説明

ダイヤモンド電極構造体及びその製造方法

【課題】 ダイヤモンド電極と給電部の金属板とが効果的に接合され、ダイヤモンド電極と金属製給電部との間の電気抵抗が小さく、電解時の電力効率が高いダイヤモンド電極構造体を提供すること。
【解決手段】 ダイヤモンド電極の導電性ダイヤモンドと金属製給電部を構成する給電用低熱膨張金属とがTi、Ni及びZrのいずれか1種又は2種以上を1〜50重量%含み、残部がAg、Cu、In、Snから選ばれる1種又は2種以上からなる金属接合層を介してロウ付けにより接合されていることを特徴とするダイヤモンド電極構造体及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の物質を電気分解するために用いられる電極であって、導電性ダイヤモンドのもつ広い電位窓を利用した高機能でかつ耐久性が高く、しかも安価に製造できるダイヤモンド電極構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホウ素等の不純物を添加することによって導電性をもたせたダイヤモンドを各種溶液の電気化学的な処理を行うための電極として利用する試みが行われている。このような用途に使用される電極では、大面積の材料が必要とされることから、従来の技術では、ダイヤモンドはメタン等の炭素含有ガスを主原料とする化学気相合成(CVD)法によって製造されている。CVD法では、ダイヤモンドを合成する際に、通常は基板材料の上にダイヤモンドを膜状に堆積させる。
基板材料は、Si、SiC、Mo等が用いられ、得られるダイヤモンド膜は一般的には多結晶体である。
【0003】
通常ダイヤモンドは絶縁体であるが、原料ガスに若干量のホウ素(B)を含有するガスを導入することによって、合成されるダイヤモンド結晶中にBを添加することができ、その結果、ダイヤモンド膜に導電性を持たせることができる。
不純物を添加することによって導電性を付加されたダイヤモンドは、一般的に利用されている電極材料である白金等と比較して耐食性が高いことや、広い電位窓を有することから、水溶液中の物質を安定的に高い能力で分解できることがわかっている。
このような導電性ダイヤモンドを水溶液中物質の電気分解用電極として溶液中の物質を処理する方法は、例えば、特許文献1に示されている。
【0004】
従来のダイヤモンド電極を利用した電解槽(電解セル)としては、一般に図1に示すフィルタープレス型と呼ばれる電解槽1が用いられている。図1において2は陽極、3は陰極、4は隔膜、5は導電性ダイヤモンド、6は基板、7は注水口、8は排水口であり、斜線部は水溶液が満たされている部分である。このタイプの電解槽は、非常にコンパクトな構造にできるため広く利用されており、これまで用いられているφ150mm程度の電極面積では、給電方法による大きな問題は生じなかった。しかしながら、電極面積が大きい電解槽では、電極面内での電流分布が不均一化すると、電極の部分的な消耗が進んだり、隔膜を使用した複極式電解槽の場合、イオン交換膜が部分的に劣化する等の電解槽の性能に好ましくない現象が起こる。
【0005】
これを解決するためには、陽極と陰極間の電流の流れが面内で均一になるように金属板などで構成される給電部を取り付ける必要がある。ダイヤモンド電極の場合、簡便にかつ強固に金属製の給電部を接合できる接合材がないため、従来の方法では、ダイヤモンド電極表面もしくは電極の背面に金属製給電部を機械的に圧着させることで給電していた。しかしながら、この方法では、大面積のダイヤモンド電極を使用する際には、電極板の反り等があって実用的ではない。また、大面積の電極を使用する際には電極板を吊り下げて電解槽に浸す方法が簡便だが、給電部と電極板との接合に有効な接合材がない現状では、機械的にボルト締めするなどの方法で給電部を電極板に取り付けるしか方法がないが、機械的な取り付けでは給電部とダイヤモンド電極間の接触抵抗が高く、投入電力に対する電解効率が低いという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許第3442888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、ダイヤモンドは水溶液中の物質を電気分解するための電極として非常に優れた特性を持つことが分かっているが、一方、産業上、その利用が広がっていないのが現状である。
その一因として、給電部を接合する技術がこれまでなかったために、電解効率の点で非常に有効な大面積化ができていなかったことが考えられる。電極触媒部へ効率よく給電するためには、金属製の給電部と電極素材と電気的に接合させる必要がある。従来の技術である機械的な圧着による方法でも、給電部からダイヤモンド電極へ電気を流すことはできるが、電極の大面積化に伴い電極板の反りが大きくなり、圧接により電極が破損したり、電気的な接合が十分でない部分が生じ、電極面全体に均一かつ効率よく給電ができない事態が発生したりする。大面積の電極板を吊り下げて電解槽に浸す方法では、反りの影響による前記問題の発生はないが、機械的にボルト締めするなどの方法で給電部を電極板に取り付けるだけでは給電部と電極板との接合状況が良好ではなく、接触不良により電解効率の低下やスパーク等のトラブルが生じる。
