説明

タンパク質の製造方法

【課題】分泌発現において高純度のタンパク質を作製する方法、当該方法のための宿主ベクター系を提供すること。
【解決手段】配列特異的エンドリボヌクレアーゼの発現を制御し、使用する宿主が増殖している状態で、培養上清中の夾雑タンパク質を抑制し、目的タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく他の配列に置換されているDNA、あるいは目的タンパク質をコードするmRNAを過剰発現するDNAのいずれかを宿主細胞に導入する工程を含む、前記目的タンパク質のみを取得できる方法。本発明を用いることにより、純度の高い目的のタンパク質をほとんど精製操作することなく取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一タンパク質分泌発現方法、当該方法のための宿主発現系、並びに当該方法を用いた目的タンパク質の簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの細菌は、細胞ストレスに曝されると発現して、増殖停止及び最終的に死をもたらす自殺遺伝子を含有している。これらの毒素遺伝子は、通常、同じオペロン中の同族抗毒素遺伝子とともに同時発現されている(中毒モジュール又は抗毒素−毒素系と呼ぶ)。例えば、大腸菌(E.coli)は、5つの中毒モジュールを有し、その中で、MazE/MazFモジュールが最も徹底的に調査されている。前記MazE/MazF複合体の立体構造は公知である。
【0003】
MazFは、一本鎖RNA(ssRNA)中の配列ACAを認識し、最初のAの5’側において特異的に切断する、配列特異的エンドリボヌクレアーゼである。エンドヌクレアーゼは、核酸を核酸鎖内の様々な位置で切断する、酵素の大グループの1つである。エンドリボヌクレアーゼ又はリボヌクレアーゼは、RNAに特異的である。MazFは、その主要な標的がインビボでのメッセンジャーRNA(mRNA)であるので、mRNA干渉酵素と呼ばれる。転移RNA(tRNA)及びリボソームRNA(rRNA)は、それぞれ、その二次構造又はリボソームタンパク質との結合のせいで、切断から保護されているようである。したがって、MazFが発現すると、mRNAのみの特異的分解を引き起こし、タンパク質合成の激烈な減少、及び最終的には細胞死をもたらす。最近では、大腸菌タンパク質PemK(プラスミドR100によってコードされる)もまた、配列特異的エンドリボヌクレアーゼであることが示された。PemKは、UAXの配列を認識し、中央のAの5’側又は3’側でRNAを切断する。ここでXはC、A又はUである。さらに最近では、同様のエンドリボヌクレアーゼとして、大腸菌タンパク質MqsRが報告されている。MqsRは、GCUのGとCの間でRNAを切断する。
【0004】
これらの配列特異的エンドリボヌクレアーゼはさまざまな種で保存されており、生理機能及び進化において必須の役割を果たしていることを強く示している。この配列特異的エンドリボヌクレアーゼ毒素のファミリーは、その主要な標的がインビボでのメッセンジャーRNA(mRNA)であるので、「mRNA干渉酵素」とも呼ばれている。
【0005】
また、特許文献1、非特許文献1には、mRNA干渉酵素を用いたタンパク質発現方法が開示されている。この方法は、宿主に導入する目的タンパク質をコードする遺伝子よりmRNA干渉酵素の認識する塩基配列を除去したうえで、宿主中でmRNA干渉酵素を発現させることを特徴としている。宿主由来のmRNAが、mRNA干渉酵素により分解されて翻訳が抑制されるため、宿主では目的タンパク質のみ発現されることとなる。特に同位体などで標識されたタンパク質の調製には威力を発揮すると言われている。しかしながら、mRNA干渉酵素の発現誘導以前に宿主に蓄積されているタンパク質と目的タンパク質とが共存するため、精製タンパク質の取得のためには従来通りの精製操作が必要である。また、前記方法ではmRNA干渉酵素を発現させた後、宿主の増殖が抑制されるため、目的のタンパク質を大量に製造する用途には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/113498号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】モレキュラー セル(Molecular Cell)、第18巻、第253〜261頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、分泌発現において高純度のタンパク質を作製する方法、当該方法のための宿主ベクター系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、配列特異的エンドリボヌクレアーゼの発現を制御し、使用する宿主が増殖している状態を維持させた状態で、培養上清中の夾雑タンパク質量を低減し、かつ目的タンパク質のみを取得できる方法を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明は、タンパク質の製造方法であって、
(a)1)配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNA、及び
2)シグナルペプチドとそれに連結された所望のタンパク質とからなる目的タンパク質をコードし、かつ配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列に対応する塩基配列の少なくとも1つが、前記目的タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく他の配列に置換されているDNA、を宿主細胞に導入する工程;及び
(b)工程(a)で得られた宿主細胞を培養する工程;
を包含することを特徴とするタンパク質の製造方法、に関する。
【0011】
本発明の第2の発明は、タンパク質の製造方法であって、
(a)1)配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNA、及び
2)シグナルペプチドとそれに連結された所望のタンパク質とからなる目的タンパク質をコードし、かつ前記目的タンパク質をコードするmRNAを宿主細胞内で過剰発現するDNA、を宿主細胞に導入する工程;及び
(b)工程(a)で得られた宿主細胞を培養する工程;
を包含することを特徴とするタンパク質の製造方法、に関する。
【0012】
第1、第2の発明において、宿主細胞としては細菌、酵母、真菌、担子菌、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞から選択される細胞が例示される。
第1、第2の発明における配列特異的エンドリボヌクレアーゼとしては、2〜7塩基の配列を認識してRNAを切断するエンドリボヌクレアーゼが例示される。一つの態様として、配列特異的エンドリボヌクレアーゼはMazF、PemK、MqsRから選択されるエンドリボヌクレアーゼである。さらに、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが染色体に組み込まれた宿主細胞を使用する態様も本発明に包含される。
【0013】
本発明の第3の発明は、タンパク質の製造に使用されるキットであって、
(1)遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主;
(2)発現可能な形態で配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAを含むベクター;及び
(3)プロモーター、シグナルペプチドをコードする配列及びマルチクローニングサイトを有するベクター;
を包含することを特徴とするキット、に関する。
【0014】
本発明の第4の発明は、タンパク質の製造に使用されるキットであって、
(1)遺伝子産物の分泌発現が可能であり、かつ染色体に発現可能な形態で配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが組み込まれた宿主;及び
(2)プロモーター、シグナルペプチドをコードする配列及びマルチクローニングサイトを有するベクター;
を包含することを特徴とするキット、に関する。
前記の第3、第4の発明には、第1、第2の発明について示された宿主や配列特異的エンドリボヌクレアーゼを使用する態様が包含される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ほとんど精製の操作を行う(過程を経る)ことなく単一の目的タンパク質を取得することが可能となる。また、本発明の方法は、使用する宿主に枯草菌を用いた場合、エンドトキシンフリーの高純度目的タンパク質を取得できるという点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本システムで分泌発現させた培養上清のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図2】本システムで分泌発現させた培養上清のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図3】本システムで分泌発現させたタンパク質の酵素活性を示すグラフである。
