説明

ターゲット吸着装置及び記録装置

【課題】吸引手段の設置数を削減しつつ、搬送されるターゲットに対して搬送途中において確実に吸引力を作用させることができるターゲット吸着装置及び記録装置を提供する。
【解決手段】第2支持台27の複数の吸引孔30を複数の吸引孔群に区分した場合に吸引孔群毎に連通する複数の負圧室33aと、複数の負圧室33aから個別に延設された連通部材35を介して各負圧室33a内に負圧を発生可能な誘引送風機37を備え、連通部材35は、複数の負圧室33aのうち一部の負圧室33aと連通する吸引孔群の吸引孔30を閉塞した場合に、負圧室33aと連通する吸引孔群を介して用紙12を吸着させるための所要吸引力を付与するべく、所要吸引力を作用させるための所要静圧、及び誘引送風機37の静圧−風量曲線により規定される所要静圧と対応する所要風量を発生可能なように、誘引送風機37の駆動に伴う連通部材35における空気の総圧力損失を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット式プリンタなどの記録装置、及び該記録装置に備えられるターゲット吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ターゲット吸着装置を備えた記録装置として、搬送されるシート状のターゲットにトナー像を転写して定着させる画像形成装置や、搬送されるターゲットに記録ヘッドからインクを吐出して文字や画像を印刷するインクジェット式記録装置(以下、「プリンタ」と言う)が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。こうした画像形成装置やプリンタに設けられるターゲット吸着装置は、吸引ファン(吸引手段)の駆動に基づき負圧を発生する吸引ダクトと、この吸引ダクトを内側に設置した状態で周回駆動される無端状の搬送ベルトとを有し、その搬送ベルトには、ターゲットの搬送方向と直交する幅方向全域に亘って複数の吸引孔が形成されている。そして、ターゲットを支持した状態にある搬送ベルトの吸引孔内を吸引ファンの駆動に基づき吸引ダクトを介して吸引することにより、ターゲットが周回移動する搬送ベルト上に吸着されつつ下流側に搬送されるようになっている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の画像形成装置では、吸引ダクトが単一の負圧室からなる構成とされている。すなわち、その吸引ダクトを介して搬送ベルトの各吸引孔内を吸引してターゲットを吸着しようとする場合、その搬送ベルトにおいて吸引ダクトと対応する全ての吸引孔が大気との連通状態を遮断されるように閉塞されない限り、吸引ファンが駆動されても、吸引ダクトはターゲットを吸着可能な負圧(吸引圧)が得られない構成になっている。そのため、この特許文献1の画像形成装置では、搬送ベルトに支持された状態で搬送されるターゲットに対して、そのターゲットにおける搬送方向の先端部が吸引ダクトにおける搬送方向の下流側端部に到達する前段階では、吸引ファンが強力な吸引力を発揮するものでない限り、確実に吸引力を作用させることができない虞があった。
【0004】
これに対し、特許文献2に記載のプリンタでは、ターゲットの搬送方向に沿って複数の吸引ダクトが吸引ダクト毎に吸引ファンを個別に有した状態で並列に配置され、それら全ての吸引ダクトを内側に設置した状態で吸引孔付きの搬送ベルトが周回するように設けられている。そして、各吸引ダクトの各々については、その吸引ダクトの下流側端部をターゲットにおける搬送方向の先端部が通過した時点で、その吸引ダクトと連通する搬送ベルトにおける一群の吸引孔がターゲットにより被覆されるようになっている。すなわち、搬送ベルトに支持された状態で搬送されるターゲットに対して、そのターゲットにおける搬送方向の先端部が最下流側に配置された吸引ダクトにおける搬送方向の下流側端部に到達する前段階でも、搬送方向の上流側に配置された吸引ダクト内には所望の負圧(吸引圧)を生じさせて確実に吸引力を作用させることができるようになっている。
【特許文献1】特開2006−168890号公報
