説明

ターゲット搬送装置及び記録装置

【課題】ターゲットの搬送中に該ターゲット全体を搬送ベルト上に十分に吸着させることが可能なターゲット搬送装置及び記録装置を提供する。
【解決手段】搬送ユニット13は、複数の吸引孔20aを有し、上流側から下流側に向かってカット用紙12を搬送する搬送ベルト20と、複数の長溝21を有し、搬送ベルト20によって搬送されるカット用紙12を搬送ベルト20越しに支持するプラテン15と、各吸引孔20a及び各長溝21を介してカット用紙12を吸引することで、該カット用紙12を搬送ベルト20上に吸着させる誘引送風機とを備えている。そして、カット用紙12の搬送方向である左右方向において各長溝21の開口幅は各吸引孔20aの間隔よりも小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット式プリンタなどの記録装置、及び該記録装置に備えられるターゲット搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターゲットに記録処理を施す画像記録装置の一種として、ラインヘッド方式のインクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)が知られている(例えば、特許文献1)。この特許文献1のプリンタでは、3つのローラに巻き掛けられた無端状のプラテンベルト(搬送ベルト)によって搬送される記録媒体(ターゲット)に、インクヘッド列(記録手段)のノズル吐出口からインクを吐出して画像の記録(記録処理)を行うようになっている。
【0003】
このプリンタはプラテンベルトを支持するプラテンフレーム(支持部材)を備えており、該プラテンフレーム上をプラテンベルトがX軸方向(記録媒体の搬送方向)に沿って摺動するようになっている。また、プラテンベルトには複数の小径の孔からなる吸引孔が全体に渡って均一に設けられ、プラテンフレーム上にはX軸方向に延びる複数の溝(吸引部)が形成されている。
【0004】
さらに、各溝の略中央部には、プラテンフレーム内に設けられたプラテン吸引部(吸引手段)に貫通する対向面孔が設けられている。そして、記録媒体は、プラテン吸引部によりプラテンベルトに設けられた各吸引孔及びプラテンフレームに設けられた各対向面孔を通じて全面をエアー吸引されてプラテンベルトに密着状態で搬送されるようになっている。
【特許文献1】特開2006−206309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のプリンタでは、X軸方向において記録媒体の端縁部にプラテンフレームの溝が跨るとともに該跨った溝がプラテンベルトのX軸方向に並ぶ2つの吸引孔と連通し、さらにこの2つの吸引孔のうちの一方のみが記録媒体の端縁部によって覆われた状態になった場合、2つの吸引孔のうちの他方から空気(大気)が吸入される。このため、プラテン吸引部から記録媒体の端縁部に及ぶ吸引力が低下し、記録媒体の搬送中に該記録媒体の端縁部が浮き上がってしまうおそれがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ターゲットの搬送中に該ターゲット全体を搬送ベルト上に十分に吸着させることが可能なターゲット搬送装置及び記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のターゲット搬送装置は、複数の吸引孔を有し、上流側から下流側に向かってターゲットを搬送する搬送ベルトと、複数の吸引部を有し、前記搬送ベルトによって搬送される前記ターゲットを前記搬送ベルト越しに支持する支持部材と、前記各吸引孔及び前記各吸引部を介して前記ターゲットを吸引することで、該ターゲットを前記搬送ベルト上に吸着させる吸引手段とを備え、前記各吸引部の開口幅を前記各吸引孔の間隔よりも小さくした。
【0008】
この構成によれば、各吸引部の開口幅を各吸引孔の間隔よりも小さくしたため、1つの吸引部に2つ以上の吸引孔が重なることがない。このため、ターゲットの端縁部に吸引部が跨った場合でも、このターゲットの端縁部に跨った吸引部と重なる1つの吸引孔がターゲットの端縁部によって覆われてさえいれば、該吸引部の開口における1つの吸引孔と対応しない領域は搬送ベルトによって覆われるので、該吸引部の開口はほぼ閉塞された状態になる。したがって、吸引手段によってターゲットを吸引する際に吸引部の開口における1つの吸引孔と対応しない領域から余計な空気をほとんど吸い込むことがなくなるので、吸引手段からターゲットの端縁部に及ぶ吸引力が十分に確保される。この結果、搬送ベルトによるターゲットの搬送中に該ターゲット全体を吸引手段によって搬送ベルト上に十分に吸着させることが可能となる。
