説明

タンパク質マトリックスワクチンおよびそのようなワクチンの製造方法および投与方法

本発明は、担体タンパク質と目的の抗原が複合体に捕捉されているワクチン組成物、そのようなワクチンの製造方法、およびワクチン投与法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年8月7日出願の米国仮出願出願番号第60/835,944号、および2007年6月8日出願の米国仮出願出願番号第60/933,764号の特典を請求し、それらの明細書をこれにより参照により組み込む。
【0002】
連邦出資研究に関する声明
本発明は、国立衛生研究所(NIH)により授与された授与番号第U54AI057159号の政府援助によって行なわれた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、ワクチン組成物、ワクチンの製造方法、およびワクチン投与法に関する。
【背景技術】
【0004】
多くの抗原、特に病原体の莢膜層に付随する抗原は、免疫応答をほとんど、またはまったく刺激せず、それらの抗原に対する有効なワクチン創出への努力を困難なものにしている。莢膜は、典型的には、炭水化物、アミノ酸、またはアルコールなどの有機化合物のポリマーから構成される、微生物表面成分である。莢膜は、化学的に非常に多様である。莢膜(例えば炭水化物)を構成する単量体単位は、様々な分子配置で連結することができ、さらにリン酸、窒素、硫酸、および他の化学的修飾物で置換することができる。これらの化学的変形によって、莢膜は、多数の抗原標的を微生物表面上に提示できるようになり、それによって、これらの標的に向けられた宿主免疫系から逃れることができる。莢膜はまた、微生物が、宿主マクロファージおよび多形核(polymorphoneuclear)白血球によって貪食され、死滅するのを防止する病原性因子でもありうる。莢膜に対する抗体は、微生物表面に補体を固定することによって、莢膜を有する微生物から強力に防御するが、その固定によって食作用性宿主免疫細胞がそれらを溶解し、またはそれらをオプソニン化し、取込み、死滅させられる。莢膜に対する最も強力な抗体は、IgG抗体である。顕著なレベルのIgGを誘発できない莢膜は、T非依存性抗原と呼ばれる。タンパク質と莢膜は共有結合することによって、「T依存性」になり、そのような抗原はIgG応答を誘発することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強力な免疫応答またはIgG抗体を誘起しない莢膜および他のT非依存性抗原を対象とする、安全で合成可能な費用効率の高いワクチンが必要とされている。様々な感染症、例えば、炭疽、肺炎球菌、インフルエンザB型、髄膜炎菌、および連鎖球菌による感染から防御するためには、そのようなワクチンが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、目的の抗原が担体タンパク質によって複合体中に捕捉されているワクチン組成物、そのようなワクチンの製造方法、およびワクチン投与法に関する。
【0007】
従って、第1態様では、本発明は、目的の抗原と担体タンパク質を含むワクチン組成物であって、(i)目的の抗原の50%以下が該担体タンパク質と架橋し、かつ(ii)該抗原が該担体タンパク質に捕捉されて複合体を形成するワクチン組成物を特徴とする。
【0008】
本発明の第1態様の望ましい実施形態では、その複合体の直径は10nm〜100μmである。本発明の第1態様のより望ましい実施形態では、その複合体の直径は約100nm〜100μmである。本発明の第1態様のよりさらに望ましい実施形態では、その複合体の直径は約100nm〜10μmである。
【0009】
本発明の第1態様の別の望ましい実施形態では、その複合体を哺乳動物に投与すると、該哺乳動物でT細胞依存性免疫応答が誘発される。
【0010】
本発明の第1態様の別の望ましい実施形態では、抗原:担体タンパク質のモル比は、1:10〜10:1である。望ましくは、担体タンパク質は多量体であり、例えば、少なくとも5個のサブユニットを含む多量体である。別の望ましい実施形態では、多量体はホモ多量体である。
【0011】
本発明の第1態様のさらに望ましい実施形態では、担体タンパク質は、少なくとも一個の別の担体タンパク質と共有結合している。望ましくは、共有結合には、リジン側鎖の一級アミノ基と、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸側鎖のカルボキシ基との間のペプチド結合が含まれる。別の望ましい実施形態では、共有結合に、式
【化1】

【0012】
[式中、Rは、1〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜12原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、qは1〜4である)、または2個のアルデヒド基を結合する化学結合である。]の化合物が含まれる。別の望ましい実施形態では、共有結合に、グルタルアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、またはビス−ビアゾ化ベンジジンが含まれる。さらに別の望ましい実施形態では、共有結合に二官能基架橋剤が含まれる。望ましくは、二官能基架橋剤は、グルタルアルデヒド、ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、またはアジプイミド酸ジメチルである。
【0013】
本発明の第1態様の別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は非共有結合している。望ましい実施形態では、非共有結合には、疎水性相互作用、イオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、または水素結合が含まれる。
【0014】
本発明の第1態様の別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン(例えば、コレラ菌(Vibrio cholerae)フラゲリンタンパク質)、ニューモリシン、髄膜炎菌(Neisseria menningitidis)の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌(Escherichia coli)熱不安定性エンテロトキシン、志賀様(shiga−like)毒素(例えば、赤痢菌SltB2タンパク質)、ヒトLTBタンパク質、ニューモリシン、リステリオリシンO(または関連タンパク質)、細菌細胞全体(例えば、緑膿菌または連鎖球菌細胞)からのタンパク質抽出物、炭疽菌(Bacillus anthracis)防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼである。特に望ましい実施形態では、担体タンパク質は、ニューモリシン、リステリオリシンO、ジフテリア毒素、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素、または破傷風トキソイドである。
【0015】
本発明の第1態様の別の望ましい実施形態では、目的の抗原は、多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸である。望ましくは、多糖は少なくとも18残基を含む。別の望ましい実施形態では、多糖は、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)多糖、野兎病菌多糖、炭疽菌多糖、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)多糖、チフス菌(Salmonella typhi)多糖、サルモネラ種多糖、赤痢菌多糖、または髄膜炎菌多糖である。特に望ましい実施形態では、肺炎連鎖球菌多糖は、莢膜型1〜48、例えば、3、4、6B、7A、7B、7C、7F、9A、9L、9N、9V、12A、12B、12F、14、15A、15B、15C、15F、17、18B、18C、19F、23F、25A、25F、33F、35、37、38、44、または46のどれか一つである。別の特に望ましい実施形態では、野兎病菌多糖はO抗原である。
【0016】
本発明の第1態様のさらに望ましい実施形態では、目的の抗原は微生物の莢膜ポリマーである。望ましくは、微生物の莢膜ポリマーは、炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸である。
【0017】
本発明の第1態様の別の望ましい実施形態では、目的の抗原は、少なくとも3原子を有するモノマーからなる有機ポリマーであり、それらの原子のそれぞれは、炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸から独立して選択されている。望ましくは、その有機ポリマーは微生物に由来する。別の望ましい実施形態では、有機ポリマーは自然発生のものではない。
【0018】
別の望ましい実施形態では、ワクチン組成物は第2の目的の抗原をさらに含む。望ましくは、そのワクチン組成物は第3の目的の抗原をさらに含む。
【0019】
第2態様では、本発明は、ワクチン組成物の作製方法を特徴とする。この方法は、(i)目的の抗原と担体タンパク質とを混合して、該抗原と該担体タンパク質の混合物を形成するステップ、および(ii)該目的の抗原を該担体タンパク質で捕捉するステップを含み、その際、該ワクチン組成物中、目的の抗原の50%以下が該担体タンパク質と架橋する。
【0020】
本発明の第2態様の望ましい実施形態では、ワクチン組成物は製薬上許容される賦形剤をさらに含む。
【0021】
本発明の第2態様の別の望ましい実施形態では、捕捉ステップは、混合物から抗原と担体タンパク質を沈殿させるステップを含む。望ましくは、沈殿ステップは、混合物のpHを変化させるステップ、混合物に、トリクロロ酢酸(TCA)または硫酸アンモニウムを加えるステップ、混合物の無機塩濃度を上昇させ、または低下させることにより、混合物のイオン強度を変化させるステップ、混合物を加熱して、担体タンパク質および/または抗原を凝固させるステップ、または混合物に十分な線束の電離放射線を照射して架橋させるステップを含む。
【0022】
本発明の第2態様の望ましい実施形態では、ワクチン組成物中、抗原:担体タンパク質のモル比は1:10〜9:10である。
【0023】
本発明の第2態様の別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は多量体である。望ましくは、多量体は、少なくとも5個のサブユニットを含む。別の望ましい実施形態では、多量体はホモ多量体である。
【0024】
本発明の第2態様のさらに望ましい実施形態では、担体タンパク質は非共有結合している。望ましくは、非共有結合に、疎水性相互作用、イオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、または水素結合が含まれる。
【0025】
本発明の第2態様の別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン(例えば、コレラ菌フラゲリンタンパク質)、ニューモリシン、リステリオリシンO、髄膜炎菌の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素(赤痢菌SltB2タンパク質)、ヒトLTBタンパク質、細菌細胞全体(例えば、緑膿菌または連鎖球菌細胞)からのタンパク質抽出物、炭疽菌防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼである。特に望ましい実施形態では、担体タンパク質は、ニューモリシン、リステリオリシンO、ジフテリア毒素、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素、または破傷風トキソイドである。
【0026】
本発明の第2態様の別の望ましい実施形態では、目的の抗原は、多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸である。望ましくは、多糖は、少なくとも18残基を含む。別の望ましい実施形態では、多糖は、肺炎連鎖球菌多糖、野兎病菌多糖、炭疽菌多糖、インフルエンザ菌多糖、チフス菌多糖、赤痢菌種多糖、サルモネラ種多糖、または髄膜炎菌多糖である。特に望ましい実施形態では、肺炎連鎖球菌多糖は、莢膜型1〜48、例えば、3、4、6B、7A、7B、7C、7F、9A、9L、9N、9V、12A、12B、12F、14、15A、15B、15C、15F、17、18B、18C、19F、23F、25A、25F、33F、35、37、38、44、または46のどれか一つである。別の特に望ましい実施形態では、野兎病菌多糖はO抗原である。
【0027】
本発明の第2態様の別の望ましい実施形態では、目的の抗原は微生物の莢膜ポリマーである。望ましくは、微生物の莢膜ポリマーは、炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸である。
【0028】
本発明の第1態様のさらに別の望ましい実施形態では、目的の抗原は、少なくとも3原子を有するモノマーからなる有機ポリマーであり、それらの原子のそれぞれは、炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸から独立して選択されている。望ましくは、その有機ポリマーは微生物に由来する。別の望ましい実施形態では、有機ポリマーは自然発生のものではない。
【0029】
本発明の第2態様のさらに望ましい実施形態では、ステップ(i)の混合ステップは、第2の目的の抗原、または第3の目的の抗原さえも含む。
【0030】
第3態様では、本発明は、別のワクチン組成物の作製方法を特徴とする。この方法は、(i)目的の抗原と担体タンパク質とを混合するステップ、および(ii)該担体タンパク質と架橋するリンカーを加えるステップを含み、その際、該ワクチン組成物中、目的の抗原の50%以下が該担体タンパク質と架橋する。
【0031】
本発明の第3態様の望ましい実施形態では、ワクチン組成物は製薬上許容される賦形剤をさらに含む。本発明の第3態様の別の望ましい実施形態では、ワクチン組成物中、抗原:担体タンパク質のモル比は1:10〜10:1である。本発明の第3態様の別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は多量体である。望ましくは、多量体は少なくとも5個のサブユニットを含む。別の望ましい実施形態では、多量体はホモ多量体である。
【0032】
本発明の第3態様のさらに望ましい実施形態では、本方法は、担体タンパク質中のシッフ塩基を還元するステップを含む。本発明の第3態様のよりさらに望ましい実施形態では、担体タンパク質は、少なくとも一個の別の担体タンパク質と共有結合している。望ましくは、共有結合に、リジン側鎖の一級アミノ基と、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸側鎖のカルボキシ基との間のペプチド結合が含まれる。別の望ましい実施形態では、共有結合に二官能基架橋剤が含まれる。望ましくは、二官能基架橋剤は、グルタルアルデヒド、ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、またはアジプイミド酸ジメチルである。
【0033】
本発明の第3態様の別の望ましい実施形態では、リンカーは、式
【化2】

【0034】
[式中、Rは、1〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜12原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、qは1〜4である)、または2個のアルデヒド基を結合する化学結合である。]の化合物である。
【0035】
本発明の第3態様の別の望ましい実施形態では、リンカーは、グルタルアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、またはビス−ビアゾ化ベンジジンである。
【0036】
本発明の第3態様の別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン(コレラ菌フラゲリンタンパク質)、ニューモリシン、リステリオリシンO、髄膜炎菌の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素(赤痢菌SltB2タンパク質)、ヒトLTBタンパク質、細菌細胞全体(緑膿菌または連鎖球菌細胞)からのタンパク質抽出物、炭疽菌防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼである。
【0037】
本発明の第3態様のさらに望ましい実施形態では、目的の抗原は、多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸である。望ましくは、多糖は、少なくとも18残基を含む。別の望ましい実施形態では、多糖は、肺炎連鎖球菌多糖、野兎病菌多糖、炭疽菌多糖、インフルエンザ菌多糖、チフス菌多糖、赤痢菌種多糖、サルモネラ種多糖、または髄膜炎菌多糖である。特に望ましい実施形態では、肺炎連鎖球菌多糖は、莢膜型1〜48、例えば、3、4、6B、7A、7B、7C、7F、9A、9L、9N、9V、12A、12B、12F、14、15A、15B、15C、15F、17、18B、18C、19F、23F、25A、25F、33F、35、37、38、44、または46のどれか一つである。別の特に望ましい実施形態では、野兎病菌多糖はO抗原である。
【0038】
本発明の第3態様の別の望ましい実施形態では、目的の抗原は、微生物の莢膜ポリマーである。望ましくは、微生物の莢膜ポリマーは、炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸である。
【0039】
本発明の第3態様のさらに別の望ましい実施形態では、目的の抗原は、少なくとも3原子を有するモノマーからなる有機ポリマーであり、それらの原子のそれぞれは、炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸から独立して選択されている。望ましくは、その有機ポリマーは微生物に由来する。別の望ましい実施形態では、有機ポリマーは自然発生のものではない。
【0040】
本発明の第3態様のさらに望ましい実施形態では、ステップ(i)の混合ステップは、第2の目的の抗原、または第3の目的の抗原さえも含む。
【0041】
