説明

ダイホルダ

【課題】 ダイの交換時等に、工具を用いずに簡単な操作でダイを円滑に取り外すことができ、しかもダイを強固に固定することができるダイホルダを提供する。
【解決手段】ダイホルダ1は、上面にダイ保持凹部4を有するダイホルダ本体2と、このダイホルダ本体2の段差部8の上方においてダイ保持凹部4に嵌合したダイ70に対し接近した接近位置P1と離反した離反位置P2間で進退可能、かつ離反位置P2と下降位置P3間で昇降可能なカバー体15と、接近位置P1にあるカバー体15の離反位置P2側への移動を拘束する拘束機構30と、カバー体15の下側にカバー体15に対してダイ70に接近および離反する方向に進退可能に設けられ、ダイ70の外周面に当接してダイ保持凹部4の段差部8と反対側の内壁面7aに押し付けるクランパ16と、クランパ16をダイ70の側へ付勢するばね部材18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パンチプレス等に使用されるダイホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばタレットパンチプレスは、ダイ支持台としての下タレットにダイホルダが設置され、このダイホルダに下金型であるダイが支持されている。タレットパンチプレスの各ダイホルダには、孔の径、形状、パンチとのクリアランス等の種々異なるダイが取付けられるが、下タレットに設置できるダイの数には限りがあるため、加工しようとする製品に応じて、異なる種類のダイに交換するのが一般的である。
【0003】
下タレットの上方には上金型であるパンチの装着された上タレットがあり、上下のタレット間は上下幅の狭い空間となっている。そのため、上下のタレット間に手を差し入れてダイを交換するには技量が必要であった。これを補う工夫として、従来、ダイホルダの一部分を外して、ダイを交換するのに可能な空間を確保することや、ダイホルダの一部分または全体を下タレットから取出して、機外でダイを交換することが行われていた。特許文献1は、ダイホルダの全体を下タレットから取出すようにした例である。
他に、下タレットの外径を上タレットの外径よりも大きくして、ダイの上方に交換のための空間を確保した上で、ダイを下方から押し上げる装置を設置した事例がある。また、上タレットの一部に切欠きを設けることで、ダイを交換するための空間を確保した事例もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−290970号公報
【特許文献2】実公平7−18416号公報
【特許文献3】特開2000−24730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ダイホルダの一部分を外す手法、および機外でダイを交換する手法のいずれも、ダイホルダの一部分または全体を下タレットから脱着するのに工具を要したりし、脱着作業が面倒である。また、ダイ交換作業をする位置の近くに、工具や取出したダイホルダの一部分または全体を置くスペースを確保する必要がある。特に、機外でダイを交換する場合は、相応のスペースを確保しなければならない。
【0006】
そこで、本件出願人は、ダイの交換時等に工具を用いずに簡単な操作でダイを容易に取り外せるようにするために、下記構成のダイホルダを提案した(特願2010−15727)。このダイホルダは、上部の下タレットの外周側となる一部分を、ダイを嵌め込んで保持するダイ保持凹部を有するダイホルダ本体とは別体のクランプカバーとし、このクランプカバーをダイホルダ本体に対して、下タレットの径方向に進退可能、かつ径方向の外径端からさらに下方へ移動可能としたものである。この構成によると、使用時には、ダイ保持凹部に保持されたダイの外周面にクランプカバーを押し付けることでダイが固定され、ダイの交換時等には、クランプカバーを下タレットの外周側へスライドさせることでダイの固定が解除され、さらにクランプカバーを下方へ移動させることで、ダイ保持凹部からダイを取り外すための空間が確保される。
【0007】
