説明

タンパク質生産の増強のためのmRNAの一次構造の再操作

本明細書に記載されていることは、翻訳の効率を増加させるために、天然mRNAを修飾するか、または合成mRNAを操作するための基準である。これらの基準は、1)コード配列におけるAUGまたは非標準開始コドンを介するリボソームダイバージョンを減少させることにより、および/または2)コード配列における1つ以上のmiRNA結合部位を除去することによりmiRNA介在の下方制御を回避することにより、タンパク質合成を増強することが意図されるmRNAコーディングおよび3’UTR配列に対する修飾を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願への言及
本出願は、35U.S.C.§119(e)の下に、タイトル“Reengineering mRNA Primary Structure for Enhanced Protein Production”の2009年2月24日付け米国仮出願番号61/155,049の優先権の利益を主張する。上記出願の内容を、出典明示によりその全体を包含させる。
【背景技術】
【0002】
背景
真核生物における翻訳開始は、5’キャップ構造または内部リボソーム侵入部位(IRES)のいずれかでの40Sリボソームサブユニットおよび翻訳機構の他の成分のmRNAによる動員に関連する。その動員後、40Sサブユニットは開始コドンへ移動する。翻訳開始の広く受け入れられた考えの1つは、40Sサブユニットが、良いヌクレオチドコンテキスト(context)に属する第1のAUGコドンに遭遇するまで、5’から3’方向において5’リーダーを介する走査により動員の部位から開始コドンへ移動すると主張する(Kozak “The Scanning Model for Translation: An Update” J. Cell Biol. 108:229-241 (1989))。最近、翻訳開始が走査と関連せず、キャップ構造またはIRESのいずれかでのリボソームサブユニットのテザーリング(tethering)、または内部部位でのリボソームサブユニットのクラスタリング(clustering)と関連し得るということが主張されている(Chappellら. “Ribosomal shunting mediated by a translational enhancer element that base pairs to 18S rRNA” PNAS USA 103(25):9488-9493 (2006); Chappellら., “Ribosomal tethering and clustering as mechanisms for translation initiation” PNAS USA 103(48):18077-82 (2006))。40Sサブユニットは、必ずしもmRNAにおける第1のAUGコドンではない利用可能なAUGコドンへ移動する。該サブユニットが何らかの機構により開始コドンに到達すると、該サブユニットと関連する開始メチオニン−tRNAが開始コドンと塩基対合し、大型(60S)リボソームサブユニットが結合し、ペプチド合成が始まる。
【0003】
翻訳は、一般的に、走査機構により開始すると考えられるため、上流AUGコドンと称される5’リーダー内に含まれるAUGコドンの翻訳に対する効果が考えられており、5’リーダーにおけるAUGコドンは、遺伝子、ヌクレオチドコンテキストおよび細胞状態に依存して、タンパク質合成に対して正または負の効果のいずれかを有し得る。例えば、上流AUGコドンは、真の開始コドンからリボソームをそらすことにより、翻訳開始を阻害することができることが知られている。しかしながら、翻訳が走査機構により開始するという考えは、タンパク質合成におけるコード配列中の可能性のある開始コドンの効果を考慮していない。対照的に、翻訳開始のテザーリング/クラスタリング機構は、AUGコドンおよび非標準コドンの両方を含むコード配列中の推定開始コドンを利用し、結果として、リボソームに対する真の開始コドンと競合することにより、タンパク質合成の速度を低下させ得ることを示唆する。
【0004】
マイクロRNA(miRNA)介在の下方制御は、また、翻訳の効率に負に影響することができる。miRNAは、一般的に、21−23ヌクレオチド長であり、リボヌクレオタンパク質複合体の成分である。miRNAは、mRNAに対する塩基対合によりタンパク質レベルに負に影響し、mRNA安定性、新生ペプチド安定性および翻訳の効率を減少させることが示唆されている(Eulalioら. “Getting to the Root of miRNA-Mediated Gene Silencing” Cell 132:9-14 (1998))。miRNAは、一般的に、mRNAの3’非翻訳配列(UTR)における結合部位に対する塩基対合によってそれらの効果を介在するが、miRNAは、コード配列および5’リーダー配列内に含まれる結合部位から同様の抑制作用を有することが示されている。塩基対合は、miRNAのヌクレオチド2−8を含む、いわゆる「シード配列(seed sequence)」を介して起こる。ヒトにおいて1,000以上の異なるmiRNAが存在し得る。
【0005】
mRNAコード配列における推定開始コドンおよびmRNAにおけるmiRNA結合部位の負の影響は、医薬産業への挑戦をもたらす。例えば、タンパク質薬物の産業生産、抗原産生のためのDNAワクチン、一般的な研究目的および遺伝子治療適用は、すべて、タンパク質合成の準最適な速度または配列安定性の影響を受ける。タンパク質収率の改善およびより高いタンパク質濃度は、産業規模の培養物と関連するコストを最小限にし、薬物生産コストを減少させ、タンパク質精製を容易にすることができる。乏しいタンパク質発現は、特定の技術の大規模使用を限定し、例えば、フェーズ3臨床試験を実施するための免疫応答を産生するためのDNAワクチンから十分な抗原を発現することにおいて問題がある。
【発明の概要】
【0006】
要約
当該分野において、タンパク質翻訳の効率および安定性、ならびに、例えば、タンパク質薬物の産業生産におけるタンパク質収量および濃度の改善の必要性がある。
【0007】
全長タンパク質発現の効率を改善する方法が開示される。該方法は、タンパク質に対するコード配列、コード配列の上流にある第1の開始コドン、およびコード配列内に位置する1つ以上の第2の開始コドンを有するポリヌクレオチドを提供することを含む。該方法は、また、1つ以上の第2の開始コドンを変異し、第1の開始コドンから離れてリボソームダイバージョンの減少をもたらす1つ以上の第2の開始コドンでのタンパク質合成の開始の減少をもたらし、それにより、全長タンパク質発現の効率を増加させることを含む。
【0008】
該方法は、また、アミノ酸配列が改変されない1つ以上のヌクレオチドの変異を含み得る。該1つ以上の第2の開始コドンは、コード配列と同じリーディングフレーム内またはコード配列のフレーム外にあり得る。該1つ以上の第2の開始コドンは、リボソーム動員部位から1つ以上のヌクレオチドの上流または下流に位置し得る。該リボソーム動員部位は、キャップまたはIRESを含み得る。該1つ以上の第2の開始コドンは、AUG、ACG、GUG、UUG、CUG、AUA、AUC、およびAUUから選択され得る。該方法は、コード配列内の2つ以上の第2の開始コドンを変異させることを含み得る。該方法は、コード配列内のすべての第2の開始コドンを変異させることを含み得る。フランキング(flanking)ヌクレオチドは、望ましくないヌクレオチドコンテキストへ変異させ得る。1つ以上の第2の開始コドンの変異は、新規開始コドンを導入することを回避し得る。該1つ以上の第2の開始コドンの変異は、miRNAシード配列を導入することを回避し得る。該1つ以上の第2の開始コドンの変異は、変異コドンの利用バイアス(bias)を改変することを回避し得る。全長をコードされたタンパク質以外の短縮タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの産生は減少され得る。該1つ以上の第2の開始コドンの変異は、miRNAシード配列、スプライスドナー部位もしくはスプライス受容部位、またはmRNA不安定化エレメントを導入することを回避し得る。
【0009】
また、全長タンパク質発現の効率を改善する方法も開示される。該方法は、タンパク質に対するコード配列およびコード配列内に位置する1つ以上のmiRNA結合部位を有するポリヌクレオチド配列を提供し、該1つ以上のmiRNA結合部位を変異することを含む。該変異は、タンパク質翻訳のmiRNA介在の下方制御の減少をもたらす1つ以上のmiRNA結合部位でのmiRNA結合の減少をもたらし、それにより、全長タンパク質発現の効率を増加させる。
【0010】
該方法は、また、アミノ酸配列が改変されない1つ以上のヌクレオチドの変異を含み得る。該方法は、miRNAのシード配列中に1つ以上のヌクレオチドの変異を含み得る。該方法は、開始コドンがポリヌクレオチド配列に導入されないような1つ以上のヌクレオチドの変異を含み得る。該方法は、希少コドンがポリヌクレオチド配列に導入されないような1つ以上のヌクレオチドの変異を含み得る。該方法は、さらなるmiRNAシード配列がポリヌクレオチド配列に導入されないような1つ以上のヌクレオチドの変異を含み得る。該1つ以上のmiRNA結合部位は、コード配列内に位置することができる。該1つ以上のmiRNA結合部位は、3’非翻訳領域内に位置することができる。該1つ以上のmiRNA結合部位は、5’リーダー配列内に位置することができる。
【0011】
本記載の性質および利点のさらなる理解は、本明細書の以下の部分および特許請求の範囲を参照することにより理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1A−1Bは、CAT(ダイヤモンド形)またはmCAT発現構築物(四角形)で形質転換された大腸菌DH5α細胞培養物の増殖曲線を示す。
