説明

ダイヤモンド圧子

【課題】従来の単結晶ダイヤモンドのような劈開ワレやチッピング、高温下での塑性変形の問題を抑止し、高強度で強靱なダイヤモンド圧子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、非ダイヤモンド型炭素物質を含む原料組成物を、超高圧高温下で、焼結助剤及び触媒の添加なしに、直接的にダイヤモンドに変換焼結した、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドによって形成されたダイヤモンド圧子であって、当該多結晶ダイヤモンドが、最大粒径100nm以下かつ平均粒径50nm以下の微粒ダイヤモンド結晶と、粒径50nm〜10000nmの板状もしくは粒状の粗粒ダイヤモンド結晶との混合組織を有する高硬度ダイヤモンド圧子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド圧子に関するものであり、特に高硬度で、寿命が長く、品質のバラツキの小さい高硬度ダイヤモンド圧子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の硬度測定用圧子は、天然産の単結晶ダイヤモンドの中から適当な原石を選択し、製作されたものであった。しかし、天然ダイヤモンドの結晶は、圧縮応力による破壊の起点となる結晶欠陥や不純物が多いため、圧子として十分な強度を安定して得ることが難しく、原石による寿命のバラツキが大きいという欠点があった。
【0003】
特許文献1には、結晶欠陥や不純物の少ない品質の安定した高純度合成単結晶ダイヤモンド製の圧子が提案されている。破壊の起点となるものが少ないので、天然単結晶ダイヤモンドに比べて、寿命が長く、原石によるバラツキが少ない。しかし、単結晶であるため劈開による破壊が起こりやすく、特にダイヤモンドやcBNなどの非常に硬質な粒子を含む複合材料に圧子を押し込むと、圧子先端部に不均一な応力が動的にかかるため、圧子先端部の劈開割れやチッピングは避けられない。また、高温下では、単結晶ダイヤモンド圧子は300〜500℃程度より塑性変形してしまうため、従来の単結晶ダイヤモンド圧子では500〜600℃を越える高温下での正確な硬度評価ができなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−14524号公報
【非特許文献1】J. Chem. Phys., 38 (1963) 631-643 [F.P.Bundy]
【非特許文献2】Japan. J. Appl. Phys., 11 (1972) 578-590 [M.Wakatsuki, K.Ichinose, T.Aoki]
【非特許文献3】Nature 259 (1976) 38 [S.Naka, K.Horii, Y.Takeda, T.Hanawa]
【非特許文献4】5New Diamond and Frontier Carbon Technology, 14 (2004) 313 [T. Irifune, H. Sumiya]
【非特許文献5】SEIテクニカルレビュー 165 (2004) 68 [角谷、入舩]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の単結晶ダイヤモンドのような劈開ワレやチッピング、高温下での塑性変形の問題を抑止し、高強度で強靱なダイヤモンド圧子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
黒鉛(グラファイト)やグラッシーカーボン、アモルファスカーボンなどの非ダイヤモンド炭素を超高圧高温下で、触媒や溶媒なしに直接的にダイヤモンドに変換させ、同時に焼結させることで結合材のないダイヤモンド単相の多結晶体が得られる。
本発明者らは、この材料が非常に高い負荷でも変形や破壊が少なく、また耐熱性にも非常に優れるということを見出した。さらに、出発物質の最適化によって多結晶ダイヤモンドの微細構造を最適化することで、従来の単結晶ダイヤモンドをはるかに越える強度、耐圧性、耐熱性をもつ、非常に優れた多結晶ダイヤモンドが得られることを見出した。
その結果、従来の単結晶ダイヤモンド圧子に比べて非常に寿命の長い、なおかつ、従来の単結晶ダイヤモンド圧子では不可能であった1000℃を越える高温下において正確な硬度評価のできるダイヤモンド圧子が得られることを発見した。
【0007】
次に本発明に係る高硬度ダイヤモンド圧子について詳述する。
非特許文献1乃至3には、グラファイトを出発物質として14−18GPa、3000
K以上の超高圧高温下の直接変換により多結晶ダイヤモンドが得られることが開示されている。しかし、いずれもグラファイトなどの導電性のある非ダイヤモンド炭素に直接電流を流すことで加熱する直接通電加熱法を用いるため、未変換グラファイトが残留することは避けられなかった。
【0008】