【特許文献2】特開2005−169990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に記載のプリンタでは、搬送方向に沿って並列配置された複数の吸引ダクト毎に吸引ファンを各々設置する構成となっていた。そのため、吸引ファンの設置数の増加に付随して、装置全体の大型化及び装置全体の製造コストの増大を招来するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸引手段の設置数を削減しつつ、搬送されるターゲットに対して搬送途中において確実に吸引力を作用させることができるターゲット吸着装置及び記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のターゲット吸着装置は、上流側から下流側に搬送されるターゲットを支持可能な支持面を有し且つ該支持面上には複数の吸引孔の吸引開口が形成された支持部材と、該支持部材の前記複数の吸引孔に対して該各吸引孔を複数の吸引孔群に区分した場合における該吸引孔群毎に個別に連通する複数の負圧室と、該複数の負圧室から各々個別に延設された連通部材を介して前記各負圧室内に負圧を発生可能な吸引手段とを備え、前記連通部材は、前記複数の負圧室のうち一部の負圧室と連通する前記吸引孔群における吸引孔の吸引開口が閉塞された場合に、該負圧室と連通する前記吸引孔群を介して前記ターゲットを吸着させるために必要な所要吸引力を付与するべく、該所要吸引力を作用させるために必要な所要静圧、及び前記吸引手段の静圧−風量曲線により規定される前記所要静圧と対応する所要風量を発生可能なように、前記吸引手段の駆動に伴う前記連通部材における流体の総圧力損失が設定されている。
【0008】
通常、ターゲットの搬送方向における先端部が支持部材の支持面における下流側端部に到達する前段階では、支持面上に形成された複数の吸引孔群のうち下流側に配置されているために未だターゲットに吸引開口を覆われていない下流側の吸引孔群は大気に対して開放状態にある。そして、複数の吸引孔群と各々対応する複数の負圧室のうち下流側の吸引孔群と対応する下流側の負圧室は、開放状態にある吸引孔群の吸引孔を介して大気に連通している。そのため、吸引手段の駆動に伴い、下流側の吸引孔群と対応する負圧室及び該負圧室と接続された連通部材を介して吸引手段内には流体(大気)が流入することになり、この下流側の吸引孔群と対応する下流側の負圧室には負圧が発生しない。そして、この場合には、既にターゲットにより吸引開口が覆われている上流側の吸引孔群と対応する上流側の負圧室にも吸引手段内及び該負圧室と接続された連通部材を介して流体(大気)が流入するため、この上流側の吸引孔群と対応する上流側の負圧室にも負圧が発生しないことになる。その結果、ターゲットが上流側の吸引孔群の上方を通過する時点では、複数ある全ての負圧室を負圧にすることができず、ターゲットに対して確実に吸引力を作用させることができない虞があった。
【0009】
この点、上記構成によれば、ターゲットの搬送方向における先端部が支持部材の支持面における下流側端部に到達する前段階で、下流側の吸引孔群に対応する負圧室が大気に対して開放状態にある場合であっても、吸引手段の駆動に伴って下流側の負圧室と接続された連通部材内に流入する流体(大気)の圧力損失が、上流側の吸引孔群に対応する上流側の負圧室内に所望の負圧を発生させるために適切な値となるように該連通部材の形状が設計されている。そのため、複数の吸引孔群と個別に対応する複数の負圧室内を共通の吸引手段により吸引する構成とすることで、吸引手段の設置数を削減しつつ、搬送されるターゲットに対して搬送途中において確実に吸引力を作用させることが可能となる。
【0010】
また、本発明のターゲット吸着装置において、前記連通部材は、直円筒状をなすように形成されており、前記ターゲットの面積をS、前記ターゲットに対して吸引力を及ぼすための開口部の開口密度をY、前記連通部材の長さをL、前記連通部材の直径をD、前記吸引手段に接続する前記負圧室の数をA、前記連通部材内の摩擦係数をk、前記連通部材の前記負圧室に対する接続部における圧損係数をζin、前記連通部材の前記吸引手段に対する接続部における圧損係数をζout、前記ターゲットに付与する前記所要吸引力をX、前記所要吸引力の最小値Xと対応する風量をQとした場合に満たすべき条件式は、(100×X)/(S×Y)≦0.974×{1+k×(L/D)+ζin+ζout}×〔Q/{(A−1)×D}〕である。
【0011】
上記構成によれば、連通部材は、直円筒状をなす軸部、負圧室に対する接続部、及び吸引手段に対する接続部の構成を反映した圧力損失を総和して総圧力損失を算出すると共に、その算出結果及び吸引手段の静圧−風量曲線を考慮することにより、ターゲットに対して所望の吸引力を付与するために必要となる連通部材の構造に関する条件式が算出されている。そのため、この条件式を満たすように連通部材を構成することにより、ターゲットに対してより確実に所望の吸引力を作用させることが可能となっている。なお、連通部材内の摩擦係数kは、連通部材の内壁が滑らかで摩擦が少ない場合には0.02と仮定することができる。また、連通部材の負圧室に対する接続部の圧損係数ζinは、接続部の開口が角端の場合には0.5と仮定することができる。
【0012】
