説明

ダム施工方法

【課題】 1次切替え仮水路をダム本体として活用することにより、通常は2回行われる河流の切替えを1回にすることを可能にするダム施工方法を提供することである。
【解決手段】 転流水路の設置箇所を掘削する工程と、転流水路の基礎を打設する工程と、転流水路を構築する工程と、河川の上流側に仮締切り部を構築して、河流を転流水路に切り替える工程と、ダム堤体の設置箇所のうち転流水路以外の箇所を掘削する工程と、CSG又はコンクリートを用いてダム堤体下部の打設を行う工程と、ダム堤体に通廊を構築する工程と、CSG又はコンクリートを用いてダム堤体上部の打設を行う工程と、転流水路の呑口の湛水ゲートを閉鎖する工程と、転流水路と前記通廊との交差部の施工を行う工程と、転流水路を閉塞する工程とを含む施工方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ダムの施工方法に関する。より詳細には、本発明は、1次切替え仮水路をダム本体として活用する台形CSGダム及びコンクリートダムの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湛水(止水)機能と高い安全性を要求されるダムは一般的に、河川の横断方向に延びるように築造されるため、工事に際しては、施工性および出水による安全性に配慮した河流処理対策が必要となる。従来、河流処理の方法としては、仮排水路トンネル方式、半川締切方式、仮排水開渠方式などがあり、対象となる河川の河流水量、地形地質条件、ダム型式などを勘案し、安全性、施工性、経済性などを総合的に考慮して最適な方式が選定される。
【0003】
このうち仮排水路トンネル方式は、地山斜面内にトンネルを掘削して河川を切り替える方法であり、ダム本体工事を河流水と無関係に実施することができるという利点を有するものの、トンネル工事に要する工期と工事費が別途必要となる。
また、半川締切方式は、河川を片側に寄せて開水路(1次水路)を設置し、本体工事を分割して行う方法であり、河幅が広く、河川流量も大きいため、仮排水路トンネル方式や仮排水開渠方式を採用することが著しく不経済である場合に採用されるが、分割施工に伴い、一般的に、ダム本体の工事期間が長くなるという課題がある。
さらに、仮排水開渠方式は、U字溝、コルゲート管などを用いて簡易水路(1次水路)を設置し、本体工事を分割して行う方法であり、対象となる河川の河川水量が少ない場合に採用されるが、半川締切方式の一種と考えることもできる。
【0004】
上述の半川締切方式や仮排水開渠方式では、分割施工が行われるため、先行ブロックには後続ブロックを施工するための堤内仮排水路(2次水路)を必要とする。そして、2次水路が完成した後、河川を切り替え、後行ブロックおよび堤内仮排水路より上部全体が施工される。堤内仮排水路は、ダムが完成した後、閉塞され、湛水が開始される。したがって、安全かつ確実に湛水するために、堤内仮排水路には、閉塞ゲートなどの設備が設けられる。一方、ダム高15m未満の低ダムでは、仮排水開渠を設置し、その開渠を本体の一部としてそのまま埋設している事例が見受けられるが、その場合、2次水路を必要としないため、工程上有利となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ダム高15m未満の低ダムでは、仮排水開渠を本体の一部として利用している例があるが、河川法に基づく重要構造物であるダムにおいては、以下に示す3つの理由により、仮排水開渠(1次水路)を埋設した事例は見当たらない。
(1)コンクリート水路やコンクリート管などを設置した場合、水路や管周辺での恒久的で確実な止水機能の確保が困難であり、また、ダムが完成して湛水が開始された後には、異常発生時の補修が困難である。
(2)ダムには一般的に、揚圧力の軽減および漏水量の管理のため、通廊が設置されており、通廊の設置標高は、その設置目的から、ダム底付近となる。1次水路を本体の一部として埋設した場合には、1次水路が河床付近の標高となるため、通廊と1次水路が交錯するおそれがある。そのような場合には、通廊は、1次水路を避けて配置しなければならないが、管理・機能上からは適当な配置とは言い難い。
(3)ダムは、設計条件に見合った良好な岩盤上に築造する必要がある。そのため、ダムの築造に際しては、他の土木構造物とは異なる地質調査および評価・解析を行ってダムの基盤が決定されるが、それにもかかわらず、掘削時に想定外の断層などの弱層が発見されて、基盤を変更する場合も少なくない。したがって、1次水路を本体の一部として先行打設する場合、その周辺をも含めた比較的広い範囲の岩盤の状況を確認したうえで施工する必要がある。このため、1次水路を本体に活用することはなく、2次水路を設置するのが慣例とされている。
【0006】
