説明

ダイナミックダンパ

【課題】振動低減効果を低下させることなく、異音や衝撃音の発生を防止することができる遠心振子式のダイナミックダンパを提供する。
【解決手段】制振対象に取り付けられる回転体1の内部に形成された振子収容室2に、転動体3が転動もしくは揺動可能に収容されて保持されたダイナミックダンパDにおいて、振子収容室2に充填されるとともに、所定の流動性および粘性を有するオイル9と、回転体1の内部でかつ回転体1の回転半径方向における振子収容室2の外周側に形成されるとともに、振子収容室2内のオイル9に遠心力が作用した場合に振子収容室2からオイル9が流入するオイル収容室4とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転部材に取り付けられてそのトルク変動もしくは捻り振動を抑制するダイナミックダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなどの回転部材に取り付けられて、その回転部材のトルク変動やトルク変動に起因する捻り振動を抑制する装置としてダイナミックダンパが知られている。ダイナミックダンパは、例えば振動系にばねや振り子を取り付けることにより、振動系の振動を吸収して減衰させ、また、振動系の共振点を複数に分散させて共振の発生を抑制させる装置である。
【0003】
そのようなダイナミックダンパの一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された回転機械は、ハウジングに回転可能に支持された回転軸に対して一体回転可能に固定されるとともにそのハウジングの外部に設けられた第1回転体と、ハウジングに回転可能に支持されるとともにハウジングの外部で第1回転体とほぼ同一軸線上に配置されて外部の駆動力源によって駆動される第2回転体とを有していて、それら第1回転体と第2回転体との間の動力伝達経路上に配置される緩衝部材と、各回転体の回転中心軸線にほぼ平行でかつ回転中心軸線から所定間隔だけ離間した点を通過する軸線を中心とした振り子運動を行なう質量体を備えたダイナミックダンパとが設けられている。そしてこの特許文献1には、緩衝部材を流体が封入された収容体によって構成することにより、第1回転体と第2回転体との間で伝達される回転振動(トルク変動)を減衰させることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、エンジンのクランク軸と同一軸線上に取り付けられる回転盤に、少なくともこの回転盤の内周側を向いた面が回転軸線と平行な線を曲率中心とする円筒状凹面により形成された収容室が、回転盤の円周方向に所定間隔を隔てて複数設けられるとともに、それら複数の収容室内に転動マスがそれぞれ転動可能な状態に収容され、さらに各収容室に潤滑油を供給するための給油孔が形成されたダイナミックダンパが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−83395号公報
【特許文献2】特開2001−153185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の各特許文献1,2に記載されているダイナミックダンパは、その基本構成が図1に示されているように、制振対象となる回転部材に取り付けられる回転体1と、その回転体の内部に形成された収容室2に収容されかつ転動可能に保持された複数の振子(転動体;マス)3とから構成された、いわゆる遠心振子式のダイナミックダンパD’である。
【0007】
具体的には、回転体1は、円柱形状のハウジング1aとハウジングカバー1bとから構成されていて、ハウジング1aは、その中心部よりも周縁側の複数個所(図1の例では4個所)に、ハウジング1aの一方の円形端面から円筒形に刳り抜いた形状の収容室2が形成されている。なお、各収容室2は、回転体1の回転方向すなわち回転体1の円周方向において互いに等間隔に配置されている。また、ハウジングカバー1bは、ハウジング1aに一体固定されてハウジング1aの各収容室2を密閉する蓋部材である。
【0008】
各収容室2内には、それぞれ振子3すなわち転動体3が収容されている。転動体3は、このダイナミックダンパD’における遠心振り子として機能するための所定の剛性と重量を有する剛体によって構成されていて、その外径が収容室2の内径よりも小さく、かつ高さ(図1の(b)での左右方向の寸法)が収容室2の深さ(図1の(b)での左右方向の寸法)よりも短い円柱形状に形成されている。なお、この転動体3の形状は、上記のような円柱形状に限定されるものではなく、収容室2内において滑らかに転動もしくは揺動可能な形状であればよい。例えば曲率半径が収容室2の内径および深さよりも小さな球体であってもよい。
【0009】
そして、ハウジング1aの各収容室2内に各転動体3がそれぞれ収容された状態で、ハウジング1aに対してハウジングカバー1bが取り付けられて固定されることにより、遠心振子式のダイナミックダンパD’が構成されている。したがって、この遠心振子式のダイナミックダンパD’における振り子として機能する各転動体3は、回転体1に設けられた各収容室2内に収容され、かつ各収容室2内で収容室2の内周方向に転動もしくは揺動可能に保持されている。なお、ハウジング1aとハウジングカバー1bとの間は、例えば図示しないガスケットやシール部材などによりシールされており、各収容室2内の気密性が保たれている。
【0010】
上記のように構成されたダイナミックダンパD’が、例えばエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトなどの回転部材に対してそれらの回転部材と一体回転するように取り付けられることにより、回転部材のトルク変動もしくはそのトルク変動に起因する捻り振動が抑制される。
【0011】