【図4】本システムで分泌発現させた酵素の比活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において「配列特異的エンドリボヌクレアーゼ」とは、一本鎖RNA(ssRNA)を特定の塩基配列において特異的に切断する、エンドリボヌクレアーゼのことを言う。また、当該酵素は、RNAに特異的であり、生体内でのその主要な標的はメッセンジャーRNA(mRNA)である。前記の「mRNA干渉酵素」も「配列特異的エンドリボヌクレアーゼ」に包含される。
【0018】
本発明に使用される配列特異的エンドリボヌクレアーゼは、前記の活性を有するものであれば、天然において存在するものと同一のアミノ酸配列の酵素には限定されるものではない。当該酵素の変異体、誘導体も前記配列特異的エンドリボヌクレアーゼに包含される。変異体としては、配列特異的エンドリボヌクレアーゼのアミノ酸配列に1つ又は数個のアミノ酸の挿入、付加、欠失又は置換が生じたアミノ酸配列のポリペプチドが例示される。例えば、天然のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上のアミノ酸配列上の配列同一性を有する変異体を本発明に使用することができる。また、誘導体としては、例えば配列特異的エンドリボヌクレアーゼに異種のペプチドやポリペプチドを付加したものが例示される。このような誘導体には、宿主内での半減期を延長した誘導体や、細胞内での局在を改変した誘導体が包含される。
【0019】
本明細書において、「遺伝子もしくは核酸の導入」、並びに「形質転換」とは、遺伝子や核酸が細胞内に導入されることを意味する。前記の遺伝子もしくは核酸は、染色体、プラスミド、プラスチド又はミトコンドリアDNAに組み込また状態で細胞に保持されるか、もしくは一過性に保持された後、消失し得る。
【0020】
(1)本発明のタンパク質分泌発現方法
本発明のタンパク質分泌発現方法に使用される宿主には限定はなく、タンパク質を分泌発現可能な宿主であれば使用することができる。例えば、細菌、酵母、真菌、担子菌、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞等を使用できる。好適には、枯草菌及びその近縁の細菌(Bacillus属細菌、Brevibacillus属細菌等)が宿主として使用される。また、酵母としては、Pichia属、Candida属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Hansenula属等が宿主として使用できる。さらに、培養細胞としては、CHO細胞、HEK293細胞、Hela細胞、MDCK細胞、NIH3T3細胞、PC12細胞、S2細胞、Sf9細胞、Vero細胞、あるいはBY−2細胞等が宿主として使用できる。
【0021】
本発明の方法においては、所望のタンパク質をコードするmRNA以外のmRNAからの翻訳を抑制することにより、所望のタンパク質の特異的な生産が実施される。mRNAからの翻訳は、配列特異的エンドリボヌクレアーゼによって抑制することが可能である。例えば、2塩基以上の配列、好ましくは3塩基以上の配列を認識して切断するエンドリボヌクレアーゼが本発明に使用される。また、前記認識配列は、好ましくは7塩基以下の配列、さらに好ましくは5塩基以下の配列である。さらに、使用する宿主のrRNAやtRNAに対する活性が低い、もしくはこれらRNAを切断しない配列特異的エンドリボヌクレアーゼが本発明には特に好ましい。さらに例えば、大腸菌由来のMazF、PemK、MqsR、国際公開第2006/123537号パンフレット記載のエンドリボヌクレアーゼ、国際公開第2007/13264号パンフレット記載のエンドリボヌクレアーゼ、国際公開第2007/13265号パンフレット記載のエンドリボヌクレアーゼ、国際公開第2007/10740号パンフレット記載のエンドリボヌクレアーゼ、並びに国際公開第2007/34693号パンフレット記載のエンドリボヌクレアーゼ等が本発明に使用できる配列特異的エンドリボヌクレアーゼとして挙げられる。
【0022】
本発明の方法においては、当該配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする遺伝子を使用する宿主中で保持できるベクターを用いて発現させることができる。特に限定はされないが、ColE1 oriを利用したpUCなどの大腸菌用ベクター、2μオリジンを利用した酵母用ベクター等の多コピーベクター、F plasmidの改変ベクターやCENを利用した酵母用ベクター等の1コピーベクター、あるいはλファージ、バキュロウィルス、アデノウィルスもしくはレトロウィルス由来のファージ/ウィルスベクターなどが例示される。好ましくは、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする遺伝子は相同組換えやその他の方法を利用して、使用する宿主の染色体に組み込むことができる。過剰量の配列特異的エンドリボヌクレアーゼの発現を起こさない点で、宿主が多コピーの配列特異的エンドリボヌクレアーゼ遺伝子を保持することのない、染色体への組み込みが本発明には好ましい。染色体への組み込み方法として、直接DNA断片を導入する手法の他、トランスポゾンやファージ/ウィルスベクターなどを利用したランダムな遺伝子導入、相同組換えを利用した部位特異的な遺伝子導入法が好適に使用できる。
【0023】
本発明の方法において、使用する宿主内で配列特異的エンドリボヌクレアーゼを発現させる必要がある。その一方で、当該配列特異的エンドリボヌクレアーゼによる使用宿主の増殖抑制は、好ましいものではなく、むしろ増殖を維持した状態になることが好ましい。さらに好ましくは、増殖は維持されているが、本来分泌発現されているタンパク質の発現が抑制されている状態が好ましい。
【0024】
上記状態を確認する方法としては、使用する宿主の増殖曲線を参考にする方法が例示される。また、宿主内の遺伝子あるいは発現タンパク質をマーカーとして宿主の状態を確認してもよい。例えば、増殖曲線を用いる場合、当該曲線の傾きが当該配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする遺伝子を導入していない場合と同じか若干低い状態の宿主が本発明に好ましい。なお、目的タンパク質の分泌発現の状態に応じて配列特異的エンドリボヌクレアーゼの発現度合いを最適化するのは当業者として当然のことである。
【0025】
配列特異的エンドリボヌクレアーゼ発現の制御方法としては、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする遺伝子のコピー数の制御、プロモーターの選択、使用されるプロモーターに適した誘導物質、例えばIPTG、アラビノース、1級アルコールやテトラサイクリンの添加、温度感受性配列特異的エンドリボヌクレアーゼ(もしくは対応するアンチトキシンタンパク質の温度感受性変異体)や温度感受性制御因子を利用した温度変化による制御、又は相同組換え促進因子の導入による発現システムの変更が好適に使用できる。さらに当該配列特異的エンドリボヌクレアーゼに対するアンチトキシンタンパク質をコードする遺伝子を共発現させて制御させてもよい。本発明を特に限定するものではないが、下記実施例に記載のとおり、枯草菌を宿主とする場合には、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする遺伝子を染色体上に組み込んでコピー数を制限することで良好な結果が得られる。
【0026】
本発明の方法により発現されるタンパク質には限定はない。例えば、酵素、構造タンパク質、サイトカイン類、抗体、蛍光タンパク質等に本発明の方法を使用することができる。前記タンパク質は天然のアミノ酸配列のタンパク質のみに限定されるものではなく、変異体、誘導体や複数のタンパク質の融合タンパク質であってもよい。
本発明の方法は所望のタンパク質を宿主細胞外に分泌させることを特徴とする。このため、前記タンパク質をコードする遺伝子は、分泌発現のためのシグナルペプチドがN末端に連結されたタンパク質をコードする遺伝子として作製される。所望のタンパク質がシグナルペプチドを有しないものである場合、異種のタンパク質由来のシグナルペプチドが連結される。
【0027】