【図2】図2は、CAT(C)またはmCAT(mC)発現構築物で形質転換された大腸菌DH5α細胞から回収された溶解物のウエスタンブロット分析を示す。
【図3】図3は、野生型CATまたは修飾されたCAT発現構築物で形質転換されたDG44細胞由来の抽出物のウエスタンブロット分析を示す。
【図4】図4は、野生型CD5(cd5−1)または修飾されたCD5シグナルペプチドα−サイログロブリン軽鎖発現構築物(cd5−2からcd5−5)で形質転換されたDG44細胞由来の上清のウエスタンブロット分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
I.概観
コードされたタンパク質のレベルを増加させるために、天然mRNAを修飾するか、または合成mRNAを操作する方法が本明細書に開示される。これらの基準は、1)コード配列におけるAUGまたは非標準開始コドンを介するリボソームダイバージョンを減少させることにより、および/または2)コード配列におけるmiRNA結合部位を除去することによりmiRNA介在の下方制御を回避することにより、タンパク質合成を増強することが意図されるmRNAコーディングおよび3’UTR配列に対する修飾を表す。
【0014】
真核および細菌細胞において特定のタンパク質の収率を増加させるために使用することができるmRNAの一次構造の再操作の方法が開示される。本明細書に記載されている該方法は、タンパク質薬物の産業生産、ならびに研究目的、遺伝子治療適用、および抗原産生を増加させるためのDNAワクチンに適用することができる。より良いタンパク質収率は、産業規模の培養物と関連するコストを最小限にし、薬物コストを減少させる。加えて、より高いタンパク質濃度は、タンパク質精製を容易にすることができる。さらに、例えば、フェーズ3臨床試験の実施において、または免疫応答を産生するためのDNAワクチンから十分な抗原を発現することにおいて、乏しいタンパク質発現によって可能でないプロセスは、本明細書に記載されている方法を使用して可能になり得る。
【0015】
II.定義
本明細書は、記載される特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されず、これらは変更してもよい。また、本明細書において使用される用語は、特定の態様を記載するだけの目的のためであり、特許請求の範囲に記載されている本方法の範囲を限定する意図はないことを理解すべきである。
【0016】
本明細書において使用される単数形「1つ(a、an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他のものを指示しないかぎり複数の言及を含む。したがって、例えば、「細胞(a cell)」の言及は、複数のこのような細胞を含み、「タンパク質(a protein)」の言及は、1つまたはそれ以上のタンパク質および当業者に知られているその同等語などを含む。
【0017】
他に定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本明細書が属する当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。以下の文献は、当業者に、本明細書において使用される多数の用語の一般的な定義を提供するものである:Academic Press Dictionary of Science and Technology, Morris (Ed.), Academic Press (1st ed., 1992); Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Smith et al. (Eds.), Oxford University Press (revised ed., 2000); Encyclopaedic Dictionary of Chemistry, Kumar (Ed.), Anmol Publications Pvt. Ltd. (2002); Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, Singleton et al. (Eds.), John Wiley & Sons (3rd ed., 2002); Dictionary of Chemistry, Hunt (Ed.), Routledge (1st ed., 1999); Dictionary of Pharmaceutical Medicine Medicine, Nahler (Ed.), Springer-Verlag Telos (1994); Dictionary of Organic Chemistry, Kumar and Anandand (Eds.), Anmol Publications Pvt. Ltd. (2002);およびA Dictionary of Biology (Oxford Paperback Reference), Martin and Hine (Eds.), Oxford University Press (4th ed., 2000)。本明細書に具体的に適用されるこれらの用語のいくつかのさらなる説明を本明細書において提供する。
【0018】
「薬剤」なる用語は、あらゆる物質、分子、エレメント、化合物、存在物(entity)またはそれらの組合せを含む。例えば、タンパク質、ポリペプチド、有機小分子、多糖類、ポリヌクレオチドなどを含むがこれらに限定されない。天然産物、合成化合物、もしくは化合物、または2つ以上の物質の組合せであり得る。特記されない限り、「薬剤」、「物質」および「化合物」なる用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0019】
「シストロン」なる用語は、単一のポリペプチドまたはタンパク質をコードするDNAの単位を意味する。「転写単位」なる用語は、RNAの合成が起こるDNAのセグメントを示す。
【0020】
「DNAワクチン」なる用語は、宿主細胞または組織に導入でき、そこで細胞により発現されて、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子を生産し、次に翻訳されて、DNAによってコードされるワクチン抗原を生産するDNAを示す。
【0021】
「興味のある遺伝子」なる言葉は、生産が調節されるべきタンパク質産物(興味のあるタンパク質)をコードするシストロン、オープンリーディングフレーム(ORF)、またはポリヌクレオチド配列を含むことを意図する。興味のある遺伝子の例は、治療タンパク質、栄養タンパク質および産業的に有用なタンパク質をコードする遺伝子を含む。興味のある遺伝子は、また、レポーター遺伝子または選択可能なマーカー遺伝子、例えば、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)、ルシフェラーゼ遺伝子(RenillaまたはPhotinus)を含むことができる。
【0022】
発現は、ポリペプチドがDNAから生産されるプロセスである。該プロセスは、遺伝子のmRNAへの転写および後のmRNAのポリペプチドへの翻訳を含む。
【0023】
本明細書において使用される「内因性」なる用語は、通常、野生型宿主において見出される遺伝子を示し、「外因性」なる用語は、通常、野生型宿主において見出されない遺伝子を示す。
【0024】
「宿主細胞」は、異種ポリヌクレオチド配列が導入されるか、または導入されている生細胞を示す。生細胞は、培養細胞および生体内の細胞の両方を含む。異種ポリヌクレオチド配列を細胞に導入するための手段は、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、微量注入、形質転換、ウイルス感染など、よく知られている。しばしば、細胞に導入される異種ポリヌクレオチド配列は、複製可能な発現ベクターまたはクローニングベクターである。いくつかの態様において、宿主細胞は、染色体上またはゲノム中に所望の遺伝子を組み込むように操作することができる。宿主として働く、本願の方法に実施において使用することができる多数の宿主細胞(例えば、CHO細胞)は、当該分野でよく知られている。例えば、Sambrookら., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (3rd ed., 2001)、およびBrentら., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (Ringbou ed., 2003)参照。いくつかの態様において、宿主細胞は真核細胞である。
【0025】
「誘導剤」なる用語は、誘導可能な翻訳調節エレメントから翻訳をもたらす化学的、生物学的または物理学的薬剤を示すために使用される。誘導剤への暴露に対する応答において、エレメントからの翻訳は、一般的に、新たに開始されるか、または発現の基底または構成レベルよりも増加する。誘導剤は、例えば、細胞が暴露されるストレス条件、例えば、熱または低温ショック、毒物、例えば、重金属イオン、または栄養、ホルモン、成長因子の欠乏などであってよく、また細胞の増殖または分化状態に影響する化合物、例えば、ホルモンまたは増殖因子であってよい。
【0026】
「単離または精製されたポリヌクレオチド」なる句は、生物体の天然ゲノム中の両端の隣接配列から単離されているポリヌクレオチド配列(例えば、DNA)の断片を含むことを意図する。精製されたポリヌクレオチドは、二本鎖もしくは一本鎖のいずれかであるオリゴヌクレオチド;ベクターに組み込まれたポリヌクレオチドフラグメント;真核または原核生物生物体のゲノムに挿入されたフラグメント;またはプローブとして使用されるフラグメントであり得る。「実質的に純粋」なる句は、ポリヌクレオチドに言及されているとき、一般的に、サンプルの少なくとも85パーセントまたはそれ以上のパーセントを有するように、分子が他の付随の生物学的成分から分離されていることを意味する。
【0027】
「ヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸」または「ポリヌクレオチド配列」なる用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを示し、他に限定のない限り、天然ヌクレオチドと同様の様式で拡散にハイブリダイズする天然ヌクレオチドの既知の類似体を包含する。核酸配列は、例えば、原核生物配列、真核mRNA配列、真核mRNA由来のcDNA配列、真核DNA(例えば、哺乳動物DNA)由来のゲノムDNA配列、および合成DNAまたはRNA配列であり得るが、これらに限定されない。
【0028】
「プロモーター」なる用語は、転写が開始する位置で転写を指向することができる核酸配列を示す。種々のプロモーター配列が当該分野で知られている。例えば、このようなエレメントは、TATAボックス、CCAATボックス、バクテリオファージRNAポリメラーゼ特異的プロモーター(例えば、T7、SP6、およびT3プロモーター)、SP1部位、および環状AMP応答エレメントを含み得るが、これらに限定されない。プロモーターが誘導可能な方であるとき、その活性は誘導剤に応答して増加する。
【0029】
5’リーダーまたは非翻訳領域(5’リーダー、5’リーダー配列、または5’UTR)は、メッセンジャーRNA(mRNA)およびそれをコードするDNAの特殊な部分である。それは+1位(転写が始まる位置)で始まり、コーディング領域の開始コドン(一般的にAUG)の直前で終わる。細菌において、それは、シャイン−ダルガノ(Shine-Delgarno)配列として知られているリボソーム結合部位(RBS)を含み得る。5’リーダー配列は、ヌクレオチドなし(まれにリーダーレスメッセージ(leaderless message))から>1,000−ヌクレオチドまでの長さの範囲である。3’UTRは、さらに長い傾向がある(最大数キロベース長)。
【0030】
「作動可能に連結」または「作動可能に結合」なる用語は、通常の機能が行えることが可能である様式下で連結されている遺伝子エレメント間の機能的連結を示す。例えば、転写がプロモーターの制御下にあり、生産された転写産物が通常遺伝子によってコードされるタンパク質に正確に翻訳されるとき、遺伝子はプロモーターに作動可能に連結している。同様に、遺伝子から転写されたmRNAの翻訳を上方調節することを可能にするとき、翻訳エンハンサーエレメントは興味のある遺伝子と作動可能に結合している。
【0031】
指向性ライゲーションに適応させたヌクレオチドの配列、例えば、ポリリンカーは、ベクターへのポリヌクレオチド配列の指向性ライゲーションのための部位または手段を提供する発現ベクターの領域である。一般的に、指向性ポリリンカーは、2つ以上の制限エンドヌクレアーゼ認識配列、または制限酵素認識部位を規定するヌクレオチドの配列である。制限開裂時に、2つの部位は、ポリヌクレオチド配列が発現ベクターにライゲートすることができる付着末端を生じる。1つの態様において、2つの制限酵素認識部位は、制限開裂時に、非相補的である付着末端を提供し、それによりポリヌクレオチド配列のカセットへの指向挿入を可能にする。例えば、指向性ライゲーションに適応させたヌクレオチドの配列は、多数の指向性クローニング手段を規定するヌクレオチドの配列を含み得る。指向性ライゲーションに適応させたヌクレオチドの配列が多数の制限酵素認識部位を規定する場合、マルチクローニングサイトと称される。
【0032】
処置の目的に対する「対象」なる用語は、哺乳動物、例えば、ヒトおよび非ヒト哺乳動物として分類されるあらゆる動物を示す。非ヒト動物の例は、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含む。注記されているときを除き、「患者」または「対象」なる用語は、本明細書において互換的に使用される。1つの態様において、対象はヒトである。
【0033】
転写因子は、転写を開始または調節するために必要であるあらゆるポリペプチドを示す。例えば、このような因子は、c−Myc、c−Fos、c−Jun、CREB、cEts、GATA、GAL4、GAL4/Vp16、c−Myb、MyoD、NF−κB、バクテリオファージ−特異的RNAポリメラーゼ、Hif−1、およびTREを含むがこれらに限定されない。このような因子をコードする配列の例は、GenBank受入番号K02276(c−Myc)、K00650(c−fos)、BC002981(c−jun)、M27691(CREB)、X14798(cEts)、M77810(GATA)、K01486(GAL4)、AY136632(GAL4/Vp16)、M95584(c−Myb)、M84918(MyoD)、2006293A(NF−κB)、NP853568(SP6RNAポリメラーゼ)、AAB28111(T7RNAポリメラーゼ)、NP523301(T3RNAポリメラーゼ)、AF364604(HIF−1)、およびX63547(TRE)を含むがこれらに限定されない。
【0034】
「実質的に同一」な核酸またはアミノ酸配列は、標準パラメーターを使用して、本明細書に記載されているよく知られているプログラムの1つ(例えば、BLAST)により測定されるとき、参照配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む核酸またはアミノ酸配列を示す。配列同一性は、少なくとも95%、少なくとも98%、および少なくとも99%であり得る。いくつかの態様において、対象配列は参照配列と比較してほぼ同じ長さであり、すなわち、ほぼ同じ数の隣接するアミノ酸残基(ポリペプチド配列に対する)またはヌクレオチド残基(ポリヌクレオチド配列に対する)からなる。
【0035】
配列同一性は、当該分野で知られている種々の方法で容易に決定することができる。例えば、BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列に対する)は、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列に対して、BLASTPプログラムは、デフォルトとしてワード長(W)3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリングマトリクスを使用する(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)参照)。配列同一性のパーセンテージは、比較ウインドウにおいて2つの最適にアラインされた配列を比較することによって決定され、比較ウインドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適アラインメントに対して参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。パーセンテージは、両方の配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がある位置の数を決定してマッチした位置の数を得て、マッチした位置の数を比較ウインドウ中の位置の合計数で割り、結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることにより計算される。
【0036】
「処置」または「緩和」なる用語は、化合物または薬剤を対象に投与して、疾患の症状、合併症もしくは生化学的兆候(例えば、心機能障害)の発症を予防または遅延する、症状または疾患を緩和する、状態または障害のさらなる発症を阻止または阻害することを含む。処置を必要とする対象は、疾患または障害にすでに罹患している患者、ならびに障害を有しやすいもの、または障害を予防すべきものを含む。
【0037】
処置は、予防(疾患の発症を予防または遅延すること、または臨床的もしくは無症状の兆候を予防すること)または疾患の兆候後の症状の治療的抑制もしくは緩和であり得る。心臓リモデリングおよび/または心不全の処置において、治療剤は、疾患の病状を直接減少させ得るか、疾患を他の治療剤による処置に対してより感受性にさせ得る。
【0038】
「ベクター」または「構築物」なる用語は、これらのエレメントに作動可能に連結した遺伝子/遺伝子産物の発現が予想通りに制御することができるように明確なパターンの構成に配置されたポリヌクレオチド配列エレメントを示す。一般的に、それらは、外来DNAのセグメントをスプライスすることによって、外来DNAを宿主細胞に導入し、複製および/または転写を促進することができる伝播性ポリヌクレオチド配列(例えば、プラスミドまたはウイルス)である。
【0039】
クローニングベクターは、宿主細胞中で自己複製することができ、1つまたは少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位により特徴付けられるDNA配列(一般的にプラスミドまたはファージ)である。これらの部位に外来DNAフラグメントがベクターにスプライスされることによって、フラグメントの複製およびクローニングを引き起こし得る。ベクターは、形質転換細胞の同定における使用のために適当な1つ以上のマーカーを含み得る。例えば、マーカーはテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性を提供し得る。
【0040】
発現ベクターはクローニングベクターと同様であるが、宿主への形質転換後に、クローニングされたDNAの発現を誘導することができる。クローニングされたDNAは、通常、特定の調節配列、例えば、プロモーターまたはエンハンサーの制御下に置かれる(すなわち、作動可能に連結する)。プロモーター配列は、構成的、誘導可能または抑圧可能であり得る。
【0041】
「開始コドン」または「開始トリプレット」は、タンパク質合成が開始するシストロン内の位置である。それは、一般的に、コード配列の5’末端に位置する。真核mRNAにおいて、開始コドンは、一般的に、アミノ酸メチオニン(Met)をコードする3つのヌクレオチド(アデニン、ウラシルおよびグアニン(AUG)ヌクレオチド)からなる。細菌において、開始コドンは、また、一般的にAUGであるが、このコドンは、修飾されたメチオニン(N−ホルミルメチオニン(fMet))をコードする。AUG以外のヌクレオチドトリプレットは、ときどき、真核生物および細菌の両方において、開始コドンとして使用される。
