説明

ダイクッション装置

【課題】 ダイクッションパッドの下降をスムーズにでき、より高精度のプレス成形を実現できるダイクッション装置を提供すること。
【解決手段】ダイクッションパッド13を4つの小パッド15と1つの大パッド16とに分割した。このため、各小パッド15の作用点に作用する荷重を大パッド16によって均等化できるとともに、作用点と小パッド15の中心である反力点との間に生じる転倒モーメントをキャンセルでき、小パッド15の撓みを抑えることができる。従って、クッションピンなどの撓み等も抑制できるから、ボルスタの貫通孔とクッションピンとの擦れ等も生じる心配がなく、昇降動作をスムーズに行うことができ、より高精度なプレス成形を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイクッションパッドを備えたダイクッション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス機械によりワークを絞り成形する場合、ダイクッション装置を使用している。このようなダイクッション装置は、クッションピンを介してブランクホルダを支持するダイクッションパッドを備えており、このダイクッションパッドが、上型を取り付けたスライドの動きに同期して追従下降するようになっている。
また、近年では、ダイクッションパッドを複数のパッド部材に分割するとともに、各パッド部材を付勢力発生手段としてのサーボモータで個別に駆動することにより、パッド部材毎にクッション力を調整し、高精度のプレス成形を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ダイクッションパッドを複数のパッド部材に分割すると、絞り成形中において、パッド部材の作用点とパッド部材の中心の反力点との間には、パッド部材毎に異なった大きさの転倒モーメントが生じてしまうため、各パッド部材が撓んでしまってスムーズに下降させることができず、高精度のプレス成形を行うには限界があった。
【0005】
本発明の目的は、ダイクッションパッドの下降をスムーズにでき、より高精度のプレス成形を実現できるダイクッション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係るダイクッション装置は、プレス機械に設けられるダイクッション装置において、スライドの押圧力をクッションピンを介して受ける複数の小パッドと、
これら複数の小パッドを支持する大パッドと、前記押圧力に対し、上向きの付勢力を発生させながら前記大パッドを昇降させる付勢力発生手段とを備え、前記小パッドおよび大パッドによりダイクッションパッドが構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2に係るダイクッション装置は、請求項1に記載のダイクッション装置において、前記小パッドは、前記大パッドに一体に固定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3に係るダイクッション装置は、請求項1または請求項2に記載のダイクッション装置において、前記大パッドのみ、前記プレス機械のベッドの内壁に案内されながら昇降動することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4に係るダイクッション装置は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のダイクッション装置において、前記小パッドは、2行2列に計4つ配置され、前記大パッドは、これら4つの小パッドを支持するように1つ設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上において、請求項1の発明によれば、絞り成形中などにおいて、小パッドのそれぞれに作用する作用力は、大パッドが設けられることで均等化されるため、作用力によって生じる転倒モーメントが互いに打ち消しあって小さくなり、小パッドの撓みを抑制できる。従って、小パッドに当接されたクッションピンのボルスタでの通りが良好になるなど、ダイクッションパッドの下降を無理なくスムーズに行うことができ、高精度なプレス成形を実現できる。
【0011】
請求項2の発明によれば、各小パッドが大パッドにボルト等の締結部材によって固定されるため、大パッドによる小パッドでの作用力の均等化を確実に促進でき、より効果的である。
【0012】
請求項3の発明においては、殆ど変形しない大パッドのみがベッドの内壁に案内されて昇降するので、転倒モーメントによって多少変形する小パッドをベッドの内壁と接触させずに昇降させることができ、ベッドの内壁から受ける反力を安定させることができる。従って、ダイクッションパッドをスライドの動きに同期させて下降させる場合に、反力によるクッション圧への影響を少なくでき、付勢力発生手段を容易に制御できる。
【0013】
請求項4の発明においては、小パッドの作用力を前後左右の小パッドで等価にすることができ、各小パッドに生じる転倒モーメントをキャンセルさせてゼロに近づけることができ、最も効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のダイクッション装置10が採用されたプレス機械1の概略全体を示す模式図、図2は、プレス機械1の要部を示す分解斜視図、図3は、プレス機械1のベッド6の要部を示す拡大図である。
【0015】