すなわち、回転部材に一体回転するように取り付けられたダイナミックダンパD’が、その回転部材と共に所定回転数以上で回転すると、各転動体3に作用する遠心力によってそれら各転動体3が回転体1における外周側に移動する。言い換えると、ダイナミックダンパD’の回転数が、各転動体3に重力よりも大きな遠心力が作用する所定回転数以上になると、図1の(a),(b)に示すように、各転動体3が、各収容室2内で回転体1における外周側に移動して各収容室2の内壁面に当接した状態となって、ダイナミックダンパD’が回転する。この状態で、回転部材にトルク変動が生じ、そのトルク変動がダイナミックダンパD’に伝達されると、ダイナミックダンパD’の各収容室2内では、各転動体3がトルク変動の方向とは逆方向に相対移動する。その結果、それら各転動体3の慣性モーメントによってトルク変動が相殺されることになるので、トルク変動もしくはトルク変動により生じる捻り振動を抑制することができる。
【0012】
しかしながら、上記に示した構成のダイナミックダンパD’は、上述のように、各転動体3が、重力ならびにダイナミックダンパD’が回転する際の遠心力およびトルク変動の影響を受けて各収容室2内を移動することになる。そのため、ダイナミックダンパD’の回転数が、各転動体3に重力よりも大きな遠心力が作用する所定回転数よりも低くなると、すなわち各転動体3に作用する遠心力が重力よりも小さくなると、図1の(c)に示すように、各転動体3が、各収容室2内で重力の方向に落下して各収容室2の内壁面に衝突し、その衝突の際に異音や衝撃音が発生する場合がある。
【0013】
また、ダイナミックダンパD’が、例えばエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトなどの車両の駆動系統に取り付けられている場合、その車両の駆動系統では、例えば図10に示すように、エンジンの始動直後あるいは停止直前の低回転数領域で不可避的に振動が大きくなる共振点が存在するので、ダイナミックダンパD’の回転数がその低回転数領域を通過する際には、各収容室2内での各転動体3の姿勢や挙動に乱れが生じ、その結果、各転動体3が各収容室2の内壁面に衝突して、その衝突の際に異音や衝撃音が発生する場合もある。
【0014】
そのような各転動体3が各収容室2の内壁面に衝突する際の異音や衝撃音の発生を防止するための方策として、例えばオイルやグリースなどの所定の粘性を有する流体を各収容室2内に充満させることが考えられる。そのような流体を各収容室2に充填することにより、各収容室2内における各転動体3が流体の粘性抵抗を受けるので、それら各転動体3が各収容室2内を移動する際の移動速度が抑制される。その結果、各転動体3が各収容室2の内壁面に衝突する際の衝撃力が緩和され、異音や衝撃音の発生を抑制することができる。
【0015】
しかしながら、上記のように各収容室2内を流体で充満させた場合は、異音や衝撃音の発生を抑制することができる反面、流体の粘性抵抗によってトルク変動や捻り振動発生時における各収容室2内での各転動体3の転動もしくは揺動も抑制されてしまう。そのため、ダイナミックダンパD’の振動低減効果も低下してしまう。
【0016】
このように、遠心振子式のダイナミックダンパの振動低減効果を低下させることなく、転動体(振子)の落下や姿勢もしくは挙動の乱れによる異音や衝撃音の発生を防止するためには、未だ改良の余地があった。
【0017】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、振動低減効果を低下させることなく、異音や衝撃音の発生を防止することができる遠心振子式のダイナミックダンパを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、回転部材に取り付けられる回転体の内部に形成された振子収容室に、所定の重量を有する転動体が転動もしくは揺動可能に収容されて保持されたダイナミックダンパにおいて、前記振子収容室に充填されるとともに、所定の流動性および粘性を有する粘性流体と、前記回転体の内部でかつ前記回転体の回転半径方向における前記振子収容室の外周側に形成されるとともに、前記振子収容室内の前記粘性流体に遠心力が作用した場合に前記振子収容室から前記粘性流体が流入する流体収容室とを備えていることを特徴とするものである。
【0019】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記振子収容室と前記流体収容室との間に形成されてそれら前記振子収容室と前記流体収容室との間における前記粘性流体の流通を可能にする連通路と、前記振子収容室と前記流体収容室との間に形成されてそれら前記振子収容室と前記流体収容室との間における気体の流通を可能にする通気路とを更に備えていることを特徴とするものである。
【0020】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記流体収容室内に流入した前記粘性流体に作用する遠心力に対向して前記粘性流体を前記振子収容室側に付勢し、前記粘性流体を前記振子収容室へ還流させる付勢部材を更に備えていることを特徴とするものである。
【0021】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記付勢部材が、前記流体収容室の内壁をシリンダとしてそのシリンダ内を前記回転半径方向に往復動するピストンと、弾性力により前記ピストンを前記回転半径方向における前記振子収容室側に押圧する弾性体とから構成される部材を含むことを特徴とするものである。
【0022】
また、請求項5の発明は、請求項3または4の発明において、前記遠心力が予め設定した第1所定値以上になった場合に前記振子収容室と前記流体収容室との間で前記粘性流体が流通する流路を開通させ、前記遠心力が予め設定した前記第1所定値よりも大きな第2所定値以上になった場合に前記流路を閉止させる流路開閉機構を更に備えていることを特徴とするものである。
【0023】
また、請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記流路開閉機構が、前記付勢部材と連動して前記流路を開閉させる貫通穴が形成された遮蔽板を含むことを特徴とするものである。
【0024】
また、請求項7の発明は、請求項1の発明において、前記振子収容室と前記流体収容室との間に形成されてそれら前記振子収容室と前記流体収容室との間における前記粘性流体および気体の流通を可能にする第1連通孔と、前記回転半径方向における前記振子収容室の内周側に形成されて前記振子収容室と外部との間における気体の流通を可能にするとともに、前記振子収容室への気体の流入を許容しかつ前記振子収容室から前記粘性流体の流出を制止する逆止弁が設けられた第2連通孔と、前記回転半径方向における前記流体収容室の外周側に形成されて前記流体収容室と外部との間における気体の流通を可能にする第3連通孔とを備えていることを特徴とするものである。
