説明

チアミン高生産変異微生物

【課題】 真菌を宿主として、チアミンを高生産する変異微生物を得ることを目的とする。
【解決手段】 下記3つの遺伝子を、それぞれチアミンにより発現抑制を受けない発現プロモーターに連結後、形質転換により宿主に導入し、宿主内で同時に発現させることにより、目的とするチアミンを多く生産する変異微生物を得た。
(1)チアゾール核合成酵素遺伝子
(2)ピリミジン核合成酵素遺伝子
(3)チアミンピロホスホキナーゼ遺伝子

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチアミン生合成可能な真菌から得られたチアミンを多く生産する変異微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内においてチアミンは、遊離チアミン、チアミンモノリン酸およびチアミンピロリン酸として存在している。チアミン生合成可能な真菌においては、前駆体である2−メチル−4−アミノ−5−ヒドロキシメチルピリミジン(ピリミジン核)と4−メチル−5−ヒドロキシエチルチアゾール(チアゾール核)が生合成された後、これら2つの前駆体が結合してチアミンモノリン酸となり、最後に脱リン酸化を経てチアミンが生合成される。さらにチアミンはチアミンピロホスホキナーゼによって修飾されてチアミンピロリン酸となり、生体内でエネルギー代謝等に関わる酵素の補酵素として利用される。
【0003】
チアミン生合成可能な真菌のチアミンの生合成に関与する遺伝子は、外部環境に存在するチアミンにより発現が抑制されることが知られている。例えばAspergillus oryzaeにおいて、ピリミジン核合成酵素遺伝子(nmtA)とチアゾール核合成酵素遺伝子(thiA)は、最終生産物であるチアミンピロリン酸により発現が抑制されることが知られている。つまり真菌のチアミン生産量は複数のチアミン生合成に関与する遺伝子群の発現段階で厳密に制御されており、そのためチアミンを高生産する変異微生物の取得は困難であった。
【0004】
チアミンはエネルギー生産に欠かせない補酵素(ビタミンB1)として知られており、各種栄養補助食品にも利用されている有用物質である。
【0005】
他にも清酒醸造において、発酵もろみ中にチアミンを添加することで、もろみ中のピルビン酸濃度が減少して、ピルビン酸から酵母により生合成される木香様臭やつわり香といった不快臭の発生を予防できることが知られている。
【0006】
遺伝子組換えによりチアミンを高生産するようになった微生物として細菌であるBacillus subtilisがあるが(非特許文献1参照)、真菌ではこれまでに報告がない。
【0007】
チアミンの製造方法は、合成法については広く知られている(非特許文献2、3参照)が、微生物による生産については知られていない。また、チアミンピロリン酸の製造方法(特許文献1参照)など、遊離チアミンを出発点としてチアミンの類縁体を製造する方法が報告されているが、これらはすべて原料にチアミンを必要としている。
【0008】
応用面については、高栄養酵母および酵母製品の製造方法として、酵母の培養条件を検討することでチアミン等を増加させる方法が報告されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、培養条件が制限されるため、汎用性という点で問題がある。また、清酒及び酒類の製造方法として、チアミン輸送能が低下した酵母変異株を用いて酒類の製造を行い、酒中のチアミン残存量を増加させる方法が報告されている(特許文献3参照)。しかし、これは原料由来のチアミンの減少量を抑制する方法であり、チアミンの生産量を増加させる方法ではない。
【0009】
【非特許文献1】J. Bacteriol., 187, 23, 8127, 2005
【非特許文献2】化学大辞典 第1版(1989) p1389 東京化学同人
【非特許文献3】同志社家政 vol.26 p13−18 Dec. 1992
【特許文献1】特開H08−9985号公報
【特許文献2】特開2006−14719号公報
【特許文献3】特開H11−243941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載されている方法は、培養時にチアミンの添加が必要であるため、培養条件の汎用性という点で問題があり、実用的なチアミン高生産方法ではない。
【0011】
また、非特許文献2、3に記載されている方法はチアミンの合成法である。消費者の健康志向の高まりと共に、合成品より天然品を求める傾向が強くなっている。特に大きな市場となった健康食品分野では顕著であり、天然チアミンの工業的製造法が望まれている。
【0012】
特許文献1に記載されている方法はチアミンを変換する方法であり、生産する方法ではない。
【0013】
特許文献2に記載されている方法は、培養条件が制限されており、チアミン製造に種々の制約があるため特定の目的にしか応用できず、広い分野への応用は不可能である。
