説明

タンパク質の製造方法

【課題】本発明は、動物細胞を培養して有用タンパク質を製造する方法において、分離膜を用いる連続濾過培養によって目的の有用タンパク質を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、動物細胞の連続濾過培養により有用タンパク質を製造する方法において、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の有機高分子分離膜を用いて膜間差圧を0.1kPaから20kPaの範囲で濾過処理することにより、長期間安定した培養を行って生産効率よく有用タンパク質を製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液の濾過に多孔性膜を使用した動物細胞の連続培養によるタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞を培養して、タンパク質を製造する培養方法は、大きく(1)回分培養法(Batch培養法)および流加培養法(Fed−Batch培養法)と(2)濾過培養法に分類することができる。
【0003】
回分および流加培養法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し、雑菌汚染による被害が少ないというメリットがある。しかし培養期間とともに、培養液中の栄養源が枯渇していき、また一方で動物細胞の産生するアンモニア、乳酸などの老廃物が培養液に蓄積し、細胞増殖を阻害する。また、これらの細胞増殖阻害は、細胞密度を低下させ培養容積当たりのタンパク質の製造効率を低下させる要因となる。
【0004】
一方、濾過培養法では、栄養源が枯渇し、蓄積した老廃物を、目的タンパク質を含む培養液から濾過処理により間欠的にあるいは連続的に除去し、その代わりに新鮮培地を供給することで、培養槽内での老廃物の蓄積を回避させつつ、細胞の生存率、細胞密度、およびタンパク質の生産性を高い状態で維持することができる。これにより、動物細胞のタンパク質の生産性を、長期間にわたって維持できるという特徴がある。
【0005】
このような動物細胞の濾過培養法では、動物細胞と培養液を分離する分離装置を培養槽内あるいは培養槽外に設置する必要がある。この分離装置として、これまで有機高分子膜、デプスフィルター、セラミックフィルター、金属フィルターを用いた例が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの従来技術において、培養経過に伴う分離膜の目詰まりが課題としてあった。分離膜の目詰まりは、動物細胞と培養液の分離ができなくなるばかりではなく、膜間差圧を高める要因となる。従来技術として、細孔径が0.25μm以下の分離膜を使用して、細菌を培養し、化合物を製造する例が開示されているが、細菌と培養液の膜分離において、高い膜間差圧(約200kPa)が必要であった(特許文献1)。高い膜間差圧は、コスト的にも不利であるばかりでなく、濾過処理において動物細胞が圧力によって物理的なダメージをうけることから、動物細胞を連続的に培養液に戻す濾過培養においては適切ではない。
【0007】
また、このような動物細胞培養時の分離膜の目詰まりを解消するために、膜分離装置自身が回転し、その遠心力を利用して膜の目詰まりを抑制する方法が開示されている(特許文献2,3)。しかしながら、上記手法においては、培養装置に新たな駆動箇所を設置する必要があり、特に大量培養用の装置には適応が困難である。
【0008】
また、動物細胞を濾過培養するための分離膜として、セラミックフィルター(非特許文献1)や金属フィルター(特許文献4)を使用した例が開示されているが、これらの分離膜装置は非常に高価なものとなる。また、これら分離膜は洗浄して、再利用することも可能であるが、多孔性形状であるため完全な洗浄操作は難しく、また洗浄操作をバリデーションすることも困難である。
【特許文献1】特開2005−333886号公報
【特許文献2】特開平10−216422号公報
【特許文献3】特開2000−32977号公報
【特許文献4】特開平6−237754号公報
【非特許文献1】ドング・ハオディら、Biotechnol.Prog.、2005,21,140−147
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであって、低い膜間差圧で、動物細胞と培養液とを濾過分離して、長期間培養を行うことができる分離膜を使用することで、従来技術と比べて効率的に動物細胞を培養してタンパク質製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満有機高分子からなる分離膜を作製し、これを用いることによって、動物細胞が培養液中に製造するタンパク質を効率的に製造できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔8〕から構成される。
〔1〕タンパク質を培養液中に生産する動物細胞の培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物であるタンパク質を回収するとともに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、新鮮培地を培養液に追加する連続濾過培養によりタンパク質を製造する方法であって、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、膜間差圧を0.1kPaから20kPaの範囲で濾過処理するタンパク質の製造方法。
〔2〕多孔性膜の純水透過係数が、2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下である〔1〕に記載のタンパク質の製造方法。
〔3〕多孔性膜の平均細孔径が0.01μm以上0.2μm未満の範囲内にあり、該平均細孔径の標準偏差が0.1μm以下である〔1〕または〔2〕に記載のタンパク質の製造方法。
〔4〕多孔性膜の膜表面粗さが0.1μm以下である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
〔5〕多孔性膜が多孔性樹脂層を含む多孔性膜である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
〔6〕多孔性膜の膜素材がポリフッ化ビニリデン系樹脂である〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
〔7〕動物細胞がハイブリドーマ細胞、CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞、Sf9細胞、Sf21細胞、Bm細胞の群から選ばれるいずれかの動物細胞である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
〔8〕タンパク質がモノクローナル抗体である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のタンパク質製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のタンパク質の製造方法では、培養液を濾過し、新鮮培地を培養液に供給することで、動物細胞におけるタンパク質の製造速度を高めることが可能で、効率的なタンパク質の製造が可能となる。本発明において動物細胞と培養液との分離に使用する分離膜は、動物細胞の濾過を非常に低い膜間差圧で実施することが可能である。したがって、従来の高い濾過圧を必要とする製造方法に比べ、動物細胞に与えるダメージが少なくて済むため、タンパク質製造効率が向上する。また、本発明で使用する分離膜は、目詰まりを起こしにくい膜であるので、濾過培養によるタンパク質の製造を、長期間安定してまた低い濾過圧で実施することが可能であり、非常に経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、タンパク質を培養液中に製造する動物細胞の培養液を分離膜で濾過し、濾液からタンパク質を回収するとともに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、新鮮培地を培養液に追加する連続培養によりタンパク質を製造する方法であって、分離膜として、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、膜間差圧を0.1から20kPaの範囲で濾過処理するタンパク質の製造方法である。
【0014】
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、培養に使用される動物細胞による目詰まりが起こりにくく、かつ、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましい。そのため、本発明で使用される多孔性膜は、その平均細孔径が0.01μm以上1μm未満であることが重要である。
【0015】
次に、本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について説明する。本発明における多孔性膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものであり、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜としての多孔性膜に強度を与えるものである。
【0016】
多孔質基材の材質は、有機材料および/または無機材料等からなり、中でも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布であり、中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
【0017】
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物からなるものであってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。中でも、多孔性膜を構成する多孔質樹脂層の素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
【0018】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、その他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0019】
本発明で用いられる多孔性膜の作製方法の概要を説明する。まず、上述した多孔質基材の表面に、上述した樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を多孔質基材に含浸させる。しかる後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液にさらに非溶媒を含ませることもできる。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、15〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。
【0020】
ここで、原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することにより、平均細孔径の大きさを制御することができる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