【0009】
本発明のターゲット搬送装置において、前記各吸引部は、前記ターゲットの搬送方向における開口幅の方が前記ターゲットの搬送方向と直交する方向における開口幅よりも大きい。
【0010】
この構成によれば、ターゲットの搬送方向における各吸引部の開口領域が広く確保されるので、搬送ベルトによって搬送されるターゲットを吸引手段からの吸引力により該搬送ベルト上に安定して吸着させることが可能となる。
【0011】
本発明のターゲット搬送装置において、前記吸引手段から前記各吸引孔までの各吸引通路のうちの少なくとも1つの途中位置には、該吸引通路の断面積を0よりも大きい範囲内で調節可能な弁が設けられている。
【0012】
この構成によれば、各弁により、各吸引通路のうちターゲットによって覆われていない状態の吸引通路の断面積をターゲットによって覆われている状態の吸引通路の断面積よりも小さくすることで、吸引手段からターゲットによって覆われている状態の吸引通路を介してターゲットに及ぶ吸引力を大きくすることが可能となる。したがって、搬送ベルトによって搬送されるターゲットを吸引手段からの吸引力によって該搬送ベルト上に一層安定して吸着させることが可能となる。
【0013】
本発明のターゲット搬送装置において、前記搬送ベルトには、前記ターゲットと対応するとともに複数の前記吸引孔が形成された領域である吸引孔形成領域が前記ターゲットの搬送方向に沿って等間隔で複数設けられており、前記各吸引孔形成領域間の間隔は、前記ターゲットの搬送方向における前記各吸引部の開口幅よりも長くなっている。
【0014】
この構成によれば、ターゲットの搬送方向において各吸引部が各吸引孔形成領域間を跨ぐことがないので、1つの吸引部に2つ以上の吸引孔が重なることがない。このため、例えば、ターゲットの搬送方向において隣り合う2つの吸引孔形成領域のうちいずれか一方のみにターゲットが載置された状態で該ターゲットの端縁部に吸引部が跨った場合でも、このターゲットの端縁部に跨った吸引部と重なる吸引孔は常にターゲットの端縁部によって覆われるとともに、該吸引部の開口における吸引孔と対応しない領域は常に搬送ベルトによって覆われる。したがって、吸引手段によってターゲットを吸引する際に吸引部の開口における吸引孔と対応しない領域から余計な空気をほとんど吸い込むことがなくなるので、吸引手段からターゲットの端縁部に及ぶ吸引力が十分に確保される。この結果、搬送ベルトによるターゲットの搬送中に該ターゲット全体を吸引手段によって搬送ベルト上に十分に吸着させることが可能となる。
【0015】
本発明の記録装置は、上記構成のターゲット搬送装置と、該ターゲット搬送装置によって搬送される前記ターゲットに記録処理を施す記録手段とを備えた。
この構成によれば、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の記録装置をインクジェット式プリンタに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は図1及び図2に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
【0017】
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンタ11は、図示しない本体フレーム内に、ターゲットとしての左右方向に長い矩形状のカット用紙12を搬送するためのターゲット搬送装置としての搬送ユニット13と、該搬送ユニット13の上方に該搬送ユニット13と対向するように固定状態で配置された記録手段としての複数(本実施形態では4つ)の記録ヘッド14とを備えている。
【0018】
図1及び図2に示すように、搬送ユニット13は支持部材としての左右方向に長い矩形板状のプラテン15を備えている。プラテン15の右側には前後方向に延びる駆動ローラ16が駆動モータ17によって回転駆動可能に配置される一方、プラテン15の左側には前後方向に延びる従動ローラ18が回転可能に配置されている。さらに、プラテン15の下側には前後方向に延びるテンションローラ19が回転可能に配置されている。
【0019】
駆動ローラ16、従動ローラ18、及びテンションローラ19にはプラテン15を囲むように無端状の搬送ベルト20が巻き回されている。テンションローラ19は、図示しないばね部材によって下側に向かって付勢されており、搬送ベルト20にテンションを付与することで該搬送ベルト20の弛みを抑制するようになっている。
【0020】