給電部と電極との接触抵抗による電力ロスを小さくするためには、金属溶接材や金属ロウ材などの接合材を用いて接合する必要があるが、ダイヤモンドの場合、金属と接合させるための適当な溶接材やロウ材が見出されていなかった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決し、ダイヤモンド電極と給電部の金属板とが効果的に接合され、ダイヤモンド電極と金属製給電部との間の電気抵抗が小さく、電解時の電力効率が高いダイヤモンド電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のダイヤモンド電極構造体は、ダイヤモンド電極の導電性ダイヤモンドと金属製給電部を構成する低熱膨張金属とがTi、Ni及びZrのいずれか1種又は2種以上を1〜50重量%含み、残部がAg、Cu、In、Snから選ばれる1種又は2種以上からなる金属接合層を介してロウ付けにより接合されていることを特徴としている。
また、本発明のダイヤモンド電極構造体の製造方法は、ダイヤモンド電極の導電性ダイヤモンドと金属製給電部を構成する低熱膨張金属とをロウ材を用いて、真空中又は不活性ガス中で600〜1000℃の温度に加熱して接合することを特徴としている。このときのロウ材としては、Ti、Ni及びZrのいずれか1種又は2種以上を1〜50重量%含み、残部がAg、Cu、In、Snから選ばれる1種又は2種以上からなるロウ材が好ましい。
【0010】
ダイヤモンドは大気中で700℃程度、真空中もしくは不活性ガス中では1000℃程度まで加熱すると黒鉛に変換する。従って、大気中でロウ付けする場合は、700℃以下、真空中もしくは不活性ガス中で接合する場合でも、融点が1000℃以下の接合材(ロウ材)で接合する必要がある。それゆえ、ロウ材の融点は高くとも1000℃以下であることが好ましく、さらには、700℃以下の融点をもつロウ材であることが好ましい。
本発明者らは、1000℃以下の温度で導電性ダイヤモンドと給電用金属部品とを接合できる接合材、給電用金属材料、及びロウ付け方法を種々検討した結果、本発明に至ったものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極構造体は、給電部における抵抗ロスが小さく、電解用電極として使用した場合に、電解時の電力効率が著しく向上する効果がある。また、本発明の製造方法によれば、前記の効果を有するダイヤモンド電極構造体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、ダイヤモンドと給電用金属部品とを接合させるための給電用金属材料及び接合材について述べる。
給電用に用いられる金属は、電気伝導率の高いものであることは当然のこと、様々な環境下で使用されるため耐食性の高いものが好ましい。従って、通常の電極にはCuが使われることが多いが、ダイヤモンド電極の場合、ダイヤモンドと600℃以上の高温で接合されるため、金属部品とダイヤモンドの熱膨張係数のミスマッチによる応力の発生が無視できず、接合が困難である。従って、給電用金属材料はできる限りダイヤモンドの熱膨張係数に近い熱膨張係数を持つものが好ましい。ダイヤモンドの熱膨張係数は2〜3×10-6/Kと一般的な金属と比べて低いため、本発明では給電用金属材料として低熱膨張係数の金属であるW(熱膨張係数:4.5×10-6/K)、Mo(熱膨張係数:5.5×10-6/K)、Ta(熱膨張係数:6.3×10-6/K)を使用することにより、熱膨張係数のミスマッチによる応力を低減させた。また、使用条件などによっては、コバール(商品名)などのFe−Ni−Co系合金、及びインバー(商品名)、エリンバー(商品名)などの低熱膨張率合金も使用きる。
【0013】
次に接合材であるが、ダイヤモンドの場合、金属と溶接により接合することはほとんど不可能であるため、ロウ材を用いたロウ付け接合を検討した。
ダイヤモンドと上記の低熱膨張率金属を用いた給電用金属部品とを接合させるためには、ダイヤモンドと上記金属の両方に対して良好な濡れ性を持つ必要がある。Ti、Ni及びZrはダイヤモンドとの濡れ性がよく、ロウ材中に1〜50重量%、好ましくは2〜40重量%の量を含有させることにより、ロウ材とダイヤモンドの濡れ性が向上する。また、Ti、Ni及びZrはダイヤモンドと共に加熱することにより炭化物を形成するため、ダイヤモンドと金属との接合材としての機能も果たす。Ag、Cu、In、Snはロウ材の融点を下げるためのものであり、特に、In又はSnは接合材の融点を700℃以下にするためには必要な成分である。
【0014】
本発明の電極構造体は、Si、SiCからなる基板上に、Bをドープした導電性ダイヤモンド膜を形成させたダイヤモンド電極と給電部を構成する金属部品とを、前述のロウ材を用いて1Pa以下の真空度、又はAr、N2 などの不活性ガス雰囲気中で600〜1000℃、好ましくは800〜900℃の温度で加熱して接合することによって製造することができる。
