説明

ダイヤモンド電極部材

【課題】ダイヤモンドの成膜過程及び電極としての使用過程においてダイヤモンド膜の剥離及び亀裂が生じることが防止され、耐久性が優れたダイヤモンド電極を組み込んだダイヤモンド電極部材を提供する。
【解決手段】開口部を有するカバー46の開口部の周辺部の裏面に、開口部を閉塞するようにダイヤモンド電極40が配置され、ダイヤモンド電極40とカバー46との間は封止されている。カバー46の表面には、参照電極45が配置されている。ダイヤモンド電極40は、基板41の裏面の一部を除いて導電性ダイヤモンド膜42により被覆されており、基板41の裏面における導電性ダイヤモンド膜42に覆われていない部分には、電極パッド43が形成され、電極パッド43にはリード線44が接続されている。そして、カバー46、導電性ダイヤモンド膜42及び参照電極45の表面が溶液53に接触するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ダイヤモンドを使用したダイヤモンド電極を組み込んだダイヤモンド電極部材に関し、特に、その耐久性を向上させたダイヤモンド電極部材に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性のダイヤモンドは、あらゆる溶媒に耐性があるので、化学センサ等の電極として使用することができる。即ち、1対の参照電極とダイヤモンド電極とを、溶液中に浸漬し又は溶液に接触させ、ダイヤモンド電極と参照電極との間に電圧を印加し、ダイヤモンド電極に流れる電流を測定することにより、高感度な化学センサを構成することができる。ダイヤモンド電極の表面で溶質と電荷の授受が行われ、析出又は分解反応が起こることにより、ダイヤモンド電極に流れる電流が変化する。この電位を適切に変化させることにより、析出物を再溶解させて初期化することができる。また、ダイヤモンド電極を使用して、溶質の分解及び析出が可能なことから、化学センサ以外にも、排水中の有害物質の分解及び回収、並びに希少物質の濃縮及び回収にも適用することができる。
【0003】
ダイヤモンド電極は、CVD(化学気相成長)で成膜されるが、その基板としては500乃至1000℃、典型的には800℃程度の温度で、主に水素からなるプラズマ又は活性種雰囲気に耐える材料でなければならない。そこで、例えば、基板材料として、Si、SiC、BN等の半導体材料、Mo、W、Pt、Ir等の高融点金属、SiO、Al等のセラミックス材料が使われている。
【0004】
そして、基板及びリード線等のダイヤモンド膜以外の部分は、エポキシ樹脂又はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等で被覆することにより、電極の耐久性及びセンサ感度を向上させている。
【0005】
例えば、特許文献1には、取付基板の上にシリコン基板が重ねられ、このシリコン基板の上にダイヤモンド膜が形成されており、このダイヤモンド膜の中央部が露出すると共に、ダイヤモンド膜の周辺部から取付基板を含む電極の背面の全体が封止材で覆われたダイヤモンド電極が開示されている。
【0006】
特許文献2には、チオールの濃度を短時間で測定可能なチオールの濃度測定方法が開示されている。このチオールの濃度測定方法は、チオールがダイヤモンド電極において電気化学的に特異的に酸化される性質を利用したものである。しかし、この特許文献2においては、具体的な電極構成は開示されていない。
【0007】
特許文献3には、電気化学的測定を行う際に使用するフローセルの作用電極として、ボロンをドープした導電性ダイヤモンド電極を使用することが記載されている。しかし、この特許文献3には、具体的な電極構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−147211公報(段落0045,0046、図5)
【特許文献2】特開2002−189016公報(図1,図2等)
【特許文献3】特開2001−50924公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。半導体及び金属等の導電性を有する基板では、基板が低抵抗であるので、直列抵抗を下げられる利点がある反面、樹脂等で溶液から隔離する必要がある。このような樹脂として、前述の如く、エポキシ樹脂又はPTFE等があるが、しかし、強酸及び強アルカリ中、又は電位を印加した条件下では、樹脂の劣化が起こり、シール部の剥離も生じやすく、耐久性も低いという問題点がある。