また、搬送ベルト20には、ほぼ全体にわたって複数の真円形の吸引孔20aが左右方向及び前後方向に沿って規則的に並設されている。すなわち、各吸引孔20aは、左右方向に沿って等間隔で配列されているとともに、前後方向に沿って等間隔で配列されている。この場合、左右方向における各吸引孔20a同士の間隔は、前後方向における各吸引孔20a同士の間隔よりも広くなっている。
【0021】
そして、駆動ローラ16を前側から見て時計方向に回転駆動することで、搬送ベルト20が駆動ローラ16、テンションローラ19、及び従動ローラ18の外側を前側から見て時計方向に周回移動されるようになっている。この場合、搬送ベルト20の内側の面はプラテン15の上面を左側から右側に向かって摺動するとともに、搬送ベルト20上のカット用紙12は上流側である左側から下流側である右側に向かって搬送されるようになっている。
【0022】
プラテン15の上面にはほぼ全体にわたって前後方向の開口幅よりも左右方向の開口幅の方が長い吸引部としての複数の長溝21が前後方向及び左右方向に沿って規則的に並設されており、前後方向における各長溝21の開口幅は搬送ベルト20の各吸引孔20aの径とほぼ同じになっている。各長溝21は、左右方向に沿って等間隔で配列されているとともに、前後方向に沿って等間隔で配列されている。そして、左右方向における各長溝21同士の間隔は、前後方向における各長溝21同士の間隔よりも広くなっている。
【0023】
また、プラテン15の各長溝21と搬送ベルト20の各吸引孔20aとは、前後方向(カット用紙12の搬送方向と直交する方向)の間隔が互いに同じになっているとともに、左右方向(カット用紙12の搬送方向)においてそれぞれ互いに対応するように配列されている。そして、左右方向における各長溝21の開口幅は、左右方向における各吸引孔20a同士の間隔よりも小さくなっている。
【0024】
図1〜図3に示すように、プラテン15内の下端部には負圧室22が形成されており、各長溝21の内底面における左右方向の中央部には下端が負圧室22に開口する連通路23の上端がそれぞれ開口している。したがって、各長溝21内と負圧室22とは連通路23を介して連通している。また、プラテン15の下面中央部には、負圧室22と連通する連通孔32が形成されており、該連通孔32を覆うように吸引手段としての誘引送風機33が取着されている。
【0025】
誘引送風機33はプロペラファン33aを有しており、該プロペラファン33aが回転することで、プラテン15の上面側の空気が各長溝21、各連通路23、負圧室22、及び連通孔32を介して吸引されるようになっている。すなわち、誘引送風機33の駆動により、プラテン15の上面と対向する位置において搬送ベルト20上に載置されたカット用紙12が、各吸引孔20aから搬送ベルト20越しにプラテン15側に吸引されて該搬送ベルト20上に吸着されるようになっている。この場合、プラテン15の上面と対向する位置にあるカット用紙12は、プラテン15により搬送ベルト20越しに支持される。なお、本実施形態では、吸引孔20a、長溝21、連通路23、負圧室22、及び連通孔32により吸引通路が構成されている。
【0026】
図3に示すように、各連通路23は、長溝21と隣接する円柱状の空間を形成する上室24と、負圧室22と隣接するとともに上室24よりも径の小さい円柱状の空間を形成する下室25と、上室24と下室25とを繋ぐ逆円錐台状の空間を形成する中室26とにより構成されている。負圧室22の上面における下室25の開口部の後側には、左側から見てL字状をなす支持板27が設けられている。支持板27は、負圧室22の上面から真下に向かって真っ直ぐに延びる鉛直部27aと、該鉛直部27aの下端から前方に向かって真っ直ぐに延びる水平部27bとを備えている。
【0027】
水平部27bは負圧室22の上面における下室25の開口部と対向しており、水平部27bの上面にはコイルばね28が真上に向かって延設されている。コイルばね28は下室25及び中室26に挿通されており、コイルばね28の上端は中室26の上端部まで達している。コイルばね28の上端には弁としての逆円錐台状の弁体29の下面に連結されている。弁体29の中心部には該弁体29を上下に貫通する微小径の貫通路29aが形成されており、弁体29の外周面29bと中室26の内周面26aとは密着可能に対応している。
【0028】
弁体29は、コイルばね28によって上方に向かって付勢されながら支持されているため、上室24と下室25との間に圧力差が生じていない場合には、弁体29の外周面29bと中室26の内周面26aとが離間した状態である開弁状態に維持されるようになっている。また、誘引送風機33の駆動により、上室24と下室25との間に圧力差が生じることで弁体29に対して下方に向かって付勢するように作用する力がコイルばね28の付勢力よりも小さい場合にも、弁体29は開弁状態に維持されるようになっている。