また、本発明のターゲット吸着装置は、前記ターゲットを支持した状態で該ターゲットを上流側から下流側に向けて搬送するために移動する搬送体を更に備え、前記搬送体は、該搬送体の移動途中において前記支持部材における前記各吸引孔の吸引開口と連通可能な複数の連通部を有すると共に、前記支持部材は、前記支持面により前記ターゲットを前記搬送体越しに支持可能であり、前記開口部は、前記搬送体の前記連通部である。
【0013】
上記構成によれば、ターゲットを支持部材の支持面上で搬送する搬送体を備えているため、ターゲットの形状は長尺状のものに制限されず、例えば枚葉紙状のターゲットを適用することが可能となる。加えて、搬送体は、支持部材の吸引孔と連通する連通部を有しているため、該連通部を通じて吸引孔からの吸引力がターゲットに及ぶことにより搬送体の上面に載置されたターゲットを搬送体に対して確実に吸着させることが可能となる。なお、上記構成ではターゲットを支持部材の支持面上で搬送する搬送体を備えているが、該搬送体の連通部の開口密度を上記条件式に適用することで、ターゲットに対して所望の吸引力を付与するために必要となる連通部材の構造を決定することができる。
【0014】
また、本発明の記録装置は、支持部材の支持面上に支持されたターゲットに対して記録処理を施す記録手段と、上記構成のターゲット吸着装置を備えた。上記構成によれば、上記ターゲット吸着装置と同様の作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の記録装置をインクジェット式プリンタに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「上下方向」、「前後方向」、「左右方向」をいう場合は、図中に矢印で示した方向を基準として示すものとする。
【0016】
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンタ(以下、「プリンタ」という。)11は、ターゲットとしての用紙12を吸着した状態で搬送するターゲット吸着装置としての搬送機構13を備えている。搬送機構13は、搬送方向の上流側(左側)に位置した給紙トレー14から給紙された用紙12を下流側(右側)へ搬送する第1搬送部15と、該第1搬送部15によって搬送された用紙12を、さらに下流側へ搬送して排紙トレー16へ排紙する第2搬送部17から構成されている。
【0017】
各搬送部15,17は、それぞれ図示しないモータの駆動力により回転駆動されると共に互いの軸線が平行となる第1駆動プーリ18及び第2駆動プーリ19と、各駆動プーリ18,19の軸線と平行な軸線を中心に回転自在な第1従動プーリ20及び第2従動プーリ21とをそれぞれ有している。さらに、第1駆動プーリ18と第1従動プーリ20との間には、無端状の搬送体としての第1搬送ベルト22が掛け渡されていると共に、第2駆動プーリ19と第2従動プーリ21との間には、無端状の搬送体としての第2搬送ベルト23が掛け渡されている。そして、各搬送ベルト22,23が、それぞれ対応する駆動プーリ18,19の回転駆動に伴い周回運動することにより、給紙トレー14から給紙された用紙12が第1搬送ベルト22上に載置された状態で第1搬送部15から第2搬送部17側へ搬送され、さらに第2搬送ベルト23上に載置された状態で排紙トレー16側へ搬送されるようになっている。
【0018】
また、図1に示すように、第1搬送部15における第1搬送ベルト22の上側となる位置には、記録手段としての記録ヘッド24が配設されている。また、記録ヘッド24の下面となるノズル形成面24aには、用紙12の幅方向(図1では紙面に直交する方向)に沿う複数のノズル列(図示略)が搬送方向に一定の間隔をおいて列設されている。そして、記録ヘッド24は、用紙12が記録ヘッド24の下方を通過するのに合わせて幅方向全体に亘るようにインクを噴射することにより、用紙12に対して印刷(記録処理)を施すようになっている。
【0019】
また、第2搬送部17における上流端の位置であって第2搬送ベルト23の上側となる位置には、第1搬送ベルト22上から第2搬送ベルト23上に移送された用紙12を乾燥促進のために加熱可能なヒータ25が配設されている。
【0020】
また、各搬送部15,17において、第1駆動プーリ18と第1従動プーリ20の間、及び第2駆動プーリ19と第2従動プーリ21の間には、上面が平面状に形成された支持部材としての第1支持台26及び第2支持台27が各々配設されている。そして、各搬送ベルト22,23が周回運動した場合には、各搬送ベルト22,23において用紙12を載置して下流側(左側から右側)に搬送するベルト部分の裏面が、各々対応する支持台26,27の上面に対して摺接するようになっている。
【0021】