【0010】
一方、シリコン等の半導体基板では、剥離及び亀裂の問題はほとんどないが、金属基板では熱膨張係数の違いにより、ダイヤモンド成膜後、室温に戻したときに剥離又は亀裂が生じてしまう。
【0011】
セラミックス等の絶縁体基板では、シールの必要はないが、ダイヤモンド電極が一般的な金属ほど低抵抗ではないため、抵抗損があり、感度が低下する。また、石英基板にダイヤモンドを成膜したとき、熱膨張係数はあまり違わないにも関わらず、800℃でダイヤモンドを成膜して室温に戻すと、膜に亀裂又は剥離が生じてしまう。
【0012】
電気化学反応の電極としては、亀裂により電気的接続が途切れることによって、有効面積が縮小すると共に、使用中に剥離片が落下する可能性が生じるため、好ましくない。また、半導体製造工程で使われることを想定すると、金属及び微粒子等の不純物が溶液中に放出されることは、極微量でも問題となる。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ダイヤモンドの成膜過程及び電極としての使用過程においてダイヤモンド膜の剥離及び亀裂が生じることが防止され、耐久性が優れたダイヤモンド電極を組み込んだダイヤモンド電極部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るダイヤモンド電極部材は、開口部を有するカバーと、この開口部の周辺部の裏面に前記開口部を閉塞するように配置されたダイヤモンド電極と、前記ダイヤモンド電極と前記カバーとの間に配置された封止部と、前記カバーの表面に配置された参照電極と、を有し、前記ダイヤモンド電極は、基板と、前記基板の裏面の一部を除いて前記基板を被覆する導電性ダイヤモンド膜と、前記基板の裏面における前記導電性ダイヤモンド膜に覆われていない部分に形成された背面電極と、前記背面電極に接続されたリードと、を有し、前記導電性ダイヤモンド膜は前記開口部に面しており、電極使用時には、前記カバー、前記導電性ダイヤモンド膜及び前記参照電極の少なくとも一部の表面が溶液に接触するように構成されていることを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、絶縁性基板の窪みや溝、背面電極とその形状、成膜部分の組み合わせにより、高感度、高効率、高耐久性のダイヤモンド電極を組み込んだダイヤモンド電極部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)乃至(d)は本発明の第1の参考例のダイヤモンド電極の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図2】(a)乃至(d)は同じく第1の参考例の製造方法の図1の次の工程を示す断面図である。
【図3】(a)、(b)は本発明の第2の参考例のダイヤモンド電極を示す図である。
【図4】(a)乃至(c)は本発明の第3の参考例のダイヤモンド電極を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は本発明の第4の参考例のダイヤモンド電極を示す図である。
【図6】ダイヤモンド電極の使用方法を示す図である。
【図7】(a)乃至(d)は本発明の実施形態に係るダイヤモンド電極装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1(a)乃至(d)及び図2(a)、(b)は本発明の参考例に係るダイヤモンド電極の製造方法を工程順に示す断面図である。先ず、図1(a)に示すように、セラミックス基板1の表面の凹部3を形成すべき領域以外の領域に、マスク2を設ける。このマスク2に覆われていない領域の平面形状は、図2(d)に示すように、矩形の電極部4aと、細幅の引出部4bと、矩形の端子部4cとを有するものである。また、このマスク2としては、強度が高い粘着テープ又は樹脂等を使用することができる。そして、図1(b)に示すように、基板1をフッ酸等で化学的にエッチングし、基板1におけるマスク2で覆われていない領域を若干除去し、基板1の表面に凹部3を形成する。なお、このマスク2を設けてエッチングにより凹部3を形成する替わりに、サンドブラスタ等で物理的に基板表面を加工して、基板1の表面に凹部3を形成することもできる。セラミックス基板1としては、石英ガラス、サファイアガラス、及びアルミナ焼結体等がある。
【0018】