一般的に、大きくて重量が重いダイは振動等で動くことは少ないが、小さくて軽量のダイは動き易いという傾向があり、小さなダイ用のダイホルダほど強い力でダイを固定する必要がある。上記提案のダイホルダは、単にクランプカバーの進退を拘束することでダイを固定するのであり、クランプカバーをダイに押し付ける力が特別に付与されていないため、ダイを固定する力があまり大きくない。そのため、ダイが重い場合には問題無いが、ダイが軽い場合にはダイが振動等で持ち上がるおそれがある。
【0008】
この発明の目的は、ダイの交換時等に、工具を用いずに簡単な操作でダイを円滑に取り外すことができ、しかもダイを強固に固定することができるダイホルダを提供することである。
この発明の他の目的は、円形のダイを強固に固定することである。
この発明のさらに他の目的は、ダイの固定と解除とを簡単な操作で確実に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のダイホルダは、ダイを支持するダイホルダであって、上面にダイが嵌合するダイ保持凹部を有し、このダイ保持凹部の円周方向の一部に続く部位は他よりも段差を持って低くなった段差部とされたダイホルダ本体と、前記段差部の上方において前記ダイ保持凹部に嵌合したダイに対し接近した接近位置と離反した離反位置間で進退可能、かつ前記離反位置と前記段差部よりも下方の下降位置間で昇降可能なカバー体と、前記接近位置にある前記カバー体の前記離反位置側への移動を拘束する拘束機構と、前記カバー体の下側にカバー体に対して前記ダイに接近および離反する方向に進退可能に設けられ、前記ダイの外周面に当接して前記ダイ保持凹部の前記段差部と反対側の内壁面に前記ダイを押し付けるクランパと、前記クランパを前記ダイの側へ付勢するばね部材とを備える。
【0010】
この構成のダイホルダは、カバー体が接近位置にあるとき、ばね部材によりダイの側へ付勢されたクランパが、ダイ保持凹部に嵌合したダイの外周面における段差部を向く面に当接して、ダイをダイ保持凹部の段差部と反対側の内壁面に押し付けて固定する。このとき、カバー体は進退拘束機構により離反位置側への移動が拘束されている。ばね部材によりクランパに積極的に力を付与しているため、ダイを強固に固定することができ、軽量のダイであっても振動等による浮き上がりを防止することができる。カバー体を離反位置に移動させると、クランパによるダイへの押付けがなくなるため、ダイの固定が解除される。さらに、カバー体を離反位置から下降位置へ下降させると、ダイ保持凹部からダイを取り出すための空間が形成される。そのため、ダイを容易に取り出すことができる。
【0011】
この発明において、前記ダイが円形である場合、前記クランパは、前記ダイに対向する側を二股に分岐した一対の分岐部とし、これら一対の分岐部のそれぞれに、前記ダイの外周面に当接する部位である接触面を前記ダイに接近および離反する方向に対して傾斜させて設けるとよい。
一対の分岐部にそれぞれ設けた接触面をダイの外周面に当接させると、ダイをダイ保持凹部の段差部と反対側の内壁面にバランス良く押付けることができる。また、クランパのダイへの接触面が、ダイに接近および離反する方向に対して傾斜していると、クランパがダイをダイ保持凹部の段差部と反対側の内壁面に押し付けて固定するときに、くさび効果によりダイの固定力を増大させることができる。
【0012】
この発明において、前記拘束機構は、前記ダイホルダ本体に設けられた被係止部材に対し前記カバー体に設けられた係止部材が係止することにより前記カバー体の移動を拘束するものであり、前記係止部材を前記被係止部材に係止する側へ付勢する付勢手段と、この付勢手段の付勢力に抗して前記係止部材の前記被係止部材への係止を解除する解除操作具とを設けてもよい。
この構成によると、カバー体が接近位置にあるとき、付勢手段により係止部材が被係止部材に係止する側へ付勢することで、カバー体を接近位置に位置拘束させる。解除操作具を操作すると、係止部材の被係止部材への係止を解除され、カバー体が移動可能となる。解除操作具を操作しない状態で、カバー体を接近位置に位置させると、付勢手段の作用で係止部材が被係止部材に係止され、カバー体の移動が拘束される。
【発明の効果】
【0013】