【0014】
特許文献3に記載されている方法は、原料由来のチアミンの減少量を抑制する方法であり、チアミンの生産量を増加させる方法ではない。
【0015】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、真菌を宿主とするチアミンを高生産する変異微生物を創製することである。これを用いて通常の培養しやすい条件でチアミンを効率よく大量に生産でき、これによって食品分野や医薬分野など幅広い分野でチアミン含有製品を工業的に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。すなわち、
<1>チアミンを生合成することのできる真菌より得られる、チアミンを高生産する変異微生物を提供することである。
<2>チアミンの生合成に関与する2つの遺伝子である2−メチル−4−アミノ−5−ヒドロキシメチルピリミジン合成酵素遺伝子、4−メチル−5−ヒドロキシエチルチアゾール合成酵素遺伝子、およびチアミンの修飾に関与するチアミンピロホスホキナーゼ遺伝子の合計3遺伝子を、それぞれ宿主内でチアミンにより発現抑制を受けない発現プロモーターに連結して、宿主に同時に導入することで得られた前記<1>に記載の変異微生物を提供することである。
<3>宿主に用いた糸状菌がAspergillus属である前記<1>または<2>のいずれかに記載の変異微生物である。
<4>宿主に用いた糸状菌がAspergillus oryzaeである前記<1>または<2>のいずれかに記載の変異微生物である。
<5>宿主に用いた酵母がSaccharomyces属およびShizosaccharomyces属である前記<1>または<2>のいずれかに記載の変異微生物である。
<6>前記<1>または<2>に記載の方法で得られたチアミンを高生産するようになった変異糸状菌株TH1091(寄託微生物受領番号NITE AP−256)である。

【発明の効果】
【0017】
本研究者らが鋭意研究の結果、真菌である糸状菌Aspergillus oryzaeを宿主として取得したチアミンを多く生産する変異微生物は、培養開始時にチアミンを必要とせずに宿主の3〜4倍のチアミンを菌体内に蓄積した。また、チアミンの生合成遺伝子およびチアミンの修飾遺伝子をチアミンによる発現制御のかからない発現プロモーターに連結して宿主に形質転換することを特徴とするため、特別な培地・培養条件を必要とせずチアミンを高生産させられるという利点がある。また、この方法で取得したチアミンを多く生産する変異微生物は、外部からのチアミン取り込み量も減少するため、培養菌体と培地を含む培養系全体からチアミンを回収することで、より多くのチアミンを得ることができる。さらに、チアミンピロリン酸を高生産する変異微生物については過去に報告がなく、新規な特徴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
宿主に用いる真菌としてはチアミン生合成能を有していれば、その他の制限はないが、例えば糸状菌であればAspergillus属、酵母であればSaccharomyces属、Shizosaccharomyces属が好ましく、糸状菌であるAspergillus oryzaeがより好ましい。これらに対して前述のようにチアミンの生合成遺伝子群およびチアミンの修飾遺伝子をチアミンにより発現抑制を受けない発現プロモーターに連結して導入することで、チアミン高生産性を付与して有効に利用することができる。
【0019】
本発明において、宿主に形質転換する三つの遺伝子としては2−メチル−4−アミノ−5−ヒドロキシメチルピリミジン合成酵素遺伝子、4−メチル−5−ヒドロキシエチルチアゾール合成酵素遺伝子およびチアミンピロホスホキナーゼ遺伝子であれば特に制限はないが、好ましくは宿主由来の該遺伝子を用いるのがよい。発現プロモーターとしてはチアミンによる発現抑制を受けない高発現プロモーターであれば特に制限はないが、好ましくはAspergillus oryzaeのptrA遺伝子のプロモーター(PptrA)またはamyB遺伝子のプロモーター(PamyB)等が挙げられる。
【0020】
本発明のチアミンを多く生産する変異微生物はチアミンを生産させるために特別な培地を必要としないが、利用するプロモーターによっては発現の誘導に必要な成分を添加する必要がある。例えば本発明のTH1091はチアミンピロホスホキナーゼ遺伝子の発現プロモーターとしてPamyBを使用しているため、培地に炭素源として可溶性デンプン、デキストリンまたはイソマルトースのような多糖類の添加が必要である。
【実施例1】
【0021】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(thiA遺伝子およびnmtA遺伝子発現プラスミドpPRe1−nmtAの構築)