【0021】
また、溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。このような溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMFおよびDMSOが好ましく用いられる。
【0022】
さらに、原液には、非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水やメタノールおよびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、価格の点から水やメタノールが好ましい。非溶媒は、これらの混合物であってもよい。
【0023】
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
【0024】
上述のように、本発明で分離膜として用いられる多孔性膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜であることが望ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸膜の内部に含んでいても良い。
【0025】
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することも好ましい態様である。
【0026】
分離膜としての多孔性膜の平均細孔径が上記のように0.01μm以上1μm未満の範囲内にあると、動物細胞がリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。微生物として細菌類を用いた場合、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径を0.2μm未満にすることにより、分離膜を介した好ましくない細菌の混入あるいは流出を抑制することが可能になる。これにより、特に濾液からの細菌の混入のリスクを低減できる。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
【0027】
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
【0028】
また、上記の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができ、培養運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が望ましい。
【0029】
平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
【0030】
【数1】

【0031】
本発明で用いられる多孔性膜においては、培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましい。純水透過係数が2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましい純水透過係数は、2×10−9/m/s/pa以上1×10−7/m/s/pa以下である。
【0032】
本発明で用いられる多孔性膜の膜表面粗さは、分離膜の目詰まりに影響を与える因子である。好ましくは膜表面粗さが0.1μm以下のときに分離膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で連続培養が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることにより安定した濾過培養が可能になることから、表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
【0033】
また、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることにより、動物細胞の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、動物細胞の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
【0034】
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の装置と条件で測定することができる。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm 四方(気中測定)
5μm、10μm 四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製 測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、ろ過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いてろ過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
【0035】
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
【0036】
【数2】

【0037】
本発明において、動物細胞を分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、動物細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPa以下の範囲である。上記の膜間差圧0.1kPa以上20kPa以下の範囲を外れた場合、微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、濾過培養運転に不具合を生じることがある。
【0038】
濾過の駆動力としては、培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることが可能である。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。膜間差圧は、培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができる。また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができ、更に培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0039】
また、本発明において使用される多孔性膜は、濾過処理する膜間差圧として、0.1kPa以上20kPa以下の範囲で濾過処理することができる性能を有するものであることが好ましい。また、本発明で使用される多孔性膜は、上述のように、使用前の純水透過係数が、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上の範囲であることが好ましく、さらに2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下の範囲にあることが好ましい。
【0040】
本発明のタンパク質の製造方法に用いることができる動物細胞について説明する。本発明で使用される動物細胞には、哺乳動物由来細胞及び昆虫細胞のいずれも含まれる。また、本発明のタンパク質の製造方法で使用される動物細胞としては、タンパク質を培養液中に分泌する細胞または細胞内に蓄積する細胞のいずれも使用することができるが、前者の培養液にタンパク質を分泌生産する細胞であることが好ましい。
【0041】
本発明のタンパク質の製造方法に用いることができるタンパク質を分泌生産することができる好適な動物細胞種として、ハイブリドーマ細胞、CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞、Sf9細胞、Bm細胞などが使用される。これらの動物細胞は、接着依存性細胞と、浮遊細胞に分類される。本発明で使用される動物細胞は、接着依存性細胞および浮遊細胞の双方に使用可能である。ただし、接着依存性細胞に関しては、付着のための細胞支持体が存在しないと、増殖速度が極めて遅くなる。したがって、接着依存性細胞を接着状態で培養する際は、マイクロキャリアと呼ばれる細胞接着のための粒子を培養液に加えて培養することが好ましい。マイクロキャリアに関しては、“サイトデックス”(GEヘルスケア社製)、“セルヤードビーズ”(ペンタックス社製)、“2Dマイクロヘクス”(ヌンク社製)など一般に市販の製品を使用することができる。また、これらの接着依存性細胞は、攪拌培養あるいは振とう培養を行い、浮遊性の細胞を選択していくことで、浮遊細胞に馴化することも可能である。
【0042】
ハイブリドーマ細胞とは、2種類の異なる細胞株を人工的に融合した雑種細胞株のことをいう。特に本発明では、抗体生産細胞と、骨髄腫(ミエローマ)細胞との融合したハイブリドーマのことをいう。上記ハイブリドーマ細胞は、培養液中にタンパク質として、モノクローナル抗体を生産する。
【0043】
CHO細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞のことであり、チャイニーズハムスター卵巣組織から樹立された細胞株である。CHO細胞は、高いタンパク質生産能力を有する細胞であることから、タンパク質をコードする遺伝子を導入することで、タンパク質生産株として使用できる。
【0044】
HEK293は、ヒト胎児腎細胞をアデノウィルスのE1遺伝子によりトランスフォーメーションして樹立された細胞株のことをいう。
【0045】
COS細胞は、アフリカミドリザル腎臓由来の細胞株であって、複製開始点を欠失したSV40で形質転換した細胞株である。SV40の複製開始点をもつプラスミドDNAを核内増幅させることが可能である。
【0046】
Sf9細胞およびBm細胞は、双方とも鱗翔目昆虫由来細胞株であって、Sf9がヨトウガ卵巣由来細胞、Bm細胞がカイコガ卵巣由来細胞である。これらの細胞は、目的遺伝子を連結したバキュロウイルスベクターにより形質転換することができ、タンパク質を培養液に生産する細胞株を取得することが可能である。
【0047】
本発明のタンパク質の製造方法で製造されるタンパク質としては、上記動物細胞が培養液中に生産するタンパク質であって、サイトカイン類や抗体など挙げることができる。例えば、抗体としては、マウスハイブリドーマ細胞やラビットハイブリドーマ細胞、ヒトハイブリドーマ細胞などを用いることによってモノクローナル抗体の製造が可能である。また、マウスの可変領域とヒト定常領域を連結したキメラ抗体、あるいはマウス可変領域のフレームワーク領域(FR領域)を、ヒト由来FR配列に置換したヒト型抗体などもタンパク質として製造可能である。また、サイトカイン類としては、リンホトキシン、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー形成促進因子(G−CSF)、ウロキナーゼ、インターフェロン、プラスミノーゲン・アクチベーター、インターロイキン、エリスロポエチンなどが製造可能なタンパク質として例示できる。
【0048】
