説明

ダイカストマシンの射出装置

【課題】ダイカストマシンの射出装置を制御するために組み込まれた油圧バルブや圧力計などの油圧部品、位置検出センサーや圧力検出器などの電気部品への衝撃や振動の伝達を緩和して、故障や損傷が低減されたダイカストマシンの射出装置を提供することにある。
【解決手段】ダイカストマシンの射出装置は、前記射出装置が衝撃や振動を緩衝する緩衝装置を、前記射出装置と該射出装置下方に設けた支持部材との間に備える。緩衝装置が、前記射出装置に組み込まれた油圧部品や電気部品などへの衝撃や振動の伝達を緩和して、故障や損傷を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンの射出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金などの軽金属材料を鋳造するダイカスト鋳造に用いられるダイカストマシンの射出装置は、一般に射出スリーブ内に摺動自在に嵌挿されたプランジャチップを、射出プランジャを介して射出シリンダで前進移動させて、その後減速し射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填する構成となっている。
高品位のアルミニウム合金などの鋳造品を得るには、溶湯が凝固する前に充填を完了する短時間充填がより重要になってきている。特に、軽量化され薄肉化された製品や複雑な形状の製品などを鋳造するために射出速度の高速化が図られている。
【0003】
射出速度を高速化すると、射出装置のプランジャチップ、射出プランジャ、射出シリンダピストンおよびピストンロッド、射出シリンダピストンロッドと射出プランジャの連結部品など移動部材の慣性力が溶湯の金型キャビティの充填と同時に作用して、金型キャビティ内にサージ圧力が発生する。そして、このサージ圧力が型締力を超えて作用すると、金型のパーティング面に溶湯が差し込んでバリが発生することとなる。さらに、この慣性力は射出速度の二乗に比例して大きくなってくる。
【0004】
そこで従来、例えば、特許文献1に記載のダイカストマシンでは、射出プランジャと射出シリンダピストンロッドとの連結手段であるカップリング内に弾性部材を介装し、サージ圧力を前記弾性部材の圧縮によって吸収しようとしている。また、特許文献2に記載のダイカストマシンでは、射出充填完了前に射出シリンダに供給する油圧圧力を減圧し、その後に射出速度を減速して高速充填時のサージ圧力を抑えるようにしている。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1及び2に記載された高速充填時のサージ圧力を低減させる対策を行なっても、ダイカストマシンンの射出装置を高速で動作させると、溶湯の射出工程において急激な加速と減速及び急停止が行なわれて、ダイカストマシン自体に対して射出装置の動作方向へ衝撃や振動を引き起こすという問題があった。
さらに、高速射出を行なうとダイカストマシンの射出装置に作用する衝撃の加速度は1000Gを超える場合もあり、そのため、射出装置に組み込まれている射出装置を制御して作動させるための油圧部品や電気部品なども衝撃や振動を受けて故障や損傷するといった問題もあった。
【0006】
【特許文献1】特開平7−155925号公報
【特許文献2】特開2000−300714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、ダイカストマシンの射出装置を制御するために組み込まれた油圧バルブや圧力計などの油圧部品、位置検出センサーや圧力検出器などの電気部品への衝撃や振動の伝達を緩和して、故障や損傷が低減されたダイカストマシンの射出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、第1の発明は、射出シリンダの前端部が型締装置の固定盤に設けられたフレームに嵌挿され金型内に金属の溶湯を射出充填するダイカストマシンの射出装置において、前記射出装置が衝撃や振動を緩衝する緩衝装置を備えていることを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記緩衝装置が、前記射出装置が発生する衝撃力の大きさや方向及び振動の振幅や固有振動数などの特性に応じた緩衝特性を有していることを特徴とする。
【0009】
上記問題を解決するため、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記緩衝装置が、前記射出装置と該射出装置下方に設けた支持部材との間に配設されていることを特徴とする。