【0042】
「下流開始コドン」は、一般的に遺伝子のコーディング領域における真の開始コドンの下流に位置する開始コドンを示す。「上流開始コドン」は、5’リーダー領域における真の開始コドンの上流に位置する開始コドンを示す。
【0043】
本明細書において使用される、「下流」および「上流」なる言及は、真の開始コドンに対する位置を示す。例えば、mRNA配列上の上流コドンは、配列(例えば、真の開始コドン)内の別の位置と比較してmRNA配列の5’末端の方にあるコドンであり、下流コドンは、配列内の別の位置と比較してmRNA配列の3’末端の方にあるコドンを示す。
【0044】
本明細書において使用される「真の開始コドン」または「第1の開始コドン」は、生産が調節されるべき興味のあるコードされたタンパク質のコード配列の第1のアミノ酸をコードするシストロンの開始コドンを示す。「第2の開始コドン」は、興味のあるコードされたタンパク質に対する第1の、もしくは真の開始コドン以外にある開始コドンを示す。第2の開始コドンは、一般的に、コード配列内に位置する第1の、もしくは真の開始コドンの下流である。
【0045】
本明細書において使用される「タンパク質発現の増加」は、1つ以上の第2の開始コドンが変異されていない野生型mRNAから得られたポリペプチド濃度より少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%またはそれ以上大きいポリペプチド濃度を産生するように1つ以上の第2の開始コドンが変異された、修飾されたmRNAの翻訳を示す。タンパク質発現の増加は、また、野生型mRNAの1.5倍、2倍、3倍、5倍、10倍またはそれ以上である変異されたmRNAのタンパク質発現を示し得る。
【0046】
本明細書において使用される「リボソーム動員部位」は、コードされたタンパク質の翻訳の開始前にリボソームサブユニットが結合するmRNA内の部位を示す。リボソーム動員部位は、キャップ構造、mRNAの5’末端で見出される修飾されたヌクレオチド(mGキャップ−構造)、およびmRNA内に包含される内部リボソーム侵入部位(IRES)と称される配列を含み得る。他のリボソーム動員部位は、GtxホメオドメインmRNAからの9−ヌクレオチド配列を含み得る。リボソーム動員部位は、しばしば、真の開始コドンの上流にあるが、また、真の開始コドンの下流にあることもできる。
【0047】
本明細書において使用される「利用バイアス」は、同じアミノ酸をコードするいくつかのコドンのうちの1つに対して生体が示す特定の好み(preferance)を示す。利用バイアスの改変は、元のコドンよりもより高いまたはより低い好みで同じアミノ酸に対する異なるコドンの使用をもたらす変異を示す。
【0048】
本明細書において使用される「全長タンパク質」は、本質的にタンパク質をコードする遺伝子によってコードされるあらゆるアミノ酸を包含するタンパク質を示す。当業者は、生細胞におけるいくつかのタンパク質は微妙な修飾が存在するので、タンパク質は実際には、わずかな改変を有する密接に関連したタンパク質の一群であることを知っている。例えば、全てではないがいくつかのタンパク質は、a)アミノ末端からアミノ酸が除去されており、および/またはb)分子量を増加し得る化学基が付加されている。コードされる大抵の細菌のタンパク質は、タンパク質のアミノ末端でメチオニンおよびアラニン残基を含み、これらの残基の1つまたは両方は、頻繁に、細菌細胞におけるタンパク質の活性型から除去される。修飾のこれらの型は、一般的に、異種であるので、全ての修飾があらゆる分子に起こるわけではない。したがって、天然「全長」分子は、実際には、同じアミノ酸配列から出発するが、修飾され方に小さい差異を有する分子のファミリーである。「全長タンパク質」なる用語は、このような分子のファミリーを包含する。
【0049】
本明細書において使用される「レスキュー(rescued)」または「修飾」は、コーディング領域から多数からすべての第2の開始コドンを除去するヌクレオチド改変を示す。「部分的に修飾」は、コーディング領域から第2の開始コドンのすべての可能な変異の一部を除去するヌクレオチド改変を示す。
【0050】
III.下流開始コドンを介するリボソームダイバージョンの減少
上記のとおり、5’リーダー内に含まれる特徴が翻訳の効率に影響し得ることがよく知られている。例えば、上流AUGコドンと称される5’リーダーにおけるAUGコドンは、遺伝子、ヌクレオチドコンテキストおよび細胞状態に依存して、タンパク質合成において正または負の効果のいずれかを有し得る。上流AUGコドンは、真の開始コドンからリボソームをそらすことにより翻訳開始を阻害することができる(Meijerら., “Translational Control of the Xenopus laevis Connexin-41 5’-Untranslated Region by Three Upstream Open Reading Frames” J. Biol. Chem. 275(40):30787-30793 (2000))。例えば、Meijerらの図6および8は、5’リーダー配列における上流AUGコドンのリボソームダイバージョン(ribosomal diversion)効果を示す。
【0051】
AUG/ATGは、多数の種における通常の翻訳開始コドンであるが、翻訳がときどきインビボでACG、GUG/GTG、UUG/TTG、CUG/CTG、AUA/ATA、AUC/ATCおよびAUU/ATTを含む他の上流コドンで開始し得ることも知られている。例えば、マウスジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)の開始コドンがACGに変異されたとき、哺乳動物のリボソームが非AUGトリプレットで翻訳を開始できることが示されている(Peabody, D.S. (1987) J. Biol. Chem. 262, 11847-11851)。Peabodyによるさらなる研究は、dhfrの変異開始コドンAUG(GUG、UUG、CUG、AUA、AUCおよびAUU)のすべてが一見したところ正常dhfrの合成を指向することできたことを示した(Peabody, D. S. (1989) J. Biol. Chem. 264, 5031-5035)。
【0052】
翻訳開始のテザーリングおよびクラスタリングモデルは、翻訳が利用可能な開始コドンで開始できることを前提とし、研究は、開始コドンがリボソーム動員部位(capまたはIRES)の下流において距離依存性様式で使用されることができることを示した(Chappellら“Ribosomal tethering and clustering as mechanisms for translation initiation” PNAS USA 103(48):18077-82 2006)。これは、コード配列における推定開始コドンも、利用され得ることを示唆する。下流開始コドンまたは第2の開始部位での翻訳開始は、リボソームについて真の開始コドンまたは第1の開始部位と競合し、コードされたタンパク質の発現を低下させることができる。例えば、第2の開始部位を非開始コドンへ変異することによる、これらの第2の開始部位の有用性の減少は、リボソームに対する第1の開始部位の有用性およびさらに効率的なコードされたタンパク質発現を増加させる。
【0053】
本方法は、改善され、さらに効率的なタンパク質発現を可能にし、翻訳機構に関する種々の開始コドン間の競合を減少させる。コードされたタンパク質と同じリーディングフレーム内にあるコード配列における下流開始コドンを除去することにより、可能性のある改変された機能を有する短縮タンパク質の産生は除去され得る。加えて、コード配列のフレーム外にある下流開始コドンを除去することにより、いくつかにおいて細胞生理学またはタンパク質生産において負の効果を有し得る種々のペプチドの産生も、また、除去され得る。この利点は、DNAワクチンまたは遺伝子治療における適用において特に重要であり得る。
【0054】
コードされたアミノ酸配列が改変されないように下流開始コドンの特異的変異を実施することができる。これは、遺伝子コードが縮重しており、ほとんどのアミノ酸が2つ以上のコドンによってコードされるため、多数の場合において可能である。例外は、それぞれAUGおよびUGGの1つのコドンによってコードされるメチオニンおよびトリプトファンのみである。また、アミノ酸配列を改変する下流開始コドンの変異もまた、考えることができる。このような場合において、アミノ酸配列を改変する効果を評価し得る。あるいは、アミノ酸配列が改変されないままであるとき、推定開始コドンに隣接するヌクレオチドを、ときどき、開始コドンの効率を減少させるように変異させることができる。AUGコドンにおいて、これは、優れたコンテキストにおけるAUGが、AUGが+1、+2、+3と番号付けされるとき、位置−3にプリンおよび+4にGを含むことが記載されているMarilyn Kozakにより確立されたヌクレオチドコンテキスト基準(Kozak, M. (1984) Nature 308, 241-246)にしたがって行うことができる。
【0055】
非AUGコドンにおいて、同様の基準が、位置+5および+6にヌクレオチド由来のさらなる決定因子で適用できるようである。変異を設計することにおいて、コドン利用バイアスは、多数の場合において、例えば、野生型コドンと同様のコドンバイアスを有する変異コドンを導入することにより、比較的改変されないままであることができる。異なる生物体は異なるコドン利用頻度を有するため、異なる生物体由来の細胞における発現に対する特異的変異は、それに応じて変化し得る。
【0056】