以上より、ダム建設工事においては、通常、河流を1次水路と2次水路に切り替えることが必要とされており、そのため、施工が分断され、工期の延長の一因になるとともに、施工の一層の合理化が阻害されている。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、1次切替え仮水路をダム本体として活用することにより、通常は2回行われる河流の切替えを1回にすることを可能にするダムの施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、台形CSGダム及びコンクリートダムに使用される(CSGとは、Cement Sand and Gravelの略であり、以下「CSG」という)。台形CSGダムの堤体は、台形形状であるため、一般のコンクリートダムと比較して、発生応力が小さくなり、これにより、ダムの基礎岩盤への要求性能も低くなる。したがって、台形CSGダムとした場合、上述の(3)の課題は、解消されることとなる。ここで、CSGとは、河床砂礫や掘削土などの現地発生材とセメントとを混合することによって形成される材料である。また、一般のコンクリートダムであっても、当初から本発明の施工方法の使用を想定して十分な調査を行い、基礎岩盤への要求性能を満たしていると判断された場合には、台形CSGダムと同様に、本発明の方法を適用することができる。
【0009】
本願請求項1に記載の台形CSGダム及びコンクリートダムの施工方法は、転流水路の設置箇所を掘削する工程と、前記転流水路の基礎を打設する工程と、前記基礎上への転流水路用プレキャスト部材の設置又は場所打ちコンクリートによって転流水路を構築する工程と、河川の上流側に仮締切り部を構築して、河流を前記転流水路に切り替える工程と、ダム堤体の設置箇所のうち前記転流水路以外の箇所を掘削する工程と、CSG又はコンクリートを用いてダム堤体の下部の打設を行う工程と、前記ダム堤体に通廊を構築する工程と、CSG又はコンクリートを用いてダム堤体の上部の打設を行う工程と、前記転流水路の呑口の湛水ゲートを閉鎖する工程と、前記転流水路と前記通廊との交差部の施工を行う工程と、前記転流水路を閉塞する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項2に記載の台形CSGダム及びコンクリートダムの施工方法は、転流水路の設置箇所を掘削する工程と、前記転流水路の基礎を打設する工程と、前記基礎上への転流水路用プレキャスト部材の設置又は場所打ちコンクリートによって転流水路を構築する工程と、河川の上流側に仮締切り部を構築して、河流を前記転流水路に切り替える工程と、ダム堤体の設置箇所のうち前記転流水路以外の箇所を掘削する工程と、CSG又はコンクリートを用いてダム堤体の打設を行う工程と、前記転流水路を閉塞する工程とを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の施工方法によれば、保護・遮水コンクリートと接する転流水路上流側を場所打ちコンクリートとすることにより、上述の課題(1)が解消され、転流水路および通廊の交差部に止水壁を構築することにより、上述の課題(2)が解消され、さらに、台形CSGダムとする、及びコンクリートダムにおいては基礎岩盤への要求性能を確認することにより、上述の課題(3)が解消されるため、転流水路をダム本体として活用することが可能になり、工期の短縮、建設コストの低減、施工の合理化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係るダム施工方法について詳細に説明する。図1は、本発明の好ましい実施の形態に係るダム施工方法を示したフロー図、図2は、本発明の方法によりダムが施工される地域を模式的に示した図である(図2において破線で示したのが、施工されるダム堤体である)。本例において施工されるのは、台形CSGダム及びコンクリートダムである。ここで、台形CSGダムとは、CSGを用いて構築される台形状のダムをいう。
【0013】
まず最初に、転流水路の設置箇所を掘削する(工程1)。図2に示される例では、転流水路設置箇所に斜面部が含まれているので、斜面部も掘削する(図3参照)。次いで、転流水路の基礎を打設する(工程2)。基礎の打設には、通常のコンクリートの他、CSGを使用してもよい。
【0014】
次いで、基礎上への、転流水路用プレキャスト部材の設置又は場所打ちコンクリートによって、転流水路を構築する(工程3)。しかる後、図4に示されるように、上流側に仮締切り部を構築して、河流を転流水路に切り替える(工程4)。その後、上流側および下流側に締切り部を構築する。
【0015】
次いで、ダム堤体の設置箇所のうち転流水路以外の箇所を掘削する(工程5)。次いで、ダム堤体の下部のCSG又はコンクリート打設を行う(工程6)。
【0016】