第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記緩衝装置が、前記フレーム後端部及び前記射出シリンダ後端部に設けられ、前記射出装置の軸線方向に垂直方向の振幅に作用する複数個の緩衝手段を備えていることを特徴とする。
【0010】
上記問題を解決するため、第5の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記緩衝装置が、前記フレーム後端部及び前記射出シリンダ後端部に設けられ、前記射出装置の軸線方向に交差方向の振幅に作用する複数個の緩衝手段を備えていることを特徴とする。
第6の発明は、第1乃至第5の発明のいずれかにおいて、前記緩衝手段が、前記射出装置と前記支持部材に挟持されたシート状の弾性部材と、前記支持部材ボルト挿通孔に嵌着されたスリーブ状の弾性部材と、該スリーブ状の弾性部材を挿通して前記射出装置に螺挿された植え込みボルトと、該植え込みボルトに挿通して配される金属バネと、リング状の弾性部材で構成され、前記射出装置に固定手段によって弾接されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に記載のダイカストマシンの射出装置によれば、溶湯充填完了時の運動エネルギーに伴う衝撃力を緩衝する緩衝装置を備えたので、射出装置に組み込まれた油圧部品や電気部品などへの衝撃や振動の伝達を緩和して、故障や損傷が低減され、より効果的に油圧部品や電気部品などを保護することができる。
第2の発明に記載のダイカストマシンの射出装置によれば、射出装置が発生する衝撃力の大きさや方向、振動の振幅や固有振動数などの特性に応じた緩衝装置としたので、振動に起因して発生する騒音を低減して防音対策を不要とするので、緩衝装置にかかるコストを低減することができる。
【0012】
第3の発明に記載のダイカストマシンの射出装置によれば、油圧部品や電気部品などを組み込んだ射出装置の下方に支持部材を設け、緩衝装置を介して支持部材により射出装置を支持する構成としたので、基礎設置面への振動の伝達を絶縁することができる。
第4の発明に記載のダイカストマシンの射出装置によれば、緩衝装置を固定盤のフレームの後端部及び射出シリンダの後端部とに設けるとともに、主に射出装置の軸線方向に垂直方向の振幅に作用する構成としたので、上下動の振動特性に応じたより効果的な振動の緩衝を行なうことができる。
【0013】
第5の発明に記載のダイカストマシンの射出装置によれば、緩衝装置を固定盤のフレームの後端部及び射出シリンダの後端部とに設けるとともに、主に射出装置の軸線方向に交差方向の振幅に作用する構成としたので、左右動の振動特性に応じたより効果的な振動の緩衝を行なうことができる。
第6の発明に記載のダイカストマシンの射出装置によれば、緩衝手段としてシート状の弾性部材と、前記支持部材ボルト挿通孔に嵌着されたスリーブ状の弾性部材と、スリーブ状の弾性部材を挿通して射出装置に螺挿された植え込みボルトと、植え込みボルトに挿通して配される金属バネと、リング状の弾性部材で構成し射出装置に固定手段によって弾接したので、ダイカストマシンの射出装置からの衝撃や振動を安価な汎用品を用いて緩和することができる。そして、より安価なコストで、射出装置に組み込まれた油圧部品や電気部品などへの衝撃や振動の伝達を緩和して、故障や損傷が低減され、より効果的に油圧部品や電気部品などを保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明の一実施の形態を示したものである。図1において、20は本発明に係るダイカストマシンの射出装置、11は金型である。金型11は、固定盤12に取付けられた固定金型13と可動盤15に取付けられた可動型14とからなっており、固定型13に対して可動型14を合わせた状態で金型キャビティ16が形成されるようになっている。符号10は、ダイカストマシンの型締装置である。
【0015】
射出装置20は、射出シリンダ21、固定盤12に設けられ射出シリンダ21の前端部が嵌挿されるフレーム22、床面18に設置され射出シリンダ21の少なくとも前端部および後端部の2箇所を支持する支持部材23、射出シリンダ21のロッド側油圧ブロック24、射出シリンダ21のヘッド側油圧ブロック25、26、溶湯を金型キャビティ16内に射出充填する際に射出シリンダ21に圧油を供給するピストンアキュムレータ27、28、ピストンアキュムレータ27、28に連通し窒素ガスが封入されたガスボトル29、30、で基本構成される。そして、油圧ブロック24、25、26は射出シリンダ21に供給する作動油の油量及び圧力を制御する油圧機器などを備えている。
