説明

チオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物

【課題】医薬品として供し得るデンドリマー の提供。
【解決手段】 次式(I)


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R及びRは、同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオグリコシド型シアル酸残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)で表されるチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及び該デンドリマー化合物を有効成分として含有する医薬に関する。より詳細には、チオグリコシド型シアル酸を結合させたデンドリマー化合物であって、インフルエンザウィルスによる感染阻害活性を有するデンドリマー化合物、及び該デンドリマー化合物を有効成分として含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
デンドリマーとは、ギリシャ語の「dendra」(樹木)を語源とする規則正しく分岐した樹状高分子化合物の総称である。デンドリマーによる球状のナノメートルスケールの空間は、様々な官能基を組み込むことで比較的自由にデザイン可能であることから、ナノテクノロジーの分野において、新規デンドリマーのデザインが現在盛んに行われている。
特に、近年、生体機能分野におけるデンドリマーの利用が著しく、生体系における外部刺激に応答するデンドリマー、DDS(薬物送達システム)に利用可能なデンドリマー、分子センサーとして機能し得るデンドリマーなど、多面的にその有効性を生かすべく研究が進んでいる。
【0003】
なかでも、生体に対する外部環境からの干渉、特に、細菌やウィルスなどの感染に対する有効な防御ツールとしてデンドリマーの利用は、特に、注目を浴びている。
例えば、腸管出血性大腸菌O−157が産生するベロ毒素による生体への攻撃を有効に防御し得るデンドリマーの開発などが行われている。腸管出血性大腸菌O−157が産生するベロ毒素は、赤痢菌由来のシガ毒素と類似した細菌毒素のAB5ファミリーに属するタンパク質である。これらの毒素は、腎臓細胞上のグロボトリオシルセラミド(Gb3、Galα1−4Galβ1−4Glcβ1−Cer)中のグロボ3糖部分を認識し、接着することにより細胞内に取込まれ毒性を示すことが報告されている。
【0004】
すでに、本発明者らは、当該グロボ3糖を結合したカルボシランデンドリマー をコア骨格とするクラスター化合物を合成し、それに強いベロ毒素阻害活性があることを報告している(非特許文献1及び2、並びに特許文献1及び2参照)。
【0005】
また、本発明者らは、各種糖鎖含有カルボシランデンドリマー化合物に関する知見に基づいて(非特許文献3参照)、インフルエンザウィルス等のウィルス表面に存在するヘマグルチニンを特異的に接着し、生体に対するウィルス感染を防止し得る物質として、シアリルラクトース含有デンドリマーを開示した(特許文献2参照)。さらに、生体内における適合性および安全性に優れたアミド結合を介して糖鎖を結合するデンドリマーの開示も行っている(特許文献3参照)。
一方、医薬品としてはすでに、インフルエンザ膜タンパク質のイオンチャンネル阻害剤(シンメトレルR(アマンタジン))やシアリダーゼの阻害剤(タミフルR(リン酸オセルタミビル)とリレンザR(ザナミビル))が、インフルエンザの特効薬として処方されている。しかしながら、これらの特効薬は何れも天然物とは異なるため、その耐性ウィルスの出現が危惧されており、近年、シンメトレルRやタミフルRに対する耐性ウィルスが出現した事例の報告もある。
【0006】
【非特許文献1】Matsuoka等,Tetrahedron Letters 40:7839-7842 1999
【非特許文献2】Nishikawa等,Proc.Natl.Acad.Sci., USA.99:7669-7674 2002
【非特許文献3】Matsuokaら,Bull.Chem.Soc.Jpn.,71:2709-2713 1998
【特許文献1】特開2004−107230
【特許文献2】国際公開公報WO02/02588
【特許文献3】特開2003−212893
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐性ウィルスの出現を抑制し、かつ、インフルエンザウィルスの感染防御に効果を示すデンドリマー化合物の提供を目的とする。
さらに、本発明は、該デンドリマー化合物を有効成分として含有する医薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記事情に鑑み、耐性ウィルスの出現を抑制し、かつ、インフルエンザウィルスの感染防御に効果を示すデンドリマーの開発において鋭意研究を行った結果、チオグリコシド結合型のシアル酸を結合させたデンドリマーがインフルエンザの感染を有効に阻害し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次式(I)
【化5】

