説明

タンパク質ナノ粒子およびその使用

本発明の目的は、毛細血管などの微細な部位にも容易に到達することができ、かつ生体適合性が高い安全な材料を用いて作製することができるナノ粒子を提供すること。本発明は、少なくとも1種類以上の薬学的活性成分、磁気応答性粒子、及びタンパク質を含むナノ粒子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気応答性粒子および薬学的活性成分を含有するタンパク質ナノ粒子、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子材料は、バイオテクノロジーにおいて幅広い利用が期待されている。特に近年、ナノテクノロジーの進展によって生み出されたナノ微粒子材料をバイオテクノロジーや医療に応用することが活発に検討され、研究成果も数多く報告されるようになってきている。
【0003】
微粒子材料の中でも、磁性微粒子材料は、バイオ領域において幅広く利用されてきている。例えば、抗体などが固定化されている磁性微粒子は免疫診断に利用されてきている。また、磁性微粒子表面にDNAを固定化して、mRNAや一本鎖DNAの分離、DNA結合タンパク質の分離等、遺伝子工学の広範な領域にも活用されている。さらに、磁性ナノ粒子は、プロテオーム解析においても、その重要な柱の一つであるタンパク質相互作用解析において極めて有効である。
【0004】
医療診断分野においても、磁性ナノ粒子は、MRI診断などの造影剤として、さらには癌の温熱治療法として使用する場合に、有効であることが示されている。癌細胞は42.5℃以上に加温すると殺傷される(Dewey,W.C.,Radiology.,123,463-474(1977))。
【0005】
現行の温熱療法では、正常組織も腫瘍組織も区別なく加温する。そのため、患者の負担を考慮して、温度は、正常組織への影響があまりない42.5℃付近に調節されている。しかし、加温する温度が高いほど癌細胞は死にやすいことは、自明である。したがって、もし、正常組織が加温されずに、腫瘍組織だけを特異的に加温することができれば、どのような種類の癌細胞であっても死滅させることが理論上可能となる。磁性ナノ粒子であるマグネタイト(Fe3O4)を発熱体とする誘導加温型の温熱療法が開発されている。現在までに様々な動物種(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ)や癌種(脳腫瘍、皮膚癌、舌癌、乳癌、肝細胞癌、骨肉腫)で腫瘍の退縮に成功している(例えば、Kobayashi.,T Jpn.J.Cancer Res.,89,463-469(1998);及びKobayashi.,T.,Melanoma Res.,13,129-135(2003))。
【0006】
磁性ナノ粒子は、小さい(ナノサイズ)の粒径を有するため、従来使用されているミクロンサイズの磁性粒子やラテッテクスビーズに比べて、水溶液中での分散性および分子認識性が格段に向上する。その結果、従来法で使用されている磁性微粒子やラテックス担体などを磁性ナノ粒子に置き換えるだけで、大幅な感度向上と測定時間の短縮が期待される。
【0007】
一方、薬剤送達システム(DDS)の分野では早くからナノ粒子の有用性が期待されていた。薬剤や遺伝子のキャリアーとしてナノ粒子は極めて有望である。抗癌剤を用いて治療効率を向上させるには、薬剤を癌細胞または癌病巣のみに作用させる、ターゲティング技術が要求される。磁気の性質を利用して、非侵襲的に生体内である物質を誘導し、あるいは局所的に停滞させることが可能である。
【0008】
加藤らはマイトマイシンCとフェライト磁粉を封入した径250μmのエチルセルロースマイクロカプセル(以下、FM-MMC-mc)を開発した。家兎下腿に移植したVX腫瘍に対する治療実験では、通常剤形のMMCを投与した群と比較してFM-MMC-mcの磁気誘導群では著明な抗腫瘍効果がみられた。これは磁気により腫瘍部の微小動脈に集積したカプセルから、長時間にわたってMMCが周囲の腫瘍組織内に放出されたためである。即ち、この事実は、従来の方法では得られない強力な効果が得られるターゲティング療法が可能なことを強く示唆している(例えば、加藤哲郎:マイクロカプセルの磁場誘導による抗癌剤の効果増強、癌と化学療法、8(5)、698-706、1981)。
【0009】
上記、FM-MMC-mcは、サイズが250μmと大きく、毛細血管などの微細な部位には到達できない。また、エチルセルロースは合成高分子であるため、安全性上問題がある。
【0010】
また、特表2001−502721号公報には、ポリマー材料から作られるナノ粒子を用いた薬剤標的化システムが記載されている。特表2005−500304号公報には、球状タンパク質粒子が記載されている。これらの粒子は磁気応答性粒子を含んでいない。従って、磁力によりナノ粒子を疾患部位に誘導することができない。特開2000−256015号公報には、ゲル体の少なくとも表層部に粒径5〜200nmの金属酸化物粒子が分散して存在することを特徴とする金属酸化物複合体が記載されている。しかし、この粒子にはDDSとしての機能はない。