【0025】
そして、請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記第1連通孔および前記第2連通孔ならびに前記第3連通孔が、前記回転半径方向の同一直線上に直列に配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明によれば、遠心振子式のダイナミックダンパにおいて振子として機能する転動体が収容される振子収容室に、所定の流動性と粘性とを有する粘性流体が充填される。そして、制振対象の回転部材と一体に回転体が回転することにより振子収容室内の粘性流体に遠心力が作用し、その結果、振子収容室内の粘性流体が振子収容室の外周側に形成された流体収容室に移動する。すなわち、回転体の回転数が相対的に低く粘性流体に作用する遠心力が相対的に小さい場合は、振子収容室内の粘性流体はその振子収容室内に留まっているが、回転体の回転数が相対的に高くなって粘性流体に作用する遠心力が相対的に大きくなると、振子収容室内の粘性流体は遠心力の影響を受けて外周側の流体収容室に移動する。
【0027】
したがって、相対的に回転数が高い常用域では、遠心力の作用により、粘性流体が振子収容室から流体収容室へ移動するとともに、転動体は振子収容室内の最外周側へ移動し、粘性流体の粘性抵抗を受けることなく遠心振子として機能する。そのため、遠心振子式のダイナミックダンパとしての振動低減効果を確実に得ることができる。そして、常用域よりも相対的に回転数が低い低回転数域では、粘性流体は振子収容室内に滞留しているので、例えば低回転数域内に存在する共振点付近で大きなトルク変動が伝達されて転動体の姿勢や挙動に乱れが生じた場合や、あるいは転動体に作用する遠心力が重力よりも小さくなり振子収容室内で転動体が重力方向に落下した場合であっても、振子収容室内で転動体が粘性流体の粘性抵抗を受けることにより、転動体が振子収容室の内壁に衝突する際の衝撃が緩和される。したがって、振子収容室内での転動体の落下や姿勢もしくは挙動の乱れによる異音や衝撃音の発生を防止もしくは抑制することができる。
【0028】
また、請求項2の発明によれば、振子収容室と流体収容室との間に連通路が設けられることにより、それら振子収容室と流体収容室との間で相互に粘性流体を流通させることができる。そして、振子収容室と流体収容室との間に通気路が設けられることにより、例えば空気や窒素ガスなどの振子収容室内および流体収容室内に粘性流体と共に封入されている気体を、それら振子収容室と流体収容室との間で相互に流通させることができる。そのため、振子収容室と流体収容室との間で粘性流体が移動する際に、振子収容室内および流体収容室内の気体も振子収容室と流体収容室との間で容易に流通することができるので、振子収容室と流体収容室との間における粘性流体の流通が気体によって妨げられることがなく、それら振子収容室と流体収容室との間で粘性流体を容易に流通させることができる。
【0029】
また、請求項3の発明によれば、流体収容室内に付勢部材が設けられることにより、流体収容室内に流入した粘性流体が振子収容室側へ向けて付勢される。そのため、流体収容室内に流入した粘性流体を、容易に振子収容室へ還流させることができる。
【0030】
また、請求項4の発明によれば、流体収容室の内壁がシリンダとして形成され、そのシリンダ内で振子収容室側に押圧されるピストンが設けられる。そのため、流体収容室内に流入した粘性流体を、効率良く振子収容室へ還流させることができる。
【0031】
また、請求項5の発明によれば、流路開閉機構が設けられることにより、例えば、回転体の回転数が相対的に回転数が高い常用域に入ることにより、振子収容室と流体収容室との間の流路を開通させて、振子収容室内の粘性流体の流体収容室への移動を可能にし、その後、回転体の回転数がさらに上昇し、すなわち粘性流体に作用する遠心力がさらに増大し、振子収容室内の粘性流体が十分に流体収容室へ移動した状態で、振子収容室と流体収容室との間の流路を閉止させることができる。そのため、常用域で振子収容室内の粘性流体が十分に流体収容室へ移動して、振子収容室内の転動体が粘性流体の粘性抵抗を受けることなくダイナミックダンパの遠心振子として機能する場合に、流体収容室内の粘性流体が振子収容室へ逆流することがないので、遠心振子式のダイナミックダンパとしての振動低減効果を確実に得ることができる。
【0032】
また、請求項6の発明によれば、貫通穴が形成された遮蔽板を付勢部材と連動させて、例えば振子収容室と流体収容室との間の流路の流通方向に対して直交する方向に遮蔽板をスライドさせることにより、流路を開閉させることができる。したがって、付勢部材と連動する遮蔽板により容易に流路開閉機構を構成することができる。
【0033】
また、請求項7の発明によれば、振子収容室と流体収容室との間および振子収容室ならびに流体収容室に、それぞれ第1連通孔および第2連通孔ならびに第3連通孔が設けられることにより、振子収容室内および振子収容室と流体収容室との間ならびに流体収容室内において、粘性流体と気体とが確実に層別される。すなわち、気体層に粘性流体が混入することが防止される。そのため、振子収容室内および振子収容室と流体収容室との間ならびに流体収容室内において、粘性流体をスムーズに流通させることができる。
【0034】
そして、請求項8の発明によれば、第1連通孔と第2連通孔と第3連通孔とが、一直線上に直列する位置に配置される。そのため、それら3つの連通孔を、例えば1回のドリル加工で容易に成形することができ、ダイナミックダンパの生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明に係るダイナミックダンパの基本構成および従来技術による構成例を説明するための模式図である。
【図2】この発明に係るダイナミックダンパの第1実施例における構成を説明するための模式図である。