(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R及びRは、同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオグリコシド型シアル酸残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)で表されるチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物を提供す
る。
【発明の効果】
【0010】
本発明のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物は、抗ウィルス活性、特に、抗インフルエンザ活性を有し、かつ、耐性ウィルスの出現を低率に抑える効果を示す化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
式(I)中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよいが、炭素又はケイ素が好ましく、ケイ素が最も好ましい。
【0012】
及びRは、同一又は異なった炭化水素基を示すが、炭素数3〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、及びアリル基のいずれかが好ましく、このうち炭素数3〜4のアルキル基が最も好ましい。
【0013】
及びRは、同一又は異なった炭化水素基を示すが、炭素数3〜12のアルキレン基、アルケニレン基及びアルコキシレン基(オキシアルキレン基)のいずれかが好ましく、このうち炭素数3〜4のアルコキシレン基(オキシアルキレン基)が最も好ましい。
【0014】
Yは、NeuAc(N−アセチルノイラミン酸:N−acetylneuraminic acid、Neu5Ac)又は、NeuGc(N−グリコリルノイラミン酸:N−glycolylneuraminic acid、Neu5Gc)であり、特に下記化学式(II)で表されるチオグリコシド型アセチルノイラミン酸残基が好ましい。
【0015】
【化6】

(II)
【0016】
lは0〜2の整数が好ましく、mは0〜2のまでの整数が好ましく、kは0または1の数を示し、kが0のときは3−mは1である。
【0017】
式(I)のシアリルラクトサミン結合デンドリマー化合物の構造は、k、l、m、nの組み合わせに応じて種々の構造を取り得るが代表的な化学式は下記のようになる。
【0018】
【化7】

(式Ia、Ib、IcにおいてYはチオグリコシド結合型シアル酸残基を示す)
【0019】
本発明の式(I)の化合物は、例えば、次の反応式に従って製造することができる。
【0020】
【化8】

【0021】
上記式中、Xはハロゲン原子、Xは反応脱離性のメルカプト保護基を示し、Yは、チオグリコシド型シアル酸である。
【0022】
すなわち、式(III)で表されるハロゲン化デンドリマー と式(IV)で表されるスルフィド化合物とを反応させ、必要に応じてチオグリコシド型シアル酸残基の保護基を脱離させることにより本発明の式(I)の化合物が製造できる。
【0023】
式(IV)のシアル酸チオグリコシド誘導体は、下記のスキーム1に従い合成した。
【化9】

スキーム1
シアル酸1(この場合は、Neu5Ac) を、水酸基のO−アセチル化およびカルボキシル基のメチル化により、完全保護糖2へと変換した。次にアノメリック位に脱離基を有するβ−クロロ体を経て、SN2型求核置換反応によりα−チオアセチル体3へと誘導した。その後、脱アセチル化条件下においてチオレートアニオンを生じさせ、ペンテニルブロミドとの求核置換反応によりチオグリコシド4とした。最後に、末端の二重結合へのチオ酢酸のラジカル付加を行い、デンドリマーに導入するためのシアル酸誘導体5を得た。
【0024】
のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。X
メルカプト保護基としてはアセチル基等のアルカノイル基、ベンジル基等が好ましい。ま
た、Aの水酸基の保護基としては、アセチル基等のアシル基、ベンジル基、トリメチルシ
リル基等の有機ケイ素等が挙げられるが、アセチル基が好ましい。
【0025】
式(III)のハロゲン化デンドリマー は、下記のスキーム2に従い合成した。
【化10】

スキーム2
3分岐型カルボシランデンドリマーのトリオール6(lが1で、Rがフェニル基の場合)を、Williamsonエーテル合成反応によりアリルエーテルとして伸長させた後、末端二重結合に対するヒドロキシル化、メシル化、ブロモ化の順に官能基の変換を行い、メチレン鎖長を伸長させたデンドリマー9を得た。また、10(lが0の場合)、11(lが2で、Rがメチル基の場合)など、式(III)で示されるその他ハロゲン化デンドリマーも同様の手順により調製した。
【0026】
式(III)の化合物(例えば、12)と式(IV)の化合物(例えば、5)の反応は、例えばナトリウムメトキシド等の塩基の存在下に行うことができる。また、Yの保護基の脱離は例えばナトリウムメトキシド等の塩基を用いた加水分解により行うことができる。この過程を下記スキーム3に示す。
【化11】