【0011】
タンパク質の架橋は化学架橋が一般的である。化学架橋の既知の方法に従って、グルタルアルデヒドのような上述の架橋剤を添加する方法や、光反応性基を有するモノマー用いUV照射する方法、パルス照射により局所的にラジカルを発生させる方法などが行われている。一方、生体高分子の特質を生かした方法として、トランスグルタミナーゼを利用して、グルタミン残基のアシル転位反応を触媒し分子間および分子内に架橋結合を形成する方法がある(たとえば、特開昭64−27471号公報)。しかし、通常この方法はバルクもしくは含水した生体高分子中で行われるものであり、タンパクナノ粒子内での架橋結合の形成は知られていない。更に、有機溶媒中に分散したナノ粒子での架橋反応は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを目的とした。即ち、本発明は、毛細血管などの微細な部位にも容易に到達することができ、かつ生体適合性が高い安全な材料を用いて作製することができるナノ粒子を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の目的を解決すべく鋭意研究を行い、磁気応答性粒子の水分散液、タンパク質、架橋作用を持つ酵素、及び医学的活性物質を混合及び攪拌することによって、磁気応答性粒子と医学的活性物質を含むタンパク質ナノ粒子を作製できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0014】
即ち、本発明によれば、少なくとも1種類以上の薬学的活性成分、磁気応答性粒子、及びタンパク質を含むナノ粒子が提供される。
【0015】
好ましくは、タンパク質は、ナノ粒子の形成中または形成後に架橋処理されている。
好ましくは、タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%の架橋剤を添加して架橋処理が行われる。
【0016】
好ましくは、架橋剤は、無機または有機の架橋剤である。
好ましくは、架橋剤は酵素であり、さらに好ましくは架橋剤はトランスグルタミナーゼである。
好ましくは、タンパク質分子内のジスルフィド結合を還元し、粒子形成後にジスルフィド結合の再結合により架橋する。
【0017】
好ましくは、平均粒子サイズは10〜1000nmである。
好ましくは、薬学的活性成分は、制癌剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、抗血栓剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、又は核酸医薬である。
【0018】
好ましくは、磁気応答性粒子は酸化鉄ナノ粒子である。
好ましくは、本発明のナノ粒子は、タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%の磁気応答性粒子を含む。
【0019】
好ましくは、タンパク質はコラーゲン、ゼラチン、アルブミン、グロブリン、カゼイン、トランスフェリン、フィブロイン、フィブリン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンである。
好ましくは、タンパク質は、ウシ、ブタ又は魚に由来するタンパク質、又は組み換えタンパク質である。
さらに好ましくは、タンパク質は、酸処理ゼラチンである。
好ましくは、タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%のリン脂質が添加されている。
好ましくは、タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%のカチオン性またはアニオン性多糖が添加されている。
好ましくは、タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%の、カチオン性、アニオン性タンパク質が添加されている。
【0020】
本発明の別の側面によれば、本発明のナノ粒子を含むMRI用造影剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のナノ粒子を含む薬物送達剤が提供される。
【0021】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のナノ粒子を体内に投与し、磁力によりナノ粒子を疾患部位に誘導することを含む、ナノ粒子の疾患部位への誘導方法が提供される。
【0022】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のナノ粒子を体内に投与し、磁力によりナノ粒子を疾患部位に誘導し、疾患部位に誘導されたナノ粒子をMRI造影により確認することを含む、ナノ粒子の疾患部位への誘導方法が提供される。