【図3】図2に示す構成例における装置各部の作動状態および粘性流体の変動状態を説明するための模式図である。
【図4】この発明に係るダイナミックダンパの第1実施例における他の構成例を説明するための模式図である。
【図5】この発明に係るダイナミックダンパの第1実施例における他の構成例を説明するための模式図である。
【図6】この発明に係るダイナミックダンパの第1実施例における他の構成例を説明するための模式図である。
【図7】この発明に係るダイナミックダンパの第2実施例における構成を説明するための模式図である。
【図8】図7に示す構成例における装置各部の作動状態および粘性流体の変動状態を説明するための模式図である。
【図9】この発明に係るダイナミックダンパの第3実施例における構成を説明するための模式図である。
【図10】車両の駆動系統の振動伝達特性を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。この発明で対象としているダイナミックダンパDの基本的な構成は、前述の図1で示したダイナミックダンパD’の基本構成とほぼ同様である。すなわち、ダイナミックダンパDは、例えば車両のエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなどの制振対象となる回転部材に、一体回転するように取り付けられる回転体1と、その回転体の内部に形成された振子収容室2と、その振子収容室2に収容されかつ転動もしくは揺動可能に保持された複数の転動体(振子)3とを主要な構成要素として構成されている。
【0037】
(第1実施例)
具体的には、この発明の第1実施例として図2に示すように、回転体1の内部に転動体3を収容する振子収容室2が形成されていて、さらに、その回転体1の内部でかつ振子収容室2の回転体1の回転半径方向(図2では上下方向)における外周側(図2では上側)に、オイル収容室(流体収容室)4が形成されている。
【0038】
オイル収容室4の内部には、そのオイル収容室4の内壁をシリンダとしてそのシリンダ内を回転体1の回転半径方向に往復動するピストン5が挿入されている。そしてピストン5は、その回転体1の回転半径方向における外周側の端面5aに、弾性体6の弾性力が作用して回転体1の回転半径方向における内周側すなわち振子収容室2側へ押圧されるように構成されている。
【0039】
弾性体6は、圧縮力に対抗して弾性力を発生する部材であり、例えば圧縮コイルばねやゴムなど用いることができる。図2に示す具体例では、複数のばね6が設けられている。したがって、ピストン5に対してばね6の弾性力に対抗する力が何も作用しない状態では、ピストン5は、ばね6の弾性力により回転体1の回転半径方向における内周側に押圧されて、オイル収容室4の回転体1の回転半径方向における内周側の底面4aに当接させられている。なお、ばね6はピストン5の端面5aに対して均等に弾性力による押圧力を作用させるのが好ましく、端面5aに対して押圧力が均等に作用するものであれば、大径のばね6が1つ設けられた構成であってもよく、小径のばね6が、図2に示すように複数個(2個以上も含む)設けられた構成であってもよい。
【0040】
振子収容室2とオイル収容室4との間に、連通路7が形成されている。具体的には、この連通路7は、振子収容室2の回転体1の回転半径方向における最外周部分2oとオイル収容室4の回転体1の回転半径方向における最内周部分4iとの間を貫通させた貫通孔により構成されている。さらに、振子収容室2とオイル収容室4との間に、通気路8が形成されている。具体的には、この通気路8は、振子収容室2の回転体1の回転半径方向における最内周部分2iとオイル収容室4の回転体1の回転半径方向における最外周部分4oとの間を連通させた流路もしくは管路などにより構成されている。
【0041】
そして、振子収容室2内には、オイル9が充填されている。このオイル9は、その粘性により、振子収容室2内において転動体3が移動する際の移動速度を抑制し、振子収容室2内における転動体3と振子収容室2の内壁との衝突時の衝撃を緩和させるためのものである。したがって、このオイル9には、適度な流動性と粘性を備えた粘性流体が選定されている。
【0042】
図2はダイナミックダンパDが回転していない状態を示しており、その状態において、オイル9は、振子収容室2内の転動体3の体積分を除いた残りの空間および連通路7内に、ほぼ充満させられている。そして、オイル収容室4内のピストン5やばね6の体積分を除いた残りの空間、および通気路8内には、例えば空気や窒素ガスなどの気体10が充填されている。
【0043】
このように、オイル9が充填されている振子収容室2に対して連通路7を介して連通しているオイル収容室4内に、上記のようにピストン5とばね6とが設けられていることにより、オイル9が遠心力の作用を受けてばね6の押圧力に対向してオイル収容室4内に流入した場合に、オイル収容室4内に流入したオイル9に作用する遠心力に対向して、そのオイル9を振子収容室2側に付勢して押圧し、オイル9を振子収容室2へ還流させることができる。すなわち、オイル収容室4内においてピストン5を介して互いに対向する遠心力とばね6による押圧力との力のつり合いに基づき、ばね6による押圧力よりも遠心力が小さくなると、オイル収容室4内のオイル9がピストン5に押圧されて振子収容室2へ還流させられる。したがって、ピストン5とばね6とによって、この発明における付勢部材が構成されている。
【0044】
上記のように構成されたこの発明の第1実施例におけるダイナミックダンパDの作用について説明する。前述の図2に示すようなダイナミックダンパDが停止している状態から、制振対象の回転部材が回転し始めて、それと一体にダイナミックダンパDが回転し始めてその回転数が上昇すると、振子収容室2内の転動体3およびオイル9には、ダイナミックダンパDの回転数に応じた遠心力が作用する。すなわち、ダイナミックダンパDの回転数が上昇するほど大きな遠心力が、振子収容室2内の転動体3およびオイル9に作用する。
【0045】
