説明

タンパク質サンプルの大規模収集方法

【課題】例えばRPAによる細胞動態のより正確な分析を可能とするため、異なる持続時間および/または強度の刺激またはストレスに暴露された細胞集団から、短時間で均質なタンパク質溶解物を収集する方法を提供する。
【解決手段】以下のステップ:(1)各T-25型フラスコ中で培養した細胞集団に所定の時間および/または強度で刺激またはストレスを付加したのち、各フラスコを氷上に静置し、(2)各フラスコ内の細胞集団を洗浄して細胞懸濁液を調製し、(3)細胞懸濁液を注入した遠心チューブを直ちに氷上に静置したのち、遠心分離によって細胞ペレットを生成させ、
(4)単離した細胞ペレットをドライアイス上で維持し、(5)室温に戻した細胞ペレットの量を見積もった後、室温のPinkBufferと細胞ペレットを混合し、氷上で細胞ペレットを溶解させ、(6)溶解した細胞ペレットを遠心分離し、(7)遠視分離した溶液からタンパク質溶解物を含む上清を単離する、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、高密度かつ大規模のタンパク質アレイ等のためのタンパク質溶解物を短時間で大規模に収集に関するものであり、特に、「逆相」溶解物マイクロアレイ(Reverse-phase” lysate microarrays:RPA)のためのタンパク質溶解物の収集に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「逆相」溶解物マイクロアレイ(Reverse-phase” lysate microarrays:RPA)は微量スケールのドットウェスタンブロット解析であって、同時に数百から数千のタンパク質発現を定量的手法でモニターできる(非特許文献1)。この方法では、検出対象のタンパク質を免疫化学的に検出するために全細胞の溶解物画分をマイクロアレイ上に配置して固定させる必要がある。RPAの一つの有力な応用手法は、種類や用量の異なる刺激に対する多数のサンプルの反応時間の関数としてタンパク質の動態をモニターすることである(図1参照)。そのような高次元データの取得は、医薬の分子ターゲットの正確な同定とともに、理論上のタンパク質ネットワークモデルの検証にも寄与する(非特許文献2、3)。PRAはまた、短時間で定量可能な高次元プロテミクスデータを低コストで提供する数少ない技術の一つである(非特許文献4−6)。
【0003】
細胞シグナルは連続的な生化学的プロセスであり、刺激への応答として起こる。一つの明白な生化学的作用はリン酸化反応すなわち転写後の修飾である。特定の入力に対する応答としてリン酸化反応が起こると、反応部位の上流側の分子がまず反応し、次第に下流側のリン酸化タンパク質のレベルの変化が追従する。このような動態変化を正確にたどるために、間断した(短い時間の間隔での)サンプル収集が行われなければならない(非特許文献2、3、7−9)。
【非特許文献1】Paweletz, C.P., et al., Reverse phase protein microarrays which capture disease progression show activation of pro-survival pathways at the cancer invasion front. Oncogene, 2001. 20(16): p. 1981-9.
【非特許文献2】Ramalingam, S., et al., Quantitative assessment of the p53-Mdm2 feedback loop using protein lysate microarrays. Cancer Res, 2007. 67(13): p. 6247-52.
【非特許文献3】Nishizuka, S., et al., Quantitative Protein Network Monitoring in Response to DNA Damage. J Proteome Res, 2008.
【非特許文献4】Utz, P.J., Protein arrays for studying blood cells and their secreted products. Immunol Rev, 2005. 204: p. 264-82.
【非特許文献5】Liotta, L. and E. Petricoin, Molecular profiling of human cancer. Nat Rev Genet, 2000. 1(1): p. 48-56.
【非特許文献6】Nishizuka, S. and B. Spurrier, Experimental validation for quantitative protein network models. Curr Opin Biotechnol, 2008.
【非特許文献7】Chan, S.M., et al., Protein microarrays for multiplex analysis of signal transduction pathways. Nat Med, 2004. 10(12): p. 1390-6.
【非特許文献8】Winters, M.E., et al., Supra-additive growth inhibition by a celecoxib analogue and carboxyamido-triazole is primarily mediated through apoptosis. Cancer Res, 2005. 65(9): p. 3853-60.
【非特許文献9】Sevecka, M. and G. MacBeath, State-based discovery: a multidimensional screen for small-molecule modulators of EGF signaling. Nat Methods, 2006. 3(10): p. 825-31.
【非特許文献10】Spurrier, B., et al., Antibody screening database for protein kinetic modeling. Proteomics, 2007. 7(18): p. 3259-63.
【非特許文献11】Anderson, L. and J. Seilhamer, A comparison of selected mRNA and protein abundances in human liver. Electrophoresis, 1997. 18(3-4): p. 533-7.
【非特許文献12】Nishizuka, S., et al., Proteomic profiling of the NCI-60 cancer cell lines using new high-density reverse-phase lysate microarrays. Proc Natl Acad Sci U S A, 2003. 100(24): p. 14229-34.
【非特許文献13】Nishizuka, S., Profiling cancer stem cells using protein array technology. Eur J Cancer, 2006. 42(9): p. 1273-82.
【非特許文献14】Major, S.M., et al., AbMiner: a bioinformatic resource on available monoclonal antibodies and corresponding gene identifiers for genomic, proteomic, and immunologic studies. BMC Bioinformatics, 2006. 7: p. 192.
【非特許文献15】Nishizuka, S., N.R. Washburn, and P.J. Munson, Evaluation method of ordinary flatbed scanners for quantitative density analysis. Biotechniques, 2006. 40(4): p. 442, 444, 446 passim.
【非特許文献16】Carlisle, A.J., et al., Development of a prostate cDNA microarray and statistical gene expression analysis package. Mol Carcinog, 2000. 28(1): p. 12-22.
【非特許文献17】Ramaswamy, A., et al., Application of protein lysate microarrays to molecular marker verification and quantification. Proteome Sci, 2005. 3: p. 9.
