タンパク質固定化用基板及びタンパク質固定化方法
【課題】固定化するタンパク質の配向性の制御、活性の維持、固定化量の向上を可能とするタンパク質固定化用基板およびタンパク質固定化方法を提供する。
【解決手段】担体表面に結合させた下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
で示されるアミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基に導入したカルボキシル基から変換された活性エステルに、特定の第2級アミノ基を有するアミン化合物又はポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて前記担体の表面に導入されたアミノ基にトランスグルタミナーゼの基質を導入してなるタンパク質固定化用基板である。
【解決手段】担体表面に結合させた下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
で示されるアミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基に導入したカルボキシル基から変換された活性エステルに、特定の第2級アミノ基を有するアミン化合物又はポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて前記担体の表面に導入されたアミノ基にトランスグルタミナーゼの基質を導入してなるタンパク質固定化用基板である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質固定化用基板及びタンパク質固定化方法に関し、特に基板に固定化するタンパク質の配向性の制御、該タンパク質の活性の維持、該タンパク質の固定化量の向上を可能とするタンパク質固定化用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能性タンパク質がバイオテクノロジー関連分野で利用されているが、固定化酵素やプロテインアレイなどへの応用のために、タンパク質の機能を損なわずに部位特異的に固定化するための技術に対する社会的要請が極めて高い。タンパク質はDNAに比べ分子構造ならびに機能の面で極めて多様であるため、DNAアレイの開発とは違い、固定化方法がタンパク質の種類によって大きく異なるため、汎用性の高い固定化法の開発が非常に重要である。プロテインアレイでは、タンパク質が様々な担体に固定化されて利用されるが、一般的な有機化学的手法によるタンパク質固定化では、部位特異的な修飾・固定化は極めて困難であり、目的とするタンパク質の機能保持は極めて難しく、プロテインアレイ開発のボトルネックとなっているのが現状である。
【0003】
一般にタンパク質固定化担体としてはガラススライド、多孔質ゲル、マイクロタイタープレートなどが用いられている。また、タンパク質固定化担体がガラススライドである場合に、表面にアミノ基を導入したスライドガラスが知られている。また、担体上のアミノ基とタンパク質の固定化方法については、グルタルアルデヒドでアミノ基を活性化して、タンパク質の末端アミノ基等と結合させる方法などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記の方法を用いてタンパク質を固定化した場合、タンパク質がアミノ基を介して固定化される(特異吸着)のみならず、アミノシランのアミノ基以外の部分や表面に吸着(非特異吸着)することがある。このような非特異吸着によって、タンパク質の活性点が基板に向く配向性が悪化する問題や、タンパク質それ自体の形が崩れる結果、タンパク質の活性が減少する問題、ELISAなどの生化学分析において、S/N比(S:特異吸着により固定化されたタンパク質からのシグナル、N:非特異吸着により固定化されたタンパク質からのノイズ)が下がり、タンパク質の検出感度が減少してしまう問題がある。また、タンパク質アレイにおいて特異的なタンパク質間相互作用を溶液系に近い状態で正確に検出する場合においても、タンパク質の非特異吸着量はS/N比を低減させる主要な要因となる。
【0005】
これに対して、アミノ基を導入したガラス基板への物理吸着によるタンパク質の固定化方法も知られており、特許文献1には(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを導入したガラス基板へのタンパク固定化時に、アミノ化プレートのアミノ基のpK a、タンパク質のpI、固定化水溶液のpHの間に、pK a> pH> pIの関係が成り立つ場合に、静電相互作用によりタンパク質の活性を維持したまま強く固定化できることが示されている。また、( アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシランを導入したガラス基板ではフェニル基の疎水性効果で、pH に依存しないでタンパク質を固定化し活性を維持できることが示されている。
【0006】
また、アミノ基を用いたタンパク質の固定化方法で、アミノ基を減らすことなく、非特異吸着を抑えることを可能にするタンパク質の固定化方法も開示されている。特許文献2には基板へタンパク質を固定化する方法であって、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンをガラス基板の表面にアミノ基として導入することで、アミノプロピルトリエトキシシランに比べタンパク質の非特異吸着が少ないことが示されている。
【0007】
また、タンパク質の配向性や、活性の低下を引き起こさない方法として、酵素を用いて担体上にタンパク質を固定化する方法も知られている。非特許文献1にはプラスチックの表面にカゼインを物理吸着させ、カゼインに数個含まれるグルタミン残基とN末端に微生物由来のトランスグルタミナーゼ(MTG)認識ペプチドタグ(MKHKGS)を遺伝子組み換え操作で導入したアルカリホスファターゼとをMTGにより固定化する方法が報告されている。ここで、カゼインは牛乳タンパク質の80%を占めるタンパク質であり、微生物由来のMTGが反応可能なグルタミン残基とリジン残基を数個含んでおり、MTGの良質な基質であることが知られている。
【0008】
さらに、MTGを用いた固定化方法として、アミノ基を化学修飾したガラス表面にタンパク質を固定化する方法も知られている。MTGのアシルアクセプター側の基質特異性は比較的低く、リジンだけでなく、各種一級アミンの基質になりえる。一方、アシルドナー側の基質特異性は高く、グルタミンしか基質になり得ない。MTG によるタンパク質固定化において、各種第二級アミノ基及び第三級アミノ基は、MTG の基質にならないことがしられており、一方、非特許文献2では、MTG のグルタミンドナー基質であるN−ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリシン(Z-QG) に対する異なる5 種類のアミン(エチレンジアミン(EDA);ヘキサメチレンジアミン(HMDA);オクタメチレンジアミン(OMDA);ジエチレントリアミン(DETA);トリエチレンテトラミン(TETA)の反応性を比較しており、分子内に存在する第二級アミノ基は、末端アミノ基に対するMTG の反応性を高める効果があること、ガラス基板表面のアミン構造がタンパク質固定化率に影響を与えること、短鎖アミンを修飾した場合は、固定化反応が進まないか、非特異吸着が大きいこと、一方、長鎖アミンを修飾した基板では、MTG の有無による固定化量の差異が明確となることが報告されている。
【0009】
非特許文献3では、イオン交換カラムに物理吸着させた酵素に対して、微生物由来トランスグルタミナーゼを作用させて架橋化を施すことによって酵素を固定化する手法が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2006−258805号公報
【特許文献2】特開2008−44917号公報
【非特許文献1】Biomacromolecules 2005, 6, 35-38
【非特許文献2】Biotechnol Lett., DOI:10.1007/s10529-008-9656-y
【非特許文献3】Biosci. Biotechnol. Biochem. 1992, 56, 1323.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の何れの方法もタンパク質の固定化は可能であるが、タンパク質の配向を制御できるわけではなく、非特異吸着も完全には抑えられていない。
【0012】
さらに、非特許文献1記載の方法によれば、固相表面にタンパク質の配向性と活性を維持して固定化できるが、カゼイン中のグルタミン残基の部位が十分にバルク溶媒側へ露出していない場合があり、MTGと反応できず、固定化量が低くなる問題点がある。また、物理吸着によりカゼインが固相化されるため、固相に提示されるグルタミン残基の量を常に一定にするのは困難である。
【0013】
また、非特許文献2記載の方法では、固相に修飾した第一級アミンは長鎖の方がMTGとの反応性は高まるが、グルタミン残基やリジン残基に比べ、基質特異性が低いため、固定化量が低くなる。また、アミノ基修飾基板へのタンパク質の非特異吸着を完全に抑制できないため、S/N比が十分でない。
【0014】
さらに、非特許文献3記載の方法では、タンパク質の配向性はまったく考慮されておらず、固定化部位も特定されていない。
【0015】
したがって、本発明の目的は、上述した課題を解決し、固定化するタンパク質の配向性の制御、該タンパク質の活性の維持、該タンパク質の固定化量の向上を可能とするタンパク質固定化用基板およびタンパク質固定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、タンパク質の配向性の制御、タンパク質の活性の維持のために、トランスグルタミナーゼ(TG)の認識部位を、基板上に効果的に提示する技術を開発し、これにより目的タンパク質を部位特異的に,且つ共有結合的に固定化することが可能となることを見出した。
【0017】
具体的には、リジン残基を有するTGの基質を導入した基板とグルタミン残基を有するペプチドタグを導入したタンパク質とを、又はグルタミン残基を有するTGの基質を導入した基板とリジン残基を有するペプチドタグを導入したタンパク質とをTGを用いて部位特異的に固定化し、これによって、電気的に中性のTGの基質の導入により、基板表面にアミノ基を導入した場合におけるアミノ基の正電荷による負の影響を低減できることを見出した。
【0018】
さらに、タンパク質の固定化量を向上させるために、適当な長さのペプチドを有する組換えタンパク質を、TGにより効率よく固定化することが可能なタンパク質固定化用基板を開発し、具体的には、基板上にリンカーを導入し、基板に導入するTGの基質と基板の距離を調製することでTGが作用しやすくなり、タンパク質の固定化量の向上が可能となることを見出した。そして、これらの新たな知見により、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明のタンパク質固定化用基板は、 下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基を活性エステルに変換し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。
【0020】
本発明のタンパク質固定化用基板の好適例において、前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリジン(Z-QG)、又はLLQG(配列番号1)、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、Z-QG、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルフェニルアラニン(Z-QF)、又はEAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のタンパク質固定化用基板の他の態様は、上記タンパク質固定化用基板において、前記担体の表面に導入したアミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する代わりに、リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。
【0022】
本発明のタンパク質固定化用基板の好適例において、前記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)もしくはMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はKG、KS、 KK、 KF、 AK、 RK、 HKもしくはMKからなるジペプチドであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のタンパク質固定化用基板の製造方法は、下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させる工程と、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入する工程と、
該カルボキシル基を活性エステルに変換する工程と、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入する工程と、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のタンパク質固定化用基板の製造方法の他の態様は、上記タンパク質固定化用基板の製造方法が、アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程の代わりに、リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入工程を含むことを特徴とする。
【0025】
また、本発明のタンパク質の固定化方法は、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なリジン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記リジン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入されたタンパク質固定化用基板の表面の当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明のタンパク質の固定化方法の好適例において、前記リジン残基を含むペプチドタグが、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)又はMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなることを特徴とする。
【0027】
また、本発明のタンパク質の固定化方法の他の態様は、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なグルタミン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記グルタミン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入されたタンパク質固定化用基板の表面の当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明のタンパク質の固定化方法の好適例において、前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、LLQG(配列番号1)、、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、EAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タンパク質の配向性の制御、タンパク質の活性の維持、タンパク質の固定化量の向上が可能なタンパク質固定化用基板及びその製造方法、並びにタンパク質固定化方法を提供できるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明のタンパク質固定化用基板は、下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基をカルボジイミドと反応させて活性エステルを形成し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。また、本発明のタンパク質固定化用基板の他の態様は、前記タンパク質固定化用基板において、前記担体の表面に導入したアミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する代わりに、リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。
【0031】
上述した本発明のタンパク質固定化用基板を構成する担体の表面上には、電気的に中性のトランスグルタミナーゼ(TG)の基質が導入されており、これによって、従来のアミノ基が導入された基板のようにアミノ基の正電荷による負の影響、すなわちタンパク質の非特異吸着を低減することができ、S/N比を向上させることができる。さらに、目的のタンパク質に、基板に導入されたものとは異なるTGの基質(グルタミン残基を基板に導入した場合にはリジン残基を有する基質、リジン残基を導入した場合には、グルタミン残基を有する基質)を例えばペプチドタグとして導入し、TGを用いてグルタミン残基とリジン残基との間にε(γ-グルタミル)リシン結合を形成させて、基板に導入されたTGの基質に目的のタンパク質を連結させることによって、部位特異的に、かつ共有結合的に基板に目的のタンパク質を固定することができ、基板に固定化するタンパク質の配向性の制御及び該タンパク質の活性の維持が可能となる。さらに、予め基板上にリンカーを導入し、TGの基質と基板との間の距離をリンカーによって調製することによって、TGが基板上の基質と作用しやすくなるようにし、これによって、目的タンパク質の固定化量を向上させることができる。
【0032】
上記アミノ基含有ケイ素化合物を示す一般式(I)において、kの上限については、特に限定されるものではないが、非特異的な吸着を減らし、基板とトランスグルタミナーゼの基質との間のリンカーとして適切な長さとするという観点から、kは3以下が好ましく、上記一般式中の前記lは2〜20であることが好ましい。
【0033】
アミノ基含有ケイ素化合物としては、特に限定されず、上記一般式(I)を満たすようなものであればよい。なお、上記一般式(I)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物の中でも、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンが特に好ましい。
【0034】
また、上記担体としては、特に限定されることはないが、ガラス繊維ガラススライド等のガラス、多孔性ゲル、マイクロウエルプレート、シリコンウエハなどの無機基板、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルムなどの有機基板などを挙げることができる。担体の形状に制限はなく、例えば、板、フィルムまたはシートのような平板状のものや、立方体、棒状、球状など3次元形状でもよい。なお、アミノ基含有ケイ素化合物との反応が容易であり、当該化合物を溶かす溶媒への耐性が高く、自家蛍光が低いためELISAなどの生化学分析の検出で使用される蛍光測定において有利であるという観点から、上記担体は、ガラスであることが好ましい。
【0035】
上記アミノ基含有ケイ素化合物の担体への結合は、特に限定されないが、いわゆるシランカップリングによる。例えば、適当な担体を用意し、トルエン、メタノール、エタノール、水などの溶媒中に、アミノ基含有ケイ素化合物を溶解した溶液に担体を浸し、溶液温度5〜100℃で、限定されないが、1〜12時間程度保つと、アミノ基含有ケイ素化合物が担体に結合する。
【0036】