本明細書に記載されている方法は、真核細胞に限定されず、細菌にも適用すると理解すべきである。細菌の翻訳開始は真核生物と異なると思われるが、リボソーム動員は、依然として、いわゆるシャイン−ダルガノ配列を含むmRNAにおけるcis−エレメントを介して起こる。細菌における非AUG開始コドンは、ACG、GUG、UUG、CUG、AUA、AUC、およびAUUを含む。
【0057】
1つの態様において、下流開始コドンを介してリボソームダイバージョンを減少させることにより、タンパク質合成を増強するコード配列への修飾が開示されている。これらのコドンは、AUG/ATGおよび細胞において開始コドンとして機能することが知られている他のヌクレオチドトリプレットコドンを含むことができ、ACG、GUG/GTG、UUG/TTG、CUG/CTG、AUA/ATA、AUC/ATC、およびAUU/ATTを含むが、これらに限定されない。1つの態様において、下流開始コドンを変異する。タンパク質生産を増加させるためのmRNAコード配列の再操作は、すべての下流開始コドンの変異を含むことができ、または、下流開始コドンの一部のみの変異を含むことができる。別の態様において、フランキングヌクレオチドを望ましくないヌクレオチドコンテキストに変異する。1つの態様において、シグナルペプチドにおけるATGコドンをATCコドンに変異して、メチオニンからイソロイシンへの置換をもたらすことができる。別の態様において、シグナルペプチドにおけるCTGコドンをCTCに変異することができる。別の態様において、ATGコドンをATCコドンに変異して、メチオニン(M)からイソロイシン(I)へのアミノ酸置換をもたらすことができ、CTGコドンをCTCに変異することができる。別の態様において、ATGコドンをATCコドンに変異することができ、CTGコドンをCTCコドンに変異することができ、開始AUGのコンテキストを開始コドンのコドン3’をCCCからGCTへ変化させて、プロリン(P)からアルギニン(R)へのアミノ酸置換をもたらすことにより、改善することができる。他の態様において、1つ以上のAUGおよびCUGコドンを除去することができる修飾をシグナルペプチドに施すことができる。ほとんどの可能性のある開始コドンの除去、シグナルペプチドのATGおよびCTGの除去、グルタミン酸(E)からグルタミン(Q)へのアミノ酸置換またはヒスチジン(H)からアルギニン(R)へのアミノ酸置換をもたらすATG、CTGおよびACGコドンの除去により修飾されたシグナルペプチドを含む修飾を施すことができる。
【0058】
分子生物学における標準技術を、変異された核酸配列を産生するために使用することができる。このような技術は、種々の核酸操作技術、核酸転移プロトコール、核酸増幅プロトコールおよび当該分野で知られている他の分子生物学技術を含む。例えば、点変異は、オリゴヌクレオチドを介した部位特異的変異誘発の使用を介して、興味のある遺伝子に導入することができる。修飾された配列は、また、所望の変異と共に合成されたオリゴヌクレオチドを使用することにより合成的に産生することができる。これらのアプローチは、1つの部位またはコーディング領域中に変異を導入するために使用することができる。あるいは、相同組換えを、興味のある標的配列に変異または外因性配列を導入するために使用することができる。核酸転移プロトコールは、塩化カルシウムの形質転換/トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソーム介在核酸転移、N−[1−(2,3−ジオロイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムメチルスルフェート介在形質転換などを含む。別の変異誘発プロトコールにおいて、特定の遺伝子における点変異を、また、陽性選択圧を使用するために選択することができる。例えば、Current Techniques in Molecular Biology(Ed. Ausubelら)参照。核酸増幅プロトコールは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含むが、これらに限定されない。核酸ツール、例えば、プラスミド、ベクター、プロモーターおよび他の制御配列の使用は、多種多様のウイルスまたは細胞生物体に対して当該分野でよく知られている。さらなる多種多様の核酸ツールは、ATCCを含む多種多様の供給源、および種々の市販の供給源から利用できる。当業者は、容易に、当該分野の技術常識にしたがってあらゆる特定のウイルスまたは細胞生物体の遺伝子修飾のための適当なツールおよび方法を選択し、選択したものから設計することができる。タンパク質発現は、また、種々の標準方法を使用して測定することができる。これらは、ウエスタンブロット分析、ELISA、代謝標識、および酵素活性測定を含むが、これらに限定されない。
【0059】
IV.miRNA介在の下方制御の回避
マイクロRNAは、一般的に負の遺伝子調節因子として機能する小さい非コーディングRNAの豊富なクラスである。1つの態様において、miRNA介在の下方制御を回避するように、5’リーダー、コード配列、および3’UTRを含むmRNA配列に対して修飾を施すことができる。このような修飾は、それにより、mRNAまたは新生ペプチドの安定性を改変し、タンパク質合成および翻訳の効率を増強することができる。
【0060】
miRNAは、一般的に、リボヌクレオタンパク質複合体の成分である21−23ヌクレオチドのRNAであり得る。miRNAは、mRNAに対する塩基対合によりmRNAの安定性またはタンパク質合成に影響を及ぼすことができる。miRNAは、一般的に、mRNAの3’UTRにおける結合部位に対する塩基対合によってそれらの効果を介在する。しかしながら、miRNAは、コード配列および5’リーダー配列内に含まれる結合部位から同様の抑制作用を有することが示されている。塩基対合は、miRNAのヌクレオチド2−8からなる、いわゆる「シード配列」を介して起こる。ヒトにおいて1,000以上の異なるmiRNAが存在し得る。
【0061】
miRNA介在抑制を回避するためのmRNAの再操作は、mRNA内のすべてのシード配列を変異することを含むことができる。上記の開始コドン変異のとおり、これらの変異は、コードされたアミノ酸配列が改変されないままであることを確実にし、開始コドン、希少コドン、または他のmiRNAシード配列を導入しないように作用することができる。
【0062】
コンピュータープログラムは、興味のある細胞型、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞における発現のための齧歯動物細胞、またはヒト細胞系における発現もしくはDNAワクチンにおける適用のためのヒト細胞にしたがって、mRNA配列を再操作するために使用することができる。このプログラムは、開始コドン以外の、可能性のある開始コドンを除去するようにmRNAを再コードすることができる。コード配列におけるインフレームのAUGコドンの場合において、これらの下流開始コドンのコンテキストは、可能ならば弱めることができる。変異は、興味のある細胞系に対するコドンバイアスにしたがって実施することができ、例えば、ヒトコドンバイアス情報はヒト細胞系のために使用することができ、出芽酵母コドンバイアス情報は該酵母のために使用することができ、大腸菌コドンバイアス情報は該細菌のために使用することができる。より高等な真核mRNAにおいて、次に、再コードされたmRNAは、興味のある生物体におけるすべての既知のシード配列、例えば、ヒト細胞系に対するヒトシード配列について探索することができる。シード配列を、1)アミノ酸配列を破壊することなく、2)変異コドンの利用バイアスを劇的に改変することなく、3)新規推定開始コドンを導入することなく、変異させることができる。
【0063】
本明細書は多数の特定の記載を含み、それらの好ましい態様に対する言及が記載されているが、これらは、特許請求される方法または特許請求され得ることの範囲に限定すると解釈すべきでなく、むしろ特定の態様に特異的である特徴の記載と解釈すべきである。形式における種々の変化および詳細は、記載されている対象の意味から逸脱することなく行われ得ることは、当業者により理解される。別々の態様の文脈において本明細書に記載されている特定の特徴は、また、単一の態様における組合せにより実行され得る。逆に、単一の態様の文脈において記載されている種々の特徴は、また、別々に、または任意の適当な副組合せ(sub-combination)において複数の態様により実行され得る。さらに、特徴は特定の組合せにおける作用として上記されており、それ自体、特許請求されているが、特許請求される組合せからの1つまたはそれ以上の特徴は、いくつかの場合において組合せから排除され得、特許請求される組合せは、副組合せまたは副組合せの変異体であり得る。対象の範囲は特許請求の範囲により定義される。
【0064】
本明細書において引用されている全ての文献、データベース、GenBank配列、特許および特許出願は、それぞれが、出典明示により包含させるために具体的に、および個々に示されているとき、出典明示により本明細書に包含させる。
【実施例】
【0065】
実施例
以下の実施例はさらなる説明を提供するが、その範囲に限定されない。他の変異体が当業者には容易に明らかであり、特許請求の範囲に包含される。
【0066】
実施例1:mRNA転写産物内の多重翻訳開始部位の修飾
mRNA転写産物の5’−UTRおよびコーディング領域内の多重翻訳開始部位の存在は、例えば、真の、もしくは証明された翻訳開始コドンからリボソームをそらすことにより、翻訳の効率を減少させる。あるいは、または加えて、真の、もしくは証明された翻訳開始コドンの下流の多重翻訳開始部位の存在は、全長タンパク質の翻訳の効率を減少させる1つ以上のタンパク質アイソフォームの翻訳の開始を誘導する。商業的に価値のあるヒトタンパク質をコードするmRNA転写産物の翻訳の効率を改善するために、真の、もしくは証明された翻訳開始コドンの上流および下流のすべてのリーディングフレーム内の可能性のある翻訳開始部位を、これらの部位を除去するように変異させる。この方法の好ましい局面において、mRNA配列を改変するが、コードされる得られるアミノ酸は同じままである。あるいは、同様の物理的特性を有するアミノ酸を置換する保存的変化を誘導する。