また、各搬送部15,17において、各搬送ベルト22,23及び各支持台26,27には、それぞれ複数の孔が形成されている。なお、各搬送部15,17における搬送ベルト22,23及び支持台26,27は、それぞれ同じ構成を有しているため、第2搬送部17における搬送ベルト23及び第2支持台27のみを説明し、他の搬送部15については説明を省略する。
【0022】
図2に示すように、第2搬送ベルト23は、その表面23aが用紙12を搬送する際の載置面として機能するように構成されている。そして、この載置面となる表面23aと第2支持台27に摺接する裏面とを貫通するように、第2搬送ベルト23には連通部としての連通孔28が多数形成されている。なお、これらの連通孔28は、前後方向に沿う複数列の連通孔列29を左右方向に所定間隔をおいて形成するように規則的に配列されている。
【0023】
また、第2支持台27は、その上面27aが用紙12を第2搬送ベルト23越しに支持可能な支持面として機能するように構成されている。そして、この支持面となる上面27aに吸引開口が開口するように、第2支持台27には、該第2支持台27を上下方向(第2支持台27の厚み方向)に貫通する吸引孔30が多数形成されている。各吸引孔30は、第2搬送ベルト23の各連通孔28と前後方向においては各々対応した位置であって且つ左右方向においては各連通孔28よりも広い間隔をおいた位置に形成されている。そして、これらの吸引孔30は、前後方向に沿う複数列の吸引孔列31を左右方向に所定間隔をおいて形成するように規則的に配列されている。なお、各吸引孔30における吸引開口(上面27a側の開口)は左右方向に沿う長溝状に形成されている。
【0024】
図2〜図4に示すように、第2支持台27の下側には、複数列(本実施形態では12列)の吸引孔列31を用紙12の搬送方向(左右方向)において等しい列数ずつ(本実施形態では3列ずつ)を有する複数(本実施形態では4つ)の吸引孔群32に区分した場合に、各吸引孔群32における吸引孔30の下面側の開口を覆うように箱体状をなす覆蓋部材33が吸引孔群32毎に個別に設けられている。また、各覆蓋部材33の底面部には直径D(m)の平面視円形状の連通孔34が上下方向に貫通形成されると共に、該連通孔34側を基端として長さL(m)の直円筒状の連通部材35が鉛直下方に延設されている。すなわち、連通部材35は、軸部35aが鉛直方向に沿って直線状に延びる直線部として機能すると共に、基端部35bが連通孔34を介して覆蓋部材33に連通する接続部として機能するようになっている。なお、連通部材35における覆蓋部材33側の開口(連通孔34)は、角端状をなすように形成されている。
【0025】
また、各連通部材35の下方には、内部に吸引ファン36を収容する箱体状の吸引手段としての誘引送風機37が設けられている。さらに、誘引送風機37の上面において各覆蓋部材33の連通孔34と上下方向で対応する位置には連通孔38が各々形成されている。そして、各連通部材35は、先端部35cが各々対応する連通孔38を介して誘引送風機37側に連通する接続部として機能するようになっている。
【0026】
そして、誘引送風機37の駆動により吸引ファン36が回転すると、連通部材35を介して覆蓋部材33内が吸引されることで覆蓋部材33内に負圧が発生する。すなわち、箱体状をなす覆蓋部材33の内部空間は、誘引送風機37の駆動に伴い負圧が発生する負圧室33aとして機能するように構成されている。さらに、覆蓋部材33内の負圧室33aに負圧が発生すると、該負圧室33a内と連通する各吸引孔30内にも同様に負圧が作用し、該負圧により第2支持台27側に用紙12が吸引される。そして、各吸引孔30からの吸引力が連通孔28を通じて第2搬送ベルト23上に載置された用紙12に及ぶことにより、用紙12が第2搬送ベルト23上に吸着されるようになっている。
【0027】
ここで、連通部材35の構造(すなわち、平面視円形の直径D(m)、及び長手方向(上下方向)の長さL(m))は、一部の吸引孔群32の吸引開口が開放されている場合であっても、用紙12に対して所望の吸引力が作用するように設計されている。具体的には、誘引送風機37の駆動に伴って連通部材35内を流動する流体としての空気の総圧力損失の推定値を算出し、この推定値に基づいて連通部材35の構造に関する条件式を設定している。そこで、この条件式について以下説明する。
【0028】
まず、式1,2にて速度圧Pvを算出する。速度圧Pvは、静止している空気を所定の速度で流動させるために必要となる流動方向の動圧力(Pa)であり、式1にて表される。
【0029】
〔式1〕
Pv=(V/4.04)×9.81
〔V:連通部材35内を流動する空気の流速(m/s)〕
なお、式1における流速Vは、式2に示すように連通部材35内を流動する空気の単位面積当たりの風量である。