この発明のダイホルダは、ダイを支持するダイホルダであって、上面にダイが嵌合するダイ保持凹部を有し、このダイ保持凹部の円周方向の一部に続く部位は他よりも段差を持って低くなった段差部とされたダイホルダ本体と、前記段差部の上方において前記ダイ保持凹部に嵌合したダイに対し接近した接近位置と離反した離反位置間で進退可能、かつ前記離反位置と前記段差部よりも下方の下降位置間で昇降可能なカバー体と、前記接近位置にある前記カバー体の前記離反位置側への移動を拘束する拘束機構と、前記カバー体の下側にカバー体に対して前記ダイに接近および離反する方向に進退可能に設けられ、前記ダイの外周面に当接して前記ダイ保持凹部の前記段差部と反対側の内壁面に前記ダイを押し付けるクランパと、前記クランパを前記ダイの側へ付勢するばね部材とを備えるため、ダイの交換時等に、工具を用いずに簡単な操作でダイを円滑に取り外すことができ、しかもダイを強固に固定することができる。
【0014】
前記ダイは円形であり、前記クランパは、前記ダイに対向する側が二股に分岐した一対の分岐部となっており、これら一対の分岐部のそれぞれに、前記ダイの外周面に当接する部位である接触面を前記ダイに接近および離反する方向に対して傾斜させて設けた場合は、円形のダイを強固に固定することができる。
【0015】
前記拘束機構は、前記ダイホルダ本体に設けられた被係止部材に対し前記カバー体に設けられた係止部材が係止することにより前記カバー体の移動を拘束するものであり、前記係止部材を前記被係止部材に係止する側へ付勢する付勢手段と、この付勢手段の付勢力に抗して前記係止部材の前記被係止部材への係止を解除する解除操作具とを設けた場合は、ダイの固定と解除とを簡単な操作で確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態にかかるダイホルダの斜視図である。
【図2】同ダイホルダの平面図である。
【図3】(A)〜(C)は同ダイホルダのそれぞれ異なる状態を示す側面図である。
【図4】同ダイホルダの破断側面図である。
【図5】同ダイホルダの部分平面図である。
【図6】同ダイホルダの部分斜視図である。
【図7】(A)〜(D)は同ダイホルダのそれぞれ異なる状態を示す一部の側面図である。
【図8】(A)同ダイホルダの一部を示す破断平面図、(B)はその破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。図1はこの実施形態の斜視図、図2はその平面図、図3(A)〜(C)はそのそれぞれ異なる状態を示す側面図、図4はその破断側面図である。このダイホルダ1は、タレットパンチプレスの円形の下タレット等からなるダイ支持台60の外周部分に取付けられて、ダイ支持台60に対してダイ70を支持するものである。ダイホルダ1の平面形状は、例えば上記下タレットからなるダイ支持台60の外径側ほど幅の広い略扇形であり、上面のほぼ中央部に上端が上面よりも突出した状態でダイ70が支持される。図例のダイ70は、平面形状が円形で、その中央に平面形状が例えば図1の場合は正方形の打抜き用孔71を有する。図2は、ダイ70が支持されていない状態を示している。以下の説明では、ダイ支持台60の外径側を正面側として、ダイ支持台60の径方向を前後方向、円周方向を左右方向とする。
【0018】
ダイホルダ1は、ダイホルダ1の大半部分を占めるダイホルダ本体2と、ダイホルダ1の上部の前半分を占めるクランプカバー3とを備える。ダイホルダ本体2の前半分は、後半分に対し上面が段差を持って低くなった段差部8(図3)となっている。段差部8の高さは一律ではない。ダイ70を支持する状態では、ダイホルダ1の上面の高さは一定で、この上面が、板材を載せて案内する案内面Fとして機能する。案内面Fは、ダイホルダ本体2の上面F1と、クランプカバー3の上面F2とで構成される。
【0019】
ダイホルダ本体2は、上面のほぼ中央に、ダイ70が嵌合する平面形状円形のダイ保持凹部4が設けられている。図2はダイ70を支持していない状態を示している。図4に示すように、ダイ保持凹部4の底面に続いて、ダイ保持凹部4よりも小径のスラグ排出孔5が下方に延びている。スラグ排出孔5は、ダイ支持台60に設けられたスラグ落下孔61に連通する。ダイ保持凹部4の環状をした底面は、ダイ70の下面を着座させる着座面6になっている。また、ダイ保持凹部4の内壁面7のうち前記段差部8の反対側である後側の半周にあたる部分は、ダイ70の外周面のうちの一部である押当て面70aが押し当てられる被押当て面7aである。ダイ保持凹部4の内壁面7のうち前側の半周にあたる部分7bは、被押当て面7aよりも壁面の高さが低く形成されている。この壁面の低い部分7bの上端の高さは、段差部8の最も高い部分の高さである。