したがって、ダイナミックダンパDの回転数が次第に上昇すると、振子収容室2内の転動体3およびオイル9に作用する遠心力も次第に大きくなり、転動体3は、その転動体3に作用する遠心力が転動体3に作用する重力よりも大きくなることによって、振子収容室2内における最外周部分2o側に移動する。一方、オイル9は、連通路7を介してオイル収容室4内のピストン5に作用する遠心力がそのピストン5を振子収容室2側に押圧するばね6の弾性力よりも大きくなることにより、ピストン5をオイル収容室4の最外周部分4o側に押し上げて、オイル収容室4内に流入する。
【0046】
なお、オイル9が連通路7を通って振子収容室2とオイル収容室4との間を流動する際には、それら振子収容室2とオイル収容室4との間には、前述したように、通気路8が設けられているので、振子収容室2内およびオイル収容室4内にオイル9と共に封入されている気体10を、それら振子収容室2とオイル収容室4との間で相互に流通させることができる。そのため、振子収容室2とオイル収容室4との間でオイル9が移動する際に、そのオイル9の移動に追従して、振子収容室2内およびオイル収容室4内の気体10もそれら振子収容室2とオイル収容室4との間で容易に流通することができるので、振子収容室2とオイル収容室4との間におけるオイル9の流通が気体10によって妨げられることが回避され、それら振子収容室2とオイル収容室4との間でオイルを容易に流通させることができる。
【0047】
回転部材すなわちダイナミックダンパDの回転数が相対的に低い低回転数域、すなわち、例えば制振対象の回転部材が回転を開始した直後、あるいは回転を停止する直前などの回転領域では、ダイナミックダンパDは、図3の(a)に示すように、転動体3が振子収容室2内の最外周部分2o側に移動するとともに、オイル9の一部が振子収容室2からオイル収容室4へ流入した状態になる。この状態では、振子収容室2内の転動体3の周囲には未だオイル9が介在しているため、振子収容室2内における転動体3の移動がオイル9の粘性抵抗により制限される。したがって、例えば制振対象の回転部材側からダイナミックダンパDへ急激なトルク変動や大きな捻り振動などが伝達された場合であっても、振子収容室2内で転動体3が振子収容室2の内壁に対して急激に衝突することが回避される。そのため、転動体3が振子収容室2の内壁に急激に衝突することによる異音や衝撃音の発生が防止もしくは抑制される。
【0048】
制振対象の回転部材すなわちダイナミックダンパDの回転数がさらに上昇して回転部材が通常的に回転させられている相対的に回転数が高い常用域になると、振子収容室2内の転動体3およびオイル9に作用する遠心力もさらに大きくなり、図3の(b)に示すように、転動体3が振子収容室2内の最外周部分2o側に移動したまま、ほぼ全てのオイル9が振子収容室2からオイル収容室4へ流入した状態になる。この状態では、振子収容室2内の転動体3の周囲にはオイル9はほぼ介在していないため、振子収容室2内における転動体3の移動がオイル9の粘性抵抗により制限されることがない。したがって、振子収容室2内で転動体3は転動もしくは揺動が自在な状態になり、制振対象の回転部材側からダイナミックダンパDにトルク変動やそのトルク変動に起因する捻り振動が伝達された場合に、そのトルク変動や捻り振動に対応して、トルク変動や捻り振動を低減もしくは減衰させる方向に転動体3が自由に移動することができる。そのため、転動体3が振動低減のための遠心振子として機能する遠心振子式のダイナミックダンパDの振動低減効果を確実に得ることができる。
【0049】
なお、上記の図2,図3に示したこの発明の第1実施例の他の構成例を、図4,図5,図6に示す。上記の図2,図3では、この発明における付勢部材がピストン5とばね6とによって構成された例を示しているが、この発明における付勢部材は、要は、オイル収容室4内に流入したオイル9に作用する遠心力に対向して、そのオイル9を振子収容室2側に付勢し、オイル9を振子収容室2へ還流させることができるものであればよく、上記の図2,図3で示す具体例に限定されるものではない。
【0050】
例えば、図4に示す構成は、前述のばね6に替えて、例えば蛇腹状に形成したゴム11と、ピストン5とによって、この発明における付勢部材を構成した例である。このゴム11の硬度や形状を適宜に設定して、ゴム11に前述のばね6と同等の所定の弾性力を持たせることにより、前述のピストン5とばね6とから構成される付勢部材と同様に機能させることができる。
【0051】
また、図5に示す構成は、前述のピストン5およびばね6に替えて、板ばね12と調整用錘13とによって、この発明における付勢部材を構成した例である。すなわち、無負荷時に平板状で所定のばね定数を有し、かつオイル収容室4内の回転体1の回転半径方向における外周側への可撓性を有する板ばね12が、その中央部に連通路7の開口部が位置するようにしてオイル収容室4の底面4a上に配置され、かつその板ばね12の両端部がオイル収容室4内に固定されている。
【0052】
そしてこの板ばね12のばね定数や重量、もしくはこの板ばね12の回転体1の回転半径方向における外周側の外周面12a上に取り付けて固定される調整用錘13の重量などを適宜に設定して、ゴム11に前述のばね6と同等の所定の弾性力を持たせることによって、前述のピストン5とばね6とから構成される付勢部材と同様に機能させることができる。
【0053】
また、図6に示す構成は、前述のピストン5およびばね6に替えて、ばね付きヒンジ14によって、この発明における付勢部材を構成した例である。すなわち、前述のピストン5に相当するばね付きヒンジ14の板部14aに、その板部14aのいずれか一方の端部を基点としてオイル収容室4内の回転体1の回転半径方向における外周側へ回転するように、例えば捻りコイルばね14bが取り付けられて、ばね付きヒンジ14が形成されている。そして板部14aが、その中央部に連通路7の開口部が位置するようにしてオイル収容室4の底面4a上に配置されている。
【0054】
そして、このばね付きヒンジ14の板部14aの重量や、捻りコイルばね14bのばね定数などを適宜に設定して、前述のばね6と同等の所定の弾性力、もしくはばね6の弾性力に相当する所定の弾性力を持たせることにより、前述のピストン5とばね6とから構成される付勢部材と同様に機能させることができる。
【0055】