【非特許文献18】Calvert, V.S., et al., Development of Multiplexed Protein Profiling and Detection Using Near Infrared Detection of Revese-Phase Protein Microarrays. Clinical Proteomics Journal, 2004. 1: p. 81-89.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、例えばRPAによる細胞動態のより正確な分析を可能とするため、異なる持続時間および/または強度の刺激またはストレスに暴露された細胞集団から、短時間で均質なタンパク質溶解物を収集する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、持続時間および/または強度の異なる刺激またはストレスに暴露された細胞集団から均質なタンパク質を短時間で大規模収集する方法であって、以下のステップ:
(1)各T-25型フラスコ中で培養した細胞集団に所定の時間および/または強度で刺激またはストレスを付加したのち、各フラスコを氷上に静置し、
(2)各フラスコ内の細胞集団を洗浄して細胞懸濁液を調製し、
(3)細胞懸濁液を注入した遠心チューブを直ちに氷上に静置したのち、遠心分離によって細胞ペレットを生成させ、
(4)単離した細胞ペレットをドライアイス上で維持し、
(5)室温に戻した細胞ペレットの量を見積もった後、室温のPinkBufferと細胞ペレットを混合し、氷上で細胞ペレットを溶解させ、
(6)溶解した細胞ペレットを遠心分離し、
(7)遠視分離した溶液からタンパク質溶解物を含む上清を単離する、
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0006】
前記の発明において、「刺激またはストレス」とは、例えば細胞の活動・活性を変化させる(具体的には、例えば細胞内シグナル伝達の発生やその変化)ような物理的または化学的要因であり、これらの要因の直接的または間接的な細胞への接触を意味する。「細胞」はヒトを含めた動物細胞や植物細胞、単細胞等であり、RPA分析等の対象となる細胞全般を包含する。「均質なタンパク質」とは、一つの細胞集団から得られた全タンパク質が刺激やストレスの影響を等しく受けていること、そして、各細胞集団からのそれぞれのタンパク質の量がほぼ等量であることを意味する。「短時間」とは、具体的には前記発明のステップ(1)から(7)までを約1時間から約8時間程度で完了することを意味する。本願発明のその他の用語や概念については、以下の説明において詳しく説明する。
【0007】
以上の方法によって、異なる持続時間および/または強度の刺激またはストレスに暴露された細胞集団から、短時間で均質なタンパク質溶解物を収集することができる。
【0008】
そして、このようなタンパク質溶解物を用いて、RPA分析のためのアレイを製造し、アレイからのシグナルの解析によってタンパク質の動態を正確に解析することができる。以下、本願発明のタンパク質溶解物収集に関連するRPAについて、全体の流れを説明する。
【0009】
動態変化を示すタンパク質レベルを正確に知るためには、予備的にウェスタンブロット(WB)を幅広い時間および用量の選択肢の中からごく少数のサンプル数に限って行う必要がある(非特許文献10)。これら予備的実験による情報は、より短い時間間隔を用いて収集しなければならないサンプルについてのより正確な時間および用量−濃度を知る手段を決定する手助けとなる。
【0010】
発明者らは、RPAに用いるのに必要な濃度を十分確保できる量の細胞ペレットを生成させながら、かつ取扱い上の誤差を最小化させるために、個々のサンプルをT-25フラスコから常に収集しなければならないことを見出した。サンプル収集過程のすべてを氷上で行うことによって、タンパク質レベルと生化学反応を理想的に等エントロピー的に維持することができる。また、全て手のサンプル収集工程を直ちに完了させるため、実験機器と器具は個々の実験技術者に対して人間工学的にデザインされている必要がある(例えば、PBS容器は前述のフラスコにもっとも近づけて置いてある必要がある)。さらには、いかなる物理学的制約が重要か否かを識別するための模擬サンプル収集の確立も重要である。
【0011】
収集した細胞ペレットはPinkBuffer(PB)(非特許文献11)で溶解させた。PBは当初は2次元ゲル電気泳動に使用されたが、以下の性質に基づき、RPAにとって理想的であることが見出された。すなわち、(a)尿素が室温で変性されたタンパク質を保持し、(b)DTTは殆ど揮発性がない還元剤であり、(c)CHAPSは解冷凍を繰返した後にも沈殿物を生成しない。また、各化合物の濃度を調製することができるため、タンパク質濃度のみを2倍の希釈系列ごとに変化させることができる。
【0012】
しかしながら、PBはタンパク質の状態を保持するためには有用であるが、生成する溶解物の粘性が、従来のアレイヤーを使ったRPAの製造では重大な障害となっていた。さらに、試料プレートにおける長時間にわたるサンプルの露出によるサンプルの蒸発も、大規模マイクロアレイプリントへの障害となっていた。ただしこのような問題は、例えばAushon BioSystems 2470マイクロレイヤーの使用によって対処することができる。このAushon BioSystems 2470は極めて高粘土の溶解物材料からでもアレイを製造することができる(非特許文献6、13)。
【0013】
Aushon 2470は固体ピン配置、湿度/温度環境コントロール、および自動連続的スライド/マイクロプレート供給システムを使用している。下記に説明する具体例でのRPA製造システムでは32ピン配置(最大48ピン)で、これは20×20列からなる32の領域をプリント可能である(図2a)。サンプルのマイクロタイタープレート内の配置、および、アレイ上のレイアウト順序は、研究するサンプルの数やプリントの目的に応じて慎重に計画しなければならない(表1)。高密度かつ大規模なRPAは多種大量のサンプルを同一の条件下で試験することが要求される研究計画においてもっとも有用である。それ以外のRPAは染色、プリント、レイアウトの検討目的で行う予備試験に好適である。
【0014】
【表1】

【0015】
本願発明のサンプル収集プロトコルは高密度・大規模でのアレイ設計に用いるためのものであり、このアレイ設計はタンパク質動態解析との関連でRPAの最も強力な応用である(非特許文献2、3)。384ウェルのマイクロタイタープレートないし1536ウェルのマイクロタイタープレートの使用も選択可能であり、1536ウェルの場合は384ウェルの4倍の数の多様な抽出物を分析可能である。
【0016】