【0020】
ダイ保持凹部4の前方および後方には、上端をダイホルダ1の上面F1,F2よりも若干突出させた状態で、搬送ボール10,11がそれぞれ設けられている。各搬送ボール10,11は、ベアリングケース12,13にそれぞれ回転自在に支持されている。前方の搬送ボール10のベアリングケース12は、クランプカバー3に取付けられている。後方の搬送ボール11のベアリングケース13は、ダイホルダ本体2に埋め込み状態で設けられている。
【0021】
図5の部分平面図および図6の部分斜視図に示すように、クランプカバー3は、前記上面F2を有するカバー体15と、このカバー体15の下側に配置されたクランパ16とでなる。クランパ16は、ダイ保持凹部4に保持されたダイ70を固定するための部材であって、カバー体15に設けられたガイド17に沿って、前後方向すなわちダイ70に対して接近および離反する方向に進退可能に設けられ、左右一対のばね部材18によりダイ70の側に付勢されている。クランパ16は、後部すなわちダイ70に対向する側が一対の分岐部16aに二股に分岐しており、これら一対の分岐部16aのそれぞれに、ダイ70の外周面に当接する接触面19が形成されている。各接触面19は、ダイ70に接近および離反する方向に対して傾斜した平面である。接触面19の左右方向の鉛直面に対する角度θは、例えば15〜17°とされている。
【0022】
クランパ16は中央部に長方形の開口16bを有し、この開口16b内に、カバー体15のベアリングケース保持部15aが配置されている。ベアリングケース保持部15aは、前記ベアリングケース12を保持する部分であり、周辺部分よりも下方に突出している。前記ガイド17は、このベアリングケース保持部15aの左右両側面に設けられている。また、前記ばね部材18は、クランパ16に固定の前方に開口した筒状容器18a内に収容され、前端がカバー体15の前端垂下部15bに当接し、後端が筒状容器18の後端壁に当接している。
【0023】
図3に示すように、カバー体15は、進退・昇降案内機構20の案内により、前記段差部8の上方においてダイ保持凹部4に嵌合したダイ70に対し接近した接近位置P1(同図(A))と離反した離反位置P2(同図(B))間で進退可能、かつ離反位置P2とこの離反位置P2よりも下方の下降位置P3(同図(C))間で昇降可能である。なお、図3および図7では、接近位置P1、離反位置P2、および下降位置P3をカバー体15の前端左右中央の位置で示しているが、各位置P1,P2,P3はカバー体15の全体の位置を指す。
【0024】
進退・昇降案内機構20は、図7に示すように、ダイホルダ本体2の前半分の部分の両側面にそれぞれ前後に並んで形成された例えば各2本の案内溝21と、カバー体15に設けられ前記例えば各2本の案内溝21に沿ってそれぞれ摺動自在な例えば各2個の案内ピン22とで構成される。ダイホルダ本体2の案内溝21が形成された側面部分は他よりも左右幅が狭くなっており、この側面部分の外側に被さるカバー体15の側面垂下部15cに、各案内ピン22が内向きに突出させて設けられている。
【0025】
各案内溝21は、後端から前方へ延びる進退案内部21aと、この進退案内部21aの前端に続いて、下向きやや前方へ延びる昇降案内部21bとでなる。進退案内部21aの後端の近傍に案内ピン22が位置するときカバー体15が接近位置P1にあり(図7(A))、進退案内部21aと昇降案内部21bの境界に案内ピン22が位置するときカバー体15が離反位置P2にあり(図7(B))、昇降案内部21bの下端に案内ピン22が位置するときカバー体15が下降位置P3(図7(D))にある。
【0026】
進退案内部21aの後端部21aaは、後方ほど下位に位置する傾斜状とされている。このため、カバー体15が接近位置P1からダイホルダ本体2の被押当て面7a(図4)に対し離反する方向である前方へ移動するときに、カバー体15を上方へ押上げながら移動する。言い換えると、カバー体15を被押当て面7aに対し接近させて接近位置P1へ移動させるとき、カバー体15が下方に押し下げられる。