【0030】
〔式2〕
V=風量/断面積=(Q/n)/{π×(D/2)}=4Q/nπD
〔Q:連通部材35内を流動する空気の流量(m)、n:開放状態の吸引孔群32に連通する連通部材35の個数〕
前記式2を前記式1に代入すると、式3のようになる。
【0031】
〔式3〕
Pv=0974×(Q/nD
ここで、所定の風量Qを連通部材35内に流動させるために必要な静圧Pは、式4に示すように、連通部材35内を流動する空気の総圧力損失Ptotalと速度圧Pとの和である。
【0032】
〔式4〕
=P+Ptotal
また、総圧力損失Ptotalは、式5に示すように、連通部材35の軸部35a(直線部)の圧力損失Pと、連通部材35の基端部35b(覆蓋部材33側の接続部)における圧力損失Pinと、連通部材35の先端部35c(誘引送風機37側の接続部)の圧力損失Poutとの和である。
【0033】
〔式5〕
total=P+Pin+Pout
圧力損失Pは、空気が連通部材35の軸部35aを流動する過程で受ける圧力損失であり、式6にて表される。
【0034】
〔式6〕
=k×(L/D)×P
〔k:連通部材35の内壁における空気に対する摩擦係数(本実施形態では、連通部材35の内壁は空気に対する摩擦の少ない滑面であるため、k=0.02と仮定できる)〕
圧力損失Pinは、空気が覆蓋部材33側の開口を通じて連通部材35内に流入する過程で受ける圧力損失であり、式7にて表される。
【0035】
〔式7〕
in=ζin×P
〔ζin:連通部材35の流入口(連通孔34)の圧損係数(本実施形態では、連通孔34が角端状をなすように形成されているため、ζin=0.5と仮定できる)〕
圧力損失Poutは、空気が誘引送風機37側の開口を通じて連通部材35内から流出する過程で受ける圧力損失であり、式8にて表される。
【0036】
〔式8〕
out=ζout×P
〔ζout:連通部材35の流出口の圧損係数(本実施形態では、ζout=0.5と仮定できる)〕
前記式5に対して前記式6〜8を代入すると、式9のようになる。
【0037】
〔式9〕
total={k×(L/D)+ζin+ζout}×P
前記式4に対して前記式9を代入すると、式10のようになる。
【0038】
〔式10〕
={1+k×(L/D)+ζin+ζout}×P
前記式10に対して前記式3を代入すると、式11のようになる。
【0039】
〔式11〕
=0.974×{1+k×(L/D)+ζin+ζout}×(Q/nD
なお、第2搬送ベルト23上の用紙12に付与される吸引力X(N)は式12にて表される。
【0040】
〔式12〕
X={S×(Y/100)}×P
〔S:用紙12の面積(m)、Y:用紙12に対して吸引力を及ぼすための開口部の開口密度(本実施形態では、第2搬送ベルト23上における単位面積(図5では点線で囲まれた領域Aの面積)当たりの連通孔28の孔密度(%))〕
これを整理すると、式13のようになる。
【0041】
〔式13〕
=(100×X)/(S×Y)
前記式11に対して前記式13を代入すると、式14のようになる。
【0042】
〔式14〕
(100×X)/(S×Y)=0.974×{1+k×(L/D)+ζin+ζout}×(Q/nD
なお、図6に示すグラフは、本実施形態の誘引送風機37における静圧と風量の相関関係を実測値に基づいて示した静圧−風量曲線であり、風量が低くなるほど静圧が高くなることを示している。ここで、用紙12に対して用紙12を第2搬送ベルト23に吸着させるために必要な所要吸引力Xを付与するべく、該所要吸引力Xの最小値Xを作用させるために必要な所要静圧Pの最小値をP、及び該所要静圧Pの最小値Pに対応する風量をQとする。すると、図6に示すように、P以上の所要静圧Pを得るためには(すなわち、用紙12に対してX以上の所要吸引力Xを付与するためには)、連通部材35内を流動する空気の所要風量QをQ以下とすることが必要十分条件となる。
【0043】
〔式15〕
Q≦Q
そして、前記式14,15を整理すると、式16のようになる。
【0044】
(100×X)/(S×Y)≦0.974×{1+k×(L/D)+ζin+ζout}×(Q/nD
〔Q:用紙12に対する所要吸引力Xが最小値Xである場合(誘引送風機37内の所要静圧Pが最小値Pである場合)に、連通部材35内を流動する空気の風量(m)〕
なお、用紙12が第2支持台27上の一部の吸引孔群32における吸引孔30の吸引開口を被覆している場合には、式16のような関係式が成り立つ。
【0045】
〔式16〕
n≦A−1
〔A:誘引送風機37に接続される覆蓋部材33の個数〕
前記式15に対して前記式16を代入すると、式17のようになる。
【0046】
〔式17〕