また、ダイヤモンド粒子径が不均一であり、また、部分的に焼結が不十分となりやすかった。このため、硬度や強度などの機械的特性が不十分で、しかも欠片状の多結晶体しか得られず、ダイヤモンド圧子として使用できるものは得られなかった。また、たとえば非特許文献4及び5には、高純度グラファイトを出発物質として、12GPa以上、2200℃以上の超高圧高温下における間接加熱による直接変換焼結により、緻密で高純度な多結晶ダイヤモンドを得る方法が開示されている。この方法で得られるダイヤモンドは非常に高い硬度を有する場合があるが、その再現性が十分でなく、機械的特性が安定しないため、ダイヤモンド圧子として使用すると、試料によっては耐圧性がばらつくという問題があった。
【0009】
本発明者らは、上記の問題点の原因を調べるため、直接変換で得られる多結晶ダイヤモンドの微細構造と機械的特性や耐摩耗特性との関係を詳しく調査したところ、層状構造と微細な均質構造の混ざった複合組織を持つ場合があり、これらが適切な割合で分布しているものは、高硬度で耐熱性に優れることがわかった。また、従来の方法では、層状構造と微細な均質構造の比率は、出発物質のグラファイトの状態や昇温時間、速度度圧力条件の微妙な違いによってバラつき、これが機械的特性の安定しない原因であることがわかった。
【0010】
そこで本発明者らは、超高圧高温下で非ダイヤモンド炭素をダイヤモンドに直接変換させる方法において、比較的粗い板状グラファイトあるいは比較的粗いダイヤモンドに、非グラファイト型炭素物質もしくは低結晶性あるいは微粒のグラファイトを添加したものを出発物質としたところ、微粒ダイヤモンドのマトリックス中に層状のもしくは比較的粗いダイヤモンド結晶が分散した組織の多結晶ダイヤモンドが得られ、この層状もしくは粗粒ダイヤモンドでの塑性変形、微細クラックの進展阻止効果により、非常に硬くて強靱な多結晶ダイヤモンドが極めて安定して得られることを見出した。また、グラファイトからでも昇温時間、速度度圧力条件により微細構造の制御が可能で、上記のような適切な組織が形成されることも見出した。こうして得られた多結晶ダイヤモンドはダイヤモンド圧子として非常に有用である。
【0011】
すなわち、本発明に係る高硬度ダイヤモンド圧子の構成は以下のとおりである。
(1)本発明は、非ダイヤモンド型炭素物質を含む原料組成物を、超高圧高温下で、焼結助剤及び触媒の添加なしに、直接的にダイヤモンドに変換焼結した、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドによって形成されたダイヤモンド圧子であって、当該多結晶ダイヤモンドが、最大粒径100nm以下かつ平均粒径50nm以下の微粒ダイヤモンド結晶と、粒径50nm〜10000nmの板状もしくは粒状の粗粒ダイヤモンド結晶との混合組織を有することを特徴とする高硬度ダイヤモンド圧子である。
(2)前記微粒ダイヤモンド結晶が、最大粒径50nm以下かつ平均粒径30nm以下であることを特徴とする上記(1)に記載された高硬度ダイヤモンド圧子である。
(3)前記粗粒ダイヤモンド結晶が、粒径50nm〜1000nmであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された高硬度ダイヤモンド圧子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高硬度ダイヤモンド圧子は、直接変換により得られるダイヤモンド単相であって、非常に高硬度で、かつ耐熱性の高い多結晶ダイヤモンドからなるため、従来の単結晶ダイヤモンドをはるかに越える耐圧性、長寿命を有する。また高温下での正確な硬度評価
を可能にするという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る高硬度ダイヤモンド圧子の実施形態の一例を以下に示す。
本実施形態に係る高硬度ダイヤモンド圧子は、非ダイヤモンド炭素物質を含む原料組成物をダイヤモンドに変換焼結させた多結晶ダイヤモンドによって形成される。
本実施形態で使用できる非ダイヤモンド型炭素物質は、グラファイト型炭素物質、非グラファイト型炭素物質、グラファイト型炭素化合物と非グラファイト型炭素物質との原料組成物でも良い。
前記グラファイト型炭素物質としては、板状グラファイト型炭素物質、微細グラファイト型炭素物質などが挙げられる。
【0014】
例えば、粒径50nm以上の板状グラファイトあるいはダイヤモンドに非グラファイト型炭素物質を適当量添加する。これを原料組成物として、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下において直接的にダイヤモンドに変換焼結させる。すると平均粒径が、例えば10〜20nmの非常に微細なダイヤモンドのマトリックスに、例えば100〜200nmの比較的粗いダイヤモンドが分散した組織の多結晶ダイヤモンドが得られる。塑性変形やクラックの進展が比較的粗いダイヤモンド部で阻止されるため、非常に強靱で高い硬度特性を示し、試料による特性バラツキも大幅に小さくなる。