【0029】
一方、誘引送風機33の駆動により、上室24と下室25との圧力差が生じることで弁体29に対して下方に向かって付勢するように作用する力がコイルばね28の付勢力よりも大きい場合には、コイルばね28の付勢力に抗して弁体29が下降されて、弁体29の外周面29bと中室26の内周面26aとが密着した状態である閉弁状態に維持されるようになっている。この場合、弁体29が閉弁状態であっても、弁体29の貫通路29aを介して上室24と下室25とが連通しているため、連通路23は完全に遮断されない。
【0030】
したがって、弁体29は、上室24と下室25との圧力差とコイルばね28の付勢力とのバランスによって開弁状態と閉弁状態との間で昇降するようになっている。すなわち、弁体29は、上室24と下室25との圧力差とコイルばね28の付勢力とのバランスによって連通路23の流路断面積を0よりも大きい範囲内で調節可能になっている。
【0031】
図1に示すように、従動ローラ18の左斜め上側には、未印刷の複数のカット用紙12を1枚ずつ順次搬送ベルト20上に給紙するための上下一対の給紙ローラ30が設けられている。一方、駆動ローラ16の右斜め上側には、印刷後のカット用紙12を1枚ずつ搬送ベルト20上から排紙するための上下一対の排紙ローラ31が設けられている。
【0032】
また、各記録ヘッド14の下面には、搬送ユニット13によって搬送されるカット用紙12にインクを噴射するための複数のノズル(図示略)が形成されている。そして、各記録ヘッド14には図示しないインクカートリッジからそれぞれインクが供給されるようになっており、該インクを各記録ヘッド14の各ノズル(図示略)から搬送ユニット13によって搬送されるカット用紙12に対してそれぞれ噴射することで記録処理としての印刷が行われるようになっている。
【0033】
なお、搬送ベルト20の各吸引孔20aの径は、カット用紙12のコックリングの抑制や各吸引孔20aからのカット用紙12の吸引にともなう水玉状の印刷画像むらの低減を考慮すると、1.4mm以下に設定することが好ましい。
【0034】
次に、インクジェット式プリンタ11の作用について説明する。
さて、カット用紙12が給紙ローラ30によって搬送ベルト20上に上流側(左側)から給紙されると、カット用紙12は搬送ベルト20によりプラテン15上を下流側(右側)に向かって搬送される。このとき、カット用紙12は、該カット用紙12の端縁部が各吸引孔20aと対応するように搬送ベルト20上に載置された状態で該搬送ベルト20によって搬送される。すなわち、カット用紙12は、各吸引孔20aが該カット用紙12の端縁部を跨がないように搬送ベルト20上に載置された状態で該搬送ベルト20によって搬送される。
【0035】
そして、誘引送風機33が駆動された状態で、搬送ベルト20におけるカット用紙12が載置された領域がプラテン15上に差し掛かり、該領域における搬送ベルト20の各吸引孔20aがプラテン15上の各長溝21と重なると、該各長溝21及び該各吸引孔20aを介して該カット用紙12が吸引される。これにより、プラテン15上においてカット用紙12が搬送ベルト20上に吸着された状態となり、この状態で各記録ヘッド14の各ノズル(図示略)からインクが噴射されて該カット用紙12に印刷が行われる。
【0036】
このとき、カット用紙12の前後両端縁部は各長溝21間を通るため、平面視において各長溝21がカット用紙12の前後両端縁部を跨ぐことはない。また、左右方向における各長溝21の開口幅は、左右方向における各吸引孔20a同士の間隔よりも小さくなっているため、1つの長溝21には2つ以上の吸引孔20aが同時に重なることはない。
【0037】
したがって、カット用紙12によって覆われた搬送ベルト20の各吸引孔20aが重なるプラテン15上の各長溝21の開口部は搬送ベルト20及びカット用紙12によって閉塞されるため、該各長溝21と対応する各連通路23における上室24と下室25との間には圧力差がほとんど生じない。このため、弁体29はコイルばね28の付勢力により開弁状態に維持される。
【0038】
一方、カット用紙12によって覆われていない搬送ベルト20の各吸引孔20aが重なるプラテン15上の各長溝21の開口部は該各吸引孔20aを介して大気開放されるため、該各長溝21と対応する各連通路23においては上室24と下室25との間に圧力差が生じる。すなわち、上室24は大気圧になっているとともに、下室25は誘引送風機33の吸引により負圧になっている。
【0039】