溶解物をプリントした後に、免疫科学的方法によりシグナルを検出する。RPAは分子量によってタンパク質画分を決定しないので、抗体がタンパク質溶解物に含まれる標的抗原に特異的であることを保証することが重要である。発明者らは、多量の抗体を一定範囲の細胞条件で試験するために、多様な条件下で採取した溶解物を備えたストリップメンブレン(非特許文献10、14)を用いて、高効率のWP法を確立した。結果は使用したサンプルおよび抗体プローブ条件に対するWB結果と関連する大規模なデータセットであり、これより適切な抗体選択(非特許文献10)の助けとなる関連データベースの構築が可能となる。
【0017】
RPAに使用される溶解物に対するWBで単一の顕著なバンドが生成した場合にのみ、RPA実験のための特異的な一次抗体が選択される。しかしながら、そのような抗体すべてがRPAで有効に機能するとは限らないという点は留意すべきである。しばしば、いくつかの抗体について長いインキュベーション時間や異なった種類のブロッキングが必要となる場合に、抗体濃度を上げる必要がある。例えば、発明者らの実験では約50%の「単一バンド」抗体で定量化可能なRPAアウトプットが得られることが判明している。
【0018】
なお、以下に示す本願発明方法の具体的なプロトコルは細胞内のタンパク質の相対的変化を検定するための「多数のサンプル」を収集することを主眼としたものであり、細胞系パネルや組織スナップショットにおける収集のためのものではないことを強調しておく。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、数百のタンパク質溶解物サンプルの収集を1時間から8時間で行うことができ、最初の一次抗体スクリーニングを含めても、サンプル収集まで10日間で完了することができる。また、引き続くRPAへのサンプルの固定、シグナルの検出も2日から3日で行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、RPAによるタンパク質ネットワークモデルの実験的検証に用いることを目的とする定量的タンパク質発現解析のための大規模サンプル収集方法について詳細に説明する。また、以下の説明では、収集したサンプルのマイクロタイタープレートへの固定、およびシグナルの検出についても説明する。収集実験プロセスの概略は図1のフローチャートに記載した。
1.材料
(1)試薬
・培養細胞
・Ca2+ およびMg2+ を含まないPBS(BioWhittaker; Cat. no.: 17-516Q)
・Pink buffer(試薬調製方法を参照)
・0.67×希釈バッファー(試薬調製方法を参照)
・尿素(Fluka/BioChemika; Cat. no.: 51456)
・超純水(KD Medical; Cat. no.: RFG-3410)
・Pharamlyte pH 8-10.5 (Amersham Biosciences; Cat. no.: 17-0455-01)
・CHAPS (Calbiochem; Cat. no.: 220201)
・DTT (Amersham Biosciences; Cat. no.: 17-1318-02)
・DI水
・TBST 10X (DakoCytomation; Cat. no.: K3306)
・カゼイン(I-block, Tropix; Cat. no.: T2015-0507022)
・トゥイーン20(Bio-Rad; Cat. no.: 170-6531)
・金コロイド全タンパク質染色(Bio-Rad; Cat. no.: 170-6527)
・CSA Kit (DakoCytomation; Cat. no.: K1500)
・過酸化水素
・アビジンブロック
・ビオチンブロック
・ストレプタビジン複合体
・増幅試薬
・ジアミノベンゾジン(DAB)溶液(DakoCytomation; Cat. no.: K3468) 注意-DABは酸化成分である:基質バッファーとクロモゲンは使用の際まで混合しない。
【0021】
・基質バッファー
・DAB+クロモゲン(色原体)
・ビオチン標識抗ウサギ免疫グログリン(DakoCytomation; Cat. no.:K1498)
・アビジン溶液(Invitrogen; Cat. no.: 00-4303)
・ビオチン溶液(Invitrogen; Cat. no.: 00-4303)
・ステパビジン−アレクサFluor 647共役物(オプション) (Invitrogen; Cat. no.:S-32357)
・IRDye-680ヤギ抗マウス二次抗体(オプション) (Li-Cor; Cat. No.: 926-32220)
・IRDye-800CWヤギ抗ウサギ二次抗体(オプション) (Li-Cor; Cat. No.: 926-32211)
(2)実験機器
・細胞インキュベーター(Sanyo UV SafeCell)
・T-25型フラスコ(BD Falcon; Cat. No.: 353808)
・1.5mLマイクロチューブ、1サンプルあたり2個(Daigger; Cat. no.: FX42654RA)
・セルスクレイパー(細胞擦過器)(Corning/Daigger; Cat. no.: FX8612B)
・0.2um Nalgene無菌ろ過器(Nalgene/Daigger; Cat. no.: FX8221D)
・Gentix 384-マイクロプレート(Genetix; Cat. no.: X6004)
・Bio-Radミニインキュベーショントレイ(Bio-Rad; Cat. no.: 170-3903)
・16連ピペット、4.5mm間隔(Matrix; Cat. no.: 2080)
・遠心分離器(Eppendorf Centrifuge 5417C)
・振盪器(Bio-Rad UltraRocker)
・パラフィルム
・ジップロックバッグ
・マイクロアレイヤー(Aushon BioSystems 2470), (図3a)
・自動染色機(DakoCytomation), (図3b)
・蛍光スキャナー(オプション) (Affymetrix 428)
・近赤外線スキャナー(オプション) (Li-Cor Odyssey)
2.試薬調製
(1)細胞培養
細胞はT-25フラスコで適切な培地を選択し、37℃、5%CO2条件下で培養した。所望の数フラスコを得るために必要に応じて何回も培養細胞を分注する。細胞集団が個々のフラスコで約70%のコフルエントになった時点で、培養細胞を適切な数量のフラスコに分注する。研究計画に従った刺激培地を調製し、あるいはストレス装置を準備する。注意:細胞への刺激あるいはストレス付加は完全にサンプリング手順を始める準備が完了してから行う。
(2)Pink Buffer