第4態様では、本発明は、被験体に感染病原体に対するワクチンを接種する方法を特徴とする。この方法は、被験体で抗体の産生を誘発するのに十分な量の本発明の第1態様のワクチン組成物を該被験体に投与するステップを含む。本発明の第4態様の望ましい実施形態では、方法は、被験体で抗体の産生をブーストするのに十分な量の本発明の第1態様のワクチン組成物を該被験体に投与する2回目の投与ステップを含む。望ましくは、本発明の第4態様では、抗体の産生がT細胞に依存する。本発明の第4態様の別の望ましい実施形態では、被験体が感染病原体に感染するのを防止または低減するのに、抗体の産生が十分である。感染病原体は、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌B型、緑膿菌、野兎病菌、赤痢菌種、サルモネラ種、アシネトバクター種、ブルクホルデリア種、または大腸菌が望ましい。
【0042】
本発明の第4態様の別の望ましい実施形態では、方法は、被験体で抗体の産生をブーストするのに十分な量の、目的の抗原を含む第2のワクチン組成物を該被験体に提供する2回目の投与ステップを含む。望ましくは、被験体が第2の感染病原体に感染するのを防止または低減するのに、抗体の産生が十分である。
【0043】
本発明の第4態様の望ましい実施形態では、抗体はIgG抗体である。本発明の第4態様のさらに望ましい実施形態では、被験体はヒトである。
【0044】
本発明の態様のいずれか一つの望ましい実施形態では、肺炎連鎖球菌多糖は、Kongら,(J. Med. Microbiol. 54:35−356, 2005)に記載されている莢膜型の一つである。例えば、望ましくは、肺炎連鎖球菌多糖莢膜型は、1(例えば、1−gまたは1−q)、2(例えば、2−g、2−q、または2−41A)、3(例えば、3−g、3−q、3−c、または3−nz)、4、5(例えば、5−q、5−c、5−qap、または5−g)、6A(例えば、6A−g、6A−c1、6A−c2、6A−n、6A−qap、6A−6B−g、6A−6B−q、または6A−6B−s)、6B(例えば、6B−c、6A−6B−g、6A−6B−q、または6A−6B−s)、7F(例えば、7F−7A)、7A(例えば、7A−cnまたは7F−7A)、7B(例えば、7B−40)、7C(例えば、7C−19C−24B)、8(例えば、8−gまたは8−s)、9A(例えば、9A−9V)、9L、9N、9V(例えば、9A−9V)、9Vおよび14、10F(例えば、10F−q、10F−ca、または10F−10C)、10A(例えば、10A−17Aまたは10A−23F)、10B(例えば、10B−10C)、11F、11A(例えば、11A−nzまたは11A−11D−18F)、11B(例えば、11B−11C)、11C(例えば、11B−11Cまたは11C−cn)、11D(例えば、11A−11D−18F)、12F(例えば、12F−qまたは12F−12A−12B)、12A(例えば、12A−cn、12A−46、または12F−12A−12B)、12B(例えば、12F−12A−12B)、13(例えば、13−20)、14(例えば、14−g、14−q、14−v、または14−c)、15F(例えば、15F−cn1または15F−cn2)、15A(例えば、15A−ca1、15A−ca2、または15A−chw)、15B(例えば、15B−c、15B−15C、15B−15C−22F−22A)、15C(例えば、15C−ca、15C−q1、15C−q2、15C−q3、15C−s、15B−15C、または15B−15C−22F−22A)、16F(例えば、16F−qまたは16F−nz)、16A、17F(例えば、17F−nおよび17F−35B−35C−42)、17A(例えば、17A−caまたは10A−17A)、18F(例えば、18F−ca、18F−w、または11A−11D−18F)、18A(例えば、18A−nzまたは18A−q)、18B(例えば、18B−18C)、18C(例えば、18B−18C)、19F(例えば、19F−g1、19F−g2、19F−g3、19F−q、19F−n、または19F−c)、19A(例えば、19A−g、19A−、または19A−ca)、19B、19C(例えば、19C−cn1、19C−cn2、または7C−19C−24B)、20(例えば、13−20)、21(例えば、21−caまたは21−cn)、22F(例えば、15B−15C−22F−22A)、23F(例えば、23F−c、10A−23F、または23F−23A)、23B(例えば、23B−cまたは23B−q)、24F(例えば、24F−cn1、24F−cn2、または24F−cn3)、24A、24B(例えば、7C−19C−24B)、25F(例えば、25F−38)、25A、27、28F(例えば、28F−28Aまたは28F−cn)、28A(例えば、28F−28A)、29(例えば、29−caまたは29−q)、31、32F(例えば、32F−32A)、32A(例えば、32A−cnまたは32F−32A)、33F(例えば、33F−g、33F−q、33F−chw、33F−33B、または33F−33A−35A)、33A(例えば、33F−33A−35A)、33B(例えば、33B−q、33B−s、または33F−33B)、33D、34(例えば、34−caまたは34s)、35F(例えば、35F−47F)、35A(例えば、33F−33A−35A)、35B(例えば、17F−35B−35C−42)、36、37(例えば、37−gまたは37−ca)、38(例えば、25F−38)、39(例えば、39−cn1または39−cn2)、40(例えば、7B−40)、41F(例えば、41F−cnまたは41F−s)、41A(例えば、2−41A)、42(例えば、17B−35B−35C−42)、43、44、45、46(例えば、46−sまたは12A−46)、47F(例えば、35F−47F)、47A、48(例えば、48−cn1または48−cn2)、またはGenBank受託番号AF532714もしくはAF532715である。
【0045】
定義
ワクチンと関連して本明細書で使用する「投与すること」は、被験体で免疫応答を誘発するのに十分な用量で、被験体にワクチンを提供することを意味し、その際、免疫応答によって、ワクチンに含まれている抗原と特異的に結合する抗体が産生される。望ましくは、投与には、筋肉内注射、皮内注射、または経皮注射が含まれ、望ましくは好適な免疫アジュバントの投与が含まれる。投与には、1回ワクチン投与または複数回用量でのワクチン投与を含めてよい。望ましくは、2回目の投与は、感染病原体による感染を防止するように、被験体で抗体の産生をブーストするように設計する。ワクチン投薬の頻度および量は、そのワクチンの比活性に依存し、常法の実験によって容易に決定することができる。
【0046】
「架橋」は、「長さゼロ」のリンカーを使用したときは直接的に、または化学的リンカーである第3分子を使用することによって、2分子間、巨大分子間、または分子の組合せ間、例えば担体タンパク質間に共有結合を形成することを意味し、その化学的リンカーは2個の官能基を有し、それぞれの官能基は、2個の別個の分子の一個と共有結合を形成し、または同じ分子中の2個の別個の基の間に共有結合を形成することができる(すなわち、これらは、ポリマー周囲を取り巻くこともできる「ループ」を形成するであろう)。例示的なリンカーには、2個の担体タンパク質を架橋することができる二官能性リンカーが含まれる。架橋は、抗原と担体タンパク質間にも生じうる。
【0047】
本明細書で使用する「抗原」は、抗体または抗体フラグメントが特異的に結合する、任意の分子または分子の組合せを意味する。
【0048】
本明細書で使用する「二官能性リンカー」は、2個の官能基を有する化合物を意味し、それらの官能基は、それぞれ別々に、2個の別個の分子、原子、または分子集合体と共有結合を形成することができる。例示的な二官能性リンカーについては、例えば、G. T. Hermanson (Bioconjugate Techniques, Academic Press, 1996)およびDick and Beurret (Conjugate Vaccines. Contribu. Microbiol. Immunol., Karger, Basal 10:48−114, 1989)が記載している。二官能性リンカーは、グルタルアルデヒド、ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、またはアジプイミド酸ジメチルが望ましい。
【0049】
本明細書で使用する「リンカー」は、2個以上の分子を共有結合する、化合物または化学結合を意味する。望ましくは、リンカーは、グルタルアルデヒドまたは式
【化3】

【0050】
[式中、Rは、1〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜12原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、qは1〜4である)、または2個のアルデヒド基を結合する化学結合である。]の化合物である。結合は、結合分子を使用せず、直接的であってよい。例えば、タンパク質のカルボキシル基は、カルボジイミド化学を使用して直接的に、またはこの種類の架橋を触媒するトランスグルタミナーゼを使用し、酵素的に、そのアミノ基と直接結合することができる。
【0051】
「抗体の産生をブーストする」とは、「ブースター応答」と称する、2回目の抗原への曝露中に生じる記憶B細胞の活性化を意味し、結果として抗体の産生を持続させる持続性「二次的」記憶免疫応答をさす。
【0052】
「担体タンパク質」は、そのタンパク質自体および/または担体タンパク質と複合体を形成する抗原に対して免疫応答を引き出す、ワクチンに使用されるタンパク質を意味する。望ましくは、担体タンパク質によって複合体中に捕捉されることによって、抗原は担体タンパク質と非共有結合する。それにもかかわらず、抗原と担体タンパク質が互いに共有結合することも可能である。望ましくは、担体タンパク質は、T細胞によって認識されるエピトープを含む。同様に「担体タンパク質」の定義に包含されるものは、分枝鎖ペプチドの多抗原ペプチド(MAP)である。MAPにはリジンを含めるのが望ましい。例示的な望ましい担体タンパク質には、(化学的または遺伝子的)、毒素および変異体でありうるトキソイドが含まれる。望ましくは、担体タンパク質は、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン、ニューモリシン、リステリオリシンO(および関連分子)、髄膜炎菌の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素、ヒトLTBタンパク質、細菌細胞全体からのタンパク質抽出物、炭疽菌防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼ、またはリンカーにより架橋できる別の任意のタンパク質である。
【0053】
「DNI」は、Bensonら,(Biochemistry 37:3941−3948, 1998)が記載したように、炭疽菌の防御抗原(PA)の変異形であるドミナントネガティブ変異体(DNI)タンパク質を意味する。
【0054】
抗原に関して本明細書で使用する「捕捉される」は、生理学的状態下で担体タンパク質と共に複合体に留まっている抗原を意味する。望ましくは、抗原と担体タンパク質間にさほど共有結合が存在しない状況で、抗原は担体タンパク質によって複合体中に捕捉される。本明細書で使用する、さほど共有結合が存在しないということは、その抗原の50%以下が担体タンパク質と共有結合していることをさす。望ましくは、その抗原の40%以下、30%以下、10%以下、または5%以下が担体タンパク質と共有結合している。
【0055】
「感染」は、微生物、例えば細菌、菌類、寄生虫、またはウイルスが、被験体に侵襲することを意味する。感染は、例えば、被験体身体中もしくは被験体身体上に通常存在する過剰な微生物の増殖、または被験体中もしくは被験体上に通常存在しない微生物の増殖を含む。過剰量の微生物集団が、被験体の身体中または身体上に存在するとき、あるいは微生物集団の存在が、被験体の細胞を損傷し、または被験体の組織に病理学的症状をもたらすとき、被験体は微生物に感染している。
【0056】
「感染病原体」は、感染をもたらす微生物を意味する。
【0057】
「免疫原性物」は、被験体で免疫応答を誘発する化合物を意味する。望ましくは、免疫応答は、IgG抗体の産生を含むT細胞依存性免疫応答である。
【0058】
「微生物」は、被験体で感染を引き起こすことが可能な細菌、菌類、寄生虫、またはウイルスを意味する。
【0059】
「微生物の莢膜ポリマー」は、微生物の莢膜被膜中または被膜上に存在するポリマーを意味する。望ましくは、微生物の莢膜ポリマーは、有機ポリマー、例えば、多糖、ホスホ多糖;アミノ糖がNアセチル置換されている多糖;スルファニル化糖、別の硫酸修飾糖、またはリン酸修飾糖を含む多糖;ポリアルコール、ポリアミノ酸、タイコ酸、およびリポ多糖のO側鎖である。
【0060】
「モノマー」は、モノマーなどと2個以上の結合を形成することができる分子構造を意味し、「ポリマー」部分である場合、繰り返しモノマー下部構造の鎖または一連の分枝連結鎖をもたらすことが多い。
【0061】
「有機ポリマー」は、共有結合したモノマーであって、それぞれが以下の原子:炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸の3個以上を有するモノマーから構成されたポリマーを意味する。有機ポリマーは、多糖、ホスホ多糖;アミノ糖がNアセチル置換されている多糖;スルファニル化糖、別の硫酸修飾糖、またはリン酸修飾糖を含む多糖;糖、ポリアルコール、ポリアミノ酸、タイコ酸、およびリポ多糖のO側鎖が望ましい。
【0062】
「ポリアルコール」は、カルボニル基が、一級または二級ヒドロキシル基に還元されている炭水化物の水素化形を意味する。例示的なポリアルコールは、ポリ酸化アルキレン(PAO)、例えば、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール(mPEG)およびポリプロピレングリコールを含むポリアルキレングリコール(PAG);ポリ−ビニルアルコール(PVA);ポリエチレン−co−マレイン酸無水物;ポリスチレン−co−リンゴ酸無水物;カルボキシメチル−デキストランを含むデキストラン;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースを含むセルロース;キトサン加水分解物;ヒドロキシエチル−デンプンおよびヒドロキシプロピル−デンプンなどのデンプン;グリコーゲン;アガロースおよびその誘導体;グアールガム;プルラン;イヌリン;キサンタンガム;カラギナン;ペクチン;アルギン酸加水分解物;ソルビトール;グルコース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、グロース、キシロース、トレオース、ソルボース、フルクトース、グリセロール、マルトース、セロビオース、スクロース、アミロース、アミロペクチンのアルコール;またはモノプロピレングリコール(MPG)である。
【0063】
「ポリアミノ酸」は、ペプチド結合によって連結した少なくとも2個のアミノ酸を意味する。望ましくは、ポリアミノ酸は、反復性アミノ酸配列または同じアミノ酸の鎖を含むペプチド(すなわちホモポリマー)である。
【0064】
「シッフ塩基を還元する」とは、シッフ塩基の二重結合を水素原子で飽和させる還元剤に、アゾメチンまたは式RC=N−R(式中、R、R、およびRは、典型的には炭素原子を含む化学的下部構造である)の化合物を曝露することを意味する。還元方法は、当業者には公知である。
【0065】
抗体もしくはそのフラグメントに関して本明細書で使用する「特異的に結合する」とは、等量の別の任意のタンパク質に比べて、特定のタンパク質、例えば抗原に対して、抗体もしくは抗体フラグメントの親和性が高いことを意味する。望ましくは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの標準的方法を使用し定量した場合、抗体もしくは抗体フラグメントは、関連抗原を含む別の任意の抗原の等量に対する親和性よりも、少なくとも2倍、5倍、10倍、30倍、または100倍高い親和性をその抗原に対して有する。
【0066】
「被験体」は、微生物が感染する可能性がある動物を意味する。望ましくは、被験体は、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ヤギ、またはウマである。望ましい実施形態では、被験体は、ヒト、例えばヒト児童である。望ましくは、被験体は、ヒト小児、乳児、または思春期前の児童である。
【0067】
「T細胞非依存性抗原」は、Tリンパ球の協力なしに抗体を生じる抗原を意味する。望ましくは、T細胞非依存性抗原は、Tリンパ球の協力なしに直接Bリンパ球を刺激する。例示的な望ましいT細胞非依存性抗原には、莢膜抗原のポリ−γ−D−グルタミン酸(PGA)、アルギン酸(algenate)、デキストラン、多糖(PS)、ポリアミノ酸、ポリアルコール、および核酸が含まれる。
【0068】
利点
既存のワクチン技術と比較して、本発明のワクチンは、製造が簡単であり、化学的問題を起こしにくく、免疫学的問題も起こしにくく、それほど高価ではなく、異なる目的の抗原と担体タンパク質に対して、抱合体技術よりも適応性が高く、多価ワクチン(複数の抗原に対して防御的なワクチン)の創出に、より柔軟性がある。
【0069】
本発明のワクチンは、担体タンパク質と、免疫応答を誘起させるための抗原との間に共有結合を必要とせず、従って抱合型ワクチン技術と比較して、その作製方法は簡単になり、その調製コストは低下する。発展途上国では、多糖(PS)−タンパク質抱合型ワクチンを製造販売するのは法外に高価であり、それぞれのワクチンに要求される高度に専門化された化学、およびPSと担体タンパク質の製造精製コストのために、従来の抱合型ワクチンを安価に製造するのは難しい。
【0070】
本発明のワクチンはまた、かつては難治性であった抗原に対して、免疫を安全に誘発することができるワクチンの必要性にも対処するものである。そのようなワクチンは、一価(一免疫応答を誘発する単一抗原を有する)であっても、または多価(複数の免疫応答を誘発する複数の抗原を有する)であってもよい。TLR(Toll様受容体)リガンドを含むワクチンは、難治性抗原にせよそうでないにせよ、免疫応答を誘起することは分かっているが、安全性が低い傾向がある。なぜなら、TLRリガンドは、しばしば、炎症誘発性であり、小用量であっても有毒で、反応誘発性(reactogenic)もあり、本発明のワクチンと比較して有害な症状をもたらす可能性が高いからである。
【0071】