本発明のタンパク質の製造方法には、動物細胞を培養するための培地を使用する。本発明でいう培地は、(i)動物細胞の培養に使用している培地、すなわち培養液自体、(ii)動物細胞の培養に使用していないものであって培養液に外部より新たに追加する新鮮培地、の両方を意味する。本発明では、目的タンパク質の種類および濃度によって、血清培地、無血清培地、無タンパク質培地を選択して用いることができる。一般に、動物細胞を用いたタンパク質の製造には、無血清培地あるいは無タンパク質培地が好ましく使用される。これは無血清培地であると、動物細胞が培養液中に生産したタンパク質を効率的に精製することが可能となるためである。したがって、本発明の製造方法においても、無血清培地あるいは無タンパク質培地で動物細胞を培養した方が、タンパク質の精製が容易となるため好ましい。ただし、本発明の製造方法で使用する分離膜は、血清成分であるタンパク質成分をすべて透過させることができるので、分離膜を使用して血清培地を除去し、無血清培地を代わりに添加し、培養槽内で異なる成分の培地に交換することも可能である。このような培養方法は、無血清条件下で増殖性が低い動物細胞を用いてタンパク質を製造する際に、有効な手段である。すなわち、血清培地で動物細胞を高密度状態まで増殖させ、その後培地を無血清培地に変更しタンパク質の製造を行うことが可能である。
【0049】
本発明の濾過培養によるタンパク質の製造方法は、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性膜を使用し、濾過圧力である膜間差圧が0.1から20kPaの範囲で濾過処理することを特徴としている。そのため、特別に培養槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、濾過分離装置と培養槽間で培養液を循環させる動力手段が不要となる。分離膜エレメントは、培養槽の外側に設置しても良いし、培養槽内部に設置して培養装置をコンパクト化することもできる。
【0050】
まず、本発明の濾過培養によるタンパク質の製造方法で用いられる培養装置のうち、分離膜エレメントが、培養槽の外部に設置された代表的な一例を図1の概要図に示す。図1は、本発明で用いられる培養装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
【0051】
図1において、培養装置は、動物細胞を培養させるための培養槽1と、その培養槽1に培養液循環ポンプ11を介して接続され内部に分離膜エレメント2を備えた膜分離槽12と、培養槽1の内の培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。ここで、分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することが好適である。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
【0052】
図1において、培地供給ポンプ7によって培地を培養槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で培養槽1内の培養液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。また、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって培養液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって培養液の温度を調節することにより、生産性の高いタンパク質の製造を行うことができる。また、DO(溶存酸素)センサ23およびこれと連動するガス混合機によって、気体供給装置4を通じて培養液中にパージする酸素分圧を設定・制御することが可能である。さらに、装置内の培養液は、培養液循環ポンプ11によって培養槽1と膜分離槽12の間を循環する。タンパク質を含む培養液は、分離膜エレメント2によって動物細胞が濾過・分離され、タンパク質を含む培養液は装置系から取り出される。
【0053】
ここでは、計装・制御装置による培養液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度の調節を例示したが、必要に応じて、培養液の溶存酸素や酸化還元電位(ORP)の制御を行うことができ、更には、オンラインケミカルセンサーなどの分析装置により培養液中のタンパク質の濃度を測定し、それを指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入の形態に関しては、上記計装・制御装置による培養液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節することができる。
【0054】
また、濾過・分離された動物細胞は、装置系内に留まることにより装置系内の動物細胞濃度を高く維持することができ、生産性の高いタンパク質の製造を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は、膜分離槽12の水面との水頭差圧によって行なうことができ、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の培養液量を適当に調節することができる。また、必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を膜分離槽12内に供給することができる。
【0055】
上記のように、分離膜エレメント2による濾過・分離は、水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプや、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。このような手段により、膜間差圧を調整制御することができる。
【0056】
次に、本発明のタンパク質の製造方法で用いられる濾過培養装置のうち、分離膜エレメントが培養槽の内部に設置された代表的な一例を図2に示す。図2は、本発明で用いられる他の培養装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
【0057】
図2において、濾過培養装置は、動物細胞を培養させるための培養槽1と、その培養槽1の内の培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。培養槽1内には分離膜エレメント2が配設されており、その分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することができる。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
【0058】
次に、図2の濾過培養装置による培養の形態について説明する。培地供給ポンプ7によって、培地を培養槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地については、培養槽1に投入する前に、必要に応じて加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。製造時には、必要に応じて、培養槽1内の攪拌機5で培養槽1内の培養液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を培養槽1内に供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4によって供給することができる。また、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって培養槽1内の培養液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって培養槽1内の培養液の温度を調節することにより生産性の高い製造を行うことができる。また、DOセンサ23およびこれと連動するガス混合器、および気体供給装置4により、培養液中の溶存酸素濃度を一定にすることができる。
【0059】
計装・制御装置による培養液の物理化学的条件の調節には、図1の培養装置と同様の調節を行うことができる。
【0060】
培養液は、培養槽1内に設置された分離膜エレメント2によって、動物細胞は濾過・分離されタンパク質を含む培地は装置系から取り出される。また、濾過・分離された動物細胞は、装置系内に留まることにより装置系内の動物細胞濃度を高く維持することができ、生産性の高いタンパク質の製造を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は培養槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度およびよび培養槽1内の培養液量を適当に調節することができる。上記の分離膜エレメント2による濾過・分離は水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプや、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。
【0061】
本発明で用いられる分離膜エレメントの好適な形態の例である国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントについて、次に図面を用いてその概略を説明する。図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
【0062】
分離膜エレメントは、図3に示すように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と前記の分離膜15をこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。分離膜15は、培養液を濾過する。流路材14は、分離膜15で濾過された濾液を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた濾液は、支持板13の凹部16を通り、排出手段である集水パイプ17を介して濾過培養装置外部に取り出される。
【0063】
図4は、本発明で用いられる別の分離膜エレメントの他の実施の形態を説明するための概略斜視図である。分離膜エレメントは、図4に示すように、中空糸膜(多孔性膜)で構成された分離膜束18と上部樹脂封止層19と下部樹脂封止層20によって主に構成されている。分離膜束18は、上部樹脂封止層19および下部樹脂封止層20よって束状に接着・固定化されている。下部樹脂封止層20による接着・固定化は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の中空部を封止しており、培養液の漏出を防ぐ構造になっている。一方、上部樹脂封止層19は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の内孔を封止しておらず、集水パイプ22に濾液が流れる構造となっている。この分離膜エレメントは、支持フレーム21を介して濾過培養装置内に設置することが可能である。分離膜束18によって濾過されたタンパク質を含む濾液は、中空糸膜の中空部を通り、集水パイプ22を介して濾過培養装置外部に取り出される。濾液を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
【0064】
本発明のタンパク質の製造方法で用いられる濾過培養装置の分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作に耐性の部材であることが好ましい。濾過培養装置内が滅菌可能であれば、濾過培養時に好ましくない微生物による汚染の危険を回避することができ、より安定した濾過培養が可能となる。分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作の条件である、121℃で15分間に耐性であることが好ましい。分離膜エレメント部材には、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、PVDF、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂およびポリサルホン系樹脂等の樹脂を好ましく選定することができる。