本発明の方法においては、シグナルペプチドに連結された所望のタンパク質(以下、目的タンパク質と記載する)をコードする遺伝子は、転写されるmRNAが配列特異的エンドリボヌクレアーゼの作用に対して耐性を持つように作製される。特に限定はされないが、例えば、転写により生成するmRNA中の配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列を少なくとも1つ減少させることにより、当該mRNAの配列特異的エンドリボヌクレアーゼに対する感受性を低下させることができる。mRNA中の配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列の該当箇所は、目的タンパク質のmRNAをコードするDNAの塩基配列を改変することによって減少させることができる。この際、シグナルペプチド並びに所望のタンパク質のアミノ酸配列は変化させない、もしくは許容される程度の変化とすることが好ましい。目的タンパク質のmRNAをコードするDNA中の配列特異的エンドリボヌクレアーゼの認識配列は、好ましくは3以下、より好ましくは1以下であり、さらに前記配列を有さないDNAが特に好ましい。前記の塩基配列の改変は、例えば、遺伝子の人工的合成や公知の部位特異的変異導入方法により実施することができる。さらに、目的のタンパク質をコードするmRNAを他の夾雑mRNAよりも大過剰に発現させることにより、実質的に目的タンパク質をコードするmRNAを他に優先して残存させることによっても行うことができる。目的タンパク質のmRNAを過剰発現させる方法としては、強力なプロモーターや、使用されるプロモーターに適した強力な発現誘導物質の使用などが挙げられる。
【0028】
本発明において、目的タンパク質には精製のためのタグ配列(His Tag、Flag Tag等)を付加することができる。例えば、目的タンパク質のmRNAをコードするDNAにタグ配列をコードするDNAを付加することにより、タグ配列を有する目的タンパク質が分泌発現される。
【0029】
本発明の方法において、目的タンパク質をコードする遺伝子は、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする遺伝子と同様に、適切なベクターにより宿主に導入されるか、もしくは宿主染色体に組み込まれる。目的タンパク質を高発現させるためには使用する宿主で十分なmRNAを転写できるような導入手段を選択することが好ましい。特に限定はされないが、宿主で多コピーの維持が可能なベクターを使用する、染色体上の強力なプロモーター下流に目的遺伝子を組み込むなどの手段が好適に使用される。特に限定はされないが、大腸菌とのシャトルベクターが好ましい。あるいは、コピー数が高いものであれば宿主専用ベクターであってもよい。宿主が枯草菌である場合には、pUB110 oriを有する枯草菌の発現ベクターが例示される。なお、本発明の方法では、複数の目的タンパク質をコードする遺伝子を導入して、宿主に複数のタンパク質を分泌発現させることも可能である。
【0030】
さらに当該ベクターにおいては、使用宿主や所望のタンパク質に応じて最適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを選択することは当然のことである。
例えば使用宿主が枯草菌の場合、プロモーターとしてはズブチリシンプロモーター、SpoVGプロモーター等を使用することができる。枯草菌分泌シグナルペプチドとしては、例えばジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J. Mol. Biol.)、第362巻、第393〜402頁(2006年)に記載されたシグナルペプチドを使用することができる。即ち、本発明の方法においては、上記文献記載の173種類の分泌シグナルペプチドDNAライブラリーを用いて所望のタンパク質の分泌発現に好適なシグナルペプチドをスクリーニングすることができる。
さらに、ターミネーター、ポリAシグナル、エンハンサーやイントロン等を発現ベクターに挿入してもよい。
【0031】
本発明の方法において配列特異的エンドリボヌクレアーゼ遺伝子を導入した宿主、当該配列特異的エンドリボヌクレアーゼに耐性を有する目的タンパク質をコードするmRNAを組み合わせることにより、当該目的タンパク質をコードするmRNA以外の他の夾雑タンパク質のmRNAは分解される。あるいは、当該目的タンパク質をコードするmRNAを他の夾雑タンパク質のmRNAよりも大量に発現させることによっても、上記配列特異的エンドリボヌクレアーゼに実質的に耐性な状態に等しくすることができる。その結果、目的タンパク質の合成量並びに分泌量が増加するため、培養上清中に所望のタンパク質のみが選択的に分泌発現されているものと推測される。しかしながら、本発明の方法においては、使用宿主の増殖を維持した状態で、mRNA分解酵素の発現を行う全ての手段が含まれる。また、目的タンパク質の発現についても上記宿主の条件下で目的タンパク質以外の分泌タンパク質の発現を抑制し、目的タンパク質のみ選択的に発現させる全ての方法が含まれる。
【0032】
本発明の方法において、目的タンパク質遺伝子並びに配列特異的エンドリボヌクレアーゼ遺伝子を保持する宿主の培養時間は、使用する宿主ごとに適宜設定し、また、最適化することができる。例えば枯草菌の場合は、好ましくは10時間以上、さらに好ましくは20時間以上、特に好ましくは28時間以上である。一般的に培養時間を長くすると宿主が溶解することがあるが、溶解に関与する遺伝子を破壊した宿主を用いることにより、所望のタンパク質の発現を長期にわたり継続させることができる。特に限定はされないが、例えばcwlC、cwlHあるいはlytC遺伝子を破壊した枯草菌が好適に使用できる。
培養温度も、使用する宿主ごとに最適化することができる。例えば枯草菌の場合は、好ましくは20℃以上、さらに好ましくは28℃以上である。通常、40℃以上での培養は行われず、好適な培養温度は37℃以下である。
【0033】
本発明の方法に使用される培地にも限定はなく、宿主に適したものを適宜選択すればよい。目的タンパク質をより高い純度で取得するためには、最少培地のような低分子ペプチドが含まれない、あるいは微量であるような培地を用いることができる。特に限定はされないが、例えば枯草菌の場合、LB培地をプロテアーゼ処理した培地、あるいはSpitizenの最少合成培地に各種アミノ酸、ビタミン、希少金属を加えた培地が例示される。
【0034】
本発明の方法は、下記のような遺伝子発現システムを構築して実施することができる。
[1]以下の(a)、(b)、(c)を含むシステム。
(a)形質転換が可能であって、遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主;
(b)発現可能な形態で配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAを含む第1のベクター;及び
(c)発現可能な形態で目的タンパク質をコードするDNAを含む第2のベクター、ここで目的タンパク質をコードする単離されたDNAは、少なくとも1つの配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列がコードされるアミノ酸配列を変化させることなく他の配列に置換されているものである。
(a)の宿主は、(b)及び(c)のベクターで形質転換され、目的タンパク質を特異的に分泌発現する能力を獲得する。
【0035】
[2]以下の(a)、(b)を含むシステム
(a)遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主、ここで、当該宿主の染色体には、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが発現可能な形態で組み込まれており;及び
(b)発現可能な形態で目的タンパク質をコードするDNAを含むベクター、ここで目的タンパク質をコードするDNAは、少なくとも1つの配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列がコードされるアミノ酸配列を変化させることなく他の配列に置換されている。
(a)の宿主は(b)のベクターで形質転換され、目的タンパク質を特異的に分泌発現する能力を獲得する。
【0036】
[3]以下の目的タンパク質を特異的に分泌発現する能力を獲得した宿主からなるシステム
遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主、ここで、当該宿主の染色体には、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNA、並びに目的タンパク質をコードするDNAが発現可能な形態で組み込まれており、かつ目的タンパク質をコードするDNAは、少なくとも1つの配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列がコードされるアミノ酸配列を変化させることなく他の配列に置換されている。
【0037】
[4]以下の(a)、(b)を含むシステム
(a)遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主、ここで、当該宿主の染色体には、配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが発現可能な形態で組み込まれており;