【0023】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のナノ粒子を体内に投与し、磁力によりナノ粒子を疾患部位に誘導し、その後、ナノ粒子に高周波を照射して加熱することによりナノ粒子に内包されている薬学的活性成分を放出させることを含む、薬物送達方法が提供される。
【0024】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のナノ粒子を体内に投与し、磁力によりナノ粒子を疾患部位に誘導し、MRI造影により誘導を確認した後、ナノ粒子に高周波を照射して加熱することによりナノ粒子に内包されている薬学的活性成分を放出させることを含む、薬物送達方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のナノ粒子は、毛細血管などの微細な部位にも容易に到達することができる。また、本発明のナノ粒子では、界面活性剤や合成高分子を使用することがなく、合成の架橋剤が残存することもない。生体適合性の高いタンパク質を含む本発明のナノ粒子は、安全性が高い。本発明のナノ粒子は、磁性ナノ粒子と薬剤を一緒に含有する。従って、造影と温熱療法とDDSとを同時に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
本発明のナノ粒子は、少なくとも1種類以上の薬学的活性成分、磁気応答性粒子、及びタンパク質を含むことを特徴する。本発明のナノ粒子におけるタンパク質は、架橋処理されていてもよいし、架橋処理されていなくてもよい。タンパク質は架橋処理されていることが好ましい。さらに好ましくは、タンパク質は、ナノ粒子の形成中または形成後に架橋処理されている。タンパク質の架橋処理は、架橋剤を用いて行ってもよい。あるいは、タンパク質分子内のジスルフィド結合を還元し、粒子形成後にジスルフィド結合の再結合により架橋することもできる。 本発明における架橋処理は、1種類の架橋方法で行ってもよいし、または2種以上の架橋方法を組み合わせて行うこともできる。
【0027】
架橋剤を使用する場合、タンパク質の重量に対して、好ましくは0.1〜100重量%の架橋剤を添加して架橋処理を行うことができる。
【0028】
架橋剤としては、無機または有機の架橋剤、あるいは酵素などを用いることができる。無機または有機の架橋剤の具体例としては、クロム塩(クロム明ばん、酢酸クロムなど);カルシウム塩(塩化カルシウム、水酸化カルシウムなど);アルミニウム塩(塩化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど);カルボジイミド類(EDC,WSC、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONB)、N-ヒドロキシこはく酸イミド(HOSu)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など);N−ヒドロキシスクシイミド;オキシ塩化リンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。酵素としては、タンパク質の架橋作用を有するものであれば特に限定されない。好ましくはトランスグルタミナーゼを用いることができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。その中で好ましいものは、酸処理ゼラチン、コラーゲン、又はアルブミンなどを挙げることができる。
【0029】
トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなどが挙げられる。トランスグルタミナーゼは、ヒト由来の組み換えトランスグルタミナーゼでもよい。
【0030】
上記した架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
本発明において、タンパク質分子内のジスルフィド結合を還元し、粒子形成後にジスルフィド結合の再結合により架橋する場合には、還元剤が使用される。還元剤の具体例としては、ジチオトレイトール、チオグリコール酸及びチオグリコール酸アンモニウムなどのチオグリコール酸塩;システイン、システイン塩酸塩などのシステイン酸塩;N−アセチルシステインなどのシステイン誘導体;チオグリコール酸モノグリセリン;システアミン;チオ乳酸;亜硫酸塩;亜硫酸水素塩;及びメルカプトエタノールなどを挙げることができるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0032】
本発明のナノ粒子の平均粒子サイズは、通常は1〜1000nmであり、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは50〜500nmであり、特に好ましくは100〜500nmである。上記したようなナノオーダーのサイズを有することにより、本発明のナノ粒子は、毛細血管などの微細な部位にも到達することが可能になる。
【0033】