上記担体表面に結合させたアミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基へのカルボキシル基の導入は、例えば、アミノ基含有ケイ素化合物が結合した担体を適宜選択したカルボキシル化剤で処理することによって行うことができる。アミノ基のカルボキシル化剤としては、特に制限されないが、無水コハク酸、無水フタル酸などのようなジカルボン酸無水物などが挙げられる。前記カルボキシル化剤による処理は、具体的には、前記担体を、該カルボキシル化剤をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒に溶解させた溶液に、前記担体を、例えば室温で一晩浸すことによって行うことができる。
【0037】
上記カルボキシル基の活性エステルへの変換は、上述したようにカルボキシル基が導入された担体を、例えばN,N’−ジメチルカルボジイミド(DIC)、1−エチル−3−(3ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・ヒドロクロライド(EDC)等のカルボジイミドの存在下でN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド等のスクシンイミドで処理することによって行うことができる。前記カルボジイミドの存在下での前記スクシンイミドの処理は、具体的には、前記カルボジイミド及び前記スクシンイミドをそれぞれN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解させた混合溶液に、前記担体を、例えば室温で一晩浸すことによって行うことができる。
【0038】
上記のようにして得られた活性エステルと、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物との反応は、上述したように活性エステルを導入した担体をこれらのアミン化合物で処理することによって行うことができる。このように反応を行うことによって、担体表面にアミノ基が導入される。
【0039】
本発明において、上記一般式(II)、(III)又は(IV)で示されるアミン化合物は、基板とTGの基質との間の距離を調整するリンカーとして働く。これらのリンカーの構造と長さを調節することによって、タンパク質の基板への非特異吸着を減らし、連結するTGの基質にTGが作用しやすくなるようにすることができ、タンパク質の固定化量を向上させることができる。
【0040】
上記第2級アミノ基を有するアミン化合物を示す一般式(II)において、mの値は、特に限定されるものではないが、基板とトランスグルタミナーゼの基質との距離を充分に確保するという観点から、mは2又は3が好ましい。
【0041】
上記第2級アミノ基を有するアミン化合物としては、特に限定されず、上記一般式(II)を満たすようなものであればよく、例えば、トリエチレンテトラミン(TETA)、 ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン(TEPA)等が挙げられる。これらの中でも、TETAが好ましい。
【0042】
また、第2級アミノ基を有するアミン化合物として、天然の生理活性ジアミンであるスペルミンやスペルミジンも本発明に利用することができる。
【0043】
また、上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を示す一般式(III)において、nの値は、特に限定されるものではないが、基板とトランスグルタミナーゼの基質との距離を充分に確保するという観点から、nは2又は3が好ましい。
【0044】
上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物としては、特に限定されず、上記一般式(III)を満たすようなものであればよく、例えば、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(BEA)、2,2’−オキシビス(エチルアミン)、1,11−ジアミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン(TUDA)等が挙げられる。これらの中でも、BEAが好ましい。
【0045】
また、上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を示す一般式(IV)において、oの値は、特に限定されるものではないが、基板とトランスグルタミナーゼの基質との距離を充分に確保するという観点から、oは2又は3が好ましい。
【0046】
上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物としては、特に限定されず、上記一般式(IV)を満たすようなものであればよく、例えば、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル(DGBE)、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル(EGBE)等が挙げられる。これらの中でも、DGBEが好ましい。
【0047】
なお、固定化量をより向上させるという観点から、上述した一般式(II)、(III)又は(IV)で示されるアミン化合物の中でも、一般式(III)又は(IV)で示されるアミン化合物が好ましく、特にBEA、DGBEが好ましい。
【0048】
上記担体表面に導入された活性エステルと上述したアミン化合物との反応は、具体的には、上述したアミン化合物をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解させた溶液に、前記活性エステルが導入された担体を、例えば室温で一晩浸すことによって行うことができる。なお、反応後、前記アミン化合物と未反応の活性エステルを、例えばエタノールアミン塩酸塩水溶液(pH8.5)などと反応させることによってブロッキングすることが望ましい。反応に用いるアミン化合物溶液の濃度は、用いるアミン化合物によって適宜選択することができる。
【0049】
本発明においては、上述したようにして担体表面に導入されたアミノ基にグルタミン残基又はリジン残基を有するトランスグルタミナーゼ(TG)の基質を導入する。これによって、グルタミン残基又はリジン残基を有するトランスグルタミナーゼ(TG)の基質が担体表面に導入された本発明のタンパク質固定化用基板が得られる。
【0050】
グルタミン残基を有するTGの基質としては、前記TGが微生物由来のものである場合には、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリジン(Z-QG)、又はLLQG(配列番号1)、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドが挙げられ、前記MTGが哺乳類由来のものである場合には、Z-QG、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルフェニルアラニン(Z-QF)、又はEAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドが挙げられる。ここで、「N末端保護ペプチド」とは、N末端がグリシン(G)である基質ペプチドにおいて、自己架橋による副産物が生じるのを防ぐために、N末端アミノ基の水素を適切な基で置換することによりTGの基質とはならないように保護したペプチドを意味する。なお、N末端保護の手段により、TGの反応性が異なることが知られており、詳細には、哺乳類由来TGに関して、GQQQLG(配列番号15)のN末アセチル化による保護(即ち、Ac-GQQQLG)、またN末端アミノ酸をDOPA(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)にする(即ち、DOPA-GQQQLG)と反応性が向上することが知られている。このような保護の例を、本発明においても利用することができる。これらの中でも、合成の容易さと分子サイズの小ささから、Z-QGが好ましい。
【0051】
リジン残基を有するTGの基質としては、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)もしくはMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はKG、KS、 KK、 KF、 AK、 RK、 HKもしくはMKからなるジペプチドが挙げられる。これらの中でも、タンパク質連結における高い反応性から、MKHKGS(配列番号18)が好ましい。
【0052】
上述したTGの基質の前記担体表面に導入されたアミノ基への導入は、上述したカルボキシル基の活性エステルへの変換と同様に、上記カルボジイミドの存在下で上記スクシイミドを前記基質と反応させ、前記基質の末端のカルボキシル基を活性エステルに変換して、前記基質の活性エステル中間体を形成し、該中間体を前記担体表面のアミノ基と反応させることによって行うことができる。活性エステル中間体を形成する反応及び該中間体と前記担体の表面のアミノ基との反応の条件は、特に限定されず、例えば室温で一晩反応させることによってそれぞれの反応を行うことができる。
【0053】
次に、本発明のタンパク質の固定化方法について説明する。本発明のタンパク質の固定化方法は、タンパク質にトランスグルタミナーゼ(TG)が認識可能なリジン残基又はN末端α−アミノ基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記リジン残基又は前記N末端α−アミノ基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入された本発明のタンパク質固定化用基板の表面に存在する当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0054】
また、本発明のタンパク質の固定化方法の他の態様は、タンパク質にトランスグルタミナーゼ(TG)が認識可能なグルタミン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記グルタミン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入された本発明のタンパク質固定化用基板の表面に存在する当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0055】
上述した本発明のタンパク質固定化方法のいずれの態様においても、固定化するタンパク質にペプチドタグを導入し、本発明のタンパク質固定化用基板を用いることによって、該タンパク質の配向性を制御できるとともに、該タンパク質の活性を維持することができ、さらに該タンパク質の固定量を向上させることができる。
【0056】
本発明のタンパク質固定化用基板に固定化するタンパク質としては、特に限定されず、例えばGFP(green fluorecent protein)、EGFP(enhanced green fluorecent protein)等の蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ(AP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、リゾチーム等の酵素タンパク質や、抗体、抗体断片、細胞増殖因子、サイトカイン等が挙げられる。ペプチドタグが容易に導入可能との観点からは、遺伝子工学的に製造可能なタンパク質が好ましい。また、抗体エピトープ配列を含むペプチドや抗菌ペプチド等の生理活性ペプチドも、本発明のタンパク質の固定化方法によって固定化することができ、したがって、本明細書における「タンパク質」という用語にはこれらのペプチドも含まれるものとする。
【0057】
固定化するタンパク質に導入されるTGが認識可能なリジン残基を有するペプチドタグとしては、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端グリシン(N-terminal GGG、N-terminal GGGGG(配列番号21))、N末端MKHKGSと対象タンパク質間のリンカー部位を伸ばしたMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチドタグが挙げられる。これらの中でも、固定化時の立体障害との緩和と反応性から、MKHKGS(配列番号18)、GGGGG(配列番号21)又はMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチドタグが好ましい。
【0058】
また、固定化するタンパク質に導入されるTGが認識可能なグルタミン残基を有するペプチドタグとしては、前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものである場合には、LLQG(配列番号1)、、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドからなるペプチドが挙げられ、前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものである場合には、EAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドが挙げられる。
【0059】
上記ペプチドタグのタンパク質への導入は、遺伝子工学的な手法によって、C末端又はN末端に前記ペプチドタグを導入した組み換えタンパク質を調製することによって行うことができる。C末端又はN末端にTGaseの前記ペプチドタグが導入された当該組換えタンパク質の精製は、それぞれN末端又はC末端に付加した(His)6-tagを利用し(TGの反応性の低下を回避するために、基質ペプチドタグを入れた末端とは異なる末端にHis-tagを入れるようにデザインするとよい。)、ゲル濾過カラムにより行うことができ、またアミノ酸配列の確認は当該タンパク質をコードするプラスミドベクターの遺伝子配列をDNAシーケンサーにて確認するか、N末端に導入された基質ペプチドについてはN末端分析により直接同定することができる。タンパク質の精製の確認は SDS-PAGE で行うことができる。
【0060】
本発明のタンパク質の固定化方法に用いるトランスグルタミナーゼ(TG)としては、種々のものを用いることができ、哺乳類(guinea pig、ヒト)、無脊椎動物(昆虫、カブトガニ、ウニ)、植物、菌類、原生生物(粘菌)由来のものが挙げられる。これらの中でも、安定性、反応性、他の由来のTGよりも小さい分子サイズであることから、微生物由来のものを用いるのが好ましい。
【0061】
上記タンパク質に導入された上記ペプチドタグと上記タンパク質固定化用基板の表面に存在する上記TGの基質とのTGによる連結は、例えば、上記ペプチドタグを導入したタンパク質とTGを、適宜選択した反応バッファーに溶解して、反応溶液を調製し、該反応溶液に上記タンパク質固定化用基板を浸すことによって行うことができる。タンパク質をより多く固定化するという観点から、反応溶液のpHは5〜7、好ましくは6である。また、反応温度は4〜37℃が好ましい。反応時間は、6時間あれば充分であり、場合によっては30分程度でもよい。なお、上述した連結によって得られる連結部は、リジン残基とグルタミン残基とが、ε(γ-グルタミル)リシン結合を形成することにより構成されている。
【0062】
上述した本発明のタンパク質固定化用基板及びタンパク質固定化方法は、特にプロテインアレイの開発に応用可能である。本発明によれば、タンパク質の配向性を制御し、かつその活性を維持しつつ、より多くのタンパク質を基板に固定することが可能であり、さらに、非特異吸着量を低減することが可能であるため、固定化したタンパク質の検出感度を増大させることが可能である。
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【実施例】
【0064】
(実施例1 MTGを用いたEGFPのガラス基板への固定化)
本実施例では、上記一般式(I)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物として(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化ガラスプレート(日本板硝子(株)製96穴タイプ)を用いた。また、上記一般式(II)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物としてTETA(和光純薬工業(株))を、又は上記一般式(III)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物としてBAE(和光純薬工業(株))を導入し、グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質としてZ-QG(CBZ-GlnGly、Sigma)を導入した基板をタンパク質の固定化に用いた。また、トランスグルタミナーゼとして、微生物由来のトランスグルタミナーゼ(MTG)(味の素(株)から提供して頂いたもの)を使用し、固定化するタンパク質として、下記のようにしてN末端にMTG認識ペプチドタグを導入したEGFP(NK6-EGFP)を用いた。
【0065】
(NK6-EGFPの調製)
EGFPのN末端に制限酵素NdeIサイト中のatgを開始コドンとするMKHKGS(配列番号18)の付加配列を、C末端にヘキサヒスチジンタグと終始コドンと制限酵素NcoIサイトをコードする遺伝子プライマーをそれぞれ設計し、EGFPをコードするプラスミドを鋳型として PCR 法により目的のタンパク質(NK6-EGFP)をコードする遺伝子断片を得た。これを NdeI/NcoI 処理し、同じ制限酵素により処理した pET22 ベクターに挿入した。得られたNK6-EGFP発現ベクターを用いて、既報(Org. Biomol. Chem., 5, 1764-1770, 2007)に準じてNK6-EGFPを調製した。
【0066】
(Z-QG化ガラス基板の調製)
MTGの良基質として知られているZ-QGを使い、下記スキーム1(化1)により、Z-QG化ガラス基板を調製した。
【化1】
【0067】
i) それぞれの濃度のZ-QG溶液(in DMSO)を調製し、最終濃度が0.1M になるようにN,N’−ジメチルカルボジイミド(DIC)溶液(in DMSO)を加えた。
ii) 最終濃度が0.1MになるようにN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)溶液(in DMSO)を加え、一晩攪拌した(RT, 80rpm)。
iii) それぞれのNHS化Z-QG溶液を上記アミノ化ガラスプレートに100μLずつ加え、一晩放置し(RT, 80rpm)、MilliQで9回洗浄した。
【0068】
(MTGを用いるNK-EGFPの固定化反応)
終濃度が、NK-EGFP(10μg/well)、MTG(0.05U/well)、50mM 反応バッファーになるように、それぞれの反応溶液を調製し、Z-QG化ガラス基板に100μLずつ加え、固定化反応を開始した。4℃で6時間インキュベートした後、TBST溶液(25mM Tris-HCl, 2.7mM KCl, 0.137mM NaCl, 0.05% Tween20)で6回洗浄、1M NaClで6回洗浄することで、未反応のNK-EGFPとMTGを取り除いた。
【0069】
また、コントロール実験としてMTG非存在下でも同様な実験を行った。その後、蛍光イメージャーで測定を行った (488nm Excitation, 533nm band pass)。
【0070】
(Z-QG濃度の検討)
Z-QG化ガラス基板を調製する時に、Z-QGの濃度を0.01mM〜10mMにし、4種類のZ-QG濃度の異なるZ-QG化ガラス基板を調製し、それぞれの基板におけるNK-EGFPの固定化を試みた。固定化時の条件は50mM Tris-HCl buffer (pH7) である。
【0071】
(固定化反応pHの検討)
Z-QG導入濃度が1mMのときのNK-EGFPの固定化へのpH依存性を検討した。固定化時の条件は50mM phosphate buffer (pH5, pH6)、50mM Tris-HCl buffer (pH7, pH8) である。
【0072】
(MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(TETAのアミノ化ガラスプレートへの導入)
下記スキーム2(化2)にしたがって、Z-QGを導入する前にリンカーとして二級アミンを有するトリエチレンテトラミン (TETA)を上記アミノ化ガラスプレートに導入し 、TETA化ガラスプレートを調製した 。
【化2】
【0073】
i) アミノ化ガラスプレート(A)に0.5M 無水コハク酸溶液(in DMF) を100μL/well加え、