スキーム3
以上の行程により、式(I)の化合物(例えば、16,17,18)を得た。
【0027】
得られた本発明の式(I)の化合物は、洗浄、各種クロマトグラフィー、ゲル濾過等に
より精製することができる。
【0028】
本発明の化合物を有効成分として含有せしめることにより、ウィルス感染、特に、インフルエンザウィルス感染の予防及び治療剤を調製することができる。
上記薬剤は、一般式(I)で表されるチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物、その薬剤上許容される塩又はそれらの水和物のうち、1又は複数の種類を含有してもよい。また、一般式(I)で示される本発明の化合物を製剤化する場合には、製剤中、通常、0.1〜50質量%、好ましくは、0.5〜20質量%となるように含有される。
【0029】
本発明の化合物は、生体に対して悪影響を及ぼさない医薬組成物の形態で特定の疾患の治療薬として使用することができる。通常、そのような組成物には、本発明の化合物の他、薬剤上許容される担体が含まれる。
「薬剤上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、コラーゲン、ヒト血清アルブミン、有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等などが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明の化合物の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0030】
本発明に係る医薬組成物は、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0031】
注射に適する医薬組成物には、滅菌された注射可能な溶液又は分散媒を、使用時に調製するための滅菌水溶液(水溶性の)又は分散媒及び滅菌されたパウダーが含まれる。静脈内の投与に関し、適切な担体には生理食塩水、静菌水、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が含まれる。注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。例えば、レクチンなどのコーティング剤を用い、分散媒においては必要とされる粒子サイズを維持し、界面活性剤を用いることにより適度な流動性が維持される。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
【0032】
滅菌的な注射可能溶液は、必要な成分を単独で、又は他の成分と組み合わせた後に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を加え、滅菌することで調製される。一般に、分散媒は、基本的な分散培地及び上述したその他の必要成分を含む滅菌的媒体中に活性化合物を取り込むことにより調製される。滅菌的な注射可能な溶液を調製するための滅菌的パウダーの調製方法には、活性な成分及び滅菌溶液に由来する何れかの所望な成分を含むパウダーを調製する真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0033】
経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;スターチ又はラクトースなどの、アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0034】
本発明の化合物は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0035】
本発明の化合物による特定の疾患の予防又は治療において、適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5μg〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0036】
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保証すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な製剤化における留意事項等により影響を受ける。
【0037】
本発明の医薬組成物はキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0038】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0039】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、あるいは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0040】
さらに、本発明には、ウィルス感染、特に、インフルエンザウィルスに感染した、又は感染する危険性のある哺乳動物の該感染症に関する予防又は治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、ウィルスに感染するおそれがあるか又は感染した哺乳動物において、該感染症の病態の進行を阻止又は緩和することを意味し、治療的処置のみならず予防的処置をも含む広い意味として使用される。
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【0041】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
チオアセチル誘導体(22)の合成
チオアセチル誘導体(22)を下記のスキーム4に従って合成した。
【化11】

スキーム4
【0043】
メチル(n−ペンテニル−5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−2−チオ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オネート(20)
アルゴン雰囲気下、既知の2−α−チオアセチル体(19)(2.26g,4.11mmol)をメタノール(22mL)に溶解し、氷冷下、5−ブロモ−1−ペンテン(974μL,8.22mmol)を滴下し、炭酸カリウム(568mg,4.11mmol)を加え、反応液を室温に戻し、一晩撹拌した。その後、酢酸(470μL,8.22mmol)を加え余剰な炭酸カリウムを処理し、反応液を濃縮した。続いて、アルゴン雰囲気下、その残渣をピリジン(20mL)に懸濁し、氷冷下で無水酢酸(20mL)を滴下後、反応系を室温に戻し、一晩撹拌した。その反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[2:3(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル300 mL]で精製し、ペンテニルチオグリコシド誘導体(20)(1.99g,84.2%)を得た(表1参照)。
【表1】

【0044】
n−ペンテニル−5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−2−チオ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド(21)
アルゴン雰囲気下、ペンテニルチオグリコシド20(300mg,0.521mmol)を1M ナトリウムメトキシド・メタノール溶液に溶解させ、室温で30分間撹拌した。その後、0.5M 水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−15:180 mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉として脱保護されたペンテニルチオグリコシド21(199mg,100%)を得た(表2参照)。
【表2】