40mLスケールでの調製においては、尿素21.6 g を 22.5 ml の超純水に加えマグネチックスターラーで溶解させる。30分間もしくは溶液が透明になるまで撹拌する。全量は約40mLとする。0.2nmの無菌ろ過フィルターでろ過をする。0.8 mlのPharmalyte pH 8-10.5、ついで1.6 gのCHAPSを加え、この順序で穏やかに撹拌する(注意:振らないこと)。0.4gのDDTを加え、穏やかに撹拌する(注意:振らないこと)。この溶液を必要に応じて超純水で40mLにメスアップ調製する。分注量を0.5mLから1mLとして、-20℃で保存する(注意:(室温で)一度融解させた後は未使用の溶液であっても廃棄する)。上記のPinkBufferの調整方法は所望の溶液量に応じてスケール変更できる。
(3)0.67×希釈バッファー
300mLスケールでの調製には、尿素108gを168mLの超純水に加え、マグネチックスターラーで撹拌する。30分間もしくは溶液が透明になるまで撹拌する。0.2μmの無菌ろ過フィルターでろ過する。3.9mlのPharmalyte pH 8-10.5と、8.1gのCHAPSを加え、この順序で穏やかに撹拌する(注意:振らないこと)。1.8gのDTTを加え、穏やかに撹拌する(注意:振らないこと)。この溶液を必要に応じて超純水で300mLにメスアップ調製する。分注量を10mLから15mLとして、-20℃で保存する(注意:(室温で)一度融解させた後は未使用の溶液であっても廃棄する)。上記のPinkBufferの調整方法は所望の溶液量に応じてスケール変更できる。
(4)ブロッキングバッファー
いくつかのブロッキングバッファーを用いることができるが、まずはI-Block溶液を選択した。250μLのトゥイーン20と250mLのPBSを混合して0.1%のウオッシュバッファーを調製した。0.5gのTropix I-Block(粉末状)を250mlのウオッシュバッファーに混合した。電子レンジで30秒加温して、マグネチックスターラーでI-Blockが完全溶解するまで撹拌した0.2μmの無菌フィルターで滅菌ろ過した後、4℃で保存した。
(5)金コロイドの全タンパク質染色
染色試薬は使用まで4℃で保管する。金コロイドの廃液は有害廃棄物処理方法に従って処分する(図5a)。
(6)シグナル増幅触媒試薬
DAKO Cytomationが提供するキット(Cat. no.: K1500)は最低限の準備で足りる。ストレプタビジン−ビオチン複合体は、ストレプタビジン−ビオチン複合体希釈剤1mlに40μL(約1滴)のストレプタビジン−ビオチン複合体試薬A加えて調製する。次いで、40μL(約1滴)のストレプタビジン複合体試薬Bを1mLのストレプタビジン−ビオチン複合体希釈剤および試薬Aに加える。適切な混合撹拌を得るために溶液をゆっくりと倒置させる。このステップは調製プロセスの最後の方で行うことが望ましい。DAB溶液 (DakoCytomation; Cat. no.: K3468)は液体DAB+クロモゲン20μLをDAB基質バッファー1mLごとに添加して調製する。重要事項:DABは酸化剤であるからこの調製ステップは直接この溶液を使う直前に行う(図5b)。
3.実験機器の準備
(1)Aushon Biosystems 2470マイクロアレイヤー
アレイヤーのスイッチを入れ、コントロールビュー上の湿度コントロールを80%に設定する。プレートの数を設定し、抽出設定を10セクタに変える。ピン直径および間隔をサンプルに適合するように調整する(例えば、高密度マトリックスセットでは、ピン直径を130μm、x軸方向の間隔を225μm、y軸方向の間隔を225μmとする)。このステップは実際のピンサイズを変化させず、むしろフューチャー間の距離を適切に設定する。研究計画をよく反映したプリント複製を設定する(図4)。我々は水平式2複製の設定を使用した。ピンチップが余剰な物質を保持しないようにするためスライド10をブロットスライドして使うことを選択する。
【0022】
続いてサンプルのレイアウトに従ったそれぞれのプラテン上にプリントされるスライドの数を設定する。パラメータを設定そたら、カーボイの廃液を捨て、洗浄液をDI水で満たす。プラテン上に設定した数のスライドをセットし、これらをアレイヤーの中にセットする(注意:スライドに指紋がつくのを防止するためまた一般的安全のために手袋を着用する)。
(2)DAKO自動染色機
DAKO自動染色機のパラメータの設定は染色するスライドの数に応じて調整する。TBSTおよびDI水を各コンテナに充填する。すべての試薬類は使用するまで4℃で保存する。また、下記のプロトコルで試薬類を調製した場合には、調製の間は試薬をできるだけ蓋をした状態にしておく(重要事項:スライドの染色を開始するまでブロッキングバッファーあるいはDI水でスライドは常に湿潤した状態を保持すること)。
4.手続
(1)刺激・ストレス付加後のサンプル収集
1:サンプル収集に先立ち1.5mLμチューブに収集するサンプルの名称をラベルする(重要事項:ラベルには時点、刺激やストレス付加、用量、および組織の複製の数を記載する)。当該チューブは中間ステップで使用する。
2:1000μLピペットとチップ、氷桶およびセルスクレイパーを準備する(注意:このプロトコルは時間制約的な手順であり、すべての使用物質はサンプル収集の前に準備し、人間工学的に効率的な場所で手の届く範囲に配置しておく)。
3:PBSの入った50mLチューブをそれぞれ氷上に置き、T-25型フラスコ3つに対して約50mLを使って手で注いでリンスする(重要事項:すべてのプロセスは氷上もしくは冷蔵室で行う)。
4:ステップ1でラベルした1.5mLチューブを設置する。これらのチューブには細胞ペレットを収集し、それに従ったラベル付けを行う。
5:適切な時点に達したら、フラスコをその刺激あるいはストレス条件から取り除き、直ちに氷上に静置する(重要事項:刺激・ストレスポイントから氷上への移動を緩慢に行うとタンパク質収集の結果が不均一になる)。
6:収集したサンプルの洗浄手続は接着細胞か否か、あるいは懸濁液中で増殖しているかによって異なる。収集細胞が接着性の場合はオプション(A)を、収集した細胞が懸濁液中で増殖している場合はオプション(B)を使う。
オプション(A):接着細胞のための細胞収集
i:フラスコから培地を吸引する
ii:約5mlLの冷却したPBSで収集細胞を洗浄し、吸引する(注意:ピペットを使わなくともよい)。
iii:収集細胞を約5mLのPBSで2度目の洗浄を行い、吸引する。
iv:収集細胞を約5mLのPBSで3度目の洗浄を行い、培地の残渣をできるだけ少なくして細胞ペレットを生成するために、残らず吸引する。
v:ピペットで1.5mLの冷却したPBSをフラスコに注ぐ。
vi:セルスクレイパーを使ってフラスコの底から細胞を取り除き、1.5mL以下のPBSで懸濁した細胞液を得る。
オプション(B):細胞懸濁液からの細胞収集
i: 4℃、5000Gで30秒間遠心分離をしてペレットを生成する。
ii:上清を吸引除去する。
iii:約5mLの冷却したPBSを加え、細胞が完全に懸濁するまでピペット操作を何回か繰り返して細胞を洗浄する。