一晩放置した (80rpm, RT)。その後、DMFで3回洗浄を行った。
ii)Bに、0.5M N-Hydroxysuccinimide(NHS)+0.5M N,N′-Diisopropylcarbodiimide(DIC)の混合溶液(in DMF)を100μL/well 加え、6時間反応させた(80rpm, RT)。その後、DMFで3回洗浄を行った。
iii) triethylenetetramine(TETA) 溶液 (in DMF)を100μL/well 加え、一晩放置した(80rpm, RT)。その後、DMFで3回洗浄を行った。
iv) TETAが導入されてない活性エステルを無くすため、1M ethanolamine-HCl (pH8.5) を100μL/well 入れ、6時間反応させた後、MilliQで9回洗浄した。
【0074】
(Z-QG-TETA化ガラス基板の調製)
上記スキーム1と同様である。但し、アミノ化ガラスプレートではなく、スキーム2で調製したTETA化ガラス基板を用いた。
【0075】
(TETA修飾濃度の検討)
リンカーであるTETAの修飾濃度を0mM-1000mMで変化させ、TETA修飾濃度の違うTETA化ガラス基板を調製し、Z-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-TETA化ガラス基板におけるNK-EGFPの固定化を行った。 固定化時の条件は50mM Tris-HCl buffer (pH7) である。
【0076】
(Z-QG濃度の検討)
1M TETA化ガラス基板にZ-QGの濃度を0.01mM〜10mMに変化させ、Z-QG-TETA化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を試みた。固定化時の条件は50mM Tris-HCl buffer (pH7) である。
【0077】
(固定化反応pHの検討)
1M TETA化ガラス基板に Z-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-TETA化ガラス基板を調製し、この基板におけるNK-EGFPの固定化へのpH依存性を検討した。固定化時の条件は50mM acetate buffer(pH5, pH6)、 50mM phosphate buffer (pH5, pH6, pH7, pH8)、50mM Tris-HCl buffer (pH7, pH8) である。
【0078】
(MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
Z-QG-BAE化ガラス基板の調製は、上述した Z-QG-TETA化ガラス基板調製法と同様である。但し、リンカーはTETAではなく、TETAと長さは同じで、二級アミンの代わりに、PEG鎖を有する1,2-bis(2-aminoethoxy)ethane (BAE) を用いた 。
【0079】
(BAE修飾濃度の検討)
リンカーとしてBAEを導入した1mM Z-QG-BAE化ガラス基板の調製時のBAE修飾濃度を0.25M〜2Mまで変化し、その影響を検討した。固定化時の条件は50mM phosphate buffer (pH6) である。
【0080】
(Z-QGに関する検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの濃度を0.025mMから1mMまで変化させ、Z-QG-BAE化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を行った。また、Z-QGをNHS化させるときにDICではなく、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride (EDC) を使い、その違いを確認した (スキーム3(化3))。
【化3】
【0081】
DICを用いてZ-QG-NHS化は今までと同様である。EDCを用いた場合は、最終濃度が1mM Z-QG, 10mM NHS, 10mM EDC, 0.1M MES buffer (pH4.8) になるように溶液を調製した。
【0082】
(固定化反応pHの検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、この基板におけるNK-EGFPの固定化へのpH依存性を検討した。固定化時の条件は50mM acetate buffer(pH5, pH6)、50mM phosphate buffer (pH5, pH6, pH7, pH8)、50mM Tris-HCl buffer (pH7, pH8) である。
【0083】
(固定化時の塩濃度の検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、固定化時の塩濃度の影響について検討を行った。固定化時の溶液のNaCl濃度がそれぞれ0mM, 100mM, 200mMになるように溶液を調製し、固定化反応を行った。
【0084】
(固定化時の緩衝液濃度の検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、固定化時の緩衝液濃度の影響について検討を行った。緩衝液は5mM, 100mM, 200mM pH6 phosphate bufferを用いた。
【0085】
(NK-EGFP濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによる固定化を行う際にNK-EGFPの濃度が適切であるかを確認するため、NK-EGFPの濃度を1μg/wellから20μg/wellに変化させ、その相対的な蛍光強度を調べた。
【0086】
(MTG濃度の検討)
MTGによるNK-EGFPの固定化を行う時にMTGの濃度が適切であるかを確認するため、1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGの濃度を0.005U/wellから0.5U/wellに変化させ、その相対的な蛍光強度を調べた。
【0087】
(固定化反応温度の検討)
固定化反応における反応温度の影響を調べるため、4℃と37℃にそれぞれ1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化を行った。
【0088】
(固定化反応時間の検討)
固定化反応時間について検討を行うために、固定化反応時間を0時間から6時間まで変化させ、1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化を行った。
【0089】
(BAE+EA, BAE+AEの混合基板に対する検討)
BAEの修飾密度を調節し、スペースを空けるために、一方はアミンを有し、片方はMTGの触媒反応を受けないアルコール基を持つethanolamine (EA、和光純薬工業(株))、2-(2-aminoethoxy) ethanol (AE、東京化成工業(株)) を総合濃度が1MになるようにBAEと混合した。BAEとEA (or AE)を0:100, 25:75, 50:50, 75:25 の割合で混合し、Z-QG-BAE+EA化ガラス基板、Z-QG-BAE+AE化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を行った。
【0090】
(MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
Z-QG-DGBE化ガラス基板の調製は上述したZ-QG-TETA化基板調製法と同様である。但し、リンカーはTETAではなく、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル(DGBE) を用いた。
【0091】
(DGBE修飾濃度の検討)
リンカーとしてDGBEを導入した1mM Z-QG-DGBEガラス基板の調製時のDGBE修飾濃度を0.1M〜2Mまで変化し、その影響を検討した。固定化反応際は50mM phosphate buffer (pH6) を用いた。
【0092】
(DGBE+EA, DGBE+AEの混合基板に対する検討)
DGBEの修飾密度を調節し、スペースを空けるために、一方はアミンを有し、片方はMTGの触媒反応を受けないアルコール基を持つethanolamine (EA)、2-(2-aminoethoxy) ethanol (AE) を総合濃度が1Mになるように 混合した。DGBEとEA (or AE)を25:75, 50:50, 75:25, 90:10 の割合で混合し、Z-QG-DGBE+EA化ガラスプレート、Z-QG-DGBE+AE化ガラスプレートを調製し、NK-EGFPの固定化を行った。
【0093】
(MTGを用いたカゼインガラス基板へのNK6-EGFPの固定化 )
カゼインは、牛乳タンパク質の約80%を占めるタンパク質であり、MTGが反応可能なGln残基、Lys残基を数個含んでいるため、MTGの良い基質であることが分かっている(Colloids and Surface A:Eng. Aspects 216, 75-81 (2003))。また、疎水性相互作用により、プラスチック表面に容易かつ強固に吸着し、非特異吸着を抑制できるため(J. Phys. Chem. B 108, 13387-13394 (2004))、固定化基板として優れている(Biomacromolecules 6, 35-38 (2005))。
今回はガラス基板へβ-カゼインとBSAをそれぞれアミノ化ガラスプレートに物理吸着し、MTGによりNK-EGFPを固定化反応させ、それをZ-QG-BAE基板との比較を行った。
【0094】
(β-カゼイン被覆基板の調製)
アミノ化ガラスプレートにβ-カゼイン溶液 (5mg/mL, 50mM Tris-HCl, pH 7.5)を100 μL加え、4 ℃で6時間放置することで、カゼインをプレートに物理吸着させた。その後、TBST溶液 (25mM Tris-HCl, 2.7mM KCl, 0.137mM NaCl, 0.05% Tween20)で3回洗浄し、吸着していないβ-カゼインを除きβ-カゼイン被覆基板を作成した。また、上述したZ-QG化ガラス基板へのNK-EGFPの固定化反応と同様にMTGによるNK-EGFPの固定化を行い、蛍光イメージャーで測定を行った (488nm Excitation, 533nm band pass)。固定化反応バッファーは50mM sodium acetate buffer (pH5)を用いた。
【0095】
(結果と考察)
(MTGを用いたZ-QG化ガラスプレートへのNK6-EGFPの固定化)
(Z-QG濃度の検討)
Z-QG化ガラス基板を調製する時に、Z-QGの濃度を0.01mM〜10mMにし、NK-EGFPの固定化を試みた。図1より、10mM Z-QG溶液の結果との比較より、1mM Z-QG溶液が導入濃度として十分であることが分かった。また、MTGを加えてないwellにも相当量の蛍光強度が測定されたため、Z-QG化ガラス基板へのNK-EGFPの物理吸着があると考える。
【0096】
(固定化反応pHの検討)
Z-QG導入濃度が1mMのとき、調製したZ-QG化ガラス基板におけるNK-EGFPの固定化反応のpH依存性を検討した。
【0097】
図2よりZ-QG化ガラス基板は反応バッファーのpHが7のとき、MTGによる固定化量が一番多いことから、pH7が最適pHであると考えられる。しかし、NK-EGFPの非特異吸着もpH7で一番多かった。
【0098】
(MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(TETA修飾濃度の検討)
Z-QG-TETA化ガラス基板の調製時にリンカーであるTETAの修飾濃度を0mM-1000mMで変化させ、MTGによるNK-EGFPの固定化を行った。図3より、濃度の変化と蛍光強度の間にきれいな相関関係ではないが、TETA修飾濃度の増加につれて、蛍光強度の増加が見られた。
【0099】
(Z-QG濃度の検討)
1M TETA化ガラス基板にZ-QGの濃度を変化させ、Z-QG-TETA化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を試みた。
【0100】
図4より、Z-QGの導入濃度が0.1mMと1mMの間に大きな違いが見られた。また、Z-QGの導入濃度が1mMと10mMの時の固定化量はほぼ同じであったため、1M TETA化ガラス基板におけるZ-QGの導入濃度は1mMで十分であると考える。
【0101】
(固定化反応pHの検討)
1mM Z-QG-1M TETA化ガラス基板へのNK-EGFPの固定化反応pHによる影響について調べた。
【0102】
図5より、固定化反応の最適pHが7であったZ-QG化ガラス基板とは異なり、Z-QG-TETA化ガラス基板に対する固定化はpHが5〜7で高く、pH6でやや高い傾向をしめした。この結果より、基板に修飾したリンカーはガラス表面の見かけ上のpHを変化させると考える。
【0103】
(MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(BAE修飾濃度の検討)
リンカーとしてBAEを導入した1mM Z-QG-BAEガラス基板の調製時のBAE修飾濃度の影響を検討した。その結果(図6)より BAEの修飾濃度は0.5Mで十分であることが分かった。誤差の範囲であるが、0.5Mより濃い方がその固定化量は少なかった。
【0104】
(Z-QGに関する検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの濃度を0.025mMから1mMまで変化させ、Z-QG-BAE化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を試みた。図7より、Z-QGの導入濃度が濃い方がMTGの基質であるGln残基を多く持つことより、より固定化できると考える。また、NHS-Z-QG中間体を形成させる時、DICとEDCを使い、DMFと水の中でそれぞれを反応させ、Z-QG-BAE化ガラス基板を調製し、ガラスプレートに修飾された一級アミンとの反応性について検討した。その結果、水系で反応させる方よりDICを使った方がより固定化できた(図8)ことから、DICの方がZ-QGの修飾量が多いと考える。
【0105】
(固定化反応pHの検討)
1mM Z-QG-0.5M BAE化ガラス基板へのNK-EGFPの固定化反応pHによる影響を調べてみた。Z-QG-TETA化ガラス基板の結果と同じように、pH5〜7が固定化時のpHとして適当であり、pH6でやや高い傾向をしめした(図9)。
【0106】
(固定化時の塩濃度の検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、固定化時の溶液のNaCl濃度がそれぞれ0mM, 100mM, 200mMになるように溶液を調製し、固定化反応を行った結果を図10に示す。塩濃度が高くなることにつれて、固定化量が少しずつ低下している。この結果は、前述のように、本固定化手法では静電的な相互作用が固定化率を左右する一因であるという考察の証拠になり得る。溶液系でのMTGの反応自体は、この濃度領域では塩濃度の影響を受けない。
【0107】
つまり、この結果はMTG反応を利用したタンパク質固定化が、タンパク質間の静電相互作用により促進されることを示している。しかし、その効果は、カゼイン物理吸着基板やアミノ化基板で観察されたような大きな効果ではなく、生理緩衝液濃度(NaCl = 150mM)程度であれば、溶液の塩濃度に左右されない固定化修飾基板、と見なすことができる。
【0108】
(固定化時の緩衝液濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAE化ガラス基板における固定化時の緩衝液濃度の影響の結果を図11に示す。緩衝液の濃度が高くなるにつれて固定化量が低下する。この理由として、塩濃度の影響と同じように、緩衝液の濃度が低い方が、静電的相互作用が強く作用するからであると考える。
【0109】
(NK-EGFP濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによる固定化を行う際にNK-EGFPの濃度の影響を検討した。その結果、1μg/well と10μg/well の間に大きな差が見られたが、10μg/well と20μg/well との差は見られなかったため、NK-EGFPの濃度として10μg/wellが適切であることが確認できた(図12)。
【0110】
(MTG濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGの濃度の影響を調べたところ、0.05U/well以上の固定化量に変わりがないことより、固定化反応に必要なMTG濃度は0.05U/well で十分であることが分かった(図13)。
【0111】
(固定化反応温度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化反応温度の影響を調べた。MTGの触媒反応の最適温度は37℃〜40℃であるが、図14より、固定化反応が進行するのに、MTGの触媒活性は4℃でも十分高いということが分かった。これは、高温で変性しやすいタンパク質の固定化を可能にする点で、極めて大きな意味を持つ結果である。
【0112】
(固定化反応時間の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化反応時間について検討を行い、その結果を図15に示す。0h〜4hまで反応時間につれて固定化量が増加したことより、固定化反応はある程度の時間が必要であることが分かった。4h〜6hの間、固定化量に変化がないことより、反応4時間後、固定化反応は平衡に至ると考える。
【0113】
(BAE+EA, BAE+AEの混合基板に対する検討)
一方はアミンを有し、片方はMTGの触媒反応を受けないアルコール基を持つethanolamine (EA)、2-(2-aminoethoxy) ethanol (AE) を全濃度が1MになるようにBAEと混合して Z-QG-BAE+EA化ガラス基板、Z-QG-BAE+AE化ガラス基板を調製し、BAEの修飾密度の影響について調べてみた 。その結果(図16及び17)よりBAEの濃度の上昇にしたがって蛍光強度の増加が見られたため、固定化反応時に立体障害が生じない程度の密度でBAEが修飾されていると考えられる。また、AEとEAの違いはほとんど見られなかったが、エチレングリコールリンカーを有するAEの方がエラーバーが小さい。また、AEの方がやや頭打ちの傾向が見られる。
【0114】
(MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(DGBE修飾濃度の検討)
1mM Z-QG-DGBEガラス基板の調製時のDGBE修飾濃度を0.1M〜2Mまで変化し、その影響を検討した。図18より、DGBEの修飾濃度は1Mで十分であることが分かった。
【0115】
(DGBE+EA, DGBE+AEの混合基板に対する検討)
Z-QG-DGBE+EA化ガラス基板、Z-QG-DGBE+AE化ガラス基板を調製し、DGBEの密度を調節した結果を図19及び20に示す。これらの結果より、DGBEの濃度にしたがって蛍光強度の増加が見られたため、Z-QG-BAE化基板と同様に、固定化反応の際、EGFPとMTGの立体障害が生じないほどの密度でDGBEが修飾されていると考える。
【0116】
しかし、図17のBAE+AE混合基板と違って、DGBE-AE基板におけて、混合比が25:75, 50:50, 75:25のときはほぼ同じであった。
【0117】
(種々のガラス基板におけるNK-EGFPの固定化の比較)
(Z-QG化・Z-QG-TETA化・Z-QG-BAE化ガラスプレートの比較)
リンカー有無の基板 (Z-QG化基板/Z-QG-TETA化基板・Z-QG-BAE化基板) においてのタンパク質固定化の比較より、リンカーは非特異吸着を低減し、MTGによる固定化反応を促進する効果があることが分かった (図21) 。
【0118】
また、分子内に第二級アミンを有する triethylenetetramine (TETA) をリンカーとして導入したZ-QG-TETA化ガラス基板、TETAと長さは同じで、 PEG鎖を有する1,2-bis(2-aminoethoxy)ethane (BAE) をリンカーとして導入したZ-QG-BAE化ガラス基板との比較より、Z-QG-BAE化ガラス基板の方がより固定化できることが分かった (図21) 。
【0119】