【0065】
本発明のタンパク質の製造方法で用いられる濾過培養装置では、分離膜エレメントは、図1のように培養槽外に設置しても良いし、図2のように培養槽内に設置しても良い。分離膜エレメントを培養槽外に設置する場合には、別途、膜分離槽を設けてその内部に分離膜エレメントを設置することができ、培養槽と膜分離槽の間を培養液を循環させながら、分離膜エレメントにより培養液を連続的に濾過することができる。
【0066】
本発明のタンパク質の製造方法で用いられる濾過培養装置では、膜分離槽は、高圧蒸気滅菌可能なことが望ましい。膜分離槽が高圧蒸気滅菌可能であると、雑菌による汚染回避が容易である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、図1又は図2の概要図に示す装置を用いたタンパク質の製造例に関して、実施例を挙げて説明する。
【0068】
参考例1 多孔性膜の作製(その1)
樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂と、溶媒として、N,N−ジメチルアセトアミドをそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
【0069】
ポリフッ化ビニリデン:13.0重量%
N,N−ジメチルアセトアミド:87.0重量%。
【0070】
次に、上記原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質基材を得た。
【0071】
水:30.0重量%
N,N−ジメチルアセトアミド:70.0重量%。
【0072】
この多孔質基材をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬して、N,N−ジメチルアセトアミドを洗い出し、分離膜を得た。
【0073】
多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行った。観察できる細孔すべての直径の平均は、0.1μmであった。
【0074】
次に、上記分離膜について、純水透過係数を評価した。50×10-93/m2・s・Paであった。純水透過係数の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0075】
また、平均細孔径の標準偏差 は、0.035μm、膜表面粗さは0.06μmであった。このようにして作製した多孔性膜は、本発明に好適に用いることができた。
【0076】
参考例2 多孔性膜の作製(その2)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂と、開孔剤として、分子量が約20,000のポリエチレングリコール(PEG)と、溶媒として、N,N−ジメチルアセトアミドと、非溶媒として純水を、それぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
【0077】
ポリフッ化ビニリデン:13.0重量%
ポリエチレングリコール:5.5重量%
N,N−ジメチルアセトアミド:78.0重量%
純水:3.5重量%。
【0078】
次に、上記原液を25℃に冷却した後、密度が0.48g/cm、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、塗布後、直ちに25℃の純水中に5分間浸漬し、さらに80℃の熱水に3回浸漬して、N,N−ジメチルアセトアミドおよびポリエチレングリコールを洗い出し、分離膜を得た。
【0079】
この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行った。観察できる細孔すべての直径の平均は0.02μmであった。
【0080】
この分離膜について、純水透過係数を評価した。純水透過係数は、2×10−9/m・s・Paであった。純水透過係数の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0081】
平均細孔径の標準偏差 は、0.0055μm、膜表面粗さは、0.1μmであった。このようにして作製した多孔性膜は本発明に好適に用いることができた。
【0082】
参考例3 多孔性膜の作製(その3)
以下に示す組成の原液を用いたほかは、参考例3と同様にして、分離膜を得た。
【0083】
ポリフッ化ビニリデン:13.0重量%
ポリエチレングリコール :5.5重量%
N,N−ジメチルアセトアミド:81.5重量%。
【0084】
この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行った。観察できる細孔すべての直径の平均は0.19μmであった。
【0085】
この分離膜について、純水透過係数を評価したところ、100×10-93/m2・s・Paであった。純水透過係数の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0086】
また、平均細孔径の標準偏差は、0.060μm、膜表面粗さは、0.08μmであった。このようにして作製した多孔性膜は本発明に好適に用いることができた。
【0087】
参考例4 多孔性膜の作製(その4)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂と、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドをそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
【0088】
ポリフッ化ビニリデン:15.0重量%
N,N−ジメチルアセトアミド:85.0重量%。
【0089】
次に、上記原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質基材を得た。
【0090】
水:100.0重量%。
【0091】
この多孔質基材をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してN,N−ジメチルアセトアミドを洗い出し、分離膜を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.008μmであった。次に、上記分離膜について純水透水量を評価したところ、0.3×10−9/m・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差は、0.002μm、膜表面粗さは、0.06μmであった。
【0092】
参考例5 多孔性膜の作製(その5)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ-ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解し原液を作製した。この原液をγ-ブチロラクトンを中空部形成液体として随拌させながら口金から吐出し、温度20℃のγ-ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して中空糸膜を作製した。
【0093】
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社、CAP482−0.5)を1重量%、N-メチル-2-ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社、商品名イオネットT−20C)を5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して原液を調整した。この原液を中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させた中空糸膜を製作した。得られた中空糸膜は被処理水側表面の平均孔径が0.05μmであった。次に、上記分離膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10−9/m・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.006μmであった。
【0094】
参考例6 組換えモノクローナル抗体を生産するCHO細胞株の調製
(1)無血清培地への馴化
組換えモノクローナル抗体生産CHO細胞株としては、CHO DP12 clone#1934(細胞・微生物・遺伝子バンクであるAmerican Type Cell Culture Collection(ATCC)より、ATCC# CRL-12445として入手可能)を用いた。本細胞は、anti IL8 antibodyを生産し、そのIsotypeはhuman IgG1である。本細胞を撹拌培養可能な無血清培地への馴化を行った。無血清培地として、20μg/mLインスリンおよび抗生物質としてペニシリン(25U/mL)、ストレプトマイシン(25μg/mL)を添加したDMEM/F12(インビトロジェン社製)を準備した。CHO DP12 clone #1934は10%FBSを含むIMDM培地(血清培地)で継代しており、本細胞を用いて以下の方法で馴化した。無血清培地:血清培地=0:100(培地A),50:50(培地B),100:0(培地C)の混合液をそれぞれ用意し、250mL三角フラスコを用いて細胞接種時に細胞密度5×105cells/mLとなるように調製し、まず培地Aで37度5%CO2存在下細胞培養を行った。継代を4−6回行い、次に培地Bで37℃5%CO2存在下細胞培養を行った。継代を4−6回行い、次に培地Cで37℃5%CO2存在下細胞培養を行った。得られた細胞株を、「DP12/CHOSF」とした。これらの細胞は、20ug/mLインスリン存在下生育可能なインスリン要求性の細胞であり、浮遊性細胞である。
【0095】
(2)組換えモノクローナル抗体の定量
上記(1)の培養上清中に製造された組換えモノクローナル抗体(anti-IL8 antibody)の定量は、Human IgG ELISA kitによる測定により行った。
【0096】
参考例7 マウスモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞株の調製
(1)無血清培地への馴化
マウスモノクローナル抗体製造細胞として、マウスハイブリドーマ細胞株A−HER2(American Type Cell Culture CollectionよりATCC# CRL-10463として入手可能)を用いた。本細胞は、HER2受容体に対するマウスモノクローナル抗体を製造し、そのIsotypeはマウスIgG1である。本細胞を無血清培地への馴化を行った。無血清培地として、CD Hybridoma―SFM(インビトロジェン社製)を準備した。CD Hybridoma―SFMは、細胞増殖因子としてトランスフェリンおよびインシュリンを各10μg/mL含む無血清培地である。A-HER2は10%FBSを含むDMEM培地(血清培地)で継代しており、本細胞を用いて以下の方法で馴化した。無血清培地:血清培地=0:100(培地A),50:50(培地B),100:0(培地C)の混合液をそれぞれ用意し、250mL三角フラスコを用いて細胞接種時に細胞密度5×105cells/mLとなるように調製し、まず培地Aで37℃5%CO2存在下細胞培養を行った。継代を4−6回行い、次に培地Bで37℃5%CO2存在下細胞培養を行った。継代を4−6回行い、次に培地Cで37℃5%CO2存在下細胞培養を行った。得られた細胞株を、「A-HER2SF」とした。