プレス機械1は、クランク機構、エキセン機構、またはリンク機構等の駆動力伝達機構が内蔵されたクラウン2と、クラウン2内の駆動力伝達機構にプランジャ3を介して連結され、かつ上金型80が取り付けられるスライド4と、下金型90が取り付けられるムービングボルスタ5が載置されたベッド6と、ベッド6および前記クラウン2とを連結する4本(図1では2本のみを図示)のアプライト7とを備えており、ベッド6内にダイクッション装置10が収容されている。
【0016】
ここで、本実施形態のムービングボルスタ5は、図2に示すように、多数の貫通孔51Aが穿設された定盤状のボルスタ51と、ボルスタ51を支持するキャリア52とで構成されている。ボルスタ51の貫通孔51Aは、ダイクッション装置10に用いられるクッションピン12(図1)が通る孔であり、用いられる下金型90に応じて適宜選択される。キャリア52には、図示しない移動手段が設けられ、金型交換のためにボルスタ51をプレス機械1外部へ移動させることが可能である。また、キャリア52には、内部空間53が設けられている。
【0017】
一方、ベッド6には、内部空間61を平面視で4分割するように十字状のリブ62が設けられている。このリブ62は、図3にも示すように、内部空間61の上下方向の途中に設けられており、特にその下端は、底面分部にまで垂下して設けられている訳ではない。
【0018】
ダイクッション装置10は、図1に戻って示すように、ワークWを上金型80との間で挟持するブランクホルダ11と、ブランクホルダ11をクッションピン12を介して支持するダイクッションパッド13と、ダイクッションパッド13を上向きの付勢力を発生させながら昇降させる付勢力発生手段14とを備えている。なお、付勢力発生手段には、エアの圧縮性を利用したエアシリンダタイプのように、スライドの動きに対して受動的にダイクッションパッドを昇降させるものと、本実施形態のように、サーボモータ24(図5)により、スライドの動きに同期して能動的にダイクッションパッドを昇降駆動させるものとがある。
【0019】
このようなダイクッション装置10において、ダイクッションパッド13は、図1、図4に示すように、ベッド6の内部空間61のうち、前記リブ62で仕切られた小空間63内を昇降する4つの小パッド15と、2行2列に配置された小パッド15の下方に位置する1つの大パッド16とで構成されている。すなわち、大パッド16は、内部空間61内において、リブ62の下方で昇降するのであり、リブ62とは干渉しないようになっている。
【0020】
小パッド15は金属製で中空の矩形箱状とされ、リブ62の下方に予め配置されている大パッド16に対し、リブ62の上方から小空間63内に落とし込まれ、ガイドピン17などに案内されながら大パッド16上に位置決めされ、図示しないボルト等によって一体に固定される。
【0021】
一方の大パッド16も金属製で中空の矩形箱状であり、その四周の側面には、ガイドプレート18が設けられている。このガイドプレート18は、図3に示すベッド6の内部空間61の内壁に設けられたガイドプレート64と対向し、互いに接触摺動しながらダイクッションパッド13の昇降をガイドしている。つまり、ダイクッションパッド13が昇降するにあたっては、ガイドプレート18,64を介して大パッド16のみがベッド6の内壁と接触するようになっており、小パッド15は接触しない。
【0022】
ダイクッション装置10を構成する付勢力発生手段14は、図1、図5に示すように、大パッド16の下面に設けられたナット部19と、ナット部19に螺合されたボールねじ部20と、ベッド6の床部65に設けられてボールねじ部20の下端側を回転自在に支持する軸受部材21と、ボールねじ部20の下端に設けられた従動側プーリ22と、駆動側プーリ23を有するサーボモータ24とを備え、サーボモータ24は例えば床部65等の適宜な部位に支持され、各プーリ22,23にはベルト25が巻回されている。
【0023】
このような付勢力発生手段14は、本実施形態では、各小パッド15に対応して4つ設けられ、各サーボモータ24の回転がコントローラによって個々に制御される。付勢力発生手段14のサーボモータ24は、電流の供給によって回転軸が正逆回転する。サーボモータ24の電流が供給されて回転軸が回転すると、駆動側プーリ23、従動側プーリ22、ボールねじ部20が回転動作する。ボールねじ部20の回転動作に伴い、ナット部19が昇降方向に直線動作する。すると、ナット部19と共にダイクッションパッド13が昇降する。ダイクッションパッド13に与えられるクッション圧(付勢力)の制御は、サーボモータ24への電流制御によって行われる。
【0024】
以上のような本実施形態では、ダイクッションパッド13が複数の小パッド15と大パッド16とに分割されているので、図6に模式的に示すように、各小パッド15の作用点Pに作用する荷重を大パッド16によって均等化できるとともに、作用点Pと小パッド15の中心である反力点Cとの間に生じる転倒モーメントMをキャンセルでき、小パッド15の撓みを抑えることができる。従って、クッションピン12などの撓み等も抑制できるから、ボルスタ51の貫通孔51Aとクッションピン12との擦れ等も生じる心配がなく、昇降動作をスムーズに行うことができ、より高精度なプレス成形を実現できる。ただし、図6においては、用いられる貫通孔51Aのみを図示してある。
【0025】
特に、小パッド15が2行2列で合計4つに分割配置され、大パッド16の中心に対して点対称な位置に配置されている本実施形態では、それぞれの小パッド15で生じる転倒モーメントMを確実にキャンセルでき、大パッド16からすれば転倒モーメントをゼロに近づけることができ、一層効果的である。
【0026】
しかも、撓みやすい小パッド15は、ベッド6の内壁やリブ62とは接触せず、その反力を受けないため、ダイクッションパッド13に安定したクッション圧を付与でき、付勢力発生手段14の制御を容易にできる。