リンカーがMTGによる固定化反応を促進する理由として、MTGの活性部位の深さが原因であると考える。すなわち、MTGの活性中心であるCys64が大きく窪んだクレフトの中に存在しているため、MTGの基質であるZ-QGのGln残基に近づくためには基板表面にある程度の距離が必要であると考えられる。
【0120】
また、PEG鎖を有するBAEをリンカーとして導入した基板の方がより固定化できた理由としては、MTGの反応機構におけるMTGとGln残基との中間体の形成し易さに関係があると考えられる。
【0121】
(β-カゼイン修飾ガラス基板とZ-QG-BAE化ガラス基板との比較)
従来のタンパク質固定化基板として、β-カゼインポリスチレン基板が知られている(Biomacromolecules 6, 35-38)。同様の操作で、ガラス基板にβ-カゼインを物理吸着させ、β-カゼイン修飾ガラス基板を調製し、Z-QG-BAE化ガラス基板との比較を行った。結果を図22に示す。図22より、両修飾基板とも非特異吸着を抑える効果があることが分かった。未修飾ウエルの蛍光を基準としたバックグラウンドのレベルを考えると、MTGによる固定化反応時に、二つの基板における非特異吸着はほぼ起こっていないと考えられる 。
【0122】
また、それぞれの基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化反応を行った結果、 β-カゼインガラス基板より、Z-QG-BAEガラス基板の方が固定化量の面で優れていることが分かった。この理由として、カゼイン中のグルタミンドナー部位が十分にバルク溶媒側へ露出していないことが推察される。この点において、基板を基質ペプチドによりきちんと修飾することの意義があると考えられる。
【0123】
以上の結果から、Z-QG化基板において、Z-QGの導入濃度は1mMで十分であることが分かった。また、pH7の時に固定化反応が最も効率よく進行した。
【0124】
Z-QG-TETA化基板において、TETAの修飾濃度が1M以上、Z-QG導入濃度が1mM以上、pH6において最も効率の良い固定化が可能であった。
【0125】
Z-QG-BAE基板において、BAE修飾濃度が0.5M以上、Z-QG導入濃度が1mM以上、pH6で固定化反応を行ったときに最も効率の良い固定化が可能であった。また、固定化反応における塩濃度、緩衝液濃度の影響の検討より、固定化効率にはZ-QG-MTGの中間体と、NK-EGFP間の静電的相互作用も寄与することが分かった。また、固定化時の条件として、固定化反応温度が4℃でも十分固定化が進行することが分かった。
【0126】
リンカー有無の基板においてのタンパク質固定化の比較より、リンカーは非特異吸着を低減し、MTGによる固定化反応を促進する効果があることが分かった。この理由として、MTGの活性中心であるCys64が大きく窪んだクレフトの中に存在しているため、MTGの基質であるZ-QGのGln残基に近づくためには基板表面にある程度の距離が必要であると考えられる。また、リンカーの違うZ-QG化基板 (Z-QG-TETA基板 / Z-QG-BAE基板) との比較より、PEG鎖を有するBAEをリンカーとして導入した基板の方がより固定化できることが分かった。これはMTGとGln残基との中間体形成のし易さと関係があると考える。
【0127】
β-カゼイン修飾ガラス基板とZ-QG-BAE化ガラス基板との比較より、両方とも非特異吸着を抑える効果があることが分かった。また、Z-QG-BAEガラス基板の方が、固定化収率の点で、タンパク質固定化基板としてより優れていることが分かった。
【0128】
(実施例2 MTGを用いたアルカリフォスファターゼのガラス基板への固定化)
本実施例では、固定化するタンパク質としてEGFPの代わりにアルカリフォスファターゼ(AP)を用いて、実施例1と同様に、Z-QG化ガラス基板への固定化を試みた。
【0129】
(実験方法)
(試薬)
全ての制限酵素はTakara 社より購入した。Casein はSigma 社から購入したcaseinsodium salt を用いた。NK6-AP は、既報(Enzyme Mycrob. Technol. 2004, 35, 613-618)に準じて調製した。MTG は味の素(株)から提供していただいた。
【0130】
(NK14-AP の調製)
NK14-APは、既報(Biomacromolecules, 2005, 6, 2299-2304)に準じて調製した。
【0131】
(組み換えAPのガラス基板への固定化)
(試薬)
96 穴アミノ化ガラスプレートは日本板硝子(株)より提供していただいたもの、購入したものを用いた。CBZ-GlnGly (Z-QG)はSigma から購入した。p-ニトロフェニルリン酸ナトリウム二ナトリウムはキシダ化学(株)より購入した。Diethylene Glycol Bis(3-aminopropyl) Etherは東京化成工業(株)より購入した。Ethanolamine は和光純薬工業(株)より購入した。MTG は味の素(株)から提供していただいた。
【0132】
(AP の活性測定)
活性測定は、AP の基質であるp-ニトロフェニルリン酸(1 mM, 1 M Tris-HCl pH 8)を用いた。p-ニトロフェニルリン酸1 ml をウェルに加え、反応生成物であるp-ニトロフェノールの吸収をマイクロプレートリーダーにより追跡し、反応開始後30分間の吸光度(410 nm)の増加量より算出した酵素活性(mAbs/hour)で評価した。
【0133】
(DGBEを導入したZ-QG 化ガラスプレートの調製)
上記一般式(I)で示されるアミン化合物として(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させた96穴アミノ化ガラスプレートのwell に0.5 Mの無水コハク酸溶液(in DMF)を100 μl加え、室温で一晩静置し、DMF で3 回洗浄後、0.8 M のNHS とEDC をDMF に溶解し、well に100 μl 加え、振とうしながら室温で6 時間反応させた。次いで、 DMF で3 回洗浄後、22%(vol/vol)DGBE 溶液(in DMF)をwell に100 μl 加え、室温で一晩静置した。その後、 蒸留水で9 回洗浄し、DGBEを導入したガラスプレートを得た。
【0134】
DGBEを導入したガラスプレートへのZ-QGの修飾は以下のようにして行った。まず、Z-QG 0.4 mmol, 1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(EDC)0.8 mmol, N-hydroxysuccinimide (NHS) 0.4 mmol をDMSO 4 ml に溶解し、室温で24 時間撹拌した(100 mM のNHS 化Z-QG 溶液)。DMSO で10 mM に希釈したNHS 化Z-QG 溶液を、上記DGBEを導入したアミノ化ガラスプレートに100 μl 加え、室温で一晩放置した。蒸留水で9 回洗浄後、固定化基板として使用した。なお、対照として、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化プレートに直接Z-QGを修飾したガラスプレートを調製し、使用した。
【0135】
(DGBE−Z-QG 化ガラスプレートへのNK6-APあるいはNK14-AP の固定化 )
上記のようにして調製したDGBE−Z-QG 化ガラスプレートに、50 mM のリン酸緩衝液pH 7 に溶解したNK6-APあるいはNK14-AP(0.01 mg/ml)とMTG(0.25 mg/ml)の混合溶液を100 μl 加え、4℃で6 時間反応させた。TBST×3, 1MTris-HCl×6 で洗浄後、上述したAP活性測定方法に従ってAP の活性測定を行った。コントロール実験としてMTG 無しの場合も同様の実験を行った。
【0136】
(ペプチドタグの検討)
NK6-AP と、NK6-AP にGGGSGGGSリンカーを導入したNK14-AP を、これまで同様DGBE−Z-QG 化ガラスプレート上に固定化し、ペプチドタグの反応性を比較した(図23)。対照実験として、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化プレートを直接Z-QG修飾したガラスプレートでも同様の固定化実験を行った(図24)。
【0137】
図23 より、野生型(wild-type AP)は固定化されてないことから、2 種類の組換えAP は全て導入したタグ特異的に固定化されていることが示された。DGBE−Z-QG 化ガラスプレート上への固定化では、NK14-AP がNK6-AP と比べ高い反応性を示した。つまり、タグのフレキシビリティの違い、すなわち、長鎖ペプチドリンカーの導入による固液界面での酵素反応における立体障害の回避が固定化効率の違いに反映される結果となった。また、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化プレートをZ-QGにより直接修飾した図24の結果においても、NK14-APがNK6-APに比べ高い反応性を示した。このことからも、タンパク質に融合するタグ配列の柔軟性が重要であることが分かる。一方、DGBE-Z-QG化ガラスプレートでは、固定化したAPを繰り返し使用しても活性の減少度は小さいのに対し、Z-QGをプレート上のアミノ基に直接修飾した場合は、活性の減少度が大きい。このことから、基板表面に提示する基質ペプチド(Z-QG)部位と基板の間に柔軟な親水性リンカー部位を導入することで、物理吸着を抑制しつつMTGに対する反応性の高いアミノ基を有するタンパク質をより安定により多く固定化できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、MTGを用いたZ-QG化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG濃度の影響を示すグラフである。
【図2】図2は、MTGを用いたZ-QG化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応のpHの影響を示すグラフである。
【図3】図3は、MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、TETA修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図4】図4は、MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG濃度の影響を示すグラフである。
【図5】図5は、MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応のpHの影響を示すグラフである。
【図6】図6は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、BAE修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図7】図7は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図8】図8は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QGのNHS化の際に使用したDICとEDCの違いを示すグラフである。
【図9】図9は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応のpHの影響を示すグラフである。
【図10】図10は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化時の塩濃度の影響を示すグラフである。
【図11】図11は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化時の緩衝液の濃度の影響を示すグラフである。
【図12】図12は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの濃度の影響を示すグラフである。
【図13】図13は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、MTGの濃度の影響を示すグラフである。
【図14】図14は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応温度と固定化量の関係を示すグラフである。
【図15】図15は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応時間と固定化量の関係を示すグラフである。
【図16】図16は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-BAE+EA化ガラス基板を用いてBAEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図17】図17は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-BAE+AE化ガラス基板を用いてBAEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図18】図18は、MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、DGBE修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図19】図19は、MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-DGBE+EA化ガラス基板を用いてDGBEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図20】図20は、MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-DGBE+AE化ガラス基板を用いてDGBEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図21】図21は、各修飾基板における固定化EGFPの蛍光強度を示すグラフである。
【図22】図22は、β−カゼインガラス基板・Z-QG-BAE化ガラス基板との比較を示すグラフである。
【図23】図23は、MTGを用いたDGBE−Z-QG修飾ガラスプレートへの各種組み換えAPの固定化の比較を示すグラフである(左:MTG有り、右:MTGなし)。
【図24】図24は、MTGを用いたZ-QG修飾ガラスプレートへの各種組み換えAPの固定化の比較を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質固定化用基板及びタンパク質固定化方法に関し、特に基板に固定化するタンパク質の配向性の制御、該タンパク質の活性の維持、該タンパク質の固定化量の向上を可能とするタンパク質固定化用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能性タンパク質がバイオテクノロジー関連分野で利用されているが、固定化酵素やプロテインアレイなどへの応用のために、タンパク質の機能を損なわずに部位特異的に固定化するための技術に対する社会的要請が極めて高い。タンパク質はDNAに比べ分子構造ならびに機能の面で極めて多様であるため、DNAアレイの開発とは違い、固定化方法がタンパク質の種類によって大きく異なるため、汎用性の高い固定化法の開発が非常に重要である。プロテインアレイでは、タンパク質が様々な担体に固定化されて利用されるが、一般的な有機化学的手法によるタンパク質固定化では、部位特異的な修飾・固定化は極めて困難であり、目的とするタンパク質の機能保持は極めて難しく、プロテインアレイ開発のボトルネックとなっているのが現状である。
【0003】
一般にタンパク質固定化担体としてはガラススライド、多孔質ゲル、マイクロタイタープレートなどが用いられている。また、タンパク質固定化担体がガラススライドである場合に、表面にアミノ基を導入したスライドガラスが知られている。また、担体上のアミノ基とタンパク質の固定化方法については、グルタルアルデヒドでアミノ基を活性化して、タンパク質の末端アミノ基等と結合させる方法などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記の方法を用いてタンパク質を固定化した場合、タンパク質がアミノ基を介して固定化される(特異吸着)のみならず、アミノシランのアミノ基以外の部分や表面に吸着(非特異吸着)することがある。このような非特異吸着によって、タンパク質の活性点が基板に向く配向性が悪化する問題や、タンパク質それ自体の形が崩れる結果、タンパク質の活性が減少する問題、ELISAなどの生化学分析において、S/N比(S:特異吸着により固定化されたタンパク質からのシグナル、N:非特異吸着により固定化されたタンパク質からのノイズ)が下がり、タンパク質の検出感度が減少してしまう問題がある。また、タンパク質アレイにおいて特異的なタンパク質間相互作用を溶液系に近い状態で正確に検出する場合においても、タンパク質の非特異吸着量はS/N比を低減させる主要な要因となる。
【0005】
これに対して、アミノ基を導入したガラス基板への物理吸着によるタンパク質の固定化方法も知られており、特許文献1には(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを導入したガラス基板へのタンパク固定化時に、アミノ化プレートのアミノ基のpK a、タンパク質のpI、固定化水溶液のpHの間に、pK a> pH> pIの関係が成り立つ場合に、静電相互作用によりタンパク質の活性を維持したまま強く固定化できることが示されている。また、( アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシランを導入したガラス基板ではフェニル基の疎水性効果で、pH に依存しないでタンパク質を固定化し活性を維持できることが示されている。
【0006】
また、アミノ基を用いたタンパク質の固定化方法で、アミノ基を減らすことなく、非特異吸着を抑えることを可能にするタンパク質の固定化方法も開示されている。特許文献2には基板へタンパク質を固定化する方法であって、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンをガラス基板の表面にアミノ基として導入することで、アミノプロピルトリエトキシシランに比べタンパク質の非特異吸着が少ないことが示されている。
【0007】
また、タンパク質の配向性や、活性の低下を引き起こさない方法として、酵素を用いて担体上にタンパク質を固定化する方法も知られている。非特許文献1にはプラスチックの表面にカゼインを物理吸着させ、カゼインに数個含まれるグルタミン残基とN末端に微生物由来のトランスグルタミナーゼ(MTG)認識ペプチドタグ(MKHKGS)を遺伝子組み換え操作で導入したアルカリホスファターゼとをMTGにより固定化する方法が報告されている。ここで、カゼインは牛乳タンパク質の80%を占めるタンパク質であり、微生物由来のMTGが反応可能なグルタミン残基とリジン残基を数個含んでおり、MTGの良質な基質であることが知られている。
【0008】
さらに、MTGを用いた固定化方法として、アミノ基を化学修飾したガラス表面にタンパク質を固定化する方法も知られている。MTGのアシルアクセプター側の基質特異性は比較的低く、リジンだけでなく、各種一級アミンの基質になりえる。一方、アシルドナー側の基質特異性は高く、グルタミンしか基質になり得ない。MTG によるタンパク質固定化において、各種第二級アミノ基及び第三級アミノ基は、MTG の基質にならないことがしられており、一方、非特許文献2では、MTG のグルタミンドナー基質であるN−ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリシン(Z-QG) に対する異なる5 種類のアミン(エチレンジアミン(EDA);ヘキサメチレンジアミン(HMDA);オクタメチレンジアミン(OMDA);ジエチレントリアミン(DETA);トリエチレンテトラミン(TETA)の反応性を比較しており、分子内に存在する第二級アミノ基は、末端アミノ基に対するMTG の反応性を高める効果があること、ガラス基板表面のアミン構造がタンパク質固定化率に影響を与えること、短鎖アミンを修飾した場合は、固定化反応が進まないか、非特異吸着が大きいこと、一方、長鎖アミンを修飾した基板では、MTG の有無による固定化量の差異が明確となることが報告されている。