【0067】
標準翻訳開始コドンはAUG/ATGである。他の同定された開始コドンは、ACG、GUG/GTG、UUG/TTG、CUG/CTG、AUA/ATA、AUC/ATCおよびAUU/ATTを含むが、これらに限定されない。
【0068】
細胞内タンパク質:クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)
クロラムフェニコールは、50Sリボソームサブユニットに結合し、ペプチド結合形成を防止することにより、細菌タンパク質合成を妨げる抗生物質である。耐性遺伝子(cat)は、該抗生物質をその2つのヒドロキシル基の1つまたは両方でアセチル化することにより、該薬物をアセチル化し、不活性化させるアセチルトランスフェラーゼ酵素をコードする。CATの修飾されていないオープンリーディングフレームは、113個の可能性のある開始コドン(真の開始コドンを含む20個のATG、8個のATC、8個のACG、12個のGTG、8個のTTG、11個のCTG、6個のAGG、10個のAAG、16個のATAおよび14個のATTコドン)を含む(配列番号:120)。配列番号:121は、完全に修飾されたCATのORFであり、配列番号:122は、可能性のある修飾の一部だけを施した部分的に修飾されたCATのORFである。
【0069】
図1A−1Bは、CATシストロン(CAT)および部分的に修飾されたCATシストロン(mCAT)を含む細菌発現構築物を産生し、大腸菌細菌株DH5αにおいて試験したことを示す。DH5α細胞を、CATおよびmCAT発現構築物で形質転換し、LB/アンピシリンプレート上に置いた。培養物を単一のコロニーから得、培養物のA600を測定することにより決定されるとき対数増殖が達成されるまで、LB/アンピシリン(〜50μg/ml)中で37℃で220rpmで振とうしながら培養した。次に、培養物を比較できるA600にLB/アンピシリンで希釈した。CAT発現構築物で形質転換されたDH5α細胞由来の培養物のA600は0.3であったが、mCAT発現構築物で形質転換された細胞由来のものは0.25であった。クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ発現を、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG、0.4mMの最終濃度)の導入により、CATおよびmCATプラスミド内に含まれるlacオペロンによって誘導した。3ミリリットルのそれぞれの培養物をクロラムフェニコールを含む新しいチューブに移し、20、40、80、160、320、640、1280および2560μg/mlの最終濃度とした。培養物を220rpmで振とうしながら37℃でインキュベートし、それぞれの培養物のA600を1時間間隔で測定した。
【0070】
図1A−1Bは、CAT(ダイヤモンド形)およびmCAT(四角形)の発現構築物で形質転換されたDH5α細胞の培養物の増殖曲線を示す。IPTGを加えることによりクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ発現を誘導し、培養物を含む3ミリリットルのIPTG(最終濃度0.4mM)をクロラムフェニコールを含む新しいチューブに加え、0、40、80、160、320、640、1280、および2560μg/mlの最終濃度とした。培養物を220rpmで振とうしながら37℃でインキュベートし、それぞれの培養物のA600を経時的に測定した。320および640μg/mlのクロラムフェニコールの存在下で増殖させた培養物に対する結果を示す。X軸は時間(時)を示し、Y軸は正規化A600(開始A600と比較して)を示す。
【0071】
結果は、mCAT発現構築物で形質転換された細菌が、すべての濃度において、CAT発現構築物で形質転換された細菌よりも良い増殖をしたことを示す。図1A−1Bにおいて示されるとおり、クロラムフェニコールの高い濃度(320および640μg/ml)において、修飾されたCATを有する細胞はまだ増殖したが、野生型CATを有する細胞は増殖しなかった。これらの結果は、より機能的なクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ酵素がmCAT構築物から発現し、したがって、該発現構築物で形質転換された細菌を該抗生物質の存在下でより良く増殖させることを示す。
【0072】
CATおよびmCAT発現構築物で形質転換されたDH5α細胞から合成されたクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ酵素の相対量を決定するために、IPTGによる誘導の5、30、60および90分後にウエスタンブロット分析を細胞抽出物で実施した。それぞれの時点で50μlの培養物を遠心し、細菌ペレットを30μlのTEバッファーおよび10μlの4×SDSゲルローディングバッファーに懸濁した。サンプルを95℃で3分加熱し、10%のBis−Tris/SDSポリアシルアミドゲル上に負荷した。タンパク質をPVDF膜に移し、抗CAT抗体で調査した。図2は、IPTG誘導後種々の時点でCAT(C)およびmCAT(mCAT)発現構築物で形質転換されたDH5α細胞由来の溶解物のウエスタンブロット分析である。結果は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼタンパク質(19kDaマーカーより大きい)の量が、全ての試験された時点で、mCAT発現構築物(mC)で形質転換されたDH5α細胞において実質的に増加していることを示した。
【0073】
クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼのORFの分析も、哺乳動物細胞において実施した。CATのORFおよび部分的に修飾されたCATのORFを、CMVプロモーターを含む哺乳動物の発現構築物にクローンし、チャイニーズハムスター卵巣(DG44)細胞への一過性トランスフェクションにより試験した。簡潔には、0.5μgのそれぞれの発現構築物をβ−ガラクトシダーゼレポータータンパク質(pCMVβ、Clontech)を発現する20ngのコトランスフェクション コントロールプラスミドと共に、製造業者の指示のしたがってFugene6(Roche)トランスフェクション試薬を使用して、100,000のDG44細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後、250μlの溶解バッファーを使用して細胞を溶解した。サンプル間で同様のトランスフェクション効率であることを確認するため、LacZレポーターアッセイを実施した。30μlの溶解物を10μlの4×SDSゲルローディングバッファーに加えた。サンプルを72℃で10分加熱し、10%のBis−Tris/SDSポリアシルアミドゲル上に負荷した。タンパク質をPVDF膜に移し、α−CAT抗体で調査した。
【0074】
図3は、野生型(CAT)および修飾されたCAT発現構築物で形質転換されたDG44細胞由来の抽出物のウエスタンブロット分析を示す。細胞抽出物を1×MOPS/SDS中の10%のBis−Trisゲル上で分別し、PVDF膜に移し、抗CAT抗体で調査した。実験は、トランスフェクション効率が同じである細胞由来の抽出物でトリプリケートで実施した。
【0075】
野生型(CAT)を有する3つのトランスフェクションと修飾されたCATを有する3つのトランスフェクション間の比較を行った。CATタンパク質(19kDaマーカーより大きい)の量は、修飾された構築物でトランスフェクトされた細胞において実質的に増加する。結果は、CATタンパク質(19kDaマーカーより大きい)の量がmCAT構築物でトランスフェクトされたDG44細胞において実質的に増加することを示した。得られるmRNA転写産物内の多重翻訳開始部位を除去することによるCATのORFの修飾は、この技術が哺乳動物および細菌細胞だけでなく多数の生物体において実用化され得ることを証明した。
【0076】
分泌タンパク質
該技術の実用性を、また、分泌タンパク質で研究した。哺乳動物の発現構築物を、ヒトCD5分子(CD5)mRNA内にコードされるシグナルペプチドに対して産生した。転写をCMVプロモーターにより駆動し、cd5シグナルペプチドをサイログロブリンタンパク質に対する抗体の軽鎖をコードするORFの5’末端に置いた哺乳動物の発現構築物を産生した(cd5−1、配列番号:123)。CD5シグナルペプチド配列は、3つのATG、1つのTTGおよび3つのCTGコドンを含む7つの可能性のある開始コドンを含む。一連の発現構築物を産生した。1つの変異体において、cd5シグナルペプチドにおけるATGコドンを、ATCコドンに変化させ、メチオニンからイソロイシン置換をもたらした(cd5−2、配列番号:124)。別の変異体において、cd5シグナルペプチドにおけるCTGコドンをCTCに変化させた(cd5−3、配列番号:125)。別の変異体において、ATGコドンをATCコドンに変異させて、メチオニン(M)からイソロイシン(I)へのアミノ酸置換をもたらし、CTGコドンをCTCに変化させた(cd5−4、配列番号:126)。別の変異体において、ATGコドンをATCコドンに変化させて、メチオニン(M)からイソロイシン(I)へのアミノ酸置換をもたらし、CTGコドンをCTCコドンに変化させ、開始AUGのコンテキストをそれのコドン3’をCCCからGCTに変化させて、プロリン(P)からアルギニン(R)へのアミノ酸置換をもたらすことにより改良した(cd5−5、配列番号:127)。
【0077】