次に、図1(c)に示すように、白金等の金属のスパッタリング、蒸着又はCVD(化学気相成長法)により、凹部3内に背面電極4を形成する。この背面電極4は、図2(d)に示すように、矩形の電極部4aと、細幅の引出部4bと、矩形の端子部4cとを有するものである。
【0019】
次いで、図1(d)に示すように、背面電極4上のリード線8を接合すべき領域に第2のマスク5を形成し、ダイヤモンド核発生促進処理を行う。即ち、ダイヤモンド成膜の前に、核発生促進のため、ダイヤモンド粉末6をエタノール溶液中に入れ、更に、基板1をエタノール溶液に入れて、超音波を15乃至30分間、印加する。これにより、10/cm以上の核発生密度を確保する。このとき、予め、粘着テープ及び樹脂等のマスク2,5でダイヤモンドを成膜したくない端子部4cを覆うことにより、端子部4c以外の凹部3内に選択的にダイヤモンド膜7を成膜することができる。
【0020】
ダイヤモンドの成膜方法は、マイクロ波CVD、及び熱フィラメントCVD等の種々の方法を利用することができる。また、原料ガスとして、例えば、メタン1%、ジボラン0.01%を水素で希釈したものを使用すればよい。なお、各ガスの濃度は、適宜、調整可能である。
【0021】
次いで、図2(a)に示すように、マスク2,5を除去し、ダイヤモンド膜7を凹部3内に成膜する。これにより、ダイヤモンド膜7が背面電極4上の端子部4c以外の領域に形成される。このとき、背面電極4として、白金膜を使用し、その膜厚を500nm以下とすると、ダイヤモンド成膜中の環境(約800℃の温度で、水素リッチ雰囲気)で、自然に凝集が起こり、微細な孔9が背面電極4に形成される。従って、ダイヤモンド膜7は孔9を介して基板1まで達する。
【0022】
そして、図2(b)及び図2(d)に示すように、端子部4c上にリード線8を接続する。これにより、電極部7a及び引出部7bからなるダイヤモンド膜7が、背面電極4上に形成される。このリード線8を背面電極4の端子部4cに接続した部分は、適宜の樹脂により封止することが好ましい。
【0023】
本参考例における導電性ダイヤモンド膜7は、この背面電極4の上に形成され、少なくとも一部がセラミックス基板1と直接接触している。ダイヤモンド膜7に対し、セラミックス基板1と直接接しない領域(金属背面電極4)を間に介在させておくことにより、その領域ではダイヤモンドは比較的自由にたわむことができ、ダイヤモンドとセラミックスとが直接接することにより生ずる内部応力を緩和できる。なお、上記直接接しない領域には、金属膜が存在し、これはセラミックスよりやわらかいので、ダイヤモンドのたわみに追従して変形するため、ダイヤモンド膜の裏側に隙間はできない。
【0024】
上記ダイヤモンドとセラミックスとが直接接する領域を少なくしすぎると、ダイヤモンド膜7がセラミックス基板1から剥がれやすくなり、薄いダイヤモンドのたわみ量が大きくなりすぎ、両者間の金属膜の変形が限界に達してしまう結果、ダイヤモンドと金属、又は金属とセラミックス、又は金属膜そのものに隙間ができてしまう。ダイヤモンドとセラミックスとが直接接する領域が大きくなりすぎると、前述の応力緩和効果が低下するばかりか、金属膜の面積が少なくなることを意味するので、電極全体の抵抗値が上がってしまう。
【0025】
よって、以上の効果を効果的に得るには、導電性ダイヤモンド膜とセラミックス基板とが直接接する領域の面積は、導電性ダイヤモンド膜全体の面積に対し1/10〜1/100が望ましい。一方、ダイヤとセラミックが直接接触する領域毎の間隔d(図2(a)参照)は、ダイヤモンド膜の厚さtに対し2〜10倍であることが望ましい。
【0026】
具体的に、図2の参考例では、導電性ダイヤモンド膜7とセラミックス基板1とが直接接する領域の面積は、導電性ダイヤモンド膜7全体の面積に対し1/25としている。また、ダイヤモンドとセラミックとが直接接触する領域毎の間隔dは、ダイヤモンド膜の厚さtに対し4倍としている。
【0027】
導電性ダイヤモンド膜7の厚さt(図2(a)参照)は、1μm〜50μmが良い。更に好ましくは、tは1〜10μm、最も好ましくは1〜5μmである。背面電極4は、溶液と接触しないように配置する必要があるため、ダイヤモンド膜7は厚さが1μm以上とし、ダイヤモンド膜7のピンホール形成を避け、背面電極4の溶液への露出を防止することが好ましい。また、背面電極4の厚さは100nm〜300nmが好ましい。
【0028】