このため、上室24と下室25との間の圧力差によって弁体29に作用する力により、弁体29はコイルばね28の付勢力に抗して閉弁状態に維持される。このとき、上室24と下室25とは弁体29の貫通路29aを介して連通しているため、上室24側の空気は貫通路29aを通って微少量ずつ下室25側に流れ続ける。そして、当然のことながら、弁体29が閉弁状態である連通路23は弁体29が開弁状態である連通路23よりも流路断面積が小さくなる。
【0040】
したがって、カット用紙12と対応しないとともに弁体29が閉弁状態にある連通路23から負圧室22に流入する空気量は弁体29が開弁状態にある場合に比べて大幅に低減されるため、カット用紙12と対応するとともに弁体29が開弁状態にある連通路23と対応する長溝21からカット用紙12に及ぶ誘引送風機33からの吸引力は向上される。
【0041】
ここで、図4及び図5に示すように、左右方向における各長溝21の開口幅が左右方向における各吸引孔20a同士の間隔よりも大きくした場合には、1つの長溝21に2つ以上(ここでは2つ)の吸引孔20aが同時に重なるようになる。このため、平面視でカット用紙12の左右両端縁部にプラテン15上の各長溝21が跨るとともに該跨った各長溝21がそれぞれ搬送ベルト20の左右方向に並ぶ2つの吸引孔20aと連通し、さらにこの2つの吸引孔20aのうちの一方のみがカット用紙12の左右両端縁部によって覆われた状態になった場合には、2つの吸引孔20aのうちの他方から空気(大気)が各長溝21に吸入される。
【0042】
このため、誘引送風機33からカット用紙12の左右両端縁部に及ぶ吸引力が低下し、搬送ベルト20によるカット用紙12の搬送中に該カット用紙12の左右両端縁部が該搬送ベルト20から浮き上がってしまうおそれがある。
【0043】
この点、本実施形態では、左右方向における各長溝21の開口幅は、左右方向における各吸引孔20a同士の間隔よりも小さくなっているため、1つの長溝21には2つ以上の吸引孔20aが同時に重なることはない。このため、平面視でカット用紙12の左右両端縁部にプラテン15上の各長溝21が跨った場合でも、このカット用紙12の左右両端縁部に跨った各長溝21とそれぞれ重なる1つの吸引孔20aがカット用紙12の左右両端縁部によって覆われてさえいれば、該各長溝21の開口部における1つの吸引孔20aと対応しない領域は搬送ベルト20によって覆われるので、該各長溝21の開口部は閉塞された状態になる。
【0044】
したがって、誘引送風機33によってカット用紙12を吸引する際に各長溝21の開口部における1つの吸引孔20aと対応しない領域から余計な空気をほとんど吸い込むことがなくなるので、特に誘引送風機33からカット用紙12の左右両端縁部に及ぶ吸引力が十分に確保される。この結果、搬送ベルト20によるカット用紙12の搬送中に該カット用紙12全体を誘引送風機33によって該搬送ベルト20上に十分に吸着させることが可能となる。
【0045】
この結果、従来に比べて、カット用紙12の左右両端縁部の搬送ベルト20への吸着力が大きくなるとともに、カット用紙12の左右両端縁部の搬送ベルト20への吸着時間も長くなるため、印刷時のカット用紙12のコックリングの発生が抑制される。
【0046】
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)カット用紙12の搬送方向において、各長溝21の開口幅が各吸引孔20aの間隔よりも小さいため、1つの長溝21に2つ以上の吸引孔20aが重ならないようにすることができる。このため、カット用紙12の左右両端縁部に長溝21が跨った場合でも、このカット用紙12の左右両端縁部に跨った長溝21と重なる1つの吸引孔20aがカット用紙12の左右両端縁部によって覆われてさえいれば、該長溝21の開口部における1つの吸引孔20aと対応しない領域は搬送ベルト20によって覆われるので、該長溝21の開口部を閉塞状態にすることができる。したがって、誘引送風機33によってカット用紙12を吸引する際に長溝21の開口部における1つの吸引孔20aと対応しない領域から余計な空気(大気)をほとんど吸い込むことがなくなるので、誘引送風機33からカット用紙12の左右両端縁部に及ぶ吸引力を十分に確保することができる。この結果、搬送ベルト20によるカット用紙12の搬送中に該カット用紙12全体を誘引送風機33によって搬送ベルト20上に十分に吸着させることができる。よって、従来に比べて、カット用紙12の左右両端縁部の搬送ベルト20への吸着力を大きくすることができるとともに、カット用紙12の左右両端縁部の搬送ベルト20への吸着時間も長くすることができるため、印刷時のカット用紙12のコックリングの発生を効果的に抑制することができる。