iv:4℃、5000Gで30秒間遠心分離をしてペレットを生成する。
v:上清を吸引除去する。
vi:約5mLの冷却したPBSを加え、細胞が完全に懸濁するまでピペット操作を何回か繰り返して細胞を洗浄する。
vii:4℃、5000Gで30秒間遠心分離をしてペレットを生成する。
viii:上清を吸引除去する。
ix:約5mLの冷却したPBSを加え、細胞が完全に懸濁するまでピペット操作を何回か繰り返して細胞を洗浄する。
x:4℃、5000Gで30秒間遠心分離をしてペレットを生成する。
xi:上清を吸引除去する。
xii:ピペットで1.5mLの冷却したPBSをフラスコに注ぐ。
xiii:ピペット操作を何回か繰り返して1.5mLの細胞懸濁液を調製する。
7:得られた1.5mLの細胞懸濁液をピペットを用いて、ステップ4で予めラベルをしておいた遠心チューブに移す。
8:遠心チューブは「直ちに」氷上に静置する。
9:4℃、6000Gで30秒間遠心分離をしてペレットを生成する(注意:チューブの底にペレットが生成していることを確認すること)。
10:ピペットを使ってPBSを除去し、直ちに細胞ペレットをドライアイス上に載せる(注意:吸引操作に真空ポンプを使用しないこと)。
11:それぞれのサンプルについて同じ操作を繰り返す(重要事項:このプロセスは生物学的複製(同様のサンプル)を取得する場合には、複数のフラスコを使って同時に行う必要がある。それぞれのサンプル収集操作は6分以内に行い、フラスコの最大数は一度に扱える個数として4個である。一時的中断:細胞ペレットを-80℃で保存することにより2〜3ヶ月の後に再開することが可能である。
(2)細胞ライセートの調製
12:新しく「protein lysate」とラベルされた遠心チューブを用意する。
13:PinkBufferを室温にする(重要事項:PinkBufferが十分長い一定の時間にわたり室温であることを確認すること)。チューブを倒置させて緩やかに混合し、すべての内容物を溶解させる。
14:細胞ペレットを室温にする。
15:細胞ペレットを簡単に遠心し、PBS残渣のないことを確認する。もし残渣がある場合はピペットを使って取り除く。
16:細胞ペレットの量を見積もる。この際、既知量として5、10、20、40μLの可視物質(例えば食物色素)を同種のチューブに入れたものを比較に用いる。
17:細胞ペレットをピペット操作で(前ステップで見積もった量と等量の)PinkBufferに溶解させる。重要事項:細胞ペレットのサイズの見積もりは、それらが全くコフルエントを示し、かつ、同じフラスコから集められたものである限りは、完全に正確でなくともかまわない。しかしながら、細胞ペレットのPinkBufferの量に対する割合はこの実験で収集したすべてのサンプルを通じて同じでなければならない。そして、このPinkBufferの量と細胞ペレットの量の比は理想的には1:1であり、これによって約10〜20μg/μLの溶解物が生成できる。そして0.67×バッファー成分に等しい濃度となる。表2(トラブルシューティング)参照。
18:チューブの蓋を閉め、チューブを連続的に指先で慎重にはじいて(フリックして)、見える細胞ペレットがバッファー中に溶解するまでこれを続ける(注意:フリックの際にチューブ内に泡が立たないように注意する)。表2(トラブルシューティング)参照。
19:すべての細胞ペレットがPinkBufferに溶解するまで溶解物チューブは氷上で静置する。
20:それぞれのサンプルについて前記の細胞の溶解ステップを繰り返す。
21:すべての細胞溶解物を4℃、16,000Gで30分間遠心をして細胞分子のより大きな画分を分離する。小さなペレットが視認できるようになったら、完了とする。表2(トラブルシューティング)参照。
22:タンパク質溶解物を含む上清を新しく用意した「protein lysate」と書かれたチューブにピペットで移す。表2(トラブルシューティング)参照。
23:-80℃で凍結保存する。一時的中断:得られたタンパク質溶解物は-80℃で少なくとも1年間は保存することができる。
(3)マイクロタイタープレートの準備
24:マイクロタイタープレートの全体配置について、たとえば、生物学的複製が異なる列、行、プレートになるように検討する。
25:マイクロタイタープレートのセットアップは、用いるのが384ウェルのプレートか、1536ウェルのプレートかによって異なる。配置が384ウェルのプレートに合せたものである場合はオプション(A)を、1536ウェルのプレートの場合はオプション(B)を使う。
オプション(A):384ウェルプレート
i:384ウェルプレートを4×8ウェルの12セクションに区切るようにマークする(図3b)。注意事項:他のプレートと混同しないようにプレートのネーミングまたはナンバリングを行う。
ii:約8mLの希釈バッファーをミニインキュベーショントレイの単一ウェルに入れる。注意事項:ミニインキュベーショントレイをベンチトップにテープで動かないよう固定する。
iii:マルチチャンネルピペット(4.5mm間隔)を使い、20μLの希釈バッファーをミニインキュベーショントレイからセクタ2から10に移す。注意事項:マイクロタイタープレートをベンチトップにテープで動かないよう固定する。
iv:サンプル原液(収集した細胞ライセート)40μLを開始セクタのそれぞれのウェルにピペットで入れる。合計20の40μLサンプルによって希釈系を構成することになる。表2(トラブルシューティング)参照。
v:希釈サンプルを作成する。20μLをマルチピペットの中央部の8チャンネルを使ってセクタ10の各列の8ウェルから20μLを抜き取って、それぞれ次のセクタの対応するウェルに移す。重要なステップ:セクタ1のD列からはじめピペットで3回撹拌する。20μLの原液をセクタ2の対応する列に移す。このウェルの全量が40μLとなるので、タンパク質が2倍希釈されたこととなる。
vi:緩やかに3〜5回撹拌し、順次セクタ10まで希釈を繰り返す。注意事項:気泡を生じさせない(図3a)。表2(トラブルシューティング)参照。
vii:セクタ10では最終的に全量を20μLとするために、希釈作成したサンプル(40μL)から20μLを抜き取って捨てる。
viii:残りのサンプル原液についても、セクタ1から10まで順次同様の希釈調製を繰り返して希釈系列を作成する。重要なステップ:8セットのサンプル希釈が単一の希釈系列準備で作成できる(マイクロピペットで一度に8サンプルを扱った場合)
オプション(B):1536ウェルプレート
i:1536ウェルプレートを8×166ウェルの12セクションに区切るようにマークする(図3d)。注意事項:他のプレートと混同しないようにプレートのネーミングまたはナンバリングを行う。希釈サンプルの位置を飛石配置することで、12のセクタそれぞれに4サンプルづつ配置することができる(図3c)。
ii:左上のプレート外縁部にそれぞれのサンプル番号を1から40までマークする(図3d)