【0015】
本発明のダイヤモンド電極構造体を用いることにより、電極触媒部へ効率よく給電でき非常に電解効率の高い電極を提供することができる。更には、給電部の接合箇所を制御することにより、大きな電極面積全面にほぼ均一な電流を給電することが可能になる。
【実施例】
【0016】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
100mm×100mm×3mmの導電性Si基板上にBをドープした導電性ダイヤモンドを3〜5μmの厚みで成膜したダイヤモンド電極を用いて、以下の手順で接合テストを行った。先ず、ダイヤモンド面の端部100mm×10mmの領域に粉末状金属ロウ材を塗布した。塗布面に接するように給電用金属部品を載せ、真空炉中で加熱することで接合テストを行った。粉末状ロウ材の組成、給電用金属部品材種、加熱温度、及び各試験での接合状況を表1にまとめて示す。表1から給電用金属部品及び接合用ロウ材として本発明による金属材料及びロウ材を用いることによって、ダイヤモンドと給電用金属部品とを良好に接合できることがわかる。
【0017】
【表1】

【0018】
(実施例2)
0.1M硫酸ナトリウム水溶液に実施例1の試験No.1で作製した、本発明のダイヤモンド電極構造体である、導電性ダイヤモンド5に給電用金属部品9がロウ付けされたダイヤモンド電極2枚を図2に示すように電解槽1の0.1M硫酸ナトリウム水溶液中に対向するように浸した。図2中、斜線部分が水溶液を満たした部分である。なお、図2の電解槽は基本的には図1のものと同一構造であり、10はシール材である。比較として同一工程で作製した導電性ダイヤモンド基板に給電部をロウ付け接合することなく機械的にネジ止めしただけのダイヤモンド電極を使用して試験を行った。なお、それぞれの電解試験における電極間距離は20mmとした。それぞれの2枚の電極間の抵抗を給電部で測定したところ、給電部をロウ付けした試験No.1のダイヤモンド電極を用いた場合は、0.1〜0.5Ωであったのに対して、比較として用いた給電部を機械的にネジ止めしただけのダイヤモンド電極を用いた場合は50〜80Ωと100倍以上の抵抗であった。本試験から、給電部をロウ付け接合することで、給電部と導電性ダイヤモンド基板との接触抵抗が低減されることが確認でき、電解時の電力効率も向上する効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明に係るダイヤモンド電極構造体は、各種溶液の電気化学的な処理を行う分野、特に難溶生有機物含有廃水処理や機能水生成などの分野において電気分解用電極として広く利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ダイヤモンド電極を用いた電解槽の構造の1例を示す説明図。
【図2】実施例2で使用した本発明のダイヤモンド電極構造体を用いた電解槽の構造を示す説明図。
【符号の説明】
【0021】
1 電解槽 2 陽極 3 陰極 4 隔膜 5 導電性ダイヤモンド
6 基板 7 注水口 8 排水口 9 給電用金属部品
10 シール部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と基板上に形成された導電性ダイヤモンド膜からなるダイヤモンド電極のダイヤモンド膜表面の一部又は全部が、Ti、Ni及びZrのいずれか1種又は2種以上を1〜50重量%含み、残部がAg、Cu、In、Snから選ばれる1種又は2種以上からなる金属接合層を介して給電用低熱膨張金属と接合されていることを特徴とするダイヤモンド電極構造体。
【請求項2】
前記低熱膨張金属がW、Mo、Taから選ばれる1種又は2種以上の金属と不可避不純物とを含む合金もしくは金属単体からなることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド電極構造体。
【請求項3】
前記基板が導電性シリコン又は導電性炭化珪素からなる基板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド電極構造体。
【請求項4】
基板と基板上に形成された導電性ダイヤモンド膜からなるダイヤモンド電極と給電用低熱膨張金属とをロウ材を用いて真空中又は不活性ガス中で600〜1000℃の温度に加熱して接合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ロウ材がTi、Ni及びZrのいずれか1種又は2種以上を1〜50重量%含み、残部がAg、Cu、In、Snから選ばれる1種又は2種以上からなるロウ材であることを特徴とする請求項4に記載のダイヤモンド電極構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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