このようにして製造された本参考例のダイヤモンド電極は、図6に示すように、リード線8を上方にし電極部7aを下方にして、この電極部7aを容器40内の溶液41中に浸漬する。そして、ダイヤモンド電極44と、同様に溶液中に浸漬された参照電極43との間に、電源及び測定器42から電圧を印加して流れる電流を測定することにより、高感度の化学センサを構成することができる。この場合に、背面電極4はセラミックス基板1の凹部3の底面に形成されており、この凹部3を埋め込むダイヤモンド膜7により被覆されているので、溶液に接触しているのは、ダイヤモンド膜4及びセラミクス基板1のみであり、いずれも溶液に対して化学的に安定である。従って、本参考例のダイヤモンド電極は、耐久性が高い。
【0029】
なお、本参考例においては、ダイヤモンド成膜中の環境(約800℃の温度で、水素リッチ雰囲気)で、背面電極4に自然に凝集が起こり、孔9が形成されたが、この孔9の形成は、背面電極成膜時に、マスク材(フォトレジストなど)をドット状に配置することによっても、網状の背面電極を形成することができる。これにより、剥離及び亀裂のないダイヤモンド電極を形成できる。なお、ダイヤモンド膜7は基板1の片面に限らず、両面に形成してもよい。基板の表裏両面にダイヤモンド膜を成膜することにより、応力による基板の反りを相殺でき、これにより、ダイヤモンド膜の剥離及び亀裂の発生を防止することができる。
【0030】
次に、図3を参照して本発明の第2の参考例について説明する。図3(a)は本参考例のダイヤモンド電極の平面図、図3(b)は同じくその幅方向中心部をとおる横断面図である。先ず、導電性のシリコン基板10の表面に、電極部12a、引出部12b、及び端子部12cからなる背面電極12の平面形状の凹部11を形成する。この凹部11の形成は、化学的エッチング又はサンドブラスト等の物理加工により、行うことができる。
【0031】
次いで、金属からなる背面電極12を、フォトリソグラフィ又はステンシルマスク等を利用して、凹部11の底面にのみ形成する。その後、背面電極12上に、導電性ペースト13により、ダイヤモンド膜15を接着する。このダイヤモンド膜15はドーパントを添加した低抵抗シリコン基板14上に形成されたものであり、基板14の下面を銀ペースト又はカーボンペースト等を乾燥させた導電性ペースト13により背面電極12の電極部12aに接着する。次いで、背面電極12の端子部12a上にリード線17を接続する。
【0032】
その後、ダイヤモンド層15とシリコン基板10との間の隙間と、背面電極12の電極部12aの基板10との境界部と、引出部12bと基板10との境界部及び端子部12cと基板10との境界部を含めた引出部12b及び端子部12c上の部分を、封止材16で被覆する。即ち、背面電極12におけるダイヤモンド膜15に被覆されていない部分、ダイヤモンド膜15及び背面電極12とシリコン基板との境界部を、封止材16で被覆する。隙間又は溝においては、封止材16が充填される。この封止材16としては、セラミックペースト又は樹脂等がある。
【0033】
本参考例においても、リード線17を上方、ダイヤモンド電極15を下方にして、図6に示すように、容器40内の溶液41中に浸漬する。この場合に、背面電極12は、基板10の表面に形成された凹部11内に形成され、ダイヤモンド膜15及び封止材16により被覆されているので、ダイヤモンド電極の耐久性が高い。また、ダイヤモンド電極15は、図3に示すように、基板10の片面に設けても良いし、両面に設けることもできる。
【0034】
次に、本発明の第3の参考例について図4(a)乃至(c)を参照して具体的に説明する。シリコン基板20の表面に、平面視で、四角形状のドットを、行列方向に配置して、これをマスクとし化学エッチングするか、サンドブラスト等の物理加工により、50乃至250μmの間隔で、深さが1乃至10μmの溝21を基板20の表面に格子状に形成する。その後、ダイヤモンド膜22を格子状の溝21の形成領域に形成する。このようにして形成されたダイヤモンド膜22は溝21内に充填されているので、ダイヤモンド膜22の剥離及び亀裂を防止できる。
【0035】
なお、溝の幅と深さは、溝の上のダイヤモンド粒同士が接触しない程度のものにすればよく、いずれも膜厚と同程度でよい。溝断面は、矩形でも逆三角形でもよく、図4(c)に示すように、波状のようななだらかな形状でもよい。
【0036】
また、図4(b)の一部拡大図に示すように、基板20の凹凸に応じてダイヤモンド膜22の表面に凹凸が存在している。これにより、アンカー効果を得ることができ、ダイヤモンド膜22の表面が平滑な場合よりもダイヤモンド膜22の基板20に対する密着性が高くなる。
【0037】