【0016】
また、射出装置20は、固定盤12を介して固定型13に先端部が結合された射出スリーブ35と、この射出スリーブ35内に摺動自在に嵌装されたプランジャチップ36と、プランジャチップ36の後端からその軸線上を後方に延ばされたプランジャロッド37と、射出シリンダ21のピストンロッド31とプランジャロッド37とを連結するカップリング38とを有している。
一方、射出スリーブ35の後端部には、溶湯を供給するための給湯口39が設けられており、鋳造に際しては、図示しないラドルからこの給湯口39を通して射出スリーブ35内に所定量の溶湯が供給される。射出スリービ35内に供給された溶湯は、前進する射出シリンダ21のピストンロッド32に連結されたプランジャチップ36によって金型キャビティ16内に充填される。
そして、符号40が射出装置20と支持部材23との間に配設され溶湯充填完了時の運動エネルギーによって発生する衝撃と振動とを緩衝する緩衝装置である。
【0017】
図2は、主に射出装置の軸線方向に垂直方向の振幅に作用する構成とした緩衝装置40の一実施形態の要部を示す。緩衝装置40は、緩衝手段50と、射出装置20のフレーム22及びヘッド側油圧ブロック26とスペーサ52に挟持されたシート状の弾性部材41と、スペーサ52とで基本構成される。スペーサ52は複数個のボルト53で支持部材23に固着され、支持部材23を介して射出装置20を支持する構成となっている。
【0018】
緩衝手段50は、スペーサ52のボルト挿通孔42に嵌着されたスリーブ状の弾性部材43と、スリーブ状の弾性部材43を挿通して射出装置20のフレーム22又はヘッド側油圧ブロック26に螺挿された植え込みボルト44と、植え込みボルト44と、挿通して配される複数個の金属バネ45と、リング状の弾性部材46及び固定手段47などから基本構成される。
【0019】
図2において、シート状の弾性部材41を挟持するフレーム及びヘッド側油圧ブロック26と支持部材23との挟持部は矩形の形状を呈し、シート状の弾性部材41もこれらに対応した矩形の形状を呈している。フレーム及びヘッド側油圧ブロック26の支持部の少なくとも四隅には緩衝手段50の植え込みボルト44が螺設されるネジ孔が設けられている。植え込みボルト44を挿通するボルト孔51が設けられたシート状の弾性部材41は、弾性歪エネルギーが大きくなるようにコンパウンドされた、例えば、二トリルゴムやクロロプレンゴムなどが好適に用いられる。そして、シート状の弾性部材41は、射出装置20で発生し支持部材23に伝達される衝撃力と振動を緩衝するとともに、射出装置20の振動を減衰させる。
【0020】
スリーブ状の弾性部材43は、内径側が植え込みボルト44の外周部に、外径側が支持部材23に設けられた挿通孔42にそれぞれ緩挿され、植え込みボルト44を介して支持部材23に伝達する振動と衝撃を緩衝する。後述する固定手段47の緊緩によってスリーブ状の弾性部材43は植え込みボルト44の外周と挿通孔42の内周に圧接される構成となっている。
符号46はリング状の弾性部材であって、スリーブ状の弾性部材43と同じく植え込みボルト44を介して伝達される射出装置20からの振動と衝撃を緩衝する。そして、リング状の弾性部材46は、押圧面を保護する絶縁用座金48を備えている。
【0021】
図2において、45は金属バネ、49は金属平座金で植え込みボルト44に挿通して設けられ、金属バネ45が圧縮されて発生する弾性力で支持部材23と射出装置20とを弾装している。固定手段47は、締め付け用のナットと緩み止め用のナットと2個のナットで構成され、植え込みボルト44のネジ部と螺合してバネ力を調整し所定の弾性力を得るとともに、緩衝特性を調整する。なお、本実施の形態では皿バネを用いた構成としたが、圧縮コイルバネやオイルダンパなどのエネルギーの吸収手段を用いる構成であっても良い。
リング状の弾性部材46やスリーブ状の弾性部材43は、弾性歪エネルギーが大きくなるようにコンパウンドされた、例えば、二トリルゴムやクロロプレンゴムなどを用いることが好ましい。
【0022】
図3は、主に射出装置の軸線方向に交差方向の振幅に作用する構成とした緩衝装置40の一実施形態の要部を示す。図2においては、緩衝手段50を射出装置20の軸線の垂直方法に配設したが、図3においては、緩衝手段50を射出装置の軸線に交差する水平方向に配設したもので、基本構成については図3と同一の符号を付した。