以上のように、この発明の第1実施例におけるダイナミックダンパDによれば、遠心振子式の振動吸収装置における振子として機能する転動体3が、回転体1の内部に形成された振子収容室2に収容され、そしてその振子収容室2内には、所定の流動性と粘性とを有するオイル9が充填される。したがって、制振対象の回転部材と一体にダイナミックダンパDが回転し、その回転数が上昇することにより振子収容室2内の粘性流体9に作用する遠心力が大きくなると、振子収容室2内のオイル9が振子収容室4の外周側に形成されたオイル収容室4に移動する。すなわち、ダイナミックダンパDの回転数が相対的に低くオイル9に作用する遠心力が相対的に小さい場合は、振子収容室2内のオイル9はその振子収容室2内に留まっているが、ダイナミックダンパDの回転数が相対的に高くなってオイル9に作用する遠心力が相対的に大きくなると、振子収容室2内のオイル9は遠心力の影響を受けて外周側のオイル収容室4に移動する。
【0056】
したがって、相対的に回転数が高い常用域では、遠心力の作用により、オイル9が振子収容室2からオイル収容室4へ移動するとともに、転動体3は振子収容室2内の最外周部分2oへ移動し、オイル9の粘性抵抗を受けることなく遠心振子として機能する。そのため、遠心振子式のダイナミックダンパDとしての振動低減効果を確実に得ることができる。
【0057】
そして、常用域よりも相対的に回転数が低い低回転数域では、オイル9は振子収容室2内に滞留しているので、例えば、低回転数域内に存在するエンジンの共振点付近で大きなトルク変動が伝達されて転動体3の姿勢や挙動に乱れが生じた場合や、あるいは転動体3に作用する遠心力が重力よりも小さくなり振子収容室2内で転動体3が重力方向に落下した場合などに、振子収容室2内で転動体3がオイル9の粘性抵抗を受けることにより、転動体3が振子収容室2の内壁に衝突する際の衝撃が緩和される。したがって、振子収容室2内での転動体3の落下や姿勢もしくは挙動の乱れによる異音や衝撃音の発生を確実に防止もしくは抑制することができる。
【0058】
なお、オイル収容室4内には、例えば、ピストン5とばね6とから構成される付勢部材や、あるいは、図4,図5,図6に示したような、ピストン5とゴム11とから、あるいは板ばね12と調整用錘13とから、あるいはばね付きヒンジ14から構成される付勢部材が設けられているので、オイル収容室4内に流入したオイル9は常に振子収容室2側へ向けて付勢される。そのため、オイル9に作用する遠心力が低下して付勢部材による押圧力よりも小さくなった場合に、オイル収容室4内に流入したオイル9を容易に振子収容室2へ還流させることができる。
【0059】
(第2実施例)
図7は、この発明のダイナミックダンパDの第2実施例における構成例を示している。この図7に示す例は、振子収容室2とオイル収容室4との間でオイル9が流通する流路に流路開閉機構21を設けた構成の一例である。その流路開閉機構21以外の各部の構成は、基本的に前述の第1実施例で図1,図2などの前出の図面に示したものと同じである。したがって、以降の説明においては、前出の図面で説明したものと構成が同じものについては、その前出の図面と同じ参照符号を付けて詳細な説明は省略する。なお、通気路8の記載は省略してある。
【0060】
図7において、振子収容室2とオイル収容室4との間でオイルが流通する流路すなわち連通路7に、その連通路7の開閉状態を制御する流路開閉機構21が設けられている。具体的には、流路開閉機構21は、オイル収容室4内におけるピストン5の往復動と連動して、連通路7を開通・閉止させる遮蔽板21aと、その遮蔽板21aに形成された貫通穴21bとから構成されている。
【0061】
遮蔽板21aは、例えば、図示しないリンク機構やワイヤ伝動機構などにより、ピストン5がオイル収容室4内でその内外周方向(図7での上下方向)に往復動する際の動作に連動して、連通路7の連通方向(図7での上下方向)に直交する方向(図7での左右方向)に往復動(スライド)させるように構成されている。そしてその遮蔽板21aの平板部分の一部に、連通路7を開通させる際に連通路7の開口部分と一致させられる貫通穴21bが形成されている。
【0062】
そして、ばね6の弾性力や、ピストン5の動作と連動させて遮蔽板21aをスライドさせるリンク機構などを適宜に設定することにより、ダイナミックダンパDが回転してオイル9に遠心力が作用する際に、その遠心力が、閾値として予め設定した第1所定値α以上になった場合に、遮蔽板21aの貫通穴21bと連通路7の開口部分とが一致するように、すなわち連通路7を開通させて振子収容室2とオイル収容室4との間でオイル9の流通が可能なように、遮蔽板21aが動作させられる。そして、オイル9に作用する遠心力が、閾値として予め設定した第2所定値β以上になった場合に、遮蔽板21aの貫通穴21bと連通路7の開口部分との位置がずらされ、すなわち連通路7を閉止させて振子収容室2とオイル収容室4との間でオイル9の流通が遮断されるように、遮蔽板21aが動作させられる。
【0063】
上記の第1所定値αと第2所定値βは、互いに「第1所定値α<第2所定値β」の関係を満たす値であって、例えば、第1所定値αは、振子収容室2内における転動体3に作用する遠心力が重力よりも大きくなる近傍の値に設定されている。そして、第2所定値βは、ほぼ全てのオイル9が振子収容室2からオイル収容室4へ流入する際にそのオイル9に作用する遠心力近傍の値に設定されている。
【0064】
したがって、上記の遮蔽板21aと、貫通穴21bと、図示しないリンク機構などとにより、オイル9に作用する遠心力が予め設定した第1所定値α以上になった場合に振子収容室2とオイル収容室4との間でオイル9が流通する連通路7を開通させ、遠心力が第1所定値αよりも大きな第2所定値β以上になった場合に連通路7を閉止させるこの発明における流路開閉機構が構成されている。
【0065】
上記のように構成されたこの発明の第2実施例におけるダイナミックダンパDの作用について説明する。前述の図7に示すように、ダイナミックダンパDが停止している状態では、振子収容室2とオイル収容室4との間の連通路7は、流路開閉機構21により閉止されている。すなわち、振子収容室2とオイル収容室4との間が、流路開閉機構21により遮断され、オイル9は振子収容室2内に封止されている。
【0066】