iii:約80mLの希釈バッファーをミニインキュベーショントレイの単一ウェルに入れる。注意事項:ミニインキュベーショントレイをベンチトップにテープで動かないよう固定する。
iv:マルチチャンネルピペット(4.5mm間隔)を使い、10μLの希釈バッファーをミニインキュベーショントレイからセクタ2から10に移す。注意事項:マイクロタイタープレートをベンチトップにテープで動かないよう固定する。
v:サンプル原液(収集した細胞ライセート)20μLをセクタ1のそれぞれのウェルにピペットで入れる。注意事項:1536ウェルプレートの各ウェルの最大容量は22μLである。表2(トラブルシューティング)参照。
vi:希釈サンプルを作成する。10μLをマルチピペットの中央部の8チャンネルを使ってセクタ1の各列の8ウェルから20μLを抜き取って、それぞれ次のセクタの対応するウェルに移す。重要なステップ:セクタ1のD列からはじめピペットで3回撹拌する。10μLの原液をセクタ2の対応する列にマルチチャンネルピペットで移すると、全量が20μLとなる。これによりライセートが2倍希釈されたこととなる。
vii:緩やかに3〜5回撹拌し、分注希釈をセクタ10まで繰り返す。注意事項:気泡を生じさせないこと。表2(トラブルシューティング)参照。
viii:残りのサンプル原液についても、セクタ1から10まで順次同様の希釈調製を繰り返して2倍10段階の希釈系列を作成する。
ix:前記ステップivからviiiをセクタ11から20、21から30、31から40についても同様に繰り返す。
26:このプレートを適切に保存するにはパラフィルムで包んで、5〜10分間ドライアイス処理をしてライセートを氷結させる。
27:凍らせたプレートはジップロックバッグに入れて-80℃で保存する。一時的中断:このマイクロタイタープレートは-80℃で少なくとも1年間は保存が可能である。
(4)逆相タンパク質ライセートマイクロアレイプリント
28:アレイヤーの湿度が現在80%であることを確認する。
29:プレートを-80℃の保存状態から持ってきて、ジップロックバッグおよびパラフィルムはそのままの状態で10分間解凍する。
30:ジップロックバッグからプレートを取り出し、さらに15分間静置解凍する。
31:さらにパラフィルムをはがし、プレートが室温になるまで(約10分間)静置する。注意事項:プレートのカバーを外してはならない。
32:マイクロタイタープレートを解凍している間に、貯留タンクにDI水を充填し、廃液は空にしておく。
33:アレイの配置に従ってプレートを載せる。用いるプレートが384ウェルのプレートの場合はオプション(A)を、1536ウェルのプレートの場合はオプション(B)を使う。
オプション(A):384ウェルプレートによるマイクロアレイプリント
i:最初のプレートを載せる前に384ウェルプレートライブラリを選択する(図4a)
ii:プレートアイコンをダブルクリックしてソースプレートの必要数量をロードする。
iii:それぞれのロードしたソースプレートについて抽出物検体の数量(10まで)を設定する。
オプション(B):1536ウェルプレートによるマイクロアレイプリント
i:最初のプレートを載せる前に1536ウェルプレートライブラリを選択する(図4a)
ii:プレートアイコンをダブルクリックしてソースプレートの必要数量をロードする。
iii:それぞれのロードしたソースプレートについて抽出物検体の数量(40まで)を設定する。
34:5つのブロッティングスライドを含む最大50個のスライドをロードする。ライセートをマイクロアイレイヤーにプリントする(図2a)。一時的中断:使用するパラメータによるが、このプロセスは最大17時間程度(オバーナイトで行う場合も含む)かけて行うことができる。プリントが完了したら、プリントしたプレートは前述の方法に従って-80℃で再度保存することができる。
35:プラテンからスライドを取り除く。一時的中断:プリントしたスライドは乾燥剤いりの密閉コンテナで-20℃で保存することができる。表2(トラブルシューティング)参照)。
(5)スライドの抗体染色のための準備
36:プリント処理されたスライドを貯蔵庫から取り出し、20分間TBSTで洗浄する。
37:TBSTを交換し、さらに新しいTBSTで20分間洗浄する。
38:プリント処理されたスライドは2つの方法を選択してブロッキングを行う。オプション(A)は短時間でのブロッキング用、(B)はオーバーナイトでのブロッキング用である。重要事項:スライドを乾燥させないこと。
オプション(A):1時間ブロッキング
i:スライドをI-Block(あるいは選択したブロッキングバッファー)で浸漬させて少なくとも室温で1時間、ほんのわずかに攪拌をしながらインキュベートする。
ii:スライドは蒸発を防ぐためカバーをしておく。
オプション(B):オーバーナイトブロッキング
i:スライドをI-Block(あるいは選択したブロッキングバッファー)で浸漬させて、ほんのわずかに攪拌をしながら4℃・オーバーナイトでインキュベートする。
ii:スライドは蒸発を防ぐためカバーをしておく。
(6)特異的一時抗体によるスライドの染色
39:オートステイナー(自動染色機:図2b)を用いた場合、適切な数量のスライド染色するためのパラメータを設定するが、以下の方法とタイミングを推奨する。
過酸化水素[5分]
アビジンブロック[25分]
ビオチンブロック[25分]
I-Bloc(ブロッキングバッファー)[10分]
一次抗体[30分]
TBST(TBS + 0.5% Tween20)[15分]
2次抗体[15分]
TBST[5分]
ストレパビジン−ビオチン−HRP複合体[15分]
TBST[5分]
増幅試薬(ビオチニル−トリアミド)[15分]
TBST[5分]
HRP[5分]
TBST[5分]
DAB[5分]
40:プレ抗体(下記で用いる)を除き個々のステップの合間に「リンス」を加える。
41:廃液ビンを空にして、DI水およびTBST貯留タンクに充填する。注意:オートステイナー(自動染色機)のGUI(グラフィカルユーザインターフェイス)によれは、DI水およびTBSTがどのくらいの量が必要であるかわかる。しかしながら、その量より余分に入れるほうが望ましい。
42:水ポンプに呼び水を入れる。
43:同様にバッファーポンプも準備したのち、オートステイナーによる処理をスタートする。
44:終了したら、TBSTでスライドをリンスして、空気乾燥させておく。
45:使用した抗体、その他の重要な情報をスライドにラベルしておく。
46:プローブを付加したスライドは、光学式フラッドベットスキャナー(可視検出)、アフィメトリクス428スキャナー(蛍光検出)、あるいはLi-Cor社のオデッセイスキャナー(近赤外線検出)によりスキャニングを行う。
47:PSCANおよびProteinScanソフトウェアパッケージ(非特許文献6)を使って、検出した信号強度を定量する。表2(トラブルシューティング)参照。
