説明

ダンディロール

【課題】用紙製造を行う長網抄紙機上で用いられるダンディロールであって、特に、すき入れ模様形成用のダンディロールの組み立て機構に関して、抄紙機のサイズ、製造する用紙の地合、表面の平滑及びすかし模様の制約を受けることなく、これらの条件の違いに合わせて、フレキシブルにサイズ変更ができるダンディロールを提供する。
【解決手段】ダンディロールの外周の円筒状の型枠が、ダンディロールの中心軸14に対して平行にn個(nは2以上の正の整数)に分割されたフレーム4から成り、フレームの伸縮は、ダンディロールの中心軸と分割されたフレームの距離を調整する機構により、中心軸から円周方向に伸縮することができ、直径が変更できることを特徴とするダンディロールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙製造を行う長網抄紙機上で用いられるダンディロールであって、特に、すき入れ模様形成用のダンディロールの組み立て機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長網抄紙機は、ヘッドボックスから水とともに紙料を金網の上に流して紙の層を作り、脱水させながら紙表面の平滑を調整するとともに乾燥させ、巻き取る仕組みとなっている。
【0003】
抄紙機上では、金網上での脱水途中に、透水性の押さえ網をロール表面に張ったダンディロールによって、湿紙の表面の平滑性や地合の調整を行っている。さらに、ダンディロールの表面に凹凸形状を有する模様を設けることで、紙料の一部に押し付けられることにより、紙料の一部が凹凸形状により厚さや密度を変化させてすかし模様を形成することができる。
【0004】
このため、ダンディロールは、湿紙表面の平滑性と地合の調整のみならず、すかし加工をするためにも重要な役割をしている。
【0005】
ところで、ダンディロールは、円筒状の型枠(ジャーナル部)と周囲に張られる網(網部)により形成されるが、目的に応じて、凹凸形状を有する模様とサイズ毎にダンディロールを保有しなければならず、コストがかかるものである。
【0006】
そこで、本出願人は、ジャーナル部と網部を分離、組み立て式の構成とした抄紙機用組み立て式ダンディロールに関する発明を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、本出願人は、ダンディロールの弱点に着目し、鋭意研究を行っており、例えば、すかし用紙を形成するためのダンディロールについて、上網ロールの抄造時の経時劣化を防止することのできるダンディロールの成形方法を開示している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−117992号公報
【特許文献2】特開2001−55680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようにダンディロールは、湿紙の脱水を助け、その表面の平滑を調整し、平らに仕上ることとすかしを付与する等の目的に使用されている。ダンディロールの直径は、抄紙機の幅、抄造速度、すき入れ模様及び紙料によって異なっている。
【0010】
1台の抄紙機で、多品種生産を行う場合、ダンディロールの直径の変動幅は、同じ抄紙機であっても、異なっている。ダンディロールの変動幅の一例として、直径約250mm〜直径約1,000mmであり、製造する用紙に合わせて様々な直径のダンディロールを用意する必要がある。さらに、抄紙機毎に専用のダンディロールを何種類も用意する必要があり、コストのかかるものであった。
【0011】
そこで、抄紙機のサイズ、製造する用紙の地合、表面の平滑及びすかし模様の制約を受けることなく、これらの条件の違いに合わせて、フレキシブルにサイズ変更ができるダンディロールを提供することである。
【0012】
製造中に、ダンディロールの網目が細かい紙料で詰まってくると、湿紙の上面の水は、網目を通って抜けることができなくなり脱水異常が起きる。そのため、この網目の箇所の湿紙は、ダンディロール面に僅かばかりの紙料が付着して持ち上がるようになり紙に跡をつけてしまうことになる。そこで、目詰まりにより品質異常が起きたときは、網目に詰まった紙料を取り除くために、通常は、蒸気を吹きつけたり、清水をスプレーさせたりしてクリーニングする装置及び排出口を設けていたため、目詰まり時にすばやく解消できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
長網抄紙機用のダンディロールであって、ダンディロールの外周の円筒状の型枠が、ダンディロールの中心軸に対して平行にn個(nは2以上の正の整数)に分割されたフレームから成ることを特徴とするダンディロールである。
【0014】
フレームの伸縮は、ダンディロールの中心軸と分割されたフレームの距離を調整する機構により、中心軸から円周方向に伸縮することができ、ダンディロールの直径が変更できることを特徴とするダンディロールである。
【0015】
分割されたフレームの距離を調整する機構は、ダンディロールの中心軸と分割されたフレームを接続する支持棒にボルト状の螺旋溝を形成してあり、支持棒にロックナットを有する位置調整可能ネジを有することを特徴とするダンディロールである。
【発明の効果】
【0016】