本発明のナノ粒子に含まれる薬学的活性成分の種類は、特には限定されない。好ましくは、薬学的活性成分は、制癌剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、抗血栓剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、又は核酸医薬であり、特に好ましくは制癌剤である。
【0034】
本発明で用いることができる制癌剤の具体例としては、フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬(5-フルオロウラシル(5FU)やテガフール、ドキシフルリジン、カペシタビンなど);抗生物質(マイトマイシン(MMC)やアドリアシン(DXR)など);プリン代謝拮抗薬(メソトレキサートなどの葉酸代謝拮抗薬、メルカプトプリンなど);ビタミンAの活性代謝物(ヒドロキシカルバミドなどの代謝拮抗薬、トレチノインやタミバロテンなど);分子標的薬(ハーセプチンやメシル酸イマチニブなど);白金製剤(ブリプラチンやランダ(CDDP)、パラプラチン(CBDC)、エルプラット(Oxa)、アクプラなど);植物アルカロイド薬(トポテシンやカンプト(CPT)、タキソール(PTX)、タキソテール(DTX)、エトポシドなど);アルキル化剤(ブスルファンやシクロホスファミド、イホマイドなど);抗男性ホルモン薬(ビカルタミドやフルタミドなど);女性ホルモン薬(ホスフェストロールや酢酸クロルマジノン、リン酸エストラムスチンなど);LH-RH薬(リュープリンやゾラデックスなど);抗エストロゲン薬(クエン酸タモキシフェンやクエン酸トレミフェンなど);アロマターゼ阻害薬(塩酸ファドロゾールやアナストロゾール、エキセメスタンなど);黄体ホルモン薬(酢酸メドロキシプロゲステロンなど);BCGなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明で用いることができる抗アレルギー剤の具体例としては、クロモグリク酸ナトリウムやトラニラストなどのメディエーター遊離抑制薬、フマル酸ケトチフェンや塩酸アゼラスチンなどのヒスタミンH1-措抗薬、塩酸オザグレルなどのトロンボキサン阻害薬、プランルカストなどのロイコトリエン拮抗薬、トシル酸スプラタストなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明で用いることができる抗酸化剤の具体例としては、ビタミンCおよびその誘導体、ビタミンE、カイネチン、α−リポ酸、コエンザイムQ10、ポリフェノール、SOD、及びフィチン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明で用いることができる抗血栓剤の具体例としては、アスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾール、ワルファリンカリウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明で用いることができる抗炎症剤の具体例としては、アズレン、アラントイン、塩化リゾチーム、グアイアズレン、塩酸ジフェンヒドラミン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、グルタチオン、サポニン、サリチル酸メチル、メフェナム酸、フェニルブタゾン、インドメタシン、イブプロフェン及びケトプロフェンから選ばれる化合物並びにそれらの誘導体並びにそれらの塩、オウゴンエキス、カワラヨモギエキス、キキョウエキス、キョウニンエキス、クチナシエキス、クマザサ抽出液、ゲンチアナエキス、コンフリーエキス、シラカバエキス、ゼニアオイエキス、トウニンエキス、桃葉エキス並びにビワ葉エキスから選ばれる植物抽出物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。。
【0039】
本発明で用いることができる免疫抑制剤の具体例としては、ラパマイシン、タクロリムス、シクロスポリン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、ミゾリビンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明で用いることができる核酸医薬の具体例としては、アンチセンス核酸、リボザイム、siRNA、アプタマー、デコイ核酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
薬学的活性成分は、ナノ粒子形成時に添加してもよいし、ナノ粒子形成後に添加してもよい。
【0042】
本発明において好ましくは、ナノ粒子に、癌細胞に選択的な親和性を有する物質を添加することができる。特に好ましくは、抗体、又は葉酸を添加することができる。癌細胞に選択的な親和性を有する抗体としては、例えば、癌抗原を認識する抗体を使用することができる。好ましくは、遊離抗原を認識する抗体を使用することができる。癌抗原の具体例としては、上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)などが挙げられる。