【0009】
非特許文献3では、イオン交換カラムに物理吸着させた酵素に対して、微生物由来トランスグルタミナーゼを作用させて架橋化を施すことによって酵素を固定化する手法が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2006−258805号公報
【特許文献2】特開2008−44917号公報
【非特許文献1】Biomacromolecules 2005, 6, 35-38
【非特許文献2】Biotechnol Lett., DOI:10.1007/s10529-008-9656-y
【非特許文献3】Biosci. Biotechnol. Biochem. 1992, 56, 1323.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の何れの方法もタンパク質の固定化は可能であるが、タンパク質の配向を制御できるわけではなく、非特異吸着も完全には抑えられていない。
【0012】
さらに、非特許文献1記載の方法によれば、固相表面にタンパク質の配向性と活性を維持して固定化できるが、カゼイン中のグルタミン残基の部位が十分にバルク溶媒側へ露出していない場合があり、MTGと反応できず、固定化量が低くなる問題点がある。また、物理吸着によりカゼインが固相化されるため、固相に提示されるグルタミン残基の量を常に一定にするのは困難である。
【0013】
また、非特許文献2記載の方法では、固相に修飾した第一級アミンは長鎖の方がMTGとの反応性は高まるが、グルタミン残基やリジン残基に比べ、基質特異性が低いため、固定化量が低くなる。また、アミノ基修飾基板へのタンパク質の非特異吸着を完全に抑制できないため、S/N比が十分でない。
【0014】
さらに、非特許文献3記載の方法では、タンパク質の配向性はまったく考慮されておらず、固定化部位も特定されていない。
【0015】
したがって、本発明の目的は、上述した課題を解決し、固定化するタンパク質の配向性の制御、該タンパク質の活性の維持、該タンパク質の固定化量の向上を可能とするタンパク質固定化用基板およびタンパク質固定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、タンパク質の配向性の制御、タンパク質の活性の維持のために、トランスグルタミナーゼ(TG)の認識部位を、基板上に効果的に提示する技術を開発し、これにより目的タンパク質を部位特異的に,且つ共有結合的に固定化することが可能となることを見出した。
【0017】
具体的には、リジン残基を有するTGの基質を導入した基板とグルタミン残基を有するペプチドタグを導入したタンパク質とを、又はグルタミン残基を有するTGの基質を導入した基板とリジン残基を有するペプチドタグを導入したタンパク質とをTGを用いて部位特異的に固定化し、これによって、電気的に中性のTGの基質の導入により、基板表面にアミノ基を導入した場合におけるアミノ基の正電荷による負の影響を低減できることを見出した。
【0018】
さらに、タンパク質の固定化量を向上させるために、適当な長さのペプチドを有する組換えタンパク質を、TGにより効率よく固定化することが可能なタンパク質固定化用基板を開発し、具体的には、基板上にリンカーを導入し、基板に導入するTGの基質と基板の距離を調製することでTGが作用しやすくなり、タンパク質の固定化量の向上が可能となることを見出した。そして、これらの新たな知見により、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明のタンパク質固定化用基板は、 下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基を活性エステルに変換し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。
【0020】
本発明のタンパク質固定化用基板の好適例において、前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリジン(Z-QG)、又はLLQG(配列番号1)、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、Z-QG、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルフェニルアラニン(Z-QF)、又はEAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のタンパク質固定化用基板の他の態様は、上記タンパク質固定化用基板において、前記担体の表面に導入したアミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する代わりに、リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。
【0022】
本発明のタンパク質固定化用基板の好適例において、前記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)もしくはMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はKG、KS、 KK、 KF、 AK、 RK、 HKもしくはMKからなるジペプチドであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のタンパク質固定化用基板の製造方法は、下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させる工程と、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入する工程と、
該カルボキシル基を活性エステルに変換する工程と、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入する工程と、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のタンパク質固定化用基板の製造方法の他の態様は、上記タンパク質固定化用基板の製造方法が、アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程の代わりに、リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入工程を含むことを特徴とする。
【0025】
また、本発明のタンパク質の固定化方法は、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なリジン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記リジン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入されたタンパク質固定化用基板の表面の当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明のタンパク質の固定化方法の好適例において、前記リジン残基を含むペプチドタグが、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)又はMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなることを特徴とする。
【0027】
また、本発明のタンパク質の固定化方法の他の態様は、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なグルタミン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記グルタミン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入されたタンパク質固定化用基板の表面の当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明のタンパク質の固定化方法の好適例において、前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、LLQG(配列番号1)、、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、EAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タンパク質の配向性の制御、タンパク質の活性の維持、タンパク質の固定化量の向上が可能なタンパク質固定化用基板及びその製造方法、並びにタンパク質固定化方法を提供できるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明のタンパク質固定化用基板は、下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基をカルボジイミドと反応させて活性エステルを形成し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。また、本発明のタンパク質固定化用基板の他の態様は、前記タンパク質固定化用基板において、前記担体の表面に導入したアミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する代わりに、リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とする。
【0031】
上述した本発明のタンパク質固定化用基板を構成する担体の表面上には、電気的に中性のトランスグルタミナーゼ(TG)の基質が導入されており、これによって、従来のアミノ基が導入された基板のようにアミノ基の正電荷による負の影響、すなわちタンパク質の非特異吸着を低減することができ、S/N比を向上させることができる。さらに、目的のタンパク質に、基板に導入されたものとは異なるTGの基質(グルタミン残基を基板に導入した場合にはリジン残基を有する基質、リジン残基を導入した場合には、グルタミン残基を有する基質)を例えばペプチドタグとして導入し、TGを用いてグルタミン残基とリジン残基との間にε(γ-グルタミル)リシン結合を形成させて、基板に導入されたTGの基質に目的のタンパク質を連結させることによって、部位特異的に、かつ共有結合的に基板に目的のタンパク質を固定することができ、基板に固定化するタンパク質の配向性の制御及び該タンパク質の活性の維持が可能となる。さらに、予め基板上にリンカーを導入し、TGの基質と基板との間の距離をリンカーによって調製することによって、TGが基板上の基質と作用しやすくなるようにし、これによって、目的タンパク質の固定化量を向上させることができる。
【0032】
上記アミノ基含有ケイ素化合物を示す一般式(I)において、kの上限については、特に限定されるものではないが、非特異的な吸着を減らし、基板とトランスグルタミナーゼの基質との間のリンカーとして適切な長さとするという観点から、kは3以下が好ましく、上記一般式中の前記lは2〜20であることが好ましい。
【0033】
アミノ基含有ケイ素化合物としては、特に限定されず、上記一般式(I)を満たすようなものであればよい。なお、上記一般式(I)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物の中でも、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンが特に好ましい。
【0034】
また、上記担体としては、特に限定されることはないが、ガラス繊維ガラススライド等のガラス、多孔性ゲル、マイクロウエルプレート、シリコンウエハなどの無機基板、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルムなどの有機基板などを挙げることができる。担体の形状に制限はなく、例えば、板、フィルムまたはシートのような平板状のものや、立方体、棒状、球状など3次元形状でもよい。なお、アミノ基含有ケイ素化合物との反応が容易であり、当該化合物を溶かす溶媒への耐性が高く、自家蛍光が低いためELISAなどの生化学分析の検出で使用される蛍光測定において有利であるという観点から、上記担体は、ガラスであることが好ましい。
【0035】
上記アミノ基含有ケイ素化合物の担体への結合は、特に限定されないが、いわゆるシランカップリングによる。例えば、適当な担体を用意し、トルエン、メタノール、エタノール、水などの溶媒中に、アミノ基含有ケイ素化合物を溶解した溶液に担体を浸し、溶液温度5〜100℃で、限定されないが、1〜12時間程度保つと、アミノ基含有ケイ素化合物が担体に結合する。
【0036】
上記担体表面に結合させたアミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基へのカルボキシル基の導入は、例えば、アミノ基含有ケイ素化合物が結合した担体を適宜選択したカルボキシル化剤で処理することによって行うことができる。アミノ基のカルボキシル化剤としては、特に制限されないが、無水コハク酸、無水フタル酸などのようなジカルボン酸無水物などが挙げられる。前記カルボキシル化剤による処理は、具体的には、前記担体を、該カルボキシル化剤をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒に溶解させた溶液に、前記担体を、例えば室温で一晩浸すことによって行うことができる。
【0037】
上記カルボキシル基の活性エステルへの変換は、上述したようにカルボキシル基が導入された担体を、例えばN,N’−ジメチルカルボジイミド(DIC)、1−エチル−3−(3ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・ヒドロクロライド(EDC)等のカルボジイミドの存在下でN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド等のスクシンイミドで処理することによって行うことができる。前記カルボジイミドの存在下での前記スクシンイミドの処理は、具体的には、前記カルボジイミド及び前記スクシンイミドをそれぞれN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解させた混合溶液に、前記担体を、例えば室温で一晩浸すことによって行うことができる。
【0038】
上記のようにして得られた活性エステルと、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物との反応は、上述したように活性エステルを導入した担体をこれらのアミン化合物で処理することによって行うことができる。このように反応を行うことによって、担体表面にアミノ基が導入される。
【0039】
本発明において、上記一般式(II)、(III)又は(IV)で示されるアミン化合物は、基板とTGの基質との間の距離を調整するリンカーとして働く。これらのリンカーの構造と長さを調節することによって、タンパク質の基板への非特異吸着を減らし、連結するTGの基質にTGが作用しやすくなるようにすることができ、タンパク質の固定化量を向上させることができる。
【0040】
上記第2級アミノ基を有するアミン化合物を示す一般式(II)において、mの値は、特に限定されるものではないが、基板とトランスグルタミナーゼの基質との距離を充分に確保するという観点から、mは2又は3が好ましい。
【0041】
上記第2級アミノ基を有するアミン化合物としては、特に限定されず、上記一般式(II)を満たすようなものであればよく、例えば、トリエチレンテトラミン(TETA)、 ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン(TEPA)等が挙げられる。これらの中でも、TETAが好ましい。
【0042】
また、第2級アミノ基を有するアミン化合物として、天然の生理活性ジアミンであるスペルミンやスペルミジンも本発明に利用することができる。
【0043】
また、上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を示す一般式(III)において、nの値は、特に限定されるものではないが、基板とトランスグルタミナーゼの基質との距離を充分に確保するという観点から、nは2又は3が好ましい。
【0044】
上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物としては、特に限定されず、上記一般式(III)を満たすようなものであればよく、例えば、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(BEA)、2,2’−オキシビス(エチルアミン)、1,11−ジアミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン(TUDA)等が挙げられる。これらの中でも、BEAが好ましい。
【0045】
また、上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を示す一般式(IV)において、oの値は、特に限定されるものではないが、基板とトランスグルタミナーゼの基質との距離を充分に確保するという観点から、oは2又は3が好ましい。
【0046】
上記ポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物としては、特に限定されず、上記一般式(IV)を満たすようなものであればよく、例えば、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル(DGBE)、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル(EGBE)等が挙げられる。これらの中でも、DGBEが好ましい。
【0047】
なお、固定化量をより向上させるという観点から、上述した一般式(II)、(III)又は(IV)で示されるアミン化合物の中でも、一般式(III)又は(IV)で示されるアミン化合物が好ましく、特にBEA、DGBEが好ましい。
【0048】
上記担体表面に導入された活性エステルと上述したアミン化合物との反応は、具体的には、上述したアミン化合物をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解させた溶液に、前記活性エステルが導入された担体を、例えば室温で一晩浸すことによって行うことができる。なお、反応後、前記アミン化合物と未反応の活性エステルを、例えばエタノールアミン塩酸塩水溶液(pH8.5)などと反応させることによってブロッキングすることが望ましい。反応に用いるアミン化合物溶液の濃度は、用いるアミン化合物によって適宜選択することができる。
【0049】
本発明においては、上述したようにして担体表面に導入されたアミノ基にグルタミン残基又はリジン残基を有するトランスグルタミナーゼ(TG)の基質を導入する。これによって、グルタミン残基又はリジン残基を有するトランスグルタミナーゼ(TG)の基質が担体表面に導入された本発明のタンパク質固定化用基板が得られる。
【0050】
グルタミン残基を有するTGの基質としては、前記TGが微生物由来のものである場合には、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリジン(Z-QG)、又はLLQG(配列番号1)、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドが挙げられ、前記MTGが哺乳類由来のものである場合には、Z-QG、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルフェニルアラニン(Z-QF)、又はEAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドが挙げられる。ここで、「N末端保護ペプチド」とは、N末端がグリシン(G)である基質ペプチドにおいて、自己架橋による副産物が生じるのを防ぐために、N末端アミノ基の水素を適切な基で置換することによりTGの基質とはならないように保護したペプチドを意味する。なお、N末端保護の手段により、TGの反応性が異なることが知られており、詳細には、哺乳類由来TGに関して、GQQQLG(配列番号15)のN末アセチル化による保護(即ち、Ac-GQQQLG)、またN末端アミノ酸をDOPA(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)にする(即ち、DOPA-GQQQLG)と反応性が向上することが知られている。このような保護の例を、本発明においても利用することができる。これらの中でも、合成の容易さと分子サイズの小ささから、Z-QGが好ましい。