以下、発明を実施するための最良の形態、図面、および特許請求の範囲から、本発明の他の特徴および利点を明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】PSと担体タンパク質破傷風トキソイド間に産生された抱合体に対して、抱合型ワクチンにより抗PS IgG免疫応答を誘発する、非限定的に提案される経路の概略図である。このモデルでは、PSを認識する抗体受容体を提示するB細胞のみがPS−タンパク質抱合体に結合する。従って、担体タンパク質は、正確なPS結合特異性を提示するB細胞の表面と結合する。
【図2】架橋について、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動および抗PA抗血清によるウェスタンブロッティングにより、PCMVおよび対照調製物をモニターしたウエスタンブロット分析の画像である。DNIタンパク質は、グルタルアルデヒド架橋前に84kDaで泳動する。PCVM1〜PCMV3(レーン1〜3)は、220kDaを超える分子量でのバンド泳動により実証されるように、DNIタンパク質の広範な架橋を示す。PGA非存在下で架橋させたDNIタンパク質のみでも、同じ高分子量種が見られる(レーン5)。それに反して、PGAと混合したが、グルタルアルデヒドで処理しなかったDNIでは、DNIと共泳動するバンドまたは低分子量種(レーン4)が見られる。
【図3】3種のPCMV調製物(PCMV1〜PCMV3;調製物1〜3)および2種の抗原対照調製物4および5で免疫化したマウスで、IgMおよびIgG特異的抗DNI免疫応答を測定するために使用した、ELISAアッセイの結果を示すグラフである。DNIタンパク質は、グルタルアルデヒド(glut)で架橋しなかった対照調製物4を除き、全ての調製物で高度に免疫原性であった。しかし、これらのDNI特異的免疫応答は排他的にIgGを基礎とした。免疫化7日目でさえも抗DNI IgMは検出されなかったが、顕著な抗DNI IgGの応答が、17日目までにPCMV調製物で免疫化したマウス、および架橋DNIのみ(調製物5)で免疫化したマウスで検出することができた。調製物4を含む全ての調製物について、30日目にDNIに対して強力なブースター応答が認められた。
【図4】3種のPCMV調製物(PCMV1〜PCMV3;調製物1〜3)および2種の抗原対照調製物4および5で免疫化したマウスで、IgM特異的抗PGA免疫応答を測定するために使用した、ELISAアッセイの結果を示すグラフである。抗PGA IgM応答は、莢膜ポリマーに典型的なパターンを示した。対照調製物4では、7日目に検出可能な抗PGA IgM応答が生じたが、この応答は17日目または30日目にブーストされなかった。全てのPCMV調製物で、7日目に抗PGA IgM応答が誘発され、次いで17日目および30日目にさらに強力な抗PGA IgM応答が排他的に発生した。予想通り、対照調製物5(架橋DNIのみ)では、IgMまたはIgGのどちらを基礎とする抗PGA応答も生じなかった。
【図5】3種のPCMV調製物(PCMV1〜PCMV3;調製物1〜3)および2種の抗原対照調製物4および5で免疫化したマウスで、IgG特異的抗PGA免疫応答を測定するために使用した、ELISAアッセイの結果を示すグラフである。PCMV1〜3では、17日目に顕著になった、強力なIgGを基礎とした抗PGA応答が生じ、次いで30日目にはっきりとブーストされた。
【図6】免疫化前、およびDNIとアルギン酸を含むPCMV(DNI−ALG C、DNI ALG A)、ならびにアルギン酸(algenate)(ALG)、デキストラン(DEX)、およびPGAと複合体を形成したDNIを含む、「ワンポット」三価PCMV調製物で免疫化後、30日目のプールした血清のIgM抗体力価を示すグラフである。
【図7】DNIとアルギン酸を含むPCMV(DNI−ALG C、DNI ALG A)、ならびにアルギン酸(algenate)(ALG)、デキストラン(DEX)、およびPGAと複合体を形成したDNIを含む、「ワンポット」三価PCMV調製物で免疫化後、60日目の抗原特異的血清IgG抗体力価を示すグラフである。
【図8】DNIとアルギン酸を含むPCMV(DNI−ALG C、DNI ALG A)、ならびにアルギン酸(algenate)(ALG)、デキストラン(DEX)、およびPGAと複合体を形成したDNIを含む、「ワンポット」三価PCMV調製物で免疫化後、128日目の抗PS IgG抗体力価を示すグラフである。
【図9】AおよびBは、米国菌培養収集所より入手し、Merck社が製造した、またはSerum Institute of India(SII)社より入手した肺炎連鎖球菌多糖(pss)を使用したIL−6アッセイを示すグラフである。
【図10】SIIより入手したpss 6B中の混入物質は、処理2(1M NaOH中80℃で1時間インキュベーション)を使用し除去できることを示すグラフである。処理1は、多糖からタンパク質を除去するための一連の5種のフェノール抽出物である。
【図11】pss 6Bを含むPCMVが、IgGの産生誘発では、Prevnar(登録商標)よりも有効であることを示すグラフである。BSA=ウシ血清アルブミン、DT=ジフテリア毒素、DTx=ジフテリアトキソイド、およびTTx=破傷風トキソイド。
【図12】pss 6Bを含むPCMVが、IgMの産生誘発では、Prevnar(登録商標)と同程度に有効であることを示すグラフである。
【図13】pss 6Bを含むPCMVが、IgGの産生誘発では、Prevnar(登録商標)よりも有効であることを示すグラフである。
【図14】pss 14を含むPCMVが、IgGの産生誘発では、Prevnar(登録商標)とほぼ同等であることを示すグラフである(DTx=ジフテリアトキソイド、TTx=破傷風トキソイド)。
【図15】pss 14を含むPCMVが、IgGの産生誘発では、Prevnar(登録商標)とほぼ同等であることを示すグラフである(DTx=ジフテリアトキソイド、TTx=破傷風トキソイド)。
【図16】pss 14を含むPCMVが、IgGの産生誘発では、Prevnar(登録商標)とほぼ同等であることを示すグラフである(DTx=ジフテリアトキソイド、TTx=破傷風トキソイド)。
【発明を実施するための形態】
【0073】
本発明は、T細胞非依存性抗原、または通常、弱い免疫応答を引き出す抗原、例えば、多糖(PS)、ポリアルコール、ポリアミノ酸、および他の有機ポリマーなどに対して、免疫を提供するためのワクチン組成物、およびそのような組成物を製造し投与する方法を特徴とする。本発明のワクチンは、典型的なPS−タンパク質抱合型ワクチンの強力な免疫学的特性を有しているが、望ましくは、目的の抗原、例えばPSもしくは莢膜有機ポリマーと、担体タンパク質との結合に顕著な共有結合性原子結合は必要とされないという点で抱合型ワクチンと異なる。むしろ、目的の抗原、例えばPSもしくは莢膜有機ポリマーは、担体タンパク質によって捕捉されている。例えば、タンパク質マトリックスは、PSもしくは莢膜有機ポリマーなどの溶解性抗原の存在下、担体タンパク質分子同士を共有結合的に架橋することにより形成されうる。これらのワクチンを、タンパク質マトリックスワクチンと称する。互いに高度に架橋している担体タンパク質は、抗原の捕獲、その抗原の取込み、および免疫細胞中での抗体産生の刺激を促進できるマトリックスを形成することができる。担体タンパク質マトリックスは、抗原を封入した「メッシュ」、または抗原が「糸」であり、タンパク質もしくは架橋したタンパク質複合体が、この例では「ビーズ」である、一連の「糸に通したビーズ」の形であってよい。担体タンパク質が、抗原を取り囲んで抗原の周囲に環を形成している場合、または抗原がその中に絡み取られている三次元メッシュを形成している場合、抗原は担体タンパク質に捕捉されている。また、担体および抗原は、例えば、担体タンパク質と抗原鎖中の内鎖(intra−chain)との架橋によって架橋していてもよい。望ましい実施形態では、抗原と担体タンパク質は非共有結合している。そのような非共有結合には、疎水性相互作用、イオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、または水素結合が含まれうる。非共有結合には、抗原とタンパク質複合体を非共有結合させる物理的幾何的配置(上記に類似する「糸に通したビーズ」を参照)を含めることができる。
【0074】
抗原を捕捉するのに、担体タンパク質は、担体タンパク質自体と架橋しなくてもよい。抗原は、例えば、担体タンパク質と抗原を水溶液に混合し、担体タンパク質を沈殿させ、それによって抗原とタンパク質とを共沈殿させることによって捕捉することもできる。抗原はまた、抗原と担体タンパク質の混合物から、化合物(例えば、ミョウバン、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリホスファゼン、または疎水性もしくはイオン性相互作用によって操縦される親和性をタンパク質に対して有する他のポリマー)を沈殿させることによって、担体タンパク質により捕捉することもできる。タンパク質を沈殿させる方法は、当技術分野で標準的であり、中でも、例えば(1)混合物のpHを変化させる方法、(2)混合物の無機塩濃度を上昇させ、または低下させる方法により、溶液のイオン強度を変化させる方法、(3)または混合物に、トリクロロ酢酸(TCA)または硫酸アンモニウムを加える方法、(4)混合物を加熱して、タンパク質を凝固させる(すなわち、沈殿物またはゲルが形成される)方法、(5)混合物中のタンパク質を不溶性にする方式で、そのタンパク質を化学的に修飾する方法、および(6)タンパク質の架橋および/または沈殿を引き起こすために、タンパク質溶液に、十分な線束の電離放射線(紫外線、γ線、またはβ線)を照射する方法が含まれる。
【0075】
病原体の莢膜型タンパク質を使用する場合、そのようなワクチンは、タンパク質莢膜マトリックスワクチン(PCMV)と称する。実施例に記載するように、T非依存性莢膜抗原モデルをベースとするPCMV、ポリ−γ−D−グルタミン酸(PGA)をベースとするPCMV、およびアルギン酸(algenate)およびデキストランをベースとするPCMV、および例示的な担体タンパク質であるDNIをベースとするPCMVを含むPCMVを生成した。PGA PCMVは、大量生産が簡単であり、PGA−タンパク質抱合型ワクチンに典型的な免疫応答を誘発することが判明した。本発明のワクチンは、任意の目的の抗原の存在下、多くの可能な担体タンパク質のいずれかと架橋させるための、多くの可能なリンカーのいずれかを使用し調製してよい。例示的であり好ましいリンカー、担体タンパク質、および目的の抗原を本明細書に記載する。
【0076】
多糖(PS)は、サッカライド(糖)のポリマーである。莢膜由来のPSは、莢膜を有する細菌病原体、例えば、髄膜炎菌、肺炎連鎖球菌、チフス菌、およびインフルエンザ菌B型に対する防御免疫に関わる一次抗原成分である。微生物のPSをベースとするワクチンで、青年期の人および成人を免疫化することは、疾患の負担の軽減で成功しているが、小児および幼児(すなわち24ヵ月齢未満の児童)に防御免疫を提供するには、あまり有効ではないことが証明されている。児童は、成熟適応免疫レパートリーがまだ発達しておらず、そのような若年のワクチン接種者では、莢膜PSなどのT細胞非依存性抗原も免疫原性が低く、長期防御免疫応答(すなわち免疫学的記憶応答)はもたらされない。
【0077】
PSなどのT細胞非依存性抗原は、PSとタンパク質とを化学的に結合させることによって、T細胞依存性抗原に転換することができ、この過程を「抱合」と呼び、PS構造中の原子と、「担体」タンパク質中に存在するアミノ酸の側鎖原子との間の共有結合の形成が含まれる。そのような「抱合型ワクチン」は、B細胞の成熟およびアイソタイプスイッチの誘発をより効率よく促進し、正確な抗PS防御プロフィールを備えた極めて高いレベルの抗体がもたらされる。防御抗体は、それらのPS抗原に対して親和性が高く、典型的には、補体固定およびオプソニンエフェクター活性を備えた長期持続型抗体である、免疫グロブリンG(IgG)サブクラスのものがある。
【0078】
PSと担体タンパク質破傷風トキソイド間に生成された抱合体により、抗PS IgG免疫応答が誘発される例示的で非限定的な経路を図1に示す。このモデルでは、PSを認識する抗体受容体を提示するB細胞のみが、PS−タンパク質抱合体と結合する。従って、担体タンパク質は、正確なPS結合特異性を提示するB細胞の表面と結合する。タンパク質−PS複合体は、これらのB細胞によって細胞内液胞区画に取り込まれ、そこで担体はタンパク質分解によって処理される。担体タンパク質由来ペプチドは、輸送され、MHC−クラスII受容体(MHC-II)提示溝に装填される。このMHC-II−担体ペプチド複合体は、B細胞表面に提示される。T細胞受容体(TCR)が、MHC-II−ペプチド複合体を認識すると、T細胞は活性化しサイトカインを分泌するが、このサイトカインは、B細胞分化を誘発するための「補助」を提供する。B細胞は、数が増大し、次いで抗体を分泌する「形質細胞」に分化する。初期には、免疫グロブリンM(IgM)は、形質細胞によって産生されるが、最終的にはT細胞は、その形質細胞がクラス替えし、IgGなど、他のアイソタイプクラスの抗体を産生するのを助ける。この過程は形質細胞で継続し、変異を変化させ、PS−タンパク質抱合体に、よりさらに高い親和性を有する抗体受容体を生成させる。抗原は一掃されるので、高親和性形質細胞のみが、循環中に残存する残留PS−タンパク質抱合体によって活性化される。形質細胞のT細胞依存性成熟の過程は継続し、IgGクラスの高親和性抗体を産生する血漿細胞集団が増殖する。免疫化した被験体、例えばヒトの血清中の抗PS IgG抗体レベルを測定することによって、その増殖は容易にモニターすることができる。
【0079】
最終的に、成熟およびスイッチ過程によって、持続性であり、PSに特異的な記憶B細胞が産生される。記憶B細胞は、PSに曝露されると、直ちに活性化が可能であるという特有の性質を有する。活性化すると、記憶B細胞は増幅し、直ちに抗PS IgGを産生する。二回目のPS抗原への曝露中に生じる記憶B細胞の活性化は、「ブースター応答」と称し、持続性の「二次的」記憶免疫応答を示すものである。一回目の免疫化によって、IgM抗体と、いくらかのIgG抗体が産生の刺激を受けうる。二回目の免疫化、すなわち「ブースター」ショットによって、一回目の免疫化によって既にプログラムされた記憶細胞が、多量のIgGを産生するように刺激される。記憶免疫応答である。
【0080】
一般的に、T細胞非依存性抗原は、持続性の免疫、すなわちIgG抗体の産生は刺激せず、IgM抗体の産生は刺激しうるが、余り強力ではなく時間も短い。そのようなものとして、通常、PS抗原単独ではIgGのブースター応答は生じない。しかし、PS−タンパク質抱合体によって一回目の免疫化が実施されると、PSによってまさにブースター応答がもたらされる。なぜなら、抱合体によって誘発された記憶細胞は、IgGを産生するように既にプログラムされているからである。実際、ワクチン接種動物もしくはヒトでのブースター応答は、PSを提示する微生物への曝露のために防御応答が模倣されたと考えられる。抱合型ワクチンによる免疫化後何年も、ワクチンが、免疫化された被験体の保護に役立つためには、この長期記憶が重要な意味を持つ。従って、PS−タンパク質抱合体は、(1)PS抗原に対して高レベルのIgGを誘発する能力、および(2)PS抗原に対して記憶免疫応答を誘発する能力に対して評価される。典型的には、PS抗原はこれらの特性を示さず、従って劣る抗原である。抱合型ワクチンの合成の難しさおよびその生産コストによって、PSに対する免疫応答が防御的であるうる多くの細菌性疾患に向けた抱合型ワクチンの開発が遅れている。
【0081】
他のT細胞非依存性抗原には、アミノ酸ホモポリマー、例えば、ポリ−γ−D−グルタミン酸(PGA)およびポリアルコールが含まれる。実際、ほとんどの生物学的ポリマーはT細胞非依存性抗原である。ポリマーは、その化学構造(および従ってエピトープ)の反復的性質のために、それらを認識するB細胞上の免疫グロブリン(Ig)受容体と架橋することができる。従って、ポリマーは、多糖がするのと同じ方式で、抗ポリマーIgMを産生するようにB細胞を活性化することができる。例えば、アミノ酸ホモポリマーである炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸(PGA)は、免疫原性が低く、同様にT細胞非依存性抗原である莢膜ポリマーである。タンパク質担体と抱合したPGAから構成されるワクチンは、免疫原性が高く、抗PGA IgGを誘発し、およびPGAに対して免疫学的記憶を誘発することができる。従って、ほとんどのポリマーは、その免疫原性の点でPSのように応答する。なぜなら、それらのポリマーは、MHC-IIと関連して処理することも、提示することも不可能で、それによってT細胞補助を召集することができないからである。一例外は、Toll様受容体(TLR)と称する、別の受容体クラスと相互作用する数種の自然発生ポリマーに見出される。一度活性化されると、TLRは、宿主細胞によるサイトカインの産生を誘発し、適応免疫応答を変化させることができる。いくつかのPSは、TLRリガンドと共有結合し、またはそのようなリガンドが混入している。例えば、リポ多糖(LPS)は、免疫原性が高く、IgGおよび記憶応答を誘発するPSであり、LPSの脂質A部分は、TLRリガンドであり免疫学的特性を担いうる。
【0082】
別の実施例では、数種の肺炎球菌PSは、たとえタンパク質担体に結合していなくても、IgGへのアイソタイプスイッチを誘発するという点で、抱合型ワクチンの免疫学的特性のいくつかを示すことが判明している。近年、肺炎連鎖球菌の様々な株由来の個々のPSと同様に、市販の多糖ワクチンPneumovax−23にも、TLRリガンドが混入していることが判明した(Senら, J. Immunol. 175:3084−3091, 2005)。この知見から、これらのPS調製物が、タンパク質抱合体の非存在下で、IgGへのアイソタイプスイッチを誘発できる理由が説明されよう。これらの肺炎球菌PSは、マクロファージによるIL−6およびTNF−αの分泌を誘発した。しかし、フェノール抽出によりPSをさらに精製すると、マクロファージからのサイトカインの分泌が阻害された。免疫化の研究では、フェノール抽出したPSは、免疫原性が低く、もはや抗PS IgGを誘発しなかった。従って、このPS調製物のこれらの異常な免疫原性特性の原因である混入分子は、フェノール抽出によって除去する。混入分子は、マクロファージでTLR依存性サイトカイン応答を活性化する能力が付与されたTLRリガンドであると思われる。フェノール抽出によりさらにPSを精製すると、混入するTLRリガンドが除去され、PSは完全にT細胞非依存性になった。