ダンディロールの直径を調節自在にできる機構を設けたことで、これまで、製品別に必要であったダンディロールが、一本のダンディロールで各種条件の製品について汎用して使用することができるようになった。
【0017】
本発明のダンディロールは、直径を変化させることによって、目詰まりした押さえ網の網目を開くことができるので、詰まった紙料が容易に除去され、目詰まりが解消されやすくなった。
【0018】
ダンディロールの保有本数が少なくなり、保管に関するコストが大幅に下がった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】長網抄紙機の概略図。
【図2】本発明のダンディロール2´を搭載した長網抄紙機1の概略図。
【図3】本発明のダンディロールの断面図。
【図4】フレキシブル機構部の概略図。
【図5】本発明のダンディロール2´の直径を伸張した場合のフレキシブル機構部分。
【図6】本発明のダンディロール2´の直径を伸長した場合のダンディロール2´の断面図。
【図7】本発明のダンディロール2´の直径を縮小した場合のダンディロール2´の断面図。
【図8】本発明のダンディロール2´のフレーム4部分について説明した図。
【図9】本発明のダンディロール2´の直径を微調整した場合のワイヤの伸張について説明した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態が含まれる。
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は、従来の長網抄紙機1の概略図である。図2は、本発明のダンディロール2´を搭載した長網抄紙機1´の概略図である。図3は、本発明のフレキシブル機構部3からなるフレキシブル機構を搭載したダンディロール2´の断面図である。図4は、本発明のダンディロール2´のフレキシブル機構部分について説明する図である。図5は、本発明のダンディロール2´の直径を伸張した場合の図である。図6は、本発明のダンディロール2´の直径を伸張した場合の断面図である。図7は、本発明のダンディロール2´の直径を縮小した場合の断面図である。図8は、ダンディロール2´のフレーム4部分について説明した図である。図9はダンディロール2´の直径を微調整した場合のワイヤの伸張について説明した図である。
【0022】
図2は、本発明のフレキシブル機構を搭載したダンディロール2´の概略図である。図2に示すように本発明のダンディロール2´は、長網抄紙機上の長網抄紙部12に設けられる。
【0023】
図3に示すように、一例として、本発明のフレキシブル機構を搭載したダンディロール2´は、フレームが4つのパーツに分割されている。4つのパーツのそれぞれは、中心軸14から外周方向に等距離を保つようにフレーム支持部A5によって保持されている。
【0024】
図4は、フレーム4に取り付けられたフレキシブル機構部3である。フレキシブル機構部3は、支持棒と成る送りネジ9、固定用のロックナットと成るネジA7、ネジB8及びフレーム支持部B6から成っている。送りネジ9は、ネジA7、ネジB8及びフレーム支持部B6を貫通しており、フレーム支持部B6を適切な位置に移動させ、ネジA7及びネジB8によって固定することができるようになっている。
【0025】
図5は、図4の状態に対して、ダンディロール2´の直径が最大になるようにフレキシブル機構を調整した場合の図である。送りネジ9の端までフレーム支持部B6を移動させ、ネジA7及びネジB8によって固定することにより、直径が伸張する。
【0026】
図6は、直径が大きくなった場合のダンディロール2´の断面図である。隣接するフレーム4同士間に隙間が生じることによって、ダンディロール2´の直径の伸張にフレーム4が対応できるようになっている。
【0027】
図7は、直径が小さくなった場合のダンディロール2´の断面図である。フレーム4同士が重なり合うことによって、直径の縮小に対応できるようになっている。
【0028】
図8は、ダンディロール2´のフレーム4についての図である。フレーム4は、ダンディロール2´の円周に対して平行方向に凹凸が形成されており、フレーム4同士の凹凸がギア状に重なり合うことによって、直径の伸縮に対応できるようになっている。
【0029】
ダンディロール2´の直径の変動幅は、フレーム4の分割数によって決定される。変動幅を大きくしたい場合は、フレーム4の分割数を適宜多くすれば良い。
【0030】
表1に、フレーム4の分割数と、基本となる直径に対する変動幅の関係を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表2に、ダンディロール2´の基本となる直径が400mmの場合を例として、フレーム4の分割数に対する、変更可能な直径の最大値と最小値を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表3に、フレーム4の分割数が2で、ダンディロール2´の回転数を一定(120rpm)とした場合の、直径と抄造条件についての関係を示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表4に、フレーム4の分割数が4で、ダンディロール2´の回転数が一定(120rpm)とした場合の、直径と抄造条件についての関係を示す。
【0037】
【表4】