(b)発現可能な形態で目的タンパク質をコードするDNAを含むベクター、ここで、当該ベクターは目的タンパク質をコードするmRNAを宿主内で過剰発現する能力を有している。
(a)の宿主は、(b)のベクターで形質転換され目的タンパク質を特異的に分泌発現する能力を獲得する。
以上のシステムにおいて「発現可能な形態」とは、対象のDNAがプロモーターの下流の適切な位置に配置されており、宿主内で当該DNAよりmRNAの転写が起こり得る状態であることを意味する。
【0038】
以上の、各システムによる本発明の実施は、本明細書の開示、並びに周知の遺伝子工学的手法に基づいて、宿主細胞や各種ベクターの調製、遺伝子導入、細胞の培養等の諸操作を行うことにより、当業者には容易になし得る。
【0039】
本発明の方法により、目的のタンパク質のみを選択的に分泌発現させることができる。本発明の方法で宿主の培地中に分泌されるタンパク質は非常に純度が高いため、例えば、生物活性の測定を精製操作なしに実施することができる。また、タグ配列などを付加することなく発現させた場合であっても、容易に高純度のタンパク質を取得できるため、天然のアミノ酸配列を保持したタンパク質の製造に特に有用である。
【0040】
(2)本発明の方法のためのキット
本発明のタンパク質発現方法に使用される宿主、ベクターをキットとすることにより、本発明を容易に実施することが可能となる。例えば、前記の「遺伝子発現システム」を構成するメンバーを組み合わせたキットが本発明に好適である。
【0041】
当該キットに含まれる宿主は、前述の通り、遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主であれば、特に限定はない。例えば、細菌、酵母、真菌、担子菌、昆虫、植物、動物のいずれであってもよいが、取扱いの容易さ等の観点からは枯草菌が好適である。例えば、発現可能な形態で配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAを含むベクターで形質転換された宿主、染色体に配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが発現可能な形態で組み込まれた宿主、であってもよい。前者の場合には、形質転換されていない宿主とベクターとを組み合わせて提供してもよい。
【0042】
本発明のキットには、所望のタンパク質の発現に利用可能なベクターが含まれる。当該ベクターは宿主に応じて適切なものを選択すればよく、ファージ、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージ又はウイルスのいずれもが好適に使用できる。前記機能を有するDNA断片であってもよい。これらのベクターは、好適には、プロモーターや転写制御に係る各種の調節因子(ターミネーター、ポリAシグナル、エンハンサー、イントロン等)と、適切な位置に所望のタンパク質をコードするDNAを挿入するためのマルチクローニングサイトを有している。さらに、宿主で機能するシグナルペプチドをコードする配列を有していてもよい。前記の調節因子、マルチクローニングサイト、シグナルペプチドをコードする配列は所望のタンパク質の発現に適した位置に配置されるべきである。
【0043】
(3)本発明を利用した変異生理活性タンパク質のスクリーニング方法
本発明の方法で得られるタンパク質は純度が高いため、ほとんど精製操作をすることなく種々のアッセイに用いることができる。このことから、変異を導入したタンパク質を本発明の方法を利用して分泌発現させることにより、その変異タンパク質の表現型について簡単に確認し、また、望まれる変異体を迅速にスクリーニングすることができる。
本発明を特に限定するものではないが、例えば、目的タンパク質をコードするDNAに変異を導入することによりスクリーニングするための候補変異タンパク質遺伝子を調製する。前記の変異は、無作為に、もしくは特定の塩基又は領域に導入することができる。次に当該変異体遺伝子について、前記の本発明のタンパク質分泌発現方法を用いて、変異タンパク質を分泌発現させる。宿主培養液の上清そのもの、もしくはここから簡易精製した試料について適当なアッセイを行うことにより、当該変異タンパク質の生理活性の確認、所望の変異体の選抜を行うことができる。またタンパク質の分泌発現方法も極めて簡便であるため、例えば96wellの培養機器などを用いることで、数多くの変異体タンパク質を一度に取り扱うことが可能であり、自動化したアッセイシステムに容易に取り込むことができる。このため変異導入薬剤、PCRなどによりランダムに変異を導入した生理活性タンパク質に対しても、タンパク質レベルでの機能評価が容易に可能である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
また、本明細書に記載の操作のうち、プラスミドの調製、制限酵素消化などの基本的な操作については2001年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行、J.サムブルック(J.Sambrook)ら編集、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル第3版(Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed.)に記載の方法によった。
【0045】
実施例1 mazF誘導発現系導入プラスミドの作製
(1)薬剤耐性因子tetの導入
枯草菌ゲノムにmazF誘導発現系を導入するためのプラスミドは、以下のように作製した。最初に、SPP System I(タカラバイオ社製)中の大腸菌のmazF発現誘導ベクターであるpMazF DNAに対し、枯草菌で働くことのできる薬剤耐性因子tetを導入した。当該tet遺伝子は、pHY300PLK DNA(タカラバイオ社製)を鋳型とし、配列表の配列番号1及び2記載の塩基配列を有するプライマーtet1及びtet2を用いたPCRにより増幅した。
【0046】
PCRは、以下のように行った。即ち、鋳型DNAとしてpHY300PLK プラスミドDNA 0.1pg、前記の2種の合成プライマー各10pmolを含む50μLのPCR反応液を、PrimeSTAR(登録商標) HS DNA polymerase(タカラバイオ社製)を使用し、当該商品の説明書に従って調製した。前記反応液をTaKaRa PCR Thermal Cycler SP(タカラバイオ社製)にセットし、98℃ 1分反応後、98℃ 10秒、55℃ 15秒、72℃ 2分を1サイクルとする30サイクルの反応を行なった。
【0047】
反応終了後、反応液より精製したDNAをBamHI、HindIII(ともにタカラバイオ社製)の2種の制限酵素で切断して得られる1.5kbpのDNA断片を調製した。この断片はBamHI、HindIIIの突出末端を持つ、tet遺伝子を含むDNA断片である。得られたDNA断片の塩基配列を配列表の配列番号3に示す。
【0048】
同様に、プラスミドpMazF DNAをBamHI、HindIIIで切断して4.8kbpのDNA断片を調製した。このDNA断片と前述のtet遺伝子を含むDNA断片を混合後、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を用いて16℃ 30分間のライゲーション反応を実施した。反応終了後、反応液の一部を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換し、クロラムフェニコール耐性のコロニーを選択した。さらに、得られたコロニーのうちからpMazFにtet遺伝子が導入されたプラスミドを含むものを選択した。こうして得られたプラスミドを「pMazF tet」と命名した。
【0049】
(2)プロモーターの変換
次にpMazF tetのlacI発現用のプロモーターを枯草菌の構成的プロモーターであるvegプロモーターに変換した。まず、Genbank Acc.NC_000964で公開されている枯草菌veg遺伝子の塩基配列、タカラバイオ社HPで公開されているlacI遺伝子の塩基配列に基づき、それぞれ配列表の配列番号4、5、6及び7記載の塩基配列を有するプライマーveg3、veg/lac4、lac5及びlac6を合成した。上記プライマーveg3は、vegプロモーターの上流の塩基配列(核酸番号17−34)に加えて制限酵素BglII(核酸番号11−16)の認識配列を有している。プライマーveg/lac4は、vegプロモーターの下流の塩基配列に相補的な配列(核酸番号16−31)に加えてlacI遺伝子の1−5番目のアミノ酸をコードする塩基配列(ただし1、2番目アミノ酸をコードするGTGAAAをATGGTAに変換)に相補的な塩基配列(核酸番号1−14)を有している。プライマーlac5は、上記lacIの1、2番のアミノ酸をコードする変異塩基配列ATGGTA(核酸番号1−6)に加えて、lacIの3−9番目のアミノ酸をコードする塩基配列(核酸番号7−25)を有している。プライマーlac6は、lacIの107−116番目のアミノ酸をコードする塩基配列に相補的な塩基配列(核酸番号1−27)を有している。