(7)所用時間
以上の各ステップの所用時間は以下のとおりである。
ステップ1-4:15分
ステップ4−10:個々の収集時毎に6分
ステップ12:10分
ステップ13+14:30分
ステップ15-17:5分
ステップ18-20:1分
ステップ21:30分
ステップ22+23:5分
ステップ24:15分
ステップ25:プレートごとに1時間
ステップ26+27:10分
ステップ28-29:10分
ステップ30:15分
ステップ31:10分
ステップ32-34:15分
ステップ35-36:オーバーナイト(17時間まで)
ステップ37:20分
ステップ38:20分
ステップ38(A):1時間
ステップ38(B):オーバーナイト
ステップ40-44:30分
ステップ45-46:1時間
ステップ47:1スライドあたり15分
(8)金コロイドによる全タンパク質の染色
1:プリントされたスライドをDI水で15分ごくわずかに揺らしながら洗浄する。
2:水を取り替え、DI水で15分ごくわずかに揺らしながら洗浄する。
3:スライドを金コロイドタンパク質染色(キット)とともに、わずかに揺らしながら1時間室温でインキュベートする。
4:手早くDI水でスライドをリンスして空気乾燥させる。
(9)SYPRO Rubyによる全タンパク質の蛍光染色
1:プリントされたスライドをDI水で15分室温で7%酢酸溶液+10%メタノールの溶液で洗浄する。
2:DI水で5分洗浄する。
3:新しいDI水に取り替え、さらに5分洗浄する。
4:再度DI水を交換し、三回目の洗浄を5分行う。
5:スライドをSYPRO Rubyブロット染色液に包埋して30分インキュベートする。
6:メンブレンをDI水で10分洗浄する。DI水は2分ごとに交換する。
7:処理したスライドを空気乾燥させる。
8:蛍光スライドスキャナー(Affymetrix 428)を用い、635nmの波長でスライドをスキャンする。
(10)蛍光チアミドシグナル増幅による検出
1:過酸化水素[5分]
2:アビジンブロック[25分]
3:ビオチンブロック[25分]
4:I-Block(ブロッキングバッファー)[10分]
5:一次抗体[30分]
6:TBST(TBS + 0.5% Tween20)[15分]
7:ビオチン化二次抗体[15分]
8:TBST[5分]
9:ストレパビジン−ビオチン複合体[15分]
10:TBST[5分]
11:ストレパビジン−HRP[15分]
12:TBST[5分]
13:増幅試薬(biotinyl-tyramide)[15分]
14:TBST[5分]
15:ストレプトアビジン-AlexaFluor-647[15分]
16:TBST[5分]
17:スライドを空気乾燥させ、蛍光スキャナー(Affymetrix 428)を用い、635nmの波長でスライドをスキャンする。
(11) Singleplex(単独)近赤外線検出
1:I-block(ブロッキングバッファー)[10分]
2:一次抗体[30分]
3:TBST[15分]
4:IRDye-680ヤギ抗マウスあるいは抗ウサギ二次抗体[15分]
5:TBST[15分]
6:ライドを空気乾燥させ、近赤外スキャナー(Li-Cor Odyssey)でスライドをスキャンする。
(12) Multiplex(多重)近赤外線検出
1:I-block(ブロッキングバッファー)[10分]
2:抗マウス一次抗体[30分]
3:TBST[15分]
4:IRDye-680ヤギ抗マウス二次抗体[15分]
5:TBST[15分]
6:抗ウサギ一次抗体[30分]
7:TBST[15分]
8:IRDye-800CWヤギ抗ウサギ二次抗体[15分]
9:TBST[15分]
10:スライドを空気乾燥させ、近赤外スキャナー(Li-Cor Odyssey)でスライドをスキャンする。
5.予想される結果
この実験手順を上記通りに行うと、収集されたサンプルはいずれも生成ペレットは、ほぼ等量であると予想される。一般的には、T-25フラスコ(おおよそ70〜80%のコフルエントを示す場合)中の2〜3百万個の接着細胞から得られる細胞溶解物40μLがこの手順により得られ、結果的にタンパク質全量は約10〜25μLとなる。金コロイド全タンパク質染色(前記4(8))あるいはSYPRORuby全タンパク質染色(前記4(9))によれば、プリントした希釈カーブを可視化することができる。詳細な特徴形態は、これらのいずれの染色方法によったとしても、光学(可視光)顕微鏡でも蛍光顕微鏡のいずれでも観察可能であり、迅速に視覚的な検査ができるのである。
【0023】
続いて免疫染色をし、タンパク質発現をソフトウェアパッケージを使って定量できる。というのは、ほとんどのRPAシグナル検出方法は特異的一次抗体を用い、続いて信号増幅が触媒され、比色分析による検出が行われる(CSA; DakoCytomation, Carpinteria, CA, USA)。信号レベルは一般的な光学フラッドベットスキャナーの反射スキャンモードを使って検出することができる(非特許文献15)。スキャンしたイメージは、2つの自由に入手できるソフトウェアパッケージ、すなわちP-SCANとProteinScan(http://mttab.cancer.gov)によって、数値データに変換される(非特許文献2、3、16)。このソフトウェアはスキャンイメージの個々のスポットのシグナル強度を定量し、DI25アルゴリズムによりバックグラウンド効果を低減させることができる。この結果よりそれぞれのサンプルについて個々のタンパク質発現の値がコンピュータ計算される(図5c、5d)。蛍光および近赤外検出を用いた検出方法のためのオプションが利用されてきた(非特許文献17、18)。そして、これらのプロトコルは前記4(10―12)に述べられている。
【0024】
最終結果は、従来の特異的抗体を使って検出する場合と同様に、多数のサンプルに対して定量化可能なタンパク質レベルが得られる。ここで留意すべきことは、タンパク質シグナル検出は、予期されるタンパク質レベルの変化に基づいて作用することが公知である抗体を用いて行うことのみである(非特許文献10、14)。たとえば、上皮細胞増殖因子(EGF)刺激細胞においては、WBにおけるサンプル対して有効に機能する抗体を使った刺激のすぐ後にEFG受容体リン酸化における初期増加が現れる。特異的一次抗体によって発生する信号レベルが、全タンパク量に対して標準化されていれば、スライド上のタンパク質レベルは互いに比較可能であるものの、実際にはこの方法は複雑すぎて問題が多い。単一スライドおけるポイントと他のポイントとの比較において、時間・用量に基づいてある細胞系におけるタンパク質レベルの変化を検出することに即した技術であれば、このような欠点は幅広く防ぐことが可能である(図5d)。
【0025】