【0051】
リジン残基を有するTGの基質としては、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)もしくはMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はKG、KS、 KK、 KF、 AK、 RK、 HKもしくはMKからなるジペプチドが挙げられる。これらの中でも、タンパク質連結における高い反応性から、MKHKGS(配列番号18)が好ましい。
【0052】
上述したTGの基質の前記担体表面に導入されたアミノ基への導入は、上述したカルボキシル基の活性エステルへの変換と同様に、上記カルボジイミドの存在下で上記スクシイミドを前記基質と反応させ、前記基質の末端のカルボキシル基を活性エステルに変換して、前記基質の活性エステル中間体を形成し、該中間体を前記担体表面のアミノ基と反応させることによって行うことができる。活性エステル中間体を形成する反応及び該中間体と前記担体の表面のアミノ基との反応の条件は、特に限定されず、例えば室温で一晩反応させることによってそれぞれの反応を行うことができる。
【0053】
次に、本発明のタンパク質の固定化方法について説明する。本発明のタンパク質の固定化方法は、タンパク質にトランスグルタミナーゼ(TG)が認識可能なリジン残基又はN末端α−アミノ基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記リジン残基又は前記N末端α−アミノ基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入された本発明のタンパク質固定化用基板の表面に存在する当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0054】
また、本発明のタンパク質の固定化方法の他の態様は、タンパク質にトランスグルタミナーゼ(TG)が認識可能なグルタミン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記グルタミン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、上記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が導入された本発明のタンパク質固定化用基板の表面に存在する当該トランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とする。
【0055】
上述した本発明のタンパク質固定化方法のいずれの態様においても、固定化するタンパク質にペプチドタグを導入し、本発明のタンパク質固定化用基板を用いることによって、該タンパク質の配向性を制御できるとともに、該タンパク質の活性を維持することができ、さらに該タンパク質の固定量を向上させることができる。
【0056】
本発明のタンパク質固定化用基板に固定化するタンパク質としては、特に限定されず、例えばGFP(green fluorecent protein)、EGFP(enhanced green fluorecent protein)等の蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ(AP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、リゾチーム等の酵素タンパク質や、抗体、抗体断片、細胞増殖因子、サイトカイン等が挙げられる。ペプチドタグが容易に導入可能との観点からは、遺伝子工学的に製造可能なタンパク質が好ましい。また、抗体エピトープ配列を含むペプチドや抗菌ペプチド等の生理活性ペプチドも、本発明のタンパク質の固定化方法によって固定化することができ、したがって、本明細書における「タンパク質」という用語にはこれらのペプチドも含まれるものとする。
【0057】
固定化するタンパク質に導入されるTGが認識可能なリジン残基を有するペプチドタグとしては、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端グリシン(N-terminal GGG、N-terminal GGGGG(配列番号21))、N末端MKHKGSと対象タンパク質間のリンカー部位を伸ばしたMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチドタグが挙げられる。これらの中でも、固定化時の立体障害との緩和と反応性から、MKHKGS(配列番号18)、GGGGG(配列番号21)又はMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチドタグが好ましい。
【0058】
また、固定化するタンパク質に導入されるTGが認識可能なグルタミン残基を有するペプチドタグとしては、前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものである場合には、LLQG(配列番号1)、、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドからなるペプチドが挙げられ、前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものである場合には、EAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドが挙げられる。
【0059】
上記ペプチドタグのタンパク質への導入は、遺伝子工学的な手法によって、C末端又はN末端に前記ペプチドタグを導入した組み換えタンパク質を調製することによって行うことができる。C末端又はN末端にTGaseの前記ペプチドタグが導入された当該組換えタンパク質の精製は、それぞれN末端又はC末端に付加した(His)6-tagを利用し(TGの反応性の低下を回避するために、基質ペプチドタグを入れた末端とは異なる末端にHis-tagを入れるようにデザインするとよい。)、ゲル濾過カラムにより行うことができ、またアミノ酸配列の確認は当該タンパク質をコードするプラスミドベクターの遺伝子配列をDNAシーケンサーにて確認するか、N末端に導入された基質ペプチドについてはN末端分析により直接同定することができる。タンパク質の精製の確認は SDS-PAGE で行うことができる。
【0060】
本発明のタンパク質の固定化方法に用いるトランスグルタミナーゼ(TG)としては、種々のものを用いることができ、哺乳類(guinea pig、ヒト)、無脊椎動物(昆虫、カブトガニ、ウニ)、植物、菌類、原生生物(粘菌)由来のものが挙げられる。これらの中でも、安定性、反応性、他の由来のTGよりも小さい分子サイズであることから、微生物由来のものを用いるのが好ましい。
【0061】
上記タンパク質に導入された上記ペプチドタグと上記タンパク質固定化用基板の表面に存在する上記TGの基質とのTGによる連結は、例えば、上記ペプチドタグを導入したタンパク質とTGを、適宜選択した反応バッファーに溶解して、反応溶液を調製し、該反応溶液に上記タンパク質固定化用基板を浸すことによって行うことができる。タンパク質をより多く固定化するという観点から、反応溶液のpHは5〜7、好ましくは6である。また、反応温度は4〜37℃が好ましい。反応時間は、6時間あれば充分であり、場合によっては30分程度でもよい。なお、上述した連結によって得られる連結部は、リジン残基とグルタミン残基とが、ε(γ-グルタミル)リシン結合を形成することにより構成されている。
【0062】
上述した本発明のタンパク質固定化用基板及びタンパク質固定化方法は、特にプロテインアレイの開発に応用可能である。本発明によれば、タンパク質の配向性を制御し、かつその活性を維持しつつ、より多くのタンパク質を基板に固定することが可能であり、さらに、非特異吸着量を低減することが可能であるため、固定化したタンパク質の検出感度を増大させることが可能である。
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【実施例】
【0064】
(実施例1 MTGを用いたEGFPのガラス基板への固定化)
本実施例では、上記一般式(I)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物として(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化ガラスプレート(日本板硝子(株)製96穴タイプ)を用いた。また、上記一般式(II)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物としてTETA(和光純薬工業(株))を、又は上記一般式(III)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物としてBAE(和光純薬工業(株))を導入し、グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質としてZ-QG(CBZ-GlnGly、Sigma)を導入した基板をタンパク質の固定化に用いた。また、トランスグルタミナーゼとして、微生物由来のトランスグルタミナーゼ(MTG)(味の素(株)から提供して頂いたもの)を使用し、固定化するタンパク質として、下記のようにしてN末端にMTG認識ペプチドタグを導入したEGFP(NK6-EGFP)を用いた。
【0065】
(NK6-EGFPの調製)
EGFPのN末端に制限酵素NdeIサイト中のatgを開始コドンとするMKHKGS(配列番号18)の付加配列を、C末端にヘキサヒスチジンタグと終始コドンと制限酵素NcoIサイトをコードする遺伝子プライマーをそれぞれ設計し、EGFPをコードするプラスミドを鋳型として PCR 法により目的のタンパク質(NK6-EGFP)をコードする遺伝子断片を得た。これを NdeI/NcoI 処理し、同じ制限酵素により処理した pET22 ベクターに挿入した。得られたNK6-EGFP発現ベクターを用いて、既報(Org. Biomol. Chem., 5, 1764-1770, 2007)に準じてNK6-EGFPを調製した。
【0066】
(Z-QG化ガラス基板の調製)
MTGの良基質として知られているZ-QGを使い、下記スキーム1(化1)により、Z-QG化ガラス基板を調製した。
【化1】
【0067】
i) それぞれの濃度のZ-QG溶液(in DMSO)を調製し、最終濃度が0.1M になるようにN,N’−ジメチルカルボジイミド(DIC)溶液(in DMSO)を加えた。
ii) 最終濃度が0.1MになるようにN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)溶液(in DMSO)を加え、一晩攪拌した(RT, 80rpm)。
iii) それぞれのNHS化Z-QG溶液を上記アミノ化ガラスプレートに100μLずつ加え、一晩放置し(RT, 80rpm)、MilliQで9回洗浄した。
【0068】
(MTGを用いるNK-EGFPの固定化反応)
終濃度が、NK-EGFP(10μg/well)、MTG(0.05U/well)、50mM 反応バッファーになるように、それぞれの反応溶液を調製し、Z-QG化ガラス基板に100μLずつ加え、固定化反応を開始した。4℃で6時間インキュベートした後、TBST溶液(25mM Tris-HCl, 2.7mM KCl, 0.137mM NaCl, 0.05% Tween20)で6回洗浄、1M NaClで6回洗浄することで、未反応のNK-EGFPとMTGを取り除いた。
【0069】
また、コントロール実験としてMTG非存在下でも同様な実験を行った。その後、蛍光イメージャーで測定を行った (488nm Excitation, 533nm band pass)。
【0070】
(Z-QG濃度の検討)
Z-QG化ガラス基板を調製する時に、Z-QGの濃度を0.01mM〜10mMにし、4種類のZ-QG濃度の異なるZ-QG化ガラス基板を調製し、それぞれの基板におけるNK-EGFPの固定化を試みた。固定化時の条件は50mM Tris-HCl buffer (pH7) である。
【0071】
(固定化反応pHの検討)
Z-QG導入濃度が1mMのときのNK-EGFPの固定化へのpH依存性を検討した。固定化時の条件は50mM phosphate buffer (pH5, pH6)、50mM Tris-HCl buffer (pH7, pH8) である。
【0072】
(MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(TETAのアミノ化ガラスプレートへの導入)
下記スキーム2(化2)にしたがって、Z-QGを導入する前にリンカーとして二級アミンを有するトリエチレンテトラミン (TETA)を上記アミノ化ガラスプレートに導入し 、TETA化ガラスプレートを調製した 。
【化2】
【0073】
i) アミノ化ガラスプレート(A)に0.5M 無水コハク酸溶液(in DMF) を100μL/well加え、
一晩放置した (80rpm, RT)。その後、DMFで3回洗浄を行った。
ii)Bに、0.5M N-Hydroxysuccinimide(NHS)+0.5M N,N′-Diisopropylcarbodiimide(DIC)の混合溶液(in DMF)を100μL/well 加え、6時間反応させた(80rpm, RT)。その後、DMFで3回洗浄を行った。
iii) triethylenetetramine(TETA) 溶液 (in DMF)を100μL/well 加え、一晩放置した(80rpm, RT)。その後、DMFで3回洗浄を行った。
iv) TETAが導入されてない活性エステルを無くすため、1M ethanolamine-HCl (pH8.5) を100μL/well 入れ、6時間反応させた後、MilliQで9回洗浄した。
【0074】
(Z-QG-TETA化ガラス基板の調製)
上記スキーム1と同様である。但し、アミノ化ガラスプレートではなく、スキーム2で調製したTETA化ガラス基板を用いた。
【0075】
(TETA修飾濃度の検討)
リンカーであるTETAの修飾濃度を0mM-1000mMで変化させ、TETA修飾濃度の違うTETA化ガラス基板を調製し、Z-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-TETA化ガラス基板におけるNK-EGFPの固定化を行った。 固定化時の条件は50mM Tris-HCl buffer (pH7) である。
【0076】
(Z-QG濃度の検討)
1M TETA化ガラス基板にZ-QGの濃度を0.01mM〜10mMに変化させ、Z-QG-TETA化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を試みた。固定化時の条件は50mM Tris-HCl buffer (pH7) である。
【0077】
(固定化反応pHの検討)
1M TETA化ガラス基板に Z-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-TETA化ガラス基板を調製し、この基板におけるNK-EGFPの固定化へのpH依存性を検討した。固定化時の条件は50mM acetate buffer(pH5, pH6)、 50mM phosphate buffer (pH5, pH6, pH7, pH8)、50mM Tris-HCl buffer (pH7, pH8) である。
【0078】
(MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
Z-QG-BAE化ガラス基板の調製は、上述した Z-QG-TETA化ガラス基板調製法と同様である。但し、リンカーはTETAではなく、TETAと長さは同じで、二級アミンの代わりに、PEG鎖を有する1,2-bis(2-aminoethoxy)ethane (BAE) を用いた 。
【0079】
(BAE修飾濃度の検討)
リンカーとしてBAEを導入した1mM Z-QG-BAE化ガラス基板の調製時のBAE修飾濃度を0.25M〜2Mまで変化し、その影響を検討した。固定化時の条件は50mM phosphate buffer (pH6) である。
【0080】
(Z-QGに関する検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの濃度を0.025mMから1mMまで変化させ、Z-QG-BAE化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を行った。また、Z-QGをNHS化させるときにDICではなく、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride (EDC) を使い、その違いを確認した (スキーム3(化3))。
【化3】
【0081】
DICを用いてZ-QG-NHS化は今までと同様である。EDCを用いた場合は、最終濃度が1mM Z-QG, 10mM NHS, 10mM EDC, 0.1M MES buffer (pH4.8) になるように溶液を調製した。
【0082】
(固定化反応pHの検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、この基板におけるNK-EGFPの固定化へのpH依存性を検討した。固定化時の条件は50mM acetate buffer(pH5, pH6)、50mM phosphate buffer (pH5, pH6, pH7, pH8)、50mM Tris-HCl buffer (pH7, pH8) である。
【0083】
(固定化時の塩濃度の検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、固定化時の塩濃度の影響について検討を行った。固定化時の溶液のNaCl濃度がそれぞれ0mM, 100mM, 200mMになるように溶液を調製し、固定化反応を行った。
【0084】
(固定化時の緩衝液濃度の検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、固定化時の緩衝液濃度の影響について検討を行った。緩衝液は5mM, 100mM, 200mM pH6 phosphate bufferを用いた。
【0085】
(NK-EGFP濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによる固定化を行う際にNK-EGFPの濃度が適切であるかを確認するため、NK-EGFPの濃度を1μg/wellから20μg/wellに変化させ、その相対的な蛍光強度を調べた。
【0086】
(MTG濃度の検討)
MTGによるNK-EGFPの固定化を行う時にMTGの濃度が適切であるかを確認するため、1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGの濃度を0.005U/wellから0.5U/wellに変化させ、その相対的な蛍光強度を調べた。
【0087】
(固定化反応温度の検討)
固定化反応における反応温度の影響を調べるため、4℃と37℃にそれぞれ1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化を行った。
【0088】
(固定化反応時間の検討)
固定化反応時間について検討を行うために、固定化反応時間を0時間から6時間まで変化させ、1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化を行った。
【0089】
(BAE+EA, BAE+AEの混合基板に対する検討)
BAEの修飾密度を調節し、スペースを空けるために、一方はアミンを有し、片方はMTGの触媒反応を受けないアルコール基を持つethanolamine (EA、和光純薬工業(株))、2-(2-aminoethoxy) ethanol (AE、東京化成工業(株)) を総合濃度が1MになるようにBAEと混合した。BAEとEA (or AE)を0:100, 25:75, 50:50, 75:25 の割合で混合し、Z-QG-BAE+EA化ガラス基板、Z-QG-BAE+AE化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を行った。