【0045】
メチル(5−アセチルチオ−ペンチル−5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−2−チオ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オネート(22)
アルゴン雰囲気下、ペンテニルチオグリコシド誘導体20(1.75g,3.04mmol)を1,4−ジオキサン(7.4mL)に溶解し、チオ酢酸(7.4mL,103.53mmol)を加え、加熱し50℃とした。そこでAIBN(996mg,6.08mmol)を加え、80℃で3時間撹拌した。その後、氷冷下でシクロヘキセン(20.9mL,206.32mmol)を加え、室温に戻して数分間撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[トルエン→酢酸エチル,シリカゲル300 mL]で精製し、チオアセチル誘導体22(1.98g,100%)を得た(表3参照)。
【表3】

【0046】
【化12】

【0047】
Fan(0)3−α−S−Neu5Ac−OH(26)の合成
アルゴン雰囲気下、シアル酸のチオアセチル誘導体22(192mg,0.295mmol)、およびFan(0)3−Brデンドリマー23(23mg,0.049mmol)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v),0.8mL)に溶解した。そこに氷冷下でナトリウムメトキシド(17.5 mg,0.325mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。その後、氷冷下で酢酸(50 μL)を加えて余剰量のナトリウムメトキシドを処理し、反応液を濃縮した。
残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジン(2mL)に溶解し、氷冷下で無水酢酸(1.5mL)を滴下し、室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をメタノール−ジエチルエーテル混合液(1:1(v/v),2 mL)に懸濁させ、氷冷下、TLCで反応を追いながらジアゾメタン・ジエチルエーテル溶液を滴下した。反応が完全に進行したのを確認した後、氷冷下で酢酸を滴下し、余剰量のジアゾメタンを処理した。反応液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ[40:1 v/v]クロロホルム−メタノール,シリカゲル30mL]で精製し、Fan(0)3−α−S−Neu5Ac−Ac(81mg,80.2%)を得た。また、シアル酸のダイマー(35mg)を副生成物として得た(表4及び表5参照)。
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
アルゴン雰囲気下、Fan(0)3−α−S−Neu5Ac−Ac(36.6mg,17.79 μM)をメタノール(1mL)に溶解させ、0.5M ナトリウムメトキシド・メタノール溶液(42.7μL,21.35μM)を滴下し、室温で3時間撹拌した。その後、0.5M 水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−25:300mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉としてFan(0)3−α−S−Neu5Ac−OH(26)(23.5mg,87.4%)を得た(表6参照)。
【表6】

【0050】
Ball(0)4−α−S−Neu5Ac−OH (27)
アルゴン雰囲気下、シアル酸のチオアセチル誘導体22(273mg,0.419mmol)、およびBall(0)4−Brデンドリマー24(27mg,0.052mmol)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v)1.0mL)に溶解した。そこに氷冷下でナトリウムメトキシド(24.9mg,0.461mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。その後、氷冷下で酢酸(30μL)を加えて余剰量のナトリウムメトキシドを処理し、反応液を濃縮した。
残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジン(2mL)に懸濁させ、氷冷下で無水酢酸(2mL)を滴下し、室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をメタノール−ジエチルエーテル混合液(1:1 (v/v),2 mL)に溶解し、氷冷下、TLCで反応を追いながらジアゾメタン・ジエチルエーテル溶液を滴下した。反応が完全に進行したのを確認した後、氷冷下で酢酸を滴下し、余剰量のジアゾメタンを処理した。反応液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ[30:1 (v/v)クロロホルム−メタノール,シリカゲル40 mL]で精製し、Ball(0)4−α−S−Neu5Ac−Ac(103mg,75.2%)を得た(表8参照)。
【0051】
【表7】

【0052】
アルゴン雰囲気下、Ball(0)4−α−S−Neu5Ac−Ac(30.0mg,11.04 μmol)をメタノール(0.5mL)に溶解させ、0.5Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液(35.3μL,17.65μmol)を滴下し、室温で3時間撹拌した。その後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(3mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−25:300 mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉としてBall(0)4−α−S−Neu5Ac−OH(27)(21.6mg,99.5%)を得た(表8参照)。
【表8】