次に、これらの構築物を、チャイニーズハムスター卵巣(DG44)細胞への一過性トランスフェクションにより試験した。簡潔には、0.5μgのそれぞれの発現構築物をβ−ガラクトシダーゼレポータータンパク質(pCMVβ、Clontech)を発現する20ngのコトランスフェクション コントロールプラスミドと共に、製造業者の指示のしたがってFugene6(Roche)トランスフェクション試薬を使用して、100,000のDG44細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後、250μlの溶解バッファーを使用して細胞を溶解した。サンプル間で同様のトランスフェクション効率であることを確認するため、LacZレポーターアッセイを実施した。30μlの上清を10μlの4×SDSゲルローディングバッファーに加えた。サンプルを72℃で10分加熱し、10%のBis−Tris/SDSポリアシルアミドゲル上に負荷した。タンパク質をPVDF膜に移し、α−カッパ軽鎖抗体で調査した。
【0078】
図4は、野生型(cd5−1)および修飾されたcd5シグナルペプチドのα−サイログロブリン軽鎖発現構築物(cd5−2からcd5−5)で形質転換されたDG44細胞由来の上清のウエスタンブロット分析を示す。細胞抽出物を1×MOPS/SDS中の10%のBis−Trisゲル上で分別し、PVDF膜に移し、α−カッパ軽鎖抗体で調査した。実験は、トランスフェクション効率が同じである細胞由来の上清で実施した。結果は、細胞の上清中の分泌された抗体軽鎖産物(28kDaより大きい)のレベルがシグナルペプチドにおいてCTGコドンを欠いている発現構築物(cd5−3)について実質的に増加していることを示す。CTG、ATGコドンを欠き、およびシグナルペプチドにおける真の開始コドンの周囲の改善された(完全にレスキューされた)ヌクレオチドコンテキストを有する発現構築物も、また、実質的に増加している上清中のタンパク質産物のレベルを有した。
【0079】
軽鎖シグナルペプチド1を含むThy−1可変軽鎖ORF(配列番号:128)は、真の開始コドンを含む8個のATG、15個のATC、6個のACG、14個のGTG、4個のTTG、26個のCTG、16個のAGG、10個のAAG、3個のATAおよび2個のATTコドンを含む104個の可能性のある開始コドンを含む。修飾によってAUGおよびCUGコドンが除去されたシグナルペプチドを作製した(配列番号:129)。軽鎖シグナルペプチド2を含むThy−1可変軽鎖ORF(配列番号:130)は、真の開始コドンを含む7個のATG、16個のATC、6個のACG、13個のGTG、4個のTTG、27個のCTG、15個のAGG、10個のAAG、4個のATAおよび2個のATTコドンを含む104個の可能性のある開始コドンを含む。重鎖シグナルペプチド1を含むThy−1可変重鎖ORFは、真の開始コドンを含む18個のATG、14個のATC、18個のACG、42個のGTG、7個のTTG、43個のCTG、43個のAGG、33個のAAG、5個のATAおよび2個のATTコドンを含む225個の可能性のある開始コドンを含む(配列番号:131)。修飾によってAUGおよびCUGコドンが除去されたシグナルペプチドを作製した(配列番号:132)。重鎖シグナルペプチド2を含むThy−1可変重鎖ORFは、真の開始コドンを含む18個のATG、14個のATC、18個のACG、43個のGTG、9個のTTG、41個のCTG、43個のAGG、33個のAAG、5個のATAおよび3個のATTコドンを含む227個の可能性のある開始コドンを含む(配列番号:133)。
【0080】
シグナルペプチドがCD5シグナルペプチドと置き換えられているThy−1可変軽鎖ORF(配列番号:137)は、真の開始コドンを含む8個のATG、15個のATC、6個のACG、13個のGTG、5個のTTG、27個のCTG、14個のAGG、10個のAAG、3個のATAおよび2個のATTコドンを含む104個の可能性のある開始コドンを含む。修飾によってATGコドンをATCコドンに変化させて、メチオニン(M)からイソロイシン(I)へのアミノ酸置換をもたらした(配列番号:138)。また、修飾によってCTGコドンをCTCコドンに変化させた(配列番号:139)。別の修飾によってATGコドンをATCコドンに変異させて、メチオニン(M)からイソロイシン(I)へのアミノ酸置換をもたらし、CTGコドンをCTCコドンに変化させた(配列番号:140)。別の修飾によってATGコドンをATCコドンに変化させて、メチオニン(M)からイソロイシン(I)へのアミノ酸置換をもたらし、CTGコドンをCTCコドンに変化させ、開始AUGのコンテキストを、それのコドン3’をCCCからGCTに変化させて、プロリン(P)からアルギニン(R)へのアミノ酸置換をもたらすことにより改良した(配列番号:141)。
【0081】
他の生物体由来のシグナルペプチドを同様に変異させた(表1参照)。酵母および哺乳動物細胞において機能するシグナルペプチドに対するDNA配列を分析し、変異させて、変異型を作製した(配列番号:145−156)。タンパク質の開裂されるシグナルペプチドにおいて、インフレームでATGコドンを、例えば、別の疎水性アミノ酸であるイソロイシンをコードするATTまたはATCへ、変異させることができると理解すべきである。インフレームでヒトモノクローナル抗体由来の軽鎖と融合させたこれらのシグナル配列を含むようにDNA構築物を産生することができる。異なる生物体における発現時に(例えば、酵母のメタノール資化酵母および哺乳動物細胞株)、タンパク質ゲルおよびウェスタンアッセイをヒト軽鎖抗体の発現レベルを確認するために使用することができる。
表1:酵母および哺乳動物細胞において機能するシグナルペプチドに対するDNA配列
【表1】

【0082】
HcRed1
HcRed1は、励起および発光最大がそれぞれ558nmおよび618nm+/−4nmで起こる遠赤色蛍光タンパク質をコードする。HcRed1は、珊瑚礁シライトイソギンチャク(Heteractis crispa)由来の非蛍光色素タンパク質の変異誘発により産生した。次に、HcRed1のコード配列を、哺乳動物細胞においてより高い発現のためにヒトコドンを最適化した。このORFは、真の開始コドンを含む9個のATG、8個のATC、12個のACG、16個のGTG、21個のCTG、18個のAGG、および15個のAAGコドンを含む99個の可能性のある開始コドンを含む(配列番号:134)。HcRed1のORFの完全および部分的修飾を行った(それぞれ配列番号:135および136)。
【0083】
エリスロポエチン(EPO)
ヒトエリスロポエチン(EPO)は、重要な治療剤である。本明細書に記載されている方法を使用して、ヒトEPOタンパク質(以下で提供され、GenBank受入番号NM_000799として利用できる)をコードするmRNA配列を、このmRNA転写産物内の多重翻訳開始部位を除去するように最適化する。
【0084】
典型的なヒトエリスロポエチン(EPO)タンパク質は以下のmRNA転写産物によってコードされており、ここで、成熟ペプチドをコードする配列は下線が引かれており、全3つのリーディングフレーム内の全ての可能性のある翻訳開始出発部位は太字であり、メチオニンに対応する標準開始コドンは大文字であり、ウラシル(u)はチミジン(t)に置き換えられている(配列番号:111):
【化1】

【0085】
得られたアミノ酸配列を保存するため、可能であれば、サイレント(silent)または保存的置換を行う。それぞれ1つのコドン(aug/atg)および(ugg/tgg)のみによりコードされるメチオニンおよびトリプトファンの場合において、置換はメチオニンまたはトリプトファンをコードする配列を同様の物理的特性のアミノ酸をコードする配列で置き換える。保存的アミノ酸置換が行われるとき重要であると考えられる物理的特性は、側鎖形状、サイズ、および分岐、疎水性、極性、酸性度、芳香族性 対 脂肪族構造、ならびにファンデルワールス体積を含むが、これらに限定されない。例えば、これらのアミノ酸がすべて同様の疎水性、非極性であり、同等のファンデルワールス体積を占めるため、アミノ酸ロイシンまたはイソロイシンはメチオニンに対して置換することができる。したがって、メチオニンに対するロイシンまたはイソロイシンの置換は、タンパク質フォールディングに影響しない。ロイシンは、メチオニン置換のための好ましいアミノ酸である。あるいは、これらのアミノ酸がすべて同様の芳香族性であり、同等のファンデルワールス体積を占めるため、アミノ酸チロシンまたはフェニルアラニンはトリプトファンに対して置換することができる。
【0086】
以下の配列は、ヒトエリスロポエチン(EPO)をコードする修飾されたmRNA転写産物の1つの例であり、ここで、証明された開始メチオニン(ヌクレオチド182−184によってコードされる)の上流の全ての可能性のある翻訳開始出発部位、およびコーディング領域内の証明された開始メチオニンの下流の可能性のある翻訳開始出発部位を変異させる(イタリック体は変異)(配列番号:113)。
【化2】

【0087】
エリスロポエチンに対する修飾されていないオープンリーディングフレームは、88個の可能性のある開始コドン(真の開始コドンを含む8個のATG、5個のATC、4個のACG、7個のGTG、3個のTTG、32個のCTG、14個のAGG、10個のAAG、3個のATA、および2個のATTコドン)を含む(配列番号:112)。修飾によって、多数の可能性のある開始コドンの除去(配列番号:116)、シグナルペプチドのATGおよびCTGの除去(配列番号:211)、グルタミン酸(E)からグルタミン(Q)へのアミノ酸置換(配列番号:118)またはヒスチジン(H)からアルギニン(R)へのアミノ酸置換(配列番号:119)をもたらすATG、CTGおよびACGコドンの除去により修飾されたシグナルペプチドを含むように作製することができる。
【0088】
実施例2:mRNA転写産物内のmiRNA結合部位の修飾
標的mRNA転写産物に対するマイクロRNA(miRNA)結合は、標的mRNA転写産物の分解を誘導するか、または標的mRNA転写産物の翻訳を防止することのいずれかにより翻訳の効率を減少させる。商業的に価値のあるヒトタンパク質をコードするmRNA転写産物の翻訳の効率を改善するために、標的mRNAの5’リーダー配列、5’非翻訳領域(UTR)配列、コード配列、および3’非翻訳領域(UTR)配列内の全て既知または予測miRNA結合部位を第1に同定し、第2にmiRNA結合を阻害するために変異または改変させる。