【0027】
また、昇降案内部21bの上部は円弧状の移行部21ba(図7(B),(C))とされ、進退案内部21aと昇降案内部21bとが滑らかに繋がっている。よって、カバー体15が離反位置P2から下降するときに、移動方向を前向きから徐々に下向きに変えて方向転換終了位置P2´(図7(C))に至り、この方向転換終了位置P2´から下降位置P3(図7(D))まで直線的に下降する。このように移行部21baを設けることにより、カバー体15の離反位置P2からの下降動作が円滑に行われる。
【0028】
ダイホルダ1には、カバー体15を被押当て面7aに対し離反する方向に付勢する付勢機構24(図7)と、接近位置P1に位置するカバー体15の前方への移動を拘束する拘束機構30(図4)と、この拘束機構30によるカバー体15の移動拘束を解除する解除操作具35(図4)とが設けられている。
【0029】
付勢機構24は、カバー体15の左右両端部にそれぞれ設けられている。各付勢機構24は、図7(A),(B),(C)に示すように、前後方向に延びる前後貫通孔25内に摺動自在に嵌合し、後端が前後貫通孔25より後方に突出した棒状部材26と、前後貫通孔25の前部を塞ぐ栓部材27と、これら棒状部材26と栓部材27との間に介在させた圧縮ばね28とで構成される。前後貫通孔25は後端付近が小径になった段付き形状であり、かつ棒状部材26は前端付近が大径になった段付き形状であり、図7(B),(C)のように前後貫通孔孔25の段面に棒状部材26の段面が当接した状態で、棒状部材26がそれ以上後方へ移動することを規制する。ダイホルダ本体2には、棒状部材26の先端に対向する段面29が設けられている。
【0030】
拘束機構30は、図4に示すように、ダイホルダ本体2に設けられた被係止部材31に対しカバー体15に設けられた係止部材32が係止することにより、カバー体15の移動を拘束する。係止部材32は、支点軸33回りに回動自在に支持され、圧縮ばねからなる付勢手段34により下向き、すなわち被係止部材31に係止する側へ付勢されている。被係止部材31の前面は前下がりの曲面形状とされ、係止部材32の背面は後上がりの曲面形状とされている。
【0031】
解除操作具35は、係止部材32と一体に設けられており、その先端側が前方に延びている。解除操作具35の先端は、ダイホルダ本体2とカバー体15との間の空間の前面側開口部付近に位置し、前方から指で押下げ操作が可能である。
【0032】
カバー体15が接近位置P1にあるとき、付勢機構24は、棒状部材26の後端がダイホルダ本体2の段面29に当接して棒状部材26の位置が規制され、圧縮ばね28が圧縮された状態になっている(図7(A))。このとき、拘束機構30は、図4のように被係止部材31に被係止部材32が係合して、カバー体15の前方への移動を拘束している。この状態から、解除操作具35を下方に押し下げると、被係止部材31と係止部材32の係合が外れ、付勢機構24の圧縮ばね28の弾性反発力により、カバー体15が離反位置P2まで前進する(図7(B))。
【0033】
また、図2、図3、図6、および図8に示すように、ダイホルダ本体2の着座面6に着座した状態にあるダイ70を持ち上げるための持上げ機構40が設けられている。持上げ機構40は、ダイホルダ本体2の着座面6の中心に対し左右両側に分散して配置された複数の昇降部材41を着座面6よりも突出させることで、ダイ70を持ち上げる機構である。図例では、着座面6の左右両側部に、それぞれ着座面6の前後中心線L(図2)を挟んで前後一対の昇降部材41が設けられている。各昇降部材41は、その軸心がほぼ着座面6の外周円上に位置するように配置されている。
【0034】
前後一対の昇降部材41には前後方向に沿う係合溝41aが設けられ、両昇降部材41の係合溝41aに昇降操作板42の前後両端部がそれぞれ前後に摺動自在に係合している。昇降部材41は、ダイホルダ本体2に設けられ上下方向に延びる上下貫通孔43内に摺動自在に嵌合し、昇降操作板42は、前後の上下貫通孔43同士を繋ぐ空間44に配置されている。
【0035】