そのダイナミックダンパDが停止している状態から、制振対象の回転部材が回転し始めて、それと一体にダイナミックダンパDが回転し始めてその回転数が上昇すると、振子収容室2内の転動体3およびオイル9には、ダイナミックダンパDの回転数に応じた遠心力が作用する。ダイナミックダンパDの回転数が次第に上昇すると、振子収容室2内の転動体3およびオイル9に作用する遠心力も次第に大きくなり、転動体3は、その転動体3に作用する遠心力が転動体3に作用する重力よりも大きくなることによって、振子収容室2内における最外周部分2o側に移動する。
【0067】
そして、オイル9に作用する遠心力が第1所定値α以上になると、図8の(a)に示すように、流路開閉機構21により連通路7が開通させられて、オイル9は、連通路7を介してオイル収容室4内のピストン5に作用する遠心力がそのピストン5を振子収容室2側に押圧するばね6の弾性力よりも大きくなることにより、ピストン5をオイル収容室4の最外周部分4o側に押し上げて、その一部がオイル収容室4内に流入する。
【0068】
この状態では、前述したように、振子収容室2内の転動体3の周囲には未だオイル9が介在しているため、振子収容室2内における転動体3の移動がオイル9の粘性抵抗により制限される。したがって、例えば制振対象の回転部材側からダイナミックダンパDへ急激なトルク変動や大きな捻り振動などが伝達された場合であっても、振子収容室2内で転動体3が振子収容室2の内壁に対して急激に衝突することが回避される。そのため、転動体3が振子収容室2の内壁に急激に衝突することによる異音や衝撃音の発生が防止もしくは抑制される。
【0069】
さらに、オイル9に作用する遠心力が増大し、第2所定値β以上になると、図8の(b)に示すように、流路開閉機構21により連通路7が閉止させられる。すなわち、ダイナミックダンパDの回転数がさらに上昇して回転部材が通常的に回転させられている相対的に回転数が高い常用域になると、振子収容室2内の転動体3およびオイル9に作用する遠心力もさらに大きくなり、転動体3が振子収容室2内の最外周部分2o側に移動したまま、ほぼ全てのオイル9が振子収容室2からオイル収容室4へ流入した状態になる。そしてその状態を維持させるために、流路開閉機構21により連通路7が閉止させられる。
【0070】
この状態では、前述したように、振子収容室2内の転動体3の周囲にはオイル9はほぼ介在していないため、振子収容室2内における転動体3の移動がオイル9の粘性抵抗により制限されることがない。したがって、この常用域の状態で流路開閉機構21により連通路7が閉止されて、オイル9の流通を遮断することにより、オイル収容室4から振子収容室2へのオイル9の逆流を防止することができる。そのため、転動体3が振動低減のための遠心振子として機能する遠心振子式のダイナミックダンパDの振動低減効果をより一層確実に得ることができる。
【0071】
以上のように、この発明の第2実施例におけるダイナミックダンパDによれば、振子収容室2とオイル収容室4との間の連通路7に流路開閉機構21が設けられることにより、例えば、ダイナミックダンパDの回転数が相対的に回転数が高い常用域に入ることにより、振子収容室2とオイル収容室4との間の連通路7を開通させて、振子収容室2内のオイル9のオイル収容室4への移動を可能にし、その後、ダイナミックダンパDの回転数がさらに上昇し、すなわちオイル9に作用する遠心力がさらに増大し、振子収容室2内のオイル9が十分にオイル収容室4へ移動した状態で、振子収容室2とオイル収容室4との間の連通路7を閉止させることができる。そのため、常用域で振子収容室2内のオイル9が十分にオイル収容室4へ移動して、振子収容室2内の転動体3がオイル9の粘性抵抗を受けることなくダイナミックダンパDの遠心振子として機能する場合に、オイル収容室4内のオイル9が振子収容室2へ逆流することがないので、遠心振子式のダイナミックダンパDとしての振動低減効果を確実に得ることができる。
【0072】
(第3実施例)
図9は、この発明のダイナミックダンパDの第3実施例における構成例を示している。この図9に示す例は、振子収容室2とオイル収容室4との間でオイル9および気体10の流通を可能にする流路すなわち連通路7に加えて、振子収容室2と外部との間で気体10の流通を可能にする流路31と、オイル収容室4と外部との間で気体10の流通を可能にする流路32とを設けた構成の一例である。それら新に設けた各流路31,32以外の各部の構成は、基本的に前述の第1実施例で図1,図2などの前出の図面に示したものと同じである。したがって、以降の説明において前出の図面で説明したものと構成が同じものについては、その前出の図面と同じ参照符号を付けて詳細な説明は省略する。
【0073】
図9の(a)において、振子収容室2と外部との間で気体10が流通する流路31が設けられている。この流路31は、振子収容室2内と外部空間とを連通するものであり、それら振子収容室2と外部との間を連通させた流路もしくは管路などにより構成されている。この図9の(a)に示す具体例では、回転体1が、回転体1の中心部であってその回転体1における振子収容室2の内周側が刳り抜かれた中空形状に形成されていて、その中空部分から回転体1の回転半径方向に貫通させた連通孔31によりこの流路31が形成されている。
【0074】
また、流路31すなわち連通孔31の途中には、逆止弁33が設けられている。逆止弁31は、図9の(b)に示すように、スプリング33sと、そのスプリング33sの弾性力により弁座33aに押し付けられたチェックボール33bとから構成されたいわゆるチェックバルブであり、弁座33aが形成されている側(図9の(a)の下側)の吸入口33iが外部に連通させられ、一方の、スプリング33sが配置されている側(図9の(a)の上側)の吐出口33oが振子収容室2に連通させられている。したがって、この逆止弁33は、連通孔31において、外部空間から振子収容室2への気体10の流入を許容し、かつ振子収容室2内からオイル9の流出を制止する構成となっている。
【0075】
一方、オイル収容室4と外部との間で気体10が流通する流路32が設けられている。この流路32は、オイル収容室4内と外部空間とを連通するものであり、それらオイル収容室4と外部との間を連通させた流路もしくは管路などにより構成されている。この図9の(a)に示す具体例では、オイル収容室4の最外周部分4oから外部空間へ回転体1の回転半径方向に貫通させた連通孔32によりこの流路32が形成されている。