【0047】
(2)各長溝21は、左右方向(カット用紙12の搬送方向)の開口幅の方が前後方向(カット用紙12の搬送方向と直交する方向)の開口幅よりも大きくなっているため、搬送ベルト20によって搬送されるカット用紙12を誘引送風機33からの吸引力により該搬送ベルト20上に安定して吸着させることができる。
【0048】
(3)各連通路23のうちカット用紙12によって覆われていない状態の長溝21と対応する連通路23の流路断面積がカット用紙12によって覆われている状態の長溝21と対応する連通路23の流路断面積よりも小さくなるように、上室24と下室25との間の圧力差の大きさに応じて弁体29が開弁状態と閉弁状態との間で変位する。このため、誘引送風機33からカット用紙12によって覆われていない各長溝21に及ぶ吸引力が抑制され、この抑制された分の吸引力が誘引送風機33からカット用紙12によって覆われている各長溝21に及ぶ吸引力に加算される。したがって、誘引送風機33からカット用紙12に及ぶ吸引力を大きくすることができるので、搬送ベルト20によってプラテン15上を搬送されるカット用紙12を誘引送風機33からの吸引力によって該搬送ベルト20上に安定して吸着させることができる。
【0049】
(4)弁体29には貫通路29aが設けられているため、該弁体29が閉弁状態にあっても上室24と下室25とは貫通路29aを介して連通している。このため、閉弁状態にある弁体29を、上室24と下室25との間の圧力差によって弁体29に対して閉弁状態となるように作用する力がコイルばね28の付勢力よりも小さくなった場合に、該コイルばね28の付勢力によって確実に開弁状態にすることができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0050】
・図6に示すように、搬送ベルト20に、カット用紙12と対応するとともに複数の吸引孔20aが形成されてなる領域である吸引孔形成領域Aを左右方向(カット用紙12の搬送方向)に沿って等間隔で複数設け、各吸引孔形成領域A間の間隔を、左右方向における各長溝21の開口幅よりも長くなるように構成してもよい。
【0051】
このようにすれば、左右方向において各長溝21が各吸引孔形成領域A間を跨ぐことがないので、1つの長溝21に2つ以上の吸引孔20aが重なることを確実に回避することができる。このため、例えば、左右方向に隣り合う2つの吸引孔形成領域Aのうちいずれか一方のみにカット用紙12が載置された状態で該カット用紙12の左右両端縁部に長溝21が跨った場合でも、このカット用紙12の左右両端縁部に跨った長溝21と重なる吸引孔20aは常にカット用紙12の左右両端縁部によって覆われるとともに、該長溝21の開口部における吸引孔20aと対応しない領域は常に搬送ベルト20によって覆われる。したがって、プラテン15上を搬送ベルト20によって搬送されるカット用紙12を誘引送風機33によって吸引する際に、長溝21の開口部における吸引孔20aと対応しない領域から余計な空気(大気)を吸い込むことを回避することができるので、誘引送風機33からカット用紙12の左右両端縁部に及ぶ吸引力を十分に確保することができる。この結果、プラテン15上において搬送ベルト20によって搬送されるカット用紙12全体を誘引送風機33によって搬送ベルト20上に十分に吸着させることができる。
【0052】
・各弁体29は全て省略してもよい。あるいは、各弁体29のうち前後方向の幅が最小のカット用紙12が搬送時に通るプラテン15上の領域と対応する弁体29のみを省略してもよい。
【0053】
・長溝21は、左右方向における開口幅が前後方向における開口幅以下となるように構成してもよい。
・上記実施形態では、記録装置をインクジェット式プリンタ11に具体化したが、インク以外の他の液体(機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体を含む)を噴射する液体噴射装置に具体化してもよい。そして、本明細書における「液体」には、例えば、無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)等を含むほか、液状体、流状体などが含まれる。
【0054】