我々の近時の研究では、本プロトコルの適用によりγ線照射によるp53-Mdm2フィードバックループ(これはループの動態モデルの検討に従来使われている)の定量的モニターが可能であることが示された。時間の関数としてフィードバックループを発現するための微分方程式のセットがもたらされた。数学的モデルを評価するために、我々はRPAによる定量的タンパク質発現データを用いた。定量的なp53およびMdm2(リン酸化されたp53およびリン酸化されたMdm2を含む)の8時間以上にわたるタンパク質発現が予期された野生型細胞におけるパルスを示した。これに対して、p53欠損細胞においてはパルスが認められなかった。
【0026】
先ず我々は、野生型細胞での結果に基づいて数学的パラメータを決定した。続いて、p53遺伝子をコンピュータ解析し、ノックアウトした。これによってMDM2の解析上の挙動をインビトロ系におけるMdm2の実際の挙動と比較することができた。本研究の結果から、p53-Mdm2フィードバックループに基礎をなす本質的なメカニズムが、数学的モデルにより一部分を記述できること、そして、定量的タンパク質データがシグナル取引の論理モデルの検証のために有用なリファレンスであることが、それぞれ示唆される。このようなアプローチはコンピュータ解析モデルの検証のための新しい手段(特に医薬の分子ターゲットの同定という文脈において)を提供するであろう。
【0027】
要約すれば、RPAsは論理モデルを検証する独自の機会を提供する。提供された十分に多数のサンプルは適切に収集される。十分に記述された論理分子ネットワークモデルはシグナル取引経路への理解を基礎としていることが多い。分子ターゲット技術を利用した医薬の急速な発展は、タンパク質ネットワークレベルにおけるその詳細なメカニズムの記述の必要性をますます高めることとなっている。RPAにより得られる多次元プロテオミックデータは医薬の探索や論理生物学の高性能なリファレンスとなるだろうことは明らかである。
【0028】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】定量的タンパク質出力のためのライセートマイクロアレイの概要。(a)細胞はT-25フラスコで培養し、刺激あるいはストレス付加を行う。(b)細胞は短時間内でペレット形状に収集される。(c)細胞ペレットはPinkBufferで溶解され、タンパク質ライセート総分画を生成する。(d)収集したサンプルの一部はプールされ、2次元プレップウェルWBに供され、(e)様々な抗体でプローブされ、収集サンプルの分子量の幅の全域にわたり特性を決定する(文献10)。このプロセスは均一の条件下でより小さなサンプルサイズで大規模サンプル収集を行う前に必須となる。(f)多数量のサンプルを384ウェルまたは1536ウェルマイクロタイタープレートにプリントする。(g)該プレート上ではAushonBioSystems2470固体ピンマイクロアレイヤーを用いてニトロセルロース膜に連続的にサンプルがプリントされている。(h)プリントされたスライドは特異的タンパク質同定のために(e)でスクリーニングされた特異的一次抗体で標識されている。(i)タンパク質レベルは自由に入手可能なソフトウェアパッケージであるP-SCANおよびProteinScanにより実行されるDI25アルゴリズムを用いて定量解析される。
【図2】使用機器。(a)Aushon 2470マイクロアイレイヤー(37”×35”×72”)。(b):チアミドベース触媒シグナル増幅(CSA)システムでのスライド染色に用いたDakoCytomationAutostainer。
【図3】384および1536ウェルマイクロタイタープレートでの2層希釈系列の調製。(a)384ウェルマイクロプレートの希釈設定。それぞれのセクタは1-10の番号が振られており、4×8スポットで構成される。セクタ番号はサンプルの希釈系を表している。例えば、ウェルA1(左上の角)に位置するサンプルの第10ポイント希釈カーブはすべてのセクタ10-1の同じ場所に位置している。濃度は希釈系を通じて減少する。(b)区分されたGenetix384V-ウェルマイクロプレートの画像は12のセクタ(1-10を使用)に分類された。(c)最初の3つの抽出物の位置(40、39、および38)を1536ウェルプレートを用いた交互織込の配置パターン例として示す。使用しうるプレートのすべてのウェルでこのパターンはこの形式を継続的に繰り返すものである。(d)左上ハンドピン(「相対」A1ピン)はそれぞれの40-1にラベルされた位置の抽出物のためにマークされている。サンプル原液は抽出物31、21、11および1にプリントされている。
【図4】AushonBioSystems2470マイクロアレイGUIのスクリーンショット。(a)AushonBioSystems2470GUIのプレートライブラリの定義。384ウェルプレートはここに示されるが、GUIでは1536ウェルプレートの選択が可能である。(b)GUIによりユーザーはfeature-to-feature spacing(225μm間隔でスライドあたり12800featureを生成する)を含むアレイデザインと複製パターンを定義することができる。
【図5】RPA画像とデータ出力。(a)高密度RPAにおける総タンパク質染色。右の図はシングルピンによりプリントされた全featureを示す。(b)EGF受容体は高密度RPA上でCSA比色分析同定法により染色される。(c)希釈曲線はそれぞのサンプルの染色された希釈系の信号強度より生成する。DAB結合比色分析法はRPAsを光学フラッドベットスキャナーで読み取ることを可能とし、シグナル強度に基づく希釈曲線を生成する。(d)用量補間アルゴリズムDI25は25番目希釈系列点の与えられたRPAに対する強度レンジのパーセント値を読む。この場合、ほとんどの曲線が直線的レンジである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
持続時間および/または強度の異なる刺激またはストレスに暴露された細胞集団から均質なタンパク質を短時間で大規模収集する方法であって、以下のステップ:
(1)各T-25型フラスコ中で培養した細胞集団に所定の時間および/または強度で刺激またはストレスを付加したのち、各フラスコを氷上に静置し、
(2)各フラスコ内の細胞集団を洗浄して細胞懸濁液を調製し、
(3)細胞懸濁液を注入した遠心チューブを直ちに氷上に静置したのち、遠心分離によって細胞ペレットを生成させ、
(4)単離した細胞ペレットをドライアイス上で維持し、
(5)室温に戻した細胞ペレットの量を見積もった後、室温のPinkBufferと細胞ペレットを混合し、氷上で細胞ペレットを溶解させ、
(6)溶解した細胞ペレットを遠心分離し、
(7)遠視分離した溶液からタンパク質溶解物を含む上清を単離する、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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