【0097】
(2)マウスモノクローナル抗体の定量
上記(1)の培養上清中に製造されたマウスモノクローナル抗体(anti-HER2 antibody)の定量は、Mouse IgG ELISA kit(ロシュ社製)による測定により行った。
【0098】
参考例8 組換えネコエリスロポエチン(ネコEPO)を生産するCHO細胞株の調製
(1)CHO細胞へのネコEPO遺伝子およびマウスdhfr遺伝子のトランスフェクション
ネコEPO遺伝子およびマウスdhfr遺伝子をそれぞれ含む発現用遺伝子ベクターDNAをそれぞれ100μg,10μgを調製し、CHO-DG44/dhfr-細胞(インビトロジェン社製)1×107cells/750μL DMEM/F12培地を調製したものと混合した。室温で30分静置し、エレクトロポレーション装置(バイオラッド社製)に設置し、330μF,400Vで通電した。5分間静置後、氷上でさらに10分静置し、10%FBS、CHO-SFM培地(インビトロジェン社製)10mLに懸濁し、10cmシャーレにまいた。37℃、5%CO2条件下2日間培養し、細胞を遠心操作により回収し、10%FBS、0.3mg/mLG-418を含むCHO-SFM培地(インビトロジェン社製)10mLに懸濁し、100μL/wellの割合で96穴プレートに処理した。3日毎に10%FBS、0.3mg/mL G-418を含むCHO-SFM培地で交換し、15日間培養を行った。15日後、顕微鏡観察を行い、生存している細胞を選択し、コロニー単離を行った。
【0099】
(2)メトトレキセートによる遺伝子増幅
上記(1)で得られたクローンを0.3mg/mLG-418を含むCHO-SFM培地(インビトロジェン社製)で増殖させ、2×105cells/10mL/10cmシャーレを準備し、最終濃度5nMメトトレキセート(MTX)を添加した。3日毎に5nM MTXを含む上記培地と交換し、10-15日間培養を継続し、細胞が生存していてコロニーを形成しているものについて、細胞を回収し、2×105cells/10mL/10cmシャーレを準備し、最終濃度50nMメトトレキセート(MTX)を添加した。同様の方法で、500 nM MTXまで処理を行い、細胞の生存が確認できるクローンを選別した。ここで作製したネコEPOをコードするDNA及びマウスdhfrをコードするDNAを含む組換えCHO細胞を、「rFeEPO/CHO11」とした。
【0100】
(3)ネコEPOの活性測定
上記(2)の培養上清中に製造されたネコEPOの活性測定は、ヒトEPOの活性測定法を適応し、TF−1細胞(American Type Cell Culture CollectionよりATCC# CRL-2003として入手可能)を用いて以下のようにして行った。
【0101】
TF−1細胞をRPMI1640/10%FBS培地に懸濁し、2×105cells/mLに調製し、96穴microplateに100μL添加した。さらに標準品として、ヒトEPOの10U、5U、1U、0.5U、0.1U、0Uをそれぞれ10μL、実施例3または4で得られたネコEPO精製サンプルの原液、10倍希釈液、100倍希釈液、1000倍希釈液それぞれを10μL添加し、5%CO2、37℃条件下、24時間培養し、cell counting kit-8(ドージンドウ社製)を用いて細胞増殖の程度を測定した。すなわち、kitのWST-8を各穴10μLずつ添加し、1時間培養後、ELISA Plate reader(アマシャム社製)により吸光度A450を測定した。
【0102】
標準品として用いたヒトEPOの各添加量(10U、5U、1U、0.5U、0.1U、0U)における吸光度A450をプロットしたグラフを検量用に用いて、実施例3または4で得られたネコEPO精製液×1000、×100希釈液の吸光度から、各ネコEPO精製液中のネコEPO含有量を定量した。
(4)ネコEPOの検出
上記(2)で得られた培養上清中のネコEPOをウエスタンブロッティング法によって検出した。培養上清をアトー(株)製のパジェル中、SDS−PAGEに供した。その後、アトー(株)製のクリアブロットメンブランに常法に従ってブロッティング後、メンブランを、抗ヒトEPOポリクローナル抗体を含むウサギ血清を含むブロックエース(大日本製薬(株)製)溶液に6時間反応させ、0.02%Tween20を含むPBSにて3回洗浄し、さらにペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG(バイオラット(株)製)を含むブロックエース溶液に6時間反応させ、同様に洗浄した後、コニカ(株)製のコニカイムノステインHRP1000にて発色を行った。その結果、rFeEPO/CHO11の約30〜35kDのバンドを検出した。ヒトEPO ELISA kit(R & D system社製)を用いて、培養液中のネコEPOの定量を行った。その結果、ネコEPOの生産速度は400〜600U/106 cells/48hであった。ネコEPOの推定分子量がおよそ30〜35kDaであり、ヒトEPO ELISA kitによる測定の結果、EPOの定量が可能であったことから、上記(2)の培養上清中にネコEPOが発現したものと考えられる。
【0103】
実施例1 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その1)
図1の濾過培養装置とDMEM/F12(20μg/mLヒトインスリン(組換え体))を用い、組換えモノクローナル抗体の製造を行った。新鮮培地は、0.02μmの無菌濾過(ミリポア)を行い使用した。分離膜エレメント部材としては、ステンレス、及び、ポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例1で作製した多孔性膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0104】
培養槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整
培養槽容量:2(L)
新鮮培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(濾過培養開始後〜80時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
80時間〜160時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御
160時間〜240時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0105】
動物細胞として、参考例6で調整したCHO細胞株「DP12/CHOSFM」を使用し、タンパク質の定量には、ヒトIgG ELISA キット(ロシュ社製)を使用した。
【0106】
まずDP12/CHOSF株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後CHO細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、新鮮培地の連続供給を行い、膜分離型濾過培養装置の培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら濾過培養し、モノクローナル抗体の製造を行った。濾過培養を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過培養液中の製造されたモノクローナル抗体濃度を測定した。
【0107】
300時間の濾過培養を行った結果を表1に示す。
【0108】
表中、タンパク質生産総重量は、各装置で培養期間中(本実施例では300時間)に生産された目的のタンパク質の総重量を示している。回収した濾液中に含まれる目的タンパク質濃度(g/L)を測定し、さらに使用培地量(L)を乗じて、タンパク質生産総重量とした。タンパク質生産総重量(mg)を、培養時間(h)および使用培地量(L)で除した値を、タンパク質生産速度(mg/h・day)とした。最大到達生細胞密度は、培養全期間中における、生細胞数の最大値である。生細胞数は、培養液を少量分取し、トリパンブルー染色を行い、未染色の細胞を生細胞として、血球計算板を用い細胞数(cells/mL)を測定した。
【0109】
図1に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、安定したCHO細胞の濾過培養およびその製造物であるモノクローナル抗体の製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0110】
実施例2 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その2)
分離膜としては参考例2で作製した多孔性膜を用い、実施例1と同様にモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表1に示す。その結果、安定したモノクローナル抗体の製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0111】
実施例3 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その3)
分離膜としては参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例1と同様にモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表1に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0112】
実施例4 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その4)
分離膜としては参考例5で作製した多孔性膜を使用して作製した有効濾過面積が120平方cmの図4に示す分離膜エレメントを用い、実施例1と同様にモノクローナル抗体の製造を行った。その結果を表1に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0113】
実施例5 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その5)
図2の濾過培養装置とDMEM/F12(20μg/mLヒトインスリン(組換え体))を用い、組換えモノクローナル抗体の製造を行った。新鮮培地は、0.02μmの無菌濾過(ミリポア)を行い使用した。分離膜エレメント部材としては、ステンレス、及びポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例1で作製した多孔性膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0114】
培養槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整
培養槽容量:2(L)
新鮮培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(濾過培養開始後〜80時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
80時間〜160時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御