【0076】
このように、振子収容室2とオイル収容室4との間に形成されてそれら振子収容室2とオイル収容室4との間におけるオイル9および気体10の流通を可能にする連通路7が、この発明における第1連通孔に相当し、回転体1の回転半径方向における振子収容室2の内周側に形成されて振子収容室2と外部との間における気体10の流通を可能にするとともに、振子収容室2への気体10の流入を許容しかつ振子収容室2からオイル9の流出を制止する逆止弁33が設けられた連通孔31が、この発明における第2連通孔に相当し、そして、回転体1の回転半径方向におけるオイル収容室4の外周側に形成されてオイル収容室4と外部との間における気体10の流通を可能にする連通孔32が、この発明における第3連通孔に相当している。
【0077】
なお、上記の連通路7および連通孔31ならびに連通孔32は、それぞれ貫通穴として、回転体1において、回転体1の回転半径方向の同一直線上に直列に配置されている。そのため、それら3つの連通孔7,31,32を、例えば1回のドリル加工で容易に成形することができ、このダイナミックダンパDの生産性を向上させることができる構成となっている。
【0078】
以上のように、この発明の第3実施例におけるダイナミックダンパDによれば、振子収容室2とオイル収容室4との間、および振子収容室2、ならびにオイル収容室4に、それぞれ第1連通孔7および第2連通孔31ならびに第3連通孔32が設けられることにより、振子収容室2内、および振子収容室2とオイル収容室4との間、ならびにオイル収容室4内において、オイル9と気体10とが確実に層別される。すなわち、気体10の層にオイル9が混入することが防止される。そのため、振子収容室2内、および振子収容室2とオイル収容室4との間、ならびにオイル収容室4内において、オイル9をスムーズに流通させることができる。
【符号の説明】
【0079】
1…回転体、 2…振子収容室、 3…転動体(振子)、 4…オイル収容室(流体収容室)、 5…ピストン、 6…ばね(弾性体)、 7…連通路(第1連通孔)、 8…通気路、 9…オイル(粘性流体)、 10…気体、 21…流路開閉機構、 21a…遮蔽板、 21b…貫通穴、 31…連通孔(第2連通孔)、 32…連通孔(第3連通孔)、 33…逆止弁、 D…ダイナミックダンパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に取り付けられる回転体の内部に形成された振子収容室に、所定の重量を有する転動体が転動もしくは揺動可能に収容されて保持されたダイナミックダンパにおいて、
前記振子収容室に充填されるとともに、所定の流動性および粘性を有する粘性流体と、
前記回転体の内部でかつ前記回転体の回転半径方向における前記振子収容室の外周側に形成されるとともに、前記振子収容室内の前記粘性流体に遠心力が作用した場合に前記振子収容室から前記粘性流体が流入する流体収容室と
を備えていることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記振子収容室と前記流体収容室との間に形成されてそれら前記振子収容室と前記流体収容室との間における前記粘性流体の流通を可能にする連通路と、
前記振子収容室と前記流体収容室との間に形成されてそれら前記振子収容室と前記流体収容室との間における気体の流通を可能にする通気路と
を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載のダイナミックダンパ。
【請求項3】
前記流体収容室内に流入した前記粘性流体に作用する遠心力に対向して前記粘性流体を前記振子収容室側に付勢し、前記粘性流体を前記振子収容室へ還流させる付勢部材を更に備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のダイナミックダンパ。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記流体収容室の内壁をシリンダとしてそのシリンダ内を前記回転半径方向に往復動するピストンと、弾性力により前記ピストンを前記回転半径方向における前記振子収容室側に押圧する弾性体とから構成される部材を含むことを特徴とする請求項3に記載のダイナミックダンパ。
【請求項5】
前記付勢部材に連動するとともに、前記遠心力が予め設定した第1所定値以上になった場合に前記振子収容室と前記流体収容室との間で前記粘性流体が流通する流路を開通させ、前記遠心力が予め設定した前記第1所定値よりも大きな第2所定値以上になった場合に前記流路を閉止させる流路開閉機構を更に備えていることを特徴とする請求項3または4に記載のダイナミックダンパ。
【請求項6】
前記流路開閉機構は、前記付勢部材と連動して前記流路を開閉させる貫通穴が形成された遮蔽板を含むことを特徴とする請求項5に記載のダイナミックダンパ。
【請求項7】
前記振子収容室と前記流体収容室との間に形成されてそれら前記振子収容室と前記流体収容室との間における前記粘性流体および気体の流通を可能にする第1連通孔と、
前記回転半径方向における前記振子収容室の内周側に形成されて前記振子収容室と外部との間における気体の流通を可能にするとともに、前記振子収容室への気体の流入を許容しかつ前記振子収容室から前記粘性流体の流出を制止する逆止弁が設けられた第2連通孔と、
前記回転半径方向における前記流体収容室の外周側に形成されて前記流体収容室と外部との間における気体の流通を可能にする第3連通孔と
を備えていることを特徴とする請求項1に記載のダイナミックダンパ。
【請求項8】
前記第1連通孔および前記第2連通孔ならびに前記第3連通孔は、前記回転半径方向の同一直線上に直列に配置されていることを特徴とする請求項7に記載のダイナミックダンパ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−99492(P2011−99492A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253823(P2009−253823)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)