【0027】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
前記実施形態では、ベッド6に設けられた十字状のリブ62は、下端側が内部空間61の上下方向の途中までしか設けられていなかったが、図7に示すように、例えば短辺側に沿ったリブ部分62Aがベッド6の床部65まで垂下して設けられていてもよい。このような場合、ダイクッションパッド13の大パッド16は、図8に示すように、前記実施形態で説明したものと比較して略1/2の容量とされ、リブ62と干渉しないように一対配置されることになる。このようなダイクッションパッド13でも、各大パッド16は複数の小パッド15(ここでは2つ)を支持することに変わりはないので、本発明に含まれる。また、リブ62の短辺側ではなく、長辺側のリブ部分が床部65まで延びている場合でも同様である。
【0028】
前記実施形態では、ベッド6に十字状のリブ62が設けられていたが、リブの形状は一文字状であってもよく、任意である。例えば内部空間61の短辺側に沿った一文字状のリブを形成した場合には、前記実施形態で説明した容量の大パッド16上に、一対の小パッド15が配置されることになる。ただし、この場合の小パッド15は、前記実施形態で説明したものと比較して略2倍の容量となる。
【0029】
さらに、本発明においては、前記実施形態で説明したようなベッド6のリブ62や、キャリア52のリブは必要に応じて設けられていればよく、ボルスタ51の撓みに応じて適宜設けられるのである。
【0030】
前記実施形態では、小パッド15と大パッド16とは一体にボルト止めされていたが、何らかの付勢手段を用いることにより、小パッド15を大パッド16の上方に間接的に付勢させておいてもよい。
また、小パッド15の駆動手段を別途設け、大パッド16とは別に昇降駆動してもよく、このような場合には、その駆動手段が例えば大パッド16内部に収容されてもよい。そして、小パッド15の昇降動作および大パッド16の昇降動作は、コントローラで一括制御される。
【0031】
前記実施形態では、ダイクッションパッド13はサーボモータ24で駆動されていたが、油圧アクチュエータや、空気圧アクチュエータ、あるいはリニアモータで駆動されていてもよく、付勢力発生手段の構成は任意である。また、前述のように、エアの圧縮性を利用したエアシリンダタイプでもよい。
さらに、付勢力発生手段14の数は任意であり、小パッド15の数と同じである必要はない。
【0032】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した小パッド15や大パッド16の形状、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、数量などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ダイクッション装置を備えたあらゆるプレス機械に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るダイクッション装置が採用されたプレス機械の概略全体を示す模式図。
【図2】前記プレス機械の要部を示す分解斜視図。
【図3】前記プレス機械のベッドの要部を示す拡大図。
【図4】前記ダイクッション装置のダイクッションパッドを示す斜視図。
【図5】前記ダイクッション装置の付勢力発生手段を示す拡大図。
【図6】前記実施形態の作用効果を説明するための図。
【図7】本発明の変形例を示す図。
【図8】前記変形例で用いられるダイクッションパッドを示す斜視図。
【符号の説明】
【0035】
1…プレス機械、4…スライド、6…ベッド、10…ダイクッション装置、11…ブランクホルダ、12…クッションピン、13…ダイクッションパッド、14…付勢力発生手段、15…小パッド、16…大パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機械(1)に設けられるダイクッション装置において、
スライド(4)の押圧力をクッションピン(12)を介して受ける複数の小パッド(15)と、
これら複数の小パッド(15)を支持する大パッド(16)と、
前記押圧力に対し、上向きの付勢力を発生させながら前記大パッド(16)を昇降させる付勢力発生手段とを備え
前記小パッド(15)および大パッド(16)によりダイクッションパッド(13)が構成されている
ことを特徴とするダイクッション装置(10)。
【請求項2】
請求項1に記載のダイクッション装置(10)において、
前記小パッド(15)は、前記大パッド(16)に一体に固定されている
ことを特徴とするダイクッション装置(10)。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のダイクッション装置(10)において、
前記大パッド(16)のみ、前記プレス機械(1)のベッド(6)の内壁に案内されながら昇降動する
ことを特徴とするダイクッション装置(10)。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のダイクッション装置(10)において、
前記小パッド(15)は、2行2列に計4つ配置され、
前記大パッド(16)は、これら4つの小パッド(15)を支持するように1つ設けられている
ことを特徴とするダイクッション装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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