(100×X)/(S×Y)≦0.974×{1+k×(L/D)+ζin+ζout}×〔Q/{(A−1)×D}〕
このように変数(L、D、S、Y、A、X、Q)とその係数k、ζin、ζoutの数式17が、連通部材35の構造(すなわち、平面視円形の直径D(m)、及び長手方向(上下方向)の長さL(m))に関する条件式として決定される。ここで、用紙12の面積S、第2搬送ベルト23上における連通孔28の孔密度Y、誘引送風機37に接続される覆蓋部材33の個数Aについては、本実施形態のプリンタ11の配置構成に応じて予め決定されている。また、係数k、ζin、ζoutについては、連通部材35の内壁、流入口、流出口の形状に応じて予め推定されている。また、用紙12を第2搬送ベルト23に吸着させるために必要な所要吸引力Xの最小値Xは実験により決定されている。
【0047】
したがって、連通部材35の構造設計においては、図6に示すグラフから所要吸引力Xを得るために必要となる空気の所要風量Qを求める。具体的には、本実施形態のプリンタ11では、上記式13に示すように所要吸引力Xが高くなるほど所要静圧Pが高くなると共に、図6に示すように所要静圧Pが高くなるほど所要風量Qが低くなるため、所要吸引力Xの最小値Xに対応する所要風量Qの最大値Qを求める。そして、この所要風量Qの最大値Qを上記式17に代入することで連通部材35の構造に関する条件式を決定し、この条件式を満たすように連通部材35を設計する。すなわち、所要吸引力Xを作用させるために必要な所要静圧P、及び誘引送風機37の静圧−風量曲線により規定される所要静圧Pと対応する所要風量Qを発生可能なように、誘引送風機37の駆動に伴う連通部材35における空気の総圧力損失を設定する。そのため、本実施形態のプリンタ11によれば、一部の吸引孔群32における吸引孔30の吸引開口が大気に対して開放されている場合であっても、用紙12に対して所要吸引力Xを作用させることが可能となっている。
【0048】
次に、上記のように構成されたプリンタ11の作用について説明する。
さて、第1搬送部15から第2搬送部17に搬送された用紙12をさらに下流側に搬送する場合には、誘引送風機37を駆動させた状態で、第2駆動プーリ19を駆動して第2搬送ベルト23による用紙12の搬送を開始する。そして、用紙12が第2搬送ベルト23によって第2支持台27上に搬送されると、誘引送風機37の吸引力が、連通孔38、連通部材35、連通孔34、覆蓋部材33内の負圧室33a、吸引孔30、及び連通孔28を介して第2搬送ベルト23上に載置された用紙12に作用する。
【0049】
ここで、図7(a)に示すように、用紙12における搬送方向の先端部が、第2支持台27上の複数の吸引孔群32のうち最上流側に配置された吸引孔群32上の途中位置にあって、その吸引孔群32を構成する複数列の吸引孔列31のうち少なくとも一つの吸引孔列31が大気に対して開放状態にある場合は、次のようになる。
【0050】
すなわち、この図7(a)に示す場合は、最上流側の吸引孔群32に対応する負圧室33aは、該吸引孔群32を構成する吸引孔列31のうち下流端(図7では右端)の吸引孔列31を介して大気に対して開放状態にある。そのため、誘引送風機37を駆動した場合であっても、この吸引孔列31を介して誘引送風機37が空吸引をすることで該負圧室33aに所望の負圧が得られず、用紙12に対して用紙12を第2搬送ベルト23に吸着させるために必要な所要吸引力Xを付与することはできない。
【0051】
一方、用紙12の搬送方向における先端部が図7(a)に示す位置(すなわち、最上流側の吸引孔群32の途中位置)から該吸引孔群32の下流側端部まで到達した段階(図7(b))では、用紙12は、該吸引孔群32を構成する全ての吸引孔30を閉塞する。このとき、該吸引孔群32よりも下流側の吸引孔群32における吸引孔30の吸引開口は大気に対して開放状態にあるため、各負圧室33aのうち、下流側の負圧室33aは大気に対して連通状態にある。なお、最上流側の負圧室33aは、下流側の負圧室33aに対して連通部材35及び誘引送風機37内を通じて連通している。そのため、上流側の負圧室33aは、誘引送風機37を駆動することにより該負圧室33a内の空気を排気したとしても、下流側の負圧室33aを介して常に空気が流入することで所望の負圧が得られない虞があった。
【0052】
この点、本実施形態では、図7(b)に示す状態において誘引送風機37を駆動した場合には、下流側の吸引孔群32を介して該吸引孔群32に対応する負圧室33a内に空気が流入したとしても、その空気が連通部材35及び誘引送風機37内を介して上流側の負圧室33a内に所定量以上に流入しないように連通部材35における空気の総圧力損失が設定されている。すなわち、下流側の吸引孔群32における吸引孔30の吸引開口が開放されている場合であっても、誘引送風機37内の仕様(性能)を考慮しつつ、上記の所要吸引力Xを作用させるために必要な所要静圧P、及び該所要静圧Pと対応する所要風量Qを発生可能なように、連通部材35の構造が設計されている。