【0043】
上記した癌細胞に選択的な親和性を有する抗体は、当業者であれば容易に入手可能である。例えば、市販の抗体を使用してもよい。あるいは、本発明で用いる抗体は、上記抗原又はその部分ペプチドを免疫原として公知の抗体作製法により適宜作製することができる。また、使用する抗体はモノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。
【0044】
上記したような抗体は、本発明のナノ粒子に含まれるタンパク質のアミノ基やカルボキシル基と反応することができる。これにより、抗体は、アミド化反応によるペプチド結合の形成により、本発明のナノ粒子に結合させることができる。
【0045】
アミド化反応は、カルボキシル基またはその誘導基(エステル、酸無水物、酸ハロゲン化物など)とアミノ基の縮合により行なわれる。酸無水物や酸ハロゲン化物を用いる場合には塩基を共存させることが望ましい。カルボン酸のメチルエステルやエチルエステルなどのエステルを用いる場合には、生成するアルコールを除去するために加熱や減圧を行なうことが望ましい。カルボキシル基を直接アミド化する場合には、DCC、Morpho−CDI、WSCなどのアミド化試薬、HBTなどの縮合添加剤、N−ヒドロキシフタルイミド、p−ニトロフェニルトリフルオロアセテート、2,4,5−トリクロロフェノールなどの活性エステル剤などのアミド化反応を促進する物質を共存させたり、予めカルボキシル基と反応させておいてもよい。また、アミド化反応時、アミド化により結合させる親和性分子のアミノ基又はカルボキシル基のいずれかを常法にしたがって適当な保護基で保護し、反応後脱保護することが望ましい。
【0046】
アミド化反応により癌細胞に選択的な親和性を有する抗体を結合したナノ粒子は、ゲルろ過などの常法により洗浄、精製後、水及び/又は親水性溶媒(好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、2−エトキシエタノールなど)に分散させることができる。その後に、ナノ粒子を使用することができる。
【0047】
本発明で用いる磁気応答性粒子としては、人体に無害であり、電磁波を吸収して発熱するものであれば、任意のものを使用することができるが、特には、人体に吸収されにくい周波数の電磁波を吸収して発熱する磁気応答性粒子を使用することが好ましい。好ましくは、磁気応答性粒子は、鉄白金、酸化鉄、又はフェライト(Fe,M)34であり、特に好ましくは、酸化鉄ナノ粒子である。ここで、酸化鉄の具体例としては、Fe34(マグネタイト)、γ−Fe23(マグヘマイト)、またはこれらの中間体及び混合物が挙げられる。また、粒子は、表面と内部の組成が異なるコアシェル型構造であってもよい。前記式中のMは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンである。典型的な例としては、遷移金属の中から選択される。最も好ましくい具体例は、Zn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などである。M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。
【0048】
本発明で用いる磁気応答性粒子のサイズは、好ましくは1nm〜1000nmであり、より好ましくは1nm〜500nmであり、特に好ましくは、5nm〜100nmである。
【0049】
本発明のナノ粒子には、好ましくは、タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%の磁気応答性粒子を含めることができる。
【0050】
本発明で用いるタンパク質の種類は特に限定されないが、分子量1万から100万のタンパク質を用いることが好ましい。タンパク質の由来は特に限定されないが、ウシ、ブタ又は魚に由来するタンパク質、又は組み換えタンパク質である。ヒト由来のタンパク質を用いることが好ましい。例えば、EP1014176A2号、米国特許6,992,172号に記載のタンパク質を用いることができる。
【0051】
タンパク質の具体例としては、コラーゲン、ゼラチン又は酸処理ゼラチン、アルブミン、グロブリン、カゼイン、トランスフェリン、フィブロイン、フィブリン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンが挙げられる。
【0052】
本発明のタンパク質ナノ粒子は、特開平6−79168号公報、又はC.Coester著、ジャーナル・ミクロカプスレーション、2000年、17巻、p.187−193に記載の方法に準じて作製することができる。好ましくは、架橋剤としてグルタルアルデヒドの変わりに上記した架橋剤を用いることができる。
【0053】