【0083】
上の例は、タンパク質と炭水化物との共有結合なしに、PS抗原が、抱合体PS−タンパク質抗原のように働きうることを例示している。遺憾ながら、TLRリガンドは、通常炎症誘発性である。例えば、LPSは、小用量であっても有毒である。従って、TLRリガンドとPSとを混合すると、PSに対する免疫応答は広がるかもしれないが、この手法は、反応誘発性であるワクチンを産生する可能性も高く、ワクチン接種者に有害な症状を引き起こす可能性も高い。抱合型ワクチン技術には、所望の範囲の免疫原性と安全性を備えたPSワクチンの生産に向けた選択方法が残されている。
【0084】
PS−タンパク質抱合型ワクチンの開発によって、浸潤性細菌病原体によって生じる小児期疾患の負担は著しく軽減された。先進世界では、インフルエンザ菌B型およびある種の髄膜炎菌株や連鎖球菌株に対するワクチンを含め、一握りのそのようなワクチンが市販されている。開発途上世界では、これらのPS−タンパク質抱合型ワクチンを製造販売するには法外に高価である。例えば、市販の七価肺炎球菌抱合型ワクチンは、一用量当たり約58ドル(2006年、米ドル)かかり、4用量治療計画が必要となる。費用だけでも、このワクチンは、疾患の負担を抱えている発展途上国の人々の手に届かないものになっている。
【0085】
従来の抱合型ワクチンは、関与する化学、およびPSと担体タンパク質の製造精製費用のせいで安価に生産するのは困難である。通常、PSと担体タンパク質のどちらも、妥当な結合効率で抱合化学を実施できるようになる前に、非常で純粋でなければならない。通常、様々なPSに対して結合化学を実施する必要があり、それは選択したPSおよび担体タンパク質の化学に特有なものである。この結合化学によってPS中に官能基が導入され、次いで典型的にはリジン残基のイプシロンアミノ側鎖を通じて、その官能基を担体タンパク質に連結することができる。そのような結合基が導入されるようにPSを化学的に修飾することによって、PS上のエピトープを破壊し、(例えば、リンカーまたは修飾糖基と結合された)新規なエピトープを導入でき、その重要性は、注意深く免疫学的分析を実施することによってのみ、評価することができる。さらに、従来のPS−タンパク質抱合型ワクチンについては、PSのサイズ、1タンパク質担体分子当たりに結合しているPS分子数、選択した担体の性質、および連鎖化学の種類が全て、抱合型ワクチンの免疫原性に作用する可能性がある。そのようなものとして、例えば、90+の既知の血清型のそれぞれが、異なるPS構造を有する肺炎球菌疾患の場合には(Bentleyら, PLOS Genetics 2(3):e31 262−269, 2006)、全ての血清型に対して、ただ一つの抱合方法では適切ではないであろう。再現性免疫学的特性を有する抱合型ワクチンを再現可能に合成するには、PSのサイズ、1タンパク質担体分子当たりに結合しているPS分子数、選択した担体の性質、および連鎖化学の種類を注意深く制御する必要があり、翻って、これにより、抱合型ワクチンの製造費用が劇的に増大している。
【0086】
抗生物質耐性の出現は、安全かつ有効なワクチンの開発の緊急性に光を当てるものである。特に発展途上国の人々にとって広く入手できるワクチンを製造するためには、ワクチン製造は費用効率も高くなければならない。小児期免疫化治療計画に、1種もしくは複数の菌種の異なる血清由来の多くの多糖抗原に対する混合抱合型ワクチンを取り入れることは、その高危険性集団でのワクチン投与を簡略化するはずである。しかし、現在の抱合型ワクチン技術は、費用効率が余り高くなく、従って混合抱合型ワクチンを開発途上世界まで届けるのは実質的に不可能である。実際、強力な確立された市場を有する先進世界においてさえ、近年のWyeth七価抱合体肺炎球菌ワクチンの供給不足は、複合体抱合型ワクチン合成技術を必要とするワクチンを産生し備蓄するのがいかに困難であるかを例示している。
【0087】
望ましい実施形態では、本発明のワクチンは、1種または複数の細菌の莢膜成分を多価担体タンパク質マトリックスに捕捉している多価莢膜マトリックスワクチン(PCMV)である。出発物質としては、ほんの中程度に純粋な目的の抗原、例えば莢膜が必要とされるので、PCMVは、容易に生産することができる。例えば、Vedanポリγ−D−グルタミン酸(PGA)は純粋ではない(DNI上で活性なプロテアーゼを担持する)が、本明細書に記載したように、T細胞非依存性抗原に対して予想通り厳密に作働した(実施例1)。PCMV中へのPGAの取り込みは、そのタンパク質対PGAの割合が7倍の範囲にわたって異なる全3種のPCMV調製物で成功した。
【0088】
本発明のワクチンの作製方法は、目的の抗原、例えば莢膜多糖の化学のいかなる知識も必要としないので、本方法は、目的の抗原および担体タンパク質の化学に適合する架橋化学を開発する必要性に捕らわれない。いくつかの抗原が、それにもかかわらずリンカーと相互作用しうるという恐れもあるが、これによってワクチンの効力が下がってはならない。目的の抗原と担体タンパク質の意図しない架橋は、ともかく免疫原性特性を有することが予期されるからである。本発明のワクチンでは、目的の抗原と担体タンパク質の架橋は、ワクチンが有効であるための要件ではない。これは、従来の抱合型ワクチンと際立って対照的であるが、抱合型ワクチンは、そのために製造および開発が阻止されている。望ましくは、本発明のワクチンは、担体タンパク質の少なくとも、例えば1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらには100%が架橋し、目的の抗原の、例えば1%以下、5%以下、10%以下、15%以下、20%以下、30%以下、40%以下、50%以下、60%以下、70%以下、80%以下、または90%以下を担体タンパク質と架橋させる。望ましくは、抗原の10%以下を担体タンパク質と架橋させ、担体タンパク質の少なくとも50%を架橋させる。
【0089】
本明細書に記載したワクチンの製造方法は、目的の抗原、例えば莢膜ポリマーを甚だしく変化させることはない。一般的に、抗原は、還元糖をポリマー鎖の末端にそのような基を有するPS莢膜用に還元するなど、可能な修飾を有して同じ状態で残存する。そのようなマイナーな修飾は、ほとんどの莢膜PSの免疫原性に影響しないと思われる。なぜなら、末端糖は、ポリマーの内部残基の1/100〜1/1000と少ないからである。それに反して、従来の抱合型ワクチンでは、通常、莢膜ポリマーなどの抗原に、リンカー基を導入しなければならず、それは、担体タンパク質の共有結合の接着点として役立つ。莢膜ポリマーなど、多くの抗原は、その構造の一部としてカルボキシル基またはアミノ基などの反応基を有していないので、リンカーを使用する必要がある。例えば、リンカー化学をPSに導入すると、莢膜のエピトープが破壊され、新規なエピトープを開発することができるが、その新規なエピトープは、宿主自己エピトープとの未知の免疫学的交差反応性のために、ワクチン生成物では望ましくないであろう。
【0090】
本明細書に記載したワクチンの製造方法は、その化学が、担体タンパク質(例えば、DNI、コレラ毒素Bサブユニット、ジフテリア毒素、破傷風毒素フラグメントC、または大腸菌β−ガラクトシダーゼ)の架橋化学のみに依存するので、抱合型ワクチン技術よりも複雑ではない。例えば、莢膜ポリマーは、DNIと混合すると架橋率が影響するが、架橋のパターンもしくは程度には影響されず、それらは、使用したタンパク質、その濃度、および添加した架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド)濃度に、より大きく支配される。これらのパラメーターは、容易に調整することができ、それによってワクチンの製造に必要な時間および努力が低減し、かつ費用が節約される。
【0091】
本明細書に記載したPCMVワクチンの製造方法は、任意の抗原、例えばあってもごくわずかのアミノ基を有する、任意の莢膜ポリマーもしくは任意のポリマー;および架橋すること可能な任意の担体タンパク質、例えば、水素化ホウ素還元によって破壊されうる重要なエピトープを有しない担体タンパク質と共に使用することができる。本明細書記載の方法で使用してよい担体タンパク質は、望ましくは少なくとも2個のリジン残基、または阻害されていない残基および化学的修飾によって架橋可能な他の残基を有する。破傷風トキソイドは可能な一担体タンパク質である。この毒素は、タンパク質のアミノ基と反応する試薬であるホルムアルデヒドで処理することによって解毒する。他の望ましい担体タンパク質には、コレラ毒素Bサブユニット(SBL Vaccin ABより入手可能)、ジフテリア毒素、破傷風毒素フラグメントC(Sigma Aldrichより入手可能)、DNI、または大腸菌由来β−ガラクトシダーゼ(Sigma Aldrichより入手可能)が含まれる。
【0092】
現在の多価抱合型ワクチンは、まず個々の抱合型ワクチンを合成し、続いてそれらを混合して「カクテル」抱合型ワクチンを生成することによって作製される(例えば、Wyeth七価肺炎球菌ワクチン、Prevnar(登録商標))。多価ワクチンを製造するために、本発明のワクチンの製造方法は、担体タンパク質を架橋する前に、莢膜有機ポリマーなどの化学的に異なる抗原と、例えばグルタルアルデヒドとを一緒に混合すること、または別々に合成した本発明の特定のワクチンを混合することによって使用できる。この柔軟性は、現在の多価ワクチン製造法に著しく勝る。
【0093】
実施例に記載した本発明の例示的なワクチンであるPCMVワクチン#1〜3は、PGA分子およびDNIタンパク質を構成する原子間に、いかなる共有結合も発生しないと予想される方法によって、これらのワクチンを合成したという事実にもかかわらず、抱合型ワクチンのように作働した。グルタルアルデヒドは、リジン残基のイプシロンアミノ基に代表される、タンパク質のアミノ側鎖と排他的に反応する。PGAポリマーは、遊離アミノ基を含まず、グルタルアルデヒドと反応しないカルボキシル側鎖のみを有する。従って、PCMVによって生じた抱合体様免疫応答は、長鎖PGA分子が、DNIタンパク質分子の架橋されたマトリックス中に分子的に捕捉されたことを示す。
【0094】
非限定的モデルによれば、捕捉は、DNIタンパク質とPGAをB細胞中に運搬する働きをし、そのB細胞は、PGAを免疫学的に認識するIg受容体によって、それらのマトリックスを結合する。一度これらのB細胞の内側に取り込まれると、従来の抱合型ワクチンに類似する方式でマトリックスは分解され、これによって、対応するB細胞のMHC-II分子上に提示されるDNI由来ペプチドがもたらされる。次いで、これが、T細胞補助を召集し、それによってそのようなB細胞が増殖し成熟して、IgG産生血漿およびPGA特異的記憶細胞になる。従って、非限定的モデルによれば、PCMVは、免疫学的にタンパク質−抱合体莢膜ワクチンのように働くが、PCMVは、担体タンパク質と莢膜ポリマー間に顕著な共有結合を有しないために異なる。
【0095】
PCMVを含む本発明のワクチンは、例えば小児用ワクチンで組み合わせて使用してよい。さらに、本発明のワクチンは、例えば、肺炎球菌感染、連鎖球菌(A群およびB群)感染、インフルエンザ菌B型(「HiB」)感染、髄膜炎菌[例えばナイセリアメニンギチデス(Neisseria meningitides)]感染に対してワクチン接種するために使用してよく、グラム陰性菌[例えば、緑膿菌、野兎病菌(Thirumalapuraら, J. Med. Microbiol. 54:693−695, 2005;Vinogradov and Perry, Carbohydr. Res. 339:1643−1648, 2004;Vinogradovら, Carbohydr. Res. 214:289−297, 1991)、赤痢菌種、サルモネラ種、アシネトバクター種、ブルクホルデリア種、および大腸菌]のO抗原ワクチンとして使用してよい。
【0096】
本発明のワクチンは、1種もしくは複数の目的の抗原、例えば本明細書に記載した目的の抗原などの存在下で、任意の担体タンパク質、例えば本明細書に記載した担体タンパク質などを架橋するために、任意のリンカー、例えば本明細書に記載したリンカーを使用し作製することができる。1種の目的の抗原を使用する場合、本発明のタンパク質マトリックスワクチンは1価であると言う。複数の目的の抗原を使用する場合、本発明のタンパク質マトリックスワクチンは、多価であると言う。微生物の莢膜ポリマーが目的の抗原である場合、本発明のタンパク質マトリックスワクチンは、タンパク質莢膜マトリックスワクチン(PCMV)であると言う。
【0097】
リンカー
架橋担体タンパク質は、当技術分野で周知であり、グルタルアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス−ビアゾ化ベンジジンが含まれる。
【0098】
ホモ二官能性またはヘテロ二官能性リンカーを使用し、直接担体タンパク質を架橋するための一般的方法および部分(moiety)は、例えば、G. T. Hermanson による Bioconjugate Techniques, Academic Press, 1996およびDickおよびBeurretによる Conjugate Vaccines. Contribu. Microbiol. Immunol., Karger, Basal 10:48−114, 1989に記載されている。例えば、n個のリジン部分を有する担体タンパク質を用いると、例示的な架橋剤のカルボキシル基との反応に利用できる一級アミン(末端アミンを含む)は理論上n+1個ある。従って、この直接的抱合手順を使用し、生成物はn+1個のアミド結合の形成に限定される。
【0099】
本発明の望ましい実施形態で使用されるリンカーは、最も簡単なものでは、2個の担体タンパク質を連結する結合である。リンカーは、直線的、環状、または分枝した分子骨格であってよく、2個の担体タンパク質(A)および(B)に共有結合で結合するペンダント基を有する。その中に抗原を封入しうる、相互に連結した担体タンパク質マトリックスが創出されるように、任意の所与の担体タンパク質と、複数の担体タンパク質とを連結することができる。
【0100】
結合基(linkage group)という用語は、リンカー(L)の反応性部分と、(A)もしくは(B)の官能基との組合せの結果もたらされる共有結合をさす。結合基の例には、それだけには限らないが、エステル、カルバメート、チオエステル、イミン、ジスルフィド、アミド、エーテル、チオエーテル、スルホンアミド、イソ尿素、イソチオ尿素、イミドエステル、アミジン、ホスホロアミデート、リン酸ジエステル、チオエーテル、およびヒドラゾンが含まれる。
【0101】
(A)と(B)の連結は、(A)および(B)上に位置する1個もしくは複数の官能基による結合(結合基)の形成を含む、共有結合的手段によって達成される。本目的に使用してよい化学的反応性官能基の例には、それだけには限らないが、アミノ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、カルボキシル、カルボニル、チオエーテル、グアニジニル、イミダゾリル、およびフェノール基が含まれ、それらの全てが、多くの担体タンパク質中の自然発生アミノ酸中に存在する。
【0102】
従って、(A)と(B)の共有結合は、(A)および(B)中に存在するそのような官能基と反応することが可能な反応性部分を含むリンカー(L)を使用し実施しうる。この反応生成物は、(L)と(A)および(L)と(B)を結合する新たに形成された結合を含む結合基である。例えば、(A)のヒドロキシル基は、(L)のカルボン酸基、またはその活性化した誘導体(下記参照)と反応することができ、結果としてエステル結合基が形成される。
【0103】
スルフヒドリル基と反応することが可能な部分の例には、XCHCO−型(式中、X=Br、Cl、またはI)のα−ハロアセチル化合物が含まれ、この化合物は、スルフヒドリル基に特定の反応性を示すが、例えば、Gurd, Methods Enzymol. 11:532, 1967に記載されているように、イミダゾリル、チオエーテル、フェノール、およびアミノ基を修飾するために使用することもできる。N−マレイミド誘導体も、スルフヒドリル基選択的と考えられるが、一定の条件下では、さらにアミノ基への結合に有用でありうる。アミノ基の転換を通じてチオール基を導入する2−イミノチオラン(Trautら, Biochemistry 12:3266, 1973)などの試薬は、ジスルフィド架橋の形成を通じて連結が生じるならば、スルフヒドリル剤と考えてよい。
【0104】
アミノ基と反応すること可能な反応性部分の例には、例えば、アルキル化剤およびアシル化剤が含まれる。代表的アルキル化剤には、以下のもの含まれる。
【0105】
(i)α−ハロアセチル化合物。これは、反応性チオール基の非存在下でアミノ基に対して特異性を示し、例えば、Wong (Biochemistry 24:5337, 1979)に記載されているように、XCHCO−型(式中、X=Cl、BrまたはI)である。
【0106】
(ii)N−マレイミド誘導体。これは、Michael型反応を通じて、または例えばSmythら,(J. Am. Chem. Soc. 82:4600, 1960 および Biochem. J. 91:589, 1964)に記載されているように、環状カルボニル基への付加によるアシル化を通じてアミノ基と反応させることができる。
【0107】
(iii)アリールハロゲン化物。例えば、反応性ニトロハロ芳香族化合物。
【0108】
(iv)ハロゲン化アルキル。例えば、McKenzieら,(J. Protein Chem. 7:581, 1988)に記載されているもの。
【0109】
(v)アミノ基とシッフ塩基を形成することができるアルデヒドおよびケトン。形成された付加体は、通常、還元されて安定したアミンがもたらされることにより安定化している。
【0110】
(vi)エピクロロヒドリンおよびビスオキシランなどのエポキシド誘導体。これは、アミノ、スルフヒドリル、またはフェノール性水酸基と反応しうる。
【0111】
(vii)s−トリアジンの塩素含有誘導体。これは、アミノ、スフヒドリル(sufhydryl)、およびヒドロキシル基などの求核剤に対して非常に反応性に富む。
【0112】
(viii)例えば、Ross (J. Adv. Cancer Res. 2:1, 1954)に記載されているような、先に詳述したs−トリアジン化合物に基づくアジリジン。これは、開環によりアミノ基などの求核剤と反応する。
【0113】
(ix)例えば、Tietze (Chem. Ber. 124:1215, 1991)に記載されているような四角酸ジエチルエステル。および