160時間〜240時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0115】
動物細胞として、参考例6で調整したCHO細胞株「DP12/CHOSFM」を使用し、タンパク質の定量には、ヒトIgG ELISA キット(ロシュ社製)を使用した。
【0116】
まずDP12/CHOSF株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後CHO細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、新鮮培地の連続供給を行い、膜分離型濾過培養装置の培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら濾過培養し、モノクローナル抗体の製造を行った。濾過培養を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過培養液中の製造されたモノクローナル抗体濃度を測定した。
【0117】
300時間の濾過培養を行った結果を表1に示す。図1に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、安定したCHO細胞の濾過培養およびその製造物であるモノクローナル抗体の製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0118】
実施例6 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その6)
分離膜としては参考例2で作製した多孔性膜を用い、実施例5と同様のモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表1に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0119】
実施例7 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その7)
分離膜としては参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例5と同様のモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表1に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0120】
実施例8 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その8)
分離膜として参考例5で作製した多孔性膜を使用して作製した有効濾過面積が120平方cmの図4に示す分離膜エレメントを用い、実施例5と同様のモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表1に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0121】
比較例1 回分培養による組換えモノクローナル抗体の製造
動物細胞を用いたタンパク質の製造形態として最も典型的な回分培養を行い、そのタンパク質の生産性を評価した。図1の膜分離型濾過培養装置の培養槽1のみを用いた回分培養試験を行った。本比較例でも、動物細胞として、参考例6で調製したCHO細胞株「DP12/CHOSF」を使用し、タンパク質の定量には、ヒトIgG ELISA キット(ロシュ社製)を使用した。比較例1の運転条件を以下に示す。
【0122】
培養槽容量(培地量):1(L)
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽通気量:0.05(L/min)
培養液攪拌速度:100(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整。
【0123】
まずDP12/CHOSF株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後CHO細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させることなく回分培養を行った。
【0124】
回分培養の結果を表1に示す。
【0125】
比較例2 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その9)
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(濾過培養全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例1と同様に行った。
【0126】
その結果、培養開始後72時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、濾過培養を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性膜は、タンパク質の製造、とりわけ組換えモノクローナル抗体の製造に不適であることが明らかになった。
【0127】
比較例3 CHO細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その10)
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(濾過培養全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例4と同様に行った。
【0128】
その結果、培養開始後72時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、濾過培養を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性膜は、タンパク質の製造、とりわけモノクローナル抗体の製造に不適であることが明らかになった。
【0129】
【表1】

【0130】
以上、表1に示す実施例1〜8及び比較例1の結果、また比較例2及び3の結果からわかるように、図1および図2に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、組換えモノクローナル抗体を効率よく製造することができた。また、従来の方法に比べて、その生産量および生産速度が大幅に向上した。
【0131】
実施例9 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その1)
図1の濾過培養装置とCD Hybrodoma−SFM(インシュリン、トランスフェリン含)を用い、マウスモノクローナル抗体製造を行った。新鮮培地は、0.02μmの無菌濾過(ミリポア)を行い使用した。分離膜エレメント部材としては、ステンレス、及び、ポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例1で作製した多孔性膜を用いた。実施例9における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0132】
培養槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽攪拌速度:150(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整
培養槽容量:2(L)
新鮮培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(濾過培養開始後〜80時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
80時間〜160時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御
160時間〜240時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0133】
動物細胞として、参考例7で調製したハイブリドーマ細胞株「HER2/HBSF」を使用し、タンパク質の定量には、マウスIgG ELISA キット(ロシュ社製)を使用した。
【0134】
まず「HER2/HBSF」株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後ハイブリドーマ細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、新鮮培地の連続供給を行い、膜分離型濾過培養装置の培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら濾過培養し、マウスモノクローナル抗体の製造を行った。濾過培養を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過培養液中の製造されたマウスモノクローナル抗体濃度を測定した。
【0135】
300時間の濾過培養を行った結果を表2に示す。図1に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、安定したハイブリドーマ細胞の濾過培養およびその製造物であるマウスモノクローナル抗体の製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0136】
実施例10 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その2)
分離膜としては参考例2で作製した多孔性膜を用い、実施例9と同様のマウスモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したマウスモノクローナル抗体製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0137】
実施例11 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その3)
分離膜としては参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例9と同様のマウスモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したハイブリドーマ細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0138】
実施例12 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その4)
分離膜としては参考例5で作製した多孔性膜を使用して作製した有効濾過面積が120平方cmの図4に示す分離膜エレメントを用い、実施例9と同様のマウスモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したハイブリドーマ細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0139】
実施例13 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その5)
図2の濾過培養装置とCD Hybrodoma−SFM(インシュリン、トランスフェリン含)を用い、組換えモノクローナル抗体製造を行った。新鮮培地は、0.02μmの無菌濾過(ミリポア)を行い使用した。分離膜エレメント部材としては、ステンレス、及びポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例1で作製した多孔性膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0140】