【0053】
そのため、第2搬送ベルト23に載置された状態で搬送される用紙12に対して、その用紙12における搬送方向の先端部が最下流側の吸引孔群32の下流側端部に到達する前段階でも、上流側の負圧室33a内に所望の負圧(吸引圧)を生じさせて確実に吸引力を作用させることができる。
【0054】
上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、用紙12の搬送方向における先端部が第2支持台27の上面27aにおける下流側端部に到達する前段階で、下流側の吸引孔群32に対応する負圧室33aが大気に対して開放状態にある場合であっても、誘引送風機37の駆動に伴って下流側の負圧室33aと接続された連通部材35内に流入する空気の圧力損失が、上流側の吸引孔群32に対応する上流側の負圧室33aに所望の負圧を発生させるために適切な値となるように該連通部材35の形状が設計されている。そのため、複数の吸引孔群32と個別に対応する複数の負圧室33aを共通の誘引送風機37により吸引する構成とすることで誘引送風機37の設置数を削減しつつ、搬送される用紙12に対して搬送途中において確実に吸引力を作用させることが可能となる。
【0055】
(2)上記実施形態では、用紙12を第2支持台27の上面27a上で搬送する第2搬送ベルト23を備えているため、用紙12の形状は長尺状のものに制限されず、例えば枚葉紙状の用紙12を適用することが可能となる。加えて、第2搬送ベルト23は、第2支持台27の吸引孔30と連通する連通孔28を有しているため、該連通孔28を通じて吸引孔30からの吸引力が用紙12に及ぶことにより第2搬送ベルト23の上面に載置された用紙12を第2搬送ベルト23に対して確実に吸着させることが可能となる。
【0056】
(3)上記実施形態では、連通部材35における空気の総圧力損失は、連通部材35の軸部35a、覆蓋部材33に接続する基端部35b、誘引送風機37に接続する先端部35cにおける圧力損失を考慮して設定されている。そのため、連通部材35の構造を詳細に反映した値を計上することで、より実験値に近い総圧力損失を設定することが可能となっている。
【0057】
(4)上記実施形態では、連通部材35は、軸部35a、覆蓋部材33に接続する基端部35b、誘引送風機37に接続する先端部35cにおける圧力損失を総和して総圧力損失を算出すると共に、その算出結果及び誘引送風機37の静圧−風量曲線を考慮することにより、用紙12に対して所望の吸引力を作用するために必要となる連通部材35の構造に関する条件式が算出されている。そのため、この条件式を満たすように連通部材35を設計することにより、用紙12に対してより確実に所望の吸引力を作用させることが可能となっている。
【0058】
(5)上記実施形態では、用紙12を第2支持台27の上面27a上で搬送する第2搬送ベルト23を備えた構成であっても、該第2搬送ベルト23の連通孔28の開口密度を式17に適用することで、用紙12に対して所望の吸引力を付与するために必要となる連通部材35の構造を決定することができる。
【0059】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、ターゲットとして長尺状のロール紙を適用する場合には搬送ベルト22,23を省略してもよい。このとき、ターゲットを支持する支持台26,27上の吸引孔30をターゲットの搬送方向と直交する方向において複数の吸引孔群32に区分し、該吸引孔群32毎に個別に覆蓋部材33を配置することが望ましい。この構成によれば、ロール紙が支持台26,27上の一部の吸引孔30が開放状態にある場合であっても、ロール紙の幅方向における両端部に配置された吸引孔群32に対応する覆蓋部材33内に所望の負圧を発生可能となるように連通部材35の形状を設計することで、ロール紙に対してより確実に吸引力を作用させることが可能となる。なお、この場合、支持台26,27上の吸引孔30がロール紙に対して吸引力を及ぼすための開口部として機能する。
【0060】
・上記実施形態において、連通部材35を途中位置で分岐する構成とした場合には、その分岐部における圧力損失を更に含んで総圧力損失を設定してもよい。
・上記実施形態において、連通部材35を途中位置で絞り形状をなすように構成した場合には、その絞り部における圧力損失を更に含んで総圧力損失を設定してもよい。
【0061】
・上記実施形態において、連通部材35を途中位置で屈曲する構成とした場合には、その屈曲部における圧力損失を更に含んで総圧力損失を設定してもよい。