本発明に用いられるリン脂質の具体例としては以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない:ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン。
【0054】
本発明に用いられるアニオン性多糖とはカルボキシル基、硫酸基又はリン酸基等の酸性極性基を有する多糖類である。以下に具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、カルボキシメチルデキストラン、アルギン酸、ペクチン、カラギーナン、フコイダン、アガロペクチン、ポルフィラン、カラヤガム、ジェランガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸類等が挙げられる。
【0055】
本発明に用いられるカチオン性多糖とは、アミノ基等の塩基性極性基を有する多糖類である。以下に具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。キチン、キトサンなどのガラクトサミンやグルコサミンを構成単糖として含むものなどが挙げられる。
【0056】
本発明に用いられるアニオン性タンパク質とは、生理的pHよりも高い等電点を有するタンパク質およびリポタンパク質である。具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、リゾチーム、チトクロムC、リボヌクレアーゼ、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、α−キモトリプシンなどが挙げられる。
【0057】
本発明に用いられるカチオンタンパク質とは、生理的pHよりも低い等電点を有するタンパク質およびリポタンパク質である。具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ポリリジン、ポリアルギニン、ヒストン、プロタミン、オバルブミンなどが挙げられる。
【0058】
上記した本発明のナノ粒子は、磁気応答性粒子を含む。従って、磁力により所定の部位に誘導することができる。即ち、本発明のナノ粒子は体内に投与し、磁力により疾患部位に誘導することができる、また上記のようにして疾患部位に誘導されたナノ粒子は、MRI造影により確認することができる。即ち、本発明のナノ粒子は、MRI用造影剤として有用である。
【0059】
さらに本発明のナノ粒子は、上記の方法に従って疾患部位に誘導した後、高周波をあてて加熱し、ナノ粒子に内包した薬学的活性成分を放出させることができる。即ち、本発明のナノ粒子は、薬物送達剤として有用である。
【0060】
本発明のナノ粒子の投与方法は特に限定されない。好ましくは、ナノ粒子は、血管、体腔内又はリンパへ注射により投与することができる。特に好ましくは、ナノ粒子は、静脈注射により投与することができる。
【0061】
本発明のナノ粒子の投与量は、患者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができる。一般的には、1回の投与につき、10μg〜100mg/kg程度、好ましくは20μg〜50mg/kg程度の本発明のナノ粒子を投与することができる。
【0062】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
塩化鉄(III)6水和物10.8gおよび塩化鉄(II)4水和物6.4gをそれぞれ1mol/l(1N)−塩酸水溶液80mlに溶解し、得られた両溶液を混合した。得られた溶液を攪拌しながらその中にアンモニア水(28質量%)96mlを2ml/分の速度で添加した。その後、溶液を80℃で30分加熱したのち室温に冷却した。得られた凝集物をデカンテーションにより水で精製した。その結果、結晶子サイズ約12nmの酸化鉄の生成をX線回折法により確認した。溶媒をエタノールで置換した。その後、水酸化テトラメチルアンモニウム(25質量%)8mlおよびゼラチン水溶液3mlを添加して、60℃で4時間攪拌した。生じた沈殿をろ過した後、水に再分散した。これにより、表面をゼラチンで被覆した酸化鉄ナノ粒子を合成した。
【0064】
上記の酸化鉄ナノ粒子を含む水分散液(4.7g/L)を0.21mL、酸処理ゼラチンを20mg、トランスグルタミナーゼ製剤(味の素(株)製アクティバTG-S)を10mg、下記構造を有する医薬品モデルを0.3mg、イオン交換水を1.79mL混合した。前記溶液1mLを、40℃、800rpmの攪拌条件で、マイクロシリンジを用いて、エタノール10mL中に注入した。得られた分散液を55℃で5時間静置した。これにより、架橋された酸処理ゼラチンナノ粒子が得られた。
【0065】
【化1】

【0066】
上記粒子の平均粒経を、光散乱光度計(大塚電子(株)製DLS−7000)を用い測定した。平均粒経は、140nmであった。
【0067】
(実施例2)
酸化鉄ナノ粒子は、実施例1と同様の方法で合成した。