薄膜電極引き出し部23は、ダイヤモンド電極と電気的に接触し、電流を導く。ダイヤモンド電極に直接リード線を固着させてもよいが、技術的に非常に難しい。そのため、金属からなる薄膜電極を同じ基板上に設け、ダイヤモンド電極とは金属成膜と同時に接触させる。その金属電極を介して、超音波接着又は半田付けなどの既存の金属対金属接合方法により、別のリード線に接続し、これを電源又は信号検出装置に接続する。
【0038】
図4に示す参考例では、前述の方法によりダイヤモンド膜を部分的に成膜する。膜厚は1μmより薄いと背面電極が露出してしまう。これを防ぐのに膜厚を増やすと成膜コストが上がるばかりか応力が大きくなり剥離及び亀裂の原因となる。本参考例における適当な膜厚の上限は5μmである。これにより、剥離、亀裂の少ないダイヤモンド電極を形成できる。薄膜電極を基板上にエッチングなどを用いてパターニングし、ダイヤモンド膜と接合する。ダイヤモンド膜は、基板上に窪みを設けて成膜してもよい。
【0039】
このように、基板表面に溝を設けることにより、ダイヤモンド膜に印加される圧縮応力を緩和することができ、これにより、ダイヤモンド薄膜の剥離及び亀裂を防ぐことができる。
【0040】
図5(a)、(b)は本発明の第4の参考例のダイヤモンド電極を示す。本参考例においては、金属、半導体、セラミックス等の基板30の一端部を除いてほぼ全面を被覆するように導電性ダイヤモンド膜31が形成されている。そして、露出した基板の一端部に、リード線32の端部が形成されており、この部分でリード線32が導電性ダイヤモンド膜31に接続されている。また、このリード線32と導電性ダイヤモンド膜31との接続部が封止材33により被覆されている。
【0041】
このように構成された本参考例のダイヤモンド電極においては、導電性ダイヤモンド膜31の部分を溶液に浸漬し、図6に示す参照電極との間で流れる電流を測定する。この構造のダイヤモンド電極においても、溶液に接触するのは、ダイヤモンド膜のみであるので、耐久性が高い。
【0042】
図7(a)乃至(d)は本発明の実施形態に係るダイヤモンド電極装置を示す図である。図7(b)に示すように、ダイヤモンド電極40は、Si,Mo,W等の低抵抗基板41の裏面の一部にマスクを形成し、その状態で、全面に導電性ダイヤモンド膜42を形成する。その後、マスクを除去し、基板を露出させ、基板露出部に導電性ペーストを塗布するか、又は金属膜を成膜して、電極パッド43を形成する。このようにして形成された電極パッド43には、図7(c)に示すように、リード線44が接続される。
【0043】
カバー46はその前面に開口部49が形成されており、この開口部49の近傍にダイヤモンド電極40が配置される。カバー46は円筒状をなし、前端部近傍の内面にねじが形成されており、外面にねじが形成された円板状の押さえ板47をカバー46内面のねじに螺合させて、押さえ板47を開口部49の近傍にねじ込むことができる。そして、ダイヤモンド電極40を電極パッド43がカバー46の後部側になるようにして、カバー46の開口部49の縁部の内面に押し当て、リード線44を押さえ板47の孔に挿通させて外部に引き出しつつ、押さえ板47をカバー46の内面に螺合させ、ダイヤモンド電極40の裏面までねじ込む。そして、ダイヤモンド電極40とカバー46の開口部縁部の内面との間、及びダイヤモンド電極40と押さえ板47との間に、Oリング50を配置し、押さえ板47でダイヤモンド電極40をカバー46の開口部縁部内面に向けて押圧することにより、ダイヤモンド電極40とカバー46及び押さえ板47との間を液密的に封止する。また、1対のOリングにより封止されたカバー46とダイヤモンド電極40との間の空間には、流動性の樹脂52が充填されている。また、カバー46の外面には、参照電極45が形成されている。
【0044】
このように構成されたダイヤモンド電極装置においては、図7(d)に示すように、溶液53が収納された容器54の側面に、ダイヤモンド膜42が溶液53に接触するように配置する。そして、ダイヤモンド膜42に電極パッド43を介して接続されたリード線44と参照電極45とを電源及び測定器51に接続し、ダイヤモンド膜42と参照電極45との間に電位を印加し、流れる電流を測定する。このようにして、高精度の微量物質センサが得られる。なお、参照電極45はカバー46の外面に形成する場合に限らず、図6に示すように、容器54内の溶液53中に浸漬するものであってもよい。
【0045】