【0090】
(MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
Z-QG-DGBE化ガラス基板の調製は上述したZ-QG-TETA化基板調製法と同様である。但し、リンカーはTETAではなく、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル(DGBE) を用いた。
【0091】
(DGBE修飾濃度の検討)
リンカーとしてDGBEを導入した1mM Z-QG-DGBEガラス基板の調製時のDGBE修飾濃度を0.1M〜2Mまで変化し、その影響を検討した。固定化反応際は50mM phosphate buffer (pH6) を用いた。
【0092】
(DGBE+EA, DGBE+AEの混合基板に対する検討)
DGBEの修飾密度を調節し、スペースを空けるために、一方はアミンを有し、片方はMTGの触媒反応を受けないアルコール基を持つethanolamine (EA)、2-(2-aminoethoxy) ethanol (AE) を総合濃度が1Mになるように 混合した。DGBEとEA (or AE)を25:75, 50:50, 75:25, 90:10 の割合で混合し、Z-QG-DGBE+EA化ガラスプレート、Z-QG-DGBE+AE化ガラスプレートを調製し、NK-EGFPの固定化を行った。
【0093】
(MTGを用いたカゼインガラス基板へのNK6-EGFPの固定化 )
カゼインは、牛乳タンパク質の約80%を占めるタンパク質であり、MTGが反応可能なGln残基、Lys残基を数個含んでいるため、MTGの良い基質であることが分かっている(Colloids and Surface A:Eng. Aspects 216, 75-81 (2003))。また、疎水性相互作用により、プラスチック表面に容易かつ強固に吸着し、非特異吸着を抑制できるため(J. Phys. Chem. B 108, 13387-13394 (2004))、固定化基板として優れている(Biomacromolecules 6, 35-38 (2005))。
今回はガラス基板へβ-カゼインとBSAをそれぞれアミノ化ガラスプレートに物理吸着し、MTGによりNK-EGFPを固定化反応させ、それをZ-QG-BAE基板との比較を行った。
【0094】
(β-カゼイン被覆基板の調製)
アミノ化ガラスプレートにβ-カゼイン溶液 (5mg/mL, 50mM Tris-HCl, pH 7.5)を100 μL加え、4 ℃で6時間放置することで、カゼインをプレートに物理吸着させた。その後、TBST溶液 (25mM Tris-HCl, 2.7mM KCl, 0.137mM NaCl, 0.05% Tween20)で3回洗浄し、吸着していないβ-カゼインを除きβ-カゼイン被覆基板を作成した。また、上述したZ-QG化ガラス基板へのNK-EGFPの固定化反応と同様にMTGによるNK-EGFPの固定化を行い、蛍光イメージャーで測定を行った (488nm Excitation, 533nm band pass)。固定化反応バッファーは50mM sodium acetate buffer (pH5)を用いた。
【0095】
(結果と考察)
(MTGを用いたZ-QG化ガラスプレートへのNK6-EGFPの固定化)
(Z-QG濃度の検討)
Z-QG化ガラス基板を調製する時に、Z-QGの濃度を0.01mM〜10mMにし、NK-EGFPの固定化を試みた。図1より、10mM Z-QG溶液の結果との比較より、1mM Z-QG溶液が導入濃度として十分であることが分かった。また、MTGを加えてないwellにも相当量の蛍光強度が測定されたため、Z-QG化ガラス基板へのNK-EGFPの物理吸着があると考える。
【0096】
(固定化反応pHの検討)
Z-QG導入濃度が1mMのとき、調製したZ-QG化ガラス基板におけるNK-EGFPの固定化反応のpH依存性を検討した。
【0097】
図2よりZ-QG化ガラス基板は反応バッファーのpHが7のとき、MTGによる固定化量が一番多いことから、pH7が最適pHであると考えられる。しかし、NK-EGFPの非特異吸着もpH7で一番多かった。
【0098】
(MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(TETA修飾濃度の検討)
Z-QG-TETA化ガラス基板の調製時にリンカーであるTETAの修飾濃度を0mM-1000mMで変化させ、MTGによるNK-EGFPの固定化を行った。図3より、濃度の変化と蛍光強度の間にきれいな相関関係ではないが、TETA修飾濃度の増加につれて、蛍光強度の増加が見られた。
【0099】
(Z-QG濃度の検討)
1M TETA化ガラス基板にZ-QGの濃度を変化させ、Z-QG-TETA化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を試みた。
【0100】
図4より、Z-QGの導入濃度が0.1mMと1mMの間に大きな違いが見られた。また、Z-QGの導入濃度が1mMと10mMの時の固定化量はほぼ同じであったため、1M TETA化ガラス基板におけるZ-QGの導入濃度は1mMで十分であると考える。
【0101】
(固定化反応pHの検討)
1mM Z-QG-1M TETA化ガラス基板へのNK-EGFPの固定化反応pHによる影響について調べた。
【0102】
図5より、固定化反応の最適pHが7であったZ-QG化ガラス基板とは異なり、Z-QG-TETA化ガラス基板に対する固定化はpHが5〜7で高く、pH6でやや高い傾向をしめした。この結果より、基板に修飾したリンカーはガラス表面の見かけ上のpHを変化させると考える。
【0103】
(MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(BAE修飾濃度の検討)
リンカーとしてBAEを導入した1mM Z-QG-BAEガラス基板の調製時のBAE修飾濃度の影響を検討した。その結果(図6)より BAEの修飾濃度は0.5Mで十分であることが分かった。誤差の範囲であるが、0.5Mより濃い方がその固定化量は少なかった。
【0104】
(Z-QGに関する検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの濃度を0.025mMから1mMまで変化させ、Z-QG-BAE化ガラス基板を調製し、NK-EGFPの固定化を試みた。図7より、Z-QGの導入濃度が濃い方がMTGの基質であるGln残基を多く持つことより、より固定化できると考える。また、NHS-Z-QG中間体を形成させる時、DICとEDCを使い、DMFと水の中でそれぞれを反応させ、Z-QG-BAE化ガラス基板を調製し、ガラスプレートに修飾された一級アミンとの反応性について検討した。その結果、水系で反応させる方よりDICを使った方がより固定化できた(図8)ことから、DICの方がZ-QGの修飾量が多いと考える。
【0105】
(固定化反応pHの検討)
1mM Z-QG-0.5M BAE化ガラス基板へのNK-EGFPの固定化反応pHによる影響を調べてみた。Z-QG-TETA化ガラス基板の結果と同じように、pH5〜7が固定化時のpHとして適当であり、pH6でやや高い傾向をしめした(図9)。
【0106】
(固定化時の塩濃度の検討)
0.5M BAE化ガラス基板にZ-QGの導入濃度が1mMであるZ-QG-BAE化ガラス基板を調製し、固定化時の溶液のNaCl濃度がそれぞれ0mM, 100mM, 200mMになるように溶液を調製し、固定化反応を行った結果を図10に示す。塩濃度が高くなることにつれて、固定化量が少しずつ低下している。この結果は、前述のように、本固定化手法では静電的な相互作用が固定化率を左右する一因であるという考察の証拠になり得る。溶液系でのMTGの反応自体は、この濃度領域では塩濃度の影響を受けない。
【0107】
つまり、この結果はMTG反応を利用したタンパク質固定化が、タンパク質間の静電相互作用により促進されることを示している。しかし、その効果は、カゼイン物理吸着基板やアミノ化基板で観察されたような大きな効果ではなく、生理緩衝液濃度(NaCl = 150mM)程度であれば、溶液の塩濃度に左右されない固定化修飾基板、と見なすことができる。
【0108】
(固定化時の緩衝液濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAE化ガラス基板における固定化時の緩衝液濃度の影響の結果を図11に示す。緩衝液の濃度が高くなるにつれて固定化量が低下する。この理由として、塩濃度の影響と同じように、緩衝液の濃度が低い方が、静電的相互作用が強く作用するからであると考える。
【0109】
(NK-EGFP濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによる固定化を行う際にNK-EGFPの濃度の影響を検討した。その結果、1μg/well と10μg/well の間に大きな差が見られたが、10μg/well と20μg/well との差は見られなかったため、NK-EGFPの濃度として10μg/wellが適切であることが確認できた(図12)。
【0110】
(MTG濃度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGの濃度の影響を調べたところ、0.05U/well以上の固定化量に変わりがないことより、固定化反応に必要なMTG濃度は0.05U/well で十分であることが分かった(図13)。
【0111】
(固定化反応温度の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化反応温度の影響を調べた。MTGの触媒反応の最適温度は37℃〜40℃であるが、図14より、固定化反応が進行するのに、MTGの触媒活性は4℃でも十分高いということが分かった。これは、高温で変性しやすいタンパク質の固定化を可能にする点で、極めて大きな意味を持つ結果である。
【0112】
(固定化反応時間の検討)
1mM Z-QG-0.5M BAEガラス基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化反応時間について検討を行い、その結果を図15に示す。0h〜4hまで反応時間につれて固定化量が増加したことより、固定化反応はある程度の時間が必要であることが分かった。4h〜6hの間、固定化量に変化がないことより、反応4時間後、固定化反応は平衡に至ると考える。
【0113】
(BAE+EA, BAE+AEの混合基板に対する検討)
一方はアミンを有し、片方はMTGの触媒反応を受けないアルコール基を持つethanolamine (EA)、2-(2-aminoethoxy) ethanol (AE) を全濃度が1MになるようにBAEと混合して Z-QG-BAE+EA化ガラス基板、Z-QG-BAE+AE化ガラス基板を調製し、BAEの修飾密度の影響について調べてみた 。その結果(図16及び17)よりBAEの濃度の上昇にしたがって蛍光強度の増加が見られたため、固定化反応時に立体障害が生じない程度の密度でBAEが修飾されていると考えられる。また、AEとEAの違いはほとんど見られなかったが、エチレングリコールリンカーを有するAEの方がエラーバーが小さい。また、AEの方がやや頭打ちの傾向が見られる。
【0114】
(MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化)
(DGBE修飾濃度の検討)
1mM Z-QG-DGBEガラス基板の調製時のDGBE修飾濃度を0.1M〜2Mまで変化し、その影響を検討した。図18より、DGBEの修飾濃度は1Mで十分であることが分かった。
【0115】
(DGBE+EA, DGBE+AEの混合基板に対する検討)
Z-QG-DGBE+EA化ガラス基板、Z-QG-DGBE+AE化ガラス基板を調製し、DGBEの密度を調節した結果を図19及び20に示す。これらの結果より、DGBEの濃度にしたがって蛍光強度の増加が見られたため、Z-QG-BAE化基板と同様に、固定化反応の際、EGFPとMTGの立体障害が生じないほどの密度でDGBEが修飾されていると考える。
【0116】
しかし、図17のBAE+AE混合基板と違って、DGBE-AE基板におけて、混合比が25:75, 50:50, 75:25のときはほぼ同じであった。
【0117】
(種々のガラス基板におけるNK-EGFPの固定化の比較)
(Z-QG化・Z-QG-TETA化・Z-QG-BAE化ガラスプレートの比較)
リンカー有無の基板 (Z-QG化基板/Z-QG-TETA化基板・Z-QG-BAE化基板) においてのタンパク質固定化の比較より、リンカーは非特異吸着を低減し、MTGによる固定化反応を促進する効果があることが分かった (図21) 。
【0118】
また、分子内に第二級アミンを有する triethylenetetramine (TETA) をリンカーとして導入したZ-QG-TETA化ガラス基板、TETAと長さは同じで、 PEG鎖を有する1,2-bis(2-aminoethoxy)ethane (BAE) をリンカーとして導入したZ-QG-BAE化ガラス基板との比較より、Z-QG-BAE化ガラス基板の方がより固定化できることが分かった (図21) 。
【0119】
リンカーがMTGによる固定化反応を促進する理由として、MTGの活性部位の深さが原因であると考える。すなわち、MTGの活性中心であるCys64が大きく窪んだクレフトの中に存在しているため、MTGの基質であるZ-QGのGln残基に近づくためには基板表面にある程度の距離が必要であると考えられる。
【0120】
また、PEG鎖を有するBAEをリンカーとして導入した基板の方がより固定化できた理由としては、MTGの反応機構におけるMTGとGln残基との中間体の形成し易さに関係があると考えられる。
【0121】
(β-カゼイン修飾ガラス基板とZ-QG-BAE化ガラス基板との比較)
従来のタンパク質固定化基板として、β-カゼインポリスチレン基板が知られている(Biomacromolecules 6, 35-38)。同様の操作で、ガラス基板にβ-カゼインを物理吸着させ、β-カゼイン修飾ガラス基板を調製し、Z-QG-BAE化ガラス基板との比較を行った。結果を図22に示す。図22より、両修飾基板とも非特異吸着を抑える効果があることが分かった。未修飾ウエルの蛍光を基準としたバックグラウンドのレベルを考えると、MTGによる固定化反応時に、二つの基板における非特異吸着はほぼ起こっていないと考えられる 。
【0122】
また、それぞれの基板におけるMTGによるNK-EGFPの固定化反応を行った結果、 β-カゼインガラス基板より、Z-QG-BAEガラス基板の方が固定化量の面で優れていることが分かった。この理由として、カゼイン中のグルタミンドナー部位が十分にバルク溶媒側へ露出していないことが推察される。この点において、基板を基質ペプチドによりきちんと修飾することの意義があると考えられる。
【0123】
以上の結果から、Z-QG化基板において、Z-QGの導入濃度は1mMで十分であることが分かった。また、pH7の時に固定化反応が最も効率よく進行した。
【0124】
Z-QG-TETA化基板において、TETAの修飾濃度が1M以上、Z-QG導入濃度が1mM以上、pH6において最も効率の良い固定化が可能であった。
【0125】
Z-QG-BAE基板において、BAE修飾濃度が0.5M以上、Z-QG導入濃度が1mM以上、pH6で固定化反応を行ったときに最も効率の良い固定化が可能であった。また、固定化反応における塩濃度、緩衝液濃度の影響の検討より、固定化効率にはZ-QG-MTGの中間体と、NK-EGFP間の静電的相互作用も寄与することが分かった。また、固定化時の条件として、固定化反応温度が4℃でも十分固定化が進行することが分かった。
【0126】
リンカー有無の基板においてのタンパク質固定化の比較より、リンカーは非特異吸着を低減し、MTGによる固定化反応を促進する効果があることが分かった。この理由として、MTGの活性中心であるCys64が大きく窪んだクレフトの中に存在しているため、MTGの基質であるZ-QGのGln残基に近づくためには基板表面にある程度の距離が必要であると考えられる。また、リンカーの違うZ-QG化基板 (Z-QG-TETA基板 / Z-QG-BAE基板) との比較より、PEG鎖を有するBAEをリンカーとして導入した基板の方がより固定化できることが分かった。これはMTGとGln残基との中間体形成のし易さと関係があると考える。
【0127】
β-カゼイン修飾ガラス基板とZ-QG-BAE化ガラス基板との比較より、両方とも非特異吸着を抑える効果があることが分かった。また、Z-QG-BAEガラス基板の方が、固定化収率の点で、タンパク質固定化基板としてより優れていることが分かった。
【0128】
(実施例2 MTGを用いたアルカリフォスファターゼのガラス基板への固定化)
本実施例では、固定化するタンパク質としてEGFPの代わりにアルカリフォスファターゼ(AP)を用いて、実施例1と同様に、Z-QG化ガラス基板への固定化を試みた。
【0129】
(実験方法)
(試薬)
全ての制限酵素はTakara 社より購入した。Casein はSigma 社から購入したcaseinsodium salt を用いた。NK6-AP は、既報(Enzyme Mycrob. Technol. 2004, 35, 613-618)に準じて調製した。MTG は味の素(株)から提供していただいた。
【0130】
(NK14-AP の調製)
NK14-APは、既報(Biomacromolecules, 2005, 6, 2299-2304)に準じて調製した。
【0131】
(組み換えAPのガラス基板への固定化)
(試薬)
96 穴アミノ化ガラスプレートは日本板硝子(株)より提供していただいたもの、購入したものを用いた。CBZ-GlnGly (Z-QG)はSigma から購入した。p-ニトロフェニルリン酸ナトリウム二ナトリウムはキシダ化学(株)より購入した。Diethylene Glycol Bis(3-aminopropyl) Etherは東京化成工業(株)より購入した。Ethanolamine は和光純薬工業(株)より購入した。MTG は味の素(株)から提供していただいた。
【0132】
(AP の活性測定)
活性測定は、AP の基質であるp-ニトロフェニルリン酸(1 mM, 1 M Tris-HCl pH 8)を用いた。p-ニトロフェニルリン酸1 ml をウェルに加え、反応生成物であるp-ニトロフェノールの吸収をマイクロプレートリーダーにより追跡し、反応開始後30分間の吸光度(410 nm)の増加量より算出した酵素活性(mAbs/hour)で評価した。
【0133】
(DGBEを導入したZ-QG 化ガラスプレートの調製)
上記一般式(I)で示されるアミン化合物として(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させた96穴アミノ化ガラスプレートのwell に0.5 Mの無水コハク酸溶液(in DMF)を100 μl加え、室温で一晩静置し、DMF で3 回洗浄後、0.8 M のNHS とEDC をDMF に溶解し、well に100 μl 加え、振とうしながら室温で6 時間反応させた。次いで、 DMF で3 回洗浄後、22%(vol/vol)DGBE 溶液(in DMF)をwell に100 μl 加え、室温で一晩静置した。その後、 蒸留水で9 回洗浄し、DGBEを導入したガラスプレートを得た。
【0134】
DGBEを導入したガラスプレートへのZ-QGの修飾は以下のようにして行った。まず、Z-QG 0.4 mmol, 1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(EDC)0.8 mmol, N-hydroxysuccinimide (NHS) 0.4 mmol をDMSO 4 ml に溶解し、室温で24 時間撹拌した(100 mM のNHS 化Z-QG 溶液)。DMSO で10 mM に希釈したNHS 化Z-QG 溶液を、上記DGBEを導入したアミノ化ガラスプレートに100 μl 加え、室温で一晩放置した。蒸留水で9 回洗浄後、固定化基板として使用した。なお、対照として、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化プレートに直接Z-QGを修飾したガラスプレートを調製し、使用した。
【0135】
(DGBE−Z-QG 化ガラスプレートへのNK6-APあるいはNK14-AP の固定化 )