図3は、水平方向の加振力に伴う射出装置20からの衝撃と振動を緩衝する構成としたものであって、吸収する衝撃荷重の方向が異なるだけで機能及び作用は、上述した図2の説明と同一である。
また、図2及び図3に示した実施の形態に限らず、垂直方向と水平方向の合成した加振力に応じて複数個の緩衝手段50を垂直方向及び水平方向にそれぞれ配設する構成とした緩衝装置であっても良い。
【0023】
以上説明したように、射出装置20のフレーム22後端下部と射出シリンダ21の後端部に取付けられた油圧ブロック26の下部とそれぞれの支持部材23との間に、射出装置20で発生する衝撃荷重と衝撃荷重に伴う振動を緩衝する緩衝装置を設けたので、射出装置20から指示部材23への衝撃や振動の伝達を緩衝することができ、ダイカストマシンの射出装置に組み込まれた油圧部品や電気部品などへ衝撃や振動の伝達を緩和して、故障や損傷が低減されたダイカストマシンの射出装置を提供することができる。
さらに、指示部材23へ伝達される衝撃力と振動が緩和さされることから、支持部材23から床面18への衝撃力と振動が減少して床面18に対する悪影響を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のダイカストマシンの射出装置の一態様を示す図である。
【図2】本発明の射出装置の軸線方向に垂直方向の振幅に作用する構成とした緩衝装置一実施形態の要部を示す図である。
【図3】本発明の射出装置の軸線方向に交差方向の振幅に作用する構成とした緩衝装置の一実施形態の要部を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 型締装置
11 金型
12 固定盤
13 固定型
14 可動盤
15 可動型
16 金型キャビティ
20 射出装置
21 射出シリンダ
22 フレーム
23 支持部材
26 ヘッド側油圧ブロック
40 緩衝装置
41 シート状の弾性部材
43 スリーブ状の弾性部材
44 植え込みボルト
45 金属バネ
46 リング状の弾性部材
47 固定手段
50 緩衝手段
52 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出シリンダの前端部が型締装置の固定盤に設けられたフレームに嵌挿され金型内に金属の溶湯を射出充填するダイカストマシンの射出装置において、前記射出装置が衝撃や振動を緩衝する緩衝装置を備えていることを特徴とするダイカストマシンの射出装置。
【請求項2】
前記緩衝装置が、前記射出装置が発生する衝撃力の大きさや方向及び振動の振幅や固有振動数などの特性に応じた緩衝特性を有していることを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項3】
前記緩衝装置が、前記射出装置と該射出装置下方に設けた支持部材との間に配設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項4】
前記緩衝装置が、前記フレーム後端部及び前記射出シリンダ後端部に設けられ、前記射出装置の軸線方向に垂直方向の振幅に作用する複数個の緩衝手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項5】
前記緩衝装置が、前記フレーム後端部及び前記射出シリンダ後端部に設けられ、前記射出装置の軸線方向に交差方向の振幅に作用する複数個の緩衝手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項6】
前記緩衝手段が、前記射出装置と前記支持部材に挟持されたシート状の弾性部材と、前記支持部材ボルト挿通孔に嵌着されたスリーブ状の弾性部材と、該スリーブ状の弾性部材を挿通して前記射出装置に螺挿された植え込みボルトと、該植え込みボルトに挿通して配される金属バネと、リング状の弾性部材で構成され、前記射出装置に固定手段によって弾接されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のダイカストマシンの射出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−62271(P2008−62271A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243060(P2006−243060)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)