培養槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽攪拌速度:150(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整
培養槽容量:2(L)
新鮮培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(濾過培養開始後〜80時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
80時間〜160時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御
160時間〜240時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0141】
動物細胞として、参考例7で調整したハイブリドーマ細胞株「「HER2/HBSF」を使用し、タンパク質の定量には、マウスIgG ELISA キット(ロシュ社製)を使用した。
【0142】
まずHER2/HBSF株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後ハイブリドーマ細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、新鮮培地の連続供給を行い、膜分離型濾過培養装置の培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら濾過培養し、マウスモノクローナル抗体の製造を行った。濾過培養を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過培養液中の製造されたマウスモノクローナル抗体濃度を測定した。
【0143】
300時間の濾過培養を行った結果を表2に示す。図1に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、安定したハイブリドーマ細胞の濾過培養およびその製造物であるマウスモノクローナル抗体の製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0144】
実施例14 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その6)
分離膜としては参考例2で作製した多孔性膜を用い、実施例13と同様のマウスモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したハイブリドーマ細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0145】
実施例15 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その7)
分離膜としては参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例13と同様のマウスモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したハイブリドーマ細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0146】
実施例16 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その8)
分離膜としては参考例5で作製した多孔性膜を使用して作製した有効濾過面積が120平方cmの図4に示す分離膜エレメントを用い、実施例13と同様のマウスモノクローナル抗体製造を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したハイブリドーマ細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0147】
比較例4 回分培養によるハイブリドーマ細胞株を用いマウスモノクローナル抗体の生産
動物細胞を用いた有用タンパク質の生産形態として最も典型的な回分培養を行い、その有用タンパク質の生産性を評価した。図1の膜分離型濾過培養装置の培養槽1のみを用いた回分培養試験を行った。本比較例でも、動物細胞として、参考例7で調整したハイブリドーマ細胞株「HER2/HBSF」を使用し、有用タンパク質の定量には、マウスIgG ELISA キットを使用した。比較例4の運転条件を以下に示す。
【0148】
培養槽容量(培地量):1(L)
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽通気量:0.05(L/min)
培養液攪拌速度:150(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整。
【0149】
まずDP12/CHOSF株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後ハイブリドーマ細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させることなく回分培養を行った。
【0150】
回分培養の結果を表2に示す。
【0151】
比較例5 ハイブリドーマ細胞株を用いたマウスモノクローナル抗体の製造(その9)
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(濾過培養全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例9と同様に行った。
【0152】
その結果、培養開始後72時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、濾過培養を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性膜は、タンパク質の製造、とりわけマウスモノクローナル抗体の製造に不適であることが明らかになった。
【0153】
比較例6 ハイブリドーマ細胞株を用いた組換えモノクローナル抗体の製造(その10)
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(濾過培養全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例13と同様に行った。
【0154】
その結果、培養開始後72時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、濾過培養を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性膜は、タンパク質の製造、とりわけマウスモノクローナル抗体の製造に不適であることが明らかになった。
【0155】
【表2】

【0156】
以上、表2に示す実施例9〜16及び比較例4の結果、また比較例5及び6の結果からわかるように、図1および図2に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、マウスモノクローナル抗体を効率よく製造することができた。また、従来の方法に比べて、その生産量および生産速度が大幅に向上した。
【0157】
実施例17 CHO細胞株を用いたネコエリスロポエチン(ネコEPO)の製造(その1)
図1の濾過培養装置とDMEM/F12(20μg/mLヒトインシュリン)を用い、ネコEPO製造を行った。新鮮培地は、0.02μmの無菌濾過(ミリポア)を行い使用した。分離膜エレメント部材としては、ステンレス、及び、ポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例1で作製した多孔性膜を用いた。実施例7における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0158】
培養槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整
培養槽容量:2(L)
新鮮培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(濾過培養開始後〜80時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
80時間〜160時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御
160時間〜240時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0159】
動物細胞として、参考例8で調整したCHO細胞株「FeEPO/CHOSF」を使用し、タンパク質の定量には、ヒトエリスロポエチン ELISA キット(R&D社製)を使用した。
【0160】
まず「FeEPO/CHOSF」株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後CHO細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、新鮮培地の連続供給を行い、膜分離型濾過培養装置の培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら濾過培養し、ネコEPOの製造を行った。濾過培養を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過培養液中の製造されたネコEPO濃度を測定した。
【0161】
300時間の濾過培養を行った結果を表3に示す。図1に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、安定したCHO細胞の濾過培養およびその製造物であるネコEPOの製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0162】
実施例18 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その2)
分離膜としては参考例2で作製した多孔性膜を用い、実施例17と同様のネコEPOの製造を行った。その結果を表3に示す。その結果、安定したモノクローナル抗体製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0163】
実施例19 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その3)
分離膜としては参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例17と同様のネコEPOの製造を行った。その結果を表3に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0164】
実施例20 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その4)
分離膜としては参考例5で作製した多孔性膜を使用して作製した有効濾過面積が120平方cmの図4に示す分離膜エレメントを用い、実施例17と同様のネコEPOの製造を行った。その結果を表3に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0165】