次いで、ダム堤体に通廊を構築する(工程7)。通廊とは、ダム完成後の監査、各種測定、堤体および基礎の排水、グラウト作業、ゲート操作などを行うために、ダム堤体内部に設けられる通路のことであり、監査廊とも呼ばれる。通廊の構築は、プレキャスト部材を用いてもよいし、場所打ちコンクリート方式としてもよいが、工期短縮が可能となることの他、後述する交差箇所の段階的施工を容易にする等の利点を有するため、前者の方式が好ましい。一般に逆U形の横断面形状を有する通廊の構築にプレキャスト部材を用いる場合には、プレキャスト部材を所定箇所に設置し、プレキャスト部材の下面部に高流動コンクリートを充填することによって施工される。
【0017】
通廊を構築した後、ダム堤体の上部のCSG又はコンクリート打設を行う(工程8)。これにより、ダム堤体が完成する(図5参照)。次いで、転流水路の呑口の湛水ゲートを閉鎖する(工程9)。これにより、転流水路への通水が遮断される。
【0018】
次いで、転流水路と通廊との交差部の施工を行う(工程10)。交差部の施工においては、転流水路を閉塞する際、保護・遮水コンクリートと接する転流水路上流側を場所打ちコンクリートとし、交差面を止水壁(例えば、鋼板、コンクリート壁)で予め覆う。図6(a)は、転流水路と通廊との交差部を上流側から見た模式図である。止水壁で覆う場合には、転流水路と交差する箇所の通廊開口部に鋼板を設置し又はコンクリート壁を打設し(図6(b)参照)、転流水路を閉塞する工事を行った後に、止水壁を撤去し、通廊のプレキャスト部材又は通廊型枠を設置する(図6(c)参照)。
【0019】
最後に、図7に示されるように、転流水路を閉塞して、ダムの施工が完成する(工程11)。
【0020】
なお、上述の実施の形態では、通廊を備えたダムの施工に関連して説明されているが、小規模ダム等のように通廊を設置しない場合には、上述の説明における工程6、7、10は不要となる。
【0021】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の施工方法を示したフロー図である。
【図2】本発明の方法によりダムが施工される地域を模式的に示した図である。
【図3】転流水路の設置箇所を掘削している状態を示した図である。
【図4】河流を転流水路に切り替えた状態を示した図である。
【図5】ダム堤体が完成した状態を示した図である。
【図6】転流水路と通廊との交差部の施工を説明するための図である。
【図7】転流水路を閉塞してダムの施工が完成した状態を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台形CSGダム及びコンクリートダムの施工方法であって、
転流水路の設置箇所を掘削する工程と、
前記転流水路の基礎を打設する工程と、
前記基礎上への転流水路用プレキャスト部材の設置又は場所打ちコンクリートによって転流水路を構築する工程と、
河川の上流側に仮締切り部を構築して、河流を前記転流水路に切り替える工程と、
ダム堤体の設置箇所のうち前記転流水路以外の箇所を掘削する工程と、
CSG又はコンクリートを用いてダム堤体の下部の打設を行う工程と、
前記ダム堤体に通廊を構築する工程と、
CSG又はコンクリートを用いてダム堤体の上部の打設を行う工程と、
前記転流水路の呑口の湛水ゲートを閉鎖する工程と、
前記転流水路と前記通廊との交差部の施工を行う工程と、
前記転流水路を閉塞する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
台形CSGダム及びコンクリートダムの施工方法であって、
転流水路の設置箇所を掘削する工程と、
前記転流水路の基礎を打設する工程と、
前記基礎上への転流水路用プレキャスト部材の設置又は場所打ちコンクリートによって転流水路を構築する工程と、
河川の上流側に仮締切り部を構築して、河流を前記転流水路に切り替える工程と、
ダム堤体の設置箇所のうち前記転流水路以外の箇所を掘削する工程と、
CSG又はコンクリートを用いてダム堤体の打設を行う工程と、
前記転流水路を閉塞する工程と、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−32129(P2007−32129A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218136(P2005−218136)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(594135151)財団法人ダム技術センター (12)
【出願人】(598059642)株式会社アイ・エヌ・エー (3)
【出願人】(595029886)アイドールエンジニヤリング株式会社 (4)
【出願人】(594157418)株式会社ドーコン (20)