Aspergillus oryzae由来のthiA遺伝子(配列番号3、翻訳されたアミノ酸配列は配列番号4)は、プロモーター領域の一遺伝子変異(A −68 G)によりチアミンによる発現抑制が失われ、さらにこの上記変異は宿主に対しチアミンの代謝アナログであるピリチアミンに対する耐性を付与することが知られている。この変異遺伝子(ptrA遺伝子)を薬剤耐性遺伝子マーカーとして、またptrA遺伝子のプロモーター領域を遺伝子発現用のプロモーターとして含んだプラスミドpPRe1のptrA遺伝子のプロモーター下流にKpnIサイトを利用して、Aspergillus oryzae由来のnmtA遺伝子(配列番号1、翻訳されたアミノ酸配列は配列番号2)を挿入した。nmtA遺伝子はAspergillus oryzaeの全DNAを鋳型としてポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)法により増幅した。nmtA遺伝子の増幅には適当な制限酵素サイトを付加したプライマーを用いた。具体的には、両端にKpnIサイトを付加した上流プライマー(a)(配列表7)、下流プライマー(b)(配列表8)とを使用した。
(a)上流プライマー、5’−GTGGTACCATGTCTACTGACAAG−3’
(b)下流プライマー、5’−GTGGTACCTTATGCGCTAGAGGC−3’
【0023】
PCRの反応条件は、(98℃, 10秒)→(60℃, 30秒)→(72℃, 2分)で30サイクル行った。PCR増幅後の反応液は0.8%アガロース電気泳動により分離後、nmtA遺伝子である1.2 KbpのDNA断片をゲルから切り出し、DNACELL(第一化学薬品株式会社)を用いて精製後、TベクターpCR2.1(invitrogen)へLigation kit Ver.2(タカラバイオ株式会社)を用いてサブクローニングした。DNAシーケンサー(ABI PRISM 310)を用いてサブクローニングした塩基配列に非特異的な変異が無いことを確認した後、制限酵素KpnIによりnmtA遺伝子を切り出し、プラスミドpPRe1のKpnIサイトに挿入した。
【0024】
(thiP遺伝子発現プラスミドpTAex3−thiPの構築)
栄養要求性を相補する遺伝子マーカーとしてAspergillus nidulans 由来argB遺伝子を、チアミンによる発現抑制を受けない遺伝子発現用プロモーターとしてAspergillus oryzaeのamyB遺伝子のプロモーターを含むプラスミドpTAex3(独立行政法人酒類総合研究所)を利用し、amyB遺伝子のプロモーター下流のEcoRIサイトを利用してAspergillus oryzae由来のthiP遺伝子(配列番号5、翻訳されたアミノ酸配列は配列番号6)を挿入した。thiP遺伝子はAspergillus oryzaeの全DNAを鋳型としてPCR法により増幅した。thiP遺伝子の増幅にはthiP全長を増幅できるプライマーを用いた。具体的には、上流プライマー(c)(配列表9)、下流プライマー(d)(配列表10)とを使用した。
(c)上流プライマー、5’−TAAAGCAAATGGAGTGGGATCC−3’
(d)下流プライマー、5’−CTATCGATCCCTCTTCAACCT−3’
【0025】
PCRの反応条件は、(98℃, 10秒)→(60℃, 30秒)→(72℃, 2分)で30サイクル行った。増幅した断片は、nmtA遺伝子と同様に一度pCR2.1に連結し、DNAシークエンスにより非特異的な変異が含まれていないことを確認した後、pCR2.1に存在するEcoRIサイトを利用して再び切り出してプラスミドpTAex3のEcoRIサイトに挿入した。
【0026】
Aspergillus oryzaeへの各プラスミドの形質転換)
argB遺伝子が欠損したアルギニン栄養要求性株であるAspergillus oryzae M−2−3株( 独立行政法人酒類総合研究所 )にプラスミドpTAex3−thiPを形質転換してチアミンピロリン酸キナーゼ高発現形質転換株を得た。さらに該株にプラスミドpPRe1−nmtAを形質転換し、最終的にnmtA遺伝子、thiA遺伝子、thiP遺伝子の三つの遺伝子がチアミンピロリン酸により発現抑制されない三重変異微生物を得た。以下にその手法を示す。
【0027】
Aspergillus oryzae M−2−3株をDPY培地(0.5 % 酵母エキス、1 % ポリペプトン、2 % デキストリン、0.5 % KHPO、0.05 % MgSO・7HO pH 6.5)で30℃、160 rpm、24時間回転振とう培養後、得られた菌体を3G−1ブフナー型ガラスフィルターで回収した後、滅菌水で洗浄した。この菌体をTF液(1)(0.6 M (NHSO、50 mM マレイン酸緩衝液 pH 5.5、0.5 mg/ml Yatalase (タカラバイオ株式会社))に懸濁し、30℃、2時間、緩やかに振とうすることによりプロトプラスト化した。得られたプロトプラストを乾熱滅菌した 3G−3ブフナー型ガラスフィルターでろ過して残存する菌体を除去した後、TF液(2)(1.2M ソルビトール、50 mM CaCl、35 mM NaCl、10 mM トリスー塩酸緩衝液 pH 7.5)で2回洗浄し、最後に2×10 cells/mlとなるようにTF液(2)に懸濁してコンピテントセルを調製した。