【0053】
Dumbbell(1)6−α−S−Neu5Ac−OH (28)の合成
アルゴン雰囲気下、シアル酸のチオアセチル誘導体22(457mg,0.701mmol)、およびDumbbell(1)6−Brデンドリマー25(64mg,0.069mmol)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v),2.0mL)に溶解した。そこに氷冷下でナトリウムメトキシド(42mg,0.777mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。その後、氷冷下で酢酸(100μL)を加えて余剰量のナトリウムメトキシドを処理し、反応液を濃縮した。
残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジン(4mL)に懸濁させ、氷冷下で無水酢酸(4mL)を滴下し、室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をメタノール−ジエチルエーテル混合液(2:1 (v/v),4mL)に溶解し、氷冷下、TLCで反応を追いながらジアゾメタン・ジエチルエーテル溶液を滴下した。反応が完全に進行したのを確認した後、氷冷下で酢酸を滴下し、余剰量のジアゾメタンを処理した。反応液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ[8:6:1 (v/v) クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル50mL]で精製し、Dumbbell(1)6−α−S−Neu5Ac−Ac(151mg,53.5%)を得た(表9参照)。
【表9】

【0054】
アルゴン雰囲気下、Dumbbell(1)6−α−S−Neu5Ac−Ac(21.1mg, 4.90μmol)を1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液(0.5mL)に溶解させ、室温で15分間撹拌した。その後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−25:300 mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉としてDumbbell(1)6−α−S−Neu5Ac−OH(28)(16.2mg,100%)を得た(表10参照)。
【表10】

【0055】
ビス[n−ペンテニル−5−アセトアミンド−3,5−ジデオキシ−2−チオ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシジル]ジスルフィド(29)の合成
アルゴン雰囲気下、ダイマー誘導体(α−S−Neu5Ac−dimer−Ac)(21.1mg, 4.90μmol)を1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液に溶解させ、室温で15分間撹拌した。その後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−15:180mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉として脱保護されたシアル酸ダイマー29(16.2mg,100%)を得た(表11参照)。
【表11】

【0056】
【化13】

【0057】
トリス(7−ブロモ−4−オキサヘプチル)フェニルシラン(31,Fan(0)3−O−Br)の合成
アルゴン雰囲気下、55%油性水素化ナトリウム(139mg,3.19mmol)をヘキサンで洗浄し、油分を除去した後、THF(1.5mL)に懸濁させた。氷冷下、既知のヒドロキシル体30(200mg,0.708mmol)のTHF(2.5mL)溶液を加え、10分間撹拌した。そこに、氷冷下、3−ブロモプロペン(551μL,6.372mmol)を滴下した。ゆっくりと室温に戻し、さらに加熱還流させながら、2時間撹拌した。その後、過剰な水素化ナトリウムを処理するために、メタノールを充分量加えて、反応液を濃縮した。残渣をジエチルエーテルに懸濁し、水で洗浄した。その洗浄水をジエチルエーテルで2回抽出した。先のエーテル層と抽出液を合わせて、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥した後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[20:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル30mL]で精製し、アリル体(241mg,84.6%)を得た(表12参照)。
【表12】

【0058】
アルゴン雰囲気下、1Mボラン−THF錯体・THF溶液(2.24mL,2.24mmol)に氷冷下、シクロヘキセン(453μL,4.47mmol)溶液を滴下した。滴下終了後、氷冷下で2.5時間撹拌し、ジシクロヘキシルボランを調製した。
続いて、氷冷下、アリル体(150mg,0.373mmol)のTHF(5mL)溶液を滴下した後、室温に戻して3時間撹拌した。その後、氷冷下メタノール(200μL)を滴下して余剰量のボランを処理した。そこに、3M水酸化ナトリウム水溶液(2ml)、30%過酸化水素水(1mL)を滴下した後、60℃で2時間撹拌した。その後、有機層を分取し、水層を酢酸エチルで2回抽出した。その有機層と抽出液とを合わせて、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[50:1(v/v)クロロホルム−メタノール,シリカゲル35mL]で精製し、ヒドロキシル体 (143mg,84.1%)を得た(表13参照)。
【表13】

【0059】
アルゴン雰囲気下、ヒドロキシル体(67mg、0.147mmol)をピリジン(0.7mL)に溶解し、0℃に冷却した後、塩化メタンスルホニル(68μL、0.879mmol)を滴下し、0℃のまま3時間撹拌した。その反応液をクロロホルムで希釈し、5%硫酸水溶液で2回洗浄した後、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いて順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣としてメシル体(107mg,crude)を得た。これ以上の精製を行わず次の反応に用いた(表14参照)。
【表14】

【0060】
アルゴン雰囲気下、メシル体(107mg,crude)をDMF(1mL)に溶解し、臭化ナトリウム(227mg,2.205mmol)を加え、60℃で一晩撹拌した。その反応液をクロロホルムで希釈し、水を加えて析出物を溶解させ、有機層を分取した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[20:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル15mL]で精製し、ブロモ体31(74mg,77.9%,2steps)を得た(表15参照)。
【表15】