【0050】
PCRは、以下の条件で行った。即ち、vegプロモーターDNA断片の場合、鋳型DNAとして常法で調製されたBacillus subtilis ゲノムDNA 10ng、各10pmolの上記プライマーveg3及びveg/lac4を含む50μLのPCR反応液を、PrimeSTAR HS DNA polymeraseを使用して調製した。前記反応液をTaKaRa PCR Thermal Cycler SPにセットし、98℃ 1分反応後、98℃ 10秒、55℃ 15秒、72℃ 1分を1サイクルとする30サイクルの反応を行なった。
【0051】
また、鋳型をpMazFプラスミドDNA(100pg)、プライマーをlac5及びlac6に変更した同様のPCR反応液を調製して同じ条件で反応を行い、lacI DNA断片を増幅した。さらに、前記のそれぞれの反応後の反応液1μLずつを混合した混合液を鋳型とし、プライマーveg3及びlac6を各10pmolずつ含む50μLのPCR反応液をPrimeSTAR HS DNA polymeraseを用いて調製した。この反応液を前記2回のPCRと同様の反応条件で反応させた。この反応液より約0.8kbのDNAバンドを精製し、vegプロモーターにlacIプロモーターのN末端領域が接続されたDNA断片を得た。一方、pMazF tet DNAを制限酵素BglII(タカラバイオ社製)、ApaLI(タカラバイオ社製)で切断して約5.6kbpのDNA断片を得た。この2つのDNA断片を混合し、In−Fusion(商標) Advantage PCR Cloning Kit(タカラバイオ社製)で連結した。この反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、クロラムフェニコール耐性を指標として選択することにより、pMazF tetのlacIプロモーターをvegプロモーターに変換したプラスミドを得た。このプラスミドを「pMazF veg tet」と命名した。
【0052】
(3)IPTG誘導プロモーターへの変換
さらにmazF発現用のプロモーターを枯草菌でのIPTG誘導可能なプロモーターに変換した。まず、Protein Expr Purif.2006 46(2):189−195に記載されているgracプロモーターの塩基配列を参考に、lacオペレーターをもう一つと枯草菌でのカタボライト抑制因子ccpAの認識配列を追加した人工プロモーターを考案した。次に、配列表の配列番号8、9、10、11、12及び13記載の塩基配列を有するプライマーglac7、glac8、glac9、glac10、glac11、glac12を合成した。
【0053】
まず、Bacillus subtilisゲノムDNA 100ng、10pmolのプライマーglac8及びglac9を用いる以外は、上記実施例1−(2)と同じ組成の反応液を調製し、上記実施例1―(2)記載の条件でPCRを行った。このPCRにより、91bpのDNA断片を増幅した。次に、このPCRによる増幅DNA断片を鋳型とし、プライマーglac7及びglac10を用いたPCR、その増幅産物を鋳型としてプライマーglac7及びglac11を用いたPCR、さらにその増幅断片を鋳型としてプライマーglac7及びglac12を用いたPCRを、順次行い、最終的に158bpのDNA断片を増幅した。この断片をglac−cプロモーター断片と命名し、その塩基配列を配列表の配列番号14に示す。
【0054】
上記glac−cプロモーターDNA断片を制限酵素BglII及びNdeI(ともにタカラバイオ社製)で切断し、約0.15kbpのDNA断片を調製した。また、同様の操作をpMazF veg tetプラスミドについても行い、約6.3kbのDNA断片を調製した。これらの断片を混合し、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>を用いて16℃で30分間ライゲーションした。反応終了後、反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、クロラムフェニコール耐性菌株を分離した。このクロラムフェニコール耐性菌株からpMazF veg tetプラスミドのmazFプロモーターがlacからglac−cに変換したプラスミドを得た。このプラスミドを「pN veg glac−c」と命名した。
【0055】
実施例2 mazF誘導発現枯草菌の構築
(1)mazF誘導発現系導入枯草菌Nvc株の作製
実施例1−(3)で構築されたpN veg glac−cプラスミドを用いて、B. subtilis Secretory Protein Expression System(タカラバイオ社製)中の枯草菌RIK1285株(タカラバイオ社製)の形質転換を行った。形質転換の方法はB. subtilis Secretory Protein Expression System添付の取扱説明書に準じて行った。10μg/mLのテトラサイクリンを含む1.5% LB−アガロースの寒天培地上で37℃一晩培養して出現したテトラサイクリン耐性株を分離した。さらに、得られた株について10μg/mLのテトラサイクリン及び1mMのIPTGを含む1.5% LB−アガロースの寒天培地上で生育を観察し、増殖抑制を示した菌株をmazF誘導発現系がゲノム上に導入されている枯草菌と断定し、これを単離してmazF誘導発現系導入枯草菌Nvc株と命名した。
【0056】
(2)Nvc株のmazF遺伝子挿入位置の同定
Nvc株のmazF遺伝子挿入位置を同定するため、B. subtilisのveg遺伝子近傍の塩基配列をもとに配列表の配列番号15及び16記載の塩基配列を有するプライマーveg13及びveg14を合成した。さらに、Nvc株菌体を鋳型として、プライマーlac6とveg13、プライマーtet1とveg14の2種のプライマー対のそれぞれを組み合わせてPCRを行った。PCRの反応液調製にはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)を使用し、反応条件は98℃ 1分反応後、98℃ 10秒、55℃ 15秒、72℃ 2.5分を1サイクルとする30サイクルの反応、とした。
【0057】
反応終了後、反応液を1%アガロースゲル電気泳動に供し、それぞれ0.8kbp、2.5kbpの大きさのDNA断片が増幅していることを確認した。当該DNA増幅断片は、挿入DNA内部プライマーと挿入されたDNAの外側のプライマーによって増幅されたものであり、その大きさも予想していた大きさと一致していたことからpN veg glac−c DNAは、枯草菌ゲノム上のvegプロモーター領域に挿入されていることが確認された。
【0058】
実施例3 本システムを利用した菌体内蛋白質の分泌発現
(1)EnvZB発現プラスミドの作製
まず、本システムで用いるための分泌発現用のベースベクターを作製した。即ち、Genbank Acc.NC_000964で公開されている枯草菌aprE遺伝子のプロモーター及び分泌シグナルペプチドの塩基配列、並びにpCold(登録商標) DNA(タカラバイオ社製)のマルチクローニングサイト、HisTag塩基配列及びターミネーター配列を組み合わせ、さらに分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列は保持したまま、ACA配列を他の配列に変化させた人工遺伝子を合成した(ジーンアート社が作製)。当該人工遺伝子合成では、AprEの分泌シグナルペプチドをコードする配列が枯草菌での発現に最適なコドンになるように調製した。この人工遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号17に示す。当該人工遺伝子において、AprEプロモーターは核酸番号7−178、AprEシグナルペプチドは核酸番号198−284、pCold DNAのマルチクローニングサイトは核酸番号297−356、HisTagは核酸番号360−377、pCold DNAのターミネーター配列は核酸番号411−445に対応する。
【0059】
前述の人工遺伝子を含むプラスミドをSpeI(タカラバイオ社製)、NheI(タカラバイオ社製)で制限酵素消化を行い、450bpのDNA断片を精製した。このDNA断片をB. subtilis Secretory Protein Expression SystemのシャトルベクターpBE−S DNA(タカラバイオ社製)のSpeI、XbaIサイトに導入した。このプラスミドをベースベクターとして用いた。
【0060】
次に、大腸菌の菌体内に存在するEnvZB蛋白をコードするenvZB遺伝子は、pCold I (SP−4) envZB DNA(タカラバイオ社製)から、NdeI及びXbaIで切り出し、精製して調製した。当該プラスミド上のenvZB遺伝子は、既にACA配列がないように調製されたものである。このDNA断片を上記プラスミドの同サイトに導入してEnvZB発現プラスミドを作製した。