・上記実施形態において、記録装置はインクジェット式プリンタ11に限定されない。例えば、熱転写プリンタ、TA(サーモオートクローム)プリンタ、レーザプリンタ等の他の印刷様式のプリンタにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態のプリンタを示す模式図。
【図2】本実施形態の第2搬送部を示す平面図。
【図3】本実施形態の第2搬送部を示す概略正面図。
【図4】本実施形態の連通部材を示す一部破断概略斜視図。
【図5】本実施形態の搬送ベルトを示す一部破断平面図。
【図6】本実施形態の誘引送風機の静圧−風量曲線。
【図7】(a)は用紙が最上流側の吸引孔群における吸引孔の一部を閉塞した状態を示す概略平面図、(b)は用紙が最上流側の吸引孔群における全ての吸引孔を閉塞した直後の状態を示す概略平面図。
【符号の説明】
【0063】
11…記録装置としてのインクジェット式プリンタ、12…ターゲットとしての用紙、22…搬送体としての第1搬送ベルト、23…搬送体としての第2搬送ベルト、26…支持部材としての第1支持台、27…支持部材としての第2支持台、27a…支持面としての上面、28…連通部としての連通孔、30…吸引孔、32…吸引孔群、33a…負圧室、35…連通部材、35b…接続部としての基端部、35c…接続部としての先端部、37…吸引手段としての誘引送風機、X…所要吸引力、P…所要静圧、Ptotal…総圧力損失、Q…所要風量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側に搬送されるターゲットを支持可能な支持面を有し且つ該支持面上には複数の吸引孔の吸引開口が形成された支持部材と、
該支持部材の前記複数の吸引孔に対して該各吸引孔を複数の吸引孔群に区分した場合における該吸引孔群毎に個別に連通する複数の負圧室と、
該複数の負圧室から各々個別に延設された連通部材を介して前記各負圧室内に負圧を発生可能な吸引手段と
を備え、
前記連通部材は、前記複数の負圧室のうち一部の負圧室と連通する前記吸引孔群における吸引孔の吸引開口が閉塞された場合に、該負圧室と連通する前記吸引孔群を介して前記ターゲットを吸着させるために必要な所要吸引力を付与するべく、該所要吸引力を作用させるために必要な所要静圧、及び前記吸引手段の静圧−風量曲線により規定される前記所要静圧と対応する所要風量を発生可能なように、前記吸引手段の駆動に伴う前記連通部材における流体の総圧力損失が設定されていることを特徴とするターゲット吸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載のターゲット吸着装置において、
前記連通部材は、直円筒状をなすように形成されており、
前記ターゲットの面積をS、前記ターゲットに対して吸引力を及ぼすための開口部の開口密度をY、前記連通部材の長さをL、前記連通部材の直径をD、前記吸引手段に接続する前記負圧室の数をA、前記連通部材内の摩擦係数をk、前記連通部材の前記負圧室に対する接続部における圧損係数をζin、前記連通部材の前記吸引手段に対する接続部における圧損係数をζout、前記ターゲットに付与する前記所要吸引力をX、前記所要吸引力の最小値Xと対応する風量をQとした場合に満たすべき条件式は、
(100×X)/(S×Y)≦0.974×{1+k×(L/D)+ζin+ζout}×〔Q/{(A−1)×D}〕
であることを特徴とするターゲット吸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載のターゲット吸着装置において、
前記ターゲットを支持した状態で該ターゲットを上流側から下流側に向けて搬送するために移動する搬送体を更に備え、
前記搬送体は、該搬送体の移動途中において前記支持部材における前記各吸引孔の吸引開口と連通可能な複数の連通部を有すると共に、
前記支持部材は、前記支持面により前記ターゲットを前記搬送体越しに支持可能であり、
前記開口部は、前記搬送体の前記連通部であることを特徴とするターゲット吸着装置。
【請求項4】
ターゲットに対して記録処理を施す記録手段と、
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載のターゲット吸着装置を備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−280322(P2009−280322A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132172(P2008−132172)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】