【0038】
表5に、フレーム4の分割数が8で、ダンディロール2´の回転数が一定(120rpm)とした場合の、直径と抄造条件についての関係を示す。
【0039】
【表5】

【0040】
表6に、フレーム4の分割数が16で、ダンディロール2´の回転数が一定(120rpm)とした場合の、直径と抄造条件についての関係を示す。
【0041】
【表6】

【0042】
図9は、ダンディロール2´の直径を微調整した場合に押さえ網13のワイヤの伸張について説明した図である。ダンディロール2´の直径が伸張することにより、流れ方向に対して平行であるワイヤの縦線が伸張し、網目の空隙の形状が変化し、網目が広がる。これにより、網目に詰まった紙料等の除去が容易となる。
【0043】
ダンディロール2´は、表2に示した変更可能な直径の最大値よりも、調整代として数10mm程度、直径を大きくすることが可能な設計となっている。これにより、ダンディロール2´の直径が最大値の状態で使用している際に、緩みを解消するため押さえ網を張りたい場合や、清掃時にワイヤ目を広げたい場合に、直径を微調整して数10mm程度広げることが可能となる。
【0044】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例1】
【0045】
抄造速度が120m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が2つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を320mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、良好な地合の用紙を抄造することができた。
【0046】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を330mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙が1箇所当たり約12μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例2】
【0047】
抄造速度が180m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が2つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を480mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、抄造速度が高速となっても、ダンディロール2´の回転数を低速の状態と同程度に保つことができたため、良好な地合の用紙を得ることができた。
【0048】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を490mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙が1箇所当たり約8μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例3】
【0049】
抄造速度が110m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が4つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を300mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、良好な地合の用紙を抄造することができた。
【0050】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を310mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙が1箇所当たり約13μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例4】
【0051】
抄造速度が190m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が4つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を500mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、抄造速度が高速となっても、ダンディロール2´の回転数を低速の状態と同程度に保つことができたため、良好な地合の用紙を得ることができた。
【0052】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を510mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙が1箇所当たり約8μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例5】
【0053】
抄造速度が110m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が8つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を280mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、良好な地合の用紙を抄造することができた。
【0054】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を290mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙が1箇所当たり約14μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例6】
【0055】
抄造速度が230m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が8つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を600mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、抄造速度が高速となっても、ダンディロール2´の回転数を低速の状態と同程度に保つことができたため、良好な地合の用紙を得ることができた。
【0056】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を610mmに一時的に変更した結果、ワイヤの空隙が1箇所当たり約7μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例7】
【0057】
抄造速度が100m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が16つのダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を260mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、良好な地合の用紙を抄造することができた。
【0058】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を270mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙が1箇所当たり約15μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【実施例8】
【0059】
抄造速度が260m/minで用紙を抄造する際に、フレーム4の分割数が16のダンディロール2´を使用した。このとき、ダンディロール2´の直径を700mmに調整し、ダンディロール2´の回転数が120rpmの状態で抄造を実施したところ、抄造速度が高速となっても、ダンディロール2´の回転数を低速の状態と同程度に保つことができたため、良好な地合の用紙を得ることができた。
【0060】
また、ワイヤ網目(メッシュ数65)に紙料詰まりが発生した際に、清水をスプレーしてクリーニングを行った。その際、ダンディロール2´の直径を710mmに一時的に変更した結果、ワイヤ網目の空隙1箇所当たり約6μm広がり、スプレーによる紙料の除去が容易であった。
【符号の説明】
【0061】
1、1´ 抄紙機
2、2´ ダンディロール
3 フレキシブル機構部
4 フレーム
5 フレーム支持部A
6 フレーム支持部B
7 ネジA
8 ネジB
9 送りネジ
11 ヘッドボックス
12 長網抄紙部
13 押さえ網
14 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長網抄紙機用のダンディロールであって、前記ダンディロールの外周の円筒状の型枠が、前記ダンディロールの中心軸に対して平行にn個(nは2以上の正の整数)に分割されたフレームから成ることを特徴とするダンディロール。
【請求項2】
前記フレームの伸縮は、前記中心軸と前記分割されたフレームの距離を調整する機構により、前記中心軸から円周方向に伸縮することができ、前記ダンディロールの直径が変更できることを特徴とする請求項1記載のダンディロール。
【請求項3】
前記分割されたフレームの距離を調整する機構は、前記中心軸と前記分割されたフレームを接続する支持棒にボルト状の螺旋溝を形成してあり、前記支持棒にロックナットを有する位置調整可能ネジを有することを特徴とする請求項1又は2記載のダンディロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−195997(P2011−195997A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66167(P2010−66167)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】