【0061】
(2)Nvc株によるEnvZBタンパク質の分泌発現
EnvZBの分泌発現について検討した。
まず、上記(1)で調製したEnvZB発現プラスミドを用いて枯草菌Nvc株を形質転換した。得られた新鮮な単一コロニーをBactotrypton 10g/L、yeast extract 5g/L、NaCl 5g/L、カナマイシン10μg/L、テトラサイクリン 5μg/Lを組成とする培地(以下KT−LB培地と記載する)2mLに懸濁し、28℃で終夜培養した。翌日、KT−LB培地3.8mLに前記終夜培養液0.2mLを加えて培養を開始した。37℃培養では5時間後、10時間後、28時間後、28℃培養では10時間後、28時間後の培養液を回収した。回収した培養液は2300×g 4分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を9100×g 3分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。また、上記培養について継時的にOD660を測定したところ、RIK1285株に比較して、Nvc株は増殖速度が低下していることが確認され、IPTG非存在下でも若干量のMazFタンパク質が発現していることが示唆された。回収された培養上清サンプル30μLをSDS−PAGEに供し、CBBで染色して目的のEnvZBタンパク質の分泌発現を観察した。その結果を図1に示す。
【0062】
すなわち図1は、本システムでEnvZBタンパク質を分泌発現させた培養上清のSDS−PAGEであり、レーン1はlow range分子量マーカー(バイオラッド社製)、レーン2はEnvZBタンパク質発現プラスミドをRIK1285株に導入して培養した培養上清であり、レーン2は37℃ 10時間培養の場合を示す。レーン3〜7はEnvZBタンパク質発現プラスミドをNvc株に導入して培養した培養上清を示し、レーン3は37℃ 5時間培養の場合、レーン4は37℃ 10時間培養した場合、レーン5は37℃ 28時間培養した場合、レーン6は28℃ 10時間培養した場合、レーン7は28℃ 28時間培養した場合を示す。
【0063】
図1に示したように、コントロールとしてEnvZB発現プラスミドをRIK1285株に導入した枯草菌の培養上清では、LB培地由来の低分子タンパク質を含む夾雑タンパク質のみであり、目的のEnvZBタンパク質の分泌は確認できなかった。しかし、Nvc株を用いた場合、EnvZBタンパク質のバンドが確認され、その一方で夾雑タンパク質のバンドはLB培地由来の低分子タンパク質を除き確認できなかった。また、培養条件としては37℃ 10時間培養が最適であり、その時のEnvZBタンパク質の生産量はBSAを指標とすると11μg/mLであった。以上のことから、mazF遺伝子導入枯草菌をもちいた目的タンパク質の分泌発現においては、大量のMazFタンパク質を発現させる必要はないことが確認できた。即ち、増殖を停止させず培養を続けることが単一タンパク質の分泌に有利であることが確認できた。以上のことから本発明の方法は、配列特異的エンドヌクレアーゼを大量に発現させる大腸菌を用いた単一タンパク質生産システムと比較して、宿主の増殖を保持しながら配列特異的エンドヌクレアーゼを発現制御させる点において大きく異なることが確認できた。
【0064】
実施例4 本システムを用いた菌体外酵素タンパク質の分泌発現
(1)β−lactamase発現プラスミドの作製
本システムについて、異種菌体外タンパク質をターゲットにして検討した。本実施例では、β−lactamaseを選択した。まず、プラスミドpUC19に保持されているβ−lactamase遺伝子のシグナルペプチドに対応する塩基配列を除いた塩基配列中のACA配列をアミノ酸変化させないように他の配列に変化させ、さらに枯草菌での発現に適するようにコドンを変換した人工遺伝子を調製した。この人工遺伝子DNAの塩基配列を配列表の配列番号18に示す。末端をNdeI,XbaIの突出末端に変換した前記の人工遺伝子(DNA断片)を実施例3−(1)で調製したベースベクターのNdeI、XbaIサイトに導入し、β−lactamase−HisTag融合タンパク発現プラスミドを作製した。次に、前記プラスミドを制限酵素XbaIで切断後、末端を平滑化した。こうして得られたDNA断片をDNA Ligation Kit <Mighty Mix>を用いて閉環させることにより、β−lactamase発現プラスミドを得た。
【0065】
(2)Nvc株培養によるβ−lactamase分泌発現
上記(1)で調製したβ−lactamase発現プラスミドを枯草菌Nvc株に導入し、カナマイシン耐性コロニーを選択した。新鮮な単一コロニーをKT−LB培地2mLに懸濁し、28℃で終夜培養した。翌日、KT−LB培地3.8mLにこの終夜培養液を0.2mL加えて培養を開始した。同時に枯草菌の増殖に影響を与えない低濃度の1μM IPTGを加えたKT−LB培地でも同様の培養を行った。37℃培養では5時間後、10時間後、28時間後に、28℃培養で10時間後、28時間後培養液を回収した。回収した培養液は、2300×g 4分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を9100×g 3分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。回収された培養上清30μLをSDS−PAGEに供し、CBB染色を行って、β−lactamaseの分泌発現を確認した。その結果を図2に示す。
【0066】
すなわち図2は、本システムでβ−lactamaseタンパク質を分泌発現させた培養上清のSDS−PAGEであり、レーン1はlow range分子量マーカー(バイオラッド社製)、レーン2はβ−lactamaseタンパク質発現プラスミドをRIK1285株に導入して37℃ 10時間培養した培養上清、レーン3〜12はβ−lactamaseタンパク質発現プラスミドをNvc株に導入して培養した培養上清を示し、レーン3は37℃ 5時間培養した場合、レーン4は1μMのIPTG添加LB培地で37℃ 5時間培養した場合、レーン5は37℃ 10時間培養した場合、レーン6は1μMのIPTG添加LB培地で37℃ 10時間培養した場合、レーン7は37℃ 28時間培養した場合、レーン8は1μMのIPTG添加LB培地で37℃ 28時間培養した場合、レーン9は28℃ 10時間培養した場合、レーン10は1μMのIPTG添加LB培地で28℃ 10時間培養した場合、レーン11は28℃ 28時間培養した場合、レーン12は1μMのIPTG添加LB培地で28℃ 28時間培養した場合を示す。
【0067】
図2に示したように、コントロールとなるβ−lactamase発現プラスミドをRIK1285株に導入した枯草菌の培養上清でもβ−lactamaseタンパク質は分泌していたが、夾雑タンパク質も多数分泌されていた。しかしながら、Nvc枯草菌を用いた培養上清では夾雑タンパク質の分泌は顕著に減少しており、1μM IPTGを添加することでさらに夾雑タンパク質の混入を減少させることができた。また、培養条件としては、1μM IPTG添加培地で28℃ 28時間の培養が最適で、その時のβ−lactamaseの生産量はBSAを指標にして19μg/mLだった。本実施例においても、MazFタンパク質を大量発現させることなく高純度の目的タンパク質を取得することができた。
【0068】
(3)Nvc枯草菌を用いて生産したβ−lactamaseの酵素活性
β−lactamase−HisTag融合タンパク質発現プラスミドを用いて、RIK1285株及びNvc株を形質転換し、得られたカナマイシン耐性コロニー4個をそれぞれKT−LB培地2mLに懸濁し、28℃で培養した。28時間培養後、培養液を回収し、2300×g 4分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を9100×g 3分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。回収した培養上清400μLについて、ULTRAFREE−MC 10000NMWL Filter unit(ミリポア社製)を用いて10倍濃縮した後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍希釈する操作を3回繰り返して、培地由来の低分子タンパク質を除いた。さらにこの試料を40μLに濃縮して酵素活性測定を行った。また、β−lactamaseの酵素活性は、バイオケミカル ジャーナル(Biochemical J.)、第139巻、第789〜790頁(1974)記載の方法に基づき、アンピシリンのA235nmの減少を指標に測定した。その結果を図3に示す。
【0069】
すなわち図3は、本システムで分泌発現させたβ−lactamaseタンパク質の酵素活性を示したグラフであり、縦軸は、酵素活性(U/μL)、横軸は、使用した宿主名を示す。