【0028】
上記コンピテントセル0.2 mlに導入するthiP遺伝子発現プラスミドpTAex3−thiPを10 μg加え、氷上で30分間静置後、TF液(3)(60%(W/V)PEG4000、50 mM CaCl、10 mM トリス−塩酸緩衝液 pH 7.5)1.35 ml を加えてさらに15分間室温で静置した。10 ml の TF液(2)を加え、1800 rpm、5 分間 遠心して、プロトプラストを回収し、再度TF液(2)0.5 ml に懸濁した。このプロトプラスト懸濁液を再生用下層最少培地(Czapec−Dox(CD)最少培地(0.6 % NaNO、0.052 % KCl、0.152 % KHPO、0.21 % 1 M MgSO・7HO、0.1 % Trace elements* pH 6.5 *Trace elements:0.1 % FeSO・7HO、0.88 % ZnSO・7HO、0.04 % CuSO4・5H2O、0.015 % MnSO4・4H2O、0.01 % Na2BO7・10H2O、0.005 % ( NH4 )6Mo724・4H2O)、1 %Glucose、1.2 M ソルビトール、2 % Agar)上にのせ、あらかじめ45℃に保温しておいた再生用上層最少培地(下層培地組成のAgar濃度のみを0.5% に変えたもの)5 mlを重層してプロトプラストを包埋した。30℃、10日間培養後、生育してきた形質転換体を釣菌した。純化のためCD最少培地で 5 回継代培養した。
【0029】
次に上記形質転換体から得られた、チアミンピロリン酸キナーゼ高発現株を宿主としてthiA遺伝子およびnmtA遺伝子発現プラスミドpPRe1−nmtAを形質転換する際は、プロトプラスト作成用の菌体の培養に5 % Glucose、CD最少培地を用い、さらに形質転換後の再生用上層および下層培地には0.1 ppm ピリチアミンをオートクレーブ滅菌後に添加した。上記と同様の操作でthiA遺伝子およびnmtA遺伝子発現プラスミドpPRe1−nmtAを用いて形質転換を行ったプロトプラストを、0.1 ppmピリチアミン添加再生培地で30℃、10日間培養後、ピリチアミンに耐性を示して生育してきた形質転換体を釣菌した。純化のため0.1 ppm ピリチアミン添加、2 % Glucose、CD最少培地で 5 回継代培養した。
【0030】
(thiA遺伝子、nmtA遺伝子およびthiP遺伝子脱抑制株の選抜方法)
純化した形質転換体から全RNAを抽出し、thiA遺伝子、thiP遺伝子およびnmtA遺伝子をプローブとしてノザン解析を行い、これら三つの遺伝子のチアミンによる発現抑制が失われている(脱抑制している)ことを確認した。
【0031】
全RNAはISOGEN(株式会社ニッポン・ジーン)を用いて抽出し、変性0.8%アガロース電気泳動により分離してナイロンメンブレン・ハイボンドN+ (アマシャムバイオサイエンス株式会社)にブロットした。プローブとして、それぞれthiA遺伝子、thiP遺伝子またはnmtA遺伝子の全塩基配列を用いた。プローブのラベリングおよびシグナルの検出はECL Direct Nucleic Acid Labelling and Detection Systems(アマシャムバイオサイエンス株式会社)を用いた。宿主であるAspergillus oryzae M−2−3株はチアミン添加時にthiA遺伝子、nmtA遺伝子およびthiP遺伝子由来のシグナルが消失するが、左記の三つの遺伝子の発現プラスミドが導入された形質転換体では、チアミン添加時もこのシグナルが消失しない。これに基づいて目的の変異微生物を選抜した。
【0032】
以上の方法を用いて創製したAspergillus oryzaeの変異微生物として、TH1091株を挙げることができる。TH1091株のチアミン生産能力以外の菌学的性質はAspergillus oryzae M−2−3株に準じる。
【0033】
本願の発明に係るAspergillus oryzaeのthiA遺伝子、nmtA遺伝子、thiP遺伝子脱抑制変異微生物は、本株ばかりでなく、経代した子孫にも受け継がれ、発明として広い利用形態があるものと認められる。
【0034】
(培養菌体からのチアミン抽出)
変異微生物を2%デキストリン、CD最少液体培地で30℃、180rpmで36時間回転振とう培養した。培養菌体を3G−1ブフナー型ガラスフィルターで回収、滅菌水で洗浄し、チアミン抽出用サンプルとした。チアミン抽出はTrichloroacetic Acid(TCA)抽出法(日本食品科学工学会 新・食品分析法 p370(1996))に準じて行った。脱水後、菌体を菌体重量の10倍量の5 % TCAに懸濁し、室温で30分間200 rpm振とう抽出を行った。抽出液を遠心し(15,000rpm 10分)上清を回収し、1/10倍量の中和溶液を加え、0.45μmフィルターを通して菌体抽出液とした。