上記の酸化鉄ナノ粒子を含む分散液(4.7g/L)を0.21mL、酸処理ゼラチンを20mg、トランスグルタミナーゼ製剤(味の素(株)製アクティバTG-S)を10mg、アドリアマイシンを0.3mg、イオン交換水を1.79mL混合した。前記溶液1mLを、40℃、800rpmの攪拌条件で、マイクロシリンジを用いて、エタノール10mL中に注入した。得られた分散液を55℃で5時間静置した。これにより、架橋された酸処理ゼラチンナノ粒子が得られた。
【0068】
上記粒子の平均粒経を、光散乱光度計(大塚電子(株)製DLS−7000)を用い測定した。平均粒経は160nmであった。図1は、上記粒子のSEM画像を示す。
【0069】
(実施例3)
酸化鉄ナノ粒子は実施例1と同様の方法で合成した。
上記の酸化鉄を含む分散液(4.7g/L)を0.21mL、酸処理ゼラチンを20mg、トランスグルタミナーゼ製剤(味の素(株)製アクティバTG-S)を10mg、5-フルオロウラシルを0.3mg、イオン交換水を1.79mL混合した。前記溶液1mLを、40℃、800rpmの攪拌条件で、マイクロシリンジを用いて、エタノール10mL中に注入した。得られた分散液を55℃で5時間静置した。これにより、架橋された酸処理ゼラチンナノ粒子が得られた。上記粒子の平均粒経を、光散乱光度計(大塚電子(株)製DLS−7000)を用い測定した。平均粒経は160nmであった。
【0070】
(実施例4)
酸化鉄ナノ粒子は、実施例1と同様の方法で合成した。
上記の酸化鉄を含む分散液(4.7g/L)を0.21mL、アクアコラーゲン(窒素(株)製)を20mg、トランスグルタミナーゼ製剤(味の素(株)製アクティバTG-S)を10mg、アドリアマイシンを0.3mg、イオン交換水を1.79mL混合した。前記溶液1mLを、40℃、800rpmの攪拌条件で、マイクロシリンジを用いて、エタノール10mL中に注入した。得られた分散液を55℃で5時間静置した。これにより、架橋されたアクアコラーゲンナノ粒子が得られた。上記粒子の平均粒経を、光散乱光度計(大塚電子(株)製DLS−7000)を用い測定した。平均粒経は、270nmであった。
【0071】
(実施例5)
酸化鉄ナノ粒子は、実施例1と同様の方法で合成した。
アルブミンを3mLの7Mグアニジン塩酸塩および10mM EDTAを含む0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、ジチオトレイトール10mgを加えて混合した。得られた混合物を室温で2時間還元した後、ゲルろ過精製した。得られたアルブミン溶液に、上記の酸化鉄を含む分散液(4.7g/L)を0.21mL、アドリアマイシンを0.3mg混合した。前記溶液1mLを、40℃、800rpmの攪拌条件で、マイクロシリンジを用いて、塩化カルシウム5mgを溶解させたエタノール10mL中に注入した。得られた分散液を55℃で5時間静置した。これにより、架橋されたアルブミンナノ粒子が得られた。上記粒子の平均粒経を、光散乱光度計(大塚電子(株)製DLS−7000)を用い測定した。平均粒経は、290nmであった。
【0072】
(実施例6)
酸化鉄ナノ粒子は、実施例1と同様の方法で合成した。
上記の酸化鉄を含む分散液(4.7g/L)を0.21mL、酸処理ゼラチンを20mg、コンドロイチン硫酸-Cを2mg、トランスグルタミナーゼを10mg、アドリアマイシンを0.3mg、イオン交換水を1.79mL混合した。前記溶液1mLを、40℃、800rpmの攪拌条件で、マイクロシリンジを用いて、エタノール10mL中に注入した。得られた分散液を55℃で5時間静置した。これにより、架橋された酸処理ゼラチンで被覆されたナノ粒子が得られた。
上記粒子の平均粒経を、光散乱光度計(大塚電子(株)製DLS−7000)を用い測定した。平均粒経は、220nmであった。実施例2に比べ、アドリアマイシンの内包率が向上した。
【0073】
(実施例7)
実施例2で作製したナノ粒子(1mL)を試験管に入れた。試験管底に磁石を近づけた。すると、10分で全ナノ粒子が磁石に引き寄せられた(図2)。
【0074】
(実施例8)
5mlの生理食塩水を、実施例6で調製したナノ粒子分散液11mlに添加し、エタノールをロータリーエバポレーターで留去した。生理食塩水を添加して、全量を10mlにした。
ウシ血管内皮細胞(BAE細胞)を、5%CO2で37℃で、10%胎児ウシ血清及び抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を補充したMEM培地において1×104細胞/ウエル(96ウエルプレート)で培養した。
50μlの上記分散液をウシ血管内皮細胞に添加し、細胞を72時間培養した。その結果、ナノ粒子の細胞への取り込みが確認された(図4及び図5)。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本発明の酸化鉄ナノ粒子の画像を示す。下図において、中心の黒い点は酸化鉄を示し、周りの灰色はゼラチンナノ粒子(約150nm)を示す。