(x)α−ハロアルキルエーテル。例えば、Bennecheら,(Eur. J. Med. Chem. 28:463, 1993)に記載されているように、これは、エーテル酸素原子によって生じる活性化のために、通常のハロゲン化アルキルよりも反応性に富むアルキル化剤である。
【0114】
代表的なアミノ反応性アシル化剤には、以下のものが含まれる。
【0115】
(i)イソシアン酸およびイソチオシアン酸、特に芳香族誘導体。これらから、それぞれ安定した尿素およびチオ尿素誘導体が形成される。
【0116】
(ii)塩化スルホニル。これは、例えば、Herzigら,(Biopolymers 2:349, 1964)に記載されている。
【0117】
(iii)酸ハロゲン化物。
【0118】
(iv)ニトロフェニルエステルまたはN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルなどの活性エステル。
【0119】
(v)混合型、対称性、またはN−カルボキシ無水物などの酸無水物
(vi)アミド結合を形成する他の有用な試薬。例えば、M. Bodansky (Principles of Peptide Synthesis, Springer−Verlag, 1984)に記載されているような試薬。
【0120】
(vii)アシルアジド。例えば、Wetzら,(Anal. Biochem. 58:347, 1974)に記載されているような、例えばアジド基が、亜硝酸ナトリウムを使用し、プリフォームしたヒドラジド誘導体から生成されているアシルアジド。および
(viii)イミドエステル。これは、例えば、Hunter and Ludwig (J. Am. Chem. Soc. 84:3491, 1962)に記載されているような、アミノ基と反応すると安定したアミジンを形成する。
【0121】
例えば、グルタルアルデヒドなどのアルデヒドおよびケトンは、アミンと反応させてシッフ塩基を形成でき、このシッフ塩基は還元的アミノ化を通じて有利に安定化させることができる。例えば、Webbら,(Bioconjugate Chem. 1:96, 1990)に記載されているように、アルコキシルアミノ部分は、ケトンおよびアルデヒドと容易に反応して、安定したアルコキサミン(alkoxamines)を生成する。
【0122】
カルボキシル基と反応することが可能な反応性部分の例には、ジアゾ酢酸エステルおよびジアゾアセトアミドなどのジアゾ化合物が含まれ、これらは、例えば、Herriot (Adv. Protein Chem. 3:169, 1947)に記載されているように、高い特異性で反応してエステル基を発生する。O−アシル尿素形成を通じて反応し、続いてアミド結合を形成する、カルボジイミドなどのカルボン酸修飾試薬も使用してよい。
【0123】
必要に応じて、(A)および/または(B)の官能基は、例えば、追加の反応性または選択性を授けるために、反応前に別の官能基に転換してよい。この目的に有用な方法の例には、ジカルボン酸無水物などの試薬を使用し、アミンをカルボン酸に転換する方法;N−アセチルホモシステインチオラクトン、S−アセチルメルカプト無水コハク酸、2−イミノチオラン、またはチオール含有スクシンイミジル誘導体などの試薬を使用し、アミンをチオールに転換する方法;α−ハロ酢酸などの試薬を使用し、チオールをカルボン酸に転換する方法;エチレンイミンまたは2−ブロモエチルアミンなどの試薬を使用し、チオールをアミンに転換する方法;カルボジイミド、続いてジアミンなどの試薬を使用し、カルボン酸をアミンに転換する方法;およびトシル塩化物などの試薬を使用してアルコールをチオールに転換し、続いてチオ酢酸によりエステル交換し、そして酢酸ナトリウムによりチオールへ加水分解する方法が含まれる。
【0124】
追加の連結物質を導入しない、(A)の反応性化学基と(B)の反応性化学基の直接共有結合を含む、いわゆるゼロ長リンカーを必要に応じて本発明に従って使用してよい。例としては、結合基がエステルもしくはチオエステルであるように、(L)が、(A)の酸素原子と(B)中に存在するカルボニル部分もしくはチオカルボニル部分とを連結する化学結合を表す化合物が含まれる。例えば、カルボジイミド化学を使用することによって、アミノ基(A)とカルボキシル基(B)を結合し、A−L−B(式中、Lはアミド結合である。)またはN−Rと連結したR−C=O(式中、Rは、同じまたは異なる2個のタンパク質分子のアミノ酸側鎖に由来する炭素鎖である。)を得ることができる。
【0125】
しかし、最も一般的には上記のように、リンカーは、スペーサー成分によって結合された2個以上の反応性部分を含む。スペーサーの存在によって、二官能性リンカーが、(A)および(B)中の特異的官能基と反応できるようになり、結果としてこれらの2個の化合物間に共有結合がもたらされる。リンカー(L)の反応性部分は、同じであっても(ホモ二官能性リンカー)、または異なっても(ヘテロ二官能性リンカー、または数個の異なる反応性部分が存在するヘテロ多官能性リンカー)よく、(A)と(B)の間に共有結合をもたらすことができる様々の潜在的試薬が提供される。
【0126】
典型的には、スペーサー成分は、1〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜10原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、または−(CHCHO)CHCH−(式中、nは1〜4である)によって、(A)と(B)を効率的に分離する鎖からなる。
【0127】
結合剤によって導入された外因性物質の性質は、究極のワクチン生成物の薬物動態および/または活性と関連しかねない。従って、生分解性であり、または化学的に感受性なスペーサーアーム、あるいは酵素切断部位を組み込むスペーサーアームを含む、切断可能リンカーを導入するのが望ましいことも有りうる。
【0128】
これらの切断可能リンカー、例えばPCT公開WO92/17436(これにより参照により組み込む)に記載されているようなリンカーはインビボで容易に生物分解される。ある場合には、結合基はエステル分解酵素の存在下で切断されるが、そのような酵素の非存在下では安定している。従って、(A)および(B)は、疾患部位近傍で活性な酵素によって徐々に放出されるように有利に連結する。
【0129】
リンカーは、式Iの生分解性ジエステル、ジアミド、またはジカルバミン酸基と結合基を形成しうる。
【0130】
−−(Z−(Y−(Z−(R11)−(Z−(Y−(Z
[式中、Z、Z、Z、およびZのそれぞれは、独立してO、S、およびNR12(式中、R12は水素またはアルキル基である)から選択され、YおよびYのそれぞれは、独立してカルボニル、チオカルボニル、スルホニル、ホスホリル、または類似の酸形成基から選択され、o、p、s、t、u、およびvは、それぞれ独立して0または1であり、およびR11は、1〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜10原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、qは1〜4である)、または−(Z−(Y−(Z−と−(Z−(Y−(Z−を連結する化学結合である]。
【0131】
本発明で使用する例示的な望ましいリンカー(L)は、式II〜IIIのいずれかによって記載され得る。
【化4】

【0132】
[式中、リンカーは、両(A)の酸素原子と(B)の酸素原子に共有結合する。]従って、式II〜IIIのリンカー(L)は、ジピラン(dipyran)、エステル、またはカルバミン酸結合基を介して、担体タンパク質(A)および(B)に結合する。これらの実施形態では、R13は、1〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜10原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、nは1〜4、または2個の窒素または2個のカルボニルを連結する化学結合を表す)である。
【0133】
ヒドラゾン連鎖を形成するように設計されたリンカーは、化学式IVで示される。
【化5】

【0134】
[式中、ZはO、S、またはNR16から選択され、R16は水素またはアルキル基であり、R15は水素、アルキル、またはヘテロアルキルから選択され、Yはカルボニル、チオカルボニル、スルホニル、ホスホリル、または(A)の酸素原子と共有結合している類似の酸形成基から選択され、wは0または1であり、R14は、1〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜10原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜10炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、nは1〜4である)もしくは−(Y)−(Z−と
【化6】

【0135】
を連結する化学結合であり、かつXは、ヒドラジド基を含む(B)とリンカーII前駆体との縮合反応から得られたヒドラゾン(その際、Xはケトン基もしくはアルデヒド基の酸素原子である)である]。
【0136】
担体タンパク質
一般に、生理学的条件下で抗原によって捕捉できる任意の担体タンパク質を本発明で使用してよい。望ましくは、抗原は、抗原と担体タンパク質間にさほど共有結合が存在しない状況で、担体タンパク質によって複合体中に捕捉される。さほど共有結合が存在しないとは、その抗原の50%以下が、担体タンパク質と共有結合していることをさす。望ましい実施形態では、その抗原の40%以下、30%以下、10%以下、または5%以下が、担体タンパク質と共有結合している。抗原/担体タンパク質複合体は、ミョウバンなど、別の化合物を含んでよく、望ましい実施形態では、この別の化合物は、抗原および担体タンパク質を捕捉することができる。
【0137】
望ましくは、本発明のワクチンに使用される担体タンパク質は、単独で、または抗原と組み合わさって、被験体で免疫応答を引き出すタンパク質である。望ましくは、担体タンパク質は、T細胞によって認識される少なくとも一個のエピトープを含む。望ましくは、そのエピトープは、被験体でT細胞応答を誘発することができ、B細胞を誘発して目的の抗原全体に対する抗体を産生する。本発明の説明に使用されるエピトープには、抗体分子もしくはそのフラグメントとの特異的な相互作用を担う抗原上のあらゆる決定基が含まれる。エピトープの決定基は、通常、分子の化学的に活性な表面群、例えば、アミノ酸または糖側鎖からなり、特定の電荷特性と同様に、特定の三次元構造特性を有する。免疫原性特性を有するために、一般的に、タンパク質またはポリペプチドはT細胞を刺激することができる。しかし、T細胞によって認識されるエピトープを欠く担体タンパク質もまた、免疫原性であり得る。
【0138】
強力な免疫原性応答を誘発することが知られている担体タンパク質を選択することによって、本明細書に記載したPCMVで、多様な被験体集団を処置することができる。担体タンパク質は、本ワクチンに対して強力な免疫応答を誘発するように、十分に外来性であるのが望ましい。典型的には、使用される担体タンパク質は、目的の抗原に対して免疫原性を付与できる分子である。望ましい実施形態では、担体タンパク質は、本質的に免疫原性が高いものである。従って、免疫原性が高く、それと複合体を形成した抗原に対して、抗体産生を最大にできる担体タンパク質が望ましい。
【0139】
本発明の様々な担体タンパク質には、例えば、変異体であっても、またはそうでなくてもよい(化学的または遺伝子的)毒素およびトキソイド、例えば、炭疽毒素、PAおよびDNI(PharmAthene, Inc.)、ジフテリアトキソイド(Massachusetts State Biological Labs;Serum Institute of India, Ltd.)もしくはCRM197、破傷風毒素、破傷風トキソイド(Massachusetts State Biological Labs;Serum Institute of India, Ltd.)、破傷風毒素フラグメントZ、緑膿菌外毒素Aもしくは外毒素A変異体、細菌性フラゲリン、ニューモリシン、髄膜炎菌の外膜タンパク質[ATCC(米国培養細胞系統保存機関、バージニア州Manassas)より入手できる株]、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素、ヒトLTBタンパク質、細菌細胞全体からのタンパク質抽出物、およびリンカーにより架橋できる別の任意のタンパク質が含まれる。担体タンパク質は、コレラ毒素Bサブユニット(SBL Vaccin ABより入手可能)、ジフテリア毒素(Connaught, Inc.)、破傷風毒素フラグメントC(Sigma Aldrichより入手可能)、DNI、または大腸菌由来β−ガラクトシダーゼ(Sigma Aldrichより入手可能)が望ましい。他の望ましい担体タンパク質には、ウシ血清アルブミン(BSA)、P40、およびニワトリリボフラビンが含まれる。(別段の指示が無い限り、例示的な担体タンパク質はSigma Aldrichより購入することができる)。他の例示的な担体タンパク質は、分枝ペプチドであるMAP(多抗原ペプチド)である。MAPの使用によって、架橋密度は、複数の分枝アミノ酸残基のために最大になる。限定しないが、MAPを形成するために使用できる例示的なアミノ酸はリジンである。
【0140】
BSAとキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)は、動物実験の際に、ワクチン開発で一般に担体として使用されてきた。治療用ワクチンの調製で使用されてきた担体タンパク質には、それだけには限らないが、いくつかの病原性細菌の毒素およびそれらのトキソイドが含まれる。例としては、ジフテリアや破傷風毒素、およびそれらの医学的に許容される対応するトキソイドが含まれる。他の候補は、交差反応性物質(CRM)と称する、細菌性毒素に抗原的に類似するタンパク質である。本発明の担体タンパク質には、ヒトに由来せず、かついかなるヒト食物物質にも存在しない、あらゆるタンパク質を含めてもよい。
【0141】
本発明の望ましい実施形態では、PCMVの生成に、環様構造を形成するタンパク質を使用する。そのようなタンパク質には、緑膿菌のHcp1タンパク質、コレラ毒素の無害な「Bサブユニット」、大腸菌の熱に不安定なエンテロトキシン、および志賀様毒素が含まれる。そのような環様タンパク質複合体は、直鎖PS鎖が、これらの環形タンパク質複合体の中心通路を貫通する「糸に通したビーズ」を形成することができる。タンパク質の架橋後、そのような複合体は、特に安定すると予想される。タンパク質の構造データは、これらの中心通路が十分広く、PS鎖がたやすく進入できることを示唆している。例えば、Hcp1六量体環の中心通路は、十分な広く、数個の幅5.5オングストロームの多糖鎖を容易に収容できる42オングストローム(Angstoms)である(Mougousら, Science 312(5779):1526−1530, 2006)。あるいは、(例えば、特定の物理化学的条件下で、自然に環を組み立てる単量体担体タンパク質のサブユニットから)PS周囲にタンパク質環を組み立ててもよい。環を組み立てることができるそのような単量体タンパク質は、当技術分野で公知であり、例えば、ニューモリシン(Walkerら, Infect. Immun. 55(5):1184−1189, 1987;Kanclerski and Mollby, J. Clin. Microbiol. 25(2):222−225, 1987)、リステリオリシンO(Kayal and Charbit, FEMS Microbiol. Rev. 30:514−529, 2006;Mengaudら, Infect. Immun. 55(12):3225−3227, 1987)、DNI、炭疽PA、Hcp1、コレラ毒素Bサブユニット、志賀毒素Bサブユニット、フラゲリンが含まれ、多数の関連分子が当技術分野で公知であり、様々な微生物から製造されている。
【0142】
別の望ましい実施形態では、担体タンパク質としてToll様受容体(TLR)アゴニストが使用される。Toll様受容体(TLR)の活性化は、適応免疫応答を形作るのに重要であり、抗体応答、アイソタイプスイッチ、および免疫学的記憶の親和性成熟において一役割を担い得る。コレラ菌のフラゲリン(FLA)は、TLRアゴニストである。20mgを超えるFLAタンパク質が、組換え大腸菌から精製され、本明細書に記載したIL−6マクロファージ誘発アッセイで強力なTLRアクチベーターであることが示されている。さらに、「ニューモリシン」と称する首尾よく保存された肺炎連鎖球菌タンパク質が、TLR4を活性化することも示されており、加えて防御抗原でもある。従って、このタンパク質もPCMV担体タンパク質として使用することができる。
【0143】
さらに、Merck社製HIB抱合型ワクチンに、担体タンパク質として外膜タンパク質(OMP)混合物(例えば髄膜炎菌のOMP)が使用され、全連鎖球菌性肺炎細菌細胞からのタンパク質抽出物は、動物感染モデルにおいて少なくとも部分的に防御的であることが示されている。本発明の望ましい実施形態では、これらのタンパク質混合物が、PCMV担体タンパク質源である。
【0144】
望ましい実施形態では、例えば、少なくとも2個のリジン残基、または阻害されておらず、化学的修飾によって架橋することができる別の残基を有する担体タンパク質を用いて、PCMV法を使用する。別の望ましい実施形態では、担体タンパク質は多量体である(例えば、少なくとも5個のサブユニットを含むもの)。望ましくは、多量体はホモ多量体である。
【0145】
別の実施形態では、DNIを担体タンパク質として使用する。DNIは無害であり、使用前にタンパク質を解毒する必要性を残さないからである。さらに、DNIは、目的の抗原に対する防御免疫応答に加えて、炭疽菌に対しても防御免疫応答を誘発しうるので、DNIの使用が望ましい。また、DNIも内部ジスルフィド結合を持たない。タンパク質を変性させ、結果的に、炭疽毒素中和化抗体を誘発するエピトープを消失させる恐れがある水素化ホウ素還元に対して、そのような結合は感受性が高い。
【0146】
目的の抗原