ダイホルダ本体2の側面部には、回動中心軸45回りに回動自在な天秤レバー46が設けられている。この天秤レバー46の後端が、連結軸47を介して前記昇降操作板42の前後中心位置に回動自在に連結されている。連結軸47が挿入される昇降操作板42の孔は前後方向に長い長孔42aであり、連結軸47に対する昇降操作板42の前後位置が融通性を有する。また、天秤レバー46の前端には、ピン49が設けられている。
【0036】
図3に示すように、カバー体15の側面垂下部15cの外側面には、ダイ70の持上げ動作時に前記ピン49に転動しながら接して前記天秤レバー46を押し下げる押下げ面50が形成されている。カバー体15が接近位置P1から離反位置P2の直前までの間にあるとき、ピン49は押下げ面50から下方に離れた位置にある。カバー体15を離反位置P2から下降させると、押下げ面50によりピン49が押下げられて天秤レバー46が回動する。この天秤レバー46の回動により各昇降部材41が上昇し、各昇降部材41の上端が着座面6よりも突出する。
【0037】
図2〜図4に示すように、ダイホルダ本体2の後端面には、平面形状略U字状の係合切欠52aを有する位置決め用の係合片52が突出している。係合切欠52は、開口側がテーパ状に開いている。この係合切欠52に、ダイ支持台60に固定の位置決めピン62を係合させることで、ダイホルダ本体2の左右方向の位置決めがなされる。なお、位置決めピン62は、ダイ支持台60に設けられた孔63に圧入してある。このように左右方向の位置決めをした状態で、ダイホルダ本体2をダイ支持台60に固定する。図示例では、ダイホルダ本体2の前部に斜めに設けられたボルト挿通孔64に挿入したボルト65をダイ支持台60に固定のナット66に螺入することにより、ダイホルダ本体2を固定する。
【0038】
図4に示す加工時の状態では、ダイ70は、下面がダイホルダ本体2の着座面6に着座した状態でダイ保持凹部4に嵌合している。このとき、カバー体15は接近位置P1にあり、このカバー体15に対しばね部材18により後方に付勢されたクランパ16の接触面19が、ダイ70の外周面に押し付けられている。それにより、ダイ70の押当て面70aがダイホルダ3の被押当て面7aに押し当てられて、ダイ70が固定される。一対の分岐部16aにそれぞれ設けた接触面19をダイ70の外周面に当接させるため、ダイ70をダイ保持凹部4の被押付け面7aにバランス良く押付けることができる。また、クランパ16の接触面19をダイ70に接近および離反する方向に対して傾斜させてあるため、くさび効果によりダイ70を固定する力を増大させることができ、強固に固定できる。そのため、ダイ70が軽量であっても、振動等によりダイ70が浮き上がらない。
【0039】
ダイ70の交換は、以下の手順で行う。
図3(A)の状態から、解除操作具35を指で押し下げる。これにより、拘束機構30による拘束が解除されて、付勢機構24の圧縮ばね28の弾性反発力により、カバー体15が図3(B)に示す離反位置P2まで前進する。解除操作具35を下げ操作するだけでカバー体15が自動で前進するため、作業性が良い。解除操作具35から指を離すと、復帰ばね34の作用で拘束機構30の係合部材32および除解除操作具35が元の位置へ戻る。離反位置P2まで前進したカバー体15は、例えば前端がダイ支持台60の外径端よりも突出した状態とされる。
【0040】
次に、カバー体15を手で押えて下降させる。これにより、持上げ機構40が持上げ動作し、着座面6に着座しているダイ70を持ち上げる。持上げ機構40の複数の昇降部材41は、着座面6の中心に対し左右両側に分散して配置されているため、各昇降部材41によりダイ70の下面の各部に持上げ作用力が均等化して与えられ、ダイ70が水平姿勢のまま持ち上げられる。そのため、ダイホルダ本体2のダイ保持凹部4にダイ70が隙間無く嵌合している場合や、ダイ70が僅かに傾いただけでダイ保持凹部4から抜くのが困難である場合でも、ダイ70を円滑に持ち上げることができる。
【0041】
図3(C)に示すように、着座面6から持ち上げられたダイ70は、その下端がダイ保持凹部4の内周面7のうち前側の半周にあたる部分7bの上端よりも高くなる。上記ダイ70の持上げ動作により、カバー体15は段差部8の高さよりも同等か下方に退避しており、持ち上げられたダイ70に対し前方が開放空間となっている。そのため、ダイ支持台60がタレットパンチプレスの下タレットであって、下タレットの上方に上タレットがある場合でも、上記開放空間を通してダイ70を前方へ容易に取出すことができる。