【0061】
テトラキス(7−ブロモ−4−オキサヘプチル)シラン(33,Ball(0)4−O−Br)の合成
アルゴン雰囲気下、55%油性水素化ナトリウム(198mg,4.536mmol)をヘキサンで洗浄し、油分を除去した後、THF(4mL)に懸濁させた。そこに氷冷下、既知のヒドロキシル体32(200mg,0.756mmol)を少しずつ加え、10分間撹拌した。そこに、氷冷下、3−ブロモプロペン(523μL,6.048mmol)を滴下した。ゆっくりと室温に戻し、さらに還流させながら、2時間撹拌した。その後、過剰な水素化ナトリウムを処理するために、メタノールを充分量加えて、反応液を濃縮した。残渣をジエチルエーテルに懸濁し、水で洗浄した。その洗浄水をジエチルエーテルで2回抽出した。先のエーテル層と抽出液を合わせて、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥した後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィ[20:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル30mL]で精製し、アリル体 (263 mg,81.9%)を得た(表16参照)。
【表16】

【0062】
アルゴン雰囲気下、1Mボラン−THF錯体・THF溶液(4.712mL,4.712mmol)に氷冷下、シクロヘキセン(955μL,9.428mmol)を滴下した。滴下終了後、氷冷下で3時間撹拌し、ジシクロヘキシルボランを得た。
続いて、氷冷下、アリル体 (250mg,0.589mmol)のTHF(3mL)溶液を滴下した後、室温に戻して3時間撹拌した。その後、氷冷下メタノール(200μL)を滴下して余剰量のボランを処理した。そこに、3 M水酸化ナトリウム水溶液(4.5ml)、30% 過酸化水素水(2.3mL)を滴下した後、60℃で一晩撹拌した。その後、有機層を分取し、水層を酢酸エチルで2回抽出した。その有機層と抽出液とを合わせて、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[20:1(v/v)クロロホルム−メタノール,シリカゲル40mL]で精製し、粉末状のヒドロキシル体(256 mg,87.7%)を得た(表17参照)。
【表17】

【0063】
アルゴン雰囲気下、ヒドロキシル体(74mg、0.149mmol)をピリジン(0.8mL)に溶解させ、0℃に冷却した後、塩化メタンスルホニル(92μL、1.189mmol)を滴下し、0℃のまま3時間撹拌した。その反応液をクロロホルムで希釈し、5%硫酸水溶液で2回洗浄した後、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いて順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣としてメシル体 (125mg,crude)を得た。これ以上の精製を行わず次の反応に用いた(表18参照)。
【表18】

【0064】
アルゴン雰囲気下、メシル体(125mg,crude)をDMF(1mL)に溶解させ、臭化ナトリウム(307mg,2.983mmol)を加え、60 ℃で一晩撹拌した。その反応液をクロロホルムで希釈し、水を加えて析出物を溶解させ、有機層を分取した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[10:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル6g]で精製し、ブロモ体33(84mg,75.7%)を得た(表19参照)。
【表19】

【0065】
ビス[トリス(7−ブロモ−4−オキサヘプチル)]ジメチルシラン(35,Dumbbell(1)6−O−Br)の合成
アルゴン雰囲気下、55%油性水素化ナトリウム(142mg,3.254mmol)をヘキサンで洗浄し、油分を除去した後、THF(1.5mL)に懸濁させた。そこに氷冷下、既知のヒドロキシル体34(200mg,0.362mmol)を少しずつ加え、30分間撹拌した。そこに、氷冷下、3−ブロモプロペン(564μL,6.500mmol)を滴下した。ゆっくりと室温に戻し、さらに還流させながら、2時間撹拌した。その後、過剰な水素化ナトリウムを処理するために、メタノールを充分量加えて、反応液を濃縮した。残渣をジエチルエーテルに懸濁し、水で洗浄した。その洗浄水をジエチルエーテルで2回抽出した。先のエーテル層と抽出液とを合わせて、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥した後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィ[15:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル30mL]で精製し、アリル体(241mg,84.0%)を得た(表20参照)。
【表20】