実施例21 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その5)
図2の濾過培養装置とDMEM/F12(20μ/mL ヒトインシュリン)を用い、ネコEPO製造を行った。新鮮培地は、0.02μmの無菌濾過(ミリポア)を行い使用した。分離膜エレメント部材としては、ステンレス、及びポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例1で作製した多孔性膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
【0166】
培養槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整
培養槽容量:2(L)
新鮮培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(濾過培養開始後〜80時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御
80時間〜160時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御
160時間〜240時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0167】
動物細胞として、参考例8で調整したCHO細胞株「FeEPO/CHOSF」を使用し、タンパク質の定量には、ヒトエリスロポエチン ELISA キット(R&D社製)を使用した。
【0168】
まず「FeEPO/CHOSF」株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後CHO細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、新鮮培地の連続供給を行い、膜分離型濾過培養装置の培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら濾過培養し、ネコEPOの製造を行った。濾過培養を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過培養液中の製造されたネコEPO濃度を測定した。
【0169】
300時間の濾過培養を行った結果を表3に示す。図1に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、安定したCHO細胞の濾過培養およびその製造物であるネコEPOの製造が可能であった。濾過培養の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0170】
実施例22 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その6)
分離膜としては参考例2で作製した多孔性膜を用い、実施例21と同様のネコEPOの製造を行った。その結果を表3に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0171】
実施例23 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その7)
分離膜としては参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例21と同様のネコEPO製造を行った。その結果を表3に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した
実施例24 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その8)
離膜としては参考例5で作製した多孔性膜を使用して作製した有効濾過面積が120平方cmの図4に示す分離膜エレメントを用い、実施例21と同様のネコEPOの製造を行った。その結果を表3に示す。その結果、安定したCHO細胞の培養が可能であった。濾過培養の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0172】
比較例7 回分培養によるCHO細胞株を用いたネコEPOの製造
動物細胞を用いたタンパク質の製造形態として最も典型的な回分培養を行い、そのタンパク質の生産性を評価した。図1の膜分離型濾過培養装置の培養槽1のみを用いた回分培養試験を行った。本比較例でも、動物細胞として、参考例8で調整したCHO細胞株FeEPO/CHOSFを使用し、タンパク質の定量には、ヒトエリスロポエチンELISA キット(R&D社製)を使用した。比較例4の運転条件を以下に示す。
【0173】
培養槽容量(培地量):1(L)
温度調整:37(℃)
培養槽溶存酸素濃度:30%
培養槽通気量:0.05(L/min)
培養槽攪拌速度:150(rpm)
pH調整:1N NaOHによりpH7に調整。
【0174】
まずFeEPO/CHOSF株を1Lスピナーフラスコ(500mL培地)を使用し、5×105cells/mLまで培養を行った(前々培養液)。前々培養液を、図1に示す濾過培養装置の1.5Lの培地に移し、培養槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、液循環ポンプ10を稼働させることなく、4日間培養を行った(前培養)。前培養完了後CHO細胞数は5×105cells/mLまで達した。その後、濾過ポンプ10を稼働させることなく回分培養を行った。
【0175】
回分培養の結果を表3に示す。
【0176】
比較例8 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その7)
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(濾過培養全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例7と同様に行った。
【0177】
その結果、培養開始後72時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、濾過培養を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性膜は、タンパク質の製造、とりわけネコEPOの製造に不適であることが明らかになった。
【0178】
比較例9 CHO細胞株を用いたネコEPOの製造(その8)
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(濾過培養全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例10と同様に行った。
【0179】
その結果、培養開始後72時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、濾過培養を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性膜は、タンパク質の製造、とりわけネコEPOの製造に不適であることが明らかになった。
【0180】
【表3】

【0181】
以上、表3に示す実施例17〜24及び比較例7の結果、また比較例8及び9の結果からわかるように、図1および図2に示す濾過培養装置を用いた本発明のタンパク質の製造方法により、ネコエリスロポエチンを効率よく製造することができた。また、従来の方法に比べて、その生産量および生産速度が大幅に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】図1は、本発明で用いられる膜分離型濾過培養装置の例を説明するための概略側面図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる他の膜分離型濾過培養装置の例を説明するための概略側面図である。
【図3】図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの例を説明するための概略斜視図である。
【図4】図4は、本発明で用いられる他の分離膜エレメントの例を説明するための断面説明図である。
【符号の説明】
【0183】
1 培養槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 温度調節器
11 培養液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
18 分離膜束
19 上部樹脂封止層
20 下部樹脂封止層
21 支持フレーム
22 集水パイプ
23 DOセンサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を培養液中に生産する動物細胞の培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物であるタンパク質を回収するとともに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、新鮮培地を培養液に追加する連続濾過培養によりタンパク質を製造する方法であって、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、膜間差圧を0.1kPaから20kPaの範囲で濾過処理するタンパク質の製造方法。
【請求項2】
多孔性膜の純水透過係数が、2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下である請求項1に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項3】
多孔性膜の平均細孔径が0.01μm以上0.2μm未満の範囲内にあり、該平均細孔径の標準偏差が0.1μm以下である請求項1または2に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項4】
多孔性膜の膜表面粗さが0.1μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
【請求項5】
多孔性膜が多孔性樹脂層を含む多孔性膜である請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
【請求項6】
多孔性膜の膜素材がポリフッ化ビニリデン系樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
【請求項7】
動物細胞がハイブリドーマ細胞、CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞、Sf9細胞、Sf21細胞、Bm細胞の群から選ばれるいずれかの動物細胞である請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
【請求項8】
タンパク質がモノクローナル抗体である請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク質製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−45019(P2009−45019A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214904(P2007−214904)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】