【0042】
ダイ70をダイホルダ1に装着する場合は、着座面6から突出した状態にある各昇降部材41の上にダイ70を載せ、ダイ70を下方に押してダイ保持凹部4に嵌合させる。その際、片方の手でダイ70を押え、もう片方の手でカバー体15を押え、両手のバランスを取りながら徐々にダイ70を下げていくことにより、ダイ70に急激な力を与えることなく容易に着座面6に着座させることができる。カバー体15の前端がダイ支持台60の外径端よりも突出しているため、上記作業をし易い。その後、離反位置P2にあるカバー体15を接近位置P1まで押し込むと、拘束機構30が機能してカバー体15の進退が拘束される。カバー体15を接近位置P1まで押し込む際、被係止部材31の前下がりの曲面形状をした前面と係止部材32の後上がりの曲面形状をした背面とが摺接しながら、付勢手段34の押し下げ力に抗して係止部材32が持上げられて、被係止部材31が係止部材32を乗り越える。
【0043】
このように、このダイホルダ1は、ダイホルダ1の一部分または全体をダイ支持台60から取外すことなく、かつ工具を使用せずに、簡単な操作で容易にダイ70を交換することができる。そのため、ダイ交換作業をする位置の近くに、工具や取出したダイホルダ装置の一部分または全体を置くスペースを確保しなくてもよい。また、カバー体15を持上げ操作具としたため、別に持上げ操作具を設けなくて済み、部品点数を減らすことができる。さらに、ダイホルダ2およびカバー体15の上面を板材の案内面Fとしたため、板材を載せて案内する案内部材を別に設けなくて済み、構成を簡略できる。
【符号の説明】
【0044】
1…ダイホルダ
2…ダイホルダ本体
3…クランプカバー
4…ダイ保持凹部
6…着座面
7a…被押当て面(段差部と反対側の内壁面)
8…段差部
15…カバー体
16…クランパ
18…ばね部材
19…接触面
30…拘束機構
31…被係止部材
32…係止部材
34…付勢手段
35…解除操作具
60…ダイ支持台
70…ダイ
P1…接近位置
P2…離反位置
P3…下降位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイを支持するダイホルダであって、
上面にダイが嵌合するダイ保持凹部を有し、このダイ保持凹部の円周方向の一部に続く部位は他よりも段差を持って低くなった段差部とされたダイホルダ本体と、
前記段差部の上方において前記ダイ保持凹部に嵌合したダイに対し接近した接近位置と離反した離反位置間で進退可能、かつ前記離反位置と前記段差部よりも下方の下降位置間で昇降可能なカバー体と、
前記接近位置にある前記カバー体の前記離反位置側への移動を拘束する拘束機構と、
前記カバー体の下側にカバー体に対して前記ダイに接近および離反する方向に進退可能に設けられ、前記ダイの外周面に当接して前記ダイ保持凹部の前記段差部と反対側の内壁面に前記ダイを押し付けるクランパと、
前記クランパを前記ダイの側へ付勢するばね部材と、
を備えたダイホルダ。
【請求項2】
前記ダイは円形であり、前記クランパは、前記ダイに対向する側が二股に分岐した一対の分岐部となっており、これら一対の分岐部のそれぞれに、前記ダイの外周面に当接する部位である接触面を前記ダイに接近および離反する方向に対して傾斜させて設けた請求項1記載のダイホルダ。
【請求項3】
前記拘束機構は、前記ダイホルダ本体に設けられた被係止部材に対し前記カバー体に設けられた係止部材が係止することにより前記カバー体の移動を拘束するものであり、前記係止部材を前記被係止部材に係止する側へ付勢する付勢手段と、この付勢手段の付勢力に抗して前記係止部材の前記被係止部材への係止を解除する解除操作具とを設けた請求項1または請求項2記載のダイホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−94788(P2013−94788A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237236(P2011−237236)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)