【0035】
(チアミンの分析)
チアミンの分析は、既報(本江 薫 ビタミン 68巻 7号 1994)に若干の変更を加えたポストカラムHPLC法によって行った。遊離型のチアミンとチアミンモノリン酸、チアミンピロリン酸の標準品を用いて検量線を作成した。移動相としてsolventA(0.2 M NaHPO・2HO)、solventB(0.2 M NaHPO・2H2O、0.06 M TCA、0.05 M NaOH、0.02 M CHCOONa)の混合比をsolventA:solventB=92:8の一定とし、流速を 1 ml/分とした。カラム通過後の移動相に、発色液( 250 ppm K[Fe(CN)]、5 % NaOH ) を流速 0.5 ml/分で混合し、40℃で60秒反応させ、反応液の蛍光(励起波長: 375nm、検出波長 450nm)を測定した。HPLCはWaters600Eシステム(Waters,MA.USA)を、分離カラムはWaters puresilTMC18(担体直径5 μm、カラム内径4.6 mm、カラム長さ250 mm)を用いた。クロマトグラム波形解析にはSmartChrom(株式会社ケーワイエーテクノロジーズ)を用いた。図3にTH1091を含む数株の菌体中のチアミン濃度の分析結果を示す。
【0036】
図3に示したように、三重変異微生物の菌体中のチアミン濃度は、プラスミドpTAex3のみを組み込んだプラスミドコントロール株と比較して1.7〜4.3 倍に増大していることがわかる。このうちチアミン濃度が最も増大した(4.3倍)株をTH1091株とし、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターへ寄託した(寄託微生物受領番号NITE AP−256)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、チアミン(ビタミンB1)を効率的に高生産することが可能となる。従って、ビタミンB1に関する幅広い分野、例えば、健康食品(特定保健食品、栄養機能食品)、栄養補助食品、医薬、飲料、酒類などの分野で、ビタミンB1を含有した製品を、工業的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、プラスミドpPRe1の構成を説明する図である。
【図2】図2は、プラスミドpTAex3の構成を説明する図である。
【図3】図3は、三重変異微生物の菌体内チアミン濃度を示す図表である。
【配列表フリーテキスト】
【0039】
配列番号7:フォワードプライマー nmtA
配列番号8:リバースプライマー nmtA
配列番号9:フォワードプライマー thiP
配列番号10:リバースプライマー thiP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミン生合成可能な真菌から得た、チアミンを高生産する変異微生物。
【請求項2】
チアミンの生合成に関与する2つの遺伝子である2−メチル−4−アミノ−5−ヒドロキシメチルピリミジン合成酵素遺伝子、4−メチル−5−ヒドロキシエチルチアゾール合成酵素遺伝子、およびチアミンの修飾に関与するチアミンピロホスホキナーゼ遺伝子の合計3遺伝子を、それぞれ宿主内でチアミンにより発現抑制を受けない発現プロモーターに連結して、宿主に同時に導入することで得られた請求項1記載の変異微生物。
【請求項3】
宿主に用いた糸状菌がAspergillus属である請求項1、2記載の変異微生物。
【請求項4】
宿主に用いた糸状菌がAspergillus oryzaeである請求項1、2記載の変異微生物。
【請求項5】
宿主に用いた酵母がSaccharomyces属およびShizosaccharomyces属である請求項1、2記載の変異微生物。
【請求項6】
請求項1、2記載の方法で得られたチアミンを高生産するようになった変異糸状菌株TH1091(寄託微生物受領番号NITE AP−256(受領日2006年8月14日))。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−54513(P2008−54513A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232040(P2006−232040)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕社団法人 日本農芸化学会〔刊行物名〕日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会講演要旨集〔発行年月日〕2006年3月5日〔研究集会名〕日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会〔主催者名〕社団法人日本農芸化学会〔開催日〕平成18年3月26日
【出願人】(591118775)白鶴酒造株式会社 (16)
【Fターム(参考)】