加し、37℃で20分間反応させた後、4N硫酸水溶液50μLを添加し、反応を停止させた。
その後、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製;3550型)を用いて上清の490nmの吸光度を測定した。
【0100】
2.測定結果
前記1において、試料中の被検物質(トレポネーマ・パリダムに対する抗体)の測定を行って得られた吸光度を、表2及び図2に示した。
【0101】
【表2】

【0102】
なお、この図において、縦軸は490nmにおける吸光度の測定値を表す。
【0103】
〔比較例〕
実施例1における、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列の代わりに、シグナル配列を除去した17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列を用いたこと以外は、実施例3と同様にして測定試薬を調製し、このシグナル配列を有していないトレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原タンパク質を固定化した粒子を含む測定試薬を用いて実施例4の記載に従って、被検物質であるトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定した。測定結果を表2及び図2に示した。
【0104】
〔対照〕
また、対照として、実施例3の手順に順じ、17Kダルトン抗原タンパク質を固定していない磁性粒子、及びPOD標識抗体等の測定試薬を調製し、この測定試薬を用いて実施例4の記載に従って、被検物質であるトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定した。測定結果を表2及び図2に示した。
【0105】
◎実施例4及び比較例における測定結果についての考察
表2及び図2より、比較例の測定試薬を使用して得られた吸光度は、本発明の測定試薬を使用して得られた吸光度の37%にとどまっている。すなわち、粒子に対するシグナル配列を有していない17Kダルトン抗原タンパク質の固定化が困難であり、十分でないため、測定反応のシグナル(吸光度)の生成が低いものにとどまり、測定の感度が低下してしまっていることが分かる。
【0106】
これに対して、本発明のシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子を含む測定試薬においては、得られる吸光度は高いものであり、粒子にシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質が容易に、かつ多量に固定化されていることが分かる。
【0107】
従って、粒子への固定化にシグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を使用することにより、抗原タンパク質を粒子に十分に固定化することができ、試料中の被検物質を高感度に測定できることが確かめられた。
そして、本発明の測定試薬により、試料中のトレポネーマ・パリダムに対する抗体を正確に測定できることが確かめられた。
【0108】
〔実施例5〕(トレポネーマ・パリダムに対する抗体の測定試薬の保存安定性の確認)
【0109】
前記実施例3と同様に調製した、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質固定化粒子を含む測定試薬を、5℃で長期間保存し、保存時の安定性の確認を行った。
【0110】
1.測定試薬の保存
前記実施例3の1及び2で調製した測定試薬を、5℃で1年間保存した。
【0111】
2.測定試薬の安定性の確認
調製直後及び保存後の前記測定試薬の各々を用いて試料中の被検物質(トレポネーマ・パリダムに対する抗体)の測定を行い、前記測定試薬の保存時の安定性の確認を行った。
【0112】
3.試薬
下記の測定試薬を用いた。
(1)前記1における5℃での保存1年後の測定試薬。
(2)測定試薬調製直後すなわち保存開始前の測定試薬。
【0113】
4.試料
トレポネーマ・パリダムに対する抗体を含むヒト血清を試料として用いた。
【0114】
5.試料中の被検物質(トレポネーマ・パリダムに対する抗体)の測定
前記(1)及び(2)の測定試薬を用いて、実施例4の記載に従って、被検物質であるトレポネーマ・パリダムに対する抗体を測定した。
【0115】
6.測定結果
前記5において、試料中の被検物質(トレポネーマ・パリダムに対する抗体)の測定を行って得られた吸光度を、表3及び図3に示した。
【0116】
【表3】

【0117】
7.まとめ
表3及び図3より、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を粒子に固定化した測定試薬においては、5℃での保存1年後に得た吸光度の値は、調製直後(保存開始前)の吸光度の値の100.6%であり、長期間保存した後においても測定試薬は安定であり、正確な測定値を得られることが分かる。
【0118】
従って、シグナル配列を有する17Kダルトン抗原タンパク質を用いることにより、粒子(担体)への固定化を容易に、かつ多量に行えるだけでなく、前記タンパク質を粒子(担体)に長期間安定に固定化しておくことができることが確かめられた。
【配列表フリーテキスト】
【0119】
配列番号1:トレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原タンパク質の塩基配列
配列番号2:トレポネーマ・パリダムの17Kダルトン抗原タンパク質のアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させ、このシグナル配列を有するタンパク質を担体に固定化することを特徴とするタンパク質の固定化方法。
【請求項2】
タンパク質が膜タンパク質又は分泌タンパク質であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の固定化方法。
【請求項3】
タンパク質が被検物質に対する特異的結合物質であることを特徴とする請求項1又は2記載のタンパク質の固定化方法。
【請求項4】
被検物質がトレポネーマ・パリダムに対する抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質がトレポネーマ・パリダムの抗原である、請求項3記載のタンパク質の固定化方法。
【請求項5】
タンパク質を固定化した担体であって、このタンパク質が遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質であることを特徴とする、タンパク質を固定化した担体。
【請求項6】
タンパク質が膜タンパク質又は分泌タンパク質であることを特徴とする請求項5記載のタンパク質を固定化した担体。
【請求項7】
タンパク質が被検物質に対する特異的結合物質であることを特徴とする請求項5又は6記載のタンパク質を固定化した担体。
【請求項8】
被検物質がトレポネーマ・パリダムに対する抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質がトレポネーマ・パリダムの抗原である、請求項7記載のタンパク質を固定化した担体。
【請求項9】
タンパク質を固定化した担体を含む被検物質の測定試薬であって、このタンパク質が遺伝子の塩基配列中にシグナル配列を有するタンパク質をシグナル配列を有した状態で発現させたタンパク質であることを特徴とする、被検物質の測定試薬。
【請求項10】
タンパク質が膜タンパク質又は分泌タンパク質であることを特徴とする請求項9記載の被検物質の測定試薬。
【請求項11】
タンパク質が被検物質に対する特異的結合物質であることを特徴とする請求項9又は10記載の被検物質の測定試薬。
【請求項12】
被検物質がトレポネーマ・パリダムに対する抗体であり、被検物質に対する特異的結合物質がトレポネーマ・パリダムの抗原である、請求項11記載の被検物質の測定試薬

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−7759(P2013−7759A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223696(P2012−223696)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2001−254816(P2001−254816)の分割
【原出願日】平成13年8月24日(2001.8.24)
【出願人】(000131474)株式会社シノテスト (28)