さらに、上記実施形態から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)複数の吸引孔を有し、上流側から下流側に向かってターゲットを搬送する搬送ベルトと、複数の吸引部を有し、前記搬送ベルトによって搬送される前記ターゲットを前記搬送ベルト越しに支持する支持部材と、前記各吸引孔及び前記各吸引部を介して前記ターゲットを吸引することで、該ターゲットを前記搬送ベルト上に吸着させる吸引手段とを備えたターゲット搬送装置であって、前記搬送ベルトには、前記ターゲットと対応するとともに複数の前記吸引孔が形成された領域である吸引孔形成領域が前記ターゲットの搬送方向に沿って等間隔で複数設けられており、前記各吸引孔形成領域間の間隔は、前記ターゲットの搬送方向における前記各吸引部の開口幅よりも長くなっていることを特徴とするターゲット搬送装置。
【0055】
上記(イ)の構成によれば、ターゲットの搬送方向において各吸引部が各吸引孔形成領域間を跨ぐことがないので、1つの吸引部に2つ以上の吸引孔が重なることがない。このため、例えば、ターゲットの搬送方向において隣り合う2つの吸引孔形成領域のうちいずれか一方のみにターゲットが載置された状態で該ターゲットの端縁部に吸引部が跨った場合でも、このターゲットの端縁部に跨った吸引部と重なる吸引孔は常にターゲットの端縁部によって覆われるとともに、該吸引部の開口における吸引孔と対応しない領域は常に搬送ベルトによって覆われる。したがって、吸引手段によってターゲットを吸引する際に吸引部の開口における吸引孔と対応しない領域から余計な空気をほとんど吸い込むことがなくなるので、吸引手段からターゲットの端縁部に及ぶ吸引力が十分に確保される。この結果、搬送ベルトによるターゲットの搬送中に該ターゲット全体を吸引手段によって搬送ベルト上に十分に吸着させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンタの正面図。
【図2】同プリンタの搬送ユニットの平面図。
【図3】図2の要部拡大断面図。
【図4】左右方向において各長溝の開口幅を各吸引孔同士の間隔よりも大きくした場合の搬送ユニットの平面図。
【図5】図4の要部拡大断面図。
【図6】変更例の搬送ユニットの平面図。
【符号の説明】
【0057】
11…記録装置としてのインクジェット式プリンタ、12…ターゲットとしてのカット用紙、13…ターゲット搬送装置としての搬送ユニット、14…記録手段としての記録ヘッド、15…支持部材としてのプラテン、20…搬送ベルト、20a…吸引孔、21…吸引部としての長溝、25…吸引手段としての誘引送風機、29…弁としての弁体、A…吸引孔形成領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吸引孔を有し、上流側から下流側に向かってターゲットを搬送する搬送ベルトと、
複数の吸引部を有し、前記搬送ベルトによって搬送される前記ターゲットを前記搬送ベルト越しに支持する支持部材と、
前記各吸引孔及び前記各吸引部を介して前記ターゲットを吸引することで、該ターゲットを前記搬送ベルト上に吸着させる吸引手段とを備え、
前記各吸引部の開口幅を前記各吸引孔の間隔よりも小さくしたことを特徴とするターゲット搬送装置。
【請求項2】
前記各吸引部は、前記ターゲットの搬送方向における開口幅の方が前記ターゲットの搬送方向と直交する方向における開口幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のターゲット搬送装置。
【請求項3】
前記吸引手段から前記各吸引孔までの各吸引通路のうちの少なくとも1つの途中位置には、該吸引通路の断面積を0よりも大きい範囲内で調節可能な弁が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のターゲット搬送装置。
【請求項4】
前記搬送ベルトには、前記ターゲットと対応するとともに複数の前記吸引孔が形成された領域である吸引孔形成領域が前記ターゲットの搬送方向に沿って等間隔で複数設けられており、
前記各吸引孔形成領域間の間隔は、前記ターゲットの搬送方向における前記各吸引部の開口幅よりも長くなっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のターゲット搬送装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のターゲット搬送装置と、該ターゲット搬送装置によって搬送される前記ターゲットに記録処理を施す記録手段とを備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−280321(P2009−280321A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132171(P2008−132171)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】