【図2】図2は、本発明の酸化鉄ナノ粒子が磁石に引き寄せられた結果を示す。
【図3】図3は、ナノ粒子分散液の添加の直後におけるBAE細胞の写真を示す。
【図4】図4は、72時間の培養後のBAE細胞の写真を示す。
【図5】図5は、72時間の培養後のBAE細胞の写真(拡大)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類以上の薬学的活性成分、磁気応答性粒子、及びタンパク質を含むナノ粒子。
【請求項2】
タンパク質が、ナノ粒子の形成中または形成後に架橋処理されている、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%の架橋剤を添加して架橋処理が行われる、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
架橋剤が、無機または有機の架橋剤である、請求項3に記載のナノ粒子。
【請求項5】
架橋剤が酵素である、請求項3に記載のナノ粒子。
【請求項6】
架橋剤がトランスグルタミナーゼである、請求項5に記載のナノ粒子。
【請求項7】
タンパク質分子内のジスルフィド結合を還元し、粒子形成後にジスルフィド結合の再結合により架橋する、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項8】
平均粒子サイズが10〜1000nmである、請求項1から7の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項9】
薬学的活性成分が、制癌剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、抗血栓剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、又は核酸医薬である、請求項1から8の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項10】
磁気応答性粒子が酸化鉄ナノ粒子である、請求項1から9の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項11】
タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%の磁気応答性粒子を含む、請求項1から10の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項12】
タンパク質がコラーゲン、ゼラチン、アルブミン、グロブリン、カゼイン、トランスフェリン、フィブロイン、フィブリン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンである、請求項1から11の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項13】
タンパク質が、ウシ、ブタ又は魚に由来するタンパク質、又は組み換えタンパク質である、請求項1から12の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項14】
タンパク質が酸処理ゼラチンである、請求項1から13の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項15】
タンパク質の重量に対して0.1〜100重量%のリン脂質が添加されている、請求項1から14の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項16】
タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%のカチオン性またはアニオン性多糖が添加されている、請求項1から15の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項17】
タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%のカチオン性タンパク質またはアニオン性タンパク質が添加されている、請求項1から16の何れかに記載のナノ粒子。
【請求項18】
請求項1から17の何れかに記載のナノ粒子を含む、MRI用造影剤。
【請求項19】
請求項1から17の何れかに記載のナノ粒子を含む、薬物送達剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−519894(P2009−519894A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530052(P2008−530052)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/JP2006/325987
【国際公開番号】WO2007/072982
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】