背面電極4,12、薄膜引き出し電極23,電極パッド43等の電極材料としては、ダイヤモンドと電気的に接触抵抗が低いものが好ましい。例えば、白金、金、Ir、Ti、TiN、W,Mo、TaN、Pd、Mg又はこれらの元素の合金を使用することができる。また、これらの薄膜の上に更に白金又は金等の酸化しにくい金属を積層することが望ましい。
【0046】
封止材としては、対象とする溶液により、これに耐性のある材料を適宜選ぶことができる。エポキシ、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド、ゴム、ポリエチレン、又はフェノール樹脂等を使用することができる。
【0047】
基板としては、シリコン、石英、アルミナ、窒化ボウ素、又は黒鉛等を使用できる。基板は低抵抗材料が望ましいが、ダイヤモンドに導電性があるため、高抵抗又は絶縁性のものでもよい。リード線は、耐溶液に優れた金又は白金が望ましいが、液につからないようにすれば、銅等の他の金属でもいい。ダイヤモンドとの密着性が確保するために、下地として、蒸着等の薄膜を使用し、その上には、上述の超音波接着方法でリード線を接続する。
【0048】
また、Oリング50は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、又はバイトンを使用することができる。流動性樹脂52は、シリコーン樹脂系コーキング剤等を使用できる。
【0049】
更に、使用できる溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、リン酸、シュウ酸、治亜鉛素酸、過亜塩素酸、クロム酸硫酸溶液、過酸化水素などの酸化性液体、又はこれらの混合液、及び水溶液、又は王水等がある。更にまた、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリ水溶液若しくは現像液、又はそれらと過酸化水素との混合液。ヨウ化カリウム、青酸塩、メッキ液、又は上記酸の塩の水溶液等もある。更にまた、フェノール類、アミン類、生活排水、産業廃水、血液、地下水等の鉱物含有水、プール若しくは温泉等の水、オゾン水等もある。バッファードフッ酸及び希フッ酸等の基板のセラミックスをあまり溶かさない程度のフッ酸溶液も使用できる。
【0050】
本実施形態においては、溶液が接触するのは、ダイヤモンド膜42のみであり、電極パッド43及びリード線44等は、Oリングにより封止されて溶液には接触しない。このため、このダイヤモンド電極装置の耐久性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ダイヤモンド電極を有する様々な装置に好適である。
【符号の説明】
【0052】
1,10,14,20,30,41:基板、4,12:背面電極、7,15,42:ダイヤモンド膜、8,17,32,44:リード線、13:導電性ペースト、16,33:封止材、40:ダイヤモンド電極、43:電極パッド、45:参照電極、52:樹脂、54:容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するカバーと、この開口部の周辺部の裏面に前記開口部を閉塞するように配置されたダイヤモンド電極と、前記ダイヤモンド電極と前記カバーとの間に配置された封止部と、前記カバーの表面に配置された参照電極と、を有し、前記ダイヤモンド電極は、基板と、前記基板の裏面の一部を除いて前記基板を被覆する導電性ダイヤモンド膜と、前記基板の裏面における前記導電性ダイヤモンド膜に覆われていない部分に形成された背面電極と、前記背面電極に接続されたリードと、を有し、前記導電性ダイヤモンド膜は前記開口部に面しており、電極使用時には、前記カバー、前記導電性ダイヤモンド膜及び前記参照電極の少なくとも一部の表面が溶液に接触するように構成されていることを特徴とすることを特徴とするダイヤモンド電極部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−180158(P2011−180158A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139257(P2011−139257)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【分割の表示】特願2006−149010(P2006−149010)の分割
【原出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)