ここで、粒径50nm以上の板状グラファイトあるいはダイヤモンドに添加される非グラファイト型炭素物質の添加量は10体積%〜95体積%が好ましい。10体積%より少ないと層状もしくは粗粒のダイヤモンド同士が接触し、その界面で応力集中してワレやキレツが発生しやすくなるため好ましくない。また、95体積%を超えると層状もしくは粗粒のダイヤモンドによる塑性変形や微細クラックの進展阻止効果が十分でなくなる。
また、上記非グラファイト型炭素物質としては、グラッシーカーボン、アモルファスカーボン、フラーレン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、グラファイトを遊星ボールミル等で機械的に粉砕して得られた粒径50nm以下の微細な炭素も用いることができる。
【0015】
上記のようにして得られた混合物を、Moなどの金属カプセルに充填する。粉砕された微細炭素を用いる場合は、充填作業を高純度な不活性ガス中で行う必要がある。次に、マルチアンビル型超高圧装置やベルト型超高圧装置などの等方加圧や静水圧加圧が可能な超高圧高温発生装置を用いて、温度1500℃以上で、かつダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力で所定時間保持する。前記の非グラファイト型炭素はダイヤモンドに直接変換され、同時に焼結される。粒径50nmの板状グラファイトを用いる場合は、これを完全にダイヤモンドに変換させるために、2000℃以上の高温で処理する必要がある。
こうして、微粒ダイヤモンドのマトリックス中に層状のもしくは比較的粗いダイヤモンド結晶が分散した組織の多結晶ダイヤモンドを安定して得ることができる。
また、グラファイトを出発物質として、上記の高圧高温処理する際に、加熱速度を100〜1000℃/分とすることによっても、同様の組織の多結晶ダイヤモンドが得られる。
このようにして得られた多結晶ダイヤモンドは、微粒ダイヤモンド結晶と板状もしくは粒状の粗粒ダイヤモンド結晶の混合組織である。かかる多結晶ダイヤモンドは、前記板状もしくは粒状の粗粒ダイヤモンド結晶の有する塑性変形や微細クラックの進展阻止作用によって、塑性変形やクラックの進展が阻止されるため、非常に強靭で高い硬度特性を示し、試料による特性バラツキも大幅に小さくなる。
前記微粒ダイヤモンド結晶は、最大粒径100nm以下、かつ平均粒径50nm以下である。微粒ダイヤモンド結晶の粒径が上記値を超えると多結晶ダイヤモンドの硬度や強度が低下する傾向がある。
【0016】
さらに前記粗粒ダイヤモンド結晶は、粒径50nm〜10000nmである。更に粒径50〜1000nmであるのが好ましい。粗粒ダイヤモンド結晶が小さすぎると、前記の阻止作用が十分に発現せず、大きくなりすぎると、粗粒ダイヤモンド自体の塑性変形や劈開(粒内破壊)の影響が大きくなり、多結晶ダイヤモンドの硬度や強度が低下する傾向がある。
この板状もしくは粒状の粗粒ダイヤモンド結晶による前記の阻止作用により、多結晶体の硬度は120GPa以上と非常に高く、そのため耐圧性に非常に優れ、特性のバラつきも少ない。また、高温下での硬度の低下も少なく、1000℃では、単結晶ダイヤモンドの2〜3倍以上の硬度を有する。単結晶ダイヤモンドは、特に高温下で{111}<110>すべり系による塑性変形が起こり軟化してしまうが、本多結晶ダイヤモンドは、その面すべりによる塑性変形の進展が粒開で阻止されるため、高温でも高硬度を維持することができるのである。
【0017】
したがって、この多結晶ダイヤモンドを用いて、ダイヤモンド圧子とすると、従来の単結晶ダイヤモンドの圧子のような圧子先端部のチッピングや劈開性がないため、超硬質複合材料の硬度評価が可能で、破壊に至る寿命もはるかに長くなる。また、従来の単結晶ダイヤモンド圧子では塑性変形により不可能であった600℃を越える高温下での正確な硬度評価が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ダイヤモンド型炭素物質を含む原料組成物を、超高圧高温下で、焼結助剤及び触媒の添加なしに、直接的にダイヤモンドに変換焼結した、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドによって形成されたダイヤモンド圧子であって、当該多結晶ダイヤモンドが、最大粒径100nm以下かつ平均粒径50nm以下の微粒ダイヤモンド結晶と、粒径50nm〜10000nmの板状もしくは粒状の粗粒ダイヤモンド結晶との混合組織を有することを特徴とする高硬度ダイヤモンド圧子。
【請求項2】
前記微粒ダイヤモンド結晶が、最大粒径50nm以下かつ平均粒径30nm以下であることを特徴とする請求項1に記載された高硬度ダイヤモンド圧子。
【請求項3】
前記粗粒ダイヤモンド結晶が、粒径50nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載された高硬度ダイヤモンド圧子。

【公開番号】特開2008−180568(P2008−180568A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13349(P2007−13349)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】