本発明のワクチン組成物、ならびにそのようなワクチンの製造方法および投与方法は、任意の目的の抗原、例えば多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸に使用することができる。望ましくは、目的の抗原は、水素化ホウ素還元により抗原のジスルフィド結合が破壊されることによって生じる抗原変性など、ワクチン製造法に使用される化学反応によって破壊されうる一級基を持たない。例示的な目的の抗原には、有機ポリマー、例えば、多糖(例えば、少なくとも18残基を有する多糖)、ホスホ多糖;アミノ糖がNアセチル置換されている多糖;スルファニル化糖、別の硫酸修飾糖、またはリン酸修飾糖を含む多糖;ポリアルコール、ポリアミノ酸、タイコ酸、リポ多糖のO側鎖が含まれる。例示的な目的の抗原にはまた、標準的方法を使用し、微生物、例えば、細菌、菌類、寄生虫、およびウイルスにより合成され、次いでそのような生物源から精製されたものを含む莢膜有機ポリマーも含まれる。例示的な目的の抗原には、細菌性生物、例えば、(炭疽菌を含む)桿菌種(Wang and Lucas, Infect. Immun. 72(9):5460−5463, 2004)、肺炎連鎖球菌(Bentleyら, PLoS Genet. 2(3):e31, Epub 2006;Kolkmanら, J. Biochemistry 123:937−945, 1998;およびKongら, J. Med. Micorbiol. 54:351−356, 2005)、赤痢菌(Zhaoら, Carbohydr. Res. 342(9):1275−1279, Epub 2007)、インフルエンザ菌、髄膜炎菌、黄色ブドウ球菌、チフス菌、化膿レンサ球菌、大腸菌(Zhaoら, Carbohydr. Res. 342(9):1275−1279, Epub 2007)、および緑膿菌、ならびに菌類生物、例えば、クリプトコックスおよびカンジダ、同様に他の多くの微生物(例えばOvodov, Biochemistry (Mosc.) 71(9):937−954, 2006;Leeら, Adv. Exp. Med. Biol. 491:453−471, 2001;およびLee, Mol. Immunol. 24(10):1005−1019, 1987を参照)から精製されたものを含む微生物の莢膜有機ポリマーが含まれる。例示的な目的の抗原には、自然に存在せず、従って非生物学的起源のポリマーも含まれる。
【0147】
ワクチン組成物
PCMVを含む本発明のワクチン、例えば小児用ワクチンに組み合わせて使用してよい。さらに、本発明のワクチンは、例えば、肺炎球菌感染、インフルエンザ菌B型(「HiB」)感染、連鎖球菌(A群およびB群)感染、髄膜炎菌(例えばネイッセリアメニンギチデス(Neisseria meningitides))感染に対するワクチン接種に使用してよく、かつグラム陰性菌(例えば、緑膿菌、野兎病菌、赤痢菌種、サルモネラ種、アシネトバクター種、ブルクホルデリア種、および大腸菌)由来のO抗原ワクチンとして使用してよい。
【0148】
望ましくは、ワクチン製剤は、少なくとも一種の担体タンパク質、一種もしくは複数の目的の抗原、および製薬上許容される担体もしくは賦形剤(例えば、リン酸アルミニウム、塩化ナトリウム、および滅菌水)を含む。ワクチン組成物には、製剤の免疫原性を高めるためのアジュバント系、例えば、当技術分野で公知の水中油系および他の系、または他の製薬上許容される賦形剤を含めてもよい。生理学的条件下で不溶性である担体/抗原複合体は、被験体に投与後、抗原を徐々に放出するのが望ましい。そのような複合体は、製薬上許容される賦形剤を含む懸濁液で送達するのが望ましい。しかし、担体/抗原複合体は、生理学的条件下で可溶性であってもよい。
【0149】
典型的には、ワクチンは、皮下注射には約0.5mL、皮内注射には0.1mL、または経皮的投与には0.002〜0.02mLの容量である。0.5ml用量のワクチンには、約2〜500μgの担体タンパク質によって捕捉された約2〜500μgの抗原を含むことができる。望ましい実施形態では、0.5ml用量中、約10μgの抗原が約10μgの担体タンパク質によって捕捉される。抗原:担体タンパク質のモル比は、1:10(例えば、1部の抗原:2部の担体または1部の抗原:3部の担体)〜10:1(例えば、3部の抗原:1部の担体または2部の抗原:1部の担体)が望ましい。望ましい実施形態では、抗原:担体のモル比は1:1である。あるいは、抗原:担体タンパク質の乾物重量比は、1:10〜10:1(乾物重量で1:1など)が望ましい。
【0150】
ペプチドまたは抱合体は、おそらく胃内で分解されるので、ワクチンは、(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、または皮内注射により)非経口投与するのが望ましい。物理的に真皮層を通り抜ける手段(例えば針、空気銃、または擦過)による送達が望ましいが、本発明のワクチンは、経皮吸収により投与することもできる。
【0151】
特に、本発明のワクチンは、例えば、好適な免疫アジュバントを用いて、筋肉内注射、皮内注射、または経皮的免疫化により被験体に投与してもよい。本発明のワクチンは、1回または数回に分けて投与してもよく、感染病原体の感染を防止するために、被験体で抗体の産生をブーストするように設計した2回目の投与を含むことが多い。ワクチン投薬の頻度および量は、そのワクチンの比活性に依存し、常法の実験によって容易に定量することができる。
【0152】
例えば、小児には、ワクチンスケジュールは、(2ヵ月齢で開始して)約4〜8週間空けてそれぞれ0.5mlを3回投与し、続いて約12〜15ヵ月齢で4回目の0.5mlを投与してよい。数種のワクチンでは、5回目の投与は4〜6歳の間が望ましいであろう。
【0153】
一般的に、1回目の投薬がなされる年齢は2ヵ月であるが、6週齡ほどの幼い小児にワクチンを投与してもよい。定型の小児ワクチン接種スケジュールの年齢を超えている児童には、以下の例示的なスケジュールに従って、本発明のワクチンを投与してもよい。
【0154】

【0155】
成人には、長期的保護に、一般的に2〜8週の間を空けて0.5ml用量を2回以上投与すれば十分である。既に免疫化した成人および11歳を超える小児には、10年ごとに、ブースター用量を投与するのが望ましい。
【0156】
製剤は、1回用量または多数回用量容器で、例えば、密封アンプルおよびバイアルで提供してよく、使用直前に滅菌液体担体を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵してよい。本発明のワクチンは、薬理学的に許容されるビヒクル、例えば、ミョウバン水酸化ゲル、アジュバント調製物、または生理食塩水で製剤化し、次いで例えば好適な免疫アジュバントを用いて筋肉内注射、皮内注射、または経皮的免疫化により投与することができる。
【0157】
本発明には、本明細書に記載したワクチン(例えばPCMV)を含むキットも含まれる。本発明のキットには、本明細書に記載したワクチン接種方法のキットを使用するための使用説明書を含めてよい。
【0158】
免疫化スケジュールの効力は、被験体で抗体力価を測定する標準的方法の使用によって定量しうる。一般に、約1μg/mlという平均抗体力価(望ましくはIgG力価)は、長期的保護を示していると考えられる。
【0159】
本明細書に記載したワクチン組成物で使用するための抗原/担体タンパク質複合体は、直径が10nm〜100μmであることが望ましい。ウイルスは、直径が100nmであろうし免疫原性である。細菌全体の直径は1〜10μmであり、同様に免疫原性である。細菌凝集塊の直径は約100μmであろう。特定の実施形態では、ワクチン組成物中の抗原/担体タンパク質複合体の直径は100nm〜10μmが望ましい。この複合体は、溶解性であっても、または不溶性であってもよい。
【0160】
本明細書以下に、具体的実施例、実施形態、および図を参照しながら本発明について記載するが、その目的は、本発明の範囲を限定するためではなく、本発明を説明することである。以下の実施例は限定するものとは解釈されない。
【0161】
(実施例)
【実施例1】
【0162】
ワクチンおよび対照調製物
莢膜のポリγ−D−グルタミン酸(PGA)をVedan社(台湾)から購入し、またはRhieら,(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:10925−10930, 2003)の方法によって精製した。ドミナントネガティブ変異体(DNI)は、炭疽菌の防御抗原(PA)の変異形であり、Benson,ら,(Biochemistry 37:3941−3948, 1998)の方法により大腸菌から生成した。PGAおよびDNIタンパク質は、使用前に、0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)(SP7.4)に対して徹底的に透析した。DNI原液濃度は30mg/mlであった。PGA原液濃度は134mg/mlであった。25%原液として、リンカーグルタルアルデヒドをPierce社から購入した。表1に従って、反応によりタンパク質莢膜のマトリックスワクチン(PCMV)および対照を組み立てた。
【0163】
【表1】

【0164】
グルタルアルデヒド不含の5個の反応を室温で(22℃)で組み立てた。T=0で、0.1mlの25%グルタルアルデヒド(G25)を表示する反応に加えた。それから各々30秒後に、さらに0.1mlのG25を加え、それぞれ示した反応に合計で0.8mlのG25が加えられるまで、これを繰り返した。二官能性グルタルアルデヒド分子によるDNI分子の架橋は、様々な程度の濁度と、以下の順序での不溶性「ゲル」様粒子の発生により巨視的に観察することができた。ほとんどの濁度およびゲル形成は反応1>2>3>4であり、反応5は全体として透明かつ可溶性のままであった。1時間後、1M水素化ホウ素ナトリウムを含む0.5Mホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.3)(SBH)2mlを全6反応に加えて、DNI分子のアミノ側鎖と二官能性グルタルアルデヒド分子との間に形成されたシッフ塩基を還元した。シリコーン抗起泡剤(0.01ml)を各反応に加えて、この反応中の起泡を制御した。反応物を4℃で72時間貯蔵した。次いで、全ての反応をSP7.4に対して48時間徹底的に透析した。最終生成物を遠心分離することによって不溶性物質を除去し、使用時まで4℃で貯蔵した。
【0165】
以下のように、水溶性カルボジイミド、EDAC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)を使用し、BSAのアミノ基と、PGAのカルボキシル基とを結合することによって、ウシ血清アルブミン(BSA)とPGA間の従来の抱合体を合成した。30mg/ml BSA水溶液5mlを1mlの134mg/ml PGA含有NP7.5と混合した。50mgのEDACを加え、反応を室温で3時間放置進行させた。活性化された基をブロックするために、1mMグリシンを含むSP7.4に対して、反応物を4℃で18時間透析し、次いでSP7.4のみに対して4℃で24時間透析した。最終生成物をPGA−BSA抱合体と呼ぶ。
【0166】
PCMVおよび対照調製物の合成および透析後、DNIタンパク質の分子状態を検査して、グルタルアルデヒドが、様々な量のPGAの存在または非存在下で、実際分子的にタンパク質を架橋したかを確認した。そのような架橋について、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)ポリアクリアミド(polyacryamide)ゲル電気泳動および抗PA抗血清によるウェスタンブロッティングにより、PCMVおよび対照調製物をモニターした。図2に示すように、DNIタンパク質は、グルタルアルデヒドで架橋する前は84kDaで泳動する。PCVM1〜PCMV3(レーン1〜3)は、220kDaより大きい分子量のバンドの泳動によって実証された通り、DNIタンパク質の広範な架橋を示している。PGAの非存在下で架橋されたDNIタンパク質単独も、同じ高分子量種(レーン5)を示している。それに反して、PGAと混合したがグルタルアルデヒドで処理していないDNIは、DNIまたは低分子量種(レーン4)と共泳動するバンドを示している。従って、Vedan(台湾)社製PGA調製物は、DNIに対して活性なプロテアーゼが混入しているように見えた。Vedan社のPGA試料は、レーン6で泳動したが、高抗PA抗血清と反応する混入タンパク質が高レベルではないことを示し、観察されたバンドが様々な反応のDNI由来生成物であることを示唆した。
【0167】
さらに、PGAと、抗原として肺炎球菌PSの一種または複数を使用して、FLA(コレラ菌のフラゲリン)が、PCMVと関連してDNIよりも優れた担体タンパク質であるかどうかを調査した。PGAに対するIgGのレベル、これらの様々なPCMVによる免疫化によって得られたPS、およびタンパク質基準の重量でのそれらの作用強度を測定することによって、担体タンパク質の効果を評価する。
【0168】
二官能基架橋剤を使用せずに、アミノ基とカルボキシ基を直接架橋する手順によっても、PCMV作製することができる。特に、PCMVは、カルボジイミド化学を使用し、担体タンパク質の、アミノ基とカルボキシル基を架橋することによって作製できる。この化学により、リジン側鎖の一級アミノ基と、アスパラギン酸およびグルタミン酸側鎖のカルボキシル基との間にペプチド結合が形成される。アミノ基は、ホルマリン処理トキソイドで大部分ブロックされるが、ホルマリンは、カルボキシル基とは一切反応しない。従って、PCMVの製造に、グルタルアルデヒド架橋に抵抗するホルマリントキソイドを使用し、カルボジイミド化学を使用することができる。架橋は、SDS−PAGEによって容易に検出される。グルタルアルデヒドなどの架橋剤の添加に依存する、高分子量タンパク質の「スメア」の存在は、架橋を示すものである。
【表2】

【0169】
表2に示す実験では、50mM HEPES(pH7.5)で200μlの反応を行い、周囲温度で2時間インキュベートした。反応を120mM水素化ホウ素ナトリウムで急冷した。グルタルアルデヒドを加えて64mMにし、ウシ血清アルブミン(BSA)を15mg/mlで使用し、ジフテリア毒素、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドを約5mg/mlで使用し、PGAを13.4mg/mlで加え、ニューモ(pneumo)PS6B型および23F型を4mg/mlで加えた。
【0170】
表2に示す通り、いくつかのホルマリン処理タンパク質(例えばジフテリアトキソイド)は、グルタルアルデヒドとはあまり架橋せず、従ってPCMVの調製に使用するためには他の架橋化学が必要となる。破傷風トキソイドなど、他のものはグルタルアルデヒドで架橋することができるが、ジフテリア毒素およびウシ血清アルブミンなどの未修飾タンパク質と同程度ではない。
【実施例2】
【0171】
免疫化、ならびに抗DNIおよび抗PGA免疫応答の分析
表1に記載した5反応の可溶性生成物は、それらの280nmでの吸光度に基づき、同じタンパク質濃度になるように調整した。図2に記載した全ての免疫化研究では、Charles River社の約5〜7週齢のBALB/cマウスを使用した。0日目に腹腔内注射により、DNIタンパク質20μgの用量で、PCMVワクチン1〜3および抗原調製物対照4および5によりマウスを免疫化した。全てのマウスを7日目に採血し、次いで10日目に同じサイズ用量の抗原調製物でブーストした。17日目に再度マウスを採血し、次いで20日目に再度ブーストした。30日目に再度マウスを採血し、その日にマウスを屠殺した。凝固発生後、血液試料から血清を採取し−20℃で貯蔵した。抗PGAおよび抗DNI血清抗体のレベルについてアッセイするのに、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用した。手短に言えば、100μl/ウェル容量のImmulon 2HB ELISA(VWR)マイクロタイター皿を、0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)に含まれたBSA−PGAまたはDNI 0.5μg/ウェルで被膜した。4℃で終夜インキュベーション後、3%BSA(w/v)を含むTBS−0.1% Tween(TBST)で、室温で1時間または終夜4℃でインキュベーションすることによって、抗原被膜プレートをブロックした。ブースト後の各時点から、4頭のマウス群よりプールした血清試料をTBSTで連続希釈し、抗原被膜プレートに添加し、少なくとも1時間インキュベートした。ウサギ抗血清を使用し、アルカリホスファターゼ(Zymed)と抱合したマウスIgGまたはIgMに対する、抗DNIおよび抗PGA抗体応答を測定した。基質のp−ニトロフェニルリン酸(PNPP)を各ウェルに加え、分光光度計で各反応の405nmでの吸光度を測定した。負の対照の吸光度を上回る2点の標準偏差値であるOD405読取り値を得るための最大希釈率として定義される逆数端点力価としてデータを報告する。
【0172】
ELISAアッセイを使用して、3種のPCMV調製物1〜3および2種の抗原対照調製物4および5(図3〜5)により免疫化したマウスでの、IgMおよびIgG特異的抗DNIおよび抗PGA免疫応答を測定した。図3に示すように、グルタルアルデヒドで架橋しなかった(グルタルアルデヒド不含)対照調製物4を除く全ての調製物において、DNIタンパク質の免疫原性は高かった。しかし、これらのDNI特異的免疫応答は、排他的にIgGに基づいた。免疫化7日目でさえも抗DNI IgMは検出されなかったが、17日目までにPCMV調製物で免疫化したマウス、および架橋DNIのみ(調製物5)で免疫化したマウスで、顕著な抗DNI IgG応答を検出することができた。30日目に調製物4を含む全ての調製物で、DNIに対する強力なブースター応答が認められた。
【0173】
抗PGA IgM応答は、莢膜ポリマーに典型的なパターンを示した(図4)。対照調製物4では、7日目に検出可能な抗PGA IgM応答が生じたが、この応答は17日目または30日目にブーストされなかった。全てのPCMV調製物で、7日目に抗PGA IgM応答が誘発され、次いで17日目および30日目にさらに強力な抗PGA IgM応答が排他的に生じた。予想通り、対照調製物5(架橋DNIのみ)では、IgMまたはIgGベースの抗PGA応答のいずれも発生しなかった。極めて対照的に、PCMV1〜3(調製物1〜3)では、IgGベースの強力な抗PGA応答が発生したが、この応答は17日目に明瞭になり、次いで30日目に明らかにブーストされた(図5)。PCMV1〜3に見られたIgGベースの抗PGA応答は、Aulingerら,(Infect. Immun. 73:3408−3414, 2005)が報告した従来のPGA−DNI抱合型ワクチンで観察されたPGAに対して、およびRhieら,(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:10925−10930, 2003)が記載したPA−PGA抱合型ワクチンに対して報告されている応答に明瞭に類似した。従って、公知の炭疽菌のT非依存性防御抗原である莢膜PGAに対するIgG応答を誘発することによって、従来の抱合体PGAワクチンと同様に、PCMVワクチン#1、#2および#3は全て作働した(Wangら, Infect. Immun. 72:5460−5463, 2004)。PGAと混合してDNI(非架橋)を含む対照調製物5は、PGAに対して検出可能なIgGを誘発せず、DNIは、PCMV調製物1〜3ではIgG抗PGA応答を刺激する際にTLRリガンドとして作用しないことが示唆された。この結果はまた、PGAは、共有結合を通じてタンパク質に結合しなければ、低免疫原性のT細胞非依存性免疫原である、という文献中の観察を確認するものである(Rhieら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:10925−10930, 2003)。PCMV法では、直接PGA分子とDNIタンパク質とは架橋されないという事実にもかかわらず、PCMV法は、明らかにPGAをT細胞依存性免疫原に転換する。