【0066】
アルゴン雰囲気下、1Mボラン−THF錯体・THF溶液(2.439mL,2.439mmol)に氷冷下、シクロヘキセン(494μL,4.877mmol)を滴下した。滴下終了後、氷冷下で3時間撹拌し、ジシクロヘキシルボランを得た。
続いて、氷冷下、アリル体(200mg,0.271mmol)のTHF(2.5mL)溶液を滴下した後、室温に戻して6時間撹拌した。その後、氷冷下メタノール(100μL)を滴下して余剰量のボランを処理した。そこに、3 M水酸化ナトリウム水溶液(2.5ml)、30%過酸化水素水(1.25mL)を滴下した後、60℃で一晩撹拌した。その後、有機層を分取し、水層を酢酸エチルで2回抽出した。その有機層と抽出液とを合わせて、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[25:1(v/v)クロロホルム−メタノール,シリカゲル40mL]で精製し、ヒドロキシル体(185mg,80.8%)を得た(表21参照)。
【表21】

【0067】
アルゴン雰囲気下、ヒドロキシル体(224mg,0.265mmol)をピリジン(2mL)に溶解させ、0℃に冷却した後、塩化メタンスルホニル(246μL,3.178mmol)を滴下し、−10℃で3時間撹拌した。その反応液をクロロホルムで希釈し、5%硫酸水溶液で2回洗浄した後、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いて順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣としてメシル体(312mg,crude)を得た。これ以上の精製を行わず次の反応に用いた(表22参照)。
【表22】

【0068】
アルゴン雰囲気下、メシル体(312mg,crude)をDMF(3mL)に溶解させ、臭化ナトリウム(790mg,7.677mmol)を加え、60℃で一晩撹拌した。その反応液をクロロホルムで希釈し、水を加えて析出物を溶解させ、有機層を分取した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水乾燥させた後、セライトろ過を行い、ろ液を濃縮した。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[10:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル35mL]で精製し、ブロモ体35(197mg,58.1%)を得た(表23参照)。
【表23】

【0069】
Fan(0)3−O−α−S−Neu5Ac−OH (36)の合成
アルゴン雰囲気下、シアル酸のチオアセチル誘導体22(327mg,0.502mmol)、およびFan(0)3−O−Brデンドリマー31(44mg,0.068mmol)をDMF−メタノール混合液(2:1(v/v),1.8mL)に溶解した。そこに氷冷下でナトリウムメトキシド(27.1mg,0.502mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。その後、氷冷下で酢酸(50μL)を加えて余剰量のナトリウムメトキシドを処理し、反応液を濃縮した。
残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジン(2mL)に懸濁し、氷冷下で無水酢酸(2mL)を滴下し、室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をメタノール−ジエチルエーテル混合液(1:1(v/v),2 mL)に懸濁させ、氷冷下、TLCで反応を追いながらジアゾメタン・ジエチルエーテル溶液を滴下した。反応が完全に進行したのを確認した後、氷冷下で酢酸を滴下し、余剰量のジアゾメタンを処理した。反応液を濃縮した後、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[10:8:1(v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル40mL]で精製し、Fan(0)3−α−S−Neu5Ac−Ac(85mg,55.9%)を得た(表24参照)。
【表24】

【0070】
アルゴン雰囲気下、Fan(0)3−O−α−S−Neu5Ac−Ac(32.6mg,14.61μmol)を1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液0.5mLに溶解させ、室温で1時間撹拌した。その後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−25: 300mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉としてFan(0)3−O−α−S−Neu5Ac−OH(36)(24.6mg,100%)を得た(表25参照)。
【表25】

【0071】
Ball(0)4−O−a−S−Neu5Ac−OH (37)の合成
アルゴン雰囲気下、シアル酸のチオアセチル誘導体22(321mg,0.493mmol)、およびBall(0)4−O−Brデンドリマー33(50mg,0.067mmol)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v),1. mL)に溶解した。そこに氷冷下でナトリウムメトキシド(26.6mg,0.493mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。その後、氷冷下で酢酸(30μL)を加えて余剰量のナトリウムメトキシドを処理し、反応液を濃縮した。
残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジン(2mL)に懸濁させ、DMAP(24.1mg,0.197 mmol)を加え、氷冷下で無水酢酸(2mL)を滴下し、室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[10:8:1−10:8:1.5(v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル30mL]で精製し、Ball(0)4−O−α−S−Neu5Ac−Ac(113mg,59.2%)を得た(表26参照)。
【表26】