【0070】
図3に示したようにRIK1285株を用いたβ−lactamase生産の培養上清は平均で0.34U/μL、Nvc株の培養上清は平均で7.2U/μLの酵素活性を示した。またバイオラッド protein assay(バイオラッド社製)を用いて各培養上清の総タンパク量を測定し、酵素活性と総タンパク量から比活性を計算した。その結果、RIK1285株を用いた培養上清のβ−lactamaseの比活性は2.4U/mgであった。一方、Nvc株の培養上清の比活性は61U/mgであった。このことからNvc株を用いて生産されたβ−lactamaseは、コントロールとなるRIK1285株に対して酵素活性で21倍、比活性で25倍という高い値を示した。
【0071】
(4)本システムで調製したタンパク質の純度の検討
上記実施例4−(3)で得られた結果をもとに本システムで調製したタンパク質の純度について検討した。まず、β−lactamase−HisTag融合タンパク質発現プラスミドを保持するRIK1285株の新鮮なコロニーをKT−LB培地20mLに懸濁し、28℃ 30時間培養した。培養液を1200×g 10分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を7300×g 30分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。この培養上清に200μLのNi−NTA アガロース(キアゲン社製)を加えて、4℃ 2時間緩やかに振とうした。次に、β−lactamase−HisTagと結合させたNi−NTAアガロースをEcono−Pac Disposable Chromatography Column(バイオラッド社製)に充填し、このカラムをwash buffer(50mM Sodium phosphate buffer pH8.0、0.3M NaCl)1mLで3回洗浄した。その後、elute buffer(50mM Sodium phosphate buffer pH8.0、0.3M NaCl、300mM Imidazole)500μLでβ−lactamase−HisTagタンパク質を溶出させた。カラムより溶出されたβ−lactamase−HisTagタンパク質溶液は1LのPBSに対して3回透析して精製β−lactamase−HisTagタンパク質溶液を得た。このタンパク質溶液中のβ−lactamase活性、及び総タンパク質を上記実施例4−(3)と同様の方法で定量した。
【0072】
同様にNvc株を利用してβ−lactamase−HisTagタンパク質の生産を行った。即ち、β−lactamase−HisTag融合タンパク質発現プラスミドを保持するNvc株の新鮮なコロニーを10μg/mL濃度のカナマイシン及び5μg/mL濃度のテトラサイクリンを含むLB培地20mLに懸濁し、28℃ 30時間培養した。培養液を1200×g 10分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を7300×g 30分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。培養上清は、Centriprep Ultracel YM−10(ミリポア社製)を用いて2mLまで濃縮した。このうち400μLをULTRAFREE−MC 10000NMWL Filter unitを用いて10倍濃縮した後にPBSで10倍希釈する操作を3回繰り返し、培地由来の低分子タンパク質を取り除いた。最終サンプルを400μLとし、1LのPBSに対して3回透析してβ−lactamase−HisTagタンパク質溶液を得た。このタンパク質溶液中のβ−lactamase活性、及び総タンパク質を上記実施例4−(3)と同様の方法で定量した。前記比活性について図4に示す。
【0073】
すなわち図4は、本システムで分泌発現させた菌体外酵素の比活性を示すグラフであり、縦軸は酵素比活性(U/mg)、横軸は試料の種類を示す。
【0074】
図4に示したように本発明のシステムで得られる培養上清を限外濾過/希釈/透析して調製した試料におけるβ−lactamase−HisTagタンパク質の比活性は、91U/mgであった。一方、RIK1285株を宿主として得られた培養上清よりNiアフィニティカラムにより精製されたβ−lactamase−HisTagタンパク質の比活性は、97U/mgであった。即ち、両者は非常に近い値であることから、枯草菌Nvc株を用いてタンパク質を分泌させた培養上清について濃縮や透析を行うことだけで、カラム精製タンパク質溶液とほぼ同純度のタンパク質溶液が得られることが確認できた。従って、本システムを用いれば、純度の高い目的のタンパク質をほとんど精製操作することなく取得することができることが確認できた。
【0075】
実施例5 本システムを用いたヒト由来サイトカインの分泌発現
(1)ヒトインターフェロンα2bタンパク発現プラスミドの作製
本システムについて、ヒト由来菌体サイトカインをターゲットにして検討した。本実施例では、インターフェロンα2bを選択した。まず、Genbank Acc.AY255838.1で公開されているヒト由来インターフェロンα2b(以下、ヒトインターフェロンα2bと記載する)遺伝子の塩基配列を元に配列中のACA配列をコードされるアミノ酸を変化させないように他の配列に変化させ、さらに枯草菌での発現に適するようにコドンを変換した人工遺伝子を調製した。またこの人工遺伝子の5´端にはNdeIの、3´端にはpColdのマルチクローニングサイト(XhoI, BamHI, EcoRI, HindIII, SalI, PstI, XbaI)が付加してある。この人工遺伝子DNAの塩基配列を配列表の配列番号19に示す。末端をNdeI,XbaIの突出末端に変換した前記の人工遺伝子(DNA断片)を実施例3−(1)で調製したベースベクターのNdeI、XbaIサイトに導入し、ヒトインターフェロンα2bタンパク発現プラスミドを作製した。
【0076】
(2)Nvc株培養によるヒトインターフェロンα2b分泌発現
実施例5−(1)で作製したヒトインターフェロンα2b発現プラスミドを枯草菌Nvc株に導入し、カナマイシン耐性コロニーを選択した。新鮮な単一コロニーをBactotrypton 10g/L、yeast extract 5g/L、NaCl 2.5g/L、カナマイシン10μg/L、テトラサイクリン 5μg/Lを組成とする培地(以下KT−LB0.25培地と記載する)2mLに懸濁し、25℃で2日培養した。培養液は、2300×g 4分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を9100×g 3分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。回収された培養上清30μLをSDS−PAGEに供し、CBB染色を行って、ヒトインターフェロンα2bの分泌発現を確認したが発現量は極めて少なかった。
【0077】
(3)ヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミドへの173種シグナルペプチドの挿入
実施例5−(1)で作製したヒトインターフェロンα2b発現プラスミドを制限酵素MluI、 Eco52Iで切断し、約6.7kbpのDNA断片を調製した。また、B. subtilis Secretory Protein Expression System(タカラバイオ社製)中の173種類の分泌シグナルペプチドDNA混合物であるSP DNA mixtureを同様に制限酵素MluI、 Eco52Iで切断し、エタノール沈殿で精製した。切断されたヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミド0.5μgと切断したSP DNA mixture 1.2pmolを混合し、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を用いて16℃で30分間ライゲーションした。ライゲーション溶液を用いて大腸菌HST08を形質転換し、アンピシリン耐性コロニーを選択した。10000個以上のコロニーをかきとり、プラスミドを調製して、173種類のシグナルペプチドをコードする配列のいずれかが挿入されたヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミドの混合物を得た。
【0078】
(4)ヒトインターフェロンα2b高分泌発現枯草菌のスクリーニング
実施例5−(3)で調製したヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミドの混合物10μgを用いて枯草菌RIK1285株を形質転換し、カナマイシン耐性コロニーを選択した。これらコロニー上にニトロセルロース膜(Life Technologies社製)を上層して37℃ 3時間培養して分泌タンパクをニトロセルロース膜に転写した。この膜上のインターフェロンa2bタンパク質をanti−IFNα抗体(R&D Systems社)を用いて定法により検出し、強いシグナルを与えたコロニーを分離した。これらのコロニーを培養してプラスミドを調製し塩基配列解析を行い、挿入されたシグナルペプチドをlipA遺伝子由来のシグナルペプチドと同定した。