【0174】
これらのデータは、PCMV法が、従来の抱合型ワクチンに類似する特性を備えた免疫原を産生できることを支持するものである。PGA PCMVは、本明細書記載の方法を使用して容易に作製され、PGA−タンパク質抱合型ワクチンに典型的な免疫応答を誘発することが判明した。図3に概略する投薬スキームに基づき1000匹のマウスを免疫化するのに十分なPCMVが、表1に詳述した小規模反応によって生成された。本発明のデータは、炭疽菌によって生じた炭疽に対して防御するために、PGAとDNIから作製されたPCMVをワクチンとして使用できることを支持するものである。
【実施例3】
【0175】
追加のPCMVの生成および特徴付け
様々な構造およびイオン電荷莢膜抗原に対して、PCMV技術を適用することができる。肺炎連鎖球菌PS型のうち23種の型を米国菌培養収集所(ATCC)から購入し、そしてMerck社により製造する。これらのPSは、その分子構造が大きく異なり、電荷が強くアニオン性、部分的にカチオン性、中性である構造、リン酸化されている構造、直鎖である構造、枝分れ構造、および様々な他の方式で修飾されたPS分子構造を含む。予備実験では、マウスマクロファージによりIL−6産生が誘発される能力について、Wyeth社製Prevnarの7個の莢膜型(4、6B、9V、14、18C、19F、および23F)に対応して、これらのPSサブセットをアッセイした。4型PSは、このアッセイで活性であり、リポ多糖(LPS)はTLRアゴニストの対照であった。PGA−DNIおよび非架橋対照から作製したPCMVワクチンと同様に、他のPS(例えば3型)、PGA、および野兎病O抗原PSもアッセイした。この実験によって、3型肺炎球菌PS、およびそれより少ない程度でPGAで、TLRアゴニストが混入していることも示された。野兎病由来PSおよびPCMVは、アッセイで比較的に汚染が少なかった。フェノール抽出およびエタノール沈殿による2回の連続的処理の後、肺炎連鎖球菌PS3型を「純粋化(clean up)」(未知の残留TLRアゴニストを除去)することができた。従って、6種の肺炎連鎖球菌PSおよび野兎病O抗原PSは、IL6産生を純粋化することが判明しており、これらは本明細書に記載した実験で調査されている。
【0176】
IL6産生のために純粋化することが判明している7種のPSに向けたPCMVが、実施例1に記載した方法と類似の方法により、担体タンパク質としてDNIを使用し合成された。予備的免疫原性アッセイでは、全7種のPCMVが様々な程度で免疫原性であることが示唆されている。肺炎連鎖球菌PS14に対する、DNIベースの「1価」PCMV(14−PCMV)は、3回目の免疫化後著しくブーストされた抗PPS14 IgGの高力価を誘発することが判明した。注目すべきことに、14−PCMVとその他の6PCMVと混合して「カクテル」免疫原を作製したとき同じ免疫応答が見られた。Prevnar(登録商標)は、ミョウバンに吸収させた「アジュバント型」ワクチンなので、ミョウバンアジュバントに六価PCMVカクテルを吸収させることができるかどうかを判定した。PCMVに、またはDNIタンパク質と混合したが、グルタルアルデヒドで架橋していない同じPSの対照混合物に曝露後、ミョウバンに吸収された肺炎連鎖球菌PSの量を定性的に計測する免疫アッセイの結果では、対照(非架橋PS+DNIタンパク質)よりもPCMVに関連して、より多くのPSがミョウバン吸収されたことが示された(このイムノアッセイでPCMVを希釈するほど、免疫活性レベルが高いことによって示された通りである)。
【0177】
マウスの免疫化を使用して、ミョウバンアジュバントへの吸収の有り無しで七価PCMVの免疫原性を評価した。ミョウバンアジュバントは、PS14に対する免疫応答の動態論を改善し、このPSに対するIgGの誘発を非アジュバント型ワクチンよりも7日早めた。しかし、ミョウバンの存在下での対照の非架橋型PS+DNI組合せよりも、ミョウバンの非存在下での七価PCMVの方が免疫原性が高かった。この結果は、PCMV手順が、マウスに対するPSの免疫原性をより高めることを確認するものであり、PCMV手順が、抱合型ワクチンカクテルのように免疫学的に作働する抗原カクテルを作製するために使用できることを支持するものである。
【0178】
追加の実験では、フェノール抽出およびエタノール沈殿を使用して、23種の肺炎球菌多糖市販調製物から、混入するTLRアゴニストを除去する。混入物質の除去は、標準的方法により、腹腔マクロファージによるIL−6の誘発について、処理したPSを試験することによって確認する。PCMVの生成に、IL−6誘発活性を欠くPSを使用する。PCMVに使用した他の多糖には、野兎病から精製したO抗原PS、および炭疽菌由来のPGA莢膜が含まれる。合計25個の莢膜型を検査する(肺炎球菌型23個、および野兎病型および炭疽病型を各1個)。基本的に実施例1に記載した方法により、25個の莢膜型のそれぞれを使用して、DNIタンパク質を使用するPCMVを作製する。これらの初期PCMV調製物には、PS:タンパク質を1:1の割合で使用する(乾物重量で約1:1)。SDS−PAGEにより、予備実験で様々なPCMV調製物の免疫原性と完全に相関したタンパク質の架橋の形跡について、各調製物を特徴付ける。数種の莢膜型(例えば、6Bおよび23F)については、別の担体タンパク質を使用してPCMVを作製する。これらの数種の莢膜型(例えば、6Bおよび23F)については、代替の架橋化学を使用することができる。(例えばSDS−PAGEで)タンパク質の架橋の形跡を示す全てのPCMV調製物をその免疫原性について試験する。
【0179】
例えば、以下のように、異なる5種のマトリックスタンパク質と異なる2種の抗原を使用し、異なる10種のPCMVを作製する。5種のマトリッックスタンパク質の選択は、FDAの認可を受けたワクチンでのそれらの現在の使用、またはPCMV調製物の安定性を測定するトレーサーとしてそれらが役立つようにするその他の特性に基づく。以下のマトリックスタンパク質を使用する(1)コレラ毒素Bサブユニット(SBL Vaccin ABより入手可能)、(2)ジフテリア毒素、(3)破傷風毒素フラグメントC、「Frag C」(Sigma Aldrichより入手可能)、(4)DNI、および(5)大腸菌由来β−ガラクトシダーゼ(Sigma Aldrichより入手可能)。莢膜抗原として、炭疽菌から得たポリ−D−グルタミン酸および肺炎連鎖球菌莢膜14型(Suarezら, Appl. Environ. Micobiol. 67:969−971, 2001)を使用する。対応するPCMVでマトリックスタンパク質としてDNIと共に使用したとき、これらの莢膜抗原のどちらも免疫原性が高い。各莢膜抗原と、5種の選択したマトリックスタンパク質のそれぞれを組み合わせて、10種の別個のPCMVを生成する。
【0180】
従来の抱合型ワクチンで観察されたように、マウスでアイソタイプ抗体がIgGにスイッチされるように誘発する能力について、PCMVを試験することができる。全ての抗原をミョウバンに吸収させることができ、次いで一PCMV調製物につき通常5頭のマウス群を使用する。マウスは、予め採血して、試験抗原に対する基線免疫応答を得る。次いで、標準的IP注射プロトコルにより、マウスを3回(0、7、14日目)免疫化し、一回目の免疫化から10、20、30、および60日後に血液を採取する。使用したPSおよび担体タンパク質に対するIgGについて、標準的ELISAアッセイによりマウス血清を分析する。これらの実験では、低または非免疫原性であろう非抱合型PSと比較して、抗PS IgGを誘発する様々なPCMV調製物の能力を評価するためにPSのみで免疫化したマウス対照群が含まれる。有望なPCMV(すなわちPSに対して高レベルのIgGを誘発するPCMV)について、より注意深い免疫学的分析を実施するが、その分析はマウスでのPCMVに対する免疫応答の動態論および用量応答態様を確立するために調査するものである。
【0181】
あるいは、有望なPCMVおよび対応するそれらの対照は、ウサギ抗血清を製造する販売業者に送付することができる。類似の免疫アッセイを実施して、ウサギで免疫原性、誘発された抗体クラス、および免疫応答動態論を評価する。これらの実験では、対照は市販品のPrevnar(登録商標)であり、これは、ジフテリア毒素に関して無害な変異体タンパク質であるCRM197に結合させた7種の異なる従来の抱合体PSワクチンの混合物をミョウバンに吸収させたものである。
【0182】
PCMVによって誘発された抗体応答の官能性を評価することができる。例えば、抗PS抗体が、莢膜を有する肺炎連鎖球菌をオプソニン化し、マクロファージによる貪食後、細菌を死滅させる能力を測定することによって、官能性を評価することができる。肺炎連鎖球菌による致死的攻撃から動物を保護することは、PCMV免疫化した動物でワクチンの効力を実証する別のやり方である。
【実施例4】
【0183】
PCMVとPrevnar(登録商標)の比較
Merck社を介してATCCから、または直接Serum Institute of India(SII)から得た肺炎連鎖球菌多糖(pps)6B、14、および23Fの相対的純粋度(cleanliness)を定量した。ppsの純粋度の指標としてIL−6の発現を使用し、正の「不純(dirty)」対照としてLPSを使用した。図9Aに示すように、Merck社のpps 6B、14、および23Fは純粋であるが、図9Bに示すように、SII社製pps 6Bは「不純」である。図10に示すように、処理2(1M NaOH中、80℃での1時間インキュベーション)により、SII pps 6Bは純粋になる。抱合体とPCMVの免疫学的特性の比較に、純粋pps 6Bを使用する。表3に示す通り、混入物質はLPSではなかった。
【表3】

【0184】
図11および13は、Prevnar(登録商標)[ミョウバンに賦活(adjuvated)されている]が、pps 6Bに対してIgG抗体を誘発すること、およびミョウバン賦活型PCMV(BSAとpps 6B;ジフテリア毒素とpps 6B;ジフテリアトキソイドとpps 6B;および破傷風トキソイドとpps 6B)由来IgG応答は、Prevnar(登録商標)で観察されたものよりも高いことを示している。同様に、図12に示されるように、ミョウバン賦活型PCMVに対するIgM応答は、Prevnar(登録商標)に見られるものと類似している。
【0185】
さらに、pps 14(Prevnar(登録商標)で最も免疫原性であったpps)に関して、図14〜16に示す通り、ジフテリアトキソイドとpps 14、または破傷風トキソイドとpps 14を含むミョウバン賦活型PCMVは、IgG応答の誘発においてPrevnar(登録商標)とほぼ等しい。
【実施例5】
【0186】
多価PCMV
DNI担体タンパク質をグルタルアルデヒドで架橋する前に、化学的に異なる莢膜有機ポリマーを一緒に混合することによるPCMV法(「ワンポット合成反応」)を使用し、多価免疫原を生成した。担体としてDNIを使用し、この種の三価免疫原を3種の有機ポリマー−PGA、アルギン酸、およびデキストラン−から作製した。これらの三価ワクチンは、免疫原性であり、3種の莢膜有機ポリマーに対して免疫応答を生じたが、免疫化前および30日後に分析したプールした血清のIgM(図6)、免疫化60日後の抗原特異的血清IgG抗体力価(図7)、および免疫化128日後の抗PS血清抗体力価(図8)によって示される通りである。同様に図6〜8に示すように、一価アルギン酸PCMV調製物は、マウスでも免疫応答を生じた。別々に合成した特異的PCMVを混合し、次いで最後に一緒に混合して「カクテル」ワクチンを生成することによって、多価PCMV免疫原を製剤化することもできる。
【0187】
参照により組み込むために、独立した各特許、特許出願、特許出願公開または刊行物を具体的にかつ別個に指摘するのと同程度に、本明細書において、引用または参照した全ての特許、特許出願、特許出願公開、および他の刊行物を参照により本明細書に組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の抗原と担体タンパク質を含むワクチン組成物であって、(i)目的の抗原の50%以下が該担体タンパク質と架橋し、かつ(ii)該抗原が該担体タンパク質に捕捉されて複合体を形成する、前記ワクチン組成物。
【請求項2】
前記複合体の直径が10nm〜100μmである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記複合体の直径が約100nm〜100μmである、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記複合体の直径が約100nm〜10μmである、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記複合体を哺乳動物に投与すると、該哺乳動物でT細胞依存性免疫応答が誘発される、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記抗原:前記担体タンパク質のモル比が、1:10〜10:1である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記担体タンパク質が多量体である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記多量体が、少なくとも5個のサブユニットを含む、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
前記多量体がホモ多量体である、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
前記担体タンパク質が、少なくとも1個の別の担体タンパク質と共有結合している、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
前記共有結合が、リジン側鎖の一級アミノ基と、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸側鎖のカルボキシ基との間のペプチド結合を含む、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記共有結合が、式
【化1】

[式中、Rは、1〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜12原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、qは1〜4である)、または2個のアルデヒド基を結合する化学結合である。]の化合物を含む、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
前記共有結合が、グルタルアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、またはビス−ビアゾ化ベンジジンを含む、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
前記共有結合が、二官能基架橋剤を含む、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項15】
前記二官能基架橋剤が、グルタルアルデヒド、ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、またはアジプイミド酸ジメチルである、請求項14に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記担体タンパク質が非共有結合している、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
前記非共有結合が、疎水性相互作用、イオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、または水素結合を含む、請求項16に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記担体タンパク質が、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン、ニューモリシン、髄膜炎菌の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素、ヒトLTBタンパク質、ニューモリシン、リステリオリシンO(または関連タンパク質)、細菌細胞全体からのタンパク質抽出物、炭疽菌防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
前記細菌細胞全体が、緑膿菌または連鎖球菌細胞である、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項20】
前記細菌性フラゲリンが、コレラ菌フラゲリンタンパク質である、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項21】
前記志賀様毒素が、赤痢菌SltB2タンパク質である、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項22】
前記担体タンパク質がニューモリシンである、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項23】
前記担体タンパク質がリステリオリシンOである、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項24】
前記担体タンパク質がジフテリア毒素である、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項25】