【0089】
該方法の好ましい局面において、成熟miRNA配列の最初の8個の5’ヌクレオチドを含むシード配列を、特異的に標的とする。シード配列は、成熟miRNA配列の5’ヌクレオチド1−7または2−8のいずれかを含む。したがって、シード配列は、該方法の目的のために、両方の選択肢を包含する。miRNAシード配列は、ワトソン−クリック塩基対合基準にしたがって結合するmiRNAの唯一の部分であるため、miRNAのシード配列は機能的に有意である。miRNAのシード配列領域内の結合の絶対的な相補性なしに、miRNAのその標的mRNAへの結合は起こらない。しかしながら、大抵のヌクレオチド対とは異なって、miRNAのシード配列は、G:Uゆらぎとして知られているグアニンヌクレオチドがウラシルヌクレオチドと対合するように、標的mRNAと対合することができる。
【0090】
例えば、ヒトエリスロポエチン(EPO)は、十分な量において製造することが困難であった重要な治療剤である。本方法を使用して、該タンパク質をコードするmRNA配列(GenBank受入番号NM_000799)を、miRNA下方制御を阻害するように最適化する。PicTar Web Interface(pictar.mdc_berlin.de/cgi-bin/PicTar_vertebrate.cgiで公に利用できる)によって、ヒトmiRNA hsa−miR−328およびhsa−miR−122aがヒトEPOをコードするmRNAを標的とすることを予測した(これらのmiRNAの成熟およびシード配列は、以下の表2に提供されている)。したがって、例えば、uggaguguのシード配列を有する、hsa−miR−122aの場合において、hsa−miR−122aがもはや結合しないように1つ以上のヌクレオチドを変異し、別の既知のmiRNAのシード配列を創造しない。結合を防止する1つの可能性のある変異hsa−miR−122aシード配列は、「uagagugu」である。該配列は、例えば、以下の表2内に示されていないため、該変異シード配列が別の既知のmiRNAに属することは起こりそうにない。
【0091】
同様に、PicTar Web Interfaceによって、ヒトmiRNA hsa−miR−149、hsa−let7f、hsa−let7c、hsa−let7b、hsa−let7g、hsa−let7a、hsa−miR−98、hsa−let7i、hsa−let7eおよびhsa−miR−26bが、ヒトインターフェロンベータ2(IL−6としても既知、Genbank受入番号NM_000600)をコードするmRNAを標的とすることを予測した(これらのmiRNAの成熟およびシード配列は以下の表2に提供されている)。
【0092】
MiRNA結合部位は、1000未満の塩基対のあらゆる配列をSanger InstituteのMiRNA:配列データベース(microna.sanger.ac.uk/sequences/search.shtmlで公に利用できる)に挿入することにより同定することができる。
【0093】
表2:既知のヒトMiRNA、成熟配列およびシード配列
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
miR−183結合配列(配列番号:59)を変異させ(配列番号:142)、例えば、FLAGタグも含むCAT遺伝子におけるレポーター遺伝子のコード配列に組み込んだ(配列番号:143)。miR−183結合配列が変異されている抗−FLAGタグ抗体(配列番号:144)を使用するウエスタンブロット分析により、細胞における発現の評価を可能にする。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全長タンパク質発現の効率を改善する方法であって、
a)i)タンパク質に対するコード配列、
ii)コード配列の上流にある第1の開始コドン、および
iii)コード配列内に位置する1つ以上の第2の開始コドン
を含むポリヌクレオチドを提供し、
b)1つ以上の第2の開始コドンを変異し、該変異が、第1の開始コドンから離れてリボソームダイバージョンの減少をもたらす1つ以上の第2の開始コドンでのタンパク質合成の開始の減少をもたらし、
それにより、全長タンパク質発現の効率を増加させる
ことを含む方法。
【請求項2】
1つ以上の第2の開始コドンの変異が、アミノ酸配列が改変されない1つ以上のヌクレオチドの変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上の第2の開始コドンが、コード配列と同じリーディングフレーム内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の第2の開始コドンが、コード配列のフレーム外にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の第2の開始コドンが、リボソーム動員部位から1つ以上のヌクレオチドの上流または下流に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
リボソーム動員部位が、キャップまたはIRESを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1つ以上の第2の開始コドンが、AUG、ACG、GUG、UUG、CUG、AUA、AUC、およびAUUからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コード配列内の2つ以上の第2の開始コドンを変異させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コード配列内のすべての第2の開始コドンを変異させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1つ以上の第2の開始コドンの変異が望ましくないヌクレオチドコンテキストへのフランキングヌクレオチドの変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1つ以上の第2の開始コドンの変異が、新規開始コドンを導入しない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
1つ以上の第2の開始コドンの変異が変異コドンの利用バイアスを改変しない、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
全長をコードされたタンパク質以外の短縮タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの産生を減少させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上の第2の開始コドンの変異が、miRNAシード配列、スプライスドナー部位、スプライス受容部位、またはmRNA不安定化エレメントを導入しない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
全長タンパク質発現の効率を改善する方法であって、
a)タンパク質に対するコード配列およびコード配列内に位置する1つ以上のmiRNA結合部位を含むポリヌクレオチド配列を提供し、
b)1つ以上のmiRNA結合部位を変異し、該変異が、タンパク質翻訳のmiRNA介在の下方制御の減少をもたらす1つ以上のmiRNA結合部位でのmiRNA結合の減少をもたらし、それにより、全長タンパク質発現の効率を増加させる
ことを含む方法。
【請求項16】
1つ以上のmiRNA結合部位の変異が、アミノ酸配列が改変されない1つ以上のヌクレオチドの変異を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1つ以上のmiRNA結合部位の変異が、miRNAのシード配列中の1つ以上のヌクレオチドの変異を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
1つ以上のmiRNA結合部位の変異が、開始コドンがポリヌクレオチド配列に導入されないような1つ以上のヌクレオチドの変異を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
1つ以上のmiRNA結合部位の変異が、希少コドンがポリヌクレオチド配列に導入されないような1つ以上のヌクレオチドの変異を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
1つ以上のmiRNA結合部位の変異が、さらなるmiRNAシード配列がポリヌクレオチド配列に導入されないような1つ以上のヌクレオチドの変異を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
1つ以上のmiRNA結合部位がコード配列内に位置する、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
1つ以上のmiRNA結合部位が3’非翻訳領域内に位置する、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
1つ以上のmiRNA結合部位が5’リーダー配列内に位置する、請求項15に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−520158(P2013−520158A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552028(P2011−552028)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/000567
【国際公開番号】WO2010/098861
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】