【0079】
(5)lipAシグナルペプチドのACA配列除去と再クローニング
lipAの塩基配列を元にACA配列を、アミノ酸を変化させないように他の配列に変化させたシグナルペプチドをコードする配列の5´、3´末端に、それぞれ実施例3−(1)で調製したベースベクターのMluIサイトの上流15bpの塩基配列、Eco52Iサイトの下流15bpの塩基配列を付けた人工遺伝子を合成した。この人工合成遺伝子の塩基配列を配列番号20に示す。この人工遺伝子を実施例5−(3)で作製したMluI、Eco52I切断ヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミドと混合し、In−Fusion(商標) Advantage PCR Cloning Kit(タカラバイオ社製)で連結した。この反応液で大腸菌JM109を形質転換し、得られたアンピシリン耐性コロニーからプラミドを調製してlipA挿入ヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミドを作製した。
【0080】
(6)lipAシグナルペプチドを用いたヒトインターフェロンα2bの選択的分泌発現
実施例5−(5)で得られたlipA挿入ヒトインターフェロンα2b分泌発現プラスミドを用いて枯草菌Nvc株を形質転換しカナマイシン耐性コロニーを選択した。新鮮な単一コロニーをKT−LB0.25培地2mLに懸濁し、25℃で2日培養した。培養液は、2300×g 4分間の遠心分離を行って菌体を沈殿させ培養上清を回収し、さらに回収した培養上清を9100×g 3分間の遠心分離を行って、培養上清サンプルを調製した。この培養上清をSDS−PAGEで解析したところ、単一バンドとしてインターフェロンα2bが観察された。このように本発明のシステムと適当なシグナルペプチドの選択とを組み合わせることで、通常では分泌発現困難なインターフェロンα2bなどのサイトカインでも高純度に生産することが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明を用いることにより、純度の高い目的のタンパク質をほとんど精製操作することなく取得することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
SEQ ID NO:1: Primer tet1 to amplify the tet gene
SEQ ID NO:2: Primer tet2 to amplify the tet gene
SEQ ID NO:3: Synthetic DNA encoding the tet gene
SEQ ID NO:4: Primer veg3 to amplify the veg promoter
SEQ ID NO:5: Primer veg/lac4 to amplify the veg promoter and the lacI gene
SEQ ID NO:6: Primer lac5 to amplify the lacI gene
SEQ ID NO:7: Primer lac6 to amplify the lacI gene
SEQ ID NO:8: Primer glac7 to amplify the glac-c promoter
SEQ ID NO:9: Primer glac8 to amplify the glac-c promoter
SEQ ID NO:10: Primer glac9 to amplify the glac-c promoter
SEQ ID NO:11: Primer glac10 to amplify the glac-c promoter
SEQ ID NO:12: Primer glac11 to amplify the glac-c promoter
SEQ ID NO:13: Primer glac12 to amplify the glac-c promoter
SEQ ID NO:14: Synthetic DNA encoding the glac-c promoter
SEQ ID NO:15: Primer veg13 for PCR
SEQ ID NO:16: Primer veg14 for PCR
SEQ ID NO:17: Synthetic DNA encoding the AprE signal peptide, multicloning site and pCOLD terminator
SEQ ID NO:18: Synthetic DNA encoding the beta-lactamase
SEQ ID NO:19: Synthetic DNA encoding the modified human interferon a2b
SEQ ID NO:20: Synthetic DNA encoding the modified lipA signal peptide

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の製造方法であって、
(a)1)配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNA、及び
2)シグナルペプチドとそれに連結された所望のタンパク質とからなる目的タンパク質をコードし、かつ配列特異的エンドリボヌクレアーゼ認識配列に対応する塩基配列の少なくとも1つが、前記目的タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく他の配列に置換されているDNA、を宿主細胞に導入する工程;及び
(b)工程(a)で得られた宿主細胞を培養する工程;
を包含することを特徴とするタンパク質の製造方法。
【請求項2】
タンパク質の製造方法であって、
(a)1)配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNA、及び
2)シグナルペプチドとそれに連結された所望のタンパク質とからなる目的タンパク質をコードし、かつ前記目的タンパク質をコードするmRNAを宿主細胞内で過剰発現するDNA、を宿主細胞に導入する工程;及び
(b)工程(a)で得られた宿主細胞を培養する工程;
を包含することを特徴とするタンパク質の製造方法。
【請求項3】
宿主細胞が、細菌、酵母、真菌、担子菌、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞から選択される細胞である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
配列特異的エンドリボヌクレアーゼが2〜7塩基の配列を認識してRNAを切断するエンドリボヌクレアーゼである請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
配列特異的エンドリボヌクレアーゼがMazF、PemK、MqsRから選択されるエンドリボヌクレアーゼである請求項4記載の方法。
【請求項6】
配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが宿主細胞の染色体に組み込まれる請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
タンパク質の製造に使用されるキットであって、
(1)遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主;
(2)発現可能な形態で配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAを含むベクター;及び
(3)プロモーター、シグナルペプチドをコードする配列及びマルチクローニングサイトを有するベクター;
を包含することを特徴とするキット。
【請求項8】
タンパク質の製造に使用されるキットであって、
(1)遺伝子産物の分泌発現が可能であり、かつ染色体に発現可能な形態で配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードするDNAが組み込まれた宿主;及び
(2)プロモーター、シグナルペプチドをコードする配列及びマルチクローニングサイトを有するベクター;
を包含することを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−217730(P2011−217730A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254382(P2010−254382)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】