【0072】
アルゴン雰囲気下、Ball(0)4−O−α−S−Neu5Ac−Ac(33.2mg,11.59μmol)を1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液(0.5mL)に溶解させ、室温で30分間撹拌した。その後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(2mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−25:300 mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉としてBall(0)4−O−α−S−Neu−5Ac−OH(37)(24.8mg,100%)を得た(表27参照)。
【表27】

【0073】
Dumbbell(1)6−O−α−S−Neu5Ac−OH(38)の合成
アルゴン雰囲気下、シアル酸のチオアセチル誘導体22(306 mg,0.470mmol)、およびDumbbell(1)6−O−Brデンドリマー35(50mg,0.039mmol)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v),1.6mL)に溶解した。そこに氷冷下でナトリウムメトキシド(25.4mg,0.470mmol)を加え、40℃で一晩撹拌した。その後、氷冷下で酢酸(30μL)を加えて余剰量のナトリウムメトキシドを処理し、反応液を濃縮した。
残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジン(2mL)に懸濁させ、氷冷下で無水酢酸(2mL)を滴下し、室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をメタノール−ジエチルエーテル混合液(2:1(v/v),4mL)に溶解し、氷冷下、TLCで反応を追いながらジアゾメタン・ジエチルエーテル溶液を滴下した。反応が完全に進行したのを確認した後、氷冷下で酢酸を滴下し、余剰量のジアゾメタンを処理した。反応液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ[5:4:1(v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル7.5g]で精製し、Dumbbell(1)6−O−α−S−Neu5Ac−Ac(55mg,31.6%)を得た(表28参照)。
【表28】

【0074】
アルゴン雰囲気下、Dumbbell(1)6−O−α−S−Neu5Ac−Ac(26.2mg,5.89μM)を1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液に溶解させ、室温で15分間撹拌した。その後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加えて一晩撹拌した。TLCで反応終了を確認した後、強酸性陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加えて、pH〜4とした。その後、綿栓ろ過を行い、ろ液を濃縮した。その残渣をゲルろ過(Sephadex G−25:300mL,5%AcOHaq.)で精製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉としてDumbbell(1)6−O−α−S−Neu5Ac−OH(38)(20.0mg,100%)を得た(表29参照)。
【表29】

【0075】
インフルエンザウィルスシアリダーゼの阻害活性実験
96穴プレートのウェルに種々の濃度のサンプル溶液(4μL)とA型インフルエンザウィルス(4μL)を混合し、4°C、1時間培養した。そのそれぞれのウェルに0.4mM 4−MU Neu5Ac溶液(2μL)を加え、37°C、0.5時間培養した。次いで、そのそれぞれのウェルに反応停止用溶液(200μL)を加え、加水分解反応を停止した。それぞれのウェルから100μLを別途用意した蛍光測定用96穴プレートに移し、励起光355nm、発光460nmにおける蛍光強度を測定した。測定結果を表30に示す。
【表30】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明はインフルエンザウィルスの感染を阻害するための医薬品の開発の用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)
【化1】


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R及びRは、同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオグリコシド型シアル酸残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)で表されるチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項2】
及びRが同一又は異なる炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、又はアルキル基である請求項1に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項3】
及びRが同一又は異なる炭素数1〜6の直鎖アルキレン基、又はアルケニレン基、又はアルコキシレン基(オキシアルキレン基)である請求項1又は2に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項4】
及びEがケイ素である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項5】
がフェニル基、Rが−C−O−C−、Rが−C−、Yが以下の置換基
【化2】

を示し、lが1であり、mが2であり、kが0である請求項4に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項6】
が−C−O−C−、Rが−C−、Yが以下の置換基
【化3】

を示し、lが0であり、mが2であり、kが0である請求項4に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項7】
がメチル基、Rが−C−O−C−、Rが−C−、Yが以下の置換基
【化4】

を示し、lが1であり、mが0であり、kが0である請求項4に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物及びその薬剤上許容される塩並びにそれらの水和物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のチオグリコシド型シアル酸結合デンドリマー化合物、その薬剤上許容される塩及びそれらの水和物、並びに薬剤上許容される担体を含有することを特徴とする感染症予防及び治療のための医薬組成物。
【請求項9】
前記感染症がインフルエンザウィルス感染症であることを特徴とする請求項8に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2008−50283(P2008−50283A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226338(P2006−226338)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月12〜13日 有機合成化学協会関東支部主催の「第51回 有機合成化学協会関東支部シンポジウム」に(埼玉)おいて文書をもって発表
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(596136866)
【Fターム(参考)】