上記のようにして調製したDGBE−Z-QG 化ガラスプレートに、50 mM のリン酸緩衝液pH 7 に溶解したNK6-APあるいはNK14-AP(0.01 mg/ml)とMTG(0.25 mg/ml)の混合溶液を100 μl 加え、4℃で6 時間反応させた。TBST×3, 1MTris-HCl×6 で洗浄後、上述したAP活性測定方法に従ってAP の活性測定を行った。コントロール実験としてMTG 無しの場合も同様の実験を行った。
【0136】
(ペプチドタグの検討)
NK6-AP と、NK6-AP にGGGSGGGSリンカーを導入したNK14-AP を、これまで同様DGBE−Z-QG 化ガラスプレート上に固定化し、ペプチドタグの反応性を比較した(図23)。対照実験として、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化プレートを直接Z-QG修飾したガラスプレートでも同様の固定化実験を行った(図24)。
【0137】
図23 より、野生型(wild-type AP)は固定化されてないことから、2 種類の組換えAP は全て導入したタグ特異的に固定化されていることが示された。DGBE−Z-QG 化ガラスプレート上への固定化では、NK14-AP がNK6-AP と比べ高い反応性を示した。つまり、タグのフレキシビリティの違い、すなわち、長鎖ペプチドリンカーの導入による固液界面での酵素反応における立体障害の回避が固定化効率の違いに反映される結果となった。また、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを結合させたアミノ化プレートをZ-QGにより直接修飾した図24の結果においても、NK14-APがNK6-APに比べ高い反応性を示した。このことからも、タンパク質に融合するタグ配列の柔軟性が重要であることが分かる。一方、DGBE-Z-QG化ガラスプレートでは、固定化したAPを繰り返し使用しても活性の減少度は小さいのに対し、Z-QGをプレート上のアミノ基に直接修飾した場合は、活性の減少度が大きい。このことから、基板表面に提示する基質ペプチド(Z-QG)部位と基板の間に柔軟な親水性リンカー部位を導入することで、物理吸着を抑制しつつMTGに対する反応性の高いアミノ基を有するタンパク質をより安定により多く固定化できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、MTGを用いたZ-QG化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG濃度の影響を示すグラフである。
【図2】図2は、MTGを用いたZ-QG化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応のpHの影響を示すグラフである。
【図3】図3は、MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、TETA修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図4】図4は、MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG濃度の影響を示すグラフである。
【図5】図5は、MTGを用いたZ-QG-TETA化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応のpHの影響を示すグラフである。
【図6】図6は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、BAE修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図7】図7は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図8】図8は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QGのNHS化の際に使用したDICとEDCの違いを示すグラフである。
【図9】図9は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応のpHの影響を示すグラフである。
【図10】図10は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化時の塩濃度の影響を示すグラフである。
【図11】図11は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化時の緩衝液の濃度の影響を示すグラフである。
【図12】図12は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの濃度の影響を示すグラフである。
【図13】図13は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、MTGの濃度の影響を示すグラフである。
【図14】図14は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応温度と固定化量の関係を示すグラフである。
【図15】図15は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、NK6-EGFPの固定化反応時間と固定化量の関係を示すグラフである。
【図16】図16は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-BAE+EA化ガラス基板を用いてBAEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図17】図17は、MTGを用いたZ-QG-BAE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-BAE+AE化ガラス基板を用いてBAEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図18】図18は、MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、DGBE修飾濃度の影響を示すグラフである。
【図19】図19は、MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-DGBE+EA化ガラス基板を用いてDGBEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図20】図20は、MTGを用いたZ-QG-DGBE化ガラス基板へのNK6-EGFPの固定化において、Z-QG-DGBE+AE化ガラス基板を用いてDGBEの修飾密度の影響を調べた結果を示すグラフである。
【図21】図21は、各修飾基板における固定化EGFPの蛍光強度を示すグラフである。
【図22】図22は、β−カゼインガラス基板・Z-QG-BAE化ガラス基板との比較を示すグラフである。
【図23】図23は、MTGを用いたDGBE−Z-QG修飾ガラスプレートへの各種組み換えAPの固定化の比較を示すグラフである(左:MTG有り、右:MTGなし)。
【図24】図24は、MTGを用いたZ-QG修飾ガラスプレートへの各種組み換えAPの固定化の比較を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基を活性エステルに変換し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とするタンパク質固定化用基板。
【請求項2】
前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリジン(Z-QG)、又はLLQG(配列番号1)、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、Z-QG、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルフェニルアラニン(Z-QF)、又はEAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドである請求項1記載のタンパク質固定化用基板。
【請求項3】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基を活性エステルに変換し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にリジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とするタンパク質固定化用基板。
【請求項4】
前記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)もしくはMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はKG、KS、 KK、 KF、 AK、 RK、 HKもしくはMKからなるジペプチドである請求項3記載のタンパク質固定化用基板。
【請求項5】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させる工程と、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入する工程と、
該カルボキシル基を活性エステルに変換する工程と、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入する工程と、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のタンパク質固定化用基板の製造方法。
【請求項6】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させる工程と、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入する工程と、
該カルボキシル基を活性エステルに変換する工程と、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入する工程と、
該アミノ基にリジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程とを含むことを特徴とする請求項3又は4記載のタンパク質固定化用基板の製造方法。
【請求項7】
タンパク質の固定化方法であって、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なリジン残基又はN末端α−アミノ基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記リジン残基又は前記N末端α−アミノ基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、請求項1又は2に記載のタンパク質固定化用基板の表面に導入されたグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とするタンパク質固定化方法。
【請求項8】
前記リジン残基を含むペプチドタグが、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)又はMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなる請求項7記載のタンパク質固定化方法。
【請求項9】
タンパク質の固定化方法であって、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なグルタミン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記グルタミン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、請求項3又は4に記載されたタンパク質固定化用基板の表面に導入されたリジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とするタンパク質固定化方法。
【請求項10】
前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、LLQG(配列番号1)、、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、EAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドである請求項9記載のタンパク質固定化方法。
【請求項1】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基を活性エステルに変換し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とするタンパク質固定化用基板。
【請求項2】
前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリジン(Z-QG)、又はLLQG(配列番号1)、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、Z-QG、N−ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルフェニルアラニン(Z-QF)、又はEAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドである請求項1記載のタンパク質固定化用基板。
【請求項3】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させ、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入し、
該カルボキシル基を活性エステルに変換し、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入し、
該アミノ基にリジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入してなることを特徴とするタンパク質固定化用基板。
【請求項4】
前記リジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質が、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)もしくはMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はKG、KS、 KK、 KF、 AK、 RK、 HKもしくはMKからなるジペプチドである請求項3記載のタンパク質固定化用基板。
【請求項5】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させる工程と、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入する工程と、
該カルボキシル基を活性エステルに変換する工程と、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入する工程と、
該アミノ基にグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のタンパク質固定化用基板の製造方法。
【請求項6】
下記の一般式(I):
(RO)3 Si-(CH2)k-(NHCH2CH2)l −NH2 ・・・(I)
(但し、式中、Rはアルキル基であり、k=1,2,3・・・、l=1,2,3・・・である)で示されるアミノ基含有ケイ素化合物で担体を処理して、該アミノ基含有ケイ素化合物を該担体の表面に結合させる工程と、
該担体表面に結合させた該アミノ基含有ケイ素化合物のアミノ基にカルボキシル基を導入する工程と、
該カルボキシル基を活性エステルに変換する工程と、
該活性エステルに、下記の一般式(II):
NH2−(CH2CH2NH)m−CH2CH2NH2 ・・・(II)
(但し、式中、m=1,2,3・・・である)で示される第2級アミノ基を有するアミン化合物、スペルミン、スペルミジン、
下記の一般式(III):
NH2−(CH2CH2O)n−CH2CH2NH2 ・・・(III)
(但し、式中、n=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物、又は下記の一般式(IV):
NH2CH2−(CH2CH2O)o−CH2CH2CH2NH2 ・・・(IV)
(但し、式中、o=1,2,3・・・である)で示されるポリエチレングリコール鎖を有するアミン化合物を反応させて、前記担体の表面にアミノ基を導入する工程と、
該アミノ基にリジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質を導入する工程とを含むことを特徴とする請求項3又は4記載のタンパク質固定化用基板の製造方法。
【請求項7】
タンパク質の固定化方法であって、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なリジン残基又はN末端α−アミノ基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記リジン残基又は前記N末端α−アミノ基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、請求項1又は2に記載のタンパク質固定化用基板の表面に導入されたグルタミン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とするタンパク質固定化方法。
【請求項8】
前記リジン残基を含むペプチドタグが、MKHKGS(配列番号18)、改変型S-peptide(GSGMKETAAARFERAHMDSGS(配列番号19))、MGGSTKHKIPGGS(配列番号20)、N末端 GGG、N-末端 GGGGG(配列番号21)又はMKHKGSGGGSGGGS(配列番号22)のアミノ酸配列からなる請求項7記載のタンパク質固定化方法。
【請求項9】
タンパク質の固定化方法であって、
タンパク質にトランスグルタミナーゼが認識可能なグルタミン残基を含むペプチドタグを導入する工程と、
前記グルタミン残基を含むペプチドタグが導入されたタンパク質と、請求項3又は4に記載されたタンパク質固定化用基板の表面に導入されたリジン残基を有するトランスグルタミナーゼの基質とをトランスグルタミナーゼを用いて連結させることによって、タンパク質を前記基板に固定化する工程を含むことを特徴とするタンパク質固定化方法。
【請求項10】
前記トランスグルタミナーゼが微生物由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、LLQG(配列番号1)、、LAQG(配列番号2)、LGQG(配列番号3)、PLAQSH(配列番号4)、FERQHMDS(配列番号5)若しくはTEQKLISEEDL(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGLGQGGG(配列番号7)、GFGQGGG(配列番号8)、GVGQGGG(配列番号9)若しくはGGLQGGG(配列番号10)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドであるか、又は
前記トランスグルタミナーゼが哺乳類由来のものであり、かつ前記グルタミン残基を含むペプチドタグが、EAQQIVM(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド、又はGGGQLGG(配列番号12)、GGGQVGG(配列番号13)、GGGQRGG(配列番号14)、GQQQLG(配列番号15)、PNPQLPF(配列番号16)若しくはPKPQQFM(配列番号17)のアミノ酸配列からなるN末端保護ペプチドである請求項9記載のタンパク質固定化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−286701(P2009−286701A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138007(P2008−138007)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
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