前記担体タンパク質がジフテリアトキソイドである、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項26】
前記担体タンパク質が破傷風毒素である、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項27】
前記担体タンパク質が破傷風トキソイドである、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項28】
前記目的の抗原が、多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項29】
前記多糖が、少なくとも18残基を含む、請求項28に記載のワクチン組成物。
【請求項30】
前記多糖が、肺炎連鎖球菌多糖、野兎病菌(多糖、炭疽菌多糖、インフルエンザ菌多糖、チフス菌多糖、サルモネラ種多糖、赤痢菌多糖、または髄膜炎菌多糖である、請求項28に記載のワクチン組成物。
【請求項31】
前記肺炎連鎖球菌多糖が、莢膜型3、4、6B、7A、7B、7C、7F、9A、9L、9N、9V、12A、12B、12F、14、15A、15B、15C、15F、17、18B、18C、19F、23F、25A、25F、33F、35、37、38、44、または46である、請求項30に記載のワクチン組成物。
【請求項32】
前記野兎病菌多糖がO抗原である、請求項30に記載のワクチン組成物。
【請求項33】
前記目的の抗原が、微生物の莢膜ポリマーである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項34】
前記微生物の莢膜ポリマーが、炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸である、請求項33に記載のワクチン組成物。
【請求項35】
前記目的の抗原が、少なくとも3原子を有するモノマーからなる有機ポリマーであり、該原子の各々が、炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸からなる群から独立して選択される、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項36】
前記有機ポリマーが微生物に由来する、請求項35に記載のワクチン組成物。
【請求項37】
前記有機ポリマーが自然発生のものではない、請求項35に記載のワクチン組成物。
【請求項38】
前記ワクチン組成物が、第2の目的の抗原をさらに含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項39】
前記ワクチン組成物が、第3の目的の抗原をさらに含む、請求項38に記載のワクチン組成物。
【請求項40】
(i)目的の抗原と担体タンパク質とを混合して、該抗原と該担体タンパク質の混合物を形成するステップ、および(ii)該目的の抗原を該担体タンパク質で捕捉するステップを含むワクチン組成物の作製方法であって、該ワクチン組成物中、該目的の抗原の50%以下が該担体タンパク質と架橋する、前記作製方法。
【請求項41】
前記ワクチン組成物が、製薬上許容される賦形剤をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記捕捉ステップが、前記混合物から前記抗原と前記担体タンパク質を沈殿させるステップを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記沈殿ステップが、前記混合物のpHを変化させるステップを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記沈殿ステップが、前記混合物に、トリクロロ酢酸(TCA)または硫酸アンモニウムを加えるステップを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記沈殿ステップが、前記混合物の無機塩濃度を上昇させ、または低下させることにより、該混合物のイオン強度を変化させるステップを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記沈殿ステップが、前記混合物を加熱して、前記担体タンパク質および/または前記抗原を凝固させるステップを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記沈殿ステップが、前記混合物に十分な線束の電離放射線を照射して架橋させるステップを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項48】
前記ワクチン組成物中、前記抗原:前記担体タンパク質のモル比が、1:10〜9:10である、請求項40に記載の方法。
【請求項49】
前記担体タンパク質が多量体である、請求項40に記載の方法。
【請求項50】
前記多量体が、少なくとも5個のサブユニットを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記多量体がホモ多量体である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記担体タンパク質が非共有結合している、請求項40に記載の方法。
【請求項53】
前記非共有結合が、疎水性相互作用、イオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、または水素結合を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記担体タンパク質が、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン、ニューモリシン、リステリオリシンO、髄膜炎菌の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素、ヒトLTBタンパク質、細菌細胞全体からのタンパク質抽出物、炭疽菌防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼである、請求項40に記載の方法。
【請求項55】
前記細菌細胞全体が、緑膿菌または連鎖球菌細胞である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記細菌性フラゲリンが、コレラ菌フラゲリンタンパク質である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記志賀様毒素が、赤痢菌SltB2タンパク質である、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記担体タンパク質がニューモリシンである、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記担体タンパク質がリステリオリシンOである、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
前記担体タンパク質がジフテリア毒素である、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記担体タンパク質がジフテリアトキソイドである、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
前記担体タンパク質が破傷風毒素である、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
前記担体タンパク質が破傷風トキソイドである、請求項54に記載の方法。
【請求項64】
前記目的の抗原が、多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸である、請求項40に記載の方法。
【請求項65】
前記多糖が、少なくとも18残基を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記多糖が、肺炎連鎖球菌多糖、野兎病菌多糖、炭疽菌多糖、インフルエンザ菌多糖、チフス菌多糖、赤痢菌種多糖、サルモネラ種多糖、または髄膜炎菌多糖である、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記肺炎連鎖球菌多糖が、莢膜型3、4、6B、7A、7B、7C、7F、9A、9L、9N、9V、12A、12B、12F、14、15A、15B、15C、15F、17、18B、18C、19F、23F、25A、25F、33F、35、37、38、44、または46である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記野兎病菌多糖がO抗原である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記目的の抗原が、微生物の莢膜ポリマーである、請求項40に記載の方法。
【請求項70】
前記微生物の莢膜ポリマーが、炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸である、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記目的の抗原が、少なくとも3原子を有するモノマーからなる有機ポリマーであり、該原子の各々が、炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸からなる群から独立して選択されている、請求項40に記載の方法。
【請求項72】
前記有機ポリマーが微生物に由来する、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記有機ポリマーが自然発生のものではない、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
第2の目的の抗原をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項75】
第3の目的の抗原をさらに含む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
(i)目的の抗原と担体タンパク質とを混合するステップ、および(ii)該担体タンパク質と架橋するリンカーを加えるステップを含むワクチン組成物の作製方法であって、該ワクチン組成物中、該目的の抗原の50%以下が該担体タンパク質と架橋する、前記作製方法。
【請求項77】
前記ワクチン組成物が、製薬上許容される賦形剤をさらに含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記ワクチン組成物中、前記抗原:前記担体タンパク質のモル比が、1:10〜10:1である、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記担体タンパク質が多量体である、請求項76に記載の方法。
【請求項80】
前記多量体が、少なくとも5個のサブユニットを含む、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記多量体がホモ多量体である、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
前記方法が、前記担体タンパク質中のシッフ塩基を還元するステップを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項83】
前記担体タンパク質が、少なくとも1個の別の担体タンパク質と共有結合している、請求項76に記載の方法。
【請求項84】
前記共有結合が、リジン側鎖の一級アミノ基と、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸側鎖のカルボキシ基との間のペプチド結合を含む、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記共有結合が、二官能基架橋剤を含む、請求項83に記載の方法。
【請求項86】
前記二官能基架橋剤が、グルタルアルデヒド、ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、またはアジプイミド酸ジメチルである、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記リンカーが、式
【化2】

[式中、Rは、1〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル、1〜12原子の直鎖もしくは分枝鎖ヘテロアルキル、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルケン、2〜12炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキン、5〜10炭素原子の芳香族残基、3〜10原子の環系、−(CHCHO)CHCH−(式中、qは1〜4である)、または2個のアルデヒド基を結合する化学結合である。]の化合物である、請求項76に記載の方法。
【請求項88】
前記リンカーが、グルタルアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、またはビス−ビアゾ化ベンジジンである、請求項76に記載の方法。
【請求項89】
前記担体タンパク質が、ジフテリア毒素もしくはその変異体、ジフテリアトキソイド、破傷風毒素もしくはその変異体、破傷風トキソイド、緑膿菌外毒素Aもしくはその変異体、コレラ毒素Bサブユニット、破傷風毒素フラグメントC、細菌性フラゲリン、ニューモリシン、リステリオリシンO、髄膜炎菌の外膜タンパク質、緑膿菌Hcp1タンパク質、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、志賀様毒素、ヒトLTBタンパク質、細菌細胞全体からのタンパク質抽出物、炭疽菌防御抗原のドミナントネガティブ変異体(DNI)、または大腸菌β−ガラクトシダーゼである、請求項76に記載の方法。
【請求項90】
前記細菌細胞全体が、緑膿菌または連鎖球菌細胞である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記細菌性フラゲリンが、コレラ菌フラゲリンタンパク質である、請求項89に記載の方法。
【請求項92】
前記志賀様毒素が、赤痢菌SltB2タンパク質である、請求項89に記載の方法。
【請求項93】
前記目的の抗原が、多糖、ポリアルコール、またはポリアミノ酸である、請求項76に記載の方法。
【請求項94】
前記多糖が、少なくとも18残基を含む、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
前記多糖が、肺炎連鎖球菌多糖、野兎病菌多糖、炭疽菌多糖、インフルエンザ菌多糖、チフス菌多糖、赤痢菌種多糖、サルモネラ種多糖、または髄膜炎菌多糖である、請求項93に記載の方法。
【請求項96】
前記肺炎連鎖球菌多糖が、莢膜型3、4、6B、7A、7B、7C、7F、9A、9L、9N、9V、12A、12B、12F、14、15A、15B、15C、15F、17、18B、18C、19F、23F、25A、25F、33F、35、37、38、44、または46である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記野兎病菌多糖がO抗原である、請求項95に記載の方法。
【請求項98】
前記目的の抗原が、微生物の莢膜ポリマーである、請求項76に記載の方法。
【請求項99】
前記微生物の莢膜ポリマーが、炭疽菌のポリ−γ−D−グルタミン酸である、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
前記目的の抗原が、少なくとも3原子を有するモノマーからなる有機ポリマーであり、該原子の各々が、炭素、酸素、水素、リン酸、窒素、および硫酸からなる群から独立して選択されている、請求項76に記載の方法。
【請求項101】
前記有機ポリマーが微生物に由来する、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
前記有機ポリマーが自然発生のものではない、請求項100に記載の方法。
【請求項103】
第2の目的の抗原をさらに含む、請求項76に記載の方法。
【請求項104】
第3の目的の抗原をさらに含む、請求項103に記載の方法。
【請求項105】
被験体で抗体の産生を誘発するのに十分な量の請求項1に記載のワクチン組成物を該被験体に投与するステップを含む、被験体に感染病原体に対するワクチンを接種する方法。
【請求項106】
前記方法が、前記被験体で抗体の産生をブーストするのに十分な量の請求項1に記載の前記ワクチン組成物を該被験体に投与する、2回目の投与ステップを含む、請求項105に記載の方法。
【請求項107】
前記抗体の産生がT細胞に依存する、請求項106に記載の方法。
【請求項108】
前記抗体の産生が、前記被験体が感染病原体に感染するのを防止または低減するのに十分である、請求項105に記載の方法。
【請求項109】
前記感染病原体が、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌B型、緑膿菌、野兎病菌、赤痢菌種、サルモネラ種、アシネトバクター種、ブルクホルデリア種、および大腸菌である、請求項105に記載の方法。
【請求項110】
前記方法が、前記被験体で抗体の産生をブーストするのに十分な量の、目的の抗原を含む第2のワクチン組成物を該被験体に提供する、2回目の投与ステップを含む、請求項105に記載の方法。
【請求項111】
前記抗体の産生が、前記被験体が第2の感染病原体に感染するのを防止または低減するのに十分である、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記抗体がIgG抗体である、請求項105または110に記載の方法。
【請求項113】
前記被験体がヒトである、請求項105に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−500354(P2010−500354A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523818(P2009−523818)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/017528